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雄英の入試も無事に、とはいかないが終了し校門へと向かう諸葉。
あの後雄英の看護教諭である『リカバリーガール』の治療により、体の傷もだいぶ抑えられ歩けるほどにまで回復した諸葉。しかしまだ完全には消えておらず、歩くたびに微かに痛みが走る。
若干重い体に鞭を打ち校門を潜り抜けると、先に出ていた響香が近づいてくる。
「お疲れ諸葉。試験、どうだった?」
「うん……23Pだった」
「……てことは、他の受験者助けてたんでしょ」
頷く諸葉に響香は、はぁ、とため息を吐く。
「あんた、自分の個性わかってんの? 怪我治したら自分が傷つくんだよ?」
「わかってる。でも、それが助けない理由にはならない」
「……ま、それがあんただもんね」
傷ついた誰かがいるのなら、迷わず手を差し伸べる。幼い頃からの付き合いだ、こういう人間なんだということは百も承知している。
ただ試験という場所であってもそれを貫くところはさすがだとしか言いようがない。
「俺は俺が正しいと思うことをした。後悔なんて欠片もない」
「そっか……じゃ、もうこの話はいいね」
本人が後悔していないというならば、これ以上話をするのは野暮ってものだろう。話を切り上げバス停まで向かう二人。
「ねぇ、帰りに寄り道していい? ウチ、ちょっと買いたいものあってさ」
「ん、いいよ」
今年最後の一大行事を終えた二人は、若干軽くなった足取りで来た道を戻っていく。
響香との買い物も終わり帰宅をする諸葉。ごく平凡な一軒家、その玄関の扉に手をかけ中へ入る。
大きさの違う靴並んだ靴箱に自分の靴も並べ、奥へと進んでいく。玄関入ってすぐにある右の扉、そこを開けるとリビングヘと繋がっており、諸葉はそこにいる二人の人物へと声をかける。
「ただいま……」
「おう、おかえりー」
「お、おかえり諸葉!」
帰宅した諸葉を出迎えたのは彼の両親。リビングのソファに腰掛け、ダラーンと座るのが父親の癒代
「も、諸葉……試験どうだった? 怪我してない?」
「試験は……まぁやれることはやった。怪我は少ししてる」
「ど、どこ⁉︎ お、お母さんが治すから見せて!」
「大丈夫。雄英の先生に治してもらったから」
心配性である治沙希は怪我をしたと聞いて大慌て。胴体を、腕を、顔をと触り怪我を探す。そんな母親を落ち着かせる諸葉の手慣れ具合、伊達に物心ついてから宥めてきただけはある。
そしてソファーでだらける父の元へと向かう。自身の正面に立つ諸葉へ、力は「よっこいしょ」と体を起こし
「それで? どこまでやれたよ?」
「……仮想
「それはどうだ? 多いのか?」
「ううん……たぶん合格には届いていない」
「あっはっは! そうか、届かなかったか! まぁお前のことだ、どうせ他人を助けてたんだろ?」
少しトーンを落とす諸葉だが、対照的に力は声高々と笑い声をあげる。そんな力を治沙希は怒気を含ませた声で叱る。
「もうお父さん! そこは慰めるところでしょう!」
「はははっ、いやいや母さん、慰めなんて必要ねーよ」
治沙希を手で制し、力は諸葉へ視線を戻す。
「こいつが『やれることはやった』って言ったんだ。なら、後悔なんて何一つねーさ。そうだろ、諸葉?」
「……うん」
「確かに試験に合格するのは大事さ。けどな、そのために自分の大切な
そして力はソファから立ち上がり、右手で正面に立つ諸葉の肩を掴む。己を見つめる父の瞳には、先ほどのダラけた雰囲気は一切なく、力強い光だけが灯っていた。
「お前が誰かを見捨てて合格狙ったって言ったら、俺は殴るつもりだった……だがそんなの杞憂だったな! やっぱりお前は俺の自慢の息子だよ!」
そして空いた左手で諸葉の頭を強く撫でる。ガシガシと乱暴に撫でられる諸葉だったが、その顔は嫌がっている様子もなく、父の気がすむまで黙って頭を下げ続けた。
「よっしゃ! じゃあ諸葉の受験記念だ、今夜はパーっと豪勢に行くとするか!」
そんな父親の一言を切っ掛けに、癒代家のミニパーティーが始まるのであった。
雄英の入試を受けてから一週間後。
神妙な顔をした諸葉は自室の机とにらめっこをしていた。いや正確には机の上に置かれた小さな封筒と、だが。
