「くそがぁぁぁぁ!マジで誰だ。誰が犯人だ!思いっきりぶん殴らねぇと気が済まねぇ…!激おこぷんぷん丸だぜ!!」
激おこぷんぷん丸。
まさか今でもリアルで言っている人が居るなんて…。
あたしの名前は桐谷 亜美。
かつてクリムゾンエンターテイメントで、四天王と呼ばれていたギタリスト、手塚 智史の一人娘。
あたしの名字が手塚じゃないのは、ずっと昔に父と母は離婚して、あたしは母方についたからだ。
離婚といっても近所に住んでいるし、あたしと母が手塚 智史の関係者ではないと、世間にアピールする為の偽装のようなものだったのだけど…。
あたしは今はまだ大学4年だけど、SCARLETに就職も決まり安心している。
あたしは高校を卒業する間近、高3の頃からバンドをやっている。
SCARLETでクリムゾンのバンドを倒す為に。
あたしには子供の頃から姉のように慕っていた人がいる。あたしのバンドのボーカルである風間 有希。
有希ちゃんは父と母がまだ離婚する前に、父とその友人であるArtemisというバンドのドラマーである月野 日奈子さんが連れて来た女の子。
聞く所によるとその女の子は、BREEZEというバンドでボーカルだった葉川 貴さんの遺伝子から造られた生命体。
造られた生命体。
当時のあたしは何の事だかわからなったけど、その女の子と初めて会った時はとても可愛い女の子と思った。
『亜美。今日からこいつはお前のお姉ちゃんだ。これから仲良くしてやってくれ』
『亜美、これからお姉ちゃんと仲良くしてあげてね』
父と母はあたしにそう言った。
『お姉…ちゃん?あたし…の?』
まだ人見知りのあったあたしは恐る恐るその女の子に近付いた。
『あ?誰がお前のお姉ちゃんなの?いや、マジでないんだけど?え?何で私ここに連れて来られたの?いや、マジで何で?』
初対面は最悪だった。
それからあたしと有希ちゃんは本当の姉妹のように育てられた。
『うぅ…どうしよう…うぅ…グスッ』
『亜美?何で泣いてんの?マジで止めて、泣かないで。
うっわ、これヤバイってマジでやばい。端から見たら妹を泣かせてる姉やん?何したら泣き止んでくれますかね?土下座?』
『うぇぇぇぇん…!』
『ちょ!本当に!マジで止めて!ほら!これでどうか!』
その時の有希ちゃんの綺麗な土下座は今でも鮮明に思い出せる。
『有希ちゃん…?何でそんな所でうずくまってるの?ふぇぇぇ…ん』
『いや、うずくまってるっていうか…あ、土下座知らない系?何したら許してくれる?』
『許すって何…?聞いてくれる?こないだテストがあって…』
『あ?テスト?テストの点数が悪かったから泣いてんの?私が何かしちゃったのかと思ったやん』
『有希ちゃんは何もしてないよ?お勉強も教えてくれなかったし。テストの点数悪かったからお父さんとお母さんに怒られちゃう…』
『わざわざ私が勉強を教えなかった事を言う必要がありましたかね?まるで私のせいみたいやん?
ってか、手塚がテストの点数ごときでグダグダ言ってきたらしばいてやればいいしな。凉子さんに怒られたら…まぁ何だ。私も一緒に謝ってやるよ』
凉子さんというのは私のお母さんの事だ。
有希ちゃんは本当に私のお姉ちゃんのようだった。
今思うと少しアレだけど…。
『んで?テストの点数どうやったん?見せてみ』
『ん、これ…』
『うっわ~…この点数はマジで引くわ。え?リアルにこんな点数取れる人いるんだ?』
『あたしは…間違えてないもん』
『あのなぁ。算数なんて公式さえ覚えてたら何とでもなるもんなの。人生と一緒なの。
何々?お母さんから100円を貰ってお姉ちゃんとお豆腐を買いに行きました。お豆腐は30円です。お豆腐はいくつ買えてお金はいくら余るでしょうか?』
『グスッ』
『いや、簡単過ぎるでしょ?いや、簡単だと思うのは私が高学年だからか?亜美の年頃には出来なかった可能性もありよりのあり?』
『あたしはちゃんとお豆腐は10個って書いたもん!』
『亜美は本当に何を言ってるの?アホなの?
100円しか無いんだから30円のお豆腐は30円が3個で90円。だから10円が余るの。答えは3個と余りが10円だよ。何なの10個って?』
『だって!問題にはお姉ちゃんとお豆腐を買いに行きましたって書いてたもん!あたしのお姉ちゃんは有希ちゃんだもん!有希ちゃんはいつもお豆腐10個買うもん!50円のお豆腐を買いに行った時も100円で10個買ってたもん!』
『は!?私のせい!?確かにお豆腐屋のおっちゃんとは色々ゲームとかで勝負して10円に値切ったりしてたけどあれはリアルの話であって、私が豆腐が好きだからの裏技であって……あ!もしかしてこの次の問題も?』
『うん…』
『お姉ちゃんとお豆腐1個を分けて食べる事になりました。1人何個食べられるでしょう?…亜美の書いた答えは、姉は豆腐が好きなので分けて食べる事は叶いませんでした。豆腐の前に行くといつも優しかった姉は獣へと豹変し、誰かに分ける事はありません。あたしはそんな姉に恐怖し1/2あった豆腐を渡すしかなかったのであたしが食べられるのは0です。…って何なのこの国語力。これ算数のテストだよね?』
『だって有希ちゃんはお豆腐好きだからお豆腐分けて食べられないもん。うぇぇぇぇん!』
『いやいやいや、確かに私はお豆腐好きだけどね?何なのこの豆腐推しの問題は。豆腐をリスペクトしてんの?って思ったけど思い出したわ。私が低学年の頃のこの問題はリンゴだったけど、私がリンゴは買いに行くよう頼まれても買いに行く事はありません。お豆腐なら買いに行くのもやぶさかではありません。とか言ったからだわ
。何なのうちの学校の先生って。生徒の気持ちを考えてくれてんの?良い先生ですね。ってもしそうなら私のせいじゃん』
『有希ちゃんは何を言ってるの?』
そのテストの話があった頃から、有希ちゃんはあまり変な事を言わなくなり、大人しい女の子になっていった。
そして、有希ちゃんが中学生になった頃。
『有希!テメェ!どういうつもりだ!毎晩毎晩どこ行ってやがる!』
『手塚。お前には関係無いよ。私は私の好きにさせてもらう』
『ざけんな!テメェは誰の金で生活出来てると思ってんだ!まさかテメェ彼氏とか出来ていつも男も一緒に居るんじゃねぇだろうなっ!!』
『誰の金で生活…か。私の生活費は日奈子が払っているはずだ。手塚お前には迷惑を掛けていないよ。
後、彼氏だとか男だとか興味がないな。可愛い女の子にしか興味は無いよ』
『だったらテメェいつも何処に行ってやがる!テメェが変な男に引っ掛かったりしたらお前の親父に合わせる顔がなくなんだよ!』
『私の親父?それはタカの事か?
