「渉くん!亮くん!またね!」
「また学校でね」
「おう!拓実もシフォンもまたな!」
「気をつけて帰れよ」
そう言って拓実とシフォンと別れ、今オレは渉とうちの親父が経営している定食屋へ向かっている。
オレの名前は秦野 亮。
Ailes Flammeのギタリストだ。
これからはアイドル活動ってやつもやる事になるんだろうが…。
「でも本当にいいのか?亮ん家の店ってこの時間には閉まってんじゃねぇのか?」
「ん?大丈夫だろ。親父にもオレと渉で飯食いに行くって連絡したしな」
「何か申し訳ない気もするけど、今から親父さんのカツ丼食えるかと思うと年甲斐もなくワクワクしてくるな!」
カツ丼食うのに年甲斐って何だ…?
「親父もそう思ってもらえてんの知ったら嬉しいんじゃねぇか?」
渉はうちに来るといつもカツ丼だしな。
「でも企画バンドってびっくりだよな。もちろんAiles Flammeが一番だけど、トシキにーちゃんにプロデュースしてもらえるとか年甲斐もなくワクワクしてるぜ!」
年甲斐もなくって言葉が渉の中で流行ってんのか?
「オレは拓斗さんと晴香さんのプロデュースでアイドルだしな。ギター無しでどこまで音楽をやれんのか不安もあるな」
そう。オレは音楽は好きだけど、今まではギターばっかりだった。
学校の授業とかなるとそれはまた別だが、本気で打ち込むってなると歌やダンスなんか今までやって来なかったしな。不安もあるってもんだ。
「シフォンじゃない井上のドラムも楽しみだよな」
「ああ、オレも気になってる。いつもの可愛らしいシフォンのドラムとは違う井上の音。楽しみだよな」
「え?あ、ああ、シフォンのドラムって可愛らしいかな?どっちかっつーと力強い感じだと思うんだけど…」
オレ達は企画バンドの話や、これからのAiles Flammeの事を話しながら歩いていた。
企画バンドも大事だと思うが、やっぱりオレ達はAiles Flammeなんだしな。
「そういや亮は新曲の歌詞とか出来そうか?俺はこないだ梓ねーちゃんにアドバイス貰ってよ。新しい曲がまた完成しそうだぜ」
梓さんにアドバイスを貰って?
渉のやついつの間に梓さんと…。
「インスピレーションってやつかな?こないだそれがブワーっておりてきてよ」
「お前、梓さんにアドバイスを貰ってって。いつの間にそんな話したんだよ?お前なりのアプローチとかもしたりしたのか?」
聞いても大丈夫…かな?
まぁ渉だしな。いきなり変な話にはなってねぇだろうが…。
渉は先日、梓さんの事が好きになったんだとオレに話してくれた。
年齢差とかもあるし、梓さんは貴さんの事を…ってのもみんな知ってる事だしな。
渉の片想いで終わる話だと思ってたんだが、こいつはこいつで自分なりに自分の恋を頑張ってたんだな。
「おお!それな!こないだ梓ねーちゃんに告った時によ」
「へぇー、お前もう梓さんに告白したのか。すげぇな」
「ああ。告白は見事に玉砕だったけどな!」
さすが渉だな。もう梓さんに告白していたとは。
…
……
………
は!?告白!?
渉が!?梓さんに!?告白したの!?
「お前…梓さんに告ったってマジか?いや、いつもの冗談だよな?」
「は?いつもの冗談って何だよ。告白って大事な事だろ?冗談なんかじゃやんねーよ?」
「いや、オレが言ってる冗談ってのはそう意味じゃなくてな…」
渉…マジか。マジなのか。
何か唐突過ぎねぇか?お前が梓さんの事を好きって自覚したのは最近だろ?
しかもそれからずっとそんな話題もなく、企画バンドの話ばっかりだったじゃねぇか。
いつの間に告白なんかしたんだ?
「亮?どうした?」
「あ、いや、お前梓さんに告白って…玉砕って事はフラれたんだろ?その割には元気だよなって思ってよ」
「それなんだよ!」
うおっ!?びっくりした。
いきなり叫ぶからビビっちまったじゃねぇか。
それってどれだよ。
「俺も梓ねーちゃんに告った時に思ったんだけどさ…モヤモヤモヤ」
モヤモヤモヤって何だ?
