諸刃の癒し   作:vegatair

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少し遅くなりました、申し訳ありません!

今回から個性把握テスト回です!




6.入学のち試練

 季節は春。それは別れ、そして出会いの季節である。

 諸葉の残り少ない中学校生活は今までと変わることはなく、慣れ親しんだ時間のまま過ぎ去っていった。

 卒業し、それぞれの道を行かんとする級友達と別れ、諸葉もまた自身の進むべき道を歩き始める。

 

 

 電車と徒歩を駆使すること数十分。メタリックな壁に挟まれた校門を通り抜け、広大な敷地を抜けた先にある巨大な校舎。そこにある1-Aと刻まれた教室の扉の前に少年少女はいた。

 

「ここがウチらのクラスか……てか扉でっか」

 

 身の丈の何倍もある巨大な扉を前に、雄英の制服に身を包んだ響香は視線を上に向けつつ素直な感想を述べる。

 

「たぶん、バリアフリーみたいなものだと思う」

 

 そんな響香の隣では同じく真新しい制服を着た諸葉が考えられる答えを口にする。

 ヒーロー科というだけあり、多くの個性を持つ人に対応できる様にしてあるのだろう。巨大な体を持つ生徒が入学してきた場合など、普通の扉では学園生活に支障を出る可能性がある。

 しかしそれを踏まえても大きすぎるという感想を抱くのが現実なのだが……。

 

 とはいえ、このまま廊下で棒立ちしたままというわけにもいかない。諸葉は教室の扉に手をかけ横へスライド。思いの外扉は軽く、特に苦もなく開き終える。

 これから通う新天地。この先には全国各地から集まったヒーローの卵、そのエリート達がいる。いったいどれほどの猛者が集っているのか。

 

 期待に胸を膨らませながら潜った扉の向こう側。そこに広がる景色は──

 

「おはよう! 俺は私立聡明(そうめい)中学出身、飯田(いいだ)天哉(てんや)だ! これから同じ学び舎でヒーローを目指す者同士、ともに頑張ろう!」

「うぉ……びっくりした」

 

 入室と同時に現れた一人の少年の顔。眼鏡をかけ、謹厳そうな顔立ちをした彼を諸葉は覚えている。入試の時の眼鏡君である。

 自らを飯田天哉と名乗る少年の突然な自己紹介に驚く響香。諸葉は驚きこそしなかったが、目の前のクラスメートの独特な手の動きに視線を奪われる。

 

「辺須瓶中学出身、癒代諸葉。よろしく」

「ウチもこっちと同じ中学出身。名前は耳郎響香、よろしく」

「うむ、癒代くんに耳郎くんだな! よろしく! あと席は出席番号順になっているそうだぞ!」

 

 しゅばっ、とキレのいい動きで右手をあげると眼鏡の少年、飯田は別のクラスメート達に挨拶をしに行った。

 のっけから印象の強い人に出会った二人。やはりヒーロー科の名門、一癖も二癖もありそうな人物が揃っていそうだと、胸中で同じ思いを抱く。

 

「ま、とりあえず自分の席に行こっか」

「……うん」

 

『じ』で始まる響香と『ゆ』で始まる諸葉。互いに席は離れてしまうので諸葉は響香と別れ自身の席──入り口とは反対側の列の最後尾に一つだけポツンと出た机へと向かう。

 そして鞄を置き席に座り、ただ何も考えず教室の中の景色を呆然と眺める諸葉。同時にクラスメート達の顔や特徴も確認。

 基本的に見た目は普通の人が多いが、数人程度『個性』の影響からかやや人から離れた姿をしている者も。中でも取り分け目を引いたのは、制服以外が何も見えない透明人間の少女。透明なのに人目を引くとはコレ如何に。

 

(やっぱり色んな人がいる……)

 

 そんな特徴的なクラスメート達を眺めていると、自身の前の席に座る少女と視線が合う。

 

「お初にお目にかかります。(わたくし)掘須磨(ほりすま)大付属中学校出身の八百万(やおよろず)(もも)と申します」

「辺須瓶中学出身、癒代諸葉。よろしく八百万……さん」

 

 おでこが出るように長い髪を後ろで一纏めにした、どこか気品を感じさせる八百万と名乗る少女。ぱっと見『これ高一か?』と疑いたくなるようなプロポーションに加え、上品な口調がさらに大人らしさを助長させている。

