諸刃の癒し   作:vegatair

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今回で入試は終わりです。
一、二話ほど間を置いて雄英編に入ろうかなと思っています。



3.ヒーローを目指す者

 試験が始まっておよそ五分が経過した。受験者の中には消耗し息切れを起こすものたちが続々と現れ始めていた。

 特に攻撃型の個性を持たないものたちの疲労は激しく、中には諦めリタイアする者もちらほらと出始める。それでも諦めずに戦う者もいるが、体力を消耗し動きが鈍くなったところを狙われ、ロボットから攻撃を受け負傷してしまう。

 

「くっそが……こんな時に足やられるなんてよ!」

 

 仮想敵にやられたのか、足から血を流し顔を顰める受験者。それでも必死に動こうとするが、痛みで満足に立つこともできずにいる。

 そんな受験者へ近づくのは、すでに20Pを獲得した諸葉だった。自分の方へ向かってくる諸葉に受験者は怪訝そうな視線を向ける。

 

「怪我、したの?」

「見りゃわかるだろ。お前何しに来たんだよ、茶化しに来たんならどっかいけ!」

「……ちょっと見せて」

「は? 見せろって──イダダダダ⁉︎ おまっ、動かすな痛えんだよ!」

 

 諸葉が傷口を確認するために足を動かすと、激痛により涙目になった受験者が抗議の声を上げる。

 

「大丈夫、少し我慢して」

「大丈夫って、なに、が……?」

 

 無視して足へと手を触れる諸葉へ怒鳴りつけようとするが、不意に視界の下から溢れ出す白い光に一時中断。光へと視線を落とすと、目の前の少年がかざした右手から光が出ているではないか。

 十秒とかからず光が収まると、受験者の足の怪我は綺麗さっぱり消えていた。歩くのに支障があった怪我がほぼ一瞬で治癒したことに、受験者は驚き言葉をなくす。

 

「これで動けるはず。でも、無茶はしたらダメ」

「お、おい! お前、何で俺を……俺たちは敵同士だぞ⁉︎」

 

 雄英への入学という狭き門。それを潜り抜けるためには他者を蹴落とさなければならない。自分だって放っておけば勝手にリタイアするであろうに、何を思って傷を癒したのか。

 メリットなど一切なく、むしろライバルを戦線復帰させるという自分の首をしめる行為。それをわかっていながら、目の前の男は何一つ躊躇うことなく治癒を行った。

 

 諸葉の理解できない行動に受験者は声を大にして問い詰める。だが怪我を治し、この場にいる理由がなくなった諸葉は黙って受験者へと背を向け

 

「敵だとか味方だとか関係ない。困っている人がいたら助けるのは、ヒーローとして当たり前」

 

 そう告げると、受験者の前から走り去る。

 メリットだとかそういうものは一切関係ない。傷つき倒れているのならば、それは諸葉にとっては救うべきものだから。敵だとかライバルだとか、そんなもの二の次三の次なのだ。

 

「……今の怪我は、少しきいた」

 

 治癒した受験者のことを思い返しながら顔を顰める諸葉。個性により治癒した分の怪我をその身に引き受けたからだ。

 ただ諸葉の個性である『代慯(だいしょう)』は治癒した怪我をそのまま引き受けるのではなく、それらを『痛み』や『ダメージ』へと変換して受け取る。ゆえに外的変化はないが、それはあくまでも許容できる範囲まで。限界を超えて使用すればどうなるかは諸葉本人も知らない。

 

 現在諸葉の体には痛みと肉体への負荷の両方が襲いかかっている状態だ。まだ許容できる上限まで余裕はあるが、重ね続ければ無視できないほどにまで至るだろう。

 

「うぅ……いったぁ……」

「……」

 

 ただそんなデメリットが諸葉を止めるのかというならば、それは否だ。現に再び見つけた倒れる受験者の少女へ、諸葉は躊躇することなく駆け寄り治癒を施している。

 