あ、あれか?漫画とかでたまに見る頭の上に出てくるモヤモヤみたいなやつか?って事は今から回想シーンが始まるのか?
「梓ねーちゃん!ずっと好きだった!俺と結婚してくれ!」
「あ、あの…うん、ありがと。渉くんの気持ちすごく嬉しいよ。本当におおきに」
回想シーンじゃねぇのかよ!ずっと好きだったって何だよ!?好きって自覚したの最近だろ!?しかも付き合うのすっ飛ばしていきなり結婚!?
ってか、渉が梓さん役までやんのかよ!ってか喋り方似てねぇよ!
無理矢理関西弁持ってくんなよ!いくら梓さんが関西の人だからってそこで『おおきに』は無いだろ!?
……無いよな?
「本当か梓ねーちゃん!じゃ、じゃあ早速市役所に婚姻届を…」
「でも、ごめんね。あたし…好きな人いるから」
「にーちゃんの事か?」
「に、にーちゃんって…タ、タカくんの事…やんね?」
まだこの小芝居は続くのか。
別にそこまで詳細な事まではどうでもいいんだけどな…。
「おう!にーちゃんってにーちゃんの事だぞ!梓ねーちゃんがにーちゃんの事を好きってのは聞いてるけどな。でも、俺も梓ねーちゃんの事が好きになっちまったんだ。だから…ラブミードゥ!」
渉。お前、本当にそんな告白の仕方をしたのか…?
・
・
・
そして、その後も10分程渉の小芝居は続いた。
「んで、梓ねーちゃんに本当は梓ねーちゃんへの気持ちは憧れであって、恋じゃないと思うって言われてよ。梓ねーちゃんに俺が本当に恋をしている人は、何も無い時も何かあった時もいつも一緒に居たい人なんだよって言われて考えてみたんだ。あ、それと◯◯◯したいとか×××とかしたいと思う人ってのも言われた」
長かったな。渉の小芝居。
しかし途中から小芝居止めて普通に話してるし。
飽きたんだろうな…。
てか、梓さんは未成年の渉に何言ってんの?
「あー、それで?考えてみてどう思ったんだ?やっぱり梓さんには恋をしてる訳じゃないって気付いたのか?」
「ん…まぁな。梓ねーちゃんへの気持ちって憧れで、にーちゃんに感じてるような気持ちって気付かされたんだ。俺も男だし○○○とか×××もしてみたいし、脱チェリーしたいって気持ちもあるけどよ?」
「そっか」
なるほどな。だからそんなショック受けたような感じなは見えなかった訳か。
貴さんへの憧れみたいな気持ちを梓さんにも投影して、それで好きになったんだと思っただけか。
ってか脱チェリーって…。
「そんで?お前自身本当に好きな人ってのも気付けたのか?」
「いや、さすがにそこまでは無かったけどな。でも、何かあった時も無かった時も一緒に居たい人って言われた時は…ちょっとあいつを…」
ん?は?え?
居るのそういう相手?
あいつを…って事は年上勢は無いか?いやでも渉だしな?
となると、まさかシフォンか…?ありえるな。
シフォンは可愛すぎるからな。常に一緒に居たいと思ったとしてもやむを得ない相手だ。
とうとうオレは渉と…
「シフォンの事じゃないから安心しろな?」
シフォンの事じゃなかったか。
命拾いしたな、渉。
って事は誰だ?
雨宮か河野か明日香?小松って事は無いよな…?
ガキん頃から一緒だし恵美って事も考えられるか?
あ、意外と仲の良い美緒って可能性もあるか?
うぅ~ん…雨宮か美緒だったら…結局…うん、考えないでおこう。
「どうしたんだ亮?別にそいつの事を好きって訳じゃないと思うぞ?梓ねーちゃんに言われて何となくって感じだしな」
「そ、そうか」
前回の3周年記念の事もあるし、あんまこういう話は掘り下げない方がいいか…。
「それより早く亮の家行こうぜ!年甲斐もなく腹減っちまったしな!」
やっぱり年甲斐もなくって渉の中で流行ってんのか…?
