言ってしまった…。
『バンドやろうぜ!』
『………………は?』
酔った勢いとはいえ、バンドやろうなんて…。
私は佐倉 奈緒。
今は貴さんとご飯からの帰りで電車に乗っている。
先週の日曜日。
私はいつものヲタ活……
じゃない!
いつものようにカフェに行った時にたまたま出会ったお兄さん。
一目見て、BREEZEのTAKAさんだと思った。まさかこんな所で逢えるなんて…。
そして思い切って声を掛けて…。
でも今日は失敗したなぁ……。
今日のカラオケとご飯が楽しみ過ぎて寝れなくて、大学の時の先輩とか友達に電話したりゲームしてたら4時になってたし…。
寝たら起きれないと思って気合い入れたのに気付いたら寝ちゃってて、起きたら10時半だったもんね……。
遅刻確定だよ…。でも貴さんはずっと待っててくれて……。
「うふへ」
ハッ、いけないいけない。
ここはまだ電車だった。
一人ニヤけてたら、ちょ~変な人じゃん。
カラオケも楽しかったな。
今の貴さんの歌を聴くのは怖いって気持ちもあったけど、普通に歌えてたし…。
貴さんの歌をもっと聴きたい、ステージに立つ貴さんをまた見たい。
その気持ちは確かにあるけど、私は今の貴さんの歌が好きだ。
BREEZEのTAKAとしてじゃなくて、葉川 貴として私と一緒にバンドをやってほしい。こんなの私の我儘だとはわかってるけど…。
そんな事を考えてたら家に着いていた。
「ただいま~」
「おかえり。早かったわね。明日は日曜日だしお泊まりして来たら良かったのに」
「ちょ…!何言ってんの!そんなんじゃないし!」
急にお母さんがそんな事言ってくるもんだからびっくりする。
「奈緒!帰ったのか!!?」
そう言ってお父さんがリビングから出てくる。
「あ、お父さん、ただいま~」
「良かった……。もし男を連れて来られたらどうしようかと思った」
ちょっと待って!
何でお父さんもお母さんも私が男の人と会ってた事知ってるの!?
「大丈夫ですよ。あなた。奈緒にもTAKAさんにもそんな度胸ありませんよ」
「ふぁ!?」
何で!?貴さんの事までバレてる!?
「ママ…。だって…だってあのBREEZEのTAKAだよ?」
貴さんがBREEZEのTAKAってとこまでバレてるの!?
「お父さんったら、奈緒がもしTAKAさんを連れて来たりしたら塩を撒いて追い返す気でいたのよ。それはないって言ってたのに」
そっか。やっぱり娘が男の人と…ってなるとお父さんは心配しちゃうんだね。
貴さんはそんなんじゃないけど、いつか彼氏が出来たりしたら通らなきゃいけない道か。
「心配してくれてありがとう。でも、ほんとにそういうのじゃないから大丈夫だよ。お父さん」
「いや、奈緒の心配はしていない。むしろ彼氏でも作って安心させてほしいくらいだ。早く孫を抱きたい」
「は?」
「ほら、お母さんもね。昔はBREEZEのファンだったじゃない?それで私がTAKAさんの事を好きになるんじゃないかって心配して」
「それだけじゃない!ママは可愛くて綺麗でスタイルもいい!むしろこの世にママより美しい女性なんていない。天使や女神ですらママの美しさには敵わないだろう」
「もうっ!お父さんったら」
「そんなママを見てしまったらそのTAKAもママを好きになってしまうかも知れない……パパはそれが恐ろしい」
「は?」
「あなた、大丈夫よ。私はあなただけを愛しているわ」
「ママ。僕もだよ。僕もママだけを愛している」
「あなた!」「ママ!」
「あ~…私部屋行くね。どうぞごゆっくり…」
そして私は部屋に戻った。
ったく、あのバカップル夫婦が!!
