GSガッツ   作:棚かぼちゃ

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本当に遅れてすみません。



道中

 朝日の柔らかな光が差し込み、草花は朝露をたたえていた。春が近いことを感じさせながらも、時折首をすくめるほどの冷たい風が肌を撫でる。

 はらりはらりと枯れ葉が舞う森の中で、シロはその手に持った得物を正眼に構え、眼前の人物に相対していた。

 相手もまた得物を構え、シロに対し、もし視線に物理的な力があるのならば切り裂かれるような鋭い眼光を向けていた。その構えには隙がなく、静かで鋭い闘志が伝わってくる。

 

 双方の間には10歩にも満たぬ隔たりしかない。

 

(無闇に手を出せば…斬られる! )

 

 彼女の本能と、剣士としての勘がそう告げていた。

 

 双方はしばらくの間、身じろぎもせずににらみ合っていた。聞こえてくるのは風の音と、それに揺らぐ枯れ葉が立てる乾いた音だけ。

 そして、その風さえも止み、相手の心臓の音さえ聞こえてこようかと言うほどの静寂が空間を支配した。

両者は動かない。何時間が過ぎたのであろうか。あるいは1分も経っていないのかもしれない。緊張の中で時間が間延びしているかの様に感じられた。

 しかし、その静寂は破られた。

 突如として強い風が吹雪のように枯れ葉を散らし、相対者の視界を一瞬遮ったのだ。

 

(今だ!)

 

 シロはその好機を逃すまいと、その人間離れした脚力でもって一瞬で距離を詰め、得物を振りかぶり、そして…

 

 

 

 

 

 

ばこっ

 

 

 

 

「ぎゃん!!」

 

 

相対者…ガッツに得物(そこら辺で拾ってきた棒きれ)で脳天を叩かれ、情けない声をあげながら地面に倒れ伏した。

 

 

 

「…また駄目でしたね」

「う~、なんででござろうか?」

 

 

 

 二人の稽古をそばで見ていたシールケは、シロの頭のたんこぶに気<オド>を当て痛みを和らげてあげながら、涙目のシロに声をかけた。

 

「タッパが違う大人相手に上段に振りかぶってどうすんだ…。それにお前は動きが直線的すぎる。それじゃすぐ動きを読まれるぞ」

 

 ガッツは棒きれで己の肩をぽんぽんと叩きながら、あきれ顔でシロの問題点を挙げていく。

 

「う~、それでももう少し手心を加えて欲しいでござる。叩かれすぎてそろそろ頭の形が変わりそうでござるよぉ」

 

 シロは弱々しく抗議するが、どこ吹く風と、ガッツはまるで意に介していないようであった。

 

「でも、シロさんも最初に比べたら段々今の身体に慣れてきたのではないですか?」

 

「まあ、そうではござるが…」

 

シロは曖昧な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

少し時間は遡る。

 

 

 

 

 弟子入りを認めたガッツは、シロに剣を教えるにしても、それは飽くまでまずは自分たちが元いた場所に帰るための情報を集めるついでのことであると釘を刺した。

 そして、日が昇る前に別荘を出発することを告げた。

 

「家主が衛兵を引き連れて戻ってきても面倒だ」

 

 緊急であったといえども勝手に人様の家に上がり込んで食料まで頂いていては、立派にならず者である。

 今こうしている間にも、このような家を所有する裕福な家主が兵士を送り込んでくるかも知れないという考えからだった。

 

 その提案にシロとシールケは頷いたあと、昨晩のあいだに保存を良くするために燻しておいたソーセージや肉類を仕舞ったり荷物の整理を始めた。

 

 

 あらかたの準備が終わり、少し時間ができたところでガッツはシロに犬飼ポチの居場所の目星は付いているのか尋ねた。

「はい、恐らく犬飼は人の多い東京に向かっているはずでござる」

 

「…なら、まずはそのトウキョウに案内してもらおうか。情報を集めるにも人が多い町は丁度いい」

 

