GSガッツ   作:棚かぼちゃ

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焦り

 「なぜシールケ殿はこのような山中に?」

 

自己紹介を終えたあと、犬塚シロと名乗った少年にそう尋ねられ、シールケは自分が今置かれている状況を話した。

 

「実は・・・」

 

自分は見ての通り魔女見習いであり、魔法の実験に失敗し、気付けば見知らぬこの地にいた。さらには連れともはぐれてしまったのだと説明した。

 

若干の嘘が交じっていたが、自分でも全く理解していないことを他人に説明するのは、話がややこしくなるだけだと判断したためだった。

そこまで言って、咄嗟に嘘がつけるようになったのは、ガッツの影響かも知れないとシールケは思った。

 

「ほ~、それは難儀でござったなー」

 

シロはそれで納得がいったようだったので、シールケは本題に入った。

ここはどこであるのか、というものである。

 

その質問に、ここは日本国で、静岡寄りの東京近辺であるという答えが返ってきた。

 

「あ、ありがとうございます。あの・・・シロさんは今から言う名称に覚えはありますか?」

 

ミッドランド、チューダー、鷹の団、クシャーン――思いつく限り、有名そうなものをシールケは挙げていった。

 

しかし、

 

「い、いや~、不勉強ながら拙者、異国のことはちょっと…」

 

かんばしい答えは返ってこなかった。

 

その答えに、シールケは頭を抱えそうになった。

 

「ニホン」「シズオカ」「トウキョウ」、どれも聞いたこともない名前ばかりだった。

 

いや、それだけならばまだ良い。自分達が互いのことを知らない程の遠方に飛ばされたのだと考えることもできるからだ。

それならば、まだそこまで悲観することもない。(十分すぎる程に悲劇的ではあるが)

まだ帰れる手だてもあるかもしれないからだ。

 

だが、とそこでシールケはふいに空を見上げた。

                             ・・

正確には、こちらに来てから時間が経ち、かなり傾いてきたその半月を見つめた。

 

 

 

 

 

そもそも、ここへ放り出された時からおかしいとは思っていたのだ。

 

自分とガッツがあの白い空間に飲み込まれたあの時間、夜空には満月が煌々と輝く深夜だったはずだ。

だがこちらに来た時、辺りは明らかに日が没して間もない頃合いだった。

 

そして今、空にかかるのは半月。

 

たった一日かそこらで、月はそう満ち欠けするものではない。

半月、見知らぬ土地、そしてあの極度に時間と空間の歪んだゲート・・・

 

それらを総合的に考え、シールケは自分が空間だけでなく、時間さえも超越し、この場所に飛ばされたのだと結論づけたのだ。

しかも、唯一供に来たガッツは行方知れず。

 

これで「冷静でいろ」と言う方が無理というものだった。

 

 

 

急に黙りうつむいてしまった彼女を、シロが心配そうに見つめていた。シールケはそれに気づき、大丈夫ですと無理やりにも笑顔で言い、

それよりも、この近くに町や人の集まる場所は無いかとシロに尋ねた。

 

ガッツならば、闇雲に森の中を自分を探すようなことはせずに、近くの人里に降りて人探しをするはずだと考えたからだ。

 

「それならば、もう少しで東京でござる。拙者も向かう途中故、ご一緒するでござるよ」

これで一飯の恩を少しは返せるというものでござる、とシロは道案内を快く引き受けてくれた。

 

まだ夜明けまで時間があるが、月明かりがあるので真っ暗ということはなかった。

あのガッツのことだから、もうその「トウキョウ」を見つけて向っているかもしれない。

そうと決まれば善は急げだ、とシールケとシロは立ち上がった。

 

「よろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそよろしくでござる」

 

お互いにぺこりとお辞儀をし、杖の先にオドで明かりを灯したところで、ふとした疑問をシールケは口にした。

 

「そう言えば、あなたもどうしてこんな所に?」

 

考えてもみれば不思議である。シールケの前に立ち、首をかしげてこちらを見ているシロはどう見ても10歳かそこら。

人狼の実年齢がわかるわけではないが、シールケよりも幼くも見える。

 