彼の元に届いた一通の封筒。その封筒の右下には『雄英高校』という文字が刻まれている。つまりは合否の通知というやつだ。
「……とりあえず、開けよう」
このまま見つめていても無駄に時間を消費するだけ。諸葉は封を切ると、中に入っていた数枚の書類、そして丸い機械のようなものを取り出す。
丸い機械はおそらく投影装置か何かだろう。諸葉が装置を操作し映像を再生する。すると諸葉の目の前の空間にモニターが展開され
『私が投影されたァ‼︎』
画面にこれでもかと言うほどのアップで映ったのは、一人だけ画風の違う男性。
頑強な肉体、仮面ライダーのように跳ね上がった二つの前髪をしたその男性を見て、諸葉は目を見開く。
「オール、マイト……?」
モニターに照射された男性。彼こそNo.1ヒーローと名高いヒーローの中のヒーロー『オールマイト』。
もはや生ける伝説とさえされている彼がなぜ、雄英の合否発表の映像に映し出されているのか。思わぬ人物の登場にそんな疑問が胸中を占めるが
『初めましてだな、癒代少年! おそらく疑問に思っているだろう私が映っている理由! その答えはシンプル、今年の春から雄英の教師として勤めることになったからさ!』
「雄英……教師……まじか」
そんな疑問を予測していたかのように言うオールマイトに、諸葉はただただ呆然と漏らすことしかできない。なぜならNo.1ヒーローだ。そんな人物が教師として教えてくれるなど、ヒーローを目指すものにとってこれ以上ないほどの幸せと言えるだろう。
『さて、そろそろ気になっている合否の結果だが……癒代諸葉
オールマイトから告げられる不合格の知らせ。
わかっていたことだ。こうなることは、試験が終わった時からわかっていた。ただそれでも、やはり胸にくるものはある。
無意識に項垂れる諸葉。そんな諸葉の反応を見越していたのか、オールマイトは口の両端をあげると
『ただそれは、敵ポイントのみを見た場合ならね!』
そう、言葉を続ける。
思わず顔を上げた諸葉に、オールマイトは両手でバツのジェスチャーをすると
『我々雄英が見ていたのは敵ポイントのみではない!
実技の試験では戦闘力や機動力など、戦う場においての能力があるかどうかが試されていた。しかしそのほかにもう一つ、ヒーローとして大切な根幹『人救け』の精神があるかどうかも見ていたらしい。
『癒代少年、君の個性とその使い方を見させてもらったよ。傷ついた者に手を伸ばす、自らを省みず他者を助ける姿、そしてその心を! それこそ、ヒーローをヒーローたらしめるに必要なもの!』
拳を握り、力説するオールマイト。
『癒代諸葉、救助ポイント45点! よって実技総合68点! 文句無しの合格だよ!』
人によっては諸葉の行為はただの偽善行為というものもいるだろう。自分よりも他人を優先するなど、馬鹿のすることだと、そう罵るものもいるだろう。
『偽善と、綺麗事だと言われようが関係ない! ヒーローとは、命を賭してそれらを実践するお仕事だ!』
だがオールマイトは、それこそがヒーローに必要なものだと叫ぶ。
そんなNo.1ヒーローの言葉に、諸葉は何も言えずただ呆気にとられ、その叫ぶ姿を見つめる事しかできなかった。
『もう一度言おう、合格だ癒代少年! おめでとう、雄英で待っているぞ!』
そう言い、差し出された手。No.1ヒーローとして多くの人々を救ってきたその手が今、自分に向けて差し出されている。
その事実に、諸葉は込み上げてくるものを必死で抑え
「はい……っ!」
詰まり詰まりになりそうな声で一言、そう返事を返す。
そして映像は途切れ静まり返った部屋の中、未だモニターが出ていた空間を眺める諸葉の瞳から、一筋の涙が流れる。
⚫︎
場所は変わり雄英高校。合格発表から2週間が経過した現在、職員室にてパソコンを眺める男性が一人。
全身黒の服に身を包み、包帯のような何かを首元に巻いた彼は、机のパソコンに映した書類を観察するようにじっと見つめる。
そんな彼の背後からやってくるのは、入試でプレゼンを担当したヒーロー『プレゼント・マイク』。
「よぅイレイザー! なにしてんだ、パソコンなんざ眺めてよ!」
「……マイク。別に、これから受け持つ生徒たちの『個性』を確認しているだけだ」
