バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第28話 射手座を受け継いだのは…

「テメェ、レガリア失くしたな?」

 

「マズイ!バレた!?」

 

「さすがはーちゃんだ!」

 

「拓斗!お前バレたとか言ってんじゃねぇよ!トシキもさすがはーちゃんだ!じゃねぇ!!」

 

またモノローグは俺に戻ってきちゃった。

あ、俺は佐藤 トシキ。

 

えーちゃんが失くしたレガリアは、宮ちゃんが放浪中にある人物に託したと口から出任せを言って、この場は何とかしのいだと思ってたんだけど、どうもはーちゃんにはそれが宮ちゃんの嘘だとバレてしまっていたらしい。

 

だってはーちゃんの顔がそれを物語ってるもん。

めちゃくちゃ怒ってるもん。

 

「英治、お前レガリア…失くしたんだろ?な?正直に言え?」

 

ダメだ。

はーちゃんがこの状態に入ってしまったら、何を言っても否定しかしてこなくなる。

面倒くさい事この上ない。

えーちゃん…どう答える…?

 

「な、何言ってんだタカ。レガリアは俺にとっても大事な宝物だぜ?そ、それを失くしたりする訳ねーじゃねぇか!」

 

「あ?ならテメェはレガリアを失くしてねぇんだな?そうなんだな?」

 

「あ、いや、それは…そんな風に聞かれちゃうと…」

 

「そうだぜ、タカ。さっき俺が言ったろ?レガリアは俺が継承するにふさわしい男に…」

 

「拓斗。嘘だとわかったらどうなるかわかってるよな?」

 

「渡せてたらいいなぁ。と思っていた」

 

「拓斗!お前!裏切ったな!俺の心を裏切ったんだっ!」

 

「黙れ英治。俺はまだ死ぬ訳にはいかねぇんだ」

 

「それは俺もだよ!三咲と初音を残して死ぬ訳にはいかねぇんだよ!」

 

ああ…もうダメだな。

これ絶対にはーちゃんにバレちゃってるよ…。

 

でも何でだろ?

 

宮ちゃんのあの話は、今頃はーちゃんに伝えるのは不自然な気もするけど、波瀬も納得したように変な所はなかったはず。

はーちゃんに崇拝していた宮ちゃんが勝手にそんな行動に出ても納得出来る話ではあったはずだ。

それを何で疑う事もなく嘘だとバレたんだろう?

 

「ハァ…まぁいいや。英治、レガリアを失くしたってのを内緒にしときたいんならしょうがねぇ。レガリアの事は置いといてだ」

 

レガリアの事は置いといて…?

 

ちょっと待ってはーちゃん。

今の言葉は聞き捨てられないよ。

レガリアははーちゃんにとってもさ…。

 

「拓斗、お前英治に何を握られてる?いや、逆か?レガリア失くしたって事をだしにして何か約束でもさせたか?」

 

何でこんなに鋭いの?

 

「ハハハ、タカ、俺は英治に何かを握られたりしてねぇし、ここぞとばかりに英治に何か要求したりもしてねぇよ。俺は真実しか言わねぇ。ほら、どっかの頭脳が大人の子供も言ってんだろ?真実はいつもひとつって」

 

「何なのその乾いた笑い。てか、お前俺の目を見て話せよ。何で思いっきり顔を背けてんの?」

 

「そうですよタカさん!僕はレガリアを失くしたりなんかしていませんのだ!」

 

「英治、お前は何で急に敬語なの?てか、その敬語おかしいからね?」

 

宮ちゃんもえーちゃんもダメか。

俺も今の状況を上手く切り抜ける策なんか無いけど…。

 

「あのなぁお前ら。俺は別にレガリアの事はどうでもいいんだよ。それより拓斗が何でそんな嘘ついてまで英治を庇ったのかが…」

 

はーちゃん?

レガリアの事はどうでもいい…?

何で…?何でだよ!!

