「なっちゃーん!ビールかチューハイか戦乙女しかないんやけどどれがいい?」
……全部アルコール飲料。
「あ、えっと…じゃあビールで…」
「はーい、ビールね。あたしもビールにしよかな」
そう言って梓お姉ちゃんは私に缶ビールを渡してくれた。
あれ?梓お姉ちゃんの分は?
「ちょっと待っててな。何か軽くつまめるもん作ってくるから」
そう言った梓お姉ちゃんはキッチンに立ち、手際よく料理を始めた。
いや、手際いいのかどうかはよくわかんないけど、まな板で何かを切るようなトントントンって心地好い音がするし、想像で手際いいのかな?って思ってるだけだけど。
-トントントン、トトトントトトン、トトトト…トーン
-ジュ、ジュジュジューン、ジュワジュワジュジューン
……料理の音だよね?
「お待たせー…って、なっちゃんまだビール開けてないの?」
「あ、何か梓お姉ちゃんだけ働かせて私だけ飲むのも…」
「あはは、そんなん気にせんでいいのに」
テーブルの上には軽くつまみやすいような料理が並んでいる。
「あ、そういえばなっちゃんとサシ飲みって初めてだよね?」
梓お姉ちゃん…(トゥンク
「ふふ、かんぱ~い」
「か、乾杯」
-カン
私の持つ缶ビールと、梓お姉ちゃんの持つ缶ビールで乾杯をし、私と梓お姉ちゃんの飲み会は開始された。
私の名前は水瀬 渚。
SCARLETでの企画バンドの話の後、私は梓お姉ちゃんと一緒に自宅、カッコ私と梓お姉ちゃんの住んでいるマンションカッコ閉じる、に、帰宅する為、梓お姉ちゃんの出待ち…じゃない。梓お姉ちゃんが帰宅するのを待っていた。
梓お姉ちゃんと一緒に帰宅する事に成功した私は、色々な事を話していたのだが、今はぶっちゃけ大して覚えていない。
それは決して梓お姉ちゃん編から現実時間が経ちすぎたから覚えていないのではなく、梓お姉ちゃんから『良かったらうちに寄っていく?』と誘われたからだ。
私は期待した。これから百合編に突入するのかと。
私は興奮した。これから大人の階段を昇るのかと。
『梓お姉ちゃん…私、ちょっと飲み過ぎたかな?今日はもう帰れないよ』
『なっちゃん、ふふ、なっちゃんは悪い子だね。帰るっていってもエレベーターに乗るだけなのに』
『いや!…言わないで…恥ずかしい…』
『ふふ、いいよ、なっちゃん。今夜は帰さないからね』
『あ…梓お姉ちゃん…優しくしてね?』
とかな展開になるに違いない。
あ、私今日どんな下着付けてたっけ?大丈夫かな?
「…ちゃん。なっちゃん?やっぱり上の空?」
あ、ヤバい。自分の世界にどっぷり入り込んでしまっていたか!?私とした事が!
「だ、大丈夫だよ、梓お姉ちゃん」
「ふふ、なら良かった。あたしも最初からそのつもりでなっちゃんを部屋に誘ったんだしね」
さ、最初からそのつもりだっただと!?
梓お姉ちゃんも私と同じ気持ちだったというのか!?
こんなに嬉しい事はない!わかってくれるよね、ララァにはいつでも会いにいけるから。
「じゃあ早速だけど…」
早速だけど!?
早速やっちゃいますか!?敢えて平仮名で言ってみたよ!
このお話はR15って事にしているし、あれがあれでもあれだからあれだよね!語彙力が無いわけじゃないよ?
しまった!初心者マーク!
今日は初心者マークを持って来ていない!
昔何かの本で読んだ時に、おでこに初心者マークを貼ってたら優しくしてもらえるとか書いてたから、いつかこんな日が来た時の為に、免許も持ってないのに初心者マークを買っていたのに!
クソォォォォォォ!今から取りに帰るとかダサい真似はしたくないし…!
「あたしもこの事を話すのは初めてだから、少し恥ずかしいやら緊張しているやらあるんやけど…」
ハッ!?
そういや梓お姉ちゃんも初めてだったー!
そりゃそうだよね!ずっと先輩なんかを好きだったから彼氏とかつくってなかったんだもんね!拓斗さん南無!
