そこは暗い、大きな空間だった。
そこかしこに様々な機材が並び、低い駆動音を響かせていた。
その空間の中心に、いくつものモニターの光に照らされた人影があった。
いや、「人」というにはその影は少しおかしかった。
人間にはあるはずのない、頭からはえる2本の角がその人物が人間でないことを物語っていた。
その人物は、何かの研究に没頭しているらしく、手元にあるキーボードを叩き続けていた。
しばらくそうしていたところで
「アシュ様、亜空間穿穴装置の試運転の準備が整いました。」
どこからともなく声が響いた。その声にその人物――アシュタロスは顔を上げた。
「御苦労、では早速運転を開始してくれ。」
「……」
「?、どうした。」
指示を出したものの沈黙しか帰ってこず、作業が開始されることがないことに疑問を感じ、
アシュタロスは怪訝そうに顔を上げた。
その目線の先には、巨大な卵のようなものが据えられていた。
そしてその卵に底部には、土偶の上半身がはえていた。
「アシュ様、お一つお尋ねしてもよろしいでしょうか。」
その土偶がしゃべった。どうやら先ほどの声の主はこの土偶であるらしかった。
「…どうした、言ってみろ。」
アシュタロスは少し興味をひかれた。
この土偶――土偶羅は、アシュタロスが自分に絶対の忠実を示すように作った存在だった。
いつもならば、自分の言に口をはさむことなどない土偶羅が、自分に意見しようとしていることが新鮮だったのだ。
「はい、恐れながら、この実験がかの究極の魔体のバリアーの研究の一環であるのは承知しております。」
しかし、と土偶羅は続ける。
「その件は、宇宙の卵の内部へと攻撃を逃がすということで決着したのではなかったのでしょうか?他の計画も少し遅れているこの段階で、時間をとるのは得策ではないと思うのですが…」
その声には、主に対して意見することに対する恐怖と、効率性を欠く命令に対する疑問の色が浮かんでいた。
「…ふっ」
そんな土偶羅をしばらく見つめていたアシュタロスは、その事か、と口元をほころばせた。
「念には念を、だよ土偶羅。」
「念には念、ですか?」
そうだ、とアシュタロスは語る。
「私の研究の産物である 宇宙の卵 、その内部には広大な空間を内包している。
そして我が切り札、究極の魔体を覆うバリアーはこの宇宙の卵内部に敵性体の攻撃を逃がすものだ。」
お前も知っているようにな。
そう言ったところで言葉を切る。
それは土偶羅もよく知っていた。なにせその開発の演算は自分が携わっているからだ。
このバリアーが完成すれば、例え主神クラスの攻撃にも耐えられるはずなのだ。
だからこそ、なぜ自分の主がバリアーの件についてまだこだわるのか、土偶羅には分からなかった。
その土偶羅の考えを読んだかのように、アシュタロスは言葉を続けた。
「確かに、理論上はいかなる攻撃をも無効化できるはずだ。」
しかし、と言う
「ここで問題となってくるものがある。」
何だかわかるか、と彼は土偶羅に問いかけた。
「問題、でございますか?」
土偶羅は困惑した。この理論には欠点などあろうはずは無いと、開発にたずさわった土偶羅は考えていたからだ。
「……」
答えが分からず沈黙した土偶羅に、アシュタロスは正解を示した。
「宇宙意志だよ。」
「宇宙意志?」
聞きなれぬ言葉に、土偶羅は聞き返した。
「そうだ、我々が存在するこの宇宙、この宇宙には本来あるべき姿へと戻ろうとする力が働いている。己に変更を加えようとする者を排除しようとする作用だ。」
それが宇宙意志、とアシュタロスは言った。
「そして、いかに宇宙の卵と言えども、完全に独立した宇宙というわけではない。私とて全知全能の神ではないからね。」
「つまり宇宙の卵内部も、私たちが存在するこの宇宙と無関係ではいられないのだよ。吸収した攻撃が、巡り巡って自分に帰ってくる可能性もゼロではないのだ。」
慎重というよりも、臆病と言われるかもしれないがね、と言う。
「だからこそ、この研究なのだ。」
そこでいったん言葉を切り、アシュタロスはこの話の根幹を語った。
・・・・・・・・・・
「この宇宙でないどこか、そこに穴を開け、その空間をバリアーと同期すれば、完全に宇宙意志の妨害を無視した防御が完成するのだよ。」
「!!!」
土偶羅は驚愕した。己の主の遠謀深慮に感嘆したのだ。
「アシュ様の深いお考え、感服いたしました。ではすぐに、演算を開始いたします。」
「演算はなるべく多く、広範囲に行え。宇宙の卵に内包された無限の可能性、
その中にはあるはずだ、私の目的とする場所が。」
そして、と、アシュタロスは思う。
必ず我が野望を達成し、この世界という牢獄から、解き放たれるのだと。
結論から言えば、この研究は失敗に終わる。
本来ならば、自分たちが認識できない世界を、機械が判別し、認識することはできなかったからだ。
しかしこの試みは、確かに時空に穴を穿つことに成功していたのだ。
そこは、東京から少し離れたところにある、深い森の中だった。
夕暮れ時、木々が鬱蒼と生い茂り、ただでさえ暗いその森を一層深い闇が覆おうとしていた。
その横を、小さな川がさらさらと流れている。
太陽が沈みきった時、異変は起こった。
突如、辺りをまばゆい光が照らし、川の上の中空に白く輝くゲートが出現し、その中から何かが吐き出された。
バシャーン
ゲートから出現したそれが川に落下すると、ゲートはかき消え、辺りはまた暗闇に包まれた。
バシャ、バシャ、バシャ、ガチャ。
それは人間の男性であった。
水音を響かせて、川からその人物は上がってきた。
その人物を言い表すならば「黒い」の一言に尽きるだろう。
その全身は、闇に紛れるような漆黒の甲冑で覆われていた。
2メートル近くあるであろう巨躯。
左腕には、鋼鉄でできているのであろう重そうな義手がはめられてる。
腰には様々の背嚢が取り付けられ、そして、その右目は失われていた。
隻腕、隻眼の男。
見るからに異様なこの男は、辺りを見回しこう叫んでいた。
「おいっ、シールケ! …ちっ、駄目か。どうやら別の場所に吐き出されたみたいだな。
念話も通らねえ。」
その男の名は、ガッツ。
烙印の剣士
己の運命に真っ向から切り結び、抗い、踠く者
自らの運命に立ち向おうとしたアシュタロスの行いが、この男を引き寄せたのは偶然か、
あるいは…
読了ありがとうございます
ベルセルクとGS美神、どちらも大好きな作品です。
これは「GS世界にガッツを放り込んだらどうなるんだろう」という私の妄想です。
いろいろ稚拙な部分だらけでしょうが、どうかお付き合いください。
それよりも、果たして需要はあるのだろうか・・・