タカは手塚には会いたくないだろうしな。それならパパの為に変な男に引っ掛かるのもアリなのも知れないが…』
『テメェ!』
『有希!本当に何処に行ってるの!私も心配してるんだから。ちゃんと話して』
『有希ちゃん…グスッ』
『凉子さん、本当にごめんなさい。
亜美も心配しなくていいよ。私は今はギターの練習に行ってるんだ。日奈子に見てもらいながらね』
『ギターの練習だと!?てか何で凉子と亜美には謝るの!?俺には!?』
『そうだったの。日奈子さんと一緒なら安心ね』
『有希!待てテメェ!ギターの練習なら俺が…』
『うるさいな手塚。私はギターの練習で疲れているんだ。もう寝たいのだよ』
『タカは俺のギターが好きだったぜ(嘘だけど)』
『…!?パパが!?』
『ああ、本当にギターをやっているなら、俺がお前にギターを教えてやる。いつかタカがお前のギターを聞く事があったら、タカはお前のファンになっちまうかもな(まぁないだろうけど)』
『パパが!?私のファンに!?』
『(そういやタカはFコードが上手く押さえれないとかでギター辞めたんだったな)有希、俺ならお前にFコードを弾けるようにしてやれるぜ』
『なん…だ…と…』
それから有希ちゃんはお父さんにギターを教わる事になった。
・
・
『だから!そこはそうじゃねぇって言ってんだろ!』
『うるさいな手塚。もう息をずっと止めているといい。2度と酸素を吸うな』
・
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『ほう。なかなかやるじゃねぇか。まさかそこを弾ききるとはな』
『私はお前やタカと違って天才だからな』
・
・
有希ちゃんのギターは日に日に上手くなっていった。
でも、あたしには1つ疑問があった。
有希ちゃんがギターをやる理由。
お父さんは、有希ちゃんの遺伝子の元であるタカさんが音楽をやっていたから、その遺伝子を強く受け継いでいるからだろうと言っていた。
だけどそれなら有希ちゃんも歌だけでいいはず。
タカさんはボーカルだったんだから。
そして有希ちゃんは高校生、私は中学生になっていた。
そんなある日の夜。私はなかなか寝つけず水でも飲もうかとリビングの前に行った時。
『どうだ手塚。このフレーズを弾けるとは思っていなかっただろう?……手塚?』
『んごー、ぐごー』
『寝ているのか?私のギターも聞かずに』
お父さんは有希ちゃんにギターを教えている最中に寝てしまっていたようだった。
お父さんも疲れているんだろう。
休みもちゃんとあるにはあるけど、毎日遅くまでSCARLETで仕事をしている。そして、夜は有希ちゃんにギターを遅くまで教えているんだから。
『起きろ手塚。寝るなら自室に行け。風邪なんかひかれて、うつされたらたまったものではないのでね』
『ぐがー、すかー』
『手塚…チッ』
有希ちゃんはどこからか毛布を取り出し、それをお父さんに掛けた。
そしてお父さんの左手を握って…
『……手塚さん、いつもありがとう。仕事も大変なのにギターも教えてくれて…』
『ぐもー、ずごー』
『左手も…パパ達を守る為にありがとう。そして、ごめんなさい。左手さえ無事だったら今頃は…。
手塚さんの事も凉子さんも亜美も…私が絶対守るから。きっとパパも手塚さんに感謝してるよ。だから無理はしないでね』
あたしはその時、有希ちゃんのお父さんへの本当の心を見た気がした。
そういえばお父さんが仕事の帰りに酔っ払って帰って来た時も、いつも有希ちゃんがお水をお父さんに渡していた。
有希ちゃんもいつもお父さんの事を無視したりバカにしたような態度を取ってるけど、お父さんに感謝してたんだね。
『ま、でも、お前の事好きか嫌いかってなったらどっちかっつーと嫌いな方なんだけどな。感謝はしてるってだけで』
そして久しぶりにあんな有希ちゃんも見た気がした。
それから数年後、有希ちゃんはクリムゾングループのバンドとデュエルするようになり、傷付きながら帰ってくる事が多くなった。デュエルしてるだけなのに何で傷付いて帰ってくるんだろう?
