遅いうえにこんな体たらくで申し訳ありませんm(_ _)m
あと映画はなかなかに面白かったです!
個性把握テストを終え、相澤の指示のもと保健室へと向かった諸葉と緑谷。当然出会ったばかりの二人の間に会話はなく、緑谷は若干気まずそうにしながら廊下を歩く。対して諸葉は特に気にした様子もなく、口を真一文字に閉じ足を進める。
(うぅ……なんか気まずいなぁ)
緑谷はチラチラと気づかれないように横目で顔を伺うが、件の青年は一瞥もすることなくただまっすぐに前だけを向いている。非常に話しかけづらい。
ただ緑谷には先ほど傷を治してもらった礼がある。気まずいからといってそれを蔑ろにすることはできないと、意を決して口を開いた。
「あ、あのっ、癒代くん!」
「……ん?」
緑谷が言葉をかけることで初めて諸葉は視線を前から横へと移す。自身の目が彼の夜空のように澄んだ黒い瞳と重なり、思わず言葉を詰まらせてしまう緑谷。
飯田のような体格からくる威圧でも、爆轟のような荒々しい威圧などではない。ただ視線が重なっただけだというのに、緑谷は次の言葉を失ってしまった。
「……なに?」
「あ、ご、ごめん! その、ボール投げの時のお礼が言いたくて……ありがとう」
「ああ……別にいいよ。そういう『個性』だから」
傷を癒す個性で傷を治す。治癒系統の個性を持つ身として当たり前のことをしたまでのこと。
諸葉の言葉に幾分か気持ちが軽くなった緑谷はここぞとばかりに会話を広げる。
「それにしても癒代くんの『個性』凄かったよ。あっという間に傷も痛みも引いて……プロになったらいろんな場面で活躍しそうだね!」
「うん、ありがと」
「でも治癒系統ってことはやっぱりリカバリーガールみたいに救護系になるよな〜ああでも癒代くん個性把握テストでも8位だったから身体能力もかなり高いだろうしたぶん現場での活躍もできそうだよなぁそれに身体能力でいうとボール投げでのあの記録はちょっと疑問が残るというかあれだけの記録は増強系じゃないとそうそう出せないしだとすると癒代くんの『個性』っていったい……」
ぶつぶつと顎に手を当てながら独り言をつぶやく緑谷。内容を聞くに諸葉の個性について分析をしているようだが、いかんせん見た目が怪しさ全開すぎる。
緑谷の奇妙な行動に一瞬面食らう諸葉だが、すぐに我に帰ると未だ独り言を漏らす緑谷へ声をかける。しかしよほど集中しているのか、2・3度の呼びかけでやっと緑谷の耳に声が届く。
「あ、ごめん……『個性』とかヒーローのことになるとつい夢中になっちゃって」
「大丈夫……少し驚きはしたけど」
だが彼が周りも見えなくなるほどにヒーローが好きだということは伝わった。きっとそれほどまでにヒーローというものに対する憧れが強いのだろうと、緑谷に対するある程度の印象を固める諸葉。
「あの一つ質問いいかな? 癒代くんの『個性』っていったいどういうものか知りたくて……」
「いいよ」
諸葉は緑谷へ自身の『
諸葉から『代傷』の能力についての説明を受けた緑谷は、先ほどと同じく顎に手を当て
「傷を治して力を増強させる……やっぱり凄い『個性』だね。複合型でもかなり珍しい組み合わせだし、プロでも十分に通用する『個性』だよ」
「ん、ありがと」
「でも傷を治すって条件がある以上負傷者がその場にいることが大前提なわけでだとすると負傷者を庇いながらの戦闘を視野に入れないといけないわけかそうすると多対一の状況での戦闘は厳しいから活躍する現場は一対一の場合か災害とかの救助活動になるよなあ」
またも行われる緑谷の独り言。しかし話を聞くにしっかりと的は射ているし、これほど頭が回るのはさすがの一言しか言えない。
「緑谷の『個性』も珍しい。指一本であそこまでの力はそうそう出せない」
「あ、あはは、その代わり指がボロボロになっちゃったけど……。そのことで相澤先生にも怒られちゃったし、もっと上手く扱えるようにしないといけないなぁ」
