夕刻、町は人ごみであふれ返っていた。隙間なく立ち並ぶビル群が空を狭め、窓からは光が漏れせわしなく歩き回る人影が見える。
飲食店の看板が誘蛾灯のように空腹を抱えた人々をおびき寄せていた。
赤ら顔のサラリーマン・若いカップル・仲間と遊び回る学生達。
そんな騒がしくも平穏な光景の中を、一際目立つ人影が三つ、人ごみをかき分けながら進んでいた。
いや、よく見るとその一行が人々を押し退けているのではない。人々のほうがその三人組の前からどいているのであった。
2メートルを越えようかという大柄の男、赤い前髪に長い白髪が鮮烈な少女。そして誰もが「魔女」と聞けば想い描く紫色の装束に杖を持った童女が目の前から歩いてくれば、当然の反応であったのかもしれない。
言うまでもなくガッツ達であった。
「いやー、割のいい仕事でござったな! 先生!!」
「ああ、こいつはいいぜ」
「まだ不安はありますが、これで当面の資金はなんとかなりそうですね」
喜色を満面に張り付けて今にも踊り出しそうなシロにガッツとシールケもまた、嬉しげにうなずいた。
その手には、学問の推奨を説いた文豪があしらわれた紙幣で膨らんだ封筒が握られていた。
15時間前
朝日が昇ると同時に、ガッツの意識は浮上した。深い眠りから覚めたというよりは、浅いまどろみから意識が覚醒したと言ったような、頭の奥に重さを残した目覚めだった。
夜に熟睡することを許されぬ時間をあまりに長く過ごしたため、彼の闇のなかでの眠りはひどく浅い。
以前、彼に夢魔が悪夢を植えつけようと近づいた際にも、彼は文字通りの鉄拳でもって叩き潰し撃退した。生物の根元欲求たる睡眠さえもこの男にとっては致命的な隙とは成り得ない。その様はまるで野生の獣のようですらあった。
時間の経過によって意識が鮮明になった後もわずかばかりの間、彼は目を開かなかった。
そして、一度大きく息を吸い、吐いたあとでようやくまぶたを上げた。
彼は願っていたのだ。
吸い込む空気が、長らく慣れた潮の匂いに満ちていることを。目に映るものが己の巨体には少々手狭な船室であることを・・・今ここが「彼女」のいる世界であることを。
目を開けることで、あの己に弟子入りを願った狼の娘も、たどり着いた町で見た奇妙な光景も、すべてが一夜の夢であったと確認出来ることを願っていた。
何に願っていたのかは分からない。本人でさえも。
彼は祈り、願うべき対象を持たない。超常たる存在、俗に「神」と呼ばれるモノ達が自身を助けてくれたことなど一度もありはしなかったから。
むしろ憎悪すらしていた。
戦場で、背中を預けるに足る仲間を「信頼」することはあった。かつて、自分に付いてきた気のいい者達には「親愛」を感じたこともある。
幼少の頃から、同年代の子供が受けるべき愛情も、庇護も受けることなく、世のすべてが脅威に満ちていると認識していた彼にさえ、まったく人間らしい感情はあったのである。
しかし、ある対象に唯々祈りをささげるような「崇拝」という行為を彼は好きになれなかった。
多くの戦いの中で、神や何者かに祈りを捧げながら死んでいる者達を見る中で、その思いはより堅固なものとなっていった。
その者達は、一様に自身の死が迫っている中で、手を組み合わせていた。もしその手に剣を掴んでいれば生き残れたかもしれないのに、生存のための闘争を、祈るという行為が諦めさせていたのだった。
この世で最後の最後、ここぞという場面。
そんな時に頼れるものは唯一おのれ自身であると彼は信じていた。