 

「はーちゃん!!」

 

「うわっ!…ビックリした。トシキいきなり大声出すなよ」

 

大声出すな?いや、無理でしょ。

 

「はーちゃん、さすがに今のはないよ」

 

「は?今の?」

 

「レガリアの事…どうでもいいってさ…」

 

「あ、いや、言葉が悪かったな。すまん。別にレガリアがどうでもいいって訳じゃなくてだな」

 

「それじゃどういうつもりで…!」

 

俺はそこまで言ってから恐怖した。

 

バ、バカな…何でこんな所に…。

はーちゃんにレガリアの事をどう思っているのか、ちゃんと聞きたいと思ってたけど、今はもう無理だ。

 

どうする…俺達は…ここで…?

 

「あ?どうしたトシキ」

 

はーちゃんは気付いていないの!?

俺は宮ちゃんとえーちゃんに目をやった。

 

…やっぱりだ。

宮ちゃんとえーちゃんも気付いている。

2人共恐怖に怯え身体を震わせている。

今のはーちゃん以上の恐怖を目の当たりにして…。

 

「英治と拓斗も?どうしたの?顔色がめちゃ青いし汗も尋常じゃなくね?どうしたのマジで」

 

ハァ…ハァ…。息が…詰まる…。

 

「タ、タカ…」

 

宮ちゃんはやっとの思いで声を出せたかのように、震えながら声を出した。

 

「え?何?どったの?」

 

「…しろ」

 

「しろ?」

 

「後ろを…見ろ」

 

「あ?後ろ?」

 

そしてはーちゃんは後ろを振り返った。

 

「頭を垂れてつくばえ、平伏せよ」

 

はーちゃんの後ろにいた人物がそう言った次の瞬間、俺達は土下座するように平伏していた。まるでここではそうしなくてはいけないような…そんな感覚に陥り、何も不思議にも思う事はなかった。

 

「み、三咲!何でここに!?わからなかった、こんな三咲久しぶり過ぎて振り返るまで気付けなかった。こ、これが三咲だ。結婚して初音ちゃんが生まれてから大人しかったから油断してたけど、考えてみたらあれ猫被ってたんだよな?凄まじい精度の擬態」

 

はーちゃん、ごめん。

早口過ぎて何を言ってるのかわかんない。

 

俺達の前に居たのは三咲ちゃん。

顔は笑顔だけど、後ろのオーラが本当にヤバい。

怒ってる?怒ってるよね?

 

「も、申し訳ございません。後ろを見てたもので!」

 

「タカくん?誰が喋っていいって言ったの?

そんなくだらない事はいいから、私の聞きたい事だけ答えて?」

 

無惨様…無惨様だ。間違いない。

三咲ちゃんはヲタって訳じゃないけど、昔から誰かに薦められて漫画やアニメを観た時、推しになったキャラになりきったり真似をしたりする。はーちゃんと梓ちゃんもそんな感じだけど。

 

ってか、何で無惨様なの!?

今のこの状況で何で無惨様!?

 

「私は駅前で待っていた。30分以上だ」

 

そうか。三咲ちゃんはえーちゃんからの連絡で家を出たんじゃなくて、最初から俺達と飲みに行くつもりだったんだ。俺達と飲みに行くのが無理だったとしても、えーちゃんとご飯に行こうとかなってたのかも知れない。

 

俺達は波瀬に会ったり、さっきの問答で時間をくってしまったから…。

 

「私が問いたいのはひとつのみ。何故BREEZEのみんなはそんなに時間に無頓着なの?飲みに行こうって約束したんだからそこで終わりじゃない。そこから始まりだ。待ち合わせの時間に間に合うように、待ち合わせ場所に着き、飲みに行く為の始まり。

ここ15年飲みに行く顔ぶれは変わらない。飲みに行けるのはBREEZEのみんなとだけだ。しかし、いつも何で待ち合わせの時間に遅れる?」

 

お、俺とはーちゃんはいつも待ち合わせ時間より早くに着いてるじゃん!三咲ちゃんより早く着く事もあるし。

遅れて来るのはいつもえーちゃんでしょ?

てか、三咲ちゃんはえーちゃんと一緒に住んでるのに何でいつも一緒に来ないの?