「あ、ありがとう……」

「どうも」

 

 治癒を終えた諸葉のダメージ量はだいたい許容上限の三割ほど。それは体に走る痛みは無視するには少しばかり強くなってきた頃でもある。

 まだ動きに支障は出ないが、それでも痛いものは痛い。我慢できるけれど痛い。

 

『目標……撃チ殺ス‼︎』

 

 そんな諸葉の前に姿を現したのはミサイルを携えた3Pの仮想敵。先のものよりも装甲も頑強で攻撃も重い。1・2Pの仮想敵に比べて行動不能にするのに時間がかかってしまうだろう。

 

『残り時間2分15秒‼︎』

「2分……そろそろ、使える頃かな」

 

 プレゼント・マイクによる残り時間の通告を聞き、諸葉は薙刀を握る手に力を込める。深く息を吸い、そして吐く。

 すると諸葉の体を白い光がオーラとなって包み込み、束ねた黒髪がふわりと浮かぶ。明らかに先ほどまでと雰囲気が変わった諸葉だが、ロボットに警戒という心はなく

 

『クタバレヤ人間‼︎』

 

 諸葉へ向け砲口から数発のミサイルを発射する仮想敵。追尾機能はなくとも、数分違わぬ狙いで放たれたそれらは諸葉目掛けて一直線に飛んでいく。

 迫るミサイルに謎の白い光をまとった諸葉は

 

「──ふっ!」

 

 一息。それと同時に薙刀を振るうが、その速さとキレは試験開始時と比べて格段に増し、直撃するミサイルを全て切り落とす。

 後方で起こる爆発。爆風に揺られることなく、諸葉は両脚に力を込め地を駆ける。これもまた、今までとは比べ物にならないほどに速く、瞬きの間に仮想敵との距離を詰める諸葉。

 

「はぁああっ‼︎」

 

 気合のこもった一声。振り上げられた薙刀はアームを容易く斬り裂き、追撃で振り下ろした一閃が頑丈な装甲に包まれた胴体を両断する。

 まさに一蹴。一方的に仮想敵を行動不能にした諸葉は、散らばった残骸を一瞥し会場を駆ける。

 

 諸葉の急激な身体能力の上昇。それは彼の個性『代慯』に隠されたもう一つの能力によるものである。

『痛みを知って力と為す』……傷つくほど、ダメージを負うほどに身体能力などを増大させる能力だ。

 

 傷を力へと代える──まさに『代慯』

 

「……久しぶりに使ったけど、やっぱり体が慣れてない」

 

 上昇した身体能力を持て余しているらしく、走りながら先ほどのイメージとのズレを調整する。

 傷つく、またはダメージを負うという性質上、普段はこの能力を使うことはほとんどなく、口にした通り慣れていないのだ。

 

「やっぱりまだ調整が……ん?」

 

 不意に、地震のような地面を揺らす振動に諸葉は足を止める。揺れは徐々に徐々に大きくなり、周りの受験者たちも何事かと周囲を見回しその正体を探す。

 そんな中、諸葉はこの揺れの正体にいち早く気づく。いや、考えれば誰でもわかることだ。プレゼント・マイクのプレゼン時、配布されたプリントの『四種目の仮想敵』。お邪魔ギミックとして現れるロボット。

 今まで遭遇したのは全て1~3Pの仮想敵だった。そして試験終盤の今、新たに現れるとしたら、それは──

 

 ズゥウウン!──今までで一層大きい地鳴り。直後、諸葉の視線の先に建っていたビルが崩壊。そこから巨大な、今までとは比べ物にならない大きさの仮想敵が姿を現す。

 

「おい……おいおいおいおい! なんだよあれ⁉︎」

「決まってんだろ! 0Pの仮想敵だよ!」

「早く逃げろ! あんなもん、戦うだけ無駄だ! ポイントも入んねーしよ!」

 

