『天龍』が思っていたことを疑問にする
そして美里の出したとある処方箋は……
※調べましたが精神医療の専門家ではないので間違いがあるかも知れません
結有ハーレムズが赴任して、
庁舎も手狭になったので、艦娘達も受診に出かけることになった、
そんな昼下がりの青ヶ島診療所の待合室。
年寄りの
その待合室に、『天龍』と海来が座っている。『雷』と『電』は隔週診察で、今回はいない。
『『天龍』さん、二診どうぞ』
美里の声がスピーカーから響くと、『天龍』は立ち上がり、第二診察室の中に入る。
「お願いするぜ」
「はい、お掛けください」
診察室には、椅子が二つとデスクが置いてあり、
『天龍』が椅子に座ると、美里は『天龍』のカルテを開く。
前回の診察内容や、巻雲が訪問看護でカウンセリングをしている、看護メモを確認する。
それが終わると、『天龍』の方に向き直る。
「最近、どうですかね?」
「相変わらずだぜ」
その言葉で、看護メモの《『龍田』の声が聞こえて来た》について言及していないことに気付いた。
「もし、『龍田』さんに
「そりゃ別人なのは判るけど、
「そういうことを、
そう言われた『天龍』は、苦い顔をする。
「だってよぉ、ダセェじゃねえか?俺が心が弱いんじゃねえかって」
「それは違います」
美里はキッパリと否定した。
「そもそも、幻聴ってどうして起こるんだ?」
「諸説ありますが、『天龍』さんのような『統合失調症』という病気から来る症状では、妄想や幻覚は脳の『ドーパミン』という物質が過剰に放出されると起こる、という説があります。『天龍』さんが幻聴時に飲んでいるお薬には、ドーパミンやセロトニンの機能を調節する作用があります」
「そうなのか………脳のせいなのか?」
「そもそも、統合失調症の原因は今の所解明されていなくて、ストレスに依るもの、その人の元々の性格、脳機能に問題があった、等と言われています。『天龍』さんは、一番目の強いストレスによってそうなってしまった、ということになりますね?」
「ああ………他には、どういうふうになる場合があるんだ?」
「そうですねぇ……今日は、この後の精神科の予約もないので、私が前期研修で精神科病棟でお会いした患者さんを例を取って、妄想・幻覚とは何なのか、お話しましょう」
――――――
病棟を歩いていると、
「ねえ、道原先生!すごいのよ!!」
統合失調症の女性患者さんに呼び止められた。
「どうされましたか?」
笑顔を浮かべて立ち止まると、手を引っ張られ、洗面台まで連れて行かれる。
「ほら。洗面台から、エナツキの恵奈ちゃんの声が聞こえてくるのよ!」
心の底から嬉しそうに言って来る。彼女はエナツキの大ファンで、パソコンを持ち込んではエナツキの動画を毎日流している。
美里も、耳を澄ませて洗面台に顔を向ける。実にシュールな絵面である。
「聞こえるでしょ!?」
「うーん、ちょっと私には聞こえませんね。お薬飲みましょうか?」
「聞こえるのに………」
そう不服そうな顔をしている患者を、美里はスタッフステーションに連れて行く。
―――――――
「という例もありましたね。でも、何かリアリティありません?下水管って、どこに繋がってるか判らない糸電話みたいで」
「そういう言い方をされると、そうかも知れねぇな」
『天龍』もくすっと笑う。
「そうですねえ、妄想についてよくあるものとしては、誇大妄想、例えば『大淀総理と友達だ』とか、被害妄想『盗聴をされている』、『悪い噂を流されている』、嫉妬妄想『夫あるいは妻が浮気をしている』、身体的な妄想『自分は身体が臭い』、恋愛妄想『アイドルの誰々さんに愛されている』。
「色々あるんだな……」
「そう、色々あるんですよ。一つ恋愛妄想で、事件が起こったことがあったんです。
「何で、侵入しようとしたんだ?」
「公判の記録に依ると、『自分は恵奈と付き合っていると思っている、恋人の家に行って何が悪い?』とお話されていたようですね。結局その事件が契機で、エナツキの四人は
「……それも強烈だな。既に恋人だと思ってたって、出会いとか全部すっ飛ばしてか?病気だと思わなかったのか?」
「そう、ぜーんぶすっ飛ばして。警察の警告にも、親の警告にも耳を傾けなかったそうです。統合失調症は病識……つまり、
「……そうだな」
『天龍』も、美里の診察を受けるまで少しかかったのだ。逆に『電』と『雷』は、すんなり診察を受けている。
「話を戻しますね。結局『責任能力』の問題で、罪を問うことができずに、今は
妄想は基本的に、
その言葉に『天龍』は、
「
「それは肯定します。皆さんいい人です。それは私も同意します」
「なら何で……?」
「そこで、
これは美里にとっても、
『天龍』の目から、涙が零れ落ちる。
「会いたいに決まってるだろ!?俺の大事な『妹』なんだぜ!?」
そして、大声を上げて泣き続ける『天龍』を抱き締めて、頭を撫で続ける。
巻雲が慌てて入って来るが、美里は片手でそれを制す。
一頻り泣かせたあと、液剤を飲ませる。
「はい、呼吸法をやってみましょうか?