ましてや人狼は人間を嫌い、避けるもののはずだ。それが人里へと向かっている。

しかも子供が一人で・・・

 

どう考えてもおかしい。シールケはそう考えての質問だった。

 

しかし、そう質問するとシロは俯き、少し暗い表情としてしまった為、シールケは焦った。

何かまずいことを聞いてしまったのかもしれない。

 

「あっ!答えたくないなら別に良いんです。すみません、無神経でした。」

 

そう言って自分まで俯いてしまったシールケを見て

 

「いえ、そんな。謝らないで欲しいでござるよシールケ殿。・・・実は拙者、今は――」

 

バッ

 

突然、何かを言いかけたシロは言葉を切り、後ろを振り返った。

そして耳の横に手を当て、僅かな音を聞き取ろうとしているようだった。

 

「ど、どうしたのですか!?」

 

「い、いえ。本当に微かでござるが、この臭い、どこかで・・・・・それにこれは・・・の音」

 

そう小さく呟いたシロだったが、しばらく鼻をクンクンとまるで狼の様にひくつかせると、急にシールケの方に振り向いた。

 

「そう、それ!そのカバンから出ている臭いでござる。シールケ殿、中身を見せてもらっても良いでござるか!?」

 

「は、はい?」

 

早口でそう聞かれたシールケは、訳が分からないまま、言われるままに鞄をひっくり返して中身を地面に並べ始めた。

 

ロープ・薬草・インク・妖精の粉を入れた包み etc etc

 

それらの道具の中から一つ、ある物をシロは手に取ると、鼻に近付けた。

 

「間違いない、この臭いでござるよ!!」

 

「!!!」

 

シールケが驚いたのも無理はない。シロが手に持っていたのは、ガッツの手から解けた、あの包帯だったからだ。

 

「本当ですか!?」

 

 

予期せずガッツを探す手間が省けそうで、シールケはシロに詰め寄った。

その質問にシロは少し自信ありげな顔で答えた。

 

「犬族の嗅覚は人の数万倍でござる。間違いござらん」

 

「その包帯は、私と一緒にこちらに来た方のものです!シロさん、その臭いを辿れますか!?」

シロの言葉に、シールケは尋ね、シロはこくんと頷いた。

 

「良かった。」

そう言ったシールケは、ひとまずこれで離ればなれという心配はなくなったと、胸を撫で下ろした。

 

 

「しかし、そうも言っていられないようでござるよ、シールケ殿」

 

「えっ?」

 

どういうことですか、と尋ねたシールケに、シロは少し険しい顔でこう言った。

 

「僅かでござるが剣がぶつかる音がしているでござる。お連れ殿はどうやら何かと戦っているようでござるよ」

 

「!!っ」

 

シールケの顔が驚愕のに染まった。

 

「その場所に案内してください!!お願いします」

 

普段は大人しそうなシールケの、必死の剣幕に一瞬呆気にとられたようにしていたシロだったが、すぐに答えた。

 

「心得た。少し遠いゆえ、しっかりと付いてくるでござるよ、汁気殿!!」

 

そう早口に言うと、シロはガッツがいるのであろう方向に走り出した。

なんだか、シロの自分の呼び方に若干の違和感を覚えたが、恐らく気のせいだろうと思い、シールケもその後を追いかけた。

 

 

 

   ―――――――――     ――――――――――

 

 

 

時間は少し遡り、シールケとシロがその出会いを果たした頃、ガッツはひとり、焚火の前に座っていた。

 

川が浅く足から落ちたのでシールケが施した、烙印の力を抑える護符は消えることなくその効果を発揮し続けていたのは、不幸中の幸いであった。

 そのおかげで、こうしてガッツは死霊に囲まれることもなく、静かな夜を過ごすことができていた。

 あたりには死霊のうめき声はなく、只々、川のせせらぎと、焚き木の爆ぜる音だけが響くだけだった。

 

 そんな中、時折火の粉を巻き上げながら燃える炎を、ガッツはそのただでさえ強面の顔を、さらに険しくして見つめていた。

 

