GSガッツ   作:棚かぼちゃ

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弟子

 ガッツは困惑していた。

 

 使徒との戦闘の合間に、自分をシールケが見つけ追いついてきたことは幸いだった。見知らぬ地ではぐれた人間とこんなに早く再会できたのは奇跡に近いだろう。最初は、シールケが魂を飛ばして自分を見つけたのかと思っていた。

 

 しかし、走ってきた小さな魔女が言うことには、使途に吹き飛ばされた際に視界の端に映った第三者、「シロ」という名の少年が案内してくれたのだという。

 

 しかも人狼の子供で、臭いを辿って来たのだというのから驚いた。

確かに、シールケを追って小走りにやってくる小さな姿が近ずくにつれ、ガッツは首筋に小さな違和感を覚えた。

 

(かすかに疼くが…)

 

 ガッツに刻まれた烙印は<魔>に反応して痛みを引き起こす。眼前の人物が人外であることはその白い尻尾からも明らかだった。しかし、シロに感じたものは痛みというよりも、むしろ以前出会ったシールケの師匠である、あの老魔女に感じたものに近かった。

 

(悪いもん、じゃあねえか……)

 

 とりあえずは、人外であろうとも敵意はない。シールケをここまで導いてくれたのだから邪悪なものではないのだろう。

 

 むしろ礼のひとつでも言うべきかもしれない

 

 ガッツはそう思い、口を開こうとしていた。

 

 そう、ここまでは良かった。人魚であるイスマなど、人間に協力する人外がいることは分かっていたし、今更妖怪変化に驚くほど細い神経も柔な旅をしていない。

 

しかし

 

 

 「拙者を弟子にしてくだされ!! 」

 

 人外に弟子入りを申し込まれたのは初めてだった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ガッツさま…とおっしゃいましたな」

 

 そう言うとシロは土下座の姿勢をとり、ガッツに申し出た。

「わけあって仇を追っております!が、敵は恐るべき妖刀の使い手…!」

 

 そして更に強い語調で続けた。

 

「先ほどのガッツ殿の剣技、感服いたしました…!!その技をぜひ、ご教授願いたいのでござる!!」

 

 そこまで一息に言い切ったシロにガッツとシールケは呆気に取られ、しばし反応が遅れた。

 

「仇?」

 

 ガッツは数瞬の沈黙ののち、聞き返した。

 

「はい!拙者はいまだ未熟な身、仇討ちを果たすため、どうか拙者に剣の修行をつけて頂きたいのでござる。」

 

 シロは真摯な瞳でガッツに頼み込んだ。

 

 しかし

 

「剣士ごっこなら家に帰ってするんだな、ガキンチョ」

 

 ガッツは冷たく言い放ったのだ。

 

「なっ!?」「ガッツさん!」

 

 シロはすげなく断られたことに驚きを隠せず、シールケは非難の色のこもった声をあげた。

 

 しかしガッツは気にもせず続けた。

 

「シールケを引っぱてきてくれた事にはまず礼を言う。だがな、こっちは今忙しいんだ。他を当たりな」

 

 そう言い放つとシールケのもとに歩きだした。

 

「そんな!待って欲しい出ござる!!」

 

 血を吐きそうな声で呼び止める声を気にも止めず、ガッツは歩を止めない。

 

「ガッツさん、そんな言い方あんまりだと思います。せめて話を聞いてあげてもいいじゃないですか!私とガッツさんがこんなに速く出会えたのはあの子のおかげなんですよ!」

 

 シールケにそう言われると、ガッツは小さくため息をつくとシロを振り返った。ガッツとシロの視線がぶつかり、シロはガッツの心変わりを期待した。

 

 しかし

 

 

「お前、人を切ったことがあんのか?」

 

「!!…っ」

 

 ガッツの問いにシロは驚き、そして目を伏せた。

 

 そしてガッツはシロが握りしめている木刀に目をやった。

 