そういえば、と緑谷は何かを思い出したのか諸葉へ視線を向け
「癒代くんも相澤先生に何か言われてたよね?」
「あああれは……緑谷を甘やかすなって言われただけ」
「そ、そうなんだ……なんかごめんね、色々迷惑かけちゃって」
「別に、個性把握テストなんだから俺がどう『個性』を使おうが勝手」
本当は違うのだが、それを言ってしまうと諸葉の『個性』の実態を感づかれてしまう恐れがある。しかも緑谷はそういう面では相当頭がキレる、どんなボロが答えにたどり着くのかわからない。
いずれはばれてしまうことだが、諸葉自身このデメリットについては自分で口外するつもりはない。それにもしもバレてしまえば『個性』を使うのを断られる可能性もある。
そんな話をしている間に保健室の扉の前へと到着する二人。ノックをし中の人物からの入室の許可をもらい扉へ手をかける。
「失礼します、1-Aの緑谷です」
「1-Aの癒代です」
「とりあえず適当なところに腰掛けな」
机の前、そこに座っていたのは一人の老齢の女性。白衣をまとい、お団子頭にした髪を止める注射器が特徴的な彼女は看護教諭のリカバリーガールだ。
諸葉と同じく他者を治癒する『個性』を持つ、雄英高校の屋台骨とまで言われるヒーローである。
「まったく、入学初日だってのにこんなところに来るんじゃないよ」
「す、すいません……」
「二人はA組だったね。まぁ大方イレイザーヘッドの洗礼を受けたんだろうけど……にしても何をやらかしたんだい?」
ため息をつき緑谷の話を聞くリカバリーガール。そして内容を聞き終えた彼女は緑谷の右手へ視線を向け、顎に手を当て現在の状態を確認する。
「緑谷出久、あんたの『個性』は知ってるよ。入試の時も相当やらかしてたからね」
「はい……」
「そして癒代諸葉あんたもね。あんたたち二人、ある意味有名になってるよ」
おそらくそれは入試の時の緑谷を治癒した時のことだろう。確かに血を噴き出されては覚えるなというほうが無理な話である。
ただ入試最後の記憶がない緑谷は首をかしげ隣の諸葉に視線を向ける。
「まぁそれは今は置いとくとして……緑谷出久、怪我を見せてごらん」
「あ、はい」
リカバリーガールの指示を受け、右手を彼女の見やすい位置に動かす緑谷。そしてリカバリーガールが差し出された右手、その人差し指へ観察するように視線を送る。
だいたい1分ほどだろうか、リカバリーガールは緑谷の手から視線を外す。
「この程度だったら私の『個性』は必要ないね。ただちょっと固定だけしておこうかい」
そう言い、リカバリーガールは緑谷の人差し指に包帯を巻く。キュッ、と最後に包帯を結び手当は完了。
「これでよし。次はあんたなわけだけど……」
諸葉へと目を向けるリカバリーガール。その視線は何処か鋭いもので、その理由を察した諸葉はたまらず目をそらす。
なぜ諸葉へ厳しい視線を向けているのか。その理由がわからない緑谷は、不思議そうな表情で二人へ交互に視線を向ける。
時間にして10秒にも満たない僅かな間。するとリカバリーガールは、ふぅ、とため息を吐きやれやれといった表情を浮かべる。
「見たところ怪我はないようだね。なら私にできることはないし、さっさと教室に戻りな」
「……はい」
「あ、はい! ありがとうございました!」
保健室を後にする諸葉と緑谷。
教室へ向けて足を進める中、先ほどの二人のやりとりを疑問に思っていた緑谷が口を開く。
「あの癒代くん、リカバリーガールとその……何かあったの?」
緑谷の質問に諸葉は口を真一文字に締め、どう答えようか内心で考える。
──諸葉がリカバリーガールに出会ったのは入試の実技試験の終わり。緑谷の怪我を治癒し、自身が身体中から鮮血を流した時である。
