バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第35話 初めてのライブ

『チケット完売してたらどうしようって思ってたけど、全然余裕あるみたいだったね』

 

『このライブハウス150人キャパだよね?もう開場してるのにあたし達80番台とか…』

 

デビューもしていないアマチュアバンドを泣かせるような事を、あたしと澄香は話していた。

 

当時はSNSやネット動画なんかもそんな普及してなかったし、自分で作ったホームページやフライヤーを配るとかじゃないと、ファンでもライブがある事を知らないなんて事もざらだった。

 

『あんまり人気ないのかな?』

 

本当にアマチュアバンド泣かせだった。

 

 

あたしの名前は木原 梓。

この日、大阪で開催されるアマチュアバンドのライブにあたしと澄香は来ていた。

そう、タカくん達BREEZEの大阪凱旋ライブに。

 

とは、言ってもメインのバンドはりっちゃんのお父さんである氷川さんのバンドやったんやけどね。

 

『ふぅん、ライブハウスってこんな感じなんや』

 

『いや、そんなんピンキリちゃう?ここは割と小さめのライブハウスみたいやし』

 

あたしはお父さんの事もあって音楽の話題から遠ざかってたから、ライブハウスなんて来たの初めてだったから、色んなものが新鮮だった。

あはは、そこはあんま綺麗なライブハウスでもなかったし、そんな流行ってない感じだったけど…。

 

『あんまり人でいっぱいって訳じゃないけど、前の方はいっぱいだね』

 

『どうする?あたし達は端っこの方行っとく?』

 

『え?私は端っこでもいいけど梓は前の方行きたくないん?』

 

『う~ん…昨日の人を確認したいとは思ってるけど、前の方は人いっぱいやしゆっくり見たいなぁって気もするし?』

 

あたしと澄香がそんな事を話している時だった。

 

『ねぇねぇ、2人共可愛いね。今日のライブに好きなバンド出るとか?』

 

変な男に声を掛けられた。

 

『オレいつもここ来てるけど、君たち見ない顔だしさ?』

 

『あ、えっと…私達は別にファンとかじゃ…』

 

『え?そうなん?なら、ただライブに来ただけみたいな?

別に好きなバンド出てないなら、今からオレらとどっか行って遊ばね?』

 

『え?どっか行って遊ぶって…今日はライブを見にきたんじゃ?』

 

『いやいや、君たちみたいな可愛い女の子が居ないかな?って思っていつもここに来』

 

-ドゴッ……ドーン!

 

『邪魔』

 

『ちょ!梓!あんたいきなり殴って吹っ飛ばすとか!』

 

『え?だってここライブハウスだよ?

ライブ見に来た訳でもなく、女の子をナンパするとか邪魔やない?』

 

あたしはその男にイラッとしてつい殴って吹っ飛ばしてしまった。

その男はツレの男におんぶされて、ライブハウスから出て行ったんだけど…。

 

『あのね!ああいうのはイラッとするし私もぶっ飛ばしてやりたいって思ってたけど、いきなり暴力はあかんやろ!人間には言葉っていうものがあるの!』

 

澄香に怒られてしまった。

あたしも人間なんだけど…。

その時…

 

『うわー!ありがとう!』

 

『『え?』』

 

まわりの何人かの女の子があたし達に近付いて来てお礼を言ってきた。正直その時は何でお礼を言われてるのかわかんなかったよ。

 

『あいつら最近このライブハウスに来ては女の子に声掛けたりしててウザかったんだよね』

 

『そうそう!無視しててもずっと話し掛けてくるしさ~』

 

『お姉さんがぶっ飛ばしてくれてスッキリしたよ~』

 

あたしのまわりに集まって来た女の子達は、さっきのナンパ野郎の被害者達だった。

あたしは殴って良かった。そう思ったけど良い子は暴力とかダメだからね!

