諸刃の癒し   作:vegatair

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時間は雄英入試まで飛びます。
その間書いていたら長引きそうだったので。



2.入試

 時は流れ雄英高校入試当日。

 なにやらメタリックな壁に囲まれた雄英高校唯一の入り口。『雄英高等学校 入学試験会場』という板が立てかけられた校門の前に二人の姿はあった。

 

「とうとう入試か……なんだかあっという間だったね」

 

 自分たちと同じく、この高校への入学を果たすべくやってきた他校の生徒たち。そんな人の波を眺めながら呟く響香の隣では、鞄の他に細長い布に包まれた棒のようなものを背負った諸葉が、同じくライバルになるであろう生徒たちへと視線を注いでいた。

 

「はぁ……やばい、すっごく緊張してきた」

 

 胸を押さえ顔を引きつらせる響香。普段はサバサバとした性格をしているが、以外と繊細な部分も持ち合わせているのだ。

 

「全力でやりきるだけ。そうすればいい結果が出せるよ」

 

 音楽の道へ進むことをやめ、ヒーローを目指した響香。後から彼女の親父さんから聞いたことだが、話をする時響香は泣いていたのだという。やはり親の前では申し訳ない、という気持ちが溢れてしまったのだろう。

 

「今日は楽しもう、響香」

「ははっ、あんたのそういうとこが羨ましいよ」

 

 諸葉の平常運転ぶりに思わず笑ってしまう響香。確かに楽しんだもの勝ちだが、皆が本気でやっているというのにそんな考えでいていいものか、という考えが頭をよぎる。

 

「緊張してたら、視野が狭まるし思考も単調になる。だったらいつも通り、自然体でいた方がいい」

「そうだけどさぁ……嫌でも緊張しちゃうって」

「でも、ヒーローになったら緊張してる暇はない。その間に、救える命も救えなくなる」

「……そだね。ヒーロー目指すんなら、こんな所で躓いている場合じゃないもんね」

 

 ぱん、と頬を叩き気合いを入れ直す響香。そんな響香に諸葉は安心したように口元を綻ばせ、そして二人は雄英校の校門へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 筆記試験が終わり、講堂へと案内される受験者たち。その列の中に諸葉と響香の姿もあった。

 

「どうだった、筆記試験?」

「うん。見直しもできたし、合格基準は超えてるはず」

「ウチも。まぁこっちはそこまで心配してなかったけど……問題は次だね」

 

 雄英入試の実技試験。仮想敵でロボットが出てくるということだけは知っているが、いったいどういった内容なのか。

 いずれにせよ、この先で説明を受けるのだからあれこれ考えていても仕方がない。

 

「てか諸葉……あんたが持ってるそれなに?」

「ん……持ち込み自由って言ってたから。流石に素手じゃ、ロボット相手にやりづらいし」

 

 諸葉の背負う布を指差す響香。諸葉は布の紐を解くと、少しだけその中身を見せる。

 布の中、響香の視界が捉えていたのは銀色に光る刃の切っ先。

 

「それって薙刀?」

「うん……ちょっと、俺専用に調整してるけど」

「ふーん……まぁあんたの個性だったら、それくらいないとしょうがないよね」

 

 諸葉の個性である『代傷』。治癒の個性ではあるが、戦闘では全くと言っていいほどに出番がない。今回の試験では、彼は『無個性』であるのとほぼ同義なのだ。

 ただ諸葉自身もそれを自覚している。だからこそ、個性がなくとも戦えるために特訓をしてきたのだ。

 戦闘に不向きだからと、悲観することなく、目を背けることなく、そんな中でできる最善をこれまで尽くしてきた。戦う個性がなくても戦えるように。

 

「試験は持ち込み自由って書いてたから、だったら遠慮なく持ち込ませてもらう」

 

 無論、持ち込み不可だったとしても戦うすべはある。だが素手だとどうしてももたつく場面が出てくるので、雄英の持込み可は諸葉にとって非常にありがたいものだった。

 

 そしてたどり着く実技の説明を受ける講堂。中には段々畑のように並べられた机と椅子がこれでもかと設けられ、それぞれ受験生が割り振られた受験番号順に席へと座る。

 すると全員が座ったタイミングを見計らい、照明がシャットダウン。突然のことに戸惑う受験生たちだが、すぐに照明は明るさを取り戻し

 

『今日は俺のライヴにようこそー‼︎‼︎ エヴィバディセイヘイ‼︎‼︎』

 

 いつの間にステージの上に立っていたのか、生徒たちへそうコールをするやや奇抜な格好をした男性が一人。彼はプロヒーロー『プレゼント・マイク』。ボイスヒーローとしてラジオ番組を持つ、雄英の教師の一人だ。

 突如現れたプレゼント・マイクと、受験の雰囲気に似合わない彼のノリ。受験者たちは言葉を返すこともできず、講堂内は寝静まったかのような静けさに包まれる。

 

『こいつはシヴィー‼︎ 受験生のリスナー! んじゃ実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ‼︎ アーユーレディ⁉︎』

 

 YEAHHH‼︎──自身でコールアンドレスポンスをするプレゼント・マイク。さすがはプロヒーロー、その心臓のタフさは並大抵のものではない。

 

「言っちゃなんだけどさ、人選ミスってない?」

「……きっと緊張をほぐそうとしてくれてるだけ」

「いや、そう思いたい気持ちはわかるけどさ……あれたぶん素だって」

 

 受験特有の緊張感をぶち壊していくプレゼント・マイクの説明へ、響香は乾いた笑みを浮かべながら耳を傾ける。

 実技試験は10分間の『模擬市街地演習』。内容は会場に配置された三種の仮想敵、ポイントの振り分けられたそれらを行動不能にすることでポイントを稼ぐと言うもの。

 やはり戦闘に特化した個性が有利な試験内容となっている。この場に諸葉と同じ、サポートやその他のタイプの個性を持つものが何人いるかはわからないが、総じて肩を落としたことだろう。

 

「でも三種って……プリントにはあと一つ仮想敵が居るけど」

 

 響香の言う通り、プリントには三種の他にもう一つの仮想敵が書かれていた。そしてそんな彼女の気持ちを代弁するかのように、少し前の席に座る謹厳なメガネの少年が手を挙げ質問をする。

 どうやら四種目は『お邪魔ギミック』──プレゼント・マイク曰くマリオの『ドッスン』のようなものらしい──で倒してもポイントは入らないらしい。

 

「お邪魔ギミックか……無視するのが定石かな」

「……それは時と場合による」

 

 確かにゼロポイントならば戦闘するメリットはない。響香の考えは受験を合格する上では最も効率的なものだ。現に、他の受験生たちも響香と同じ考えを持っている。

 ただ諸葉は眉間にしわを寄せ、プリントの四種目の仮想敵へ視線を落とす。表情を険しくする諸葉を不思議そうに見つめる響香だが

 

『俺からは以上だ‼︎ 最後にリスナーへ我が校”校訓”をプレゼントしよう』

 

 プレゼント・マイクの言葉に顔をステージへと向ける。

 

『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った‼︎ 「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と‼︎』

 

 そう言葉を並べるプレゼント・マイク。おちゃらけた様子のままだが、しかしどこか先ほどまでと雰囲気が変わったように感じる。

 その一言一言に伸し掛かる重み、これがプロのヒーローの言葉なのだと無意識化で実感する受験者一同。

 

『”Plus(更に) Ultra(向こうへ)”‼︎──それでは皆 良い受難を‼︎』

 

 自らが目標とするヒーロー、その一つの『形』。そんな彼から授けられた言葉に、受験者たちの心はより一層昂ぶるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 プレゼント・マイクの実技試験のプレゼンが終了し、受験者たちはそれぞれの会場へと移動。ただし会場まではバスでの移動で、雄英の敷地がどれだけの規模かを実感させられる。

 会場へ着いた諸葉は周りの受験者たちを見つつ準備運動をし、これから起こることを冷静に分析する。

 

(響香とは違う会場……同じ学校でペアを組ませない作戦)

 

 ここから先、周りの人々は全て敵となる。獲物(ポイント)の取り合い、戦闘向きではない個性でどう立ち回るか。

 

「君はなんだ? 妨害目的で受験でもしているのか?」

「……ん? あれ、プレゼンの時のメガネ……」

 

 突如誰かを叱るような声が聞こえ不意に目を向けると、そこにはぴっちりとした服に身を包んだあの謹厳そうな彼の姿が。どうやら同じ受験会場だったらしい彼は、ジャージ姿のいかにも気弱そうな少年へ注意を行っていた。

 叱られ萎縮する彼を見て、諸葉は疑問を抱く。雄英の試験を受けるということは己の実力に自身があるか、或いは駄目元で受けてみるかの二つ。あの少年は明らかに後者なのだろうが、それにしても気が小さすぎる。それにあれだけ気が小かったら、仮想敵相手に戦えるとも思えない。

 

 謎の受験者に思考を割いていると

 

『ハイスタートー‼︎』

 

 どこからともなくプレゼント・マイクの声が響き渡る。呆気にとられる受験生たちは声が聞こえてきた方向、長高の建物へと目を向ける。

 すると再び、プレゼント・マイクはその巨大な声で

 

『どうしたぁ⁉︎ 実戦じゃカウントダウンなんざねぇんだよ‼︎ 走れ走れ‼︎ 賽は投げられてんぞ⁉︎』

 

 なんともまぁ唐突なスタート宣言だが、確かに言っていることは一理ある。実戦で相手がいちいち合図をしてくれるはずもない。

 プレゼント・マイクの合図をきっかけに、試験開始を悟った受験者たちは一斉に入り口へ向かって走り出した。

 

 試験終了まであと『9分50秒』──

 

 

 

 

 

 諸葉が試験会場へ入ると、そこはすでに戦国時代も真っ青の乱戦状態。受験者たちが蹴散らしたであろう仮想敵の残骸がそこかしこと転がり、いたるところで破壊音が鳴り響く。

 

「……とりあえず、適当に走ろう」

 

 入り口付近の仮想敵はほとんど倒されていると思った方がいいだろう。諸葉は布の中から薙刀を取り出すと、街の中央へと向かって全速力で駆け出した。

 

『標的補足‼︎』

『ブッ殺‼︎ マジブッ殺!』

『ヒャッハー‼︎』

 

 向かってくる1Pと2Pの仮想敵。諸葉は迫り来るロボットにも慌てず手にした薙刀を構え迎撃の準備を整える。

 

『死ニサラセ‼︎』

『ヒャッハッハー‼︎』

 

 まずは1Pの仮想敵が二機。ロボとにしてはやや素早い動きで諸葉へ接近し、アームを振り上げ攻撃を行う。

 

「動きは早いけど攻撃は大振り……隙だらけ」

 

 見切れないほど早くもない攻撃を冷静に躱し、すれ違いざまに薙刀で振り下ろした腕へ一閃。強度はそこまで高くはないのかその一撃で腕は断ち切られ、続けざまに振るったもう一撃で頭部を吹き飛ばす。これで1P。

 そして行動不能となった仮想敵を足場に跳躍。すると先ほどまでいた場所にもう一機の1P敵の腕が振り下ろされる。そんな仮想敵へ降下の勢いを利用した一撃をお見舞い。薙刀が体深くへ突き刺さったことのより、仮想敵は機能を停止。これで2P。

 

「次は2P」

 

 今度は四本足にサソリのような尾を持った2P敵。ポイントが高いだけあり、先ほどよりは手強いだろうが──諸葉には関係ない。

 仮想敵へと急接近する諸葉は、尾による攻撃を全て避け懐へ潜り込む。そのまま四本の足全てを薙刀で斬り払えば相手は行動不能へ。この時点で4P。

 

「思ったよりも壊しやすい」

 

 雄英の入試、どれほどのものが出てくるかと思えば、蓋を開ければ大した敵ではない。この程度ならば十分に相手どれると、諸葉は薙刀を持つ手に力を込め更に奥へと向かって走り出す。

 

 残り時間8分27秒──

 

 





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