だが、そんな彼をして「ナニ者か」に祈ろうとしてしまう程に、現実は彼を追い込んでいたのであった。「神」がいるなら一度くらい自分の願いを聞いてくれてもいいのではないか、なんなら坊主の真似でもしてやろうと思う程度には・・・彼を知る者ならば、この鉄の意志が鎧を着て歩いているような男がこれ程までに弱りはてている様子は何かの冗談であろうか、いやそうに違いないと思うであろう程に、参っていた。
そして、神は困った時だけ急に自分の信徒になるような者を助けてくれるはずもなかった。
「…」
朝の淡い陽光の中で、鮮やかな新緑の草木が目に入ってくる。しかし、それは森の木々のような生存競争の中での混沌としたものではなく、人の手で整理された秩序だった緑であった。
そして、その緑の向こうを馬が引かぬ鉄の馬車が、馬の全力疾走ほどのスピードで通り過ぎていく様を網膜が捉えたことで、彼の昨夜までの全てが夢であったのではという儚い期待は霧散したのであった。
(とりあえず…顔でも洗うか)
僅かな期間で様々な事態に巻き込まれ、理解が追いつかない中でも、ただ取り乱しても何の得にもならないと考えた彼は、毎朝のルーチンワークをこなすことで精神の安定をはかろうとした。。
しかし、この広場には井戸がなかったため仕方なく持参の水を少量だけ使って顔を洗った。井戸は大抵の場合はこのような町の広場にはあるはずなのだが、当てが外れてしまい、手持ちの水も心許ない量となってしまった。
お世辞にも気分壮快とはいえなかったが、幾分すっきりとした彼がふと目線を動かすと、寝息を立てている少女2人が目に映った。
シールケは元々旅慣れしていなかった為、陸路での移動は体力的にきついものがあった上に、この全てが異彩を放つ町が、事象が、彼女の精神にも負担をかけたのであろう。疲労の色が濃く寝顔にも現れていた。
一方で、シロはなんとも間抜けなにやけ顔で眠っていた。何も言わずに町中を歩いていれば、10人中9人は振り返るような端正な顔立ちも、涎を垂らしながら「もう食べられないでござる…」などとお決まりの寝言を言っていては台無しであった。
ガッツは2人が目を覚まし準備が整ったならば、なにはともあれ水場を探すつもりであった。
水は腐りやすく、個人で携行できる量も限られるものである。そして人間の活動に必要不可欠なものであり、清潔な水の入手は人類史の中でも大きな命題であり、現在もそうあり続けている。
それからしばらくして、太陽が元気に西方を温め出した頃に目覚めたシールケもどうやら同じことを考えているようであった。
しかし、顔に涎の跡をつけて最後に目を覚ましたシロがとった行動に2人は昨晩から何度目かわからない驚きを味わった。
何やら公園の端にあった小さな石柱に付いた金具をシロが捻ったと思うと、綺麗な水が次々とそこから湧きだしたからである。
その水で彼女が顔を洗っている様を、2人は呆然と見ていた。
「?…ああ! これは水道でござるよ。井戸で水を汲まなくてもいい仕掛けでござる。人界の町は便利でござるな~」
黙っている二人を振り返ったシロは、ふたつの視線が自身が使っている蛇口に集中していることを理解した。
彼女はガッツとシールケが水道を見て驚いているのを見て、昨晩にここ東京へたどり着いた際に二人の師から発せられていた焦りのようなものの正体を理解した。
シールケから聞いた話では、二人は異国の奥深い森の中で暮らしていたと言っていたではないか。
つまるところ、自分と同じように水は天と川そして井戸から得る生活を送っていたのだ。
そして、一切この人間界に来たことがないのであろうと思い至った。
であるならば、驚くのも無理はない。自身も何年か前に長老に連れられて初めて人の町に来た時は、何もかもが己の常識とかけ離れた光景に目を丸くしたのだから。
