「モデルになってくれないか」
お父さんがカメラを持って、私の部屋に尋ねてきた。
「ごめんなさい」
ぺこりと丁寧に頭を下げて、私はドアを閉めた。
すぐにドアをノックする音。
んもう、うるさいなあ。
「なんでしょうか、もうお断りしたはずですが」
「ド、ドア越しで拒否されるほどのお願いをした覚えはないが?」
「ヌードにはなりません」
「おいおい、そんなわけないだろう、服のモデルだよ」
「ふ~ん」
信用したわけじゃないけど、ドアを開ける。
まだ凄く特殊なえっちな服を着せてくる可能性は多分にある。
「これとかだぞ」
「あっ、かわいい」
なんだろう?
青くてキラキラしてる。
「これはアオザイというベトナムの民族衣装だ」
「へぇ~」
私は関心した。
全然、いかがわしいものじゃなかった。
それどころか民族衣装だなんて。
こんな綺麗な服を着れるならラッキーだよ。
「着て撮影してもいいだろ?」
「うん」
拒否する理由はない。
服を受け取って、ドアを閉める。
早速着替えてみると中々にセクシーな衣装だった。
チャイナドレスに似てる。
身体のラインがそのまま出るし、スリットが深くて脚が凄く見える。
サイズはピッタリ過ぎるほどピッタリ。
「どうだー? サイズぴったりだろ~?」
ドアの向こうからお父さんの声がした。
余りにもピッタリなので、むしろ怖いんだけど。
着替え終わったので、ドアを開ける。
「おぉ~、さすがだな。可愛すぎておかしくなりそうだ」
お父さんはいつもちょっとおかしいと思ったけど、それは言わないであげた。
可愛すぎると言われて嫌な気持ちはしないから。
写真が出来たら西方にも見せてみようっと。
「ベトナムでは挨拶はシンチャオという。言ってご覧」
なるほど、そういう現地の言葉とかを使って雰囲気を盛り上げるわけね。
「シンチャオー」
言ってる間からもうカメラのシャッターは切られていた。
撮影されること自体はいつものことなので、適当にポーズを取る。
「あ、これ履いてみて」
お父さんが渡してきたのは、赤いハイヒールだった。
ヒールのついた靴なんて初めてだ。
靴下を脱いでヒールを履く。
部屋の中で靴を履くという行為もあって、テンションが上がる。
「どう? かわいい?」
興奮して自分から聞いてしまった。
「目を踏まれても痛くないくらい可愛いね」
それはいくらなんでも痛すぎて想像もしたくないけど。
それでも大絶賛に気を良くする。
「次はこれを着ようか」
次の衣装があるみたい。
これまた綺麗な服。
「インドの民族衣装のサリーだ」
へ~。
次はインドか。
お父さんに部屋を出てもらって着替える。
着てみるとこれも素敵だった。
お腹の辺りはまったく布地が無く、おへそが丸見えだけど。
世界の民族衣装とかって思ったより露出が多いんだな。
着替え終わったので、お父さんを招き入れる。
「うわー、きれい! 可愛い! 美しい!」
べた褒めだった。
まぁ、いつも着替えたときは褒めてくれるんだけどね。
西方は褒めるのが下手だけど、顔でわかるんだよね、ふふふ。
「インドはナマステーだ」
「ナマステー」
なんとなく両手を合わせてお辞儀をした。
お父さんは勝手に撮影している。
こうなってくると、他の国の民族衣装も着たくなってくるよね。
「他のもあるの?」
お父さんはそう来ると思ってたとばかりに、したり顔で言う。
「もちろんあるさ」
「……これは?」
「カウガール。アメリカの西部の衣装だ」
「ふ~ん」
とりあえず身につけてみる。
テンガロンハットっていう大きな帽子が格好いい。
革のホットパンツもピッチピチだけど、オシャレだと思う。
しかし、このトップスは……米国旗柄のビキニなのでは?
