「シールケ殿!もう少しでござる。頑張るでござるよ!」
「はっはっはっ・・・は、はい!」
月明かりがわずかに照らす闇夜の森を、シロは途中途中、体力のないシールケを気遣いながらもわずかな臭いを辿りながら駆けていた。
シールケの言うことには、この臭いは一緒にこちらへ飛ばされた仲間のものいうことであった。
彼女は、行き倒れそうになった自分を救ってくれた言うなれば命の恩人。
ならばその恩に少しでも報いねばと、シロは段々と近ずく臭いと、剣がぶつかり合う音の方向へと走った。
「それにしても、便利でござるなあ、その光の魔法。」
ふと思いついたようにシロはシールケの掲げる、先端が光り輝く杖を見ながら感心したように言った。
シロはもともと夜目がきくが、やはり光があるほうがありがたかったし、行灯も人間が使う懐中電灯も不要なその魔法は本当に便利だと思ったのだ。
「い、いえ。初歩の初歩の魔法ですから・・・」
褒められるようなものでは・・・と続けようとしたが、シールケは息があがって声が出せなかった。先刻、この未知の土地で出会ったシロと名乗った少年と共に走りだしてから、すでに3キロはこうして走り続けている。
足場の悪い夜の森を、である。
(なんて体力、息も上がっていない・・・)
自分はもう体力の限界に近いのに、目の前を走る少年は、けろっとした顔で会話をする余裕をも見せていた。
一体どこまで走るのだろうか、シールケはだんだん意識が朦朧としてくるのを感じながらそう考えてだした頃に、シロが急に立ち止まった。
「!!、シールケ殿、静かに」
「はあ、はあ、ど、どうしたの・・・!!」
急に声を潜めて姿勢を低くし、草木の影に身を隠したシロに尋ねかけたところで、シールケはシロの目線の先を見て、声を飲み込んだ。
そこは小川のすぐ横の、森と森の間にぽっかりと開いた場所だった。
そこで黒い人影と、巨大なタコの化け物が戦っていた。
(ガッツさん!!)
叫びそうになるのをシールケは必死にこらえた。
視線の先で、タコの怪物が、その剣や戦斧と化した8本もの腕で、ガッツに襲いかかり、ガッツはその手にした剣で攻撃をさばいていた。
(あれは使徒!?今まで気づかなかったなんて・・・)
ここにたどり着くまでに体力を消耗しきっていたために、シールケは使徒の存在に気づけなかった自分の不注意を悔いた。
(「剣戟の音」というシロさんの言葉で予想することはできたはずなのに!・・・ダメッとても術に集中できない!)
そう思う間にも戦闘は繰り広げられていた。
使徒の攻撃は凄まじかった。その長い腕と同化した武器を、まるで鞭のように振り回し8つの刃が、縦横無尽にガッツに襲いかかる。
その腕が振るわれる度に地面はえぐれ、木々はなぎ倒されてゆく。そして鉄と鉄がぶつかり合う音が絶え間なく響き続け、中空に火花が散り、刹那に「それ」を照らしだした。
(な、なんでござるかっ。<あれ>は!)
シロは、その光景に目を見張った。
それは 剣と言うにはあまりに大きすぎた
自分のよく知る刀とはまるで違う「それ」は
大きく分厚く重く そして大雑把すぎた
それは正に鉄塊だった
シールケの連れ合いであろうその巨漢は、その身の丈を越えるような巨大な剣らしきもので怪物と戦っていた。その動きは、シロの人狼としての視力をもってしてやっと追える程に速く、恐らく常人には視認することは困難なほどの剣速をもって立ち回っていた。
四方八方から襲いかかる攻撃を、ガッツはその大剣で弾き、いなし、時には剣の腹で受け止めながら、果敢に攻め続けていた。
「!!」
シロはそんなガッツの動きに、さらなる驚きをおぼえた。
最初は、その鉄塊のような剣に目を奪われたが、その戦いを見ているうちに気がついたのだ。
(なんという、凄まじい「剣士」でござるか・・・)
シロが驚いたのは、ガッツの体捌きだった。
使徒の攻撃を、わずかに体をそらすだけで紙一重でかわし、後方の死角から襲いくる斬撃をも飛びのきながらかわし、最小限の動きで攻防を行っており、その動きには全くの無駄がなかった。
(体軸にぶれがほとんど無い。)
筋骨隆々の巨体とその巨大な剣から、最初は力を頼りにぶつかっていくタイプかと考えたが、その動きは数え切れない程の場数を踏み磨き抜かれた、熟達した「剣士」のそれであった。
・・・・
(それに・・・八つの刃を同時に捌いている!!)
