八月も終わり、九月になった頃だった。
ここに一つの惨劇が起きた。
「や……やめて……」
「………」
DSアサシンに、頭を摑まれているのは『初雪』だった。
ジタバタしているが、力の差は圧倒的だった。
艤装は特注の最強のものを使っている、搭載火器も豪華仕様だ。
更には
「イマスグ、ココデシヌンダ」
右手に持っていた、バスタードソードを横薙ぎに振るった。
ザンッ
容赦なく彼女の首を切断した。強力な保護機構も、ここまでやられたら通用しない。
絶望の表情になっていた、『初雪』の顔が、
死んだ為
ドボンと海面に落ちる艤装の付いた身体を、彼女の頭部を投げ捨て、拾い上げる。
右手のソードは既に腰に収めている。
取り外された状態になった艤装を手に取ると、自らに装着させた。
浮かんでいる死体を足蹴にすると、『初雪』の艤装を展開させたDSアサシンは、海原を走ってその場を立ち去って行った。
それから数時間後。
その死体を『天龍』達が発見した。
「なんだこりゃあ!?」
「とにかく回収するのです」
「そ、そうね」
―――――――――――――
「おい!
遠征からの帰りに、海に浮かんでいる首なし死体を、『天龍』達が回収したのだ。
埠頭に上げられた、幼い少女の死体。
右腕には特殊チップが埋め込まれていて、海来がチップチェッカーで照会をすると
「『初雪』ですね。しかし艤装が無い、ってことは、どういうことなんでしょう?」
夕雲はすぐに検死を行ったが、見るまでもなく結論は一つだった。
「首を切られたことに依る即死ね」
「そうですか……安藤大将に連絡を取ります」
すぐに安藤に連絡を取った。
『初雪』
その日の夕方、亡くなった子の両親がヘリコプターでやってきた。
身体特徴やその他で、本人かどうか確認するのだ。
両親は、涙ながらに死体に縋り付いた。
「安全だって言ったのに…どうして……!?」
「帰って来るって言ったじゃないか、茜ぇ…!」
「ううっ……ううっ」
『卯月』が、その姿を見て涙を零し、『三笠』は共に抱き付いて声を上げて泣き出す。
そんな二人を、『大和』が抱き締め、
『吹雪』は悲痛な顔を浮かべている。『那珂』も今日は暗い顔をしていて、
纏め役の『瑞鶴』は、二人の肩をぽんと叩く。
第2隊が、代わりに軍港周辺を哨戒している。「発見した俺達は立ち会えねえ」と言って。
「私はすぐに御蔵島に行きます。英太郎大佐、各務原中佐は留守番を。紀子は同行をお願いします」
「「「了解しました」」」
そう言うと、紀子を伴い会議室を後にすると、自ら高速艇を操縦して御蔵島へ向かった。
御蔵島の、豪華になった第12泊地は暗いムードに包まれていた。
艦娘達も暗い表情で、涙を零す者もいた。
そんな中、アラブ人風の男、アブドーラ少佐が接舷された
「オ初にお目にかかります。アブドーラ
ちょっと辿々しい日本語で声を掛けると、海来も、
「この度は……幸村少佐、お辛いところ申し訳ありませんが、どういう事が起こったのか、教えてくれませんか?」
「はい。『龍田』、こちらヘ。ミクテイトクにセツメイしなさイ」
その言葉に、駆逐艦の子達を慰めていた『龍田』がやって来る。
「第12泊地第3隊旗艦の『龍田』です。私達は駆逐艦の子達と
その言葉に(やっぱり、ドバイから物資を持ってきてるんだ)と、心の中で考えるも、今はそれは重要なことではない、と頭の片隅に追いやる。
「一瞬の出来事でした。DSアサシンが『初雪』を捕まえて、そのまま姿を消したんです」
「DSアサシン……」
海来が呟くとアブドーラ少佐が、
「すぐに捜索隊を出したんデスが、ミクタイサのほうに先に発見していただきましテ」
「……なぜ初雪を狙ったんでしょう?」
そうポツリと呟いた時に、海来は以前の黒井の話を思い出した。