 

「お、俺は放浪して飲みに行けなかったんだし、そんな事俺に言われても…(ボソッ」

 

「拓斗くん?俺に言われても?何?言ってみて」

 

「こ、こんな小声でも聞こえんのかよ…マズイ…(ボソッ」

 

「何がマズイ?言ってみて」

 

「あ、いや、悪かった。俺はお前らと離れてた訳だし…って待って!三咲!何でお前手をバキバキ言わせながら俺に近づいてくんの!?あ、待ってホントごめん!ど、どうか慈悲を…申し訳ありません!申し訳…」

 

-グシャッ

 

待って待って待って待って待って!

グシャッって何の音!?

宮ちゃんどうなっちゃったの!?

土下座してるから宮ちゃんがどうなっちゃったのかわかんないんだけど。

 

「何でこんな事に…殺されるのか?

せっかくまた歌い始めたのに…何故だ…俺はこれからもっと…もっと…」

 

「タカくん?私の事怖い?」

 

「いいえ!」

 

「タカくんはいつもヤバいなぁって事があると逃げようと思ってるよね?」

 

「いいえ!思っていません!俺はいつも何とかしようと試行錯誤しています!みんなが幸せになれるように…」

 

「タカくんは私の言う事を否定するのか」

 

「何なのこの理不尽!」

 

-グシャッ

 

「ダメだ、おしまいだ。

謝っても殴られて、肯定しても否定しても殴られる。

戦って勝てるはずもない。なら、逃げるしか!」

 

-ダッ

 

えーちゃん!?えーちゃん逃げたの!?

ってか、それは悪手でしょ!?

今、逃げても一緒に住んでるんだし、絶対捕まるじゃん!

何を思って逃げようと思ったの!?

 

-グシャッ

 

あ、何か遠くでグシャって音が…。

 

「トシキくん、最期に言い残す事は?」

 

最期!?

 

「ハ、ハハハ、と、取り敢えずもう遅くなっちゃったしそろそろそよ風向かわない?俺、お腹空いちゃったなぁ~。今日は久しぶりだから三咲ちゃんの分は俺が出しちゃおうかな?」

 

「具体的にどれくらいの予算を?どれくらい食べていい?トシキくんの予算でどれくらい食べられる?」

 

「腹が!腹が裂けるまで!取り敢えずそよ風に行きさえすれば必ず満足するくらい食べさせてあげるよ!」

 

「何で私がトシキくんの奢りで食べなきゃいけないの?甚だ図々しい女だと思ってる?身の程をわきまえて」

 

「ち、違う!違うよ!」

 

「黙って。何も違わない。私は何も間違えない。たまに英治くんと結婚したのは間違いだったかな?って思う時もあるけど、全ての決定権は私にあって私の言う事は絶対なの」

 

ああ…もうダメかな…。

これも鬼がやられちゃう時の台詞だし。

 

「トシキくんに奢る権利は無い!私が正しいと思った事が正しいのだ。トシキくんは私に奢ろうとした。取り敢えず殴っとく」

 

何て理不尽な…。

何で奢ってあげようとして殴られなきゃいけないの?

 

いや、待てよ。

そういえばあの時、無惨様のパワハラ会議の時、助かった鬼も居た。

三咲ちゃんに殴られる前に、あの台詞を言えたら無惨様になりきってる三咲ちゃんなら…。

 

「お、俺は夢見心地だよ三咲ちゃん!」

 

-ピタッ

 

あ、危なかった…。

三咲ちゃんの拳は俺の目の前で止まってくれた。

 

「み、三咲ちゃんと一緒に飲みに行ける事を!ホントに幸せだなって!思って!」

 

「もう~…トシキくんったらぁ~」

 

大丈夫なのか?大丈夫なのか!?