もとよりそのつもりだとシロは答えると、犬飼の持つ妖刀、八房の特徴を詳しく話した。

 

曰く、飛ぶ斬撃が一振りで八度襲ってくる

 

曰く、たとえ鉄であろうともたやすく両断する

 

曰く、斬った相手の力を吸収する

 

「…で、そんなもん相手にお前に勝機はあんのか?」

「飛ぶ斬撃」という言葉に、ガッツは旅の連れ合いであるセルピコが使用している風の刃を思い浮かべていた。

大鷲の翼で出来た魔法の羽箒は、振るうことで複数の風の刃で敵を斬り裂く。飛ぶ斬撃の厄介さは理解できる。

 もっとも、ガッツも直接その剣先を向けられたことはないが。

「…確かに、八房は強力な刀でござる。しかし、いかに八房といえども、霊刀だけは斬れないのでござる」

 

そう言ったシロに今度はシールケが疑問を投げかける。

 

「でも、そんなものを持っているのですか?」

 

 霊刀とは、イシドロが所有しているサラマンダーの短剣のような、存在自体が霊的な力で構成されているものや、長い年月を経たり霊的に鍛えられたりしてその刀身に霊力を宿した刀剣のことである。そこら辺にホイホイとあるものではない。

 もしや、シロが握りしめていた木刀がそうなのかと思ってもみたが、なんの力も感じることはできなかった。

 

「もちろんでござる!これが拙者の霊波刀でござるよ」

しかし、シロはそう言って右手を掲げると、そこにリンゴ程度の大きさの光玉が現れ、その一部がわずかに刃のような形に伸びていた。

 

「!」

「…」

 

その現象を見て驚きを見せたのがシールケ、特に何も言わなかったのがガッツである。

 

「それは…私を助けてくれた時のものですね?」

 

そう言ってシールケはその輝きを観察する。

「すごい…霊力に安定した形を保たせるのはとても難しいことなのに」

 

 魔術師であるシールケは、霊力を体外で一定の形に保ち続ける難しさを知っていた。シールケの師が話してくれたお話で、シロのように霊力を武器に変えて戦う者もあると聞いたこともある。しかし、霊力は使用者のイメージに大きく影響を受けるため、並外れた集中力か才能がなければ形を一定に保つのは難しいのである。

 まして、それを戦闘という意識がぶれやすい状況下で保ち続けるのは至難の技であった。

 

 だからこそ、それを知るシールケはシロの才に感嘆した。

 

 しかし、ガッツにはそんなことはどうでも良かった。

思うのはただ一つ。

 

「それでどうやって戦うつもりなんだ?」

 

これだけである。

 

「うっ…拙者、人間形態ではこれが精一杯で…」

 

 どんなにそれを成すことが難しいことでも、役に立たなければその価値は大きく低下する。ましてや戦場で命を懸ける武器がそれではお話にすらならない。

 

「…その口振りだと、狼の姿ならば満足に扱えるのですよね? 相手も昼間は狼の姿に戻るのなら、刀を扱えない昼間に戦えば良いのではないですか?」

 

「いえ…八房は所有する人狼の力を飛躍的に高めるうえに昼間でも人型を保つことを可能にするのでござる。そして、拙者たち人狼の力が強まるのは夜。故に、人間形態での修行が必要なのでござるよ」

 

 

「…まあいい。剣は俺が稽古をつけてやる。そいつはシールケに見てもらえ」

 

そう言ってガッツの目配せを受けたシールケは頷いた。

 

「はい! 」

 

 そうして剣の稽古はガッツが、霊波刀に関する指導はシールケが行うことになった。

 

「では早速、八房に対抗するために先生の剣技を「駄目だ」…なっ、何故!?」

 

 最後まで言う前に拒否された彼女は出鼻のくじかれてしまった。

そんな彼女に彼はこう言った。

 

「お前、わかってんのか?」

 

「?」

 

はてな? と、ガッツの言わんとしていることが分からないシロは、狐につままれたような顔で首をかしげた。

 