『傷は見た目が酷いだけだけど、程度で言ったらそこまで酷いもんじゃないから安心しな。問題があるとしたらあんたの体の方さね』
治癒を施して貰い、傷をほとんど治してもらった諸葉。だがリカバリーガールはその『ほとんど』が異常だと言う。
『普通ならその程度の傷、完治できるはずなんだよ。ただ如何してか、あんたの体には相当の「負荷」がかかっている。現状、治癒できるのはそこまでが限界だよ』
リカバリーガールの『個性』は『治癒力の超活性化』。人の治癒力を底上げし傷の治りを早くするというものだ。しかし本来、治癒というものには体力を用いる。活性化させ早送りのように傷を治す彼女の『個性』は、負傷者本人の体力などのコンディションが深く関わってくる。
ただそれはかなり深手な傷の場合で、諸葉の傷程度ならば多少疲れた程度で治癒できるはずなのだ。しかし諸葉の体には『個性』により肩代わりしたダメージが蓄積されており、傷を完治させるには至らなかったと言う。
『あんたの「個性」が何かはわからないけど、使いすぎには気をつけな。じゃないと私にも手がつけられなくなるからね』
──試験終了後そのような忠告を浴びていた諸葉だったが、緑谷の怪我を治すため『個性』を使用。リカバリーガールからしてみれば、諸葉が自身の忠告にも耳を貸さなかったと捉えられてもおかしくはない。
「癒代くん?」
「……まぁ、色々とあった」
「そ、そうなんだ……」
色々何があったんだろう……。そんな疑問を抱くもさすがにそこまで聞くことはできないと、緑谷は苦笑しつつ話を終える。
そんな緑谷に対し、今度は諸葉が質問を投げかける。
「緑谷、お前の『個性』ってなに?」
「うぇ⁉︎ ぼ、僕の『個性』⁉︎ な……なんで?」
諸葉の質問に激しい動揺を見せる緑谷。なぜそんなあたふたとするのかわからないが、諸葉は話を進めるためスルー。
「みたところ単純な増強型。でも『個性』に体が追いついてない……ように見える」
『個性』が発現してから100年以上もの時が流れ、研究を重ねるうちに『個性』とは身体機能の一つという結果にたどり着いた。
4歳までに発現する『個性』は最初こそ扱い慣れず暴走してしまう。だがそれは年月を重ねるにつれ馴染み、手足のように動かせるようになっていく。
緑谷は高校1年。短くとも11年自身の『個性』と共にあったはず。だというのに未だに扱いきれず、超パワーと引き換えに自身の体を傷つけている。
諸葉のように『個性』使用による代償ではなく、純粋に体が追いついていない。諸葉にとって緑谷の『個性』はどこか他とは違う、別の何かに思えた。
「え、えぇと……それは……」
諸葉の問いに対し、ひどく焦った表情を浮かべる緑谷。右へ左へ瞳を動かし、先ほどまでよりもさらに一段大きい動揺を見せる。
「まぁ、話せないなら無理して話さなくてもいい」
そんな緑谷の様子を見て、語るに語れない理由があるのだろうと察する諸葉。それに自分にも打ち明けていないことがある以上、問い質す様な真似はできない。
諸葉の一言に、ほっ、と隠れて安堵の息を吐く緑谷。
諸葉の言う様に彼の『個性』は確かに特異なものだった。それはかつてとある『最高のヒーロー』から授かった、義勇の心が紡いできた結晶。
しかしその力はヒーローに憧れる『無個性』だった少年が手にするには大きすぎた。故に体が耐えきれず悲鳴をあげ傷ついた。
『誰にも話してはならない』という約束の下 授かった力。それが入学早々にバレそうになったことに慌てた緑谷だったが、無事に何事もなく終わってよかったと内心で再び息を吐く。
「じゃあさっさと戻ろう。ガイダンス、とっくに始まってる」
「う、うん! そうだね!」
そうして二人は、クラスメートたちが待つ教室へと向かって足を進めた。
次回はおそらく戦闘訓練。
さて、どういった展開にしたものか……。
ではまた次話を気長にお待ちください!