ハイ、深呼吸」
『天龍』は、深呼吸を何度も繰り返す。泣きながら……
「鼻から吸って~いち・に・さん・よん」
『天龍』も必死に、四秒で鼻から息を吸い込む。
「ストップ。いち・に・さん・よん・ご~・ろく・なな」
そのストップで、『天龍』は息を止める。
「口から吐きましょう。いち・に・さん・よん・ご~・ろく・なな・はち」
ゆっくりゆっくりと、息を吐く。
それを何度も繰り返す。
「はい。呼吸法も、よく出来るようになりましたね?」
「洋上の時に、『雷』に言われてるからな?」
『雷』は、逃げ出して助けを求められるほど、一番軽症なのだ。
「泣かせてしまってすみませんでした」
「い、いや……大丈夫だぜ」
「今日の診察はこれで結構ですよ。頓服と安定剤の方を調節しますね?」
「わかったぜ」
『天龍』がそう言って出ていくと、今度は海来が入室する。
「よろしくお願いします」
「はい。海来さん、一つ可能か不可能か、回答していただけますか?」
「何でしょうか?」
美里は、海来の方をまっすぐ見て、
「殺された『龍田』さんの艤装、残ってませんか?それをこの泊地に配属可能ですか?」
「……今、
「その『龍田』を譲り受けて、あとは『暁』・『響』の配属をお願いできませんか?
「………分かりました。アブドーラ提督にもお願いして、伯母から手を回して、
「お願いします」
それから数日後。
美里と海来は一緒に、大会議室へ『天龍』達を呼び出した。
「何の話だろうな?」
「さぁ?」
「なのです?」
扉が開かれると、『龍田』、『暁』、『響』、が中に入って来る。その後から海来と美里も入って来る。
そして、『龍田』が言ったのだ。
「『天龍』ちゃん久しぶり。
そう。あの艤装に、
そして『龍田』には、自分は運良く気絶して今日まで眠っていた、井川は戦死して『天龍』等は救われた、と言うことで
「あ……あの『龍田』!?『龍田』ぁぁぁ!!!!!!」
立ち上がり、抱き付いて泣き出す『天龍』。
『雷』と『電』がもらい泣きするのを、『暁』と『響』が二人をぎゅっと抱き締める。
「これが
美里は、『天龍』に笑みを向けると部屋をあとにした。
それから『天龍』は、『龍田』の幻聴は聞こえなくなった。
相変わらず、井川の幻聴やフラッシュバックは起こるが、何度か起こった三人共パニックに陥り、近隣艦隊を呼ぶようなことはなくなった。
健常者である『龍田』、それに『暁』・『響』が、適切にケアしてくれるようになったのだ。
こうして、今日も天龍型姉妹と
この遠征も
美里は、散歩に軍港までやって来た時に、海来にこう問われた。
「人はどうして狂うんでしょうね?」
「わかりません。私の、いえ
海来の問いにそう答えて、庁舎をあとにした。
そう。彼女の患者は、三人
近隣の無医
研修医とはいえ、医師不足の
人はどうして狂うんだろう?
狂うって何だろう?
狂ったらどうなるんだろう?
人はどこに往くんだろう?
彼女は、未だに
もしかしたら、生涯懸けても
それでも、