 そんなシロにガッツはおもむろに暖炉の脇に置いてあった薪を手に取ると、シロの顔に向けてスナップをきかせて投げつけた。

 

(??? 先生は何をしているのでござろうか)

 

 シロはその人狼としての動体視力でもって、迫りくる薪をしっかりと捉えていた。

 思わせぶりな師の言葉とこの行動の関係が理解できず、疑問だけが頭の中を占めていたが、この程度の速さならばなんの問題もなく反応できる。

 

わけが分からないまま、彼女はそれをキャッチしようとして・・・失敗した。

 

「ぶべっ!」

 

シロの手は掴むべき対象の後方の空を切り、薪はシロの鼻面に命中した。

 

 

(!?!?)

 

シロは、一瞬なにが起きたのか分からず、目を白黒させたあと、床に転がった薪を呆然と眺めていた。

完璧に意識が捉えていたにも関わらず、なぜ掴みそこねたのかが分からなかった。

 

「手足の長さが変わってんだ。自分の身体も思うように動かせねえようじゃ、なにも出来ねえぞ。」

 

「あっ…」

 

ガッツにそう言われて、やっとシロは理解した。

 当然といえば当然だ。一晩で身長が二桁単位で変化したのだ。今までの感覚では対応できるはずもない。

手足の長さが変われば、当然ながら歩幅や手の届く範囲も違ってくる。

 そうなれば自分の間合や剣筋も今まで通りではないという事。そんな状態では本格的な剣の練習など出来るはずもない。

 

「まずは自分の身体に慣れろ。話はそれからだ」

 

「…はい」

 

己の体ですら思うように扱えないことに気づかされたシロは、見るからに意気消沈したようであった。

 

「拙者、昼間は狼の姿に戻ってしまうでござるから、余計な時間が増えてしまうでござる…」

 

 

 

「あの、シロさん。そのことなんですが…これをどうぞ」

 

「これは…なんでござるか?シールケ殿」

 

 そんなシロに、シールケが何かを手渡した。それは、捻れた木で出来たリングに、なにか複雑な文様が彫り込まれたもので、ガッツの連れ合いであるキャスカが首に付けている魔除けの首輪にそっくりであった。

 

 

「樹齢1000年を超える神木を削ったものに、月の紋章を刻みました。それを付けていれば昼間でも人の形を保っていられるはずです」

 

手渡されたそれからは、強い神秘性を感じることが出来た。

 

「!!、シールケ殿…ありがたい! 」

「そんなもんを作ってたのか」

 

ガッツとシロは彼女が昨晩のうちから何かをせっせと作っているふうだったのには気づいていたが、まさかこんな物を作っていたとは思いもよらなかった。

 

「そんな貴重なもの…良いのでござるか? 」

 

自身の手に乗っている物が、持っていくところによっては非常に価値のあるものであると感じたシロは、シールケに問いかけた。

 

「助けて頂いたお礼です。気にしないでください」

 

「!、シールケ殿~」

 

「きゃあっ、ちょ、シロさんやめてください。くすぐったいです!」

 

にっこりと笑顔で答えたシールケに、感極まったようにシロはその白い尻尾を千切れんばかりに振りながら抱きつき、その顔を舐め回したのであった。

 

 

 

 こうして、東京に向かう合間にシロは感覚を掴む為にガッツに向かっていき、その度に頭を叩かれる光景が繰り返されたのである。

 

 

 

 

 

 

「ほとんど感覚は掴めたのは良いでござるが、先生は隙がなさすぎるでござる。」

 

 シロは持ち前の超感覚で既に激変した己の体に順応し始めていた。

 

 

(バケモンかこいつ…いや、そうだったな。)

 

 ガッツは心中でひとりごちた。

 彼もまた、己の身体の変化に順応するために修行をおこなったことがある身であった。左腕と右目を失い、重心や半分になった視界に慣れるために、比喩ではなく血を吐くような無茶な修行を何日も続けたことがある。通常は意識することのない自身の体というものの変化に慣れることは並大抵のことではなかった。

