控室に、海来達が戻って来た時には、へっぽこーずはだらけていた。
『卯月』はソファーでゴロゴロして、『那珂』ちゃんはエナツキの楽曲を流しながら踊っていて、
『吹雪』は、ポテチを頬張ってる最中だった。
『あ』
「……」
「あの、皆さん。入ってきたのが
早速、ソファに座らせてお説教である。
『ごめんなさい……』
三人共、小さくなってシュンとしている。
その脇に控えている、従卒である紀子は、クスクスと笑いながら、その様子を見ている。
「ところで、そっちのお姉さんは誰だっぴょん?」
回復の早い『卯月』が、紀子を指差すと、紀子は、
「今日から、ミクちゃん提督のお世話をする事になった、従卒の高天原紀子二等兵。よろしくね」
「はい!よろしくお願いします。私は『吹雪』です!」
と、元気良く『吹雪』が答えると、
「『那珂』ちゃんだよー!」
「『卯月』でっす! うーちゃんって呼ばれてまっす!びしっ」
『那珂』が続いて、『卯月』が座ったまま、びしっと擬音を付けながら敬礼する。
紀子も、笑いながら敬礼する。
「さて。今日の用事は終わったので、私の伯母さんの家に行こうと思います」
『はーい!』
「私もご相伴に預かってもいいのかな?」
「うん、そのつもりだったよ」
「ではお言葉に甘えて……」
「うん。それじゃあ、地下鉄に乗って向かいましょうか?」
『はーい』
紀子とへっぽこーずを伴い庁舎を出ると、デモ隊の人達が、艦娘本部庁舎前でデモをやっていた。
「戦争はんたーい!艦娘はいらなーい!」
「人権を守れ―!戦争主義者大淀総理は辞めろ―!」
人数はそう多くないものの、各自プラカードや横断幕を持っての抗議デモである。
「ミクちゃん提督、あれは何だぴょん?」
『卯月』が首を傾げてデモ隊の方を指差すと、海来は、
「そうですね。
『………』
『吹雪』と『那珂』と紀子が黙っている中で、『卯月』は頬を膨らませる。
「うー!うーちゃん達が頑張ってるのに、何でそんな事言うの!?うーちゃんがビシッと言ってやるぴょん!」
憤慨している『卯月』に、海来は『卯月』の肩を叩いて首を振る。
「デモは、憲法によって認められた権利である、言論の自由に相当します。それに、
その言葉に、四人共押し黙る。
「嘗て憲法が改正された時に、憲法第九条にはこう記されています。曰く『日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、
人類を非難するような口ぶりに、艦娘達は当惑し、紀子は少し悲しそうな顔をする。
「ですから、こういう意見は至極
「そうね」
海来の言葉に、紀子も同意する。
「…母が言っていた事があります。『私が『不敗の女神様』という鎖に縛られて、
その言葉に紀子が、
「父さんも言ってたね。『結局、人間は喉元過ぎれば熱さを忘れる愚かな存在なんだ、と。でも、
「……作家らしい言葉ですね」
紀子の語る、父・智紀の言葉に皆が感銘を受けていると、黒いヴェルファイアが庁舎前に停まる。
「はいはい、おたく等邪魔邪魔、どいてどいて」
車から降りて来たサングラスを掛けた女性――高梨結衣――がデモ隊を掻き分けて、ずかずかと通り抜けると、海来達を見つけて声を掛ける。
「やっほー!海来ちゃん、迎えに来たよ」
その声と共に、元気良く手を振る結衣の姿に、海来は笑みを向ける。
「結衣伯母さん、お久しぶりです!」
「結衣さんご無沙汰してます」
『こんにちはー!』
元気良く挨拶する二人とへっぽこーずに、結衣は、
「元気があってよか。未来さんにお迎え頼まれててね。行くよ、乗った乗った」
『はーい!』
車に乗り込むと、ヴェルファイアは早速、艦娘本部を後にする。
「結衣さんは良かったんですか?お迎えって」
「あー、『高梨商事東京支社長』なんて仕事は、割と時間の自由あるからよかよ」
助手席に座った海来の問い掛けに、結衣も運転席でハンドルを握りながら答える。
「あー、この車エナツキカー!?」
『那珂』が、車の中に貼ってあるエナツキロゴに、テンションが爆上がりになる。
「そうだよ。もしかして『那珂』ちゃんは『エナツキーズ』さん?」
エナツキ―ズとは、エナツキがMeTubeレジェンドになる頃に、エナツキで作った
「うん!!結衣さんって、やっばりエナツキの結衣さん!?」
「そうだよ、当たり」
「わぁー!!『那珂』ちゃん今すごい幸せ―!」
「『那珂』ちゃんよかったぴょん」
「よかったね」
大喜びになる『那珂』に釣られて笑顔の、『卯月』と『吹雪』。
車中では、『那珂』ちゃんと結衣が楽しく会話をしているのに耳を傾ける、残りの皆。
やがて車は、閑静な住宅街へと向かって行った。
「それじゃあねー!」