そこまで考えて、シロは二人の師に説明を口にしたのであった。いつもモノを教えて貰ってばかりでの自分が教える側になったことに、二人の不安を取り除いて差し上げなければという全く彼女らしい生真面目な気持ちと、ちょっぴりの優越感を感じながら。
「「…」」
そんな説明を受けて、ガッツとシールケはコンコンと流れ出る水で顔を洗っていた。
確かに、ガッツ達の世界にも上下水道が発達した文明や都市は存在していた。水道橋などの建設により日々の生活用水の入手が格段に便利になったり、上水道が各家庭に生活用水を行き渡らせる程に整備された町も極少数ながら存在していた。貴族などに至っては噴水という、貴重な水を生活に使うためではなく観賞のために使うという豊かさの象徴としての技術を作っていた程であった。
しかし、金具を捻っただけで水が出てくる施設など見たことも聞いたこともなかった。
試しにその水を手に汲んでみたが、砂もゴミも混じっていないようであった。シロに言われ、警戒しながらも一口飲んだが、問題なく飲むことができた。
煮沸せずとも問題なく飲むことが可能であり、若干変な風味(殺菌のカルキ臭だが知る由もない)もあるが清潔な水がこんなにも手軽に入手できることにガッツとシールケは何度目かもしれぬ驚きに、疲れたような気分にさせられたのであった。
皮袋に新しい水を満たし、干し肉の簡単な朝食を摂った三人は今後どうするかを検討していた。
シロは自身の最大の目的である犬飼ポチの追跡と言おうとしたが、犬飼の「い」と口にした瞬間に脚下されてしまった。
「このばかでかい町じゃ、噂を集めるにも時間がかかる。衛兵…警察だっけか? に聞きゃお前の仇の情報は手に入るかも知れねえ。」
だが、それで今日、明日に見つかる訳ではない。ではその間、自分達はどうするのか。
昨晩、宿を取ろうとして銀貨が使えないことが分かっている。銀貨が駄目ならと、ガッツは使途を狩る旅の中で、倒した使途からがめていた金の指輪や優美なカットが施された大粒の宝石など、ちょっとした財産レベルの現物でどうかと持ちかけたが、断られてしまった。
手持ちの貨幣は使えない。物々交換も駄目。まったくの無一文であった。
町にあった見せ店(だな)も覗いたが、商品には値段らしきものが書かれており、数字は不思議なことにガッツ達が使うものと酷似、いや全く同じであったが、他の文字は見たこともないものであった。
ここでも、氷室の中のような涼しさ。綺麗に捌かれた肉類、魚類、野菜が大量に扱われており、彼らの世界の店の規模では考えられない品ぞろえを誇っていたが、段々驚くことにすら疲れてきたため、そういうものだと理解するようにした。
そうして、満場一致でたどり着いた結論は、
「先立つものが必要だ」であった。
「兎に角、ここでの資金を拵えるぞ」
そう思って町中に職探しに繰り出したが、あえなく退散するはめになった。
それもそうだ。少女二人を連れた全身を黒いマントと鎧で覆った強面の大男。
怪しい。怪しすぎる。よくも歩いているだけで通報されなかったものである。
そんなのが店に入ってきて「仕事をくれ」と言っても「はい、いいですよ」と答える店などあるはずもなかった。
中にはOKをだした奇特な店もあったが、ほっと胸をなでおろした一同も、次の一言で撤退を余儀なくされた。
「では履歴書を提出願えますか?」
そんな物、あるはずもなかった。
「まさかここまで見つからねえとはな…」
町中を西日に顔を照らされながら、三人はどこか重い足取りで歩いていた。
職を探すことすら勝手が違いすぎた。旅をする中で、柄の悪い連中が集まる酒場の用心棒をしたりして日銭を稼いでいた感覚がまったく通用しないとは思っていなかった。
野宿にも貧しい食にも慣れているが、無一文がずっと続くのは流石に不味い。自分はともかく、子供のシロとシールケには辛いものがある。