「その棒きれで、何を切るつもりなんだ?」

 

「っ!!せ、拙者は…!!」

 

 羞恥や怒り、不安 様々な色が混ざった声でシロは何かを言おうとしたが、ガッツは話は終わりだとばかりに背を向けてしまった。

 

「行くぞ、シールケ」

 

「………」

 

「?」

 そう言ったガッツだったが、シールケから返事がなかったためガッツはシールケを見下ろした。

 

 するとシールケはジト目でガッツを見つめていた。

 

「…なんだよ」

 

「ガッツさんは言い方があんまりです。少し話してきます」

 

 そうぶっきらぼうに言い放つと、シールケは立ち尽くすシロのもとへ駆けていった。ほぼ涙目のシロを慰めにいったようだ。

 

(ったく、真面目な魔術師殿だな…)

 

 婆さん、あんまり素直すぎんのも考えもんだぞ、と今は亡きシールケの師匠にガッツは文句を内心で言った。

 

 なにもガッツとて、意地悪や悪気があって冷たく突き放したわけではない。それはガッツがシロを僅かな間に観察し、考え、出した結論なのだ。

 

 シロは幼かった。肉体年齢は人間でいえば10~12歳ほどだろう。見ようによっては更に幼く見える。自分の旅にくっついてきた生意気な少年、イシドロよりも線が細く、未発達であった。

 

 確かに、剣を習っていたのだろう。服の上からでも鍛えられた体つきをしていることがガッツには分かった。しかし、子供にしては…というだけだ。

 

 さきほどの会話から、人を切った経験はないことは分かった。そんな子供に付け焼き刃で稽古をつけたところで、返り討ちにあうのが目に見えている。

 

 子供であろうと、イシドロのように大の大人と戦うことはできる。

 

 しかし、あれは大人を相手に生き残る術を必死に考え、トリッキーな動きやセコいことも平気でやる根性があるからこそである。

 

 そこにくると、生真面目そうなシロはそういうことが出来るようには見えなかったからだ。

 

 それに自分たちが忙しいというのも本当だ。一刻も早くシーホース号へ帰る手段を見つけなければならないのだ。

 

 確かに、この見知らぬ地で最初に出会った友好的な人物だ。いくつか情報が欲しいところではあったが、剣の稽古をつけろとなどというのは勘弁だった。そんな暇はない。

 

そんな訳で、こっちには稽古をつける気などないということを伝えたのだ。

 

 聡明なシールケのことだ、ガッツの考えは大体わかっていただろう。しかし、頭ではわかっていても、シールケの良心が咎めたのだろう。

 

 

 そう考えながら、ガッツは先ほど倒した使徒の死体をしげしげ眺めながら話し合うシロとシールケに視線を向けた。

 

強く言い過ぎた・・・などという反省の念を抱くようなガッツではない。しかしこのままでは 

 

「シールケ殿があやまることでは…」

「ガッツさんが…」

「それてもこの怪物…」

「これ・・使徒といって…」

などと言いあっている二人はあの場を動かないだろうと判断したガッツは、とりあえずシロの同行を許せばシールケも機嫌を直して動くだろうと思い、声をかけようとした。

 

 しかし、そこでガッツは何か大きな違和感を覚えた。

 

(なんだ?)

 

 ガッツは自分が感じた違和感の正体がわからず、目を細めた。

 

 とても嫌な感じがする。しかし何故かがわからない。わからないのに、その違和感はみるみる膨れ上がっていく。

そして使徒の死体のそばに立つ二人に、ガッツは再度目を向けた。

 

そして気づく

 

 

 

 

なぜ……

 

 

 

 

 

 

   ・・・・・・・・・・・・

なぜ、使徒の死体が存在している

 

理解した瞬間、ガッツは全力で二人のもとへ背中の剣に手をかけ、駆け出し、叫んだ。

 

「離れろ!!」

 

 「えっ?」

 

 ガッツの声にシールケが振り返ったのとほぼ同時だった。

 

「シールケ殿!!危ない!!」

 

 シロが叫んだ。そしてシールケをかばうように空中に身を踊らせ、

 

 ドシュッ

 

 「あっ…」

 シールケの目の前で、自分を庇ったシロは使徒のロングソードと化した腕に切り裂かれ、鮮血を散らせた。

 

 

 

 

 

 

 

(なぜ気づかなかった!最近は使徒以外との戦いが長すぎて呆けてやがったのか!)