『お母さん』
『亜美?どうしたの?』
『お母さんもクリムゾングループのミュージシャンだったんだよね?』
『うん…そうね』
『キーボードやってたんだよね?だからあたしにピアノを教えてくれた』
『それはちょっと違うわよ。亜美にはキーボードの素質があったから教えてただけ。音楽をやってほしいとか、私がキーボードをやっていたからって理由じゃないわよ』
『あたしに…キーボードの素質があるんなら、デュエルで勝てるような…ううん、有希ちゃんの力になれるようにキーボードを教えてほしい!』
『亜美?』
『あたしに有希ちゃんと一緒に戦える力を…頂戴』
あたしは趣味の範囲でピアノを触ってはいたけど、その日からお母さんにキーボードを教わることにした。
有希ちゃんが毎日傷付きながら帰ってくるのを見て、あたしも何か有希ちゃんの力になりたいと思ったからだ。
だけどあたしは有希ちゃんの隣に立つことはしばらく出来なかった。
理由は簡単な事。あたしはその時は有希ちゃんと一緒に戦いたいと思っていただけで、音楽を楽しんでなかったからだ。
『ごめん、有希ちゃん、あたしのせいで…』
この日もあたしのミスのせいで有希ちゃんは深傷を負っていた。
あの時はそれが普通だと思ってたけど、今思うとデュエルでどうやって深傷を負ったんだろう?
『亜美のせい?』
『あたしがあそこでミスしたりしなければ…有希ちゃんはケガしたりなんか…』
『ああ、このケガの事か。これは亜美のせいじゃない。私の実力がまだ足りなかっただけさ』
『でも…』
『でももクソもないのだが、やれやれ、こうなった亜美はなかなか引き下がらないからな。
亜美。亜美が私とバンドをやってクリムゾンと戦おうと思ったのは私がケガをして帰宅するのが多くなったからだな?』
『そうだけど…結局あたしのレベルじゃ有希ちゃんには…』
『やれやれ。私は一人で戦っていた頃よりはケガは減ったはずなのだがね』
確かに最近の有希ちゃんはケガをする事が少なくはなった。だけど…。
『亜美のせいでケガをしたんじゃない。亜美のおかげでこの程度のケガで済んだんだよ。それはわかってもらいたいものだな』
『有希ちゃん…』
『だが、私は正直、亜美が私の横でクリムゾンと戦っている事に関しては快く思っていない。その事もわかってもらいたいね』
私が横に居る事を快く思っていない…?
やっぱりあたしのレベルじゃ、有希ちゃんの助けにはなれていなかった。
ピアノをやっていたとはいえ、キーボードは少し違うし、あたしが練習してきた曲調はロックからはかけはなれている。
でも、有希ちゃんの助けに少しでもなりたかった。
『あ、あは、あはは。ご、ごめんね。
あたしなりに頑張ってはいたんだけど、やっぱり有希ちゃんのレベルには追いつけないし…』
『そういう所がいけないんだよ、亜美。
いい?私は亜美とならバンドをやっていけると思ったからだ。
クリムゾンとの戦いというつまらないバンドでも、亜美が私と共に戦う事に同意したんだ。
亜美とならやっていけると思ったのは、クリムゾンに勝つ為や、私が楽をしたり私を助けてもらいたいからではない』
そう言った有希ちゃんは久しぶりに笑顔で
『亜美とならこんなつまらない戦いでも、楽しんで音楽をやれると思ったからさ。なのに亜美は私を助ける為だとか何だと、楽しんでバンドをやっていないだろう?
私はそれが一番嫌だよ』
あたしにそう言った。
それからもしばらくは、なかなか楽しんで音楽をやれなかったけど、徐々にではあるけど、楽しみながら音楽をやるようになった。
今では有希ちゃんを助ける為だけじゃなく、有希ちゃんと一緒に演奏出来る事が嬉しくて楽しい。そう思いながらバンドをやれるようになった。
そしてそんなある日。お父さんがいきなりあたしの部屋に来てこう言った。
『おい亜美。俺のプロデュースでバンド作る事になったからよ。お前そのバンドでキーボードしろ』
『は?お父さんは何を言ってるのアホなの?だからいつまで経っても有希ちゃんにも日奈子さんにもバカにされるんだよ』
あたしは有希ちゃんとのバンドが楽しいし、有希ちゃんの歌とギターがあってのあたしの音楽なんだし。
『まぁ聞け。そのバンドのメンバーはギターボーカルに佐倉 奈緒。ベースに蓮見 盛夏。ドラムが柚木 まどかの幼なじみでありライバルでもある北条 綾乃だ』
『……うん、あたしそのバンドやる』
あたしは即答してしまった。
だってBlaze Futureの奈緒と盛夏とバンドやれるんだよ!?しかもドラムはあの力強いサウンドの綾乃!
断る理由がないでしょ!
有希ちゃんに連れられてコッソリ行ったBlaze Futureのライプ。
有希ちゃんの遺伝子の元であるタカさんもかっこいいにはかっこ良かったけど、あたしは奈緒と盛夏のサウンドに胸を撃たれた。あの2人の音に。
それがあたし。桐谷 亜美である。
「くそがぁぁ!絶対許さねぇ!犯人は見つけ出してほっぺが腫れ上がるくらい往復ビンタしてやる!」
あ、あたしの過去話のせいでお父さんの事すっかり忘れてた。
あたしは今、SCARLETでの企画バンドの会議を終え、お父さんと一緒に帰っている所だ。
「亜美!いいか!疑わしきは罰せよだ!怪しいヤツが居たらすぐに俺に報告しろ!ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわせてやる!!」
「お父さんがさっきから怒ってる事って、お父さんプロデュースのバンド名の話でしょ?もういいじゃん。日奈子さん達Artemisの皆さんも、タカさん達BREEZEの皆さんも絶賛してたんだし…」
そう。
お父さんが怒っている事と言ったら今は1つしか思い当たらない。
あたしが奈緒達とお父さんのプロデュースで始めるバンドの名前。
あたし達がお父さんからバンドの話を聞いた時は、Star glantzって名前のはずだったんだけど…。
・
・
・
『タカのバンドの名前はReveriaか。大いに楽しむと詠唱の造語かぁ。詠唱とか取り入れる所、中二っぽくてタカらしいね』
『あ?澄香、お前喧嘩売ってんのか?そうなんだな?』
『後は手塚さんの所のバンド名だけか。どんなバンド名にしたんです?ネタ系ですか?』
『英治!バカにすんじゃねぇ!
俺の考えたバンド名は最高にスーパーでミラクルなバンド名だ!フフフ、てめえらがバンド名を聞いて感動して泣いてるツラが目に浮かぶぜ』
ええぇぇぇ…我が父親ながら何を言ってるの?
あたしはみんなの企画バンド会議の後、社長室に呼ばれてみんなのバンド名や、参加を承諾してくれたメンバー、今後の話なんかを、お父さんが用意した資料で発表させられていた。
何故こんな事務仕事があたしがやらされているのかと言うと、本来事務の部長である水瀬 来夢さんがやるはずだったのだが、もう夜も遅いという事で、保護者であるお父さんと一緒に帰れるからあたしなら安心。
そんな理由であたしが駆り出されたのである。
『バンド名なんかで泣く訳ないだろ。手塚はやっぱりアホだな』
『翔子!てめえ!今の台詞忘れんなよ!絶対泣かしてやる!よし!亜美…じゃなくて桐谷!発表するんだ!!』
一応仕事だからあたしも名字読みか。やれやれ。
『わかりました。それでは手塚さんの、あたしも参加させて頂くバンド名を発表させてもらいます』
あたしがそう言ってお父さんの作成した資料に目をやったけど
"Starglantzは無しで。sから始まるかっこいいバンド名をここで発表しなさい。5秒で"
と、書かれていた。
…は!?あたし達のバンド名ってStarglantzじゃないの!?てか、かっこいいバンド名を発表しなさいって何!?しかも5秒で!?今いったい何秒経った!?
こんな無茶振りありえないでしょ!
と、思いながらお父さんを見てみると、あたしに向かってウインクしながら親指を立てていた。正直気持ち悪い。
いやいやいや、そんな事考えてる場合じゃない!
かっこいいバンド名なんて思い付かないよ!そんで今何秒経ちましたか!?
『えっ……と…』
『フハハハハ!てめえら!聞いて驚け!!』
驚いてんはあたしだよ!うぅ…どうしよう…。
確かお父さんドイツ語とか言ってたっけ?