「少佐、『初雪』の装備は……!?」
「10㎝高角砲+高射装置をフタツに、新型高温高圧缶と補強装備スロットに、応急修復女神デス」
「………」
やっぱり、超豪華装備。
海来は、DSアサシンが
「提督、一緒に青ヶ島に行きましょう。『初雪』さんにお会いしましょう」
「ハイ……」
陽の落ちた青ヶ島泊地には、恵奈も急行してやって来ていた。
海来達が会議室に戻って来ると、罵声のような声が聞こえる。
遺体の安置されてる会議室では、恵奈が黙って俯きながら、茜の両親の罵る言葉を聞き続けている。
隣りにいる
「申し訳ありません」
ただ一言だけ……
横たわっている茜の遺体を見下ろしながら、アブドーラ少佐が呟いた。
「命はいくらお金をかけても帰ってこない、ダカラ、装備、万全を期したのに、こんなコトになるなんテ」
「……私達の使命は、艦娘達を
「
「同じ思いです」
海来は、
バチィン
「何とか言ったらどうなんだ!?」
「っ!!」
恵奈が、茜の父親に殴られていた。
両脇のバリーズに支えられて、倒れる事は無かったが、
もう一回殴ろうとしたところで、結有が腕を摑んだ。
「もうやめてください」
「離せ!こいつが娘を殺したんだ!」
「
「うるさい!お前も軍人だろう!?何で娘を守ってくれなかったんだ!?」
「……守れるものなら、守りたかったさ」
今まで、部屋の隅で手を後ろに組んで黙っていた英太郎が、そう口を開いた。
「守れる為なら、
「……あなた、もうやめましょう」
茜の母親がそっと肩に手を置くと、茜の父親は大声を上げて泣き出し崩れ落ちる。
そして、母親も茜の名を呼びながら崩れ落ちる。
「っ……ぁぁぁぁ!!!」
恵奈も声を上げて泣いていた。バリーズも恵奈を抱き締めて涙を零していた。
海来は、無言でその慟哭の声が鳴り響く部屋を後にしていた。
庁舎を出た海来は、月を見上げた。
「海来、何を思っている?」
後から付いてきた英太郎が、声を掛けた。
「そうですね。
「………慢心は禁物だな」
「……おそらく、彼女が狙っているのは大きく分けて三種類です。私と結有さん、それとその周囲の仲間達」
「……
「いやぁ………
月明かりに照らされた海来の表情は、
「…………」
「今、私達に出来ることは、『初雪』…いえ、茜さんの冥福を祈ることだけです」
「……そうだな」
二人は、月を見上げながら押し黙った。
茜の両親は、空いている官舎に一泊して翌日通夜、翌々日葬儀を御蔵島でやることになった。
これは、艦娘達で見送りたい、と云うアブドーラの真摯な願いを両親が受け入れてくれたのだ。
村で唯一の葬儀屋が、霊安室になっている会議室に布団を敷いた頃、『天龍』達が戻って来た。
布に包まれた物を持って。
すぐに、
茜の頭部を、『天龍』が発見したのだ。すぐに夕雲は縫合手術を行った。
真っ白で冷たい、彼女の首と胴体を繋いだのだ。
そして、看護師である巻雲がエンゼルケアを行う。
新米研修医で、
そして葬儀屋に引き渡され、茜の遺体は白い布団に横たえられた。
茜が会議室に戻って来た頃、海来と英太郎も会議室に戻って来ていた。
恵奈は憔悴し切っていて、バリーズと『那珂』が心配そうに水を差し出すも、「いらない」と拒絶する。
両親も憔悴していたが、一先ずはお休みください、と結有が部屋に案内する。
翌日の通夜は、青ヶ島からは海来だけが出席した。
軍部の代表の安藤や山本、それに未来も出席して、遺族の希望と『初雪』の使っていた机から出てきた
『天龍』達が遺体を発見した場所に棺が沈められて行くのを、アブドーラ少佐等
艦娘等による、弔砲が斉射される。
海に沈んで見えなくなるまで海来は敬礼し、ずっと見送り続けていた。
DSアサシンへの怒りを新たにしながら。