・
・
・
オレ達は親父のやっている定食屋の近くまで来た。
親父の店は居酒屋って訳でもなく、そんな流行っている店じゃないから夜は割と早目に閉店する。
ここは商店街からも近いし人通りもそれなりにあるから、周りの店はまだ開いているし道も明るい。
そんな中で1軒だけ閉めて電気も消している店だから、遠目からも目立っている。
奥の厨房ではまだ親父達も仕事をしているのだろう。
店自体の電気は消えているが、近くまで来ると奥からの明かりがぼんやりと見えている。
「お、亮の言う通りだな。まだ親父さん達は居るみたいだ」
「だから言ったろ?さっき親父に連絡したって。オレの蕎麦と渉のカツ丼も注文してるから心配すんな」
オレは渉にそう言って、店の扉を開けて中に入った。
………!?
な、なん…だ?これ…?
オレは店に足を踏み入れた瞬間。
一気にまわりの空気が重くなった事を感じた。
喉が渇く。
店に入った瞬間、まるで今まで居た世界と違う世界に来てしまったような感覚。
身体が重い…。上手く身体を動かす事も出来ない。
オレは一体どうしちまったんだ…?
頭の中で色んな事を考えた。
主にシフォンの事だったが…。
店の奥に目をやった時、真っ暗な店の中で1人テーブル席に座る1人の客の姿が目に入った。
……てかマジか!?お客様!?
このお客様こんな真っ暗な店の中でずっと1人で座ってたの!?
親父もお袋も気付かなかったの!?
お客様もお客様だよ!?店の電気も消されてんだぜ?
帰るか親父達を呼ぶか何かしようよ!
真っ暗な店の中のテーブル席に座る客。
もちろん料理も無いし食べた後って訳でもなさそうだ。水を出された形跡もない。
つまりこのお客様が席に着いてから親父もお袋も接客もクソもしてないって事だ。
さすがに今から親父達に頼んで、何か飯を提供してもらう事も出来ないだろう。
この店の一人息子として、丁寧にお詫びして帰ってもらうしかないな…。
「あの…お客様すみま…」
……!?
オレがそのお客様に声をかけようとした時、今まで感じてた重み以上の圧がオレにかかってきた。
何だこれ…?上手く息も出来ねぇ。変な汗まで身体中から吹き出してくる。
こ、これが以前にタカさんが言っていた『地球の重力に魂が引かれている』って現象か!?
『いいか。渉、亮、拓実、シフォン。本当に悪いのは地球の重力に魂を引かれた人達だ』
とか、言っていた。
あの時は正直、何言ってんだこの人?とか思ってたが、これがこういう事か?オレの魂が地球の重力に引かれているからこんな圧を…?
なんてバカな事考えてる場合じゃねぇよな。
くそ、本当にどうしちまったんだオレは。
何とかお客様に声をかけなきゃよ…。
オレは上手く息を吸う事も出来ず、身体が思うようにも動かないが、もう一度お客様に声をかけようと…
-ゾクッ
さっきの圧に加えて恐ろしい程の寒気がオレを襲った。
オレがお客様を見た時、そのお客様とオレの目が合った。
お客様の目はオレを見ていた。
睨む訳でも真っ直ぐオレを見ている様でもなく、怒り、哀しみ、憐れみ、愚別、尊敬、恋慕、友好、思案、魅惑、魅了、軽蔑、慈愛……どんな感情とも取れない目で、全ての感情が入り交じったような目で、ただオレを見ていた。
まるで金縛りにあったみたいだ。
蛇に睨まれた蛙って言葉があるが、まさに今のオレがそんな言葉を体感している時間だった。
…この感じ。あの時も似たような事を感じた事がある。
夏休みの終わり頃、ファントムに居たオレ達の目の前に現れたクリムゾンエンターテイメントの創始者、海原 神人。
あの日、SCARLETに所属する事を決めた日、オレ達はたまたま海原と出逢う事になった。
Ailes Flammeをはじめ学校の連中と一緒にファントムでダベッていた時だ。
ただのファントムの客だと思っていたおっさん。
タカさんと英治さんが対峙した瞬間、急にファントムの中の空気が変わり、それまで居たお客様も急いでいるかのよう帰って行った。
オレ達ファントムのバンドマンを除いては…。
今、目の前に居るお客様からあの時の海原のようなプレッシャーを感じる。いや、海原以上か…。
渉の方を振り向く事すら出来ないが、渉も微動だにしていない。渉もきっと動く事も喋る事も出来ないでいるんだ。
……って事は、目の前にいるこいつはクリムゾンエンターテイメントの…。
二胴か九頭龍ってヤツか…。
-ポン
オレは誰かに肩を叩かれた。
叩かれた?叩かれた気がしただけか?
