System Mind──── 機械の少女は涙を流す 作:feel0330
「ここに来たと言うことは社長になる覚悟ができた、そう思っていいんだね?」
「い、いえ…。それは……」
鋭い眼光と温情を一切感じさせない声が、冬樹の言葉を濁らせる。
「両親が亡くなって気が滅入るのも仕方ない。誰にでも整理する時間は必要だ。そう思って私は君の方から連絡が来ることを待った。そして、やっと来たと思ったら、事前の連絡もない。しかし、そんなことは会社を継いでから学べばいい。そう思って何も言わなかった。それなのに君は継ぐ覚悟もせずにここに来たのか?」
「………」
都築から発せられる言葉は次第に怒気を感じさせた。
「黙っていれば良いと思っているのか?そんなことが通じるのは小学生までだ」
「……すみません」
「私は謝れと言っているのではない。ここに何をしに来たのかを聞いているんだ。挨拶だけならもっと早くにできただろう?それこそメールを一通送るだけでも私はいいと思っていた。元気だと分かればそれで安心できた。」
「……」
もうすでに冬樹には都築の言葉の意味を理解する気力はなかった。
ただ、この時間が早く終わることを望んでいた。
「…はぁ。君には失望した。務の息子だからと期待し過ぎていたのかも知れないね。もういい。帰りなさい。君の顔はしばらく見たくない」
そう言い残し都築は部屋から退席した。
◇◇◇
応接室から階段を上り、
シアルは上ってきた階段を背にムーと対面していた。
「こんなところで何をするんですか?」
屋上はテニスコートより一回り小さいほどの広さがあり、フェンスで囲われているだけで、ほかには何もなかった。
「あなたがオーナーに害を及ぼすなら私はあなたを捕まえなければなりません」
「そうですね。まぁ、そんな気はありませんけど」
シアルは半眼になり、ムーを睨んだ。
「なら、話は簡単です。鬼ごっこをして、私があなたを捕まえられたなら、あなたは白風様の傍にいてください。勝手をされても捕まえられますので。しかし、あなたが三十分間
逃げ切れたなら、私はあなたを捕まえることはできない、ということになりますので、諦めてオーナーの傍で守ることにします」
「それって、ムーさんが都築さんの傍にいれば解決しません?」
もしシアルが都築を襲いそうになっても、ムーが都築の傍にいれば防げるだと思うんですが…。
「…もしもの場合に備えて、です」
ムーはシアルに背を向け、か細い声で言った。
もしかして、意外に天然なんでしょうか?
「とにかく、あなたが信用を得るためにはしなければいけないのです!」
ムーがシアルの方に向き直り、言う。
その顔は心なしか赤くなっているようにも見えた。
「わかりましたよ。鬼ごっこ、始めましょうか」
私としてはムーさんに触れればそれでいいですしね。
「ところで、私が鬼じゃダメですか?」
「ダメです」
はっきりした口調でムーはシアルの提案を拒絶した。
「残念です…」
さて、どうやって捕まりましょうか。いきなり捕まってもすぐに離されそうですし、最低でも六秒くらいは欲しいですね…。
「では、始めますよ?」
「いつでもどうぞー」
「スタートです!」
ムーが開始を告げた直後、シアルは振り向き階段を全力で降りて行った。
「屋上だけで逃げろなんて言ってなかったので、反則なんか言いませんよね?」
「もちろんですよ。屋上だけだと、私が圧勝してしまうので」
そう言ったムーをシアルは階段を曲がるときに見ると、ムーの口は笑っていた。
それはシアルが会って、初めて目にするしっかりと表情と言えるものだった。
あの笑顔は気になりますが、とりあえずは適当な部屋に隠れて時間を稼ぎますか。
シアルは屋上からの階段を降り、階段から右側にある一番遠い部屋に入った。
その部屋は応接室と同じように長机と左右にソファーがあるだけの部屋だった。
「部屋は廊下を挟んでそれぞれ四つ。全部の階層がそうなら二十四部屋…。いえ、一階は少し違いましたね。隣の部屋が開けられる音がしたら、窓から出て、二階の窓に移れば逃げ切れるでしょう」
シアルは耳を凝らし、音に集中した。
階段を降りてくる音…。歩いていますね。ずいぶんとなめられたものです。
「こっちはあなたの三十年先の技術の結晶ですよ?」
そう言いつつもシアルは音を聞くのに集中した。
コツ、コツ、コツ
だんだんと音が近づいてくる。
階段から一番近い部屋を無視してこっちに来ている…?