ゲートにここへ放り出されたあと、ある程度はシールケを探しに辺りを捜索したガッツだったが、影も形も見つけることは出来なかった。

なぜ念話が通じないのかと思えば、なんのことはない、念話のために必要な指に結びつけられていたシールケの髪の毛は、川に落ちた際にほどけてしまったようであった。闇雲に探してもらちが開かないと判断し、とりあえずはと野宿の準備を整えたのちは、彼はひたすらそうして沈黙を守っていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

そして、夜も深まりだした頃

 

「どうやら、神様ってやつは、俺が相当お気に召さないらしいな・・・」

 

いつまで続くのかと思われた沈黙を破り、ガッツはそうつぶやくと、空を仰ぎ見た。

 

 空に輝く半月、シールケ同様ガッツもその変化には気づいていた。

 

そしてそれが意味することも・・・

 

 

 

もう目の前だった。

 

 

幾百の夜を越え、幾千幾万の亡者をかきわけて、最初はただ自分の燃えたぎる心にせき立てられるままに始めた復讐の旅は、やがて自分に唯一残された、キャスカという篝火を守る旅へと変わった。

 新たな仲間と共にがむしゃらに、キャスカが安らかに生きることのできる安息の地を目指した。

 

そうして、遂には「神」とさえ呼ばれる巨大な海の怪物をも打ち倒した。

 

もう失わないために、守りぬくために。

 

 

そして、朝日が水平線から昇り海を白く染めあげれば、その本懐を遂げられ、長く険しかった旅は報われる・・・はずだった。

       ・・

「そうしたら、これか・・・」

 

ガッツは苦虫を噛みつぶしたような、苦渋に満ちた顔で、そう吐き捨てた。

 

いつもそうだ、とガッツは思った。

自分が何かを決めて、走り出し、その目的を遂げようとすると、いつもいつも邪魔が入る。

 

「キャスカ・・・」

 

シーホース号の甲板で、シールケが言ったことが確かならば、もう危険は彼女には及ばない。例え海獣が襲ってきたとしても、シーホース号は大勢の人魚に守られている。

さらには先日、ファルネーゼは四方の陣の魔術を修得し、海の上ではこれ以上はないといえる鉄壁の布陣だろう。

 

キャスカの身は安全のはずだ。

 

だが、そうと頭は理解していても、今この時に、彼女のもとから遠く離れた未知の土地に引き離されたという事実は、ガッツを大いにいらつかせた。

 

ガッツの心中は、帰れるのかという不安、理不尽に襲いかかった現状に対する怒り、焦燥、そういった感情がせめぎあい、嵐のように吹き荒れていた。

もしここに死霊でも魔物でもいたのなら、そのやり場のない感情をまき散らすこともできたかも知れないが、今はそれも叶わない。

 

烙印の力が抑えられているが故に、何かを考える時間ができ、考えるがゆえに、その焦りや怒りの感情はどんどん膨らんでいった。

 

しかし、しばらくするとバリバリと頭をかき上げた。

 

「だ~っ、性に合わねえ」

 

ごちゃごちゃ考えるのは後だ、とガッツは自分の中で堂々巡りする思考を打ち切った。

そして、これからのことを考え始めた。

このような非常時でも、ガッツはそれなりに冷静だった。

 

長年にわたって、傭兵としてその厳しい世界を渡り歩いてきたからか、頭の一部分だけは冷えたままだった。戦場では後先考えない者は長くは生きられないからだ。(ガッツも人のことは言えないが)

 

 ガッツはシールケが予見した通り、朝になり日が昇ったら近くの人里に降りようと考えていた。 

 

あの頭の良い、小さな魔術師ならば自分がそうすると読んで、魂(光体)を飛ばして探しにくるだろうと思っていた。川を下っていけば、人の住む場所に確実に出られるはずだ。

そこまで考えたところで、それよりも、とガッツは腰のポーチからある物を取り出した。

 

「なんで、これが入ってんだ?」

 

 

 

それは卵だった。ただ、ふつうの卵と決定的に違う点は、その卵の色は青く、その表面には人間の顔の目や口のパーツがまるで副笑いのようにばらばらに配置されていることだろう。そしてその目は、時折まばたきを繰り返していた。

 