 しかし、それにものの半日で順応し始めたシロに彼は態度には出さずとも驚きを禁じ得なかった。

 

 また、何度も撃退を繰り返す中で、シロの身体能力には舌をまく気持だった。

基本、動きがわかりやすいため難なく反応できるが、自身の頭の高さまで跳躍して切りかかってこられた時には流石に加減が仕切れず、とっさに強く叩き落としてしまった時もピンピンしていた。

 見た目はただの人間の少女と変わらないため、その人外性が発揮される時は少なからず驚いてしまったのであった。

 

 

 

「先生、もう一度お願いするでござる!」

 

「それはいいが…」

 

「先生?」

 

 更に稽古を頼んだシロだったが、師が自分をなんとも言えない微妙な目で見ていたため、彼女はどうしたのだろうかと見つめ返した。

 

 そして彼は軽くため息をつくとこう言った。

 

 

 

 

 

 

「てめえには羞恥心ってもんがねえのか?」

 

 

 

 

「へっ?」

 

 

 

 

 ガッツの言葉にシロは意味が分からず間が抜けた声を出した。

 

そんな彼女に横で見ていたシールケが顔を少し赤くしながら声をかけた。

 

「シロさん、もう少しそのぉ…肌を隠したほうが良いのではないでしょうか。」

 

 

 

 

 

 そう言われてシロは自分の身体を見下ろした。

 

 昨日までの自分の体にはなかった、すらっと延びたまぶしい程に白い健康的な長い足と腕。腰にはくびれが出来て、女性らしさが現れている。

 肌は激しい運動のために上気し、玉のような汗が浮かんでいる。腰まで伸びた白い絹糸のような髪を後ろでひとつに結び、動く度に揺れた髪が光を受けてキラキラと輝いていた。

 

 

 そんな美少女の柔肌を隠しているのは、あの別荘の衣装ダンスから失敬してきた、驚くほどの伸縮性を備え体にぴっちりと張り付き、その胸部や腰のラインがまるわかりの薄く黒い肌着のみだった。

 

 

ガッツ達のいた地域では、女性は肌が見えるような服装をしなかった。胸元を晒すどころか、足首がのぞいているだけでも周囲の視線が痛いものに変わるような社会的な貞操観念があった。

 太ももがむき出しで、体の線が丸わかりの格好をする者など、色町の娼婦にすらいなかった程である。

 

 そんな常識を持つ2人からすれば、今のシロの姿は破廉恥以外のなにものでもなかった。

 

 そもそも、急激な成長のせいで着られる服がなかったシロが衣装箪笥を漁ってひっぱり出してきたものからしてガッツ達の常識からは逸脱していた。

 少し厚手とはいえ、やはり伸縮性のある生地で出来た半袖のシャツに、片方が太ももでカットされた青いズボンであった。

 

((あの固太りのおっさんの家になぜこんな服が…))

 

と思うガッツとシールケだったが、裸で歩かせるわけにもいかず、出発が遅れるのも旨くないと考え、深くはつっこまなかった。

 

 しかし、修行をつけて欲しいと言うなり春をひさぐ者たちですら呆れ顔をしそうな格好になったシロに、2人はド肝を抜かれたのであった。

 

 

「そんなに変でござるか?動きやすくていいでござるよ?」

 

などと言って、運動でこもった熱を逃がすためにインナーの胸元を彼女はひっぱり、それを見てまたシールケが顔を赤くしたのであった。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

剣の稽古が終われば、次はシールケが教鞭をとる番である。

 

「シールケ殿、よろしくお願いするでござる。」

「はい。よろしくお願いします。」

 

 手始めに、シロに霊波刀を出すように指示し、シロの手のひらに現れた霊力の塊を彼女はつぶさに観察した。

 

(やはり凄い。魔術を学んだわけでもなく、触媒も使わずに感覚だけで自身の霊力をここまで操れるなんて…)

 

 不完全な形ながら、霊力に形を持たせる難しさは前述の通りである。シールケもやろうと思えば出来るが、戦いの中でやろうとは思わないものだった。

 

「いいですか。霊力は使用者のイメージに大きく左右されます。こうありたいとする強固なイメージを持つことが、霊力を扱う基本であり奥義なのです。」

 

「イメージ…」

 

シールケの言葉をうけ、シロは目を閉じ意識を集中させる。

(犬飼、父の仇…!!)