うぅ…ヤバいよ、ドイツ語とかわかんないよ。あたし大学の専攻ドイツ語じゃないし…。
『そ…
『『『『Soledea?』』』』
うわぁぁぁぁ!やっちまった!やっちまったよ!
お父さんの星の輝きとかで、星はダメだよねぇとか思ってたら太陽しか思い付かなくて、あたしの専攻はイタリア語だから太陽ってSoleだからいけんじゃね?
とか、思ってしまって、そういや有希ちゃんにタカさんって夜の太陽とか呼ばれてたって聞いたの思い出したりなんかして…なんか…なんか…。
あたしはチラッとみんなの様子を伺ってみた。
『……』
お父さんは目が点になって口を開けてポカーンとしている。こんなお父さんの顔初めて見たわ!
『うぅ…うぅ…グスッ、さすが手塚や。まさかSoledeaとか…そうきたか。グスッ、しかも私の祖国であるイタリア語のバンド名とか…』
澄香さんは何故か泣いている…。
いや、イタリア語ってわかってくれたのは嬉しいけど何で泣いているの?
『澄香、お前何泣いてんだ?しかもお前の祖国がイタリアってなんだよ。お前日本生まれの日本人じゃねぇか』
あ、拓斗さんの言う通りだわ。
澄香さん日本人じゃん。何なの祖国って?
『そるでぃあ?う~ん、何だろ?翔子ちゃんわかる?』
『あ?あたしにわかる訳ないだろ?あたしそんな教養無いし、イタリア語なんてわかんねぇよ』
『え?翔子?翔子、高校教師だよね?教養無いとかヤバくない?英治くんは手塚さんのバンド名の意味わかる?』
『あ?いや、俺は国立大卒だしこの中で一番お利口さんのはずだがわかんねぇな。てかこういうバンド名の由来とかそういうのは中二病のお前やタカの方が詳しいんじゃねぇか?』
『いや、まぁ…あれだな。澄香がイタリア語っつってたし、
わ、タカさんってあれでわかっちゃうんだ!?
さすが有希ちゃんの遺伝子の元!
いや、何か遺伝子の元って言い方もあれだけど。
『ははは、さすがはーちゃんだね。
SoleとDeaって事は、太陽と女神?はーちゃんが夜の太陽でArtemisが女神の名前だからってのかな?奈緒ちゃん達にそんな女神になって欲しいって気持ちも含まれてるのかもね』
待ってトシキさん!
確かに太陽と女神だけどそんな深い意味ありませんでしたから!!
ただあたしにとって奈緒と盛夏と綾乃は女神様ってだけで…!!
『トシキの…グスッ、言う通りだろうと思いましてございます…グスッ。
手塚の癖に…さすがとしか言いようがございせぬな…グスン』
『グスッ…澄香、テメェ喋り方がセバスとごっちゃになってんぞ。グスッ…しかし…チッ、今日の風はやたら目に滲みやがるぜ…グス』
『うぅ…グスッ…グスッ…て、手塚の癖に!手塚もうクビだよクビ!こんな…こんなバンド名…うぇぇぇ…ん』
『うぅ…グスッ、あたしを泣かせやがって…手塚め…。クソッ!止まれ涙!手塚なんかに泣かせ…泣かせ…られ…うぅ…』
『え?何で澄香も拓斗くんも日奈子も翔子も泣いてるの?あたし若干どころかドン引きなんだけど…。あ、手塚さんのバンド名にドン引きしてるんじゃなくて、澄香達にドン引きなんだけどね?』
梓さん、わかります。
あたしもかなり引いてます。え?何で皆さん泣いてるんですか?