「亮。何やってんだ。蕎麦があがったぞ。渉ちゃんと一緒に食ってろ」
「おや…じ…?」
オレは声を発する事が出来た。
そして肩に手を置かれている感覚。
誰かに肩を叩かれたと思ったのは…親父か?
オレはそのまま親父に肩を引かれ、カウンター席に座らされた。
そしてそこにはオレの好きなざる蕎麦が…。
隣には渉が座っていた。
「渉ちゃんも亮も大丈夫?」
お袋…?
カウンターの向こうからお袋の声が聞こえた。
妙に安心する。さっきまで感じていた重い空気も無くなったかのような感覚。
オレはお袋の方に顔を向けた。
「だ、誰ぇぇぇぇぇぇ!!?」
オレが顔を向けた方向にはお袋が居るハズだった。
オレはやっとの思いで声を出せたが、驚きとかその他もろもろでいっぱいいっぱいだ。
だってさっきの声は昔から聞き慣れたお袋の声だったもん。
なのにオレの目の前にはやたら綺麗なギャルが居るんだもん。本当に誰なの?
「おう!俺は大丈夫だぞ!ありがとうなお袋さん!」
お袋さん?
渉がお袋さんと呼ぶのはオレのお袋くらいだ。
大体の人には名前の後にねーちゃんって付けて、◯◯ねーちゃんって呼ぶしな。
ってか、渉はこのギャルをお袋って呼んだの?それはさすがに失礼だぞ?
「良かった。亮は?あんたは大丈夫?」
!?
このギャルの発した声はお袋そっくりだった。
そうか。そういう事か。
渉は顔や見た目じゃなくて声で人を判断してんだな?
「亮?」
う…!
そのギャルは心配そうな顔をしてオレの顔を覗き込んできた。
シフォン程じゃないが、こんな綺麗な女性の顔が近くに来るとさすがに照れてしまうぜ。
「あ、あの、はい。大丈夫ッス。ありがとうございます」
「は?何で敬語?本当に大丈夫…?」
いや、さすがに初対面だし敬語にはなるだろ。
オレも常識くらいは…うん、少しはな。
「はは、亮もおかしなヤツだな。自分のかーちゃんにいきなり敬語とか!いつもみたいに話せばいいのによ!」
は?渉は本当に何を言ってんだ?アホになったか?
そういやそういう症状はよく出てたもんな。
安心しろ渉。オレはお前を見捨てたりしないぜ。
だがそれよりもだ。
「渉。いくらなんでもこんな綺麗な女性にお袋って呼ぶのは失礼だろ?」
「な!?綺麗な女性って…///」
「は?亮?お前どうしちまったんだ?お袋さんもびっくりしてんじゃねーか」
いや、渉。お前が本当にどうしちまったんだよ。
「自分の母親に綺麗な女性とか…。一瞬ときめいちゃったわ。ま、気が動転してんのかな?あいつを目の前にしたんだから仕方がないかもだけど…」
このギャルも何言ってんだ?自分の母親?
「あ、あの…お姉さんこそ何を言ってんスか?母親?」
そう声を掛けたオレをそのギャルは不思議そうな顔で見ていた。
「りょ、亮?お前、自分のかーちゃんの顔も忘れちまったのか…?」
「あ!あーあーあー…そっかそっか。
あたしがこの姿で亮の前に出るのって幼稚園以来か。
風呂か夜の営みの時か、渉ちゃんと澄香とタカとトシキの前でしかこの姿に戻ってなかったしね」
「へー!そうなのか!にーちゃんとトシキにーちゃんと澄香ねーちゃんは知ってんだな!ん?なんで英治にーちゃんは入ってねぇんだ?」
いやいやいやいやいやいや!!
待てよ!本当に待てよ!
何!?この姿に戻ってなかったって何なの!?
いつものちょっぴりふくよかなオバサンみたいな姿は偽りの姿だったの!?