「疲れた…家に帰って来てからの方が疲れた……あ、貴さんにLINEしなきゃ…。
えっ……と、『今無事に帰宅しました。今日は楽しかったです。ありがとうございました。また遊びに行きましょうね(^v^)』と……こんなもんで大丈夫かな?」
--ライ~ン
うわ!返事早っ!
『無事に帰宅したなら良かったヽ(・∀・)ノゆっくり休んでね!』
う~…ん、無難な返事だなぁ。
もっとこう…今日は楽しかったよーとか、また遊びに行こうねーとかないもんですかね。
……楽しくなかったのかな?
「ふぅ…どうしたもんですかね」
--ライ~ン
『俺も今帰宅しました!今日は楽しかったよ。また遊びに行こうね!』
「うふへ」
ハッ!?違う違う!
何ニヤけてるんですか!
こんな事で喜ぶとかマジ恋する乙女みたいじゃないですか!?
くっ…さっきのバカップル夫婦にあてられたせいだ…うん。
『は~い。絶対また遊びましょうね(σ・ω・)σ』
‐‐ライ~ン
また返事早っ!
「……スタンプだけとか」
まぁいいです。また遊びに行こうって言質はいただきました。
お風呂入ってこようかな……。
「あなた!」「ママ!」
うわぁ。この夫婦まだやってるよ。
「ふぅ、さっぱりした。酔いも覚めた事ですし寝るのも勿体ないなぁ」
「あなた!」「ママ!」
うわ!?この2人まだやってるよ!
さすがに娘だけど引きます!
いや、娘だから余計にか。
はぁ…部屋に戻ってゲームでもしようかな。
「あ、お姉ちゃん。帰って来てたんだ?」
「あ、美緒。まだ起きてたの?」
「うん。喉乾いたからジュースでもと思ったんだけど、お父さんとお母さんあんなだからリビングに行きづらくて」
「あ、あはは」
この子は私の妹の
現役の女子高生で軽音楽部に入っている。
15年前はまだ小さかったからBREEZEのライブには行った事ないけど、私とお母さんの影響からかバンド好きに育ってくれた。
追っかけてるのはガールズバンドばっかりだけど…。
「で、どうだったの?今日のデートは」
「デ、デートじゃないし!」
「?男の人と2人でお出掛けしたんじゃないの?」
「そ、そうだけど…」
「ふぅん、まぁいいや」
そう言って美緒は自分の部屋に戻ろうとした。
「あ、そうだ美緒。まだ寝ないなら久しぶりに対戦しない?」
「え?やだよ。お姉ちゃん強すぎるし」
「いいじゃんいいじゃん!やろうよー!」
「それにほら。私明日部活あるし」
「そっかぁ。頑張ってるんだね。ベース」
「まぁ好きだし。お姉ちゃんもバンドもロックも好きなんだから何か楽器やってみたらいいのに」
「うーん、それも最近いいなって思ってるんだけどね」
「ほんと?あれだけ頑なにバンドやるならボーカルしかやらないって言ってたのに?
私は憧れの人がベースボーカルだからベースを選んだけど、お姉ちゃんの憧れの人ボーカルでしょ?何の楽器やるの?」
「うーん、そこはまだ決めてないんだけどね。まだ本当にやるかどうかわかんないし」
「あぁ、そっか。今日BREEZEのTAKAさんと会って、一緒にバンドやる事にしたとか?」
「なっ!?そ…そんなんじゃないよ!
それより何でお父さんもお母さんも、美緒も貴さんとの事知ってるの!?」
「…?いや、普通にTAKAさんに会えるー。とか、カラオケでBREEZEの曲歌うと失礼かな?とかブツブツ言ってたし」
「は……??」
「え?あれお母さんへの私BREEZEのTAKAさんに会って来ますよアピールじゃなかったの?無意識?こわっ」
「ちょちょちょちょ…私そんな事言ってたの!?」
嘘だ…。そりゃ貴さんに会えると思って浮かれてたけど、無意識に口に出してるとか……。
「こわいわぁ。我が姉ながらこわいわぁ。これが恋する乙女ってやつね」
「それは本当に違うし!恋とかじゃなくて憧れだよ!?歳の差とかも考えて!」
「ふっ、恋に歳の差なんて関係ないよお姉ちゃん。むしろ性別すら関係ないまである」
いやいやいや、私からしたらそっちの方が心配だからね!