 

 人の身でありながら、その身に魔を宿し、転生した使徒の体内は地獄へと繋がっている。

死した使徒はその内包した地獄の死者に引きずりこまれ、人間だった頃の身体のみを残し、この世から消滅する。

 それなのに今の今までそのことを忘れていた自分にガッツは悪態をついていた。

 

「いでえええええ、いでえよおおおお!」

 

 使徒はその体の大部分をガッツにより吹き飛ばされ、ずたずたになってなお、生きていた。

 

「食ってやる、おまえら全員、食ってやるぞーーー!!」

 

 そう叫ぶタコの怪物の頭部には、ガッツが先程吹き飛ばした位置とは違う場所に、苦悶に満ちた人間の顔が浮かびあがっていた。

 

 タコはもともと生命力の強い生き物だ。その性質を大きく受け継いでいるこの使徒は、本体、つまり人間の顔の部分を潰さなければそう簡単には死にはしないという特性を持っていた。

 

 ガッツの砲撃を受けた瞬間、使徒はとっさに本体を別の場所に移動させ死をまのがれたが、その衝撃と痛みで気を失った。

 

 そして目を覚ました使徒は目の前にいた二人に襲いかかったのだ。

 

 柔らかそうな子供二人を旨い肉に変えるため、腕を振りおろそうとした。

 

 ガッツは間に合わないと判断すると、胸部のホルスターの投げナイフを二本投擲した。

 

「ギャアあああああああああ!!」

 

 ナイフは見事に使徒の両の目を捕らえた。

 

「シッ」

 

 ガッツは腹に力を込め、使徒のグネグネと無茶苦茶に振り回される腕をかいくぐり、その大剣を二度振り、使徒の本体である頭部を抉り取った。

 

 

 ガッツはかつて倒した、一国の伯爵の地位についていた使徒も、頭部が弱点であったことを思いだし、この使徒もその類だろうとあたりをつけたのだ。

 

 ドチャッ と音を立てて地面に落下し、頭部だけになった使徒は、それでもなおナメクジのように這いずり、逃げようとした。

 

「嫌だ。死にたくない死にたくない死にたく・・・」

 

 グシャ

 

 そんな声も、ガッツによって叩き潰され、今度こそ使徒は絶命した。

 

 

 

 

 

 

「シロさん!!しっかりして下さい!!」

 

 自分を身を挺して庇ってくれたシロに、シールケは目に涙を溜めながら声をかけ続けていた。

 

「シールケ殿…ご無事でござるか?」

 

「喋ってはだめです!速く治療を!!」

 

 シロの傷は酷かった。小さな体の胸から腹部にかけて袈裟切りにされ、大量に出血していた。シールケは鞄の中からあらゆる傷に効く極上の良薬、妖精の粉を探しながらあることに気づいた。

 あの使徒のロングソードはシロの身長ほどもあったはずだ。それを受けたにしては傷が浅いのである。本当なら真っ二つなっていてもおかしくは無いはずなのに。

 

そこでシールケはシロの右手が輝いていることに気がついた。

 

 

 

(これは!小さいけれど、気<オド>が濃縮して形を成すなんて。なんて器用な!!)