 

「そんなに飲みに行くのを楽しみにしてくれてたなんて照れちゃうよ~」

 

三咲ちゃんの闘気が小さくなっていく。

良かった…助かった…。

 

はーちゃん、宮ちゃん、えーちゃん。

被害は大きかったけど…。

 

「でも、そんなに楽しみにしてたのに何で待ち合わせ時間に来なかったの?」

 

あ、下手な事を言ってもどうしようもないし。

レガリアの事は省いてホントの事を話すか。

 

 

「へー、波瀬くんかー。懐かしいー。

薫ちゃんとは年に何回か会うけど、波瀬くんとは結婚式以来だなぁ。久し振りだった訳だし話も弾んじゃうか」

 

何とか怒らせずに済んだかな。

 

「じゃ、そろそろそよ風に行こっか。

私、あっちに逃げた英治くん起こしてくるから、トシキくんはタカくんと拓斗くんを起こしてて」

 

完全に気を失ってるみたいだけど起きてくれるかなぁ?

 

でも、起こさないと後が怖いか。

 

「ほら、はーちゃん起きて。宮ちゃんも」

 

「あ?ここは…?さっきまで綺麗な川の前で立ってたはずなんだが…」

 

宮ちゃん…?

 

「あれ?蛇の道は?界王様の所に行く為に蛇の道を走れって言われたんだけど…」

 

はーちゃん…?

 

「ほら、2人共起きたならそよ風行くよ。三咲ちゃんの機嫌を損なう訳にはいかないし」

 

「三咲!?そうだ!そうだよ!確か俺三咲に…」

 

「誰だよ三咲に鬼滅薦めたの。あ、俺だったわ。初音ちゃんが学校で鬼滅流行ってるって言ってたから、全巻貸してあげたんだったわ」

 

三咲ちゃんがああなった元凶ははーちゃんか…。

 

あ、それよりはーちゃんにレガリアの事を…。

 

「まぁいいや。おい、タカ」

 

「あ?何?」

 

「お前さっきのレガリアの話、どこで嘘ってわかった?俺の話には穴なんかなかったはずだ」

 

「あ?レガリアの話?穴ぼこだらけだったじゃねぇか」

 

俺もはーちゃんにレガリアの事を聞きたいと思っていたけど、宮ちゃんが先に聞いてくれた。

 

「あー、まぁなんつーかな。トシキにも誤解させちまったみたいだし先に言っておこうか。英治がレガリアを捨てちまったのは俺知ってんだよ」

 

「「知ってた!?」」

 

「あ、やっぱ英治が捨てたの隠しとくつもりで作った話だった訳だな?」

 

はーちゃんはえーちゃんがレガリアを失くしてた事を知っていた?何で?

俺達もさっきえーちゃんに聞いたところなのに。

 

「んー、だからレガリアは大事なもんだし、あれは出来れば色んな事が片付くまでは俺が…って思ってたし、いずれクリムゾンもレガリア戦争の不安とかも無くなったら誰かに託したい。とは思ってたけどよ」

 

良かった。

はーちゃんもレガリアは大事な物だと思ってくれてたんだ。そして、全部、心配事が無くなったら誰かに託したいとは思ってたんだね。

 

「お前、レガリアを英治が失くしたのを知ってたんだろ?何を怒ってたんだ?」

 

「あ?英治が結局レガリアを失くしたってのを自白しなかったのと…お前らも英治の味方してその事を隠そうとしてたからかな。レガリアは…そんな事で片付けていいもんって訳じゃないし」

 

はーちゃん…。

 

「英治からの自白じゃない?じゃあお前は何でレガリアを英治が失くした事を知ってたんだ?もしかしてレガリアはお前が持ってんのか?」

 

「いや、レガリアの事は三咲にな。実は俺もレガリアが今どこにあんのかは知らねぇんだわ」

 

三咲ちゃんから?

そしてはーちゃんもレガリアは今どこにあるのか知らない?

 

「まぁ、お前らにも話しておくか」

 

今から話してもらえる?