私も次元は関係ないと思ってるし怖くはないけど。キリッ!
「で?結局どうなの?バンドやるの?」
「わかんない…。断られたし」
「ぴぎぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう叫んで美緒は突然仰向けに倒れた。
びっくりした!びっくりした!びっくりした!
「ど…どうしたの美緒!?」
「わた…わた…」
「綿?」
「私の可愛いお姉ちゃんの誘いを断るとはなんと許せん男……もう私が葬り去るしかない。今度会う時連れて行って下さい」
「何言ってるの!葬り去るとダメだよ!?」
「そんな男認めない。義理の兄などと到底呼べるわけもない。お姉ちゃんもお母さんも男を見る目は節穴です。お母さんなんてお父さんを選んでる時点でありえないけど」
「義理の兄とか呼ばなくていいし!それに美緒だってさっき私の対戦の誘いを断ったじゃん!」
「!?盲点でした。なるほど。可愛いお姉ちゃんの誘いでも断る事はある。というわけだね。お父さんの事は認めないけど」
お父さん……
まぁ、お父さんだもんね。
「しかし、お姉ちゃんもお父さんの事はフォローしないのにTAKAさんの事はフォローするんだね」
「なっ!?」
「じゃあ私は明日学校だし寝るねー。おやすみなさい」
そう言って美緒は部屋に戻って行った。
ち……違うもん…本当にもう…。
私も自室に戻ってベッドで横になっていた。
貴さんの気持ちもわかる。
昔は本気でバンドをやってたんだし、その時は貴さんのせいで解散したようなものだ。
ドリーミン・ギグを目前にして…。
一緒にバンドをやっていたみんなへの罪悪感もすごかったんだろうと思う。
なのに私はずけずけとバンドをやろうって貴さんに言っちゃったんだ…。
私…最悪じゃん……
「ん……もう朝か」
いつの間にか寝ちゃってたんだ。
今何時だろ……
「あ、プリキュアも仮面ライダーも終わってる……録画してて良かった」
私は急いでリビングに降りて戦隊物タイムです。スーパーヒーロータイム観ないと日曜日は始まりません。
ん?LINE来てる?誰だろう?
そう思ってLINEを開いてみた。
『昨日のデートはどうだった?お姉さん奈緒に色々聞きたくて早起きしちゃったよ!今日とか暇?暇?あ、プリキュア始まるから返事はスーパーヒーロータイム終わってからにしてね☆ミ』
大学の時の先輩からだった…。
どうしようかな。暇って言ったら根掘り葉掘り聞かれるんだろうな……。
『すみません~。今日はお父さんとお母さんと買い物に行こうって事になってまして(>_<)また今度ゆっくりお話しましょう!』
先輩ごめんなさい。
ちょっと昨日の事お話出来る余裕はないです。
‐‐ライ~ン
あ、先輩からだ。
『スーパーヒーロータイム終わるまで返事はいらないって言ったでしょ(#゚Д゚)そうなんだね。ならしょうがないから今度にしよっか?(*^^*)
で?どこのお父さんとお母さんと買い物に行くの?奈緒のご両親には今日は奈緒は暇って確認済みなんだけど?』
「……」
手回し良すぎませんかね?
『すみません。ごめんなさい。でも今日はちょっと疲れてますので、また今度にして下さいm(__)m』
‐‐ライ~ン
『え?夕べそんなに疲れる事したの?(*/ω\*)それならしょうがないね!そうか~。とうとう奈緒も……(ハート』
は!?何!!何言ってんですかあの先輩は!!