彼を『マイク』と呼び、気だるそうな声で答えるのは雄英教師のプロヒーロー『イレイザーヘッド』こと
教師として一年生を受け持つ彼は現在、パソコンに映る春から生徒となる人物たちに視線を向け、各々の個性の特徴や弱点などを探しているなのである。
「今回は全体的に粒揃いだが、中でも突出しているのは
「こいつは俺も知ってるぜ! 推薦試験で記録塗り替えた一人だ!」
「んで後者……爆豪だが、こいつははっきり言って戦闘センスの塊だ。個性も汎用性が高い」
「一般入試トップのあいつか! 確かにこいつはタフネスの塊だったな!」
「今の所、こいつら二人が俺のクラスでトップだな」
そう言うと相澤は次の書類を画面に表示する。そこには二人の男子の情報が記されており、マイクはそのうちの一人を見るとずびしぃっ、と指をさす。
「こいつは入試の仮想巨大
「ああ……
「だろぉ⁉︎ あれだけの超パワーはプロでもうそういねぇって!」
「だがその反面、その力に自分の体がついていけていない。一発殴って使い物にならないんじゃ、ヒーローとしてやって行くのはおろか、ヒーローになるのすら絶望的だ」
相澤の視線の先、そこには入試の実技試験で巨大仮想敵を殴り飛ばした気弱な少年の写真が。はしゃぐマイクをよそに、相澤は少年の致命的弱点を指摘し、現段階での正直な感想を述べる。
確かに個性そのものは凄まじい力を秘めているが、それに対するデメリットもまた大きすぎる。これでプロヒーローになるのはほぼ無理だろうというのが相澤の見解だった。
「それで次の生徒だが……」
「あぁ、こいつもさっきのやつと同じ試験会場にいたやつだな! 確かリカバリーガールと似た個性持ちだったっけか?」
「癒代 諸葉……個性『代傷』。他者の負った傷を代わりに引き受ける個性だ。ばあさんの個性とは似ても似付かねぇよ」
そう言いながら、相澤はパソコンを操作する。すると画面が切り替わり、一つの映像が流れる。そこに映っていたのは、右手両足をボロボロにした出久の傷を治癒する諸葉の姿が。
なぜにこのような映像を流しているのか、不思議に思ったマイクは相澤へ声をかける。
「これって試験が終わった後のやつだろ? イレイザー、これ流して何の意味があんだ?」
「黙って見てろ……すぐにわかる」
「すぐにって……おぉおおお⁉︎」
驚愕の声を上げるマイク。画面の向こう、右腕を中心に全身から血を吹き出す諸葉の姿にマイクの瞳は奪われる。
驚くマイクとは対照的に、相澤は冷静に目の前の現象を分析する。
「こいつの個性、おそらく引き受けられるのにも上限があるんだろう。それを超えたらこの全身血の噴水状態になるわけだ」
「おいおい、
「こいつら二人に関しては、俺が直接校長に受け持つと頼んだ。こいつらが見込みがあるかないか、俺が判断し除籍にするかを決める」
そう呟く相澤の瞳は真剣そのもので、嘘偽りなど微塵もない。それもそのはず、彼が雄英に教師として勤めて以来、154回もの除籍処分を行ってきたのだから。
ヒーローとしてやっていける見込みがないものや、覚悟がないものは即座に除籍する。中途半端に夢を負わせることこそ残酷なものだとする相澤は、その考えのもとこれまで除籍を行ってきた。
「ヒーローが動けなくなって使い物にならないんじゃ話にならない。こいつらがそれを理解しているのか、俺がこの目で直に判断する」
「ったく、相変わらず仕事熱心な野郎だな、イレイザー!」
口調も考え方も厳しい相澤だが、それこそが彼なりの優しさなのだろう。そんな同期の背中を笑いながら叩くマイク。
「よっしゃ、じゃあ今日飯食い行こうぜ! なぁいいだろ、イレイザー?」
「……じゃあって、飯の話してなかっただろうが。まぁ別にいいが、まずはこれが終わってからだ」
「オーケー! んじゃあ俺も暇つぶしがてら終わるまで解説してやるよ!」
「やめろ邪魔だ。せめてここじゃないどこかで潰してろ」
迷惑そうに漏らす相澤などつゆ知らず。マイクは彼の受け持つ生徒たち一人一人の解説を始める。
──雄英高校入学式まで残り『約2週間』
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