 

 恐らくとっさにこれで斬撃を弾いたおかげで助かったのだろう。

 

 そう考えながらも治療を進めたおかげで、出血はほぼ治まった。しかし、多量の出血で意識も朦朧としているのだろう。目の焦点が合わさっていない。そのせいなのかシロはうわごとのように呟いた。

 

「そういえば、シールケ殿…拙者ずっと気になっていたでござる。」

 

「何ですか!シロさん!?」

 

 重体にもかかわらず、やけに軽い調子でシロは何かを訊ねようとした。

 

 とにかく声をかけ続けなければ、そう思ったシールケはシロの意識をつなぎ止めるために大きな声で聞き返し、緊迫して言葉を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拙者たち今、何語で会話してるでござるか?」

 

 

 

 

 

・・・ずっこけそうになった。

 

「今はそんなこと言ってる場合じゃありません!!」

 

 つい突っ込んでしまったシールケだが、見るとシロは気を失ってしまったようであった。事態は余談を許さない。早急に安静にできる場所に運ばなければならない。

 

 そこにガッツがやって来た。

 

「おい、大丈夫なのか」

 

 ガッツの問いにシールケは険しい顔で答えた。

「一刻を争います。いくら人狼の生命力が高いといってもこんな場所では…」

 

 シールケとガッツはあたりを見回した。

 

 真冬ではないにしても、十分に気温は低く、あたり一面は砂利だらけだ。せめて屋根がある場所につれて行きたかった。

 

「ちっ、人里に降りるには時間がかかり過ぎるな……ん?」

 

 

 周囲を見ていたガッツは遠方のある一点で視線を止めた。

 

「あれは!!」

 

 シールケはガッツの視線の先に目を向け声をあげた。二〇〇メートルほど先に、明かりが一つ見えたのだ。

 

 今まで木々に遮られて気づかなかったが、ほぼ間違いなくそれは人家の明かりだった。

 

「「…」」

 

 二人は無言で頷き合うと、ガッツはシールケからシロを受け取ると、明かりの方へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 <彼>の眠りは、家の玄関を何度も叩く音によって破られた。

 もう朝なのかと思って窓を見たが、そこは黒一色、まだ夜中であるらしい。時計に目をやるとまだ午前四時であった。一体こんな時間に何の用だと、来訪者の非常識を彼は呪った。ノックではなくインターホンを鳴らせと不機嫌にぶちぶち言いながら、ひとつここはガツンと文句を言ってよろうとベッドから出て玄関へと向かい、今だ叩かれ続けるドアを開けた。

 

「おい!一体こんな時間になん…じゃ?」

 

 深夜に叩き起こされた不機嫌を込めて、大声で怒鳴ろうとした声が尻すぼみになったのには、訳があった。

 

 最初は、今日はハロウィンだったかと<彼>は考えた。なぜなら、玄関の前に立っていたのは、紫色の魔女装束を来た少女だったからだ。

 

「お嬢ちゃん、こんな夜中に…!!」

 

 しかし、すぐにそんなはずは無いと思い直し、こんな夜中にいたずらをしにくるとは、親の顔が見てみたい・・・。そんなことを考えながらこちらを見上げている少女に掛けようととした声は、またも最後まで出すことが出来なかった。

 

 その少女の背後から、屈強な大男が現れたからである。

 

(な、なんじゃこいつは!!)

 

 その大男を見た彼は驚愕した。まずはその男の顔に無数に残る傷跡が、刃物によるものだとすぐに分かった。次にその目、人間の一人や二人は軽く殺しているではないかという鋭い眼光と失われた右目。

 

 すぐに<そっちの人>だと<彼>は思った。

 

「な、な、な…。」

 

 言葉が出ず、立ち尽くすことしかできないでいる彼に、大男は低い声で言ったのだ。

 

「悪いな、ちょいと屋根を貸してくんねえか?連れが斬られたんだ。」

 

 斬られたなどどいう、現代日本ではそう耳にしない剣呑な言葉とともに男はその腕に抱えていたものを示した。

 