『そんな事してないです!変な事言わないで下さい!怒りますよ?』
と、いくら先輩でも怒りますよ。本当に。
‐‐ライ~ン
『そんな事ってどんな事?ヽ(・∀・)ノお姉さんわからないから詳しく聞きたい。今ならバンド誘ったのを断られた時に口説く方法が特典で付いてきますよ?』
『今日は1日中暇です。何時頃がいいですかね?スーパーヒーロータイムは録画してますので1時間もあれば家を出れます』
ふぅ…何て素晴らしい特典ですか。
うん。いつでも出れるように準備してこよう。
そして私は今駅前で先輩を待っている。
昨日、貴さんと待ち合わせした駅前で…。
17時待ち合わせとか呑みながら話すのかな?やばい。洗いざらい吐かされそう……。
「やっほー、奈緒!」
「あ!まどか先輩!遅いです!」
「いや、待ち合わせ時間までにまだ20分以上あるけど?」
この人は私が大学の時の先輩。
私の数少ない友達の一人だ。
「それにしても久しぶりだね!何ヵ月振りだっけ?」
「いえ、先週も一緒にご飯行きましたけど?それで?今日はどこに行くんです?」
「あー、もうちょっと待ってね。もう一人呼んでるんだ」
え?まどか先輩と2人じゃないの!?
誰呼んだの!?
「お、来た来た。しっかり15分前に来るとはさすが律儀な男!」
え!?男の人!?
「うす。待たせた?てか、何で奈緒ちゃんがいるの?」
え?奈緒ちゃん……?
私をそう呼ぶのって……
「あれ?言ってなかったっけ?てへ」
「いや、てへとか言っても可愛くないからね?もう一度言って下さい。お願いします」
「貴さん!?何で!?」
「いや、何か夕べ……まぁ色々あってLINEしてたら呼ばれた」
「可愛い女の子とデートしたみたいだから根掘り葉掘り聞いてやろうと思って呼んだ!」
「かわ……」
可愛いって…貴さんがそう言ったのかな?
「お前ほんといい性格してんな…」
「え?惚れた?」
「ないわ。え?惚れてほしいの?」
「石油王になったら惚れてほしい!」
「いや、無理だろ」
えーっと……
「それより貴さんとまどか先輩ってお知り合いだったんですか?」
「うん。そだよ?やってるゲーム繋り」
「てか、Twitterで割と話してるけどな」
そうだったんだ……。
って事は、まどか先輩は私から貴さんとデ、デートする事聞いてて、貴さんからは私とデートするって聞いてた事になるのかな?
そしてまどか先輩の方に目をやると…
「それよりさ。タカが昔バンドやっ……」
「わぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「!?」」
急に貴さんが叫び出した。びっくりした。
「どしたの?」
「まどか……あれだ。ちょっと来い」
「何?」
貴さんがまどか先輩と少し離れた所で内緒話している。
それより!貴さんはまどか先輩の事呼び捨てなんですね!私も奈緒でいいんですけど!?
「ふぅん……そうなんだ?わかった」
「いや、だから声でかいよね?わざと?わざとなの?」
話が終わったのかまどか先輩はバッグから取り出したスマホを見ていた。
「よし、じゃあ行くよ」
「どこに?」
「エデン」
「「は?」」
そして私達はエデンの前で開場時間を待っていた。
「あの、なんで急にエデンに?」
「え?ライブに来たかったから」
「なんか急すぎません?今日は誰が出るんですか?」
「キュアトロとOSIRIS。しかも最前行けそうな整理番号3連番」
「まじですか!?最前ですか!?京くんを間近で見れるですか!?え?私今日命日!?」
「なんだ……と!?OSIRISキュアトロ最前とか……神か…!?」
「ヤバイですヤバイですヤバイですー!」
「どうしよう。MCの時にマイリーと目があったりしたら…結婚か!?やばい。婚姻届持ってきてない。市役所何時まで開いてるっけ?」
この人は何を言ってるんだろう?
