うーちゃん勘ぐり事件の翌朝だった。
一機の輸送ヘリコプターが、空から舞い降りて着陸した……
そこから降りて来たのは、高梨湊に睦月に電である。
「お久しぶりです、お母さん」
海来は、英太郎を連れてお出迎えをしていた。
もちろん艦娘達も、『伝説の不敗の女神様』の到来に、胸をときめかせて並んでいる。
「久しぶりですね、海来。そちらの方が会わせたいひ……と」
言い終わる前に、海来の左薬指に填められている『第一世代のケッコンリング』を目にする。
「あの、こちらの方はおいくつですか?」
湊の質問に、英太郎は敬礼して、
「お初にお目にかかります、高梨退役少将殿。私は片桐英太郎大佐。38歳になります」
「ええと、海来は七月で16で……22歳差……」
「なのです」
「犯罪的だね」
後ろの元艦娘ズも、ツッコミを入れる。
「それにしても片桐って……?」
湊の言葉に、英太郎は表情を険しくする。
「はい。片桐英治は、父です」
「そう……色々大変だったでしょう?間接的に私達が引導を渡したようなものだし、きっと恨んでるでしょう?」
「いえ。恨んでない、と言えば嘘になりますが、父はクソッタレでした。死んで当然です」
その英太郎の言葉に、湊は少し困った顔をする。
「それでも父親は父親です。クソッタレ、だなんて言わないであげてください。それよりも、うちの娘でよかったんですか?表面上は卒なく熟しますけども、私生活はズボラでいい加減で」
「あの、お母さん?」
苦笑いを浮かべる海来。
「料理は一切出来ないし、掃除洗濯も必要に迫られないとやらないし、家では裸で彷徨いてて、女だけの家だから、と言ってトイレも風呂も部屋も施錠しないわ……」
「存じてます」
その言葉にああ、施錠してなかったんだ。と、湊は感づいた。
「お久しぶりです!湊さん!」
『時雨』が、元気良く声を掛ける。
「お久しぶり……あれ?結有?」
「よく分かりましたね?僕、時雨になっちゃって………」
苦笑を浮かべる『時雨』に、湊は懐かしそうに言う。
「あの時の結有の姿ですね。豊橋で大立ち回りはするし、駆逐水鬼は撃破するし、無茶しないでね、って何度も言ったのに、悉く無視されましたよ」
「あ、あはは……」
湊の言葉に、『時雨』は苦笑いである。尚、駆逐水鬼撃破の一件は、海来より「瀕死の」という形容詞が取り除かれて伝えられている。
「相変わらず無茶やってますよ。『時雨』の艤装内蔵武装全て使用不可で、空手だけで戦ってますから」
海来の言葉に、『時雨』は、
「ミクちゃん提督も意地悪だ!僕、そんなに人外じゃないよ!」
と膨れっ面になる。
「高梨退役少将か!?」
次に『三笠』が声を掛ける。
「これは……もしや?」
「はい、そのもしやです。戦艦『三笠』です。例の冷凍庫の一件の元凶で……」
海来が済まなそうに言い、湊は腕を組んで自信満々な『三笠』の側に行くと、頭を撫でる。
「はい、娘をしっかり守ってくださいね。またアイスをたくさん送りますね?」
「うむ、心得た!」
等と自信満々に言う。
「そういえば母さん、母さんの危惧していた事が現実になりました」
「……姉さんの方の『怨霊』が現れたんですね?」
「……DSアサシン、と呼称すべき存在ですね。先日洗脳されかけました」
「………」
深刻な表情になる湊に、『卯月』がぴょんぴょん飛び跳ねる。
「大丈夫ぴょん!うーちゃん達がミクちゃん提督をしっかり守るぴょん!」
「それは心強いですね」
湊は『卯月』の頭を撫でる。
「まあ、立ち話も何ですから、取り敢えず中に。皆は出撃をお願いします」
『はーい!』
艦娘達が出撃していく中、湊達を応接室に通す二人。
「という訳で、改めて紹介しますね。片桐英太郎さん、私の素性を知って尚、それでもいい、と言ってくれた奇特な人物です」
「私が歪んでいた時に真摯に向き合ってくれ、艦娘の為に真剣に怒る姿は、恐ろしくもあり美しくもありました」
