「王子ー!ファント王子ー!」
「何処にいらっしゃるのですかー?」
物陰に隠れ、警備の者が通るのをやり過ごす。
足音が遠くに行ったのを聞いてから俺は廊下を走った。
手には二枚の衣服を持って。
階段を駆け下りて二階へ。一番近くのバルコニーまで駆け抜ける。
バルコニーに出て下をみるが誰もいない。
大臣や警備の者たちも甘いな。
バルコニーの手すりに手をかけ、身を乗り出す。
手すりをふわりと飛び越え、スタッっと静かに着地をした。
王子の俺がこんな簡単に城から脱走できるぐらいじゃ、侵入者も簡単に城の中を動き回れるんじゃないか?
いや、入るのは困難でも出るのは何倍も楽か……。王子が脱走なんてなかなか考えないだろうしな。
今回俺が脱走したのは、わかりきっている政治の勉強や義務教育といわれるレベルの勉強をするのが時間の無駄だと感じたからだ。
まぁ、一言で言うと、つまらない。それだけ。
座学をいくらしたところで、実際に見なければならないのは民だと思っている。
だから俺は、城から持ってきていた洋服を身に纏い、民の本当の声をきくために国を歩いていた。
俺の国はあまり広くはないが、周辺の国に比べるとかなり繁栄している。
市場にはたくさんの品が並べられている。自国の品は勿論、他国からの輸入品も数多くある。
民と同じような洋服をきて一人で歩いているため、周りの者たちは俺を王子だと認識していないようだ。
まあ無理もない。城から出るときは大抵馬車に乗っているし、俺の顔をしっかり認識している民は少ないしな。
周りの様子を観察しつつ市場を抜けたが、帰る気にならない俺はそのまま歩き続けた。
国の外れまで歩いてきた俺は見慣れないものを見つけた。
「……あれ、こんなところに森なんかあったか?」
この国の地理は完全に理解していたはずなのだが……。
記憶に全くない森を見つけ、俺の記憶力もこの程度だったかと思い直す。
帰ったら、またしっかり勉強をするかと考えながら森に入ってみることにした。
その森は空気が綺麗でとても落ち着くところだった。
緑の木々が生い茂り、空から降り注ぐ光を柔らかく反射する。
ふと木の上を見上げると小鳥やリスが遊んでいたり、がさがさと揺れている草を眺めると野ウサギが飛び出してきたり……。
ここは小動物たちが数多く生息する森のようだ。
動物たちを怖がらせないように意識しつつゆっくり森の中を歩く。
少し開けた場所に出た。
俺は木の根元に腰を下ろし周りを見渡す。
城の庭園には咲いていないような花も数多く咲いていて、とてもいい香りがする。
気が付くと森に入った時刻から3時間ほどが経過していた。
「流石に心配かけちまうかな。」
森を抜け、城に向かって歩きながらふと後ろを振り返ると
――そこには森どころか、木1本すら見あたらなかった。