「私的にはタカマイもありだけどね。いや、マイタカでもいいかも……」
「ああ、俺もマイリーの子供なら産めそうな気がする」
本当にこの人は何を言ってるんだろう?
そんな時だった。
「せ~んぱい!」
そう言って女の子が貴さんに声をかけた。
「ん?水瀬?どしたん?今日ライブ?」
「うん、そですよ。ぼっちの先輩が可愛い女の子2人も連れてるとか贅沢ですね?どっちか彼女さんですか?」
「いや?2人共ただの友達だけど?え?友達だよな?フォロワ様?」
「なんだー。彼女さんかと思って明日の会社での話題にしようと思ってたのに!」
む、なんでしょうこの子。
あれ?私なんでイライラしてんだろ…
「こんなん会社で話題にされたら俺仕事行けなくなるからね?あ、それって合法的に仕事休める?アリかな……」
貴さんの会社の人なのかな?
「いやー、でも彼女さんとかじゃなくて良かったです」
「やめてくれるそういう事言うの。勘違いしちゃうからね?」
「勘違いされたらそれはそれで会社での話題に…」
「やめてっ!お願いだからやめてっ!」
なんでしょう。この置いてけぼり感
「奈緒、奈緒!」
まどか先輩が私を呼んできた。
この2人の話もう少し聞いてたかったのに。
「今からタカに抱き付いて『私の彼氏に気安く話しかけないでくれます?』とかやっちゃえ」
「は!?」
出来るわけないじゃないですか!
「絶対面白い事になるから!」
そりゃまどか先輩は面白いでしょうね!
「だから…ほんとに貴さんとはそんなんじゃないので…それならまどか先輩がやったらいいんじゃないですか?面白い事になりそうですし」
「いいの?やるよ?」
ダメだ。この先輩はやると言ったらやる…。
もしこの女の子が貴さんの事を好きだったら、もし貴さんがこの女の子の事を好きだったら、その可能性もあるんだしそんな事しちゃいけない。
「やめときましょ」
「最初からやるつもりないよ、奈緒をからかっただけ」
ほんとにこの先輩は……
「それよりLINE見た?」
「LINEですか?」
「さっきタカと内緒話してた内容。大丈夫そうな話だったしLINEしといたよ」
へ?さっきの…?
そしてスマホを取り出してLINEを見てみた。
『タカって奈緒がBREEZEのTAKAって気付いてる事を知らないみたい。奈緒には内緒にしてくれってさ』
は!?まじですか!?
あれで何で気付かないんですか!?
バカなんですか!?
「笑えるっしょ?」
「いや、笑えるって言うか……。わかりました。私も貴さんが自分から言ってくるまで気付いてない振りしときます。これはどっちからボロ出すかの勝負です」
「あの~…」
そしたらさっきの女の子が私達に話かけてきた。
「はい?何ですか?」
「すみません。ライブに来たらたまたま先輩…葉川さんを見かけたので、せっかくだから声を掛けとこうと思いまして…。あ、私、葉川さんの会社の部下みたいなもんでして…あはは」
あ、そうなんだ。
「いえいえ、全然気になさらないで下さい」
……聞いても大丈夫かな?
「あの……貴さんの事好きなんですか?」
「はい!?」
女の子はびっくりしていた。
「ないですよ。ないです。優しい先輩とは思ってますけどそれだけです」
そうなんだ……良かったぁ。
ん?良かった?何で?