「人狼の子供なんです!速く治療しないと危ないのです。お願いします、少し部屋を貸してください!!」

 

「!!、人狼って、狼人間!?しかも刀傷だと!?」

 

 大男が抱えていたのは、血だらけの子供だった。しかも少女の言葉によると、狼人間らしい。

 

 その情報を得た<彼>は急に押し黙ってしまった。

 

「「?」」

 

 

 少女と男の横を<彼>はすたすたと無言で横切り車に乗り込むと、吠えるように叫んだのだった。

 

「オカルトも抗争ももうたくさんなのに!!逃げても逃げても過去がわしを追ってくる!?

極道に生まれたもんは一生極道やとでもいうんかーーー!!」

 

 そのまま<彼>・・・元地獄組組長・地獄太郎(54)

 

 かつて、とある呪術師に命を狙われ、ある霊能力者に金づるにされ、トラウマを植え付けられたことをきっかけに極道から足を洗い、この山奥の別荘に隠居した哀れな男は、暗闇の彼方へと走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 「「…………」」

 

 たどり着いたやたら立派な(確実に平民のものではないと思われる)家の主に部屋を貸してほしいムネを伝えると、家主はなにやら叫んだと思うと馬が引くわけでもないのに高速で走る馬車に乗り込むと、いずこかえと走り去ってしまった。

 

 ガッツとシールケはしばらく呆然としていたが、すぐにシロの容態を思いだし、家主には悪いが家を貸してもらうことにした。

 

 そして居間にあった暖炉に火を灯し、布でシロの傷口と血を拭き取り包帯を巻いた。

 

「一応できる限りの処置はしました。ですが今日は半月、人狼の回復力は高いとされますが月がここまでかけていては危ないかもしれません」

 

 シールケはそう言うと、シーホース号で負傷したガッツによくしていた様に、シロへ気<オド>を流し込み始めた。気<オド>を与えることで、傷の治りは促進され、痛みは和らげられる。

 苦しそうな顔をしていたシロの顔が段々と穏やかなものとなり、静かな寝息を立てる頃には空が白みだしていた。

 

 太陽が顔を出したのと同時に、シロの身体が輝いたと思うと、人間の姿から狼の姿に変わってしまったことに二人は驚いた。

 

 人狼とは普段は人間で、月の魔力によって変身するものだとされていたからだ。

 

「…狼というよりゃ、犬っころだな。」

 

 しかし、所変われば品も変わるものだ。自分たちの常識が通じないのかもしれないと思うだけで、看病を続けた。

 

 そして、引き続き気を流し込み続けたシールケが疲れ切って眠ってしまった頃には日が暮れ、今だ目を覚まさないものの、シロの容態は安定していた。

 眠ってしまったシールケに代わって、ガッツはシロを腕に乗せて温めていた。シールケ曰く、他人と触れ合うだけでも、微少ながら気が通い合うため、なるべく抱いていた方が良いということだったから渋々従っていた。

 

 シロは時折、うなされるように何度も何度も口にしていた。

 

「仇を。父上…」

 

「………」

 

 ガッツはその間、シロを膝の上に乗せて、身じろきひとつせず黙していた。

 

 まるで狼の親が、子を守るかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も深まりだした頃、ガッツは閉じていたまぶたを、感じた眩しさによって開いた。

 

 そして目を見張った。腕の中にいたシロの身体が輝きを放っていたのだ。そしてシロはかすかに目を開いていた。

 

「おい…気がついたか?」

 

「ガッツ…さま?」

 

 そう返答する間にもシロの輝きは増してゆき、臨界に達するように輝いた。

 

 そして、ガッツの声で同じく目を覚ましたシールケとガッツは目を見張った。

 

 

「シロ、お前…」

「どうしたんです? ガッツさ…え!? シロ…さん?」

 

 ガッツとシールケが驚いたのも無理はない。

 

「あ…あれ!? 拙者なんか大きくなっているよーな…なんで?」

 