 

「あれは2年前。一昨年の年明けの時に三咲に聞いたんだが…」

 

 

 

 

俺がレガリアの話を聞いたのは、一昨年の英治ん家でやった毎年恒例の新年会の時だった。

 

年明け前に大掃除をやってたらしい。

 

-コツン

 

「痛っ。あれ?今何か頭に当たった?もしかして何処からか狙撃された?」

 

三咲は台所やらリビングやらの掃除を終えてゴミ捨てに出た時、頭に何か当たったから狙撃されたと思い、周囲を見渡してみたそうだ。アホだな。

 

「う~ん…さっきの頭の位置から弾道を計算すると、狙撃手が居るなら…英治くんの部屋?」

 

そこで三咲は狙撃されたのではなく、英治の部屋から何かが飛んできたのだとわかったそうだ。アホだな。

 

「む~!英治くんめ!ゴミ捨てが面倒だからって窓から放り投げたんだな!後で初音が見てない所でぶん殴ってやる!」

 

そして三咲は英治が投げ捨てたゴミはちゃんと棄てなくちゃいけないと周りを見渡したそうだ。

そこで…

 

「あれ?ネックレス…?さっき飛んできたのはこれかな?……ってこれ!」

 

三咲はその落ちていたネックレスを見てすぐに射手座の宝玉と気付いたそうだ。

そして…

 

「これ!レガリアやん!射手座の宝玉やで!?こんなヤバいもん英治くんは投げ捨てよったんか!?これはヤバいで!どんくらいヤバいかと言うとめっちゃヤバい!」

 

生まれも育ちも関東なのに関西弁になる衝撃だったそうだ。

 

「ほんま英治くんは何しとるんや…。

こんなんタカくんにバレてみぃ。うち未亡人なってまうわ」

 

まだ関西弁が止まない程に焦っていたそうだ。

 

「ん?あれ?レガリア…今光った…?」

 

レガリアの光。

レガリアは誰にでも使える物じゃないし、使える者にも簡単に使えるもんじゃねぇ。

三咲は…トーンも見えちゃうヤツだしな。

何かその時に光ったレガリアは、たまたま光ったとかじゃなくて、レガリアの光だと思ったらしい。

あいつアホだからな。

 

「タカくんの時と同じ光。誰?どこ?

もう1度光って…!レガリア!」

 

三咲は大掃除の事なんか忘れてレガリアを見てたそうだが

 

「光らない。さっきのは私の気のせい?」

 

三咲はしばらくレガリアを見ていたが、やはり光る事はなく、ポケットにしまって家に入ろうとした。

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

「歌…?歌が聞こえる。

何だろうこの感じ。すごく懐かしい感じ、そしてすごく心地好い…」

 

その時どこからともなく歌が聞こえてきたそうだ。

何かその歌が気になったみたいでな。歌ってるのは誰なのか、どんな人が歌っているのか見てみたくなったらしい。

 

「すごく心地好い音色(トーン)。女の子かな?

どんな子が歌っているんだろう?」

 

三咲は歌声のする方へと歩いた。

英治の家の川の近く。河川敷で1人で歌っている女の子を見つけたそうだ。

 

その後、その女の子の歌の邪魔にならないように、近くでずっと見ていたらしい。

 

「♪~………ふぅ…」

 

-パチパチパチ

 

「え?だ、誰ですか?」

 

三咲はその女の子が歌い終わったのを見届けて、少し話をしてみたくなって拍手しながら近づいたそうだ。

 

「すごくいい歌だったよ。お嬢ちゃん歌すっごく上手いね!最高だよ!ブラボーだよ!トレビアンだよ!」

 

「え?歌…?あ、あの…ご、ごめんなさい!!」

 

女の子はそう言って逃げたらしい。

 

「え?あれ?逃げた…?