渉やタカさん達の前では元の姿に戻ってたのに実の息子の前ではずっと偽ってたの!?何で!?
ってか聞き逃したかったのに聞こえちゃったけど、夜の営みって何だよ!自分の親のそんな話聞きたくなかったわ!!
と、そこまで考えてふと思った。
オレの親父とお袋は15年前にアルテミスの矢としてクリムゾングループと戦い、タカさん達BREEZEや梓さん達Artemisの解散後も、クリムゾンエンターテイメントと戦いながら音楽をやっていたと聞いている。
そしてその戦いが長きに渡り、親父達は結局クリムゾンエンターテイメントに敗れ、浅井という親父の姓を捨てお袋の旧姓である秦野と名乗る事にした。
クリムゾンエンターテイメントの目から逃れる為に。
お袋が今のギャルみたいな姿を捨てて平時は変装をしていたというなら、それはクリムゾンエンターテイメントから逃れる為だったんだろう。……という事は親父の今の姿も…!
オレは親父の方へと顔を向けた。
親父はいつの間にか奥のテーブル席に座る客の前に立っていた。
「久しぶりだな。浅井」
親父に向けて客が声を掛けた。
そしてその客は親父の事を秦野ではなく浅井と呼んだ。
つまりこの客はやはりクリムゾンの…
「亮。やっぱりだな。亮の親父さんの事を浅井って言った。この客…クリムゾンの…」
渉も同じ考えに至ったんだろう。
「ああ…間違いないな。こいつが多分タカさん達の言っていたクリムゾンエンターテイメントの…」
「ああ、残りの四天王…二胴ってヤツか…」
「九頭龍ってヤツのどっちかだろうな…」
こんな破滅的なプレッシャーをかけてくるヤツなんかそうそういないだろう。
ってなると、今もクリムゾングループで幹部として君臨しているという15年前の四天王の…
「あいつは二胴でも九頭龍でもないよ。あいつはそんな雑魚じゃない…」
は?雑魚…?
今このギャルは…いや、もうお袋でいいか。
お袋は二胴や九頭龍の事を雑魚と言った?
クリムゾングループの四天王だったヤツラを…?
「さすがですね。こんな変装をしていてもオレだとわかりましたか」
そう言って親父はハゲのヅラを取り長くサラサラとした髪が出てきた。そして低かった身長も180cmあるオレよりも高くなった。
………落ち着けオレ。
ハゲのヅラを被ってたってのはまだいいとしよう。うん。お袋もこんな綺麗なギャルになっちまったぐらいだしな。
だけど身長が高くなったって何なの!?
何で身長が延びるの!?それもう変装の域を越えてねぇか!?
「お久しぶりです。足立さん」
…
……
………は?
親父…今、その客の事を何て呼んだ…?
足立…?
「お、おい、今、亮の親父さん…あいつの事足立って…」
俺の聞き間違いじゃない。渉にも聞こえていた。
こいつが…タカさんと15年前に最期のデュエルをした、クリムゾンエンターテイメントの足立。
「足立さん、何故またこの街に戻ってきたんです?」
「戻ってきた?ククク、戻ってきた…か」
「足立さん!」
……あの客が15年前にBREEZEと、いや、タカさんとか。
壮絶なデュエルをして、タカさんが喉を壊す事になった相手。
と、いうのはわかった。
オレもタカさんや英治さんや親父達に少なからずは聞かせてもらえていたから。
だがオレにひとつの違和感。
何で親父は足立の事を『足立さん』と呼んでいるんだ?
歳上だから?……いや、オレの親父はそんなタマじゃねぇよな。
「BREEZEの葉川がBlaze Futureとしてまた歌い始め、中原のライブハウスファントムはSCARLETと提携を組んだ。そして宮野のLazy Windもこの街に帰ってきて、佐藤のヤツは先日の雨宮とのデュエルでも変わらずパワフルなギターを演奏した…か」
…!?
こいつ、タカさんや英治さんの事、拓斗さんのLazy Windの事はともかく…何でトシキさんが雨宮の親父さんとデュエルした事まで…!?