 

『あ、お姉ちゃん達ってもしかしてライブ初めて?』

 

『え?あ、はい。まぁ…』

 

『もし良かったらさ。さっきのお礼って事でそこの柵の譲ろっか?』

 

『柵…譲る?』

 

『あはは、柵って言ってもわかんないよね。この会場の色んな所に柵が立ってるでしょ?』

 

周りを見てみると会場内のあちこちに柵のようなものが立っていて、その柵にはモタれてる人や、タオルを掛けてる人達がいた。

 

柵ってその時は何であるのかな?って思ってたけど、今となっては柵取れたら嬉しいよね~。

実は女の子達が来てからあたしは人見知り全開で一言も発する事はなく。応対は澄香に任せっきりだったんだけどね。おっと今はそんな事を話してる場合じゃないや。

 

あたしと澄香は譲ってもらった柵にもたれながら開演時間を待っていた。

 

『18時開演って書いてんのにもう18時10分やで?』

 

『準備に時間かかってるんちゃう?梓ももう少し我慢ってもんを…』

 

『澄香!』

 

『わ!?び、びっくりした…。何?どしたん?』

 

『澄香…何飲んでるの…?み…水…?』

 

『え?ああ、うん。会場入る時にチケット代とは別にドリンク代払ったやろ?』

 

『え?あ~…確かに払ったかも…』

 

『そん時にドリンクチケット貰ったやろ?入り口でそのチケットで水と交換して…』

 

『こ、これってライブ前に交換出来るの!?』

 

『え?いや、ライブ前でもライブ中でもライブ後でも、ドリンク交換は出来るけど…』

 

『まじでか。

あ、あたしも水貰ってくる!ライブハウスって飲食禁止なんやと思ってたし!』

 

『ん?そりゃ飲食禁止の所もあるやろけどここは…』

 

『とりあえずあたし行ってくるね!喉渇いたし!』

 

あたしがそう言った直後…

 

『あ、暗くなった。ライブ始まるんかも』

 

『え!?なんでこのタイミングで!?』

 

あたしがドリンク交換しに行こうとした途端に会場は暗くなり、さっきまで流れていた軽快な音楽も止まってしまった。

 

『うう…み、水…』

 

『タイミング悪かったなぁ…。あたしの飲みかけやけど少し飲んでいいよ』

 

『澄香…(トゥンク』

 

『ごめん、ときめくのは止めて…』

 

-ドン!ドンドンドン…

 

あたしが水の交換に行くのを諦めて澄香に恵んで貰った水を一口飲んだ時、ドラムの重低音が会場中に響き渡った。

 

『は、始まる!?』

 

『うん、始まるみたいやね。私もライブの生って初めてやからドキドキするわぁ~』

 

ステージの上で動く人影。

あたしも澄香もドキドキしながらステージを見ていた。

 

-パッ

 

ドラムの音が止まり、ステージがライトアップされた。

 

『………GEKIJO(げきじょう)

 

-ドンドンドンシャン…ドゥルドゥル…

 

センターに立っていた女の人。

ふふ、その日のオープニングは香保さん。

志保ちゃんのお母さんのバンドだった。

 

激しい音楽、訴えかけるような歌詞、かっこいいパフォーマンス。

初めて見たバンドの音楽は、あたしの想像以上に凄いものだった。

 

 

 

 

『ありがと~!あたしCODE KNIGHT(コードナイト)の演奏は終わりだけど、次はみんなのお待ちかね!氷川さんのバンドだ!みんな盛り上がれよー!』

 

そう言って香保さん達のバンドは舞台袖に戻り、ステージのライトは消されてスタッフさんが機材の交換を始めた。

 

『今のバンドの音楽凄かった…。やっぱライブって凄いね。ね!梓!』

 

『……』

 

『梓…?』

 

『…凄い。これが音楽?あたしが今まで思ってたのと全然違う…』

 

『梓…』

 

 

 

あたしは香保さんのバンドCODE KNIGHTの演奏を聞いて…

 

「ちょっと待って梓お姉ちゃん!」

 

「え?どしたの?」

 

「あ、あの…う~ん…せっかく前回までとは違ったいいお話聞かせてもらってるし、あんまりメタな事は言いたくないんだけど…」

 

「うん?何か変なとこあった?」

 

「へ、変なとこって言うか…う~ん…」

 

なっちゃん?

