System Mind──── 機械の少女は涙を流す 作:feel0330
三話「鬼ごっこ」
公園での騒動があった後、冬樹たちは自室に戻り、その日を終えた。
翌日、冬樹が目を覚ますと、シアルは何事もなかったように昨日と同じく朝食を作り、椅子に座っていた。
「おはようございます。起きるのは健康的な時間ですね」
そう言われ時計を見ると、針は七時を指していた。
「学校に行ってたから、この時間に起きちゃうんだろうね」
冬樹はシアルと会った日、自殺を決行した日の翌日から学校には行ってなかった。
「早起きはいいことです。ついでに運動でもすればどうですか?」
「運動は遠慮しておくよ。疲れるのは嫌だしね」
「そうですか」
冬樹は昔から運動ができなかったわけではない。
ただ、周りのペースに合わせるのが苦手だったため、サッカーや野球などのチームでプレイする運動は避けるようになった。
その結果、冬樹は同学年の子どもからは暗い奴と思われ、友達は少なかった。
卓球やテニスなどは人並みにはできたが、対戦相手が友達以外なら足が痛いなどと言って、あまり関わらないように自分から距離を取っていた。
「ところで、あのおじいさん達はどうなったの?」
冬樹は昨晩、そのことが気になってあまり寝むれなかった。
「あぁ、美咲さんが私を保護するためにマイシンに連絡していたので、すぐにマイシンが来て、美咲さんが修理室に運ばれましたね」
「それで、美咲さんは直ったの?」
「いいえ、無理ですね。心臓を止めたので直りません」
「それじゃ、やっぱり…」
「しかし、メモリーを新しい体に移したので、記憶はそのまま残ってこれからも今まで通りの生活ができるでしょう」
「そっか、よかった」
美咲さんとおじさんが、これまでの生活ができるならそれでいいのかな。
「他人の心配をするなんて、ずいぶんと余裕なんですね?」
「え?」
「昨日、あなたは私のやり方が間違っている、と言いました。そして、自分ならもっとうまくやれるとも」
うまくやれる、なんて言ってないと思うんだけど…。
「今日は見せてもらいますからね。私より上手なやり方」
「できるかは分からないけど、できる限りのことはするつもりだよ」
「そうですか。期待してますよ」
そう言うシアルの顔は一切期待の色がなかった。
「次は誰が目的なの?」
「森宮市って知ってますか?」
「うん。隣町だから何回か行ったこともあるけど?」
森宮市──日本で一番の高級住宅街として有名なところだ。
冬樹も両親が健在のころに、両親の友達の家に何度か言った記憶がある。
「そこに住む一家の機械少女が、今回のターゲットです」
「そうなんだ。でも、あそこはセキュリティーがすごいから入るだけでも厳しいと思うよ?」
「あなたは自分の立場を忘れていませんか?」
「あ」
そういえば、僕は父の遺言状のせいで地位を相続してたんだっけ…。
このマンションの管理は管理人さんを雇っているし、会社のほうは代理の人に任せっきりだったから忘れていたけど、一応社長なんだ…。
「確かに、僕なら簡単に入ることはできるだろうね」
「では、私は養子と言う設定でついて行きますね」
「わかった。それじゃ、ご飯が終わったら行こうか」
こうして冬樹は昨日と同じ朝食を食べ進めた。
朝食を食べ終え、準備(私服に着替えただけ)をして、シアルとエレベーターに乗って一階に行くと初老の男性にあった。
「おや、冬樹さん。お久しぶりです」
「あ、管理人さん…」
冬樹は両親が死んで、一週間後は部屋から出なくなったので実に三週間ぶりだった。
「すみません…。長い間挨拶もせずに…」
「いいんですよ。気にしないでください。あなたも大変だったでしょう…。心配していましたよ」
「しばらくは立ち直れませんでしたね…」
「なぁに、生きてさえいればいいんですよ。何か困ったことがあればいつでも言ってくださいね」
管理人は優しく笑い冬樹に言った。
「管理人さんがやめたい、って言うまでは管理人さんでいてもらうつもりですよ」
「あはは、たくましくなられましたな。お父様もきっとお喜びでしょう!」
管理人は手を頭の上に置き、声を下げて笑った。
「それで、今日はどちらに?」
「森宮市に行こうと思いまして」
「森宮?どうしてまた?」
「父さんの仕事を引き継ぐ前に
都築と言うのは冬樹の父が生前、学生の頃からの仲だと冬樹に話した人だ。
会社は違うがお互いに知恵や意見を出し合い、様々なサービスを父と展開していた。
冬樹もよく家族ぐるみで旅行に行く時などは遊んでもらった記憶があった。
「本当に立派になられましたな」
そう言うと管理人は管理人室に行き、紙袋をもって出てきた。
そして、管理人は冬樹に紙袋を渡した。
「手土産の一つもなしでは失礼でしょうから」
「何から何までありがとうございます」
「このくらい、お父様に受けた恩返しと思えば当然ですよ」
「それじゃ、行ってきます」
「はい。帰りを待ってますね」
そう言って冬樹とシアルはマンションから出た。
最寄り駅に着き、電車に乗るとシアルがニヤついた表情で冬樹の方を見る。
「よくあんな嘘がすらすら出ますね」
「別にまるっきり嘘ってわけじゃないよ」
「そうなんですか?」
「うん。ただ、生きることになったなら手放すには勿体無いって思ったんだよ」
「自殺しようとしてた人が、どうやったらそこまで前向きになれるんですかね…」
シアルは呆れたようにつぶやいた。
そんなたわいない会話をしていると目的の駅に到着したことを伝えるアナウンスが聞こえた。
次は森宮、森宮。半田へは後の快速が先に着きます。お出口は左です。
「もうすぐだね」
「そうですね」
電車が森宮駅のホームに着き、扉が開く。
冬樹たち以外は誰も電車から降りたり、乗車する客はいなかった。
「まぁ、ここに用事がある人なんて電車を使ったことなんかないでしょうしね」
「さすがにそれはないと思うけど…。あはは…」
ないとは言い切れないのは、森宮市に住む人に使ったことないよ、と言われても信じるくらいにお金持ちだからだ。
なんなら存在自体知らなくても不思議ではない。
「それでどこの家に行くの?」
「付いてきてください」
シアルはそう言うと改札を出て、冬樹の前を先導する形で歩いて行った。
途中、警備員に見える人に質問されたが冬樹の持つ会社の名刺を見せるとすぐに開放された。
シアルの後ろを付いて歩きだしてから十分くらいでシアルはある豪邸の前で立ち止まった。
「着きましたよ」
シアルが冬樹の方に振り向き伝える。
「ここが今回のターゲットがいる家です」
「ここって…」
冬樹は案内された家を見て、困惑した。
「都築さんの家じゃないか…」
「そうなんですか?全然知りませんでした。すごい偶然もあるんですね」
冬樹はまだ困惑していてシアルが少し笑っているのに気づかなかった。
「ちょうどいいじゃないですか。挨拶もできて、ターゲットの回収もできる。一石二鳥ですね」
「シアル、今回も前みたいに機械少女を壊すって言うなら、僕は帰らさてもらうよ」
冬樹はシアルの目を見て言った。
シアルの顔が露骨な苛立ちを見せる。
「あなたは私の道具ってことを忘れてませんか?やり方については任せてもいいですが、やるかやらないかを決めることはできません」
「それなら僕は、今ここで死ぬよ?」
「…どうしてそこまでするんですか?たかが機械少女を一人殺すだけですよ?」
「僕は確かに君に救われた。なら、君のために生きるべきなのかも知れない」
「わかってるなら─」
「でも、僕はそれよりも先に、人に迷惑をかけたくないんだ」
昨日、公園で老人が涙を流しているのを見て、冬樹は決心した。