高梨本邸の前までやって来ると、結衣は仕事に戻るね、と言って車で走り去って行く。
それを、手を振って見送る一同。
『那珂』は、エナツキのサインを大事そうに持っている。
結衣から今度のイベント用のサインを、「特別にあげるね」と言われて貰っていたのだ。
車を見送ったところで、門の横の通用口が開かれると、天城が出て来る。
「こんにちは、海来ちゃん」
天城も一度戦争が終わり、年齢を重ねるようになって、最近髪も白いものが目立ち始めている。
「こんにちは。大人数で申し訳ありませんが、お世話になります」
「はい、未来さんがお待ちですよ」
優しい笑顔を向けると、「どうぞ」と、先に中に入る。
海来達もそれに倣い、天城の後を従いて行く。
「うわぁ、広い!」
「大きなお屋敷だぴょん!」
「ミクちゃん提督ってお金持ち!?」
大きなお屋敷である、高梨本邸の敷地内に入ると、目を輝かせる三人。
「まあ、そんな感じです」
へっぽこーずにふふっと笑うと、玄関先には和服姿の未来が立っている。
「あれがおばさんぴょん?」
指を指して訊く『卯月』に、海来は意地悪な笑みを浮かべて、
「はい。私の伯母の、
「ぷっぷくぷー!?」
そう答えると、指を指したまま固まったと思いきや、ビシッと背筋を伸ばす『卯月』。
隣の『那珂』と『吹雪』も、ビシッと背を伸ばす。きっと冷や汗ダラダラだろう。
「お久しぶりです。この度は、従卒の推薦状ありがとうございました!」
そして紀子は、笑みを浮かべながらビシッと背を伸ばし敬礼する。
「まあ、今日はオフだし、堅苦しいのは抜きでいいわ」
未来はフフッと笑いながら敬礼を返すと、「お上がりなさい」と、背を向け中に入って行く。
『お邪魔しまーす!』
海来と紀子とへっぽこーずは、元気良く挨拶し、未来に従いて行く。
海来は途中で、「
と、仏間に向かうと、残りの面々はリビングへと歩いて行った。
静かな仏間にやって来ると、部屋には高梨提督、三笠、それに金剛の位牌の置いてある仏壇。
それに、それぞれの遺影が飾られている。
金剛は、五年前に病没した。
金剛は、「まー、寿命のようなもんデショー」と、自らの死を受け容れて亡くなった。
それから未来は、この広い屋敷で、天城と二人で暮らしている。
「ご無沙汰してます。高梨提督、それに『かあさん』、金剛さん」
線香に火を灯し、
暫し手を合わせると、蝋燭を消して仏間を後にする。
皆が通されたリビングに戻って来ると、へっぽこーずと紀子は、出された羊羹とお茶を楽しんでいた。
テレビは、『那珂』ちゃんの希望で、MeTubeのエナツキ生放送が流されている。
今は正式に結婚した響と不可思議が、
「どう?艦隊司令官の椅子の座り心地は」
海来が皆が座っている卓袱台に着くと、未来が声を掛ける。
「そうですね。まだまだ練度は不十分で、
「レジェンド?」
首を傾げる未来に、
「各務原中佐のことだっぴょん!ものすごく強いんだっぴょん!」
「あぁ……あの時の子が、今やレジェンドとはね……どちらに似たのかしら?」
「ふふっ……両方じゃないですか?」
『卯月』が説明すると、未来も納得したような顔をして、海来が口元に手を当てながら笑う。
「まあ、
その言葉に、『吹雪』が首を傾げる。
「そう言えば、ミクちゃん提督もやっぱり強いんですか?」
そう問い掛けると、海来は少し困った顔をする。代わりに未来が、
「そうねえ。少なくとも
「ふぇっ!?」
「ぴょん!?」
「ひぇっ!?」
親指を下に向けつつ、意地悪な笑みを浮かべながら言うと、驚愕する
「お、伯母さん、その言い方はちょっと……」
困ったような笑みを浮かべながら、海来が未来に言うと、未来は
「だって事実じゃない」
「あはは……」
と、しれっと答えると、苦笑いになる海来。
「さあて。夕飯は、お寿司でも取りましょうか?」
『おすし!?』
未来の言葉に、目をキラキラさせるへっぽこーずに、
「いいんですか?有難うございます」
ごちそうになる気満々の紀子。
その様子を見つつ、楽しそうに笑いながら眺めている海来……
「身体の調子はどうなの?」
へっぽこーずと紀子が、離れで夢の中にいる丑三つ時。
海来は眠れずに、縁側に座っていると、未来から声を掛けられる。
「そうですね。
「やはり
隣に腰を下ろす未来に、海来は首を横に振る。
「結局私は、第三世代艤装計画の
「結局は、
「――はい」
二人して、溜め息を吐く。
「でも、貴女と恵奈のお陰で、ここまで
「それでも、私は『人間達の希望』を信じたいです。
月夜を見上げる海来に、未来もふふっと笑う。
「頼むわね」
「―――はい」
月明かりが、二人をずっと照らし続けている……
そろそろペースを落とします。