 

 

 シロの脳裏には、父や犬飼ポチの顔が浮かんでは消えていく。そして様々なイメージの中で、最期に重い浮かべたのは自身の木刀であった。その形や、重さ、どこにどんな傷やへこみがあったのかさえ詳細に思いだせる愛刀である。

 

グワッ

(!!)

 イメージに集中するシロを見守っていたシールケは、シロの霊波刀に変化が現れたことに驚嘆した。

 

(出力が上がった! なんて霊的センス…普通は何日もかけて具体的な像を思い浮かべる修行をするものなのに…わかっていたけれど、なんて集中力。)

 

シロの霊波刀は徐々に刀の形状に延び始めていた。

 

(あと少し!)

 

劇的に進歩するシロを見て、シールケは知らずのうちに身を乗り出して見守っていた。

 

そしてシロの霊波刀は完全なものに近づき・・・

 

 

 

 

 

 

 

ぐ~ぎゅるるるる

 

「…へっ? 」

 

 

 

間抜けな腹の虫の鳴き声と共に霧散した。

 

 

「肉、骨、ちくわ」

 

シロがそんなことを呟いているのを聞いて、シールケは一気に脱力してしまった。

 後ろで見ていたガッツまで呆れ顔であった。

 

「とりあえず、メシにするか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も深まった森の中、焚き火を囲んで既に寝付いたガッツとシールケを見やりながら、シロは考えていた。

 

(本当に拙者は、良き師を2人も持てて幸せ者でござるなぁ…)

 

 

(先生にもシールケ殿にも感謝しきれないでござる。)

 

 無茶を言って弟子にしてもらった自分を、2人は真剣に教えてくれていることに彼女は心の底から感謝していた。

 

 自身の最大の武器である、霊波刀を成長させることに大いに貢献してくれたシールケには頭が上がらぬほどだ。

 

そして、先生…ガッツのもとで稽古を積めば、強くなれるという確信のようなものがあった。

 構えているものが木の棒であったとしても、斬り裂かれるような気迫を発する彼との稽古は非常にためになるものだった。なにか技を教えて貰える訳ではない。

 だが加減をしないでも、し過ぎるでもない彼との対峙は緊張感があり、なにより悪い部分への指摘が的を射ている。熱くなると我を忘れて教えてもらったこともどこかに飛んでしまう自分の未熟には恥入るばかりではあるが…

 

(これからもご指導ご鞭撻、よろしくお願いするでござる。)

 

 

(それにしても…)

 

 シロは、木にもたれ掛かって目を閉じている師を見やった。

 

 正確には、そのすぐそばに置かれている黒い鎧を。

師がいつも身につけている全身鎧、以前からそれを見ていると、なにか不安というべきか、胸騒ぎを感じることがあった。

 

 まるで、大きな獣にこちらを覗き込まれているかのような…そんな感覚を。

 

(ああ、もう眠い。速く強くなって…父の…を)

 

 だが、そんな取り留めのない考えも訓練の疲れから来る睡魔によって遮られ、シロの意識は急速に闇に沈んでいった。

 

 そして、まぶたが閉じきる刹那

 

 ガッツの後ろに「黒い何か」がうずくまっている。

 

 そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 その後、わずか二日ほどで自身の肉体の変化と、霊波刀の発動を驚異的なスピードでシロは身につけていった。

 

 