どうしたんだろう?

 

「あのね…読者も誰も彼もが大して覚えてないと思うんだけどね?香保さん、志保のお母さんのバンドってCODE JOKER(コードジョーカー)ってバンド名じゃないの?メタ発言だとは思うけど、前に先輩がモノローグでそんな事を…」

 

あ、なるほどね。そっかそっか。

なっちゃんは香保さんのバンドの成り立ちを聞いてないんだね。

確かに香保さんと大志さんのバンドはCODE JOKERだけど…。

 

「なっちゃんの知ってる通り。

香保さんと大志さんのバンドはCODE JOKERってバンド名だよ」

 

「え?やっぱりそうなの?でも梓お姉ちゃんはさっき…」

 

「うん。香保さんのバンドはCODE KNIGHTって言ったね。これも今度みんなと話す時に出る話題だと思うけど、まだこの時は大志さんと香保さんは別々のバンドだったの」

 

「え?志保のお父さんとお母さんって別々のバンドだったの?」

 

「そだよ。まぁあたしらがArtemisを始めてしばらく経っても別々でね。クリムゾングループと本格的に戦い始めて…」

 

あれ?

そういや何でだっけ?

 

当時、香保さんはCODE KNIGHTってバンドやってて、大志さんはEND JOKER(エンド ジョーカー)ってバンドをやっていた。

 

大志さんは香保さんにベタ惚れで交際やら結婚を申し込むくらいに…ううん、『え?ストーカーなの?』って思うくらいにアタックしてたけど、香保さんは大志さんの事嫌ってたし、何で一緒にバンドやり始めたんだっけ?

まさか香保さんが大志さんと本当に結婚しちゃった時は、あたし達もびっくりしたくらいだったし…。

 

「梓お姉ちゃん?」

 

「あ、ごめんね。

当時は別々のバンドだったけど、一緒にバンドをやるようになってね。それからCODE JOKERってバンド名にしたんだよ」

 

「へぇ~、そうだったんだ?」

 

…あれ?本当に思い出せない。

何でだろ?タカくんかトシキくんに聞いたら思い出せるかな?

あ、今はなっちゃんに続きをお話しなきゃ!

 

「あ、それで話を戻すけど…」

 

「あっ!せっかく梓お姉ちゃんが話してくれてるのにごめんなさい」

 

いいんだよ、なっちゃん。

あたしも…この違和感って何なんだろ…?

 

 

 

 

『ジャズバンド…か。うん、今の演奏めちゃくちゃ好きやわ』

 

『あの氷川さんって人、澄香と同じベースやったもんね。あ、そいや澄香はまだベースやっとるん?』

 

『もちろんやっとるよ。小さい頃からやってたし、止めるきっかけってのも無かったし。まぁ、だからズルズルやってんのかもやけど…』

 

『ま、あたしはギター止めてもうたけどな…』

 

氷川さんのバンドの演奏は、香保さん達とは違って静かで心に直接響いてくるような演奏だった。

 

氷川さん達の演奏が終わって、次に出て来たのは…

 

『雨宮 大志だ』

 

\\キャー!ワー!!//

 

『え?凄い歓声…!』

 

『前の方の女の子達みんな騒いでるなぁ』

 

『今日はバンドとしての参加ではないが、次のBREEZEへの繋ぎの余興…。とでも受け取ってくれ』

 

-ギュンギュンギュン、デュンデュンデュ…

 

『す、すご…』

 

『わ、私でもこの曲知ってる!』

 

大志さんが演奏した曲はTVCMやドラマで聞いた事のある曲を完璧にコピーしていた。

バンドやライブを知らない人も、もちろん知っている人も、そんな曲を聞かされたら惹き込まれしまう。

あたしや澄香だけじゃなく、会場中の人達が大志さんの演奏に惹き込まれていた。

 

『みんな…盛り上がