『瑞鶴』は、今日も
夕立の指揮する模擬航空隊に、こてんぱんに伸されていたのだ。
「何だ、この艦載機捌きは!?何度言ったら判る!?爆撃に傾注し過ぎだ!」
「や……やってるわよ!」
反論するも、鬼軍曹は更に大きな怒声で返す。
「やっているなら何故できていない!?貴様の技量不足だ、エース達に詫びろ!!」
「はぁ……疲れたわ……」
訓練が終わり、ぐったりしてあんみつを頼み、青ヶ島食堂の奥のテーブルに突っ伏す『瑞鶴』。
―――ヘトヘトではないかね?お疲れ様、と言っておこう。
肩に乗っかっていた爆撃隊隊長のルーデル妖精さんが、テーブルの上に座ってパイプを燻らせる。
もちろん、妖精達は他には見えない。
(ありがと……貴女の爆撃に頼り過ぎてるのもある、かも知れないわね?)
―――あたしも、『瑞鶴』の指示にうまく対応できてなくてゴメンな。
その隣に座って陽気に笑うのは、大垣翼妖精さん。戦闘機隊隊長である。
(こちらこそ、ごめんなさい)
―――瑞希さんが鬼軍曹
冷静に分析するのは、
―――貴女は充分に頑張っているわ。
最後に加賀妖精さんが、肩を降りてテーブルに座る。
(
そう心で念じた『瑞鶴』に、加賀妖精さんは腰に手を当てる。
―――今も昔も、空からの攻撃に有用性があるのは変わらないわ。
(中心かぁ………)
―――史実も、私も瑞鶴に後を託したわ。私は戦闘機パイロットで、瑞鶴は民間航空機パイロットで一番を目指す、って約束し合ってね。
(そう言えば、加賀さんは元空軍パイロットだったっけ?)
その言葉に、加賀妖精さんは遠い目をした。
―――あまり思い出さないほうが良いぞ。
ルーデル妖精さんの忠告には、悲しそうな顔をしながら首を振る。
付き従っていたロクマル妖精さんには、少し悲しそうな顔をされる。
―――加賀さん……
翼妖精さんは、逆にサバサバとしている。
―――空を飛ぶ人間は、
そう言ってから翼妖精さんは立ち上がり、窓から空を見上げた。
―――それに、
(どういうことなの?)
そう、加賀妖精さんに問い掛けると、加賀妖精さんはテーブルに突っ伏して顔だけ上げた『瑞鶴』の前に腰を下ろし直して、大きな溜め息を吐いた。
―――そうね。あの時も、このくらいの暑い季節だったわね。
―――――ー
加賀は、
戦闘機乗りを目指して、訓練の日々だった。
空を見ることを辞めた赤城よりも、瑞鶴と連絡を取り合うようになって行った。
瑞鶴は戦後を見通していたこともあり、既に副操縦士になっている。
自分は、
その為、アクロバットの道を目指した。
血の滲むような訓練と、鍛錬を積み重ねた。
体力を向上させる為に、陸軍の
こうして、加賀は戦闘機を任されるようになった。
それから数年後の悲劇だった。
その日は暑い夏だった。
空軍基地祭の、アクロバット飛行ショーのパイロットを、任されるようになっていた。
それも、この日に全てを賭けていた。
その為に、瑞鶴を招待したのだ。
だが、その日に限って
「頭がズキズキする……今までになかった感覚ね」
「どうする?今日はやめとくか?」
航空隊長が心配そうにするも、加賀はキリッとした顔をして、
「いえ、やらせていただきます」
そう答えて、機体に乗り込んだ。
陸上では、瑞鶴やその様子を生放送するエナツキが、今か今かと待ち構えていた。
他のアクロバットが大盛況に終わる中で、最後の加賀のショーが始まる。
「嫌な感覚……頭が痛いわね」
瑞鶴は、
恵奈の両肩に乗っている、ルーデル妖精さんとFー2妖精さん、それに大垣翼妖精さんも、
――嫌な予感がする。生放送を中断したほうがいい。
――なんか、パイロットのカンが
――何もなければいいんだけど……
そんな心配を他所に、加賀は機体を発進させる。
戦闘機は離陸をして、上空高く舞い上がる。
操縦桿を握っている加賀に、肩に乗っかっているロクマル妖精さんが、
―――嫌な予感がします!加賀さん!
そう叫んだ時には、バレルロールに入っていた。
バァン!!