 巨大仮想敵──その圧倒的脅威に受験者たちはすぐさま踵を返し逃走する。無論、諸葉もあんなものを相手にできるほどの力を有してはいない。間違いなく逃げるという選択がベストだろう。

 

 ただ──

 

「くそっ、逃げきれねえ!」

「誰か、手を貸して! お願い!」

 

 怪我をし逃げ遅れる者。それらを置いて逃げるという選択を、諸葉は端から持ち合わせてなどいない。

 強化した走力で即座に負傷者の元へ駆けつけ治癒を施す。視界に映る範囲ではざっと数人、これならばあの仮想敵が追いつく前に全員を治癒することができる。

 

 そうして治癒を続ける諸葉だが、同時に増していく痛みに表情が強張る。それでも治癒を続け、無事最後の一人まで傷を治すことができたと思ったその矢先。

 

「いったぁ……」

 

 もう一人、負傷者の声を聞き目を向けると。そこには瓦礫に片足を取られ地面に倒れる少女の姿が。

 

(場所が悪い……治癒したとして、逃げ切れる距離じゃない)

 

 彼女が倒れる場所、それは巨大仮想敵のほぼ目の前。諸葉が治癒を施したとして、逃げ切れる可能性は限りなく低い。

 だがそれが助けない理由になるわけもなく、諸葉が駆け出そうとしたその時、彼の横を一つの影が通過する。それもあの巨大仮想敵に向かって。

 いったい誰が、その人物に視線を向け目を疑う。それもそのはず、その人物とは試験開始前に注意を受けていたあの気弱な少年だったのだから。

 

 少年は足に力を込めるとその場で跳躍。しかしそれはただの跳躍ではなく、巨大仮想敵を飛び越えんばかりの超跳躍であった。

 それだけでも目を疑う事象であるのに、さらに少年は拳を握りしめ──巨大仮想敵の顔面を殴り飛ばした。相当の威力なのか頭部はぺちゃんこに凹み、付随する部分が衝撃で粉々に砕け散る。

 

「……まじか」

 

 さすがの諸葉もこれには驚くしかなく、倒れる巨大仮想敵と宙を舞う少年を呆然と見つめる。だがすぐに我に帰り、倒れる少女の元へと駆け寄る。

 

「大丈夫? 今瓦礫どけるから、少し待ってて」

「あり、がとう……うっぷ」

 

 気分が悪いのか、口元を押さえる少女。すぐに瓦礫をどけ、足の傷を治癒する諸葉。幸いそこまで酷くはなかったので、諸葉に掛かる負担も思ったより少なくすんだ。

 

「これで動けるけど……気分悪いのか?」

「う、うん、ちょっとだけ……。それよりも、あの人は……」

「今頃降りてきてるはず……っ!」

 

 少女の問いに答え上を見上げる諸葉は表情を一変させる。

 

「まずい、着地の体勢が出来ていない。このままじゃ、地面に衝突する」

「だっ、たら……私を、あのロボの上に……」

「……わかった」

 

 少女の指示通り、彼女をロボの残骸の上に乗せる。すると彼女は残骸へと触れ、その後両手の五指を合わせる。

 するとどうだろう、彼女の体は残骸とともに浮かび上がり始めたではないか。

 

「私を、あの人のらっか、うっぷ……地点まで……」

「……うん」

 

 どうやら触れたものを浮かせる個性らしい。少女の言う通り、浮かび上がった彼女を残骸とともに少年の落下地点へ。

 すでに少年は目と鼻の先まで近づいており、タイミングを見計らって少女は

 

「えいっ!」

「ぶへぇっ⁉︎」

 

 少年の頬にビンタをお見舞いする。しかしこれで個性の発動条件を満たした少女は少年を浮かせ、地面への衝突を未然に防いだ。

 

「かい、じょ……!」

 

 再び五指を合わせると個性が解除され、少年少女ともにゆっくりと降りる。諸葉は即座に少年へと駆け寄り安否を確認するが、その想像以上の状態に息を飲む。

 巨大仮想敵を殴り飛ばした腕、そしてあの超跳躍を行った両足すべてがボロボロだったからだ。ジャージが破れさらけ出された右腕は赤黒く染まっており、おそらく両足も同じような状態になっているのだと予測がつく。