「お前、女だったのか…」

 

 一日で小学生が高校生くらいになったら誰でも驚くように、シロは急激に成長していたのだから。

 

 

 

 がつがつ はぐはぐ もぐもぐ がふがふ

 

 もっちゃくっちゃもっちゃくっちゃ

 

 

 そのあと、シロは空腹を訴えた。

 そこで、家の中にあった箱(なんと中が氷室のように冷えていた!)の中にあった肉を片っ端から焼き、それをもの凄い勢いで平らげていた。

 

(どうなってんだ? こりゃ)

 

 肉がシロの体積よりも消費されているのではないかという光景を見ながら、ガッツは隣のシールケに目で問いかけた。

 

「恐らく、人狼の怪我から回復しようとするパワーと、私が流した気<オド>の影響だと思います。」

 

 相変わらず一心不乱に食べ続けるシロを見ながらシールケは答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 そのまましばらく経ち、ようやく食欲も収まった頃、そこにはきまずい空気が流れていた。

 

 なにしろ弟子入りを申し込んだ側とすげなく断った側が、成り行きとはいえ顔をつき合わせているのである。それはそれはお互い何を言うべきか分からない空気に満ちていた。

 

 だが、最初に口を開いたのはシロだった。

 

「拙者を看病してくださったこと、感謝申し上げる。しかし…」

 

 そして一息いれ、ガッツに強い意志のこもった目を向けた。

 

「卑しいやつだとも、厚かましいと思われても構いませぬ!拙者にはどうしてもガッツ殿の剣技が必要なのでござる!どうか!!」

 

 それがしを弟子に…

 

 

「……」

 

 そう言って頭を下げたシロを、ガッツは黙したまま見つめていた。

 

(やはり、駄目でござるか…)

 

 実際には数分にも満たない沈黙が永遠にも感じられ、シロが諦めかけた時、ガッツが口を開いた。

 

 

「…話せ。」

 

「は?」

 

「お前の事情ってやつをだ。」

 

「!!、で、では?」

 

 弟子入りを許可してくれるのか、そんな期待を込めてシロは聞き返した。

 

「聞くだけ聞いてやる。判断はその後だ。」

 

「は、はい!」

 

 そうしてシロは自身について語り始めた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 シロは山奥の、人払いの結界で守られた小さな人狼の里に生まれた。

 

 もの心ついたころには既に母は亡く、父に男手ひとつで育てられた。

 

 

 厳しい父だった。子供の自分にもまったく容赦のない剣の稽古を朝から晩まで、毎日続けた。稽古といっても木刀で打ち合う。稽古の度に体中に痣ができた。時には軽く骨折するほど打ち据えられた。

 

 強くあれ

 

 迷わぬように

 

 守れるように

 

 父がいつも言っていた言葉だった。父とはあまり会話をした記憶がない。あまり多くを語る人ではなかった。

 

 

 厳しい父だった。そして、優しい人だった。

 

 シロはもっと幼い頃、熱病に侵された。何日も高熱が続きヒーリングも効果はなく生死の境をさまよった時、普段は厳しい父があたふたしながら、必死に看病をしながら声をかけてくれていたことを夢見心地に覚えている。

 

 そして、父は妖怪の病を治せる薬を作る事が出来る天狗のもとへ赴いてくれた。

 

 天狗は力を示した者にしか薬を授けない。薬を授かるには剣で戦い、勝利しなければならなかった。

 

 父は、その戦いで右目を失いながらも、シロのために戦い、勝った。

 

「おまえの命とひきかえだ。他に腕の二、三本もくれてやっても惜しくはない。」

 

 そう言ってくれた事、そしてその時浮かべていた笑顔は今でも覚えている。

 

 

 

 厳しい人だったが、強く、優しい、そんな父をシロは目標とし、尊敬し、愛していた。

 

 

