巫女とサムライ 作:マッチ売りの老婆
原作で描かれて無いだろうと判断した部分は独自設定(という名の妄想)で補完しております。
原作で描かれていた事が違うぞ! バカ! みたいな事が発覚したら、う、うーん……本作独自展開という事で許してください!
なんでもしませんから!!(なんでもしないと言っている)
鬱蒼と茂る栃木の森林。
まだ日は明るく、気温も日向ぼっこに丁度良い程度に快適な夏の日だった。
陽が木の葉の集まりを抜け、大地に注がれている。
そこに一人の少女の姿があった。
「〜〜♪ 〜〜♪」
桃色のショートツインテール、白のTシャツに短パンを身に着ける彼女の名は【
この森を含めた近隣一体を守護する【刀使】の家系『益子家』の一人娘であった。
少女は何処で拾ったか杖代わりになりそうな細身の枝を持ち、意気揚々と先を進んでいく。
その先に何があるのか、それは彼女にも分からない。
分からないが、ただなんとなく、冒険をするよう無我夢中に突き進んでいた。
そしてその後ろをトコトコと付いていく、小さな獣のようなモノがいる。
茶の毛並みに黒、白が混じった猫のような生物。しかし、その尻尾がワニのような緑に閉口する口のようなもの、そしてフェルトで作られたような目のようなソレが、通常の生物と異なる事を仄めかしている。
コレの名前は【ねね】
『益子家』に代々守護獣として寄り添う、穢れが抜け落ちた異端の【荒魂】である。
ねねは距離を保ちながら少女の後ろを付いていたが、その額に突如軽く石がぶつかる。
薫が投石したものだった。
「ついてくるな荒魂! ふふん、刀使は荒魂をやっつけるんだ!」
確かに、その通りだけれどもと言った様子でねねは薫を見るが、その視線の意味をまだ小さい薫が理解出来るはずもない。
ぶいーん、と虫型の小さい荒魂が薫の横を通り過ぎたのを見て、我こそはと薫は振り返り地を蹴る。
薫はその荒魂のみを見つめているのか、目の前に障害があろうと道を突き進む。
拙く走る薫を心配してねねも後を追うように駆けるが、時既に遅し。
薫の視界を草木が覆った後に、ちょっとした急斜面が薫に襲いかかる。
ごろごろごろ。
ドラム缶が転がるかのように早い回転率で落ちる薫は、それだけで幼くか弱い身体に傷が出来てしまった。
服が破けてしまい、傷を負い、更に現在位置が分からない。
痛みに涙を浮かべる少女はその場で大きくべそをかき、泣き叫んだ。
うわーん、うわーん、と。
ーーガサガサッ
「!! な、なぁにぃ……?」
薫は怯えた形相で音の鳴ったほう、森の奥を見つめる。
音の発生地点が近い事は分かったようだが、具体的な場所までは分からない。
もしかして、荒魂か。
そう考えた途端、薫に更なる恐怖が襲った。
自分は、荒魂に喰い殺されてしまうのではないかと。
「……ぅぅ……ぃや……いやだあ……!!」
段々と恐怖が積もってき、身体に更なる震えと貧血の症状が走る。
お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん。
心の中で家族を呼ぶ声が強くなっていき。
ガサッ、とすぐそばの茂みから何かが飛び出してきた。
「いやああああああ」
ーーねー!
……ぇえ__?
薫がその聞き覚えのある鳴き声に目を向け、胸を撫で下ろす。
そこにいたのは小さな獣の荒魂、薫の守護獣のねねであった。
ねー、と言って薫に近付いていくねね。
それに安心したのか、薫は小さいねねを抱きかかえて、何度も泣いた。
疲れ果て、意識が呆然となるまで。
ーーねー。ねー。
しばらくした、夕方頃の事。
泣き止み、一度の休憩を挟んだことによる安心から薫は、周囲の状況を冷静に理解し始めた。
自分は、今山奥にいること。
もう、日は沈みかけていること。
今、自分が何処にいるのか分からない、つまり迷子だと言うこと。
「ど、どうしよう、ねね……」
怯えた表情で薫はねねを見つめた。
ねねはぽん、と胸を叩いて前の方向を指差す。
任せろ、ということだろう。
薫はほっとしたように笑顔になり、寧々の尻尾を掴む。
もう、二度と離れるものか、と思いを抱きながら。
ーーガサガサッ
「……ぇえ?」
一度聞いた事のある葉音が響いた。
何かが、大きく揺れるような音。
それは先程聞こえた方角と一緒にように感じる。
……どういうこと?
この音は、ねねのじゃなかったの?
薫の中で疑問が生まれるが、最早それどころではない。
荒魂。
この状況で最悪の、最低の光景を想像する。
自分諸共、ねねが殺されてしまう未来が。
「___あ」
薫の心配をしたのか、寧々は目つきをぐいっと鋭くし、しっぽを握る薫の拘束を解いて茂みに飛び込む。
その方角は先程の音がした場所のものと一致していた。
だ、ダメ!
言葉にするのも遅く、ねねは更に奥へと突き進んでしまった。
一人だ。
ねねと再び別れ、一人。
もしもねねがこのまま戻ってこなければ、どうなるのだろうか。
自分は再び、一人ぼっちになってしまうのだろうか。
「__! いやだ!」
そんなのは嫌だ、ねねと一緒に家に帰るんだ。
うああああ、と声を上げて薫はねねの飛び込んだ茂みに突っ込んで行く。
ただ、がむしゃらに走る。
前を見ずに、全力で。
肌を茂みの枝が斬り裂く。
身体中に葉が絡みつく。
そんなものお構いなしに、全力で茂みを走り抜けた。
ーーねー?
