ありふれたケルトの子孫   作:石山 翔流

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異世界召喚

「……お…おき…起きて!楓凜君!起きて!」

 

 

何やら切羽詰まった声が聴こえて、俺は目を開いた。

 

 

「……ここは?」

「あぁ、よかった。目を覚ましたんだね。僕にもよく分からないよ……気付いたら皆ここに居たんだ」

 

 

目を開いた時、一番最初に目に入ってきたのはハジメの顔だ。

眩しい光が収まったと思ったら俺が倒れており、心配になって声を掛けたらしい。

どうやら激しすぎる光が原因で意識を失ってしまったらしい。

上体を起こし周りの様子を見てみる。

 

まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。壮大で荘厳な壁画だ。

しかし、何故か嫌な予感がしたのですぐに目を逸らした。

 

よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。素材は大理石だろうか? 美しい光沢を放つ滑らかな白い石作りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が掘られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。

俺達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りには俺達と同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

ざっと見て、クラス全員が居ることを確認する。

 

 

「なぁ、ハジメ。おそらく俺達は転移したんだろう。ラノベのような感じでな。こういう時は何が一番重要か分かっているよな?」

「……うん、正直信じられないけど、転移したんだろうねきっと。一番大切なのは冷静になること。パニックになったら大変だもんね」

「そうだ。まずは冷静に状況を判断していかないとな。まずは皆を落ち着かせるのが先か」

「そうだね」

 

天之河もそう思ったのか、声をあげて皆の注意を引いていた。

3人がかりで数分掛けてなんとか皆を落ち着かせる事に成功する。

そして、アイツ等から話を聞こうとする。

 

アイツ等とは、おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む者達のことだ。

少なくとも三十人近い人々が、俺達の乗っている台座の前にいたのだ。まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。

彼等は一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏い、傍らに錫杖のような物を置いている。その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。

その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子えぼしのような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。顔に刻まれた皺や老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。

そんな彼はこちらが落ち着いたのが分かったのか、手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハジメ達に話しかけた。

 

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せたが、俺には黒く、寒気が走るような冷笑を浮かべているようにしか見えなかった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

教皇が説明するからと移動を促し、案内のメイド(オバサンのメイドではなく、美女・美少女のメイドだ。)についていくこと数分後、俺達は大きなテーブルが複数置かれた大広間の様な場所に居た。

上座に近い方から畑山先生や天之河達が座って行く。

俺は教皇のことが信用できないから、とハジメに言って一番離れた場所に座った。

俺とハジメが座ったことを確認して、教皇は話し出した。

 

 

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 

その内容はラノベ等の例にもれないありきたりなものだった。

教皇たち人間族は、敵対している魔人族によって滅びの危機を迎えている。

その原因は魔人族が魔物を使役しだしたということらしい。

魔人族は人間族と比べて身体能力、魔力といった基礎能力が優れており、人間族はそれに数で対抗していたが、魔物を使役することでその利点を潰されたらしい。

 

 

「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という“救い”を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

 

そんなことを聴きながら思ったことは一つ。

どこまでが本当で、どこまでが嘘なのかというものだ。

ラノベでよくある展開の一つに、実は人間族が有利なのを隠して魔人族を悪者にすることで強大な力を持つ(転移者や転生者は大抵強大な力を持つ)者の力を借りて目障りな滅ぼすようなものもある。

また、召喚したものを奴隷にするというものもあるが、そういった感情はこの広間に居る人物すべてから感じられないので、おそらく大丈夫だろうが。

自分達がこの世界のことを知らない以上、迂闊なことは出来まい。まずは情報収集が先決だ。

 

ここは一旦時間をもらおうと考え、それを告げようとしたがそれより先に抗議した人物がいた。

 

 

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることは唯の誘拐ですよ!」

 

 

畑山先生だ。

出鼻を挫かれた形となった楓凜は、一先ず様子を見ることにした。

教皇の返答は、

 

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 

というものだった。

 

 

「(こうなることも想定していたが、こうまでハッキリと告げられると少し辛いものがあるな……)」

 

 

想定していたことが実現となり、嫌な予感は大きくなるばかりである。

それ以上に楓凜にとって心配だったのは、傍にいるクラスメイトである。

 

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

 

案の定、クラスメイトはパニックとなっていた。

 

 

「(まずい、パニックになってしまった!下手をすると暴動を起こす奴が現れかねん!そうすると最悪の場合は……)」

 

 

楓凜がどのような対処をするか考えている最中、天之河が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。天之河は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

楓凜は対処法を考えるので一杯なので、制止できそうにない。正義感にあふれた天之河のことだ、余計な事を言わなければいいが、と思うばかりである。

 

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

 

そして、天之河が言ったことはその余計なことだった。

慌てて制止しようとするも、教皇が返事をしてしまった。

 

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 

ギュッと握り拳を作りそう宣言する天之河。そして、彼のカリスマは効果を発揮した。

発揮してしまったのだ。それによってクラスメイトの雰囲気が変わる。

これでは反対すると最悪、楓凜がクラスメイトの手によって潰されかねないので、反対することが出来ない。

しかし、苦虫をかみつぶしたような表情になってしまうのは避けられなかった。

そんな楓凜を教皇は黒い笑みを湛えて見ていた……。

 

 

 

 

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