まぁ、危険ではありますが考えられないことも無いですね。運がいいようで。
シアルは窓を開け、身を乗り出し、真下の部屋の窓を足で押して入った。
「この部屋もさっきと同じような家具しか置いてないんですね」
シアルは部屋を一瞥したあとに、再びムーの足音を確認した。
「これは…一体どういう……」
ムーの足音はシアルが先ほどいた部屋には入らず、階段の方に向かって歩き出した。
「私の位置が分かっている?しかし、この部屋には監視カメラなんて…」
シアルが考えてる間も、ムーの足音は止まらず階段を降りてきた。
「どうやっているのかは分かりませんが、捕まらなければ勝ちです!」
シアルはムーの足音を聞くのをやめ、先ほどと同じように窓から出ようとした。
「窓が開かない!?」
入ってきたときは開いていたはずのドアが、開かない。
そして、シアルは更に混乱した。
「この窓…鍵がない…」
窓は木で出来た枠とガラスのみで作られており、鍵がなかった。
ここに籠城してもいいですが、こっちは自然に捕まることが目的、まだ捕まるのは早すぎますね。
ムーの足音がにシアルのいる部屋の前で止まった。
「この部屋にいるのはわかってますよ?先ほどのように窓から移動はできませんし、ドアも一つしかない。降参するなら、もう一度してあげてもいいですよ?」
扉越しに聞こえてくるムーの声は少し興奮しているように聞こえた。
「…反応なしですか。少し残念です」
ムーがドアノブを下し、部屋に入ってくる。
「え、どこに…?」
部屋に入ったムーはあるはずの姿がなく、声を上げた。
「こんな部屋に隠れる場所なんて…」
ムーはソファーの後ろを見ようと、部屋の中に進むと──
「やっぱり、監視カメラなんかじゃないんですね」
ムーは声に驚き、後ろを振り向いた。
「監視カメラがあるなら、私がドアの後ろにいるなんてわかるはずですもんね」
「まっ──」
「さようなら」
シアルはムーの発言を遮り、廊下に飛び出した。
「あと十分、そろそろですかね」
シアルは屋上を目指し階段を上がった。
「これでも、走らないとは…」
走るシアルの背に、ムーは歩きながらシアルを追っていた。
屋上に着くとシアルは扉の前でムーを待っていた。
「ずいぶんと、余裕なんですね?」
シアルが屋上に着いてから、ムーが来るまでにはそれなりの時間がかかった。
「そろそろ時間もないので、準備していました」
「そうですか。でも、これで私の勝ちです」
シアルは言うが早いか、屋上に張られているフェンスを登り始めた。
「な!?」
ムーは声を上げると同時にシアルの方へと走った。
「やっと、走りましたか」
シアルはそう言いながら、フェンスから後ろ向きに落下し始めた。
その瞬間、ムーがシアルの足を左手でつかんだ。
「あなたは死ぬ気ですか!?」
ムーがシアルに向かって激怒する。
「下の階層の窓は全て、ロックしました。それくらいわかっていますよね!?」
ムーはフェンスを掴む右手と、シアルを掴む左手が震えている。
「いくらあなたが高性能だと言っても、この高さから墜落すれば大破は免れませんよ!?」
「…すみません」
「そこでじっとしていてください」
ムーは震える腕に力を籠め、シアルの体をフェンスが届くまで上げる。
「そこからは自分で上がってください」
シアルは体を起こしフェンスを掴んだ。
そして二人は、フェンスを上がり屋上に立った。
「ありがとうございます…」
「勘違いしないでください。あなたが壊れると、お客様が悲しむからやっただけです」
ムーはわずかに、顔を赤らめていた。
「あの…、よかったら友達になりませんか?」
「え?」
シアルから予想だにしないことを言われ、ムーは三度目の驚きの声を上げる。
「あなたとは仲良くなれそうな気がして」
今度はシアルがわずかに赤らめて言った。
「ダメ、ですか?」
「い、いえ。突然だったので…。えっと、よろしくお願いします」
ムーはシアルに向かって、右手を出した。
「はい!」
シアルは両手でムーの手を取った。
「今日からよろしくお願いします!」
シアルは満面の笑みで、手を上下に振った。
「あの、いつまで握ってるのです?」
「あ、嬉しくて...」
シアルは十秒ほど握手したうえで、手を離した。
「それじゃ、お互いに敬語はやめよ?」
「はい!」
シアルは返事とは裏腹に、ひどく自己嫌悪に似た感情を抱いていた。
ムーが友達を欲していたこと。ただ、遊びたかったこと。それを全て理解し、こうなることを読んで行動したことに。
これも、主様とあの子たちを助けるため…。
そう自分に言い聞かせ、感情を飲み込んだ。
「それじゃ、そろそろ戻ろっか?」
ムーがそう言って、二人は階段を下り、応接室に向かった。
◇◇◇
冬樹が応接室で落ち込んでいると、ドアが開き二つの人影が入ってきた。
「ずいぶんと落ち込んでいますね?」
冬樹を見たシアルが的確に言う。
「はは、何も言えないよ」
「そうですか」
シアルは冬樹にそれ以上何も言わなかった。
それは、冬樹の心を気遣ってか、それとも──
「白風様、オーナーがお見送りしろと」
ムーが冬樹に帰宅を促す。
「わかりました…。すぐ行きます」
冬樹はソファーから立ち上がり、応接室を出て、都築宅の玄関に立った。
「…本日はお邪魔しました…」
「いえ、ご苦労様でした。それでは」
冬樹はムーの言葉など聞こえていないかのように、おぼつかない足取りで敷地から出て行った。
シアルとムーが親しげに別れの挨拶をしているのも知らずに。
こんにちはfeelです!
まずは、予想以上に更新が遅れて申し訳ありませんでした!!
何かと時期がずれ、落ち着いた時間が取れなくてここまで延びてしまいました...。
しかし、執筆に飽きたとかネタがなくなったとかではないので、これからもマイペースに活動していきますので、よろしくお願いします!!