………逃がさないよ!」

 

三咲は逃げた女の子を追ったそうだ。

逃げる女の子を見た時、逃げる者は追わなくてはならないという狩人の血が騒いでしまったらしい。ほんま怖いよなあいつ。

 

「待って!少しお話を!」

 

「な、何で追ってくるんですか!?」

 

「お話!少しお話したいだけだから!先っぽだけだから!大丈夫だからっ!」

 

「さ、先っぽって何ですか!?何の事ですか!?」

 

そんな事を言いながら女の子を追う三咲に恐怖を隠しきれないが、普通の女の子が三咲のスピードから逃げられる訳もなく、河川敷からあがる階段の所で女の子を追い抜かしてしまったらしい。

 

「え?あれ?追い抜いちゃった」

 

「お、追い抜かれた?ぜ、全力で走ったのに…」

 

女の子を追い抜いた三咲は、その女の子をもう逃がさないと階段を1歩1歩と歩きながら降りたらしい。

聖帝十字陵からケンシロウに向かって階段を降りてた時のサウザーはこんな気持ちだったのかな?とか、訳のわからない事も言っていた。

 

そして、その女の子の眼前まで降りた時だった。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

三咲は躓いて転び階段から落ちて行った。

 

「あ、あの!」

 

その女の子は階段から落ちた三咲を心配して、駆け寄って来てくれたそうだ。

 

「な、何故私はサンダルで出て来たのか…靴を履いていれば転ぶことはなかったろうに…」

 

「お、お姉さん、大丈夫…ですか?」

 

「お姉さん!?(クワッ」

 

「ヒッ!?」

 

三咲は女の子にお姉さん呼びされた事を嬉しく思い、階段から落ちた時のケガの痛みなんぞ微塵も感じなくなったそうだ。

 

でもあいつそん時、左腕骨折してたんだよな。

トシキも覚えてんだろ?新年会の時に三咲が左腕に包帯巻いてた事。あの頃の話だわ。

 

「あはは、私こそごめんね。急に追っかけられて怖かったよね。お嬢ちゃんの歌がすごく素敵だと思ってさ。声をかけずにはいられなかったんだよ」

 

「わ、私は…その…歌なんて…」

 

三咲はその女の子と少しだけ話がしたいとお願いし、家に招いたそうだ。が、

その女の子は三咲のケガの度合いがヤバかったから心配になり、家まで送ってくれたらしい。

 

「おとーさん!それ、そこじゃない!」

 

「あ?別にこっちでもいいじゃねぇか!」

 

「ごめんね。今大掃除しててね。ちょっと…いや、すごくうるさいんだけど…。あ、コーヒーと紅茶どっちがいい?」

 

「あ、あの、いえ、お構い無く…お姉さん、左腕が変な方向に曲がってますし…」

 

「はうう…お姉さん…///

もっと…もっと呼んで!」

 

「え…あ、あの…」

 

女の子も果てしなく困惑していただろうな。

 

「あ、それよりコーヒー?紅茶?ジュースもあるにはあるけど…果汁100%のはきらしてて…」

 

「あ、私…もうそろそろ…」

 

「コーヒー?紅茶?」

 

「あ、あの…」

 

「それともジュース?」

 

「あ…いえ、そ、それじゃ紅茶を…」

 

「紅茶ね!了解♪いい葉っぱがあるんだよ~」

 

「そ、そんな高級なのは…その…」

 

女の子もめっちゃ帰りたかっただろうな。

 

「はい、紅茶」

 

「そ、その…すみません。いただきます」

 

「さっきの歌。すごく上手だったね」

 

「ブホッ、ケホッ…ケホッ」

 

「わ、大丈夫!?」

 

「ケホッ、大丈夫…です。さ、さっきの歌は…その…」

 

「お、落ち着いて。私何か変な事聞いちゃったかな?」

 

「あの…そ、そういう訳じゃなくて…その…私…歌うのあまり上手くないから…」

 

「え!?何で!?すごく上手だったよ!私感動したもん!」

 

「…ありがとうございます。でも、私…歌は…音楽は…」

 

女の子が三咲に話した話はこうだった。

 

女の子は今、母親と再婚した新しい父親と3人で暮らしているそうだが、母親が再婚する前の父親。

本当の父親は音楽に対して狂気的で、歌はもちろん楽器の事とか音楽の事となると、ものすげぇ厳しい教育をされていたらしい。

 

音程を少しはずしたり、楽器でミスをしたりすると、物を投げられたり、手をあげられたりしたらしい。

母親はそれが嫌でその女の子を連れて離婚し、新しい人と再婚したそうだ。

 