あの話はオレ達…ファントムの仲間内しか…。
「まぁ、トシキにーちゃんと雨宮の親父さんがデュエルしたのって2年半くらい前に公開した話だしな。知っててもしょうがないよな。てか、足立もこの小説読んでんだな」
頼む渉。
今はそういう事を話す時じゃない。頼むから黙っててくれ。
「フン、俺もかつてはクリムゾンエンターテイメントの四天王と呼ばれた男だ。そんな呼び名なんて必要なかったがな。安心しろ浅井の息子よ」
!?
浅井の息子…?オレの事か…?
「俺はそんなツテのおかげでな。大して知りたい訳でもねぇのに色んな情報が勝手に入ってくるだけだ。お前らファントムの中に裏切り者や俺のスパイが居る訳じゃねぇ。情報ってのはよ?いくらでも入ってくるもんなんだぜ?」
こいつ…オレの事を見てた訳でもないのに…。
オレの考えてる事を読んだってのか…?
「フッ、つまりだ」
そう言ってその客は足を組み、まるでこの場に居るオレ達を見下しているような態度でこう言った。
「15年前、クリムゾンエンターテイメントの足立はBREEZEの葉川に負けた。だが、お前らの言う『楽しい音楽の世界』を紡ごうとしたサジタリウスの葉川、『音で世界を破壊』しようとしたスコーピオンの足立との戦いはまだ終わってないんだ。あのレガリア戦争はよ」
音で世界を破壊?何を言ってるんだこいつ…?
レガリア戦争…?
「足立さん…!あんたはまだそんな事を…!」
親父…?親父は何か知ってんのか?
「ククク、だが、俺のレガリアは葉川に破壊され、俺の顔には一生治る事のない傷がついた。そして、葉川もレガリアこそは使いはしなかったが、一生治る事のない傷を負い喉を壊した」
あの客の…足立の口元にある傷痕はタカさんが…?
「ま、まさかにーちゃんは…キラークイーンでレガリアってやつを…」
ハッ!?
そ、そうか。キラークイーン。
タカさんには
タカさんはスタンド能力のキラークイーンで、足立のレガリアってやつを爆破したのか!?
「今となってはそんな事はどうでもいい話だ。
ああ、そんな事もありましたね?って感じの昔のおとぎ話程度のもんだな。まぁ、俺が見込んで音の世界の全てを叩き込んだ部下夫婦が、葉川達の音楽に共感を得てアルテミスの矢に入ったと聞いた時は涙を流したもんだがな」
そう言った足立はオレのことを見た。
足立が見込んだ部下夫婦?
オレはお袋に目をやった。オレの視線に気付いたお袋は…
「いつかは…ちゃんと話そうとは思ってたんだけどね」
そういう事か?
そういう事なのか?
親父とお袋は…足立の部下…つまりクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンだったって事か?
クリムゾンエンターテイメントのミュージシャンだった親父とお袋は、タカさん達との戦いの中でクリムゾンエンターテイメントを裏切り、そしてクリムゾンエンターテイメントに裏切り者として潰された…のか?
「ククク、心配すんじゃねーよ」
足立の声を聞いてオレはハッとした。
親父とお袋の事、親父達とクリムゾンの事。
気になる事は山程あるが、今は足立の話を聞いておくべきだよな。
親父達の事は過去の事、もう既に『あった事』だ。
それより『今』、足立がここに現れた事。
それがオレ達Ailes Flammeやファントムのバンドに関係がある事なら、ここでしっかり聞いておかねぇと…。
オレは再び足立に目を向けた。
「だが今更、喉を壊して昔のように歌えなくなった葉川との決着なんかに興味はねぇ。宮野や中原にしても一緒だな。BREEZEなんかには微塵も興味はねぇよ」
BREEZEには微塵も興味がないだと…?
「何言ってやがんだあの野郎!にーちゃんは今でもスゲェし、トシキにーちゃんも英治にーちゃんも拓斗にーちゃんもスゲェミュージシャンだぞ!」
渉、オレもそう思ってはいるが、今は黙っててくれ。
「さっきも言ったが、あえてもう1度言わせてもらうぜ。クリムゾンエンターテイメント四天王の足立はBREEZEの葉川にレガリアを破壊されて負けた。だがあの時の事はそれだけだ。葉川との決着なんざ今の俺には…いや、違うな。喉を壊したあの野郎との決着なんざ俺にはもう無意味なモノでしかねぇ」
タカさんとの決着…?