使徒の攻撃のわずかな隙をつき、ガッツは剣を横なぎに振りぬいた。
その斬撃を使徒はその体をくねらせて避けたが、ガッツは返す刀で切りかかり、その大剣が冗談のような速さで幾度も打ち込まれていく。
ガッツの凄まじい猛撃に、なんとか腕で防いでいた使途はたまらずよろめき、使徒に大きな隙が生じた。
瞬間、ガッツは目にも留まらぬ速さで大きく踏み込むと、袈裟切りに剣を振りおろす。
ゴウッ
凄まじい風斬り音とともに振りおろされるその剣を防ごうと、使徒はとっさに2本の腕を体の前で交差させたが、
ザンッ
「ぎゃあああああああーーー!!」
悲鳴をあげた使徒の腕は切り落とされ、宙を舞って茂みの中へと落ちていった。
「おんどりゃあ、この野郎!」
「ちい!!」
ガキンッ
そう叫んだ使徒は、腕をガッツの横から叩きつけ、とっさに剣で受け止めたガッツは3メートルほど吹き飛ばされ、転がりながら地面に打ちつけられた。
「ガッツさん!!」
「シールケ殿っ、いけない!!」
思わず叫んでしまったシールケを、シロは止めようとしたが、遅かった。
「ん~?ガキだぁ~?お前ら、黒い剣士の仲間か。」
彼女の声を聞きつけた使徒は、顔を二人の方へと向けたのだ。
「よーし、黒い剣士を片付けたら、次はお前等を喰ってやるからそこで待ってろよ~。」
そう言うと使徒はひたひたとガッツに近寄っていく。
(シールケはどうやら無事だったみてえだな・・・誰か一緒にいるみてえだが。)
使徒の攻撃に吹き飛ばされた瞬間、視界の端にシールケの姿を捉えていたガッツは、すぐに体制を立て直すと近づいてくる使徒に剣を構えながら、思考を巡らせていた。
(たくっ、体が鈍ってやがる。)
ガッツは海神との戦いのあと、長らくベッドの上での安静生活を送っていたために全力が出し切れずにいることに苛立ちを覚えていた。
そして、先ほどから感じていた。
自身が身につけている甲冑が、その呪われた力を解き放とうとしている感覚を・・・
ガッツは奥歯を強く噛みしめた。
(引っ込んでろ!!)
そう心で叫ぶと使徒へと駆けだした。
「おらぁっ大人しく喰われろや!」
そう叫ぶ使徒の攻撃をかいくぐりながら一気にその懐へもぐり込み、下段から猛烈な勢いで斬りあげた。
「いっでえ~~~!!!!」
その斬撃で更に使徒はその腕を二本切り落とされ、苦悶の声をあげ、残った四本の腕がガッツに殺到した。
「!!ちいっ」
触腕はガッツの体にからみつき、中空に持ち上げ、ギリギリと蛇が獲物を絞め殺すように締め上げはじめた。
「このまま全身の骨を砕いてやら~。」
使徒はそう言うと、更に力を込めて万力のような力でガッツを締め付けた。
「ガッツさん!」
シールケはガッツの苦境に思わず叫んだ。
しかし、そんな状況下で、ガッツはその左腕を使徒の顔の部分にゆっくりと突き出し、小さくつぶやいた。
「終いだ」
「?」
次の瞬間、
爆音と閃光があたりを包んだ。
「!!??」
ガッツの戦いを見ていたシールケとシロの二人は、突然の音と光の刺激に首をすくめた。
そして数瞬のち、二人の目には使徒の腕から解放されたガッツが頭部を大きく吹き飛ばされた使徒に止めの一撃を打ち込み、使徒が倒れ伏す光景が映し出されていた。
(あの左腕、義手・・・しかも大砲を仕込んでいたのでござるか!!)
なんと大胆な・・・
「ガッツさん!!」
そう思っていると、傍らのシールケがガッツのもとへと駆けていった。
「あっシールケ殿、待って欲しいでござるよ。」
そう言うと、シロは己の恩人であるシールケの連れ合い、ガッツと呼ばれた男を見つめ、何かを決意したような真剣な顔で追いかけた。
前回から、8ヶ月も経っていました(愕然)
本当に申し訳ありません!
全然話が進まない上に戦闘シーンが難しすぎて拙い文章ですが、これからもよろしくお願いします。
こんなニッチな小説を、複数の方がお気に入りにして下さっていて感激です!!