女の子は幼かったからその時の事は覚えてないし、本当の父親の事もあんまり覚えていないらしい。だけど、その幼い頃のトラウマからか、女の子は人前で歌ったり楽器をやったりするのが苦手になったらしいんだが…。

 

「そっか。そんな事が…。それで歌うのが苦手になっちゃったの?」

 

「えっと…お母さんには…父との事はそう聞いていますし、私自身…人前で歌ったりするのは苦手なんですけど、何か…その…おぼろげですけど、小さい頃に音楽の事で怒られたりしてたのは覚えてるんですけど、ち、違うんです」

 

「違う?」

 

「何て言ったらいいのか…わからないんですけど、怒られてた事は覚えてますけど…父は時折私の歌を聞いて嬉しそうにしたり、寂しそうにしたり、悲しそうにしたり…暖かかったり…だから、私は人前で歌うのは苦手ですけど、歌う事自体は好きで…だからさっきも誰もいないと思って…」

 

女の子は歌う事は好きだと言った。

そしてそれを聞いた三咲は、歌を好きという気持ちがあるなら、何とかしてあげたい。そう思ったらしい。

ほんま俺の時といい…あいつは…。

 

「それであそこで歌ってたんだね」

 

「はい…。それに今度…」

 

「今度…?」

 

「今度と言っても来年の話なんですけど、3月には3年の先輩達が卒業しちゃうので…その時に送り出す歌を私達2年が歌うんですけど…何故か私がソロパートを歌う事になってしまって…」

 

「そっか。うちの中学は今も卒業式には2年で送り出す歌を歌うんだね」

 

「うちの中学…?」

 

「うん、天音ちゃんのその制服。私の母校の制服だから」

 

その女の子は天音(あまね)ちゃんといって、俺達の後輩ちゃんにあたるらしい。

そういや卒業式ってそんなのだったよなー。って懐かしかったわ。

 

「でもソロパートは私達の時にもあったけど、あれは希望者とか推薦とかだったでしょ?人前で歌うのが苦手なら何で?」

 

「あ、わ、私が一人で歌ってたのを、友達に聞かれちゃっててそれで推薦されて…断る勇気がなくて流されてそのまま…」

 

「なるほどね。断りきれなかったかぁ」

 

「そ、それに断ったら推薦してくれた友達に悪いと思ったのと…歌うのは好きですから、その時はこれがきっかけで私も変われるんじゃないかな?って思ってしまって。でも、やっぱり時間が経つと人前で歌うのは怖くて…」

 

「そっか。何となく似てる。だから久し振りに音色が見えたのかな」

 

「似てる?」

 

「ちょっと長くなるんだけど、心して聞いてね」

 

「心して!!?」

 

そして三咲は大神さん達2代目ONLY BLOODの事、俺達BREEZEやArtemisの事、俺達に関わったみんなやクリムゾンとの事、そしてレガリア戦争の事もその女の子に話したそうだ。

 

「そんな事があったんだよ。ふふ、心して聞いてとは言ったけど、本当にしっかり聞いてくれたんだね。瞬きもしないから少し心配しちゃったよ」

 

「すごい…すごいです。ONLY BLOODの大神さんも、BREEZEのタカさんも、Artemisの梓さんも。

ううん、お話に出て来た人達みんな凄かった。すごくかっこいいです」

 

そして女の子は手を高くあげて手のひらをひらいて空を見上げたそうだ。

室内なのに空を見上げたって何なの?って聞きたかったけど怖くて聞けなかったのは言うまでもない。

 

「変われるかな?私も。そんなかっこいい人達みたいに。ソロパートを歌えば…ううん、例えそれが失敗しても、その次とかその次とか未来は続いていくから。いつかは…」

 

女の子がそう言った時、三咲はさっきのレガリアの光はこの女の子に反応したんだと確信したそうだ。

 

「うん。きっと変われるよ。明日はいっぱいあるんだから。そ~だ!このネックレスあげる。天音ちゃんがもっともっと音楽が好きになって、歌う事が大好きになるお守り」

 