 どこか年上な雰囲気を感じさせるからだろうか、諸葉は無意識に八百万のことを『さん』付けで呼んでしまっている。

 

「あの、別に無理して『さん』付けしなくてもいいですわよ? 癒代さんの呼びやすいように呼んでいただいて構いませんわ」

「うん……(あね)さん」

「あ、姐さん……?」

 

 諸葉の呼び名に首を傾げる八百万。

 

「あの、姐さんとはいったい……?」

「……俺の師匠に、見た感じが似てるから」

「師匠、ですか?」

「うん……性格は真逆だけど」

「そ、そうですか……」

 

 今の諸葉をここまで育て上げた彼の師匠。大人な雰囲気を醸し出す百はそんな師匠に少なからず似ており、諸葉はついつい八百万のことを『姐さん』と呼んでしまう。

 しかし師匠の性格は諸葉の言った通り、上品な彼女とは真反対に位置するものであるが……。

 

「やっぱりやめたほうがいい?」

「い、いえ好きにお呼び下さいと言ったのは私の方ですから……お気になさらず」

「ん……そうする」

 

 多少突っ込みどころも多いが、兎にも角にも自己紹介を終えた両名。

 すると何やら前の方がやや騒がしくなり出し二人が騒ぎの元へと視線を向けると、そこでは飯田と薄い金髪の少年が何やら言い合いをしていた。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか⁉︎」

 

 どうやら金髪の彼の座る態度が悪いらしい。諸葉の方からは背中しか見えないのでよくわからないが、話の内容から机に足を乗っけているということはわかる。

 誠実な性格の飯田にとってそうしたマナーの悪い態度は見過ごせないらしい。語気を強くし注意をする飯田に対し、件の問題児である金髪の少年はというと

 

「思わねーよ! てめーどこ中だよ端役が!」

 

 この一言で性格がどれほど粗暴であるのかがわかる。ヒーローを目指す者ならば最低限度のマナーというものを守るべきなのだが……金髪の彼の言動はヒーローのそれとはかけ離れすぎている。

 真面目な飯田と不良の金髪くん。二人が相入れることはなく言い合いを続けていると、がらがら……と、恐る恐るといった感じで教室の扉が開き一人の少年が入室してくる。

 

 ふと、諸葉がそちらへ目を向けた瞬間、彼の視線はその少年に釘付けにされる。なぜなら入室してきたその少年は、先の入試で巨大仮想(ヴィラン)を殴り飛ばした0ポイントの少年だったからだ。

 今でもあの日の光景は鮮明に残っている。恐れを振り切り、ただ誰かのために走り出した少年の背中。あの時、入試会場で誰よりもヒーローだったあの小さくも大きな背中が。

 

「そう、合格できたんだ……よかった」

「なにか仰いましたか?」

「ん……別に、なんでもない」

 

 少年の入室に気づいた飯田は挨拶をするべく、金髪の少年から離れると彼へと近づく。そんな飯田にビクつきながら自己紹介をする少年に、今度は背後から現れた茶髪のショートボブの少女が笑顔で挨拶をする。

 彼女もまた印象に残った人物の一人で、なにやら奇妙な縁じみたものを感じる諸葉。楽しそうに、また嬉しそうに話しをする女生徒に対し、少年は顔を赤くさせしどろもどろになりながら返事を返す。

 

 わいわいと、入り口で談笑する二人を真反対の位置からぼうっと眺める諸葉。すると突如、二人は話しを中断しある方向──扉の下部分へと視線を集中させる。

 何事か、と引き続き二人の行動を眺めていると、全身を寝袋で包んだ無精髭の男が入室してきたではないか。そんな不審者じみた男の登場に教室の空気が静まり返る。

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 寝袋を脱ぎながらそう発言する男。

 いったい何者なのか、生徒たちが怪訝な視線を向ける中、続けて男は口を動かす。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 担任、相澤と名乗る男の発言に驚愕する生徒たち。それもそうだ、彼の格好は上下黒の服、そして首元に巻いた包帯のような布。そして散髪も行ってないであろう伸ばし放題の髪に、同じく放置された無精髭。

 担任というには些か清潔感が欠如している。

 

「担任という割にはその、なんというか……少々格好がだらしない方ですわね」

「少々じゃなくて、だいぶでいいよ姐さん」

「あ、その呼び名で決定なのですね……」

 

 どうやら固定されたらしい八百万の呼び名。苦笑いをする八百万だが、諸葉は相澤に視線を向けているためそれに気づかない。

 そして諸葉の視線の先、件のだらしない担任の相澤はというと、なにやら寝袋を漁りその中から雄英指定の体操服を取り出す。話しを聞くに、どうやら今から体操服(あれ)を着てグラウンドへ行かなければならないらしい。

 

 すぐ後に入学式が控えているというのになぜそんなことをするのかは謎だが、担任の言うことなので諸葉たちは指示に従い体操服に着替えグラウンドへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 相澤(担任)の指示通り、諸葉含む1年A組の面々は体操服へ着替えグラウンドへ集合する。

 全員が集まったのを確認した相澤は、その気だるそうな目で生徒たちを見据えると

 

「それじゃ、今から君たちには『個性把握テスト』をやってもらう」

「個性把握……⁉︎」

「テストォ⁉︎」

 

 入学式やガイダンスなど放ったらかしで行われる『個性把握テスト』なるものに驚きを隠せないクラスメートたち。おうむ返しで叫ぶ彼らを気にもとめず、相澤は背中を向け話を続ける。

 

「ヒーローになるならそんな悠長なものに出ている暇はないよ」

 

 相澤曰く、雄英は『自由』な校風が売り文句で、それは教師側にも当てはまるらしい。つまり今回の入学式そっちのけのテストも、その校風に則って行われたものだということ。

 しかしあまりにも『自由』の度合いがすぎないかと疑問を抱く諸葉だが、郷に入っては郷に従えの精神でそれを受け入れる。

 

「それじゃあ今からテストの概要を説明するぞ」

 

 これから行われるのは『個性』を用いた体力テスト。中学校までは個性禁止で行われてきたそれだが、相澤曰く合理的ではない文部科学省の怠慢により作られたものらしい。

 自分の『最大限』を知ること。それがヒーローの素地を形成する合理的手段だと相澤は述べる。

 

 手本として相澤は金髪の粗暴な少年──爆豪へソフトボールを投げ渡す。どうやら彼で実演をしてみせるらしい。

 ボールを受け取った爆轟はソフトボール投げの円の中へと入り、大きく振りかぶると

 

「死ねえ!」

 

 彼の個性であろう爆風を球威に乗せ投擲。個性を使用したことで飛距離を大きく伸ばしたボールは瞬く間に見えなくなり

 

「……705.2m」

 

 相澤の手元に握られた機械がその飛距離を示す。その距離は個性を使わなかった中学の頃に比べて格段に上がったのは目に見えてわかる。

 自由に個性を使えるテストに気分を良くしたクラスメートたちはわいわいと、楽しそうにはしゃぎだす。中には『面白そう』と発言する者もおり、その発言を耳にした相澤は項垂れると

 

「君たちはヒーローになるための3年間そんな腹づもりで過ごす気でいるつもりかい?」

 

 見るからに落胆した雰囲気を漂わせる相澤に、はしゃいでいた生徒たちは静まり返る。逆鱗に触れた、自分たちへ虚ろな瞳を向けてくる相澤を見て諸葉はそう確信する。

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しとし『除籍処分』としよう」

 

 続けて相澤が口にした発言に生徒たちは固まる。入学初日、ヒーローの卵としての輝かしい一歩を踏み出すその日に除籍など笑えたものではない。

 険しい表情をする生徒たちを見て、なにが楽しいのか相澤は不敵な笑みを浮かべ

 

「生徒の如何は先生(おれたち)の自由。ようこそこれが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 高校生活1日目から与えられた大試練。ある者は表情を不安に染め、またある者はその発言の内容を汲まんと思考し、またある者は与えられた試練に笑みを浮かべる。

 

 そんな生徒の反応を見て、髪をかきあげ笑みを浮かべる相澤。そんな彼の発言は『理不尽』の一言に尽きるが、世の中とはそもそもが理不尽(それら)の塊である。

 いつ起こるかわからない人災・天災。それらを乗り越える力と強靭な精神を持ち、人々を救った者がヒーローと呼ばれるのだ。

 

 〝Plus Ultra”──さらに向こうへ、降りかかる理不尽など吹き飛ばし自らの糧へと変えろ。

 

「これが君たち最初の壁だ。さぁ卵たち──全力で乗り越えて来い」

 

 相澤の一言に生徒たちの表情は真剣なものへと変化する。諸葉もまた、無意識に拳を握る手に入る力が増す。

 

 

 そして少年少女たちは最初の試練を乗り越えるため、一歩足を踏み出す。

 

 





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