こんな格好で牛を追っていたら、おっぱいがぶるんぶるんしてしまうと思う。
私はまだ……そうはならないケド。
「着たけど」
「ハイヨーシルバー!」
「え?」
「挨拶だよ」
「は、はいよーしるばー」
よくわからないけど、馬に乗った感じでポーズをとることに。
これも適当に撮影が行われた。
次に出された衣装はふりふりのフリルがいっぱい。
これも可愛いに違いない。
さっきまでと同様に着替える。
これは……メイド服?
でもメイド服ってこんなに露出が多くはないよね。
胸元は完全に開いているし、スカートの丈も凄く短い。
アオザイもサリーも肌は結構見せてたから、これも変ではないんだろうな。
「着替えたよー」
「挨拶は、お帰りなさいませ、ご主人様だぞ」
「え? 日本語なの? イギリスとかじゃないの?」
「これは秋葉原の衣装だ」
「あ、そうなんだ」
お父さんが顎をしゃくってセリフを促す。
日本語のほうが恥ずかしいんだけど。
「お帰りなさいませ……ご主人様……」
「声が小さい」
「お、お帰りなさいませ~ご主人様~」
「もっとちゃんとやって」
「お帰りなさいませ! ご主人様!」
何故か妙に厳しいお父さんのリクエストに答える。
やっと満足したようだが、また何か渡してきた。
「なにこれ?」
猫耳のようなカチューシャと、猫のしっぽみたいなものだ。
「猫耳としっぽだ」
「えっ、そのまんま」
「装着しなさい、これは猫メイドなんだから」
猫メイド……。
そうなんだ……。
秋葉原の民族衣装なら文句を言うわけにはいかない。
しっぽはだらんとしているのではなく、針金かなにかが入っていて上を向いていた。
スカートがめくれ上がっちゃうから恥ずかしいなあ。
猫耳を装着し、しっぽをセットしているとお父さんは招き猫のようなポーズをしながら猫なで声で妙な事を言い出す。
「おかえりにゃんにゃん、ご主人たま~」
……。
お父さん、気持ち悪い。
半眼で見ていると、真剣な顔で顎をしゃくった。
挨拶だからやれってことかー。
「おかえりにゃんにゃん! ご主人たまっ」
何度もやり直すことにならないよう最初から全力を出した。
お父さんとポーズも同じになるよう、しっぽを立てたお尻を突き出すように向ける。
「ブッフォー!」
お父さんが鼻血を出しながら倒れた。
よくあることなので気にしない。
「こ、これが最後の衣装だ……」
上を向いて首に手刀を当てながら、服の入った袋を渡してきた。
鼻を抑えながら部屋を出ていくお父さんを見送ってから着替える。
なんだこれ?
セーラー服みたいな上着とスクール水着みたいな?
着てみると、腰から下だけスクール水着が見えるような感じ。
本当にこんな服があるのかな?
お父さんのセクハラなんじゃないかな……。
「お父さん、これはどこの衣装なのー?」
念の為、ドアの向こうのお父さんに聞いてみる。
「扶桑皇国」
ふそーこうこく?
知らない国だけど、まぁ本当の衣装みたい。
セクハラなんて言ったらその国の人に失礼だな。
でも水着だけ見えるのは変じゃないかな……。
「お父さん、これ水着?」
「それはズボンだ!」
これ、ズボンなの?
お父さんの声からして、嘘には聞こえない。
着替え終わったので、お父さんを部屋に招き入れる。
「おおお、空を飛んで魔法が使えそうだな」
んー?
そんな魔法使いのような格好にはとても思えないけど?
どうも怪しいなあ。
「ちなみに挨拶は?」
「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」
「そんな挨拶あるかーっ!」
ぱんちを繰り出すと、お父さんはまた鼻血を出して倒れた。
これ書くために「えっちな衣装」でググっているところを妻に見られてしまいました。ジト目でした。