「フン、そこに居る江口 渉も浅井の息子も気になっているようだし、少しだけ昔話をしてやるか。お前ら浅井夫婦にはもう知ってますって話だろうけどよ」
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-15年前、廃れたライブハウス
『ククク、どうやらここまでのようだな。夜の太陽』
『は…?夜の…太陽…だ?お前なん…かに、そう呼ばれたく…なんか…』
『いいぜ?使えよレガリアを。歌えよFutureを。
じゃなきゃテメェはこの場でみっともなく潰れていくしかないんだぜ?わかってんだろ?お前自身が俺には勝てねぇって事がよ』
『ぅ…るせぇ…、…ね、ボケ』
『聞こえねぇな。お前の言葉も歌も。俺には何も届かねぇ』
俺は葉川と1対1のデュエルをしていた。
葉川はArtemisやアルテミスの矢を守る為に俺にたった1人で挑んで…。
いや、ここもお前らには話してやろうか。
俺が葉川とデュエルをやる少し前。
そう、ほんの少し、30分程度前の事だ。
俺はアルテミスの矢もクリムゾンエンターテイメントだけじゃなく、クリムゾンミュージックも、アーヴァルもその一派も含めた全てのバンドを、音楽をやるモノを潰す為の準備をしていた。
そこに当時クリムゾンエンターテイメントだった手塚が、俺を潰す為に俺の根城に乗り込んできた。
だが俺はクリムゾンエンターテイメントで手に入れた力。俺を崇拝するミュージシャン達で手塚を迎え撃った。
ククク、さすが手塚だと言わざるを得なかったぜ。
ヤツは俺の部下共をデュエルで倒し、とうとう俺の眼前に現れた。
『足立…ハァ…ハァ…手間掛けさせやがって…』
『手塚。どういうつもりだ?まさか同じクリムゾンの仲間に牙を剥かれるとかよ。想像もしてなかったぜ』
『想像も…してなかっただぁ?ハァ…ハァ。
鏡を持ってるか?今のテメェのツラを見てみろよ。想像もしてなかったヤツの…ハァハァ…ツラじゃねぇぜ」
『フン、やっとの思いで俺の前まで来れたってのに既に虫の息だな』
『ハァ…ハァ…俺は十分やったぜ?後悔もねぇよ…ただ、お前とデュエル出来なかったって未練があるっちゃあるがな』
俺が手塚の手に目をやると、ヤツの左手からはおびただしい流血。手のひらから甲まで何かが貫いたような傷を負っていた。
自慢のギターのネックも折れ、左手は動かない。
もはや俺がわざわざトドメを刺す必要もなかった。
『フゥ…ハァ…フゥ…あ…だち。
俺はな、いや、お前も、二胴も…九頭龍も間違えてたんだ!確かに俺達は音楽に…音楽をやってた奴らに裏切られた!音楽は憎むべきものだと思ってた、俺達は…』
『そんな死に体でわざわざここまで来てそんな事を言いに来たのか?』
『だ…がな、俺もお前らも結局、音楽から目を背ける事は出来なかった。今、俺達は…どんな形であれ結局、音楽をやってんだよ。ハァ…ハァ…音楽をやってんだよ俺達は』
『いいだろう。左手を壊しながら俺の部下を倒し、やっとの思いで俺の前に着たんだ。 ミュージシャンとしてのお前はもう終わりだ。最後の情けに聞いてやる』
『音楽をクソだと思ってた俺達が…ハァ…あいつらが…これから音楽をやろうってバカ達が、笑って楽しい音楽をやれる毎日を作ってやるべきだったんだ!俺達が腐るんじゃなくて、俺達で作ってやるべきだったんだ!』
『夢を思い出したか手塚。
お前は葉川達BREEZEや木原達のArtemis、そしてその周りの連中を見て夢を思い出したんだな』
『ハァ…ハァ…思い出したんじゃねぇ…託したかったんだ…お前には…わかんね…だろ…け』
そこで力尽きたのか手塚は倒れた。
そしてそれ以上、手塚が何かを言う事はなかった。
『言いたい事はそれだけか?無駄な事だったな。
お前はここで忘れさられ消えていく。手塚というミュージシャンが居た事なんか誰の中にも残らねぇ』
俺はそれだけ呟いてから考えた。
クリムゾンもろとも音楽の世界を潰す。
これまでのアルテミスの矢とのデュエルで、俺の兵隊は減っていた。
そしてこの日、手塚によって残った兵隊もやられてしまった。
俺は1人になった。
おっと、勘違いしてもらったら困るぜ?