とかアホな事を考えていたけど、私はふと思った。
梓お姉ちゃんは
『あたしもこの事を話すのは初めてだから、少し恥ずかしいやら緊張しているやらあるんやけど…』
この事を話すのは…って言っていた。
もしかして…私が期待して妄想を膨らませちゃってる百合展開の到来じゃないのかな…?
「さっき話してた、あたしが歌わなくなった理由。タカくんへの憧れ的な事?」
憧れ的な事?って私に聞かれても…。
そっか、そりゃそうだよね。
さすがにいきなり百合展開は無いかぁ…。
って!
すっかり忘れちゃってたけど!
あ、忘れてたって現実時間が経ちすぎて忘れてた訳じゃないよ?
そういや先輩の話…。
「あたし達Artemisの話も今度澄香達がしてくれるだろうけど、澄香にしかちゃんとは話してないし、今からあたしが音楽をやろうとしたきっかけを話しておこうかな?って」
梓お姉ちゃんが音楽をやろうとしたきっかけ?
私は仕事で疲れきってた時にCure²Tronのライブに行って元気を貰って、そして志保と出逢ってバンドをやろうって思った。
それが私が音楽をやろうとしたきっかけ。
「き!聞きたい!梓お姉ちゃんが音楽を、バンドをやろうって思った時のお話!聞きたい!!」
「ふふ、だから最初から話すつもりだってば」
そう言って梓お姉ちゃんはビールを一気飲みし、もう1本ビールを開けてからこう言った。
あ、良い子は一気飲みなんかしたらダメだよ?
「あかん、今から話すって決めてたけど、ビール一気飲みしても酔われへん。素面であの事話すんかぁ…」
梓お姉ちゃん…、完全関西弁になってるよ?
酔われへんって事はないんじゃないかな?って思うよ?
「よし、あたしも腹括った。話すよなっちゃん。
あれはあたしが高校に入学したての4月の中頃の事…」
梓お姉ちゃんはゆっくりと昔の事を話してくれた。
・
・
・
『梓!お前!高校に入学した途端に金髪に染めるとかどういうつもりじゃ!!しかもせっかく進学校に入ったっちゅーのに喧嘩ばっかりしとるらしいのぅ!!』
『アァ?』
「あたしはあの頃ちょっとヤンチャでさ?
毎日毎日、おっちゃんに…。なっちゃんのお父さんに怒られてたんだよ」
『おっちゃんはいつもいつもうるさいねん。あたしが髪を染めようが何しようがおっちゃんには関係あらへんやろ?』
『関係あらへん事あるか!お前は
『は?昔からそれ言っとるけど、何でお母さんの娘やったらおっちゃんの娘みたいなもんやねん。おっちゃんはただのお母さんのバンドメンバーだっただけやんか。あ、そっか。おっちゃんバンドメンバー時代はお母さんに惚れてたんやっけ?』
『お前!俺が遙那に惚れてた訳ないやろ!ただ可愛いなとか付き合いたいなとか思ってただけや!ってか明子の前でそんな話してんじゃねぇ!』
『うるせー!付き合いたいと思ってたんなら惚れてたって事やろが!』
『お前!それ以上変な事言うんじゃねぇよ!マジで○すぞ!?』
『あ?上等やんけ。やれるもんならやってみぃや!』
「そんなやり取りを毎日飽きもせずにやっててね。あたしとなっちゃんのお父さんはまさに天敵って感じだったんだよ」
あ…梓お姉ちゃんって昔はそんな感じだったんだ?
私には優しいお姉ちゃんってイメージしかないんだけど…。
「そして殴り合いになったりもしたりね。その日もそんな感じだったかな」
『ブヘァ』
『おら、おっちゃん、どんなもんや…。いつまでもあたしに勝てる思うなよ?』
『…遙那の娘やから。昔はギターを教えてやってた可愛い弟子やから…。手心を加えてやってたのにな…』
『上等や次で終わらせたる!』
「あたしがそう言った直後…おっちゃんの姿はあたしの視界から消えた」
『な!?消えた…?』
「そしてあたしは地面に叩きつけられた」
『ガハッ』
『どないしたんや?次で終わらせるんちゃうんか?』
『う、うっせー!くそじじい!』
「あたしが体勢を整えて繰り出した攻撃もおっちゃんにはかわされてしまった…」
『遅いな』
『ガフッ』
『どないしたんや梓?
