時は流れ雄英高校生活二日目。
制服を身につけ電車に揺られながら通学をする諸葉。その前には吊り革を掴みともに通学をする響香の姿もある。
「はぁ、今日から本番かぁ……一体どんなことするんだろ『ヒーロー基礎学』」
表情をややげんなりとさせながら呟く響香。
初日はガイダンスということもあり昼頃には終了。『個性把握テスト』以外は特にヒーロー科らしいことはしていないので、ある意味真のスタートと言える日である。
時間割では午前中が必修科目、そして午後からが響香の口にした『ヒーロー基礎学』が行われる。雄英は単位制の高校で、ヒーロー科はこの『ヒーロー基礎学』が最も単位数の多い科目である。
雄英高校ヒーロー科に入ったものはこの『ヒーロー基礎学』を学ぶために来ている、そう言ってもいいほど最も重要な科目なのだ。
「初日からあんなだったし、また除籍とかあんのかな……」
「さすがに、ないと思うよ」
昨日の出来事がよほど効いていたらしい。ここから毎日あの恐怖の除籍試験の連続なのかと、響香は心配から表情を曇らせる。
さすがにあそこまで露骨なことはしないとは思うが、しかし雄英高校の教育方針は『絶え間なく壁を用意する』というもの。その壁を乗り越えられない、立ち止まってしまうものは結局は折れてしまう。
故にPlus Ultra──壁を乗り越えさらに向こうへ行かんとする、鋼の精神が必要となるのだ。
「それにオールマイトに教えてもらえる。楽しんでいこう」
さらに今年からはNo. 1ヒーローであるオールマイトが教鞭を振るうのだ。数々の伝説を残してきた彼直々に教えてもらえるなど、ヒーローを目指すものにとっては光栄の極み。否が応でもやる気が出てくるというものである。
現にその話を思い出した響香は先ほどまでの曇り顏から一変、不適と取れる笑みを浮かべている。
「でもやっぱり、最初だし軽めがいいなぁ」
「多分……それないと思う」
先述した通り、雄英高校のカリキュラムは午前が必修科目、つまりは普通の高校となんら変わりない授業をする。ヒーロー科といえど勉学を疎かにすることはできないのだ。
しかもここは国立、しかも偏差値は79の高校だ。並大抵のレベルの授業が行われるはずもないわけで
「んじゃ、次の例文の内間違っているものは?」
そう言い、教科書を片手に生徒たちに問いかけるのは英語担当のプレゼント・マイク。
諸葉は教科書に目を落とし質問された例題を解く。確かに内容は難しいがまだ対応できる範囲で、1分とかからぬ内に答えを導き出す。そして空いた時間に教室の面々に目を向けると、ほぼ大半が余裕綽々の表情を浮かべている。さすがに合格しただけあり、皆それなりに勉強はできるようだ。
ただ一人二人ほど、怪しいと思われる生徒もいる。それは暗いピンク色の肌をし二本の角を生やした女子生徒と、金色の髪に黒のメッシュの入った男子生徒。ギリギリ横顔が見える程度だが険しい表情を浮かべているように見える。
この2名以外はさほど問題なく例題を解いているのだろうが、誰も答えようとはせず教室は静まりかえっている状態だ。
そんな生徒たちに痺れを切らせたのか、サングラスの奥に隠れたプレゼント・マイクの瞳が一瞬光り
「おらエヴィバディヘンズアップ盛り上がれ‼︎」
そう叫ぶとともに拳を天井へ向けて振り上げる。どうやら彼には静かな授業というものが我慢ならないらしい。
しかしそんな彼の叫びは教室へと虚しく響くだけだった。
昼休み。教室の面々もぞろぞろと食堂へと向かい、使用者のいなくなった机や椅子やらが取り残される。
そしてここの食堂はクックヒーロー『ランチラッシュ』というヒーローが作っており、一流の食事が安価で食べることができるのだ。舌にも家計にも優しい!