主警報装置が鳴り響いた。
「エンジン爆発!?」
左翼のエンジンが吹き飛んで、左翼がもぎ取られていたのだ。
「このままじゃ、地上に死者が出る!!」
この段階で脱出できれば自分は助かる、でも……
「ロクマル、一緒に付き合ってもらうわよ」
―――はい、私は加賀さんのお側に。
加賀は、残った右翼と尾翼だけで、機体の方向を海へと向けた。
下では、悲鳴やら何やらが上がっているのが見て取れる。
機体は、ぐんぐん高度を下げていた。
海に向かって……
「瑞鶴、貴女には追いつけなかったわね……」
ふっと笑いながら、海面に叩き付けられる直前、
加賀は、大爆発に巻き込まれて意識を失った。
――――――
目を覚ましたのは、
ムクリと起き上がり、キョロキョロしていると、
不思議そうな顔をして見ている、瑞鶴の姿だった。
―――瑞鶴、私……
(死んだわよ、即死。ちょっと
焼香をしている瑞鶴に攀じ登ると、瑞鶴と共に席に戻った。
『瑞鶴』の肩から周囲を見ると、赤城が人目も憚らず泣き続けて錯乱し、中部警備府の面々も参列して涙していた。
―――そう、死んだのね。それで、妖精化した、って訳……?
(そういうことになるわね。恵奈が教えてくれて、妖精化しているあんたが眠ってる、って)
―――あの子は妖精が見えるものね。
(ねえ、加賀。空を飛ぶのが怖くなった?
―――いいえ。
(もしよかったら、ロクマル妖精さんと一緒に、私と共に空を飛びましょう?)
そう言うと、喪服の胸ポケットから、ロクマル妖精さんが顔を覗かせる。
―――……ありがとう、分かったわ。よろしくね、ロクマルちゃんも。
―――はいっ。
(よろしく頼むわね)
こうして、加賀妖精さんとロクマル妖精さんは、機長に昇格した瑞鶴と共に、空を飛び回ることになる。
あの、深海棲艦戦争勃発時にも、もちろんロクマル妖精さんと一緒にいて、瑞鶴を補佐したのだ。
――――――――
―――原因はエンジンの製造不良。オイル漏れによって油火災が起き、制御系がイカれてターボファンが高回転を起こし過ぎて、遠心力でドカン。左翼をもぎ取った、って訳。 地上で重軽傷者も出した大惨事。死者は……パイロット一名。
(そうだったのね………)
『瑞鶴』は身体を起こすと、加賀妖精さんを見下ろした。
―――どうして赤城さんにではなく、
(……一つ疑問に思ったんだけど、どうして脱出シートを作動させたのよ?)
―――それは、
(………今も、空を愛しているの?)
―――ええ、もちろん。
その力強い言葉に、瑞鶴もふっと笑顔になる。
(あたしも頑張って、あなた達に認められる空母にならないといけないわね?)
―――何を言っている?認めているさ、まだ
ルーデル妖精さんが立ち上がり、『瑞鶴』の肩に乗る。
―――早速、戦闘機のフォーメーション考え直すよ!
翼妖精さんが、ひょいっと瑞鶴の肩から攀じ登って、頭の上に乗る。
―――翼妖精さんと一緒に頑張ります。
ロクマル妖精さんも瑞鶴の肩に乗る。
―――頑張りましょう。
加賀妖精さんが、肩に飛び乗る。
あんみつを急いで食べた『瑞鶴』は、再び埠頭に走って行った。
「教官!補習をお願いします!」
「うむ、
腕を組んで、埠頭から海を見ていた瑞希は、ニヤッと笑った。
―――やはりあの教官、我々へも叱責していたようだな?
―――これ以上『瑞鶴』に恥を掻かせられないな!?
―――そうですね。
―――わたしも少し頭に来ました。
(行くわよ、皆)
―――おーっ!!!
「行くっぽい!」
夕立の飛ばす、艦載機群が襲って来る。
―――ひゃっほう!行くよ、ロクマル!
―――乱れ撃ちます。
震電の二部隊が、夕立の指揮する航空機隊に向かって、機銃をばら撒いて行く。
翼妖精さんは、アクロバティックな操縦指揮を。ロクマル妖精さんは堅実な操縦指揮で、次々数を減らして行く。
その間に、敵機を擦り抜けた爆撃隊が急降下する。
―――私達を……
―――あまり舐めないで貰いたい!
「チッ、夕立め……!」
「こっちだって本気でやってるっぽい!!」
瑞希は、舌打ちしながら対空砲火を乱射させるも、間に合わない。
バァンパァン
炸裂するペイント弾。
必死で避けた瑞希の頬には、ペイントが掛かっていた。
頬に
「……くっ………ふっふっふ、『瑞鶴』、合格だ!次は、私を
「……はい!」
喜びを爆発させながら応える『瑞鶴』に、艦載機が次々に帰還して来る。
―――お疲れ様でした。
淡々と讃える、ロクマル妖精さん。
―――ナイスガッツ!
サムズ・アップしてみせる、翼妖精さん。
―――私の爆撃のおかげだな。
ニヤリと笑う、ルーデル妖精さん。
―――これからもよろしくね。
笑みを向ける、加賀妖精さん。
「貴様は、今日より『へっぽこーず』卒業だ!よくやった!」
瑞希の祝福の声が、埠頭に響き渡った。
残り3話!