さっきから本気を出した俺には手も足も出とらんやんけ』
『う、うるさいわ。まだ…これからや…』
『お前、もしかしてまだ…自分がタヒなないと思ってるんじゃないかね?』
「タヒなないと思っている…あたしはおっちゃんにそう言われ初めて危機感を持った。だけどね…」
…うん?
待って梓お姉ちゃん。
それ戸愚呂弟の有名な台詞だよね?お父さんそんなに強かったの?
いや、それよりも私が聞きたいのはそんな話じゃなくて、梓お姉ちゃんがバンドを始めるようになったきっかけのお話だよ?
「だけど…あたしは…あたしはもっと強かった。強くなりすぎてたんだよ」
…え?これまだ続くんだ?
『なんや梓?泣いてるんか?』
『…もはや次の一撃があたし達の最期の別れとなるだろう。あたしも澄香も同じく目指した偉大なるバンドマン水瀬 龍馬…。この心にいまだ消えずに焼き付いている』
「あたしは次の一撃でこの戦いが…長い戦いが終わるのを悟っていた。
あたしもおっちゃんも拳にみきりをつけた者同士。お互いを見ては勝負はつかない。だから、その闘気を誘い、それを間合いとして、その乱れに夢想の一撃を放つ。
あたしはおっちゃんをこの手で…」
あー、これあれだね?ケンシロウとラオウの最後の戦いのとこだよね?
お父さん今も元気で生きてるしね。このお話本当にバンド始めたきっかけに繋がるの?
『天に滅っせい!梓!』
『オラァ!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!無駄ァ!!』
「あたしは夢想の一撃をおっちゃんに放ち、おっちゃんは吹っ飛んだ」
…一撃?めちゃオラオララッシュしてない?
最後は無駄ぁとか言っちゃってるし。
『痛いよー痛いよー。うわぁぁぁん』
『龍馬さん、よしよし。泣かないの』
『フン、明子おばちゃんに泣きつくとか弱い奴やで。やっぱ男はクソやな』
『うわぁぁぁん、俺の事梓がクソとか言っとるー』
『こら!梓ちゃんも!
龍馬さんもやり過ぎやったけど、梓ちゃんの事が嫌いで怒った訳じゃないんやし、あんまり苛めちゃあかんよ?
髪を染めたりは年頃やしあるんかも知れへんけど、喧嘩は私もあかんとは思ってるしね』
『うっ…ごめ、ごめんなさい…』
『やーいやーい!明子に怒られてやんのー』
『龍馬さんもうるさいです。そんな子供みたいな事言わないの』
『おっちゃんほんまムカつくわ…。お腹も空いたし帰る』
お父さん…。あ、泣きそうになってきた。
てかお父さんって私にも手をあげるし、なんかあれだね。
『あ、待て梓』
『何やねん、お腹空いたって言っとるやろ。お母さんも待ってるやろしもう帰りたいんやけど』
『帰るのはええよ。さっさと帰れ。
やけどな、その前に鍵だけは置いていけ』
『鍵…?あ?まさかあたしん家の鍵?
ハッ!?まさかあたしから家の鍵を奪って、あたしが居ない間に家に入って病気で動けないお母さんを無理矢理…!?』
『お前はアホか?いや、アホだったな、すまん。
俺の言っとる鍵はお前の家の鍵やなくて、俺のゼッツーの鍵や。お前勝手に持っていきよったやろ?』
「ゼッツーっていうのはね。バイクの車種の名前で、なっちゃんのお父さんが持ってたバイクなんだよ。あたしそのゼッツーってバイクが大好きでさ。あたしは誕生日が4月だからゼッツーに早く乗りたくて誕生日きてすぐに免許取ったの」
『いや、あれはあたしが貰ったもんやし』
『あげてねーし!あのゼッツーは俺の青春の宝物みたいなもんや!あのゼッツーだけは絶対やらへん!』
『は!?何でやねん!何が宝物やねん!
おっちゃんがあれに乗ってるとこ見た事ないし、いつもカバー被せてるだけやん!!勿体無いやろ!だからあたしが乗るねん!』
『うるせー!いつもいつもあのゼッツー寄越せってしつけーんだよ!こないだ勝手に乗って学校に行ったやろお前!』
『こないだだけちゃうわ!今日もや!』
『どやってんじゃねーよ!お前!!』
『…あ、もしかしておっちゃん、あたしがゼッツー貰ったから怒ってたんか?』
『だからあげてねぇって言っとるやろ!そうや!お前がパツキンにしようが喧嘩しようがどうでも…は、良くないけど、あのゼッツーだけはダメだ!』
『なんでやねん!』
『言ったやろ?あれは俺の青春の宝物や。
今でも目を閉じると思い出すぜ。あの排気音、直管の音、どれも俺の青春には欠かせない…』
-ドルン…ドルンドルン
『いや!だから勝手にエンジンかけてんじゃねーよ!そして人の話はちゃんと最後まで聞け!』
『うるせー!これはあたしんだ!誰もあたしは止めらんねー!』
『梓ー!』
「そうしてあたしはなっちゃんのお父さんのバイクに乗って帰宅した。
帰宅したって言ってもなっちゃんの家から100メートルも離れてないんやけどね」
バイク…?
あれ?おかしいな。
お父さん、車はいつも乗ってたけど、うちにバイクとかあったっけ?
…そういえば梓お姉ちゃんの家に大きなバイクがあったと思うけど、あのバイクも私が就職するちょっと前くらい失くなったような?
『ただいま~』
『あ、梓、お帰りなさい』
『お母さん!?な、何で寝てないの!?』
『え?まだ19時前やけど…?』
『そういう意味ちゃうわ!何で布団に入らず立ち歩いてるのって意味や!』
『あー、それね。今日は何か調子いいから久しぶりに料理したいなーって』
『調子いいからって調子乗ってたらまた身体に障るやろ!』
『調子いいから調子乗ってか…つまらんよ、それ』
『ダジャレちゃうわ!』
「あたしのお母さんはあたしを産むちょっと前から身体を壊しててね。いつもは布団の中で横になっててもらってたんだけど、時々は布団から出て勝手に散歩したり、勝手に料理したり掃除したり…いつもあたしに心配ばっかかけてるお母さんだった」
梓お姉ちゃんのお母さんか…。
私もおぼろげにだけど、少しだけ遊んでもらった事を覚えてる。
でも梓お姉ちゃんが確か高校の時に…亡くなったんだよね。
『ご飯ならあたしが作るからちゃんと寝ててや』
『えー、梓の料理飽きたしぃ~』
『なら何が食べたいん?お母さんのリクエストに応えるから…』
『んーっとね、ビーフストロガノフ』
『今からは無理』
「何とかお母さんを説得して、その日は豆腐ハンバーグと麻婆豆腐と冷奴と豆腐の味噌汁にしたんだけどさ」
…全部豆腐料理。
あ、今思ったけどさっき梓お姉ちゃんが作ってくれた料理も豆腐料理ばっかりじゃん。
豆腐チャンプルーに豆腐サラダに豆腐の照焼きに、いり豆腐…。
どんだけ豆腐が好きなの?
『また…豆腐…』
『豆腐は身体にもいいし、美味しいし最高やんか』
『美味しいし身体にいいのはわかるけど…。
あ、そういやあんたあのバイクどうしたん?あれ龍ちゃんのちゃうん?』
『ああ、あれね。貰った』
『いや、嘘でしょ?