『はぁ…手塚のくせにな。こっ恥ずかしいバンド名にしやがって。でもこれ手塚がマジで考えたのかな?』
『う~ん、俺もいいバンド名だとは思うけど、手塚さんらしくないよね?手塚さんなら自分を褒め称えるような?何か自分に関連させたバンド名にしそうなもんだけど…』
タカさんとトシキさん鋭いな…。
でもまぁ…。
『……』
呆けているお父さん以外は皆さん絶賛してくれてるしいいか。
・
・
・
なんて事があったんだけど…。
「ムカつくぜぇぇぇ!」
「もう!いつまでもしつこいっ!もういいじゃんか。バンド名…自分で言うのもなんだけど、Soledeaっていいと思うよ?」
「バカ野郎!亜美!お前は全然わかってねぇ!」
「バカ!?何ですってぇぇぇぇ!!」
いくら何でもバカ呼ばわりはないんじゃない!?
そりゃお父さんからしたらSoledeaって気に入らなかったのかも知れないけどさ。
「亜美。俺様がクソ怒っているのはバンド名の事じゃねぇ。
Soledea。タカ達にも絶賛されたしな。お前にしては良いバンド名だとは思っているんだぜ」
いいバンド名って思ってくれたのは嬉しいけど、バンド名の事じゃなかったら何を怒ってるの?
「いいか、亜美。
俺はタカ達にバンド名をサプライズ発表するつもりで、あいつらから事前にバンド名を聞き出し、お前に司会進行させるつもりで、資料を作ってお前に発表させた」
「え?ああ、まぁそうだね」
「つまりだ。あの資料は出来立てホヤホヤだった訳だし、俺以外にはお前しか触ってねぇはずだったんだ」
「まぁ、そうだよね。……あっ」
「気付いたか?」
そこまで言われてやっと気付けた。
ホントあたしバカだったわ。
「うん、お父さんとあたししか触っていないはずなのに、何故Starglantzの名前が消されて、他の名前にしろと記載があったのか…って事だね」
「ああ、その通りだ。あの資料を作ってから、お前に資料を取りに行かせたホンの僅かな時間。その間にやってのけた犯行って訳だ。あの時SCARLET本社に居た誰かがな」
あの時にSCARLET本社に居たのは…。
ファントムのバンドメンバーと…。
「あー!あー!くだらねぇ事に頭使うな。
お前の考えはファントムの奴らや企画バンドの俺達の中にまさか裏切り者が!?とか思ってんだろ?」
「いや、裏切り者とかは思ってないけど…」
裏切り者とはあたしも思ってないよ、さすがに。
お父さんのバンド名を書き換えた所で誰も何も損害なんかないし。
「さっき調べてみたら今日は休日とはいえ、月末にあるファントムのハロウィンライブのスタッフ達のミーティングや、うちのゲームの企画会議やら何やらってな。意外と出勤してる奴らが多かった訳だ」
あ~、そういえば今日は休日出勤してる人多かったよね。
ファントムとも契約結んだ所だし、今はどこの部署も忙しいみたいだし。
「………うぅむ」
「ん?どうしたのお父さん?」
「久し振りに頭を使ったもんだから糖分が欲しくなってきたぜ」
「糖分?」
「亜美。悪いがここからはお前1人で帰れ。俺はケーキを買いに行く」
ケーキ?普段はあんまり食べないくせに。
あ、頭を使ってないからか。糖分は普段はいらないんだね。
「亜美、お前失礼な事考えてねぇか?」
「いや別に」
「まぁいいや。俺はチョコケーキにしよう。母さんはチーズケーキで亜美がショートケーキ。今日は何か有希のやつも来そうだな。あいつの分も買ってくか…チッ」
有希ちゃんが?
今は有希ちゃんは日奈子さんとこの社員寮で一人暮らししてるけど、たまに唐突に来るもんね。主にお金を使いすぎた時とか。
「って訳で俺は行くぜ。もう遅いし道草くって帰るなよ?」
そう言ってお父さんは来た道を戻って行った。
確かにうちがいつもケーキを買っているケーキ屋さんはあっちの方角だけど…
「なんか怪しい…」
ケーキ買いに行くだけなら、あたしも一緒でいいはずだ。
もしかしてバンド名の犯人に思い当たって今からSCARLETに戻るつもり?