 いつか成長して、父から一本をとり「強くなったな」と不器用に頭を撫でてもらう。

 

 それがシロの夢だった。

 

 

 しかし、その夢はもう叶わない。

 

 父はもういないのだから。

 

 殺されたのだ。一人の人狼(どうぞく)に。

 

 下手人の名前は、犬飼ポチ

 

 犬飼ポチは人間を恨んでいた。森を切り開き自分たちを追いやってきた人間に復讐するのだと常から言っていた。

彼はシロの村に古くから伝わる妖刀<八房>を持ち出した。

 

 八房は、一振りで八度切りつける妖刀だ。それだけではなく、切った生物から霊力を吸収し、使用者の力に換える。

 

 そしてポチは人間を殺し力を蓄え、<狼王>となって人間への報復を果たすのだといって、村の禁を破り人里に降りていった。

 

 それを止めようとした父が切られた。

 

 その報せを聞いて、シロは村を挙げて追うものだと思った。

 

 しかし、期待は裏切られた。

 

 只でさえ数の少ない人狼の血を、これ以上減らすわけにはいかない。長老は誰もポチを追ってはならないと触れを出したのだ。人間には気の毒だが、森を減らす報いだと思ってもらうと。

 

 当然、身内を殺されたシロは強く釘をさされた。追ってはならない、幼いお前では返り討ちにあうだけだと。

 

 シロは幼いながらも、その理屈が正しい事は理解していた。しかもシロは人狼の中でも更に稀な女性。周囲の気遣いも感じてはいた。

 

 

 

 それでも…許せなかった

 

 そして何時も父との稽古に使っていた木刀をひっ掴み、村を飛び出したのだ。

 

 そして、行き倒れそうになった所をシールケに救われ、ガッツと出会った。襲いくる8本の剣戟をいとも容易くいなす人物に。

だからこそ、弟子入りを申し出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「「「……………」」」

 

 

 シロが話し終えたのち、沈黙がその場を再び支配していた。

 

 ガッツは目を閉じ、黙ったままだった。そんな彼をシロとシールケは固唾を呑んで見つめていた。

 

 

 しばらくそうしていたが、ガッツはおもむろに口を開いた。

 

「…シールケ」

 

「えっ!? は、はい!」

 

 まさか自分に声がかかると思っていなかったシールケは驚いて聞き返した。

 

 

「お前が決めろ。お前はこいつに助けられた借りがある。お前が恩を感じるってんなら、俺はそれでいい。」

 

 そう言うとガッツはまた眼を閉じ黙り込んでしまった。

 

「!!、ガッツさん…はい」

 

 

 

 シールケの性格を知ってなお、シールケがシロを拒むわけがない事をわかった上で、ガッツはシールケに判断を委ねたのだ。

 

 

 

(もう、素直じゃないんですから。)

 

 

 そう思いながら、シールケはこちらを見つめるシロに向き直り、笑顔で頷いた。

 

「!!っシールケ殿…有難い」

 シールケに頭を下げたのち、すぐにガッツにシロは見つめた。

 

 

「ま、魔術師殿がこう言ってんだから仕方ねえ。剣の稽古はつけてやる。だが、技やらなんやらを教えんのは勘弁だ。自分で考えろ」

 

 目を閉じたままガッツは呟いた。

 

「ガッツ殿…いえ、先生!!よろしくお願い致しまする!!」

 

 

 こうして、シロの弟子入りが正式に決定した。




全然話が進んでいません。お待たせしたのに申し訳ないです。
「ガッツが弟子入りなんてのを簡単に許す人間なわけないだろ」と思われるかもしれませんが、その描写は追々挟もうとおもってます。
なんとかこの後の展開も考えてはいますので、亀更新ですがよろしくお願いします

あと、シロの父については、原作での描写が少なすぎてかなり作者の想像で書いています。それと組長さんの地獄太郎という名前はGS美神18巻の別荘の表札より。
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