龍ちゃんあのバイク、明子さんの次に大切にしてたし』
『おっちゃんも乗らずに埃被せとるから、あたしが有意義に…』
『梓!』
『な、なんやの、急に大きな声出して…』
『髪を染めるのもいいし、アニメ観たり漫画読んだりゲームばっかりしてるのもお母さんは何も言わへん。梓の好きにしたらええと思っとる』
『え?あ…うん』
『でもな、喧嘩して他人を傷付けたりとか、龍ちゃんに…』
『ごちそうさま!』
『梓?』
『もうええよ、そんな話は。
喧嘩っていってもあたしからは喧嘩売った事はないし、降りかかる火の粉を払ってるだけやしな』
『だから、そんな喧嘩とか暴力じゃなく…』
『ま、あたしに身の程もわきまえずに近寄ってくる男共も凪払っとるけど』
『身の程もわきまえずにって…』
『お母さんとあたしを捨てた親父と同じ男なんか…信用ならへん。おっちゃんもなっちゃんのお父さんやなかったら本気でぶっ飛ばしとるよ』
『梓…!』
『…寝る。説教はさっきおっちゃんにされてきたからもうええわ。お母さんも早く寝ぇや』
『待ちなさい!まだ話は終わって…』
「あたしはおっちゃんにもお母さんにも説教されて、イライラしてムカついて…誰とも話したくなくてその日はそのまま寝ちゃったんだよ。お父さんの事で当時は色々思う事もあったし…」
梓お姉ちゃん…。
そっか。梓お姉ちゃんのお父さんは…。
海原はクリムゾンエンターテイメントの…。
海原は梓お姉ちゃんと梓お姉ちゃんのお母さんを…。
「そして次の日。あたしはお母さんに挨拶もしないまま学校に行った。
学校に行くのも山の下だから、バイクで澄香の家まで行って、そこから澄香と一緒に通学してたんだよ」
『梓~、何か今日は機嫌悪そうやな?』
『わかる?昨日はおっちゃんに説教されて、その後はお母さんにまで説教されて…』
『ハァ…、あんたももう高校生なんやしさ?そんなおっちゃんやお母さんに怒られたからって…』
『うるさいなぁ…澄香も説教?』
『そんなつもりはないけどさ』
「その日はめちゃムシャクシャしててね。
澄香の言う事にもイライラしてた。そんな時に…」
『木原さん、今日こそ僕の愛の告白を…』
-グシャ
『ムカつく…』
『ちょ、梓。そんな話の途中なのにいきなり殴って潰すとか…』
『あ?またいつもの告白やろ?聞くだけ無駄や』
「じ、自慢に聞こえるかもやけど、あの頃はあたしめちゃくちゃモテててね。えへへ、毎日毎日学校の男子に…他校の男子からも告白されたりね。往年の天道 あかねみたいだったんだよ」
…みんならんま1/2わかるかなぁ?
「でもお父さんの事もあったから、あたしは男性不信でみんなの告白を肉体言語で断ってた」
肉体言語…?
「ほんと…あの時はモテてたのにな…。
何であたしはまだこの歳になっても結婚出来てないんだろう…うぅ…グスッ、彼ピとキャッキャウフフとかしてみたい…」
彼ピ…?キャッキャウフフ…?
「そして学校の校門まで行っていつものようにみんなぶっ飛ばしてね。それが毎朝のあたしの日課だった」
日課…?
「いつものように告白してくる男達を倒した後はね。昇降口の前に…毎朝あたしに挑んでくる女の子がいたの」
さっき肉体言語で断ってたって言ってたよね?
結局倒したって言っちゃってるよ?
「その女の子がね。翔子だったの」
え?関係無い話だと思ってたけどそこで翔子お姉ちゃんが出てくるの?
『木原!今日こそお前を倒してあたしの下についてもらうからな!』
『あ?神崎…。あんたも懲りへんな』
『お前にはあたしの下に…
『今日のあたしはイライラしてるからな。いつもみたいに手加減は出来へんからな?』
『…え?手加減?』
『ちょちょちょちょ!ちょっと待って!梓も神崎さんもちょっと待って!』
『あ?瀬羽さん?』
『あ?澄香?』
『梓!神崎さんは女の子なんやから殴るとかはね?』
『もはや神崎に言葉はいらぬ!この拳で語るまで!(クワッ』
『い、いや、あんた何言ってんの?
って!神崎さんも!今日の梓はちょっとアレやからさ?今日は止めといた方が…』
『ふふふ。神に感謝せねばなるまい。あたしの前にこれ程の女を送り出してくれた事を!(クワッ』
『い、いや、神崎さんも何言ってんの?
だから今日は…』
・
・
・
『ふん、雑魚が』
『か、神崎さん!?大丈夫!?殴った描写もなく一瞬で…』
『ほら、澄香。授業始まっちゃうで?神崎なんかほっといて行こ』
『ほ、ほっといてって…』
-キーン、コーンカーン…
『あ、チャイム…。ご、ごめんね、神崎さん!
梓!ちょっと待ってー!』
「その日もね。いつもと同じそんな朝から始まった」
いつもと同じ?
え?毎朝そんなバイオレンスだったの?
