「お父さん、耳かき」
リビングで新聞を読んでいたお父さんに耳かきを要求する。
普段はお母さんにやってもらうのだが、今日は出かけている。
いつもやってもらっているので、正直自分では上手く出来ない。
もう痒くて仕方がないので、お父さんにやってもらうしかない。
「ん? おう、いいぞ」
そう言って、パンパンと自分の太ももを叩くお父さん。
お母さんを耳かきするのはいつもお父さんだ。
耳かきのときはいつも、そうして自分の太ももを叩いている。
それはいいけど、気がかりなことが一つ。
「いや、あの……パンツはちょっと」
お父さんはお風呂から上がってすぐは、パンツ一丁でうろうろすることが多い。
パンツはボクサー? っていうのかな。
ボクシングの人のやつみたいだから見る分にはそこまで下着! って感じじゃないけど。
膝枕するのはちょっとなあ。
「パパは気にしないぞ」
「私が嫌なの!」
そりゃ気にしないでしょうよ。
ああ、もう痒い。
んも~。
「わかった、そのままでいいから早く」
もう耳が耐えられない。
仕方がないので、ソファに寝転がってお父さんの太ももに頭を乗せる。
多少頬に体毛が当たるけど、気にしないように。
耳かきが終わるまでの我慢だ。
「え? あっち向くの?」
……ん?
私はお父さんの左太ももに、右の頬を当てている状態。
当然目線はひざの方向であり、視界にはリビングの壁が映っている。
膝枕とはそういうものだと思う。
……。
全然耳かきを始める素振りがない。
まさか、お父さんの方を向かないとやらないと?
普通に考えて、パンツ一丁の人の方は向きたくないでしょ。
お腹を見ながら耳かきさせるなんておかしいでしょ。
――そんな主張をするほど余裕がない。
はやく耳垢を掘って欲しい。
私はしぶしぶ、身体を反転させた。
「やっとこっち向いた」
……。
何を言ってるのだ、このおじさんは。
こっちは耳が痒くて仕方ないから、わがままを聞いてあげているというのに。
しかし、なんだろう、このセリフ。
とても、使える気がする。
西片に言ったら、顔を真赤にしそうな気がする。
私は頭の中で密かにメモった。
それにしても、父親のお腹を目の前で見るというのはどうなのか。
中年にしては、あまり出ていないし、毛深いわけでもないけど。
って、そんなことを考えたいわけじゃない。
すると、ようやくお父さんが耳かきを動かし始めた。
はやく、はやく。
~~っ!
竹の感触が耳の中に入ってくる。
最初は様子を探るように。
耳の穴の玄関口をこまめに擦ってくる。
満を持してやってきた耳かきを、私の耳の中は歓喜を持って迎えていた。
あぁ、なんという気持ちよさ。
聞くところによると日本には耳かきの習慣があるが、世界では耳かきをしない国が多いと言う。
可哀想に。
こんなに素晴らしい時間を味わっていないとは。
ジャブを続けていた耳かきが、ストレートを打ってきた。
ごそっと、耳の中のものをこそいで持っていかれた感覚。
「あんっ……」
つい、声が漏れる。
他のことでは説明できないこの独特の感覚。
がさがさ
耳の中で、耳かきの先端が穴の中を蹂躙する。
次の獲物を探して這いずり回っているのだ。
そして、ひっかかりを手がかりに、力が強く入った。
強く目蓋を閉じていても、ごっそりと垢を持っていかれたビジュアルが目に浮かぶ。
「ううっ、ふっー」
2割の痛さと、8割の気持ちよさが耳から脳に伝達される。
それを受けて、私の唇からは思わず声と空気が漏れる。
「うっ」
なんだ?
お父さんが妙な反応をした。
耳をかく方も気持ちいいのかな。
目を開けてみるとさっきと光景が違う。
――なんでだろう。
さっき見えていた、おへそが見えない。
なんで?
よく見ると、パンツが大きくなっていた。
なんで?
パンツって大きくなるっけ。
そんな疑問は解決することなく突然打ち切られた。
「交替だ、交替」
あぁ、もう左耳はいいもんね。
私は身体をくるりと反転させた。
「違う違う、次はパパが掘ってもらう番」
は~?
そんなの今までしたことない。
いつもお父さんの耳かきはお母さんがやっている。
「俺ももう痒くなっちゃったんだ。掘ってもらうまで続きは出来ないぞ」
むむむ。
痒くなっちゃった気持ちは痛いほどわかる。
そして、左耳だけ掘られて右耳はこのままなんて辛すぎる。
仕方ないなあ。
起き上がって、向かいのソファーに座った。
むき出しの右太ももをパンパンと叩く。
へへへ、お父さんの真似。
「よろしく頼む」
お父さんはそう言いつつ、左の頬を私の太ももに付けた。
左の手は、私の左の太ももの付け根に置かれている。
タオル地のショートパンツだから、触ってて気持ちいいのだろう。
って、ナチュラルにこっち向き!?
普通はあっち向くよね?
しかし、お父さんの顔を見下ろすという滅多にないシチュエーションが嫌いじゃない。
よく見るとヒゲの剃り残しがあったりとか。
意外とまつ毛が長いとか。
目を閉じるとかわいいとか。
知らないお父さんは、なんだか新鮮で嬉しかった。
しかし……。
耳かきをするなんて初めてのことだ。
結構、危ない行為なのでは?
恐る恐る耳かきを、穴に侵入させる。
見えないものを、さぐりさぐり取り出すってことだよね。
結構難しくない?
んー。
えいや。
「あああああ!?」
悶絶して、私の腰を抱きしめるお父さん。
痛かったのかな。
お尻に手があたってるけど……しょうがないね。
かわいそうだし。
「ごめん」
短く謝って、続ける。
もう少し慎重に……
「いた、痛い」
お父さんはそう言って、身体をくねらせる。
んー、太ももに顔をこすりつけるように顔を動かしていて、くすぐったい。
少しだけ伸びたヒゲが、内股にあたる。
お父さんの両手はお尻を握りしめていた。
でも、痛いんじゃしょうがない。
私が悪い部分もあるもんね。
「ちょっと我慢して」
私は神経を集中させて、耳かきを操作する。
あっ、なんか大きそうなのを発見した気がする。
これを取ったら、気持ちよさそう。
軽くこすっても何も起こらない。
ここは、がっつりと……
えい。
「があああああ!」
お父さんは大きな声を上げた。
そこまで痛くないでしょうに。
情けないなあ。
するとお父さんは、私のお腹に顔を埋めて抱きついてきた。
そんなに痛いの?
ちょっと、罪悪感が生まれる。
「痛いよ~、痛いよ~」
泣き顔で見上げてくるお父さんに、少し同情する。
そしてそのまま、顔を近づけてきて、改めて抱きついてきた。
私の胸に。
「いたいよ~、いたかったよ~」
どうも嘘くさい。
セリフが棒読みだ。
そして、お父さんは私の胸に過剰に顔を擦り付けている。
お、お父さんめ~。
――ようやく気づいた。
これはセクハラだ……。
思い起こしてみると、いろいろされてたことがわかる……。
「お父さんごめん、掘る穴間違えてた」
私は半眼でお父さんを見下ろし、耳かきで目を潰した。
まだDVD付き単行本が届かないよ~!
高木さんの水着はよ!