今日ものどかな青ヶ島泊地。
「ふぅ~」
お手洗いから出て来て、執務室へ新しく買い直したオーシャンブルーのカーディガン姿で向かうのは、高梨未来。
その背後から、黒い影が迫る。
「だーれだっぴょ!?」
その黒い影こと『卯月』が、ばっと目隠しをしようとした直後に、『卯月』の視界が真っ暗になる。
「わー!誰だっぴょん!?」
ジタバタしている『卯月』。その背後には、海来が立っていた。
『卯月』が飛び掛かった瞬間、海来はするりと躱し、後ろを取って逆に『卯月』へ、両手で目隠しをしたのだった。
その鮮やかな体捌きは、廊下の曲がり角から一緒に様子を見ていた、残りのへっぽこーずがしかと目にしていたのだ。
優しく解放すると、『卯月』は後ろを振り向いた。
「あれ、ミクちゃん提督。いつの間に?」
「まだまだ、
キョトンとしている『卯月』に、口元に手を当てて笑う海来。
「「ミクちゃん提督ごめんなさーい」」
ミクちゃん提督目隠し作戦の立案者『那珂』と、
「二人がいるのも知ってました。さて、丁度いい所に来てくれたので、執務室まで来てくださいな?」
『はーい!』
元気良く、海来の後を従いていくへっぽこーず。
「さて。さっきですが、東京へ出張命令が下りました」
いつものダイニングテーブルに、間宮アイスと紅茶を用意して皆の前に配り終え、海来が座ったところで、話を切り出す。
「出張だっぴょん?お土産買ってきてくれるっぴょん?」
「『卯月』ちゃん、ミクちゃん提督はお仕事なんだから」
「あ、『那珂』ちゃん従いていきたーい!」
お土産を初手から要求する『卯月』を嗜める『吹雪』、それに同行を要求する『那珂』。
「それでですね。東京まで、三人共連れて行こう、と思ってます」
『ばんじゃーい!!』
三人で万歳三唱をする様子を、楽しそうに笑って見ている海来。
「ただし。お偉方と会いに行くので、粗相のないように。もし粗相をした場合は……」
そう言って、表情を消す海来。
無表情になった海来に、さっきの盛り上がりから一転して、シーンと静まり返って唾を飲み込む。
「……一週間
『えええええっ!?!?』
三人共涙目になる。
「ちゃんと、大人しく付き添いをしてくれたら、もっと美味しいお菓子を買ってあげますよ?」
『ばんじゃーい!!』
ぱあっと笑顔の花が咲いて、三人で再び万歳三唱をする様子に、再び海来は笑う。
「ところで。どうして、東京に呼ばれたんですか?」
『吹雪』が、不思議そうに首を傾げると海来が答える。
「いやぁ、安藤本部長から召喚命令が出ました。多分、
苦笑いを浮かべて答える海来。口が裂けても、「
「レジェンドマジレジェンドだっぴょん」
「うん。本当、レジェンドだね」
「まさにレジェンドだね!」
口々に感想を言い合う
「ぶぇっくし!!」
「なんだ?レジェンド、風邪か?」
沖合で釣り竿を垂らしているのは、くしゃみをしたレジェンド結有と『天龍』。
周囲で、『雷電』姉妹が仲良くじゃれ合っている。
汎用艤装の収納機能のお陰で、組み立て式釣り竿も収納できるのだ。
「誰か、私の噂をしてるんじゃないかな?多分へっぽこーず辺りかな?」
「違いないや!」
ハハハと笑う『天龍』。心の傷も、大分癒えて来た。
夕雲医師の心理療法で、嫌な記憶を薄れさせ、こうやって
結有と楽しく過ごすことで、治療を行っている最中なのだ。
「流石に、深海棲艦の着ぐるみはやり過ぎました。恵奈ちゃん…もとい。大村大尉に手伝ってもらって、ボイスチェンジャーやら色々つけたんですけどねえ」
「誰に使う気だったぴょん?」
頬を掻きながら、苦笑いを浮かべる海来に、『卯月』が首を傾げ海来を見つめると、海来はそっと目を逸らす。
「ひどい!うーちゃん夜中トイレにいけなくなるぴょん!」
涙目で抗議をする『卯月』に、
「昨日も、柳川淳一さんとエナツキコラボの都市伝説回をMeTubeで見たら、怖くなっちゃって『那珂』ちゃんが、夜中トイレに一緒に従いて行ってあげたじゃない?」
「うー!暴露しなくてもいいぴょん!!」
『那珂』が暴露すると、ぽかぽかと『那珂』の肩を叩く『卯月』に、『吹雪』や海来もフフッと笑う。
「確かに、昨日のエナツキの都市伝説コラボはちょっと怖かったですね」
自身も夜中トイレに行った時に、少し怖かったなあと思ったりすると、
「でも、朝方『フッフッフ』…って声が隣の部屋から……」
『ひっ……』
朝一番早起きの『吹雪』が聞いた声に、『那珂』と『卯月』の顔がさあっと青くなる。
「隣の部屋って、
『あっ……』
海来の指摘に、三人共それを思い出す。
「多分、朝の腹筋じゃないですか?」
結有は早朝に起きると、すぐに筋トレを始めるのだ。
三十路過ぎても、元気いっぱいの
翌朝。
迎えの船がやって来ると、海来は白い軍服姿で出て来る。