 シロが次の段階に入ったと判断したガッツは、木刀での打ち合いを厳しいものとしてシロの頭にたんこぶを量産した。

 また、彼が所有する、折り畳み式連射ボウガンを使って、同時に襲いくる飛来物に対する訓練を行った。(矢じりは取ってあるが当たると痛い)

 

 

 

 シロの稽古をつけながらで、普段の旅からすれば比較的ゆっくりと進んだ一行は数日後、日没に東京が見渡せる場所までたどり着いた。

 

 「あっ!見えたでござる。あれが東京でござるよ! ・・・先生?シールケ殿?」

 

 

 目的地がようやく見えたことに喜んだシロは、喜色を浮かべて己の師と恩人を振り返った。2人もさぞ喜ぶことだろうと思っていた彼女の目に映ったのは、驚愕とも焦りともとれない、複雑な顔であった。

 

 「?」

 

 不思議に思ったシロは声をかけたが、すぐに2人はなんでもないと答え、そのまま町に入っていった。

 

 東京に着いたはいいが、困ったことが発覚した。夜も深まっていたので安い宿でも探そうという話になったおり、3人とも金銭の持ち合わせがなかったのである。シロは当然のごとく文無しであった。持ち合わせがあれば行き倒れになりはしない。期待の目を向けた師が持っていたのは、なんと銀貨や銅貨で、日本円ではなかった。というよりも21世紀に使われているものではなかった。

 そういえば、恩人であるシールケは人を寄せ付けぬ森の中で暮らしていたと言っていた。人狼の里のように外界から隔絶した異国の彼らが日本円を持っていようはずもなかった。

 銭がなければ宿にも泊まることは出来ない。そこで一行は近場にあった公園の、植木で人目につかない暗がりで一夜を明かすことにした。ガッツの黒い甲冑とマントは、まるで闇に溶けるかのようにその巨体を隠していた。

 

 シロは、町に入ってからどうも先生たちの様子が変だと思っていたが、土地勘が全くなければ不安なのも当然だと考えた。

 

 (このあたりの土地勘がまだあるのは拙者だけでござる。しっかりせねば。)

 

そう思いながらシロも眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだ…これは…? )

 

 やっとたどり着いた目的地、トウキョウ。その光景は、長く様々な地方を旅してきた経験のあるガッツの理解をも越えたものであった。

 

 辺りを一面を覆い尽くすほどの人、光、摩天楼のごとき建造物群、馬が引かぬ鉄の馬車。嗅いだことのない独特な臭い。

 

 

 ちょっとやそっとのことでは動揺することのない彼をもってして、その光景は常軌を逸していた。

 

 ふと横を見ると、シールケはガッツ以上の衝撃を受けたのであろう。茫然と周囲を見回していた。

 

 しばらくそうしてつっ立っていた2人にシロが「不審がられたら ショクムシツモン されてしまう」という言葉に突かれて、

歩き出したが、宿を取ろうにも金がなかった。

 銀貨や銅貨は価値の違いはあれど、大抵使えると思っていたが、どうやら当てが外れてしまったようだ。

 

 町の中心部から外れた広場で夜を明かすことになった。

 

 そして早々に寝付いてしまったシロを横目に、ガッツとシールケは向かい合っていた。

 

「…どうなってんだ。こりゃあ」

「……」

 

 口に出したところで、目の前の少女に答えられるはずもないのは彼にも分かっていた。

 

 




 





東京に着くだけで終わってしまいましたort
ちょと、今後の人生が色々かかっていたため、なかなか執筆に身が入りませんでした。

少し落ち着いたので、書きました。突貫執筆でしたので、いろいろ書き直すかもしれません。生存報告をしたいと思い、推敲もせずに投稿してしまいました。

楽しみにして下さっていた方、申し訳ない。

今後も亀更新になると思いますが、なんとかフェンリル編だけは終わらせたいと思っています。よろしければ、今後もお付き合い下さい。

今回も勝手な解釈でご都合主義です。

Q・異世界なのに月の紋章は同じなの?

A・ギクッ
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