計画には俺1人でも十分だ。
時間を掛ければ俺1人でも計画には支障は無い。
兵隊なんざただの駒。時間を短縮させる為の駒でしかなかったんだからな。
俺はまずArtemisを潰すかBREEZEを潰すか、クリムゾンエンターテイメントを潰すかクリムゾンミュージックを潰すか、アーヴァルを潰すかアルテミスの矢を潰すか。
最初の一手を考えているにすぎなかった。
だがその時だ。
「アホが。俺達の道を造るって言ってよ…なんでこんな所で寝てんだよ」
さすがの俺も驚きが隠せなかったぜ。
倒れた手塚の横には、葉川のヤツがたった1人で立ってやがったんだからな。
「こいつは驚いた。葉川、何でテメェが…」
「さぁな。手塚のアホが着いてこいって言ったからな。俺らの道を造るからってよ」
そこで俺は気付いた。
Artemisにとってはクリムゾンエンターテイメントが障害ではあったが、Artemisを護るアルテミスの矢にとっては、アルテミスの矢である葉川にとってはクリムゾンエンターテイメントの前に俺が障害だった。
だから手塚は自分が壊れてでも、俺を倒せると見込んだ葉川を俺の前に導いたのだろう…俺の元まで来る道を上手く造った訳だとな。
「フン、残念だったな。テメェらの道はここで終わり。俺が終着点だ。だが、まぁここまで来れた事だけは褒めてやるぜ」
「あ?ここが終着点だ?お前何様なの?
俺らの道はこんな所で終わんねぇよ。せっかくアホの手塚が造った道だ。その道にお前みたいなでかいう○こがあったら、踏み潰して進むだけだ」
葉川のヤツも手塚が俺までの道を造ったのだと理解しているようだった。
つまりこいつは俺を倒しに来たのだろう。
BREEZEとしてではなく、葉川 貴として。
「あ、やっぱう○こ踏むの嫌だわ。出来れば避けて通りたい」
そして俺と葉川のデュエルが始まった。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
俺はギター、ベース、ドラム、キーボードを曲に合わせて使い選びながら歌い、葉川は打ち込みを録音したミュージックプレーヤーに合わせて歌った。
もう何曲歌ったか。俺にもわからなくなる程の時間が流れた。
その時だ。
「カハッ…!ケホ、ケホ…」
葉川は喀血した。
噂で葉川は喉を痛めているだの、喉に腫瘍が出来て思い切り歌えなくなったなどと聞いてはいたが、まさか喀血する程のダメージを抱えているとは思っちゃいなかった。
ククク、何せそれまでは俺の歌に食らいついて来てやがったんだからな。
「ククク、どうやらここまでのようだな。夜の太陽」
「は…?夜の…太陽…だ?お前なん…かに、そう呼ばれたく…なんか…」
「いいぜ?使えよレガリアを。歌えよFutureを。
じゃなきゃテメェはこの場でみっともなく潰れていくしかないんだぜ?わかってんだろ?お前自身が俺には勝てねぇって事がよ」
「ぅ…るせぇ…、…ね、ボケ」
「聞こえねぇな。お前の言葉も歌も。俺には何も届かねぇ」
葉川は頑なにレガリアを使わなかった。
ヤツは喀血し、この長いデュエルでの疲弊もある。もう歌う事は不可能だろう。そう思っていた。
だが、葉川は立ち上がりマイクを構えた。
「ほう。まだやるか?哀れなものだな、引き際を知らねぇバカってのはよ」
「次で…れが…勝…」
葉川は立ち上がったが、もう終わる。
このデュエルだけじゃねぇ。葉川 貴というミュージシャンはもう終わる。俺はそう確信したんだがな…。
まさか…あんな結末を迎えるとはよ。
「もう限界だろう?今楽にしてやる。終わるんだよ、お前は」
「勝手に…俺の…げ…『いいや!限界だ押すね!』」
〈〈〈バンッ!!!!〉〉〉