でもそれならまた仕事の日でも…。
あたしは家に帰らずこっそりと尾行する事にした。
・
・
・
ずいぶん歩くなぁ…。
ってかやっぱりケーキ屋に向かっている訳ではないようだ。
そして、SCARLET本社の方角でもない。
お父さんはさっきから同じ所をぐるぐると歩き回っている感じだ。
いったい何をしているんだろう?
本当に何をしているのかわからない。
さすがに夜は冷えるしそろそろ帰ろうかな?
そう思った時、お父さんはさっきまで歩いていた道から離れ、電灯もなく薄暗い公園に入って行った。
「公園?」
あたしはここで何もなかったら帰ろう。と、思いながらお父さんに見つからないように公園へと近付いた。
公園の中、ちょうど公園の中央に差し掛かった所で、お父さんは立ち止まり。
「バレバレだぜ。俺を尾行するなんざ3兆年早えぇ!
俺はここから1歩も動かねぇからよ。そろそろ出てきやがれ」
大きな声でそう言った。
って、あたしが尾行してたの気付いてたの!?
さすが15年もクリムゾンの追っ手から逃げてただけあるか。
お父さんの目的は結局わからなかったけど、あたしはお父さんの尾行を終え、お父さんの前に出て行こうとした。
だけどその時
『フフフ…』
『フフフフフ…』
<<ゾロゾロ…>>
あたしがお父さんの前に出て行こうとした時、公園の周りからお父さんを囲むように、たくさんの人影が現れた。
みんなフードを深く被っていて、どんな顔なのか男か女なのかもわからない風貌だった。
「よくもまぁゾロゾロと…。てめぇら一体何者だ!?」
あたしの事じゃなかった…?
それよりこんな大勢の人に尾行されてたの?
お父さんはそれに気付いてあたしに帰るように言って1人で…?
「手塚 智史さんですね。お初にお目にかかります。
挨拶はさせて頂きますよ。これでも礼儀は知ってます」
「礼儀を知ってるだぁ?揃いも揃ってフードを被ってツラも出さずによく言えるもんだぜ」
「これは大変失礼しました。オレ達みんな恥ずかしがり屋なもので。
オレはフードを取らせて頂きます。他のヤツラは勘弁してやって下さい」
そう言ってお父さんに話し掛けたフード男の1人が、フードを外し、お父さんの前に顔を見せた。
「……やっぱり知らねぇツラだな。何者だ?」
「先程言わせて頂いたじゃないですか。お初にお目にかかりますと。
あなたはオレなんか知らないでしょうが、オレはよく知っていますよ。元クリムゾンエンターテイメント四天王、そして今はクリムゾンエンターテイメントを辞め、かつて敵だったArtemisのドラマーである月野 日奈子の会社、SCARLETのプロデューサー手塚 智史さん」
お父さんの事を知っている…。何者なの?
クリムゾンの追っ手?
「フン、てめぇらが俺様を知ってようが知らなかろうがどうでもいいぜ。俺様はスーパー有名人だからな。
何度も同じ質問をさせるなよ?てめぇら何者だ?クリムゾンの手の者か?」
「フフフ、安心して下さい。
オレ達はクリムゾンの手の者ではありません。
そういった意味ではあなたの味方ですよ、手塚さん」
あたし達の味方?
「俺の味方…か。フン、それも答えとしては落第点だな。まだるっこしい事は嫌いだぜ!てめぇら何者だ!?」
「フッ、いや、失礼。
あなたはやはり思っていた通りの人だ。
いいでしょう。答えさせて頂きます。
オレ達は名もなき野党のグループです。先程までは」
「先程まで?」
「ええ。ですが先程やっとオレ達にも名前…というんですかね?組織名が決まったんですよ」
「…ほう、先程…ね…」
先程決まった?
今までは名前もなかったのに?
……まさか!?
「オレ達はあなたの意思を継ぐ者達の組織。
組織名は…Starglantzと名乗らせて頂く事になった者達です」