「…ちっ」
そんな悩みを抱えているところに更に追い打ちをかけてくるのがあった。
ガッツは立ち止まると軽い舌打ちとともに周囲に睨みをきかせた。
すると、周りの群衆はさっとガッツたちとは明後日の方向を向いた。
そう、人々の目であった。
見られる 見られる 見られ続ける。
自分達の格好や男一人に少女二人の構成。目立ちすぎていた。
「えっ何? コスプレ?」「中世ファンタジー系かな?」
「完成度ぱねえ」「剣士と黒魔と・・・でもあの子はなんだろ?」
ここまで目立っていまだ警察のお世話になっていないのは、怪しすぎて逆に怪しくないという現象が起きていたからであった。
だがそんな事は知らない一行には悩んでいる所をチラチラと見られるのは苛だたしいものであった。
「おい、シロ。お前何か知らないのか?」
自分達よりこの町に詳しいシロに尋ねるも、しゅんとうなだれた尻尾と困り顔しか返ってこなかった。
さしもの彼もいよいよ参ったと思い出したころ、ふいに彼は自分達を一際熱心に見つめる目に気づいた。
40代後半から50代半ば、スーツにネクタイ。そして輝くような頭頂部。
平々凡々なサラリーマン姿の男性がこちらを見ていた。
彼はガッツ達が自分を見返してきたことに気づくと、おずおずといった体で近づいてきた。
「あの~、すみません。」
腰の低い態度で、男性は鞄から名刺を取り出しながら3人に尋ねた。
「なんだ?」
「間違いなら申し訳ないのですが、皆さんはGS(ゴーストスイーパー)の方でしょうか? 」
「…」
GS(ゴーストスイーパー)
初めて聞く単語に、ガッツは何も答えなかったが、その沈黙を男性は肯定と捉えたようだった。
「わたくし、ハゲヤマ商事の増髪 豊房(ますがみ とよふさ)と申します。折り入ってお願いがあるのですが、立ち話ではなんですので、すぐそこの事務所までご一緒いただいてよろしいでしょうか?」
そう言いながら男はぺこぺこと頭を下げた。
「おい、あんた」
「っ! 勿論でござる!!ねっ? 先生!!」
ガッツがいぶかしげに何か聞こうとした言葉を、突然シロがさえぎった。
「シロさん!?」
「・・・」
突然声をあげたシロを二人は驚きをもって見たが、その目が「信用して欲しい」と訴えていたため、なにも言わず頷いた。
「あ、ありがとうございます! ささ、こちらです」
豊房のあとを付いていきながら、ガッツはシロに目線で説明を求めていた。
(おい、どういう事だ)
(そうですよ、いきなり付いて行くと言い出すなんて)
(すみません先生、シールケ殿。でもこれで仕事にありつけるかもしれないのでござる。)
三人はこの会話を声を出すことなく行っていた。
よく見ると彼らの小指には緑色の糸のようなものが巻きつけられていた。
シールケの髪の毛である。彼女たちはこれを触媒にすることで頭の中で念話を可能にしていた。
(先ほどの【GS】というのは悪霊や魔物を退治することを生業にしている者達のことでござるよ。かなり高額な報酬をもらえることもあるとか)
(成る程な。そりゃ、おあつらえ向きだ)
(確かに…)
もし仮に、今まで行く手を遮る悪霊を切り捨てるたびに賞金が貰えていたならば、ちょっとした富豪になれているであろう二人は一応の納得を示した。
そして10分も歩くと、なにやら4階の窓ガラスが盛大に割れている雑居ビルに案内された。
「突然の申し出にお越しいただいてありがとうございます。あの、まずはお茶でも」
「前置きはいい。本題は?」
部下にお茶を淹れるよう指示しようとした豊房をガッツは手で制した。
「は、はい。実は・・・」
聞くと、以前この会社に勤めていたが、度重なるセクハラと着服がばれて解雇され自殺した男の悪霊が棲みつき破壊の限りを尽くしているのだという。
恨みの念が強かったのか、それなりに強力な悪霊になってしまっていたため、塩をまいたり神社のお札などの一般人にも可能なお祓いでははどうすることも出来ずゴーストスイーパーを探した。
しかし、確実に除霊できるような有名なGSを雇うには法外な契約金が必要でとても頼めない。
なので無名の駆け出しGSを雇おうとしたが、多くの者は誰か有名なGSの弟子であるために仲介料としてこれまた大金を要求されてしまう。
そのため除霊を頼めない状態が続いていた。
途方に暮れていると、見るからにGSらしい恰好をして、自立していながら無名っぽい自分達を見つけたため声をかけたのだという。
説明を聞いたのち、彼らは静かに悪霊のいるフロアの入り口から中を覗き肉眼で対象を確認してから談話室に戻った。
「話はわかった。で、いくらまで出せるんだ?」
戻ってきたガッツは早速、報酬の話に移った。報酬以外にも細かな取り決めを素早く行っていく。
さすがに傭兵をやっていただけあって、事前契約はすぐに行うのが染みついていた。
「はい。当社としましては~、このぐらいで・・・」
そう言って、紙に示された数字を見てガッツたちは一瞬固まった。
500,000円
「「「……」」」
(ああ、駄目か…)
値段を見た途端黙ってしまった3人を見て、豊房は天を仰ぎそうになった。
正直、安すぎる。GSの除霊に必要なお札や武器、それらは非常に高額で、この程度では道具代にすらならない。
相場からいっても、お話にならない値段だとは思う。しかしこれが限界だった。もともと小さい会社で自転車操業なのに、ここ最近は悪霊のせいでまともに仕事もできない。
命がけの仕事ゆえ、断られて当たり前だと思っていた。
もし自分がGSの立場だったら絶対に断るだろう。
そして、目の前の大男の鋭い目線がこちらを捉えた時には悲鳴を上げそうになった。
「いいぜ。引き受けた」
だから、その言葉が一瞬信じられなかった。
「当社としましては~、このぐらいで…」
「いいぜ。引き受けた」
(ガ、ガッツさん! すごい大金じゃないですか!?)
(GSは儲かると言うでござるが、これ程とは思ってなかったでござるよ!)
(ああ。こいつはいい仕事だぜ。)
豊房が感謝の言葉とともに手を握ってくるのに応えながら、ガッツたちは念話を行っていた。
以前覗いた店で売っていた鳥肉や魚の値段から察するに、この一回の報酬で1ヶ月ちょっとは食べるだけなら困らない大金だった。
報酬が良いのも引き受けた要因のひとつだが、最大の要因は悪霊がそんな大したことがなさそうだったからであった。
ガッツは首筋の烙印に感じる痛みによって魔物の力を感じることが出来るし、シールケとシロはその霊感で自分たちの頭上のフロアにいる悪霊の力を感じ取っていた。
結論からいって、今まで道すがら押し寄せてきた雑霊たちにちょっと毛がはえた程度の力しか感じなかったため、これは美味しい話であると結論づけたのだった。
もしそれが使途のような怪物だったなら、好き好んで人様のために戦ったりはしない。
逆にこちらがとまどう程に感謝してくる相手に応えながら、余程困っていたのだろうと思っていた。
「ちくしょ~。ちょっと乳や尻やふともも触っただけやないか。あの時だって…」
現場に向かうと、悪霊は立ち尽くしながらぶつぶつと独り言を繰り返していた。
「行くぞ」
ガッツはそう言うと、なんの躊躇もなくオフィスに踏み込んでいった。
「えっ、だ、大丈夫なのかい? なにも準備をしているように見えなかったけど」
逆に除霊を依頼した本人が心配になり豊房は少女たちに訊ねた。
よくテレビや雑誌で紹介されるGSは、特殊なお札や儀式、戦化粧をした姿をしているため、除霊にはもっと準備が必要なものだと思っていた。
しかし、あの巨漢はまるでちょっと散歩に行くかのような気軽さでもって向かっていったため不安になったのだ。
だが、かわいらしい少女達はまるで不安がる様子もない。
その目からは大きな信頼が見て取れた。
(それにしてもホントに可愛い子だな。)
ゴシャッ
「え!?」
そんなことを考えて一瞬見とれて目を離した僅かな時間ですべては終わっていた。
男がそのおよそ人類には扱うことは不可能に思われる大剣で悪霊を近くにあった机ごと真っ二つに切り裂いていた。
「ね? 大丈夫だったでしょう?」
と言うかの様な目で自分を見る少女2人に、豊房は乾いた笑いがでるばかりだった。
そのあとは約束通りの金額を現金で受け取り、ガッツ達は去っていった。
薄暗くなった町に消えていく3人を見送ったあと、豊房はなんだか脱力していた。
以前、当世一とうたわれる敏腕女性GSに依頼をもちかけた時は、報酬として1000万円を要求された。
他も値段の高低はあったものの、とても予算がたりなかった。
一度は首をくくることまで考えるほどに悩んでいた事象が、本当にあっと言う間に解決してしまって呆然としてしまった。
事前契約で除霊に伴う物品の破損は報酬から差し引かないという契約があったにしても、50万ぽっちで引き受けてくれたあのGSには感謝しきりだった。
「あっ、お名前聞くの忘れてた…」
現在
三人は手ごろな居酒屋に腰を落ち着かせていた。
何をするにも、先立つものがあれば行動の幅は大きくなるものである。
今まで悪霊退治で金儲けをしようなど考えたことのなかったガッツとシールケにとって、今日の仕事は非常に今後の展望に光を挿すものだった。
なにしろ怪物相手は文字通りの百戦錬磨。先ほどの悪霊程度でこれ程の金額が手に入るのは素晴らしいことであり、探せば仕事の種はあちこちにありそうであった。
シロにメニューを読ませながら、よく冷えた酒精と肉類をガッツは頼み 少女二人は果汁を絞ったジュースと魚の炙り焼きを食べて一息ついた。
「ん? 」
そこでガッツは、うつらうつらと船を漕ぎ出したシールケに気付いた。
無理もない。ここ数日は野宿と森を突っ切る強行軍。そしてこの驚異に満ちた環境のなかで精神にも疲労が蓄積していたのだろう。
年端もいかぬ彼女には辛いものであったことだろう。
見るとシロも疲れの色が隠せなくなっていた。
「…」
勘定を済ませると、そんなシールケをガッツはその大きな背に背負って宿を探した。
規則正しい寝息をたてているシールケをどこか羨ましそうに見ながら、シロもそのあとに続く。
「あ、先生。あそこは泊まれるみたいでござるよ」
そう言ったシロの声もどこか覇気がない。彼女が指差した宿に入りながら、せめて今夜くらいは柔らかいベッドでゆっくり休んでくれとガッツは思っていた。
こうして、三名の夜は久しぶりの清潔なシーツとふかふかのベッドの中でふけていった。
その宿 「ホテルニューキャッスル ご休憩4000円から!」の店員がこの不思議な三人組に、思いっきり怪訝な顔をしたのはまた別のお話。
お久しぶりです。
なんか文章を書くのが久しぶりで、自分でもなにがしたいのか分からなくなりました(アホ)
カッコいい戦闘シーンとか入れたいなと思ってましたが、それはまた今度ということにしました。(カッコいい戦闘が書けるとは言ってない)
ガッツたちって悪霊退治にノーコストでいけるからいいですよね。
色々調べてたら14世紀くらいの傭兵の日給ってそれなりに良かったみたいです。
1日3万円くらい。まあ命がけだから、多少はね?