そう言って三咲はレガリアを女の子に渡した。

 

「綺麗なネックレス…。でもさすがにそんな高価そうなもの受け取れませんよ」

 

「う~ん…高価ではないと思うんだけど…チェーンの部分はタカくんが980円くらいで買った安物だし」

 

「980円?」

 

「とりあえず受け取って」

 

そう言った三咲はその女の子が目に追えないスピードで動き、無理矢理ネックレスを着けさせたらしい。

 

「うん!似合う似合う!」

 

「って、え!?いつの間に!?片手で!?」

 

「ムフー!」

 

「でも、本当にこんな素敵なネックレス…いいんですか?」

 

「うん、天音ちゃんに受け取って欲しかったんだ。私もチューナーとは言えBREEZEのメンバーな訳だし」

 

「BREEZEの…?ま、まさかこれって!」

 

「そ。射手座の宝玉」

 

「レガリア!?そ、そんなの!私なんかが受け取っていいものじゃありませんよ!!レガリアはもっとすごい人に渡さないと!」

 

「さっき大神さんやタカくんの話をしたでしょ?

私が大神さんの話を聞いて、タカくんを見てきて、そして、天音ちゃんにレガリアを受け継いでもらいたいって思ったんだよ」

 

「大神さんの話や…タカさんを見てきて…私に…?」

 

「嫌かな?ダメかな?」

 

「嫌では…ないです。私の歌や話を聞いて下さって、大神さんやタカさんの想いを…。でもダメだとは思います。私なんかが…と」

 

三咲は何も言い返さず女の子を見ていた。

 

「……正直、重いです。あの2人の想いを背負うのが重いんじゃなくて、いや、それも重いとは思っているんですけど…その想いは背負って、いつか私も語り継いでこのレガリアを受け継がせていこうと思います」

 

「天音ちゃん、それじゃ」

 

「はい。せっかく三咲さんが託してくれたレガリア。しっかり受け継がせて頂きます。私なんかじゃ…使えないとは思いますけど、大神さんやタカさんの想いや戦いには感動しましたから、私もそのお話を受け継いでいきたいと思いましたから」

 

「ふふ、私達がやってたのバンドで音楽なのに戦いって何なのって感じだけどね」

 

「そ、そういえばそうですよね…戦いって…。

でもいつか会ってみたいな。大神さんとタカさんに」

 

「……ガッカリするかもよ?」

 

「え?」

 

「いや、いやいや!何でもないよ!

レガリアを受け継いでくれてありがとうね、天音ちゃん」

 

 

 

 

「そうして射手座の宝玉はその女の子に受け継がれたらしい。三咲に16発殴られた後でそう聞いた」

 

16発殴られたの?何で?

 

「三咲のやつめ…最初は何も説明もなくレガリアを人にあげちゃったとか言うから、さすがに三咲相手でも怒ったんだが、そしたら逆ギレして殴りかかってきやがってよ」

 

ああ…なるほどね。

 

「その話を聞いた後は…」

 

『天音ちゃんはね、大神さんやタカくんと同じだよ。

まだ聞いた事のない歌や音楽、まだ見た事のない明日。そういったものを信じてるんだよ。レガリアはそういった人にこそふさわしいよ』

 

「って言ってたな。俺の未来は真っ暗なんですけどね」

 

「なるほどな。三咲がそういった女の子にレガリアを…俺はいいと思ったぜ」

 

「俺もそう思ったよ。そういった気持ちの人なら、きっといいレガリアの使い手になってくれると思う」

 

「ま、今もその女の子…天音ちゃんか?その子がレガリアを持ってるかわからんけどな。もう誰かに受け継いでんかも知れんしな」

 

そうだったんだね。

三咲ちゃんはそれからその女の子と会った事はないんだろうか?

2年前に中2って事は今は高1?渉くん達の1こ下かな?

 

レガリアの今の行方はわからない。

でもレガリアはきっと、まだその女の子が持ってると俺には予感があった。

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