ベヘリット、それは人の運命さえも司る高位の霊体がこの世に使わした物体。異界への呼び水。

 

普段はこのベヘリットの世話はパックが(勝手に)していた。

ベッチィーと呼び、寝るときには抱き枕にしているようだったから、こちらに飛ばされたあの時間、これはパックと共にあちらへ残してきてしまったはずだった。

「・・・」

じっとべへリットをガッツは見つめていたが、すぐに鞄に仕舞いなおした。

自分がいくら考えても、分からないものは分からない。

まずはシールケと合流することが最優先だ。

あの白い空間は、恐らく幽界やそれに関わる何かなのだろうとガッツは考えていた。ならば餅は餅屋だ。

まずはシールケと合流するべきだ。

 

 

そうと決まれば、歩きだそう。そう決心するとガッツは立ち上がり、火の始末をしようと土をかけようとした時、異変が起きた。

 

バシュッ

 

そんな音がしたかと思うと、あたりが白い光で照らし出されたのだ。

まさかと思い、音のした方向を振り返った先には、自分が吐き出されたゲートと同じものが10メートルほど先に、地面から1メートルほどの中空に存在していた。そしてその中から人影が現れたのだ。

 

すわ、時間差でシールケが来たのかと思ったガッツだったが、すぐに違うと気がついた。

 

「んん~~?なんだ~ここは?変な光に飲まれたと思ったら知らねえ所に出ちまったぞ?」

 

 そうつぶやいたその人物は異様だった。体にはおかしな意匠がほどこされた甲冑をまとい、猫背の姿勢でよたよたと歩いていた。

 

そして腰の左右にはそれぞれ3本ずつ、計6本のロングソードをさげ、背中には、大の男がひとつ扱うにも苦労しそうな、見るからに重そうな戦斧を2本も背負っていた。

 

「っ!こいつは・・・」

そこまで確認したところで、ガッツは首筋に突き刺すような痛みを感じた。

 その感覚を、ガッツはよく知っていた。

「使徒だ・・・」

 

その声が聞こえたのか、その異様な人物・・・使徒はガッツの方を振り向いた。

 

「お~?へへ、おかしなことになっちまったが、俺は運が良いらしいな~。こんな所で黒い剣士を見つけるなんてな」

 

そう言いうと、その体は突如として人の形を崩し、メキメキという音を立てながら肥大していった。

 

 

そして数瞬の後、そこにいたのは、一言で言うならば、タコだった。

海に住むタコと見た目はまったく同じであった。しかし、我々が知るタコと違う点があった。

体高は2メートルはありそうな巨大さで、その頭部(正確には胴部)には、先ほどの男の顔が浮かび上がり、ガッツをニタニタと見つめていた。

 

 そして、その2メートル近い、長い8本の腕の先端部分は、さきほど携帯していた武器と同化したのだろう、鋭い剣と戦斧と化していた。

 

「へへへ、最近は人間を喰えなかったから調度良いぜ。それに黒い剣士をしとめたとありゃあ、<あのお方>も褒めてくれるかも」

 

そう言うと、使徒は8本の足を使ってずるずるとガッツに近寄ってきた。

 

地球における中世ヨーロッパでは、タコはその奇妙な姿から、悪魔の魚と呼ばれ、忌み嫌われていた。そして、それはガッツの世界でも同様だった。

しかし、その姿を目の前にしても、ガッツの心には恐怖などは微塵もありはしなかった。

 

それよりも、考えるのをやめていた、怒りや殺意というものが一気に頭を染め上げていた。

そしてそれだけではなく、むしろ歓喜さえ、その心にはあった。

 

「ちっ、タコはこの前ので腹いっぱいなんだよ」

 

ガッツはその使徒を睨みながら、忌々しそうに言った。

 

「だが、良いタイミングだ」

 

口の口角をわずかに持ち上げてそう言うと、ガッツはその右腕を、自分の背中へと伸ばし

 

「ちょうどこいつをぶん回したい気分だったんだ」

 

 

・・

それを抜き放った。

 

 




いや~、中々書く時間がなくて遅れました。しかもあんまり進んでません(汗

亀更新ですが、ちゃんと続けますので、よろしくお願いします。
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