「あの…もしかして葉川さんの事好きなんですか?」
「ふぁ!?」
「もしそうだったら声を掛けて申し訳なかったなと……今更ですけど」
「ないですよ。ないです。楽しい人とは思ってますけどそれだけです」
「あ、私、水瀬 渚っていいます」
「私は佐倉 奈緒っていいます」
「奈緒ちゃん」
「あ、ライブに来たって事はOSIRISかキュアトロのファンですよね?よかったらTwitterとかLINEとか交換しません?」
「わ!いいんですか?私、最近こっちに出てきたばっかりでまだ友達少なくて……良かったら仲良くして下さい!」
「是非是非!こちらこそです!」
そして私達はTwitterとLINEの交換をした。
ふふふ、友達が増えました!
「あ、友達を待たせてますんでそろそろ行きますね」
「はい~。またTwitterとかLINEしますね」
「私もさせてもらいますね!あ、呼びタメ大歓迎なんで!私の事は渚って呼んで下さい」
「私も大歓迎ですよ!奈緒って気軽に呼んで下さい!」
「奈緒、ありがとう。またね!お互いライブ楽しもうね!」
「うん!お互いに楽しもうね!また連絡するからご飯とかも一緒に行こ!」
「うん!またね!」
そう言って渚は戻って行った。
明るくて可愛い子だなぁ。
「こうして私は敵の情報を得る事に成功した。私の戦いはこれからだ!そして、一人の男を巡る戦いの火蓋は切って落とされたのであった」
「勝手に人のモノローグを改変しないでくれませんかね?」
「あ、違った?」
違いますよ、違います。
「それよりそんな事言って、貴さんに聞こえてたらどうするつもりなんですか?」
「そこら辺はちゃんとわきまえてる。タカは今ライブのポスターのマイリーに夢中だから」
私は貴さんの方を見た。
ヤバイくらいポスターをガン見している。一体何枚写真撮るんだろう?
こんな綺麗なまどか先輩もいるのに
あんな可愛い渚も居たのに
それなりには可愛いであろう私もいるのに、なんであんなにマイリーに夢中になれますかね?さすがに引きます。
「でも奈緒も京くんのポスターあったら写真撮るでしょ?」
「ナチュラルに人の心読むの止めてくれませんかね?」
そして開場してライブが始まった。
「んー!OSIRISもキュアトロも最高だった!!ありがとうな!まどか!」
「いやいや~、喜んでくれて良かったよ」
「最高でした。もうヤバイです。明日の仕事も笑顔で頑張れます」
「奈緒も良かったみたいだな!」
「はいー!もう最高でした!私は今日の為に生まれてきたと言っても過言ではないです!幸せ過ぎて爆発しそうです!」
「頑張ってチケット取った甲斐があったよ!それでさ、BREEZEのライブとどっちが良かった?」
「え?」
急にまどか先輩がそんな事を聞いてきて、空気が変わった気がした。
きっと貴さんも…
「そんなのって比べられるもんじゃないだろ」
貴さんがそう言ってフォローしてくれた。
でも…
「そう?タカはさ?今日のライブ行ってどう思った?