「死人が生きてる人に迷惑をかけちゃ、悲しませちゃいけないんだよ」
シアルは冬樹の目を見てため息をついた。
「そうですか。わかりました」
「なら─」
「ですが、ターゲットは変えませんし、あなたに拒否権はありません」
「そんな…」
「しかし、機械少女を殺さない、と言うのはできます」
「!」
冬樹の顔が晴れる。
「よかった…」
「安心するのは終わってからにしてください。殺さないでリミットコードを抜き取るなら時間が多少かかるので、その分の時間稼ぎも任せましたよ」
「わかったよ」
「作戦はどうするんですか?」
「機械少女の居場所はわかっているの?」
「はい。家中を歩き回っているので、接触することはできます」
「なら、僕が都築さんと喋っているうちに抜け出して、都築さんの家族にも見られないように機械少女のリミットコードを抜き取って。そのあとは堂々と玄関から出よう」
冬樹は自慢げに作戦を説明すると、
「どうやって抜け出すかの説明はないんですか?」
「……考えてませんでした」
「まぁ、そこまで期待してないのでいいですよ。適当な理由を考えておきます」
「ありがとう。それじゃ行こうか」
「はい」
冬樹が都築と書かれた表札の横のインターホンを押すと、軽快な電子音が鳴った。
「はい。どちら様でしょうか?」
インターホンからは若い女の子の声が聞こえてきた。
「こんにちは。白風冬樹です。都築さんに挨拶に来ました」
「白風様ですね。確認いたしますのでお待ちください」
インターホンの接続が切れた音がした。
「都築さんだけじゃ、この家の誰か分からないんじゃないんですか?」
「大丈夫だよ。都築さんは独り暮らしだから」
「なるほど。さっきの声は機械少女でしたか」
「うん。たぶんそうだと思うよ」
シアルの疑問を解決し終わると、都築さんの家の扉が開いた。
中にはシアルと同じくらいの身長で、黒い洋服を着た黒髪の少女が立っていた。
「白風様、こちらへどうぞ。応接室まで案内いたします」
少女は一切声音や表情を変えずに冬樹たちを招いた。
それに従うように、冬樹たちは玄関の方へと歩き出した。
「あれが、ターゲットです」
シアルが冬樹にだけ聞こえる程度の声で、ターゲットを伝える。
「あの子が…」
「気を張ってください。あの子は今こっちを見て警戒しています。感づかれると失敗のリスクが増えます」
冬樹には、注意するシアルの顔には不安が見えるような気がした。
冬樹たちは機械少女に案内され、都築家の応接室の前に着いた。
「どうぞ。中でオーナーがお待ちです」
機械少女は、一歩下がり冬樹たちに入室するように促した。
冬樹が扉を三回ノックすると、中からどうぞと言う声が聞こえた。
冬樹が扉を開け、中を見るとそこには、しわ一つないスーツを着た男性がいた。
「お久しぶりです。都築さん」
「よく来たね、冬樹君。大きくなったな」
都築は短い挨拶をすると、右手で正面の椅子を座るように誘導した。
冬樹は都築の正面の椅子に座り、手に持った土産を都築に渡した。
「つまらないものですが」
「おお、丁寧に。ありがとう」
都築はシアルの方を見て、
「そちらの女の子は?」
「あ、この子は機械少女で今は家事なんかを手伝ってもらってるんです」
「そうか。冬樹君も機械少女を買ったんだね」
「もってことは都築さんも?」
「ははは、この年になって一人が寂しくなってね。話し相手のつもりで買ったんだよ」
都築は機械少女に手招きをし、機械少女が都築の横に立った。
「この子はムーって言うんだ」
「初めましてムーです」
ムーと言う機械少女は玄関で会った時と同様、声に抑揚をつけずに挨拶をした。
「すまないね。初めての人が居るとなぜか不愛想になるんだ」
「いえ、急に伺ったわけですし、機械少女にも人見知りの子はいるそうですから」