「最初はただのストーカーだったんですけど、私の為に腕一本失って、死にかけてまで助けに来てくれる人、好きになるしかないですよ」
その言葉に、三人は顔を見合わせ笑い出す。
「湊は男運無さ過ぎたけど、海来は海来で凄い男を釣り上げたのです」
「だね」
電の言葉に、睦月も同意する。
「これから先、色々大変だと思いますけど、仲良くやってくださいね?」
「「はいっ!」」
その後海来は、仕事に戻ってなさい、と応接室を追い出された。
電と睦月も一緒である。
応接室には、湊と英太郎だけである。
「……親父は、原点に高梨提督への恨みがありました」
二人だけになったところで、英太郎はポツリと話し出す。
「高梨提督に騙された。と、恨み続けていた、と母から聞きました。高梨提督は第13泊地艦隊を囮に、東北への救援で功績を手に入れ、自分は逆に譴責処分された、と」
「っ……」
湊には心当たりがあった。その作戦を提案したのは自分だったからだ。
「その作戦を父に提案したのは私です。その時は、お世辞抜きに非道い女でした……」
「………そうでしたか。でも、それと父が腐ったのは別です。やはり、父が弱かったんだ、と思います」
「……それでも、ごめんなさいと言わせて」
「……それだけで充分です。海来や湊さんが言うように、あの時代は狂っていたんです。艦娘がちやほやされ、軍が持て囃され、艦娘本部の軍人が狂ったように出世したあの時代は、何処か歪んでいたんだと思います。そして40前の私が佐官の最高位になり、15の娘が前線で佐官として戦うことになるような時代は……」
英太郎の言葉に頷いた湊は、口を開く。
「私は、今でも大量殺人者としての意識を持っています。たった今、もう一つの罪を背負いました。電達を傷つけた元凶は私にあったのだ、と。でもこれは、私が墓場まで持って行きたいと思います。承知してもらえますか?」
「もちろんです。湊さん」
英太郎の言葉に、ふっと笑みを零した。
「貴方のような真面目な人に、娘をお嫁に遣れて……」
その言葉に、英太郎は言葉を挟んだ。
「いえ、私が婿に行きます。『片桐』という家を消滅させることが、自分の父への復讐です」
「……」
その言葉に、湊は同じようなことを言って高梨家に養子入りした、結衣のことを慮っていた。
彼女にとっては贖罪、そして英太郎にとっては復讐。動機は逆ではあるが、同じ方法によって過去を清算しようという、彼の気持ちを感じ取っていた。
「わかりました、いつでも大歓迎です。よろしくお願いしますね、婿殿。うちには義娘がもう二人いますけど、義母に似て男運が無さ過ぎて、海来だけでもいい人に巡り会えてよかったですよ」
千里も真由も、それぞれで絶賛百合ハーレムの一員なのである。
「一つ質問していいですか?」
「どうぞ?」
「海来は、貴女なんですね?」
「……そうですね。元々は一人、第三世代艤装計画で別れたのが海来でした。その後一度融合しましたが、結局海来として生を受けることになりました。それからは、大事な娘だと思ってます」
その答えに、英太郎はふっと笑った。
「では、今の質問は忘れてください。これからは、海来を大事にして行きます」
「そうしてください。もし娘を泣かせたら、『三枚に下ろすのです!』とか、『政治的に闇討ちしてやる』とか言い出す武闘派の伯叔母達が、黙ってはいないと思いますので」
その言葉に、少し顔が青褪めるも、
「わ、分かりました。肝に銘じておきます」
そう答える英太郎だった。
「それじゃあ、用件も終わったことだし、帰りますね?」
「英太郎と何を話してたんです?」
海来の問い掛けに、英太郎と湊は顔を見合わせてから、
「「秘密です」だ」
と云うと、海来は顔を膨れっ面にして、
「早速、二人共結託してますね。色々暴露したんでしょう!?」
「大丈夫ですよ。実家では、『全裸で彷徨いてる』なんて言ってないですから」
「……それも存じてます」
苦笑いと共に言う英太郎に、更に苦い顔になる海来。
「流石に直すのですよ」
電の言葉に、湊は笑うのだった。