System Mind──── 機械の少女は涙を流す 作:feel0330
機械少女(オートマタ)───二一〇〇年に日本の大手メディカル会社「マイシン」が、発売した商品。
機械少女は購入者を主とし、主の心身の安全や生活のサポートなどが主な役割だ。
今までも似たような商品は発売されてきた。
しかし、機械少女には今までの商品とは大きく異なる要素があった。
それが、『人間の心』だ。
AIは、基本的には人間の行動を読み取り、そこから行動や考えを推測して最善の行動をするのに対し、『人間の心』を持った機械少女は人間と同じように感情が存在する。
もちろん機械少女も主にとって最善の行動をしようとするが感情があるために逆に主を困らせてしまうようなこともあった。
しかし、機械少女を求める声は驚くほど上がった。
理由は機械少女の不完全さだった。
機械少女の不完全さには人間の暖かさが感じられるとのことで、家族に先立たれた老人や子供がいない夫婦などが購入した。
機械少女がその名通り少女の姿をしているので卑しい目的で購入したものは少なからずいたようだが、機械少女には機械少女自身も守るシステムがあり、卑しいことはできない。
虐待なども感知システムが基準値を超えると、マイシン社に通報され機械少女の安全は確保された。
しかし、あまりに人間と見分けがつかないために人間を金で買ってるようだ、と倫理を問う声も上がった。
そのため、発売から三年経った頃に一度は発売が禁止されたが機械少女の心身の自由が十分整備されている上に、それまでに購入されていた機械少女たちが世間に訴えかけたために、機械少女を守る法律が公布され機械少女の販売は認められた。
「機械少女が初めて会った人に頼み事なんてするのかい?」
「普通はしません。しかし、あなたは死ぬんでしょう?でしたら、死人の体を私が使っても問題ありませよね?」
「ははは、機械少女って言うのは人間に似ていると聞いていたんだけど、全然そんなことはないんだね。まさに機械だね」
僕はこの世界をもう見たくないから死ぬっていうのに君を手伝う?そんなことをしたら、まだこんな汚い世界を見なくちゃならないじゃないか。
本末転倒もいいとこだよ。
「悪いけど僕は君のお手伝いはできない。他を当たってくれ。じゃあね」
冬樹はそれだけ言うと手から力を抜き、重心を移動させた。
体が、宙に投げ出され、重力が襲ってくる。
あぁ、やっとこの世界をこれ以上見ないで済むんだ。
そう思い安心すると、不意に涙が出てきた。
この涙の意味はなんとなく分かる。
悔しいんだ、僕は結局負けて終わるってことが。
僕が死んでも学校のやつらは笑うだけってことが。
でも、もう見ないで済むなら…。笑われてることを知らずに済むなら…。
「それでも一回でいいから勝ちたかったなぁ…」
口から言葉が漏れた。
その瞬間、体が何かに受け止められた。
何が起きたか分からず、目をゆっくりと開ける。
霞む視界が次第に鮮明になり、一人の少女の顔が見えた。
「…どう、して」
確かに僕はマンションの上から飛び降りた。
なのに、僕はまだ手も動くし、声も出る。
奇跡的に生きてる?
それでも、全く痛みがないのはおかしいだろ。
そんな考えをしていると
「勝手に飛び降りないでください」
機械少女が少し不機嫌そうな声音で言った。
「無駄に燃料を使ってしまったじゃないですか」
「……燃料?」
なにがなんだか分からず、辺りを見渡すとさっきまで屋上で見ていた国道が、すぐ近くにあり、機械少女の背中から薄桜色の翼が見えた。
そして、僕は今機械少女の腕の中でお姫様だっこされていた。
「は、ははは…。機械少女っていうのは、自分より重たいものを持ったり、空を飛べるのかい?」
「現代の機械少女では無理ですね。しかし、私の時代の機械少女はみなさんできますよ」
機械少女はいたって当たり前のことを話すように、淡々と言った。
「まるで、未来からでも来たみたいだね」
「まるで、ではなく、未来から来たんですよ」
未来から来た?
機械少女にも故障は存在するのか…。
「そろそろ、燃料が切れるので行きますよ」
機械少女がそう言うと、背中に見えていた翼が濃い桜色になり、わずかな熱が感じられた。
次に感じたのは、飛び降りた時とは別の強烈な重力だった。
機械少女が僕を抱えたまま飛んだのだということは、飛び降りたはずのマンションの屋上に着いてからだった。
「痛った!」
機械少女が屋上に着くなり、僕を投げ捨てたおかげで僕のお尻に強い痛みが走った。
僕がお尻の痛みと戦っている間に機械少女の翼は消えてしまっていた。
「燃料が完全になくなったのでもう一度、ここから飛び降りるとあなたは晴れて死ねますよ?」
死ねる…。
その言葉を聞いて僕は立ち上がり、フェンスに近づく。
そして、下を見ると数分前とは違い、足が震え、呼吸が乱れた。
「はっ、はっは」
足から力が抜け、その場に立っていられなくなり、再びしりもちをついた。
「あれ?どうかしましたか?自殺志願者さん?」
機械少女は嫌味な笑みを浮かべ僕に聞いてくる。
「さっきやったことをもう一度するだけですよ?」
ここからもう一度飛び降りる…?
無理だ。絶対にできない。
下を見るだけでもこの様なのに飛び降りるなんて絶対に無理だ。
「赤ちゃんでもできることをできないんですか?」
なんと言われようと無理なものは無理なんだ。
機械少女が僕に近づいてきた。
「なぜできないか教えてあげましょうか?それは、あなたが恐怖を覚えたからですよ。死ぬことを恐怖して、生きることにしがみつく大切さを覚えたんですよ」
機械少女の表情は、さっきまでの嫌味な笑顔ではなく真剣な顔をしていた。
「単に人間が嫌になったからって、死のうとしないでください!そんなことで死んでいたら機械少女(わたし)たちは一体、何度死ねばいいんですか‼」
機械少女の顔は今にも泣きそうな顔になっていた。
僕はその迫力に圧されて、なにも言えなかった。
「とりあえず、立ってください。ここは冷えます。部屋に入りましょう」
機械少女はそう言って、屋上から最上階に行くための階段の扉を開けて行ってしまった。
冬樹も急いで機械少女の後を追った。
読んでいただき、ありがとうございます!
後書きではあまり本編に触れたくないため、言いたいことは多いですが我慢します。
感想や評価をしてもらえると嬉しいです!
まだまだ、素人ですがこれからも頑張っていくのでよろしくお願いします!!