最高だった!楽しかった!ってだけ?」
「あ?何が言いたいんだ?俺あんま語彙力ねぇからな。他は尊かったとか…そんな感じか」
「ライブをしてるOSIRISやキュアトロを見てそれだけ?」
「他に何があるんだよ」
「ステージに立ちたいとか、京ちゃんやマイリーちゃんみたいに歌いたいとかないの?」
「……」
「まどか先輩…」
「私、タカの歌好きだよ?奈緒もだからタカとバンド組みたいんじゃないかな?」
少しの沈黙の後、貴さんが口を開いた。
「歌うのは好きだよ。出来ればまたステージに立ちたい。思いっきり歌いたい。想いを歌に乗せて……バンドのメンバー、オーディエンスみんなで楽しくなるライブをやりたい」
貴さん……。
「でもダメだ。俺はバンドはやれない」
「なんで?ステージで歌うのが怖い?昔のメンバーに悪い?歳なんて言い訳だよね?タカくらいの歳でもバンドやってる人はいっぱいいるし、タカよりもっと歳上でもバンドやってる人もいる。
別に奈緒もバンドやろうって言ってるだけで、本気でメジャーデビューしようとか武道館目指そうとか言ってる訳じゃないでしょ?」
「そ!そうですよ!さっき貴さんも言ってたじゃないですか!みんなで楽しくなるライブがやりたいって!私がやりたいのはそういうバンドなんです!」
「…」
「奈緒もそう言ってるよ?バンドやれないなら理由言って。昔のメンバーに悪いって思ってんの?」
「それも多少はあるな。俺のせいで解散したようなもんだし。でもそれはほとんど関係ねーよ」
貴さんもまどか先輩も普通に貴さんが昔にバンドやってた事喋ってるよね…。
私はどういうポジションにいたらいいんだろう……。
「じゃあなんで?ちゃんとした理由があれば奈緒も納得するかもよ?」
「え?奈緒ちゃん納得してなかったの?」
「だから!諦めないって言ったじゃないですか!」
「私もタカはバンドやるべきだと思うよ?色々チャンスじゃん?ライブの後いつもステージで歌いたいってライブやりたいって言ってたじゃん」
そうなんだ…。メンバーに悪いって訳でもないならなんでバンドやりたくないんだろう?
まさかただ私とバンドしたくないだけとか!?
「俺は…BREEZEのTAKAじゃない。あんな声は出せない。俺は…声域が狭くなったからな…」
「!?」
「ちょっと前に手術もしたんだけどな。声は戻らなかった。だから…」
違う!そうじゃない!
私は貴さんがBREEZEのTAKAだったから一緒にバンドをやりたいんじゃない!!
「バカじゃないですか!?私が、私がBREEZEのTAKAさんと貴さんを重ねてバンドをやりたいって言ってると思ってたんですか!?」
「「え?違うの?」」
うわ!まどか先輩まで!?
「違いますー!BREEZEのTAKAさんとバンド組んだりしたら手が震えて楽器なんか出来ません。私は貴さんとカラオケに行って、貴さんの歌を聴いてバンドを一緒にやりたいと思ったんです」
「奈緒…」
「私が一緒にバンドをやりたいのは憧れのBREEZEのTAKAじゃないんです。ゲーム好きでヲタクで京くんとマイリーが大好きな葉川 貴さんとバンドがやりたいんです」
うぅ~…BREEZEのTAKAさんと貴さんが同一人物って気付いてない振りもめんどくさいなぁ…。
『BREEZEのTAKAさんとしてバンドを組みたいんじゃないんです!』
ってハッキリと言えたらいいのに…
「だから、貴さんにお願いです。私と一緒にバンド組んで下さい」
「ただいまー」
「あ、お姉ちゃんお帰り」
「うん、ただいま。美緒。私バンドやるよ」
「え?ほんとに?楽器何やるの?」
「まだ決まってないけど……多分美緒と同じベースかな?」
「えー?ならお姉ちゃんと一緒にバンドやれないじゃん」
「あ、美緒も一緒にやりたい?ならお姉ちゃんパート変えようか?」
「いや、いらない。私もうバンド組んでるし。それに私がやりたいのはベースボーカルだもん。歌いたいもん」
「もう!一緒にやりたいのかな?って思ったじゃん!」
「で?なんでベースなの?」
「うん。ぶっちゃけ私楽器何も出来ないじゃない?」
「うん、どや顔で言うことじゃないけどね」
「それ言ったら貴さんが、ギターとドラムなら心当たりあるって言うからさ」
「そんな消去法でベースやられたくないんだけど…」
「あはは、確かにベース好きでやってる人には失礼かもだけどね。でも、私と美緒って好きなのよく被るじゃん?美緒も昔はアニメとか漫画好きだったでしょ?だから私もベース好きになると思うよ」
「まぁいいけどね。それでBREEZEのTAKAさんとバンドやる事になったんだ?」
「ううん、違うよ。私がバンドを組むのは……葉川 貴さんだよ」
「同一人物じゃないの?」