艦娘達にとっては、『吹雪』以外は初めて見る、白い軍服姿である。
「わぁ、かっこいいぴょん」
「なんか凛々しくて可愛い感じ!」
『卯月』と『那珂』が、目をキラキラさせている。
「それでは、『吹雪』以下三名。提督の護衛を務めさせていただきます」
ビシッと敬礼すると、『卯月』と『那珂』もビシッと敬礼をする。
「では、行きましょう。各務原中佐、お留守番部隊をお願いします」
「了解しました」
結有も、敬礼して見送る。
扉を開けると、海軍の少尉が庁舎まで出迎えにやって来ている。
「高梨少佐ですね、お迎えに上がりました」
「ご苦労さまです。さあ、行きましょう」
少尉の敬礼に答礼すると、少尉は脇に控え、海来を先頭に船まで歩いていく。
船には何名か乗組員が乗っており、船室に案内される。
全員が乗り込むと、船が出港する。
『天龍』達の見送りで、海来達は東京に向かうのだった。
東京に到着した海来は、早速艦娘本部の本部長室に出頭した。
へっぽこーずは、艦娘本部の控室で待たされている。
「失礼します、高梨海来少佐入ります」
「入り給え」
本部長室に敬礼して入ると、執務机にいる艦娘本部長安藤龍大将、それに艦娘本部長補佐官の不知火准将が脇に控えている。
不知火が答礼すると、海来は扉を閉め、執務机の前まで足を進める。
「久しぶりだ。御蔵島の一件は、手数を掛けたな」
「いえ、とんでもありません」
そこまで言うと、不知火がふっと笑みを浮かべる。
「余人は居ません、いつもどおりで結構です」
その言葉に、海来もふっと笑みを浮かべる。
「
「いやあ、
その安藤の言葉に、苦笑いを浮かべる。
あの御蔵島の一件で連絡をした、伯母である高梨未来は、現在統合幕僚監部副長になっている。
統合幕僚長は、元帥の定年撤廃のお陰で、
80過ぎても、元気なご老人である。
「まあ、いくらお前が
「はい、ご心配おかけしてすみません」
海来も、少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「しかし、練度が低いとはいえ、各務原中佐は相変わらずの無双っぷりだな?」
「はい、皆からレジェンドと呼ばれてます」
その言葉に、不知火が「ぶっ」と吹き出してしまう。
「レジェンドとは……士官学校から何も変わっていないな?」
吹き出した不知火が、少し顔を赤らめながら真顔に戻るのをちらっと見ると、龍は懐かしそうに話し出す。
「私は、結有くんの士官学校在学時の校長でね。男子候補生に襲われたら鎮圧する。運動抜群、ファンクラブはできるわ、
「はい、結有さんから聞いてます。あの運動神経のカタマリの恵奈さんを、鬼ごっこで瞬殺する動画も見てましたし」
「うむ。流石に
「それならそれで、良いきっかけでしたね」
龍が齎した報告に、海来も笑みを浮かべて答える。
「さて。艦隊司令官になって少し経つが、どうかね?」
「いやあ、まだまだですね。まずは艦娘の練度を上げるのが急務ですね」
「うむ。以前のように、深海棲艦は大挙して日本に攻め込んでいる訳ではなく、世界中に攻撃を仕掛けているせいか、まだ現在の練度で防げているのが救いだな。米軍のナスタージ少将とも連携を取って、事に当たっている」
「はい」
「救出した艦娘達はどうしている?」
「はい。夕雲先生のおかげで、何とか哨戒に出られるようになりました」
「それは良かった。ところで本題だが…入り給え」
隣室に龍が声を掛けると、ノック音がしてメガネを掛けたポニーテールの少女が、中に入って来る。
階級章は二等兵だが、彼女のことを海来はよく知っていた。
「の……のりちゃん!?」
「うむ。本日より
「本日より、高梨少佐のお世話をすることになりました、高天原紀子二等兵です!よろしくね」
紀子がウィンクして敬礼すると、海来も答礼する。
「用件は以上である。折角だから、たまには高梨邸に泊まりに来なさい。と、未来くんからの伝言だ」
「そうですね。ホテルどうしよう、と思ってましたし、お言葉に甘えますね?」
二人して本部長室を辞すると、二人で控室に向かう途中、海来は申し訳なさそうに、
「ごめんね。この前誕生日で貰ったブラ、破れちゃった……」
「うん、未来さんから聞いてる。大変だったね……」
未来は、紀子には井川中佐に襲われて「
もちろん、親友である紀子も、智紀から
流石に
「あーあ、お気に入りだったんだけどなぁ。カーディガンも」
「ぼやかないぼやかない。また今度プレゼントしてあげる。ところで、海来ちゃんのところの艦娘って、どんな子達?」
「んー、一緒に連れて来たよ。まだへっぽこぴーだけどね?」
そう言いながら控室の扉を開けると、へっぽこーずは……
『あっ』
大いにだらけていた。
「うん、へっぽこぴーだわ」
紀子は、ぼそっと呟いた。