「そうなのかい?なら、よかった。本当に人間みたいだね」
都築はムーの方を見て感心したような声を出した。
「こっちはシアルって言います」
冬樹がシアルの説明をすると、シアルは息を吸い
「初めまして、シアルって言います!よろしくお願いします!」
昨日、老人の前でしていた声音で挨拶をした。
「そっちの子は元気だね」
「あはは…。外出でテンションが上がってるのかも知れないです」
「元気なのはいいことだよ。一人が笑顔だと周りも笑顔になるからね」
「そうなの!?じゃあ、シアルもっと笑顔でいるね!」
シアルは満面の笑みを作り幼さをさらにアピールした。
もう敬語も使ってないし…
「ははは。いい子だ。けど、これからおじさんと冬樹君は大事な話があるから、シアルちゃんは隣の部屋でムーと一緒に遊んできな」
「うん!」
シアルは大きな声で返事し、ムーと一緒に応接室を出ていった。
すると、都築の目が先ほどとは比べ物にならないほど温度が下がっていた。
「さて、白風君。ここに来たと言うことは務──前社長の仕事をする覚悟が決まったと言うことかな?」
シアルたちが出て行った後に都築が発した声は、冬樹を威圧した。
◇◇◇
応接室から追い出されたシアルとムーは隣の部屋にいた。
そこは応接室とはあまり変わらず、ただ中央に長机とそれを挟むようにして置かれているソファーがあるだけだ。
「ねぇねぇ、ムーちゃん。何して遊ぶ!?」
シアルが幼児のマネをして、ムーに話しかけた。
「ここって何がある?トランプある?シアル、しんけんすいじゃくちょー強いんだよ?」
「いつまで、そんな猿芝居をしているつもりですか?」
シアルの後ろにいたムーが敵意をむき出しの目で、シアルを見つめる。
「さるしばい?なんのことー?」
「その喋り方です。あなたがインターホンの前で、しっかり話している声は聞こえていました」
「ふーん、そうなんですか…」
シアルは観念したように幼児のマネをやめた。
「オーナーの友人の子どもなので今は様子見をしていますが、危害を加えるつもりなら今すぐ排除しますよ?」
「怖いこと言わないでくださいよ。私たちは同じ機械少女じゃないですか」
「同じ機械少女でも、オーナーに手を出すなら敵です」
「ふふふ、あなたに私を排除できますかね?」
その言葉を聞き、ムーが拳法の構えをした。
「やってみますか?」
「冗談ですよ。血の気の多い人ですね」
なおもムーは構えたまま
「あなたたちの目的はなんですか?」
「んー、そうですね、冬樹さんはただの挨拶ですよ」
「は、と言うことは、あなたには別の目的が?」
「揚げ足を取ろうとしないでください。私は付き添いなだけです」
「なら、何故あのような芝居を?」
「初めての人には、良い印象をもってほしいので」
「よくもそんな嘘を…」
「ひどいですね。嘘なんてついてないのに」
シアルはため息を吐いた。
「どうすれば信用してくれますか?」
「話し合いでは無理ですね。私の勘があなたを危険と言っているので」
「なんですかそれ…。理不尽すぎてそろそろ泣きますよ?」
「それも芝居なんでしょう?」
「わかりましたよ。あなたの信用を得るのは無理そうですね」
「そうでもありませんよ?」
「え?」
「簡単なゲームをしましょう。それであなたが勝てば私はあなたを信用します」
「ゲームですか?」
ムーはシアルに背を向けて
「はい。まずは屋上に行きましょう。そこでルール説明をします」
シアルとムーは屋上に向かって歩き出した。
こんにちはfeelです!
今回は一話にまとめると長すぎるので二話に分けます。
7月中に出すと言っといて8月に出して申し訳ないです...。
次の話もできるだけ早く投稿しますのでご期待ください!!
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