茂みを抜けた先、一本の大樹の根本にねねはいた。
傷付いた様子や、付近を警戒している様子はない。
……どうやら、早とちりだったようだ。
薫ははあ、と息を吐く……所で、異変に気が付いた。
ーーねー……。
木陰の幹に背を預け、俯いているヒト型のそれ。
人間だとは思う、けれども、と薫はソレを見つめる。
全身緑に真鍮色のラバースーツのようなものを着込み、頭にはアンテナがついたバケツのようなものを被っている大人だろうソレ。
片膝を付き、立てている足の膝に前腕を乗せて伏せている。
まるで人形のような姿に薫は疑問を抱くが、次の瞬間、表情急変させる。
紅い水溜りが出来ている。
目の前のそいつの足元に、今もなお拡張を続ける”血池”が。
「だ、だいじょ__!!」
再び目の前の人物の様子を振り返り見つめると、僅かに動きがあった。
だが、それで分かってしまった。
彼の首元からどぼどぼと流れ落ちる、紅の流水を。
ーー…だ……れ…だ………?
掠れるような、透き通る男の声。
だがその声の様子から、彼がかなり弱っているということが簡単に見て取れた。
いけない。
このまま放おっておけば彼は必ず、死んでしまう。
これはもう、自分の勝手な思い込みじゃない。
本当に、危ない状況だ。
「い、今助けるから! まってて!」
薫は彼に寄り添い、顔を上げる。
真鍮の金属の表面に、赤く光る目のようなものが目立つ。
不気味だ、と薫は感じた。
だが、それでも彼は人間だとも。
助けなければ、と。
だが。
「あ、ああ。どうしよう、血が、血が……!!」
溢れ出る血を止める事は叶わなかった。
それどころか、動かした影響か流血の量は増加している。
此処で食い止めなければ、彼は死んでしまう。
「あ、ああ、あああ……」
未だ止まる事を知らぬ紅の川を見つめ、徐々に気が昂ぶっていく。
まずい、まずい、まずい、まずい。
このままでは、何もしなければ、彼は死んでしまう。
名前も、顔も知らない誰か。
それでも、同じ人間を助けようとするのは、至って普通の反応だった。
それが何も出来ない、無力な少女であっても。
ーーねね!!
「ねね……?」
ねねの目つきが鋭くなり、自分の胸をぽんと叩く。
まかせろ、そう言っているのだろう。
「お願い、助けて……!」
がばっ、と駆けねねはその場を後にする。
ねねは分かっていた、薫が何を求めているのかを。
例え薫では届かないのだとしても、それを欲しているのだと。
ならばとねねは、駆けたのだ。
「死んじゃ、だめだ……!」
死に体の特殊スーツの男と二人きりになった薫に、出来ることは何も無かった。
治療することも、誰かに助けを求めることも。
だからただ、願った。
死んではいけない、と。
自身のシャツが赤く染まろうとも、薫は願う。
強く、生きるようにと。
ーー……と…ぅ。
金属の奥から聞こえた掠れ声は彼の身体にしがみついていた薫に、微妙に届いていた。
**********
「………ん」
目を開けるとそこは、一面の白に所々の黒点が見える平面だった。
この景色に見覚えはない。だが、東京にあった建物の一室がこんな壁だったなと、何処か記憶を遡った。
視線を落とすと、布団のようなものが身体に覆い被さっている。
また、その下にある身体は何故か白肌が見えており、包帯が巻かれている。
……どうやら自分は、横になって眠っていたらしい。
現状に当たりを付け、目を閉じる。
この状況に落ち着くまでに一体、何があった?
……
………
………? __!!
暫く考え、記憶を辿っていた。
そこで、なんとなくだが、分かってしまった。
自分には、記憶がない。
自分の名前も、家族の顔も、職場も、趣味も。
一部の断片的なものを除いて、ほぼ全てが抜け落ちていた。
「あら、起きていたんですか?」
女性の声がした。
誰だろう、首を横に曲げ、声の主の姿を見る。
桃色の髪、程よく凹凸の出来た身体、整った顔立ち。
何処か優しそうな雰囲気を醸し出す女性にお前は息を飲む。
美しい。
素直に、そう感じた。
「かおるーー! あの人起きたわよーー!!」
女性は後ろを振り向き手を口元に当て、誰かに向けて大声で話す。
どたどたと大きな物音がした後、一人の少女が姿を表す。
横に並ぶ女性と同じ桃色の髪をツインテールにした小さな女の子。
その頭には小さな獣が乗っている。
どたどたと強い眼力を向けながら少女は近付いてくる。
「だ、だいじょうぶなのか!?」
ぶっきらぼうな言い方ながらそこに心配の感情が見え隠れしている少女に、お前はとりあえず、ああ、とだけ答えておく。
どうやら包帯を巻くほどの重体だったらしいが、生憎と痛みはない。
心配してくれてありがとう、と少女に一言お礼を言う。
「な、別にオレは心配なんてしてねえし!!」
だったらさっきの言葉はなんだったんだと言いたくなるが、と腰を少し浮かせた所で脇腹に瞬間的な刺激が走る。
うっ、と声が漏れ、周囲が心配の眼差しに変わる。
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
少女は再び此方に声をかけてきた。
心なしか、その頭の上に乗っている獣の表情も暗い。
……。
少し、状況を整理するべきかもしれない。
前を向き、彼女らに自らが記憶喪失であること、何があったのか分からないことの趣旨を告げる。
少女らは困った表情で、お互いを見つめ首を傾げた。