「けど…その日はイライラがおさまらなくてね。授業どころじゃなかった…」
『あかん…イライラする。授業も身に入らへん…』
『もう!いい加減に機嫌直しなって』
『帰る…』
『は?帰るって…午後からの授業どうすんの!』
『あー、あれだ。女の子の日でしんどいから生理休暇って事で』
『は!?学生にそんなんあるわけないやろ!』
『って訳でよろしくぅ~♪』
『ちょっ!梓!ほんまに帰るんか!?』
「あたしは午後からの授業をサボッてね。帰って寝る事にした。だけど家には…」
『あ?何でおっちゃんの靴が家に…?まさかお母さんとフでリンな事を!?』
『………だから梓には…』
『……それは……だよ』
『おっちゃんとお母さん…?ただ話してるだけ?
何を話してるんやろ?』
『俺は梓には音楽をやらせるべきだと思ってる。
あいつギターは物覚え悪かったけどな。お前を思い出させる歌声がある。お前もほんまは梓に歌ってほしいんやろ?』
『おっちゃん?あたしに歌を…?
クソ親父がやってた音楽なんてあたしは…!』
『龍ちゃんの気持ちもわかるよ。私も梓の歌声には私以上の可能性を感じてる…だけど…』
『お母さんも?あたしの歌声に…?
何で?お母さんにとっても音楽は親父の…』
『梓の…親父さんの事か?本当の事を話したらへんのか?』
『は?本当の事を…?どういう事?おっちゃんは何を…』
『海原が…私と梓を捨てたのは本当の事でしょ』
『かいばら?それがあたしの親父の名前?』
『俺は海原には会った事ないしな。どんな奴かは知らん。
けどあいつはレガリア戦争を知っていて、梓に歌の可能性を感じたから自分から…クリムゾングループからお前と梓を遠ざけたんやろ。お前らを守る為に…』
『…は?待って…?何?お母さんとあたしを守る為…?遠ざけた…?どういう事…?あたし達を捨てたんじゃ…』
『あの人はいつも苦しんでた。音楽家としての野望家としての自分と、音楽を愛する人としての自分の間で…レガリアの使い手である私と、ただ愛する私と娘の梓との事で…』
『お母さん…?お母さんも何言ってるの?レガリア…?』
「あたしはお父さん…海原がお母さんに近付いたのは、お母さんに歌の才能があったからで、身体を壊して歌えなくなったお母さんを捨てたって聞かされてたから、おっちゃんとお母さんのその時の話は衝撃的でね」
海原…が…?
先輩達の話じゃ海原って酷い人って聞いてるから、酷い人だって思ってたけど、梓お姉ちゃんのお母さんと梓お姉ちゃんを守る為に…?
「でも…結局はね。お父さんは…」
「海原は…?結局…どうだったの?」
「ん?ああ、お父さんは結局はクソ親父だったよ。あはは、お母さんが亡くなった時にね。あの人は…」
梓お姉ちゃん?
海原…か?いつか私もDivalとして対峙する事もあるかもだよね。
こないだファントムで見た時は怖い人って感じだったけど、実際はどんな人なんだろう?
美来お姉ちゃん達、makarios biosの事もあるし…。
「まぁ、その時はお父さんが実際はあたし達を守ろうとして遠ざけたの?それじゃ今まであたしが聞かされてた事は何だったの?とか、本当いっぱいいっぱいになってね」
梓お姉ちゃんにとっては海原はお父さんだもんね。
「訳わかんなくなっちゃって、制服から着替えてバイクで飛び出してたんだよ」
『(うぅ…ムカつく…イライラする…。おっちゃんもお母さんも何やねん…親父は…あたし達を…)』
…ブルン…ブルンブルン…
『え?何?』
…ブルン…ブブ…
『え?ちょ…何で…?』
「あたしはバイクで走り回っていてね。そこがどこかもわからないくらいだった。そんな時、急にバイクが止まっちゃって…」
『え?待って…最悪やねんけど…』
-キュルルルルルル…プスン
-キュルルルル…プスン
-ガコン…ガコン…ガコン…
『セルでもキックでもエンジンがかかれへん…。ちょっとこんな所でやめてよ…』
「バイクのエンジンをかけようとしても全然動いてくれなくてさ。あたしは途方にくれてた。そんな時に…」
『お?
「そんな時に声をかけてきたのがね。……タカくんだった」
「え!?先輩!?」