本来は弁当を持参する諸葉だが、ランチラッシュの作る料理の味には興味がるので今日は食堂へと足を運ぶつもりだ。
早速、皆に続いて食堂へ向かおうと席を立ったその時、諸葉の横に近づく二つの人影が。
「よぉ、お前も食堂行くのか? だったら俺らと食いに行こうぜ!」
現れたのは先ほど授業で険しい表情を浮かべていた金髪の少年、そしてツンツンとした赤い髪が特徴な少年の二人。
全くの初対面で会話もこれが初めての二人。というか名前もまだそこまで覚えていないため、諸葉が返答に困っていると
「おぉわりーわりー、俺
「んで俺は
諸葉の空気を察したのか、赤髪の少年──切島が自己紹介をする。それに続き金髪の少年──上鳴も名前を名乗る。
「俺は癒代諸葉、よろしく」
「おうっ、よろしくな癒代!」
笑顔を浮かべ右手を差し出してくる切島。諸葉は差し出されたその手を握り返し、隣の上鳴とも握手を終える。
「で、どうよ? 俺たちと昼飯食いにいかねーか?」
「うん、いいよ」
「おっしゃ、じゃあさっそく行こうぜ。ランチラッシュが作る飯だ、絶対混むぜ」
そう言い教室の出口へ向けて歩き出す切島。その後に諸葉と上鳴も続き、三人は食堂へと向かって足を進めた。
切島の言う通り食堂は大変混んでおり、なんとか行列を乗り越えて席に着く三人。
「いやー並んだ並んだ。昼飯にありつくのにも一苦労だぜこりゃ」
お盆に乗せたカツカレーをテーブルに置きながら、先ほどまで並んでいた人の列に苦笑いを浮かべる上鳴。その隣には大盛りの牛丼を注文した切島が腰をかけ、その正面に諸葉が座る。ちなみに諸葉は唐揚げ定食だ。
合掌しさっそく目の前の料理へと箸を伸ばす三人。クックヒーローというだけあり、料理の味はさすがの一言。三人とも食事のペースは上がり、切島に至っては丼ごと食うのではないかという勢いで食事を腹に収める。
「そういや癒代ってさ、耳郎とよく一緒にいるけど同中?」
カレーを半分ほど平らげた上鳴が、不意に諸葉へ質問を投げかける。
「うん。それに、幼稚園も小学校も一緒」
「つまり幼馴染ってやつか。俺も同じ中学の奴がいるけど、仲がいいってほどじゃねぇし……知り合いがいるっていいな」
「顔知ってる奴がいるだけども十分だって。俺なんて全員知らねー奴だぜ?」
どうやら切島はあのピンク肌の女子生徒と同じ中学出身らしい。対し上鳴は同校出身はなし。とはいえ県外からの入学者がいる雄英ではそれは普通のことで、むしろ知り合いがいる二人の方が珍しい部類である。
「にしても雄英の女子ってレベル高くね? 全体的にこう、プロポーションがいいっていうかさ」
「健康的なのはいいこと。ちゃんとした食生活を送ってる証」
「いやそーいうことじゃなくてさ。なんつーかこう、テンション上がらね?」
「テンション……?」
嬉々とした表情で語る上鳴。確かに彼らのクラスの女子は高校生にしては発育の良い体つきをしている。思春期の少年にとって同じクラスメートがそういった女子であれば、そうした嬉しいという気持ちになるのも仕方ないことだろう。
しかし諸葉は特にピンときていないのか、首をかしげ上鳴を見つめ返す。
「お前それでも男かよ癒代ぉ……」
「ん……生物学上は男、間違いない」
「いやそうじゃなくて……うん、まぁそれでいいや」
話の噛み合い具合の悪さに諦め、深いため息をつく上鳴。すると牛丼を平らげ、空になった丼を置いた切島が話題を出す。
「次の『ヒーロー基礎学』だけどよ、何すると思う?」
「んーまだ初回だしなぁ……またガイダンス的な何かじゃね?」
初回ということもあり無難な答えを返す上鳴。
「多分違う」
「へー、じゃあ癒代はあむっ……んぐっ……どう思う?」
異を唱える諸葉に、上鳴は残ったカレーを口に頬張り尋ねる。
「初日からあれだから。多分初回だからって軽めはない……と思う」
「確かに入学式からあれって考えたら、初回だからって優しい授業だとは思えねえな」
ヒーロー科の最高峰。たとえ初回といえど生半可な授業はしないはず。昨日の『個性把握テスト』を思い返し、うんうんと頷く切島。
「どのみち次でわかる。楽に構えてればいい」
「だな。まぁ俺としては対人訓練がいいけど」
「俺も。頭使うのはもう勘弁だわ」
そうして談笑を交えながらの昼食は終わりを告げ、ついに午後の授業がやってくる。
教室にて、次の授業の教師を待つクラスの面々。
「わーたーしーがー‼︎」
すると教室の外、廊下から聞きなれた声が聞こえ
「普通にドアから来た‼︎」
バンッ、という音とともに豪快に開かれる入り口の扉。そしてそこから現れたのはコスチュームを身につけ、「 HAHAHA!!」と笑いながら入室するオールマイト。
『平和の象徴』と謳われるトップヒーローの登場に教室内はざわめき歓喜の声に包まれる。
「元気がいいな少年少女! しかしヒーローの卵たるもの、それくらい活気がなくちゃあな!」
ニィッ、と白い歯をのぞかせ受け持つ生徒たちを見下ろすオールマイト。
「では早速、今回のヒーロー基礎学の内容を発表しよう! それは──『戦闘訓練』だ!」
そう言い生徒らに突き出したプレートには『BATTLE』の文字が。切島や上鳴は戦闘訓練と聞き口の端を釣り上げ笑みを浮かべる。周りの面々も突き出されたプレートを眺め、各々がやる気をにじませる。
そんな生徒たちの雰囲気を感じ取ったオールマイトはさらに「HAHAHA」と笑い
「いいねいいね、やる気満々ってやつか! じゃあその熱が冷めないうちに、さっさと『こいつ』に着替えようか!」
左前の壁が突き出し、1〜21の番号が刻まれたケースが姿を表す。それらは諸葉たち生徒がかつて入学前に学校へ要望を送った『
「君たちが入学前に出した『個性届』と『要望』に沿ってあつらえたものだ! これ持って着替えたら順次、グラウンドβに集合だ!」
『『『はーい!』』』
気分が高揚しているのか、まるで子供のような返事を返す生徒たち。もしも相澤だったならば絶対零度の一言をお見舞いされることだろう。
しかしそこは新米教師のオールマイト。「元気がいいな」と再度笑う。教師としてNo. 1ヒーローの威厳というものを見せて欲しいが、持ち前の人柄の良さが裏目に出てしまっている。
「格好から入るってことも大切なことだぜ少年少女‼︎」
だが締めくくりの一言。表情は笑顔でもはっきりと伝わる風格に、一同は口を閉じ静かに耳をかたむける。
そんな生徒たちにビシッ、と指を突きつけ
「自覚するのだ! 今日から自分は──『ヒーロー』なんだと‼︎」
もう1話続きます。