そして暴走する軍高官
お盆間近なある日、海来と英太郎は休暇を取っていた。
司令官代理に結有を指名して、留守番をお願いして……
因みに、紀子は
真っ先にやって来たのは、高梨家の墓だった。
三笠と高梨道一と金剛が眠るそのお墓。
無言で両手を合わせて、持参した花を供える。
「お久しぶりです、『とうさん』『かあさん』金剛さん」
「初めまして。婿入りした、英太郎と申します」
――苦労を掛けて、済まなかった。
英太郎は、
「えっ?」
「どうしました?」
「いや……何でもない。行こう」
お墓参りを済ませると、高梨本邸にやって来る。
呼び鈴を鳴らすと、天城が出て来る。
「こんにちは、海来さん、英太郎さん」
「こんにちは」
「初めまして。婿入りした、英太郎と申します」
頭を下げる英太郎に、ふふ、と笑みを零すと、案内をする。
「皆さん、お揃いですよ」
そう言いながら。
庭には、
高梨家の『長姉』結衣、双子の姉妹の湊と未来。
高梨艦隊の不知火、木曾、最上、龍驤、それに大和。
不知火の夫である安藤龍、それに湊の
湊の
そして、
大村退役大将は先年、先に旅立ったのだ。
「こ、これは?安藤・高梨両大将閣下に、山本元帥閣下」
その姿を見た英太郎は、慌てて敬礼する。
「ホッホッホ。今日は
山本の爺様が朗らかに笑うと、英太郎も苦笑いになり、敬礼をやめる。
そして、皆揃ったところで迎え火を焚く。
こうして、死んだ皆が家に帰って来るのだ。
それから皆は、ぞろぞろと客間に集合する。
既に、位牌や遺影は移動されており、三人と
数年ぶりにお盆で集まれたので、皆近況を話し合う。
「そうだ、報告しておかないといけないことが」
そう最上が切り出した。
「俺と最上は、パートナーシップ認定書を取って、
木曾がそう言うと、お揃いの指輪を見せる。
まさに、
お互い、相手を好きなのは
「せやから、はよ告白せえ、言うたのに。うちの忠告聞かんからや」
そう誂う龍驤に、皆もどっと笑う。
そんな龍驤に、最上は笑いながら、
「あはは、龍驤はどうなの?最近」
「ウチは相変わらず村上建設の営業部長やで。しかし、
そう、今度は龍にチクリと言うと、龍も苦笑いである。
「せっかくなので、私も……」
次に大和が切り出すと、ジャケットを羽織る。
襟元には、弁護士バッジが付けられている。
完全な終戦を迎えた後、
「おー、大ちゃんは弁護士になったんだ?」
「はい。早速ですが、鳳翔ホールディングス各社と、高梨商事との顧問契約を結ばせていただいてます」
その言葉に、湊もにへらっと笑い、
「いやあ、ちゃんとした顧問弁護士を付けておかないと、心配ですからね?」
三笠が、顧問弁護士として付けていた弁護士も、高齢で引退した為、すんなりと後釜に入れたのだ。
所謂
「それじゃあ、儂も近況報告をしようかの。
「
玄孫の写真を見せる、
「バカ言うな、儂は
「本当に果てしなく生きるし、頭はしっかりしてるし、いい加減
そう。未来は仕事の合間に、この上官に将棋の相手を付き合わされるのだ。
そんな二人に、
「我々が一番忙しいのに。なあ、不知火?」
「全くです」
と、呆れるように言う二人。
「はい、ビールなのですよ。海来ちゃんにはジュースを用意しましたのです」
電は、ビールケースとグラスを持って来る。一緒に睦月は、オレンジジュースを持って来る。
「あ、すみません」
それそれに、ビールやジュースが注がれて行く。
注ぎ終わると、高梨家長姉の結衣の発声で、
「献杯」
と、グラスを掲げると、一同グラスを持ち上げる。
「いやあ。しかし、海来ちゃんが結婚したなんてね。旦那いくつ?」
早速、ぶっ込んだ質問をする、高梨家の長姉、結衣。
「今年38になりましたな」
その言葉に、一同から「おー」と云う言葉が上がる。
「それで、夜の生活とかはどうなん?やったの?」
「いやあ、海来に翻弄されておりまして……」
そう苦笑いして言うと、海来が頬を膨らませる。
「私が、小悪魔か何かじゃないですか?」
その言葉に、一同がどっと笑う。
「さあ、婿殿どんどん飲み給え」
「あ、どうも」
そう言いながら、グイッと飲むと、続いて注がれる。
「あ……」
「今日は、上官とか部下とかは無しで良い。
「了解しました」
早速打ち解けている二人だった。
その後山本も加わり、
「しかし、
と言う結衣の言葉に、目を逸らす千里と真由。
その反応に、苦笑いを浮かべながら、
「良いじゃないですか?それぞれ、皆で仲良く暮らしてるんですから」
そう言う海来に、
「だったら、結有ちゃん返してよ。もういっそのこと、移り住もうかな?」
と言う千里の言葉に、
「えええ?杏奈さんと吹雪……
吹雪は最近、名前が被るとややこしい、と言うことで、
「転属願い書かせる。ねえ、良いでしょ?未来伯母さん、山本爺さん」
「「了承」じゃ」
「という訳で、第13泊地に転属します。これでOK」
「えええええ?……艦娘本部長の許可は……?」
助けを求めるように、安藤を見るも目を逸らされた。
「いや、軍のトップの命令には逆らえん」
「ええええええ……?」
どういうことなの……?と思いながら英太郎を見ると、英太郎は
「それで、どういう役職をご用意すれば良いんでしょう?」
「杏奈は事務管理、残りは防御隊員、でいいんじゃない?」
「うぇぇぇぇぇ……」
「もういっその事、
「そうじゃのう」
「うむ」
そう話しているのは、
嗚呼、もうこいつ等放っておこう。もう知らない……
と思いながら、真由の隣に座る。
「最近エナツキ見てますよ、忙しそうで何よりです」
「主に杏子が忙しいですね。私達も動画で……あ、この間はチビ達ありがとうございました」
「いいえ、とっても楽しかったです」
「なんでも、水着を上下ぽろりしたとか?」
悪戯っぽい笑みを浮かべる真由。この子も
「!!!!!」
「響音から聞きましたよ」
「えぅ……」
思い出すと、カクンと項垂れる。
「まあ、
そう耳元で囁くと、にんまりと笑みを浮かべる。
紀子を誂う種ができたのだ。
「いやあ、情報提供ありがとうございます。
盛り上がってるおっさんズwith未来を尻目に、フフッと笑う海来だった。
――――――――――
その頃、東富士演習場では、特別教導団司令官の各務原裕二准将が、
曰く、村井杏奈中佐、各務原結雪少佐、夕立大尉を
「どういうことだ……?」
仕方なく、その三名を呼び出すことにした。
「御用でしょうか?准将閣下」
やって来た三人は、ビシッと敬礼する。
「……あー、お前達には
「「「えっ?やったぁ!!」」」
喜ぶ三人に、苦い苦~い顔をしながら、
「多分、千里が
ブツブツ文句を言う裕二に、
「いっその事、一緒においでになったらどうです?」
そう問う杏奈に、
「お断りする。娘達の
裕香は、九年前に生まれた結有の年齢の離れた
初等教育を家庭教師に任せ、小学受験を突破して女子大学の付属学校の初等部に通わせている。小中高一貫のお嬢様学校の初等部三年生で、本当に
「また、男から遠ざけるつもりですか?」
「当たり前だろう。
その杏奈の突っ込みに、はっきりと答えながら、了承の回答をコンピュータに入力する裕二だった。
―――――――――――
「という訳で、部門長の了解は得たぞい」
山本
「得たぞい、じゃないですよ!?ジジ様は、軍の人事を何だと思ってるんですか!?」
「ホッホッホ。なあに、元帥特権を使ったまでのことじゃ」
海来のツッコミに、
「千里さん。空き物件、今なら格安で借りられる物件があるそうだよ。一軒家二階建て6LDK、LDKが20畳、居室は12畳が1の10畳が5、リフォームも入る、ってさ」
「いや、英太郎も何やってるの……?」
「是非お願いします」
「是非お願いされちゃった!?」
海来は、四方八方にツッコミを入れ続けるのだった。
最早周囲も
「はぁ……最悪、小会議室を執務室にしないと……机、いくつ必要かなぁ……往診の診察室、何処でやろう……?」
海来の、目のハイライトは消え掛かっていた。
――――――――――
海来達は送り火まで実家に滞在すると、英太郎と羽田空港に向かった。
そこから八丈島空港まで飛び、そこから定期ヘリで青ヶ島に向かうのだ。
紀子と春陽と冬夜がやって来た。
「あら?海来、貴方も一緒の便ね?」
「そうなんですよ。のりちゃんも明日から仕事ですもんね。どうですか?ちゃんとしっぽりしたんですよね?」
「……ぅん」
顔を赤らめる紀子に、
「……」
同じく、顔を赤くする冬夜。
「はっはっは、もう朝まで激しくな!」
と、笑いながら言って、二人に引っ叩かれる春陽。
「さあ、明日から通常運転ね!」
「そうですね」
こうして、また二人は春冬兄弟のお見送りを受けて、軍務に戻って行くのだった。