 

(俺の個性で治癒できても、完全に治すのはほぼ無理……)

 

 これほどまでの大怪我だ。個性で治癒したとして、自身が引き受けるダメージは相当なものになるだろう。間違いなく、過去最高の激痛が襲うはずだ。

 

「せめ、て……せめてワンポイントだけ、でも……っ!」

 

 激痛で顔中を涙で濡らす少年。彼の言い放った一言に、諸葉は目を見開いた。

 ワンポイントでも──つまりこの少年は未だにポイントを獲得していなかったということ。だというのに、倒してもポイントにならない敵へと立ち向かい、その身を壊してでも倒した。

 すべては瓦礫に足を取られた、あの少女のために。

 

 始まる前は疑問に思っていた、なぜこの少年が雄英を受験したのかという疑問。その理由が今はっきりとわかった。彼もまた、ヒーローを本気で目指していたということ。

 そして訂正をする。気弱だと、仮想敵に立ち向かえるはずがないと決めつけたことを。

 

『しゅ〜りょ〜う‼︎‼︎』

 

 無慈悲にも、プレゼント・マイクにより告げられる試験終了の合図。それを耳にした少年は、ショックからかはたまた激痛からか白目をむいて気絶をする。

 諸葉は両膝を着き、気絶した少年へ右手をかざす。

 

(君が、こうなることを覚悟して立ち向かったのなら……俺も覚悟を決める)

 

 許容上限、いったいどれほどの激痛が襲うのか考えるだけでも寒気がする。だが、この少年は躊躇うことなくその痛みに飛び込んだのだ。彼の信じるもののために。

 ならば自分も覚悟を決めよう……傷ついた人を助けるという、自分の信念を貫くために。

 

「それに、限界を知っておくのもいい経験だし」

 

 覚悟を決め、個性を発動する。そして諸葉の右手から溢れた白い光が少年の体を包み込む。

 直後──諸葉を襲うのは、今までの比にならないほどの激痛。

 

「ぐっ……いっ……た……っ!」

 

 身体中を破壊し尽くさんがごとき激痛が諸葉の体を駆け巡る。思わず治癒の手を止めそうになるが、そこは意地でも続ける。

 

(予想っ、してたけど……っ! これは、なかなか効く……っ‼︎‼︎)

 

 激痛に眩みかける視界。意識を集中させるため右手に視線を向けると、伸ばした腕からは皮膚を裂くように飛び散る鮮血が。おそらくこれが許容上限を超えた証拠だろう。

 なるほど体に収まらなくなった『ダメージ』が、こうして体を食い破るように体外へと出されるのか──激痛に蝕まれる中、冷静に個性を分析する。

 

 これ以上限界を超えたらどうなるのか、個人的に知りたいところだが

 

(もう……これ以上は、無理)

 

 さすがにここから先は体が保たない。個性の発動を止めた諸葉は、まるで糸が切れた人形のように地面へ仰向けに倒れる。

 右手へ視線を向ければ未だに血が流れ、他にも体の至る箇所から流血が起きていた。なんとか止血をしたいが、痛みとダメージで体が全く動かない。

 

 激痛で思考もうまくまとまらない中、諸葉は雄英の看護教諭である『リカバリーガール』が来るまでこの地獄に晒され続けるのだった。

 

 

 





とりあえず諸葉の個性についてまとめておきます。

個性『代傷』
他者の怪我を治癒する代わりに、自身が『痛み』そして『ダメージ』として引き受ける。許容上限があり、それを越すと超過した分のダメージが肉体を傷つける。
また、傷つけば傷つくほど身体能力等を増加することができ、その際には白いオーラのようなものが体を包む。

今の所はこのような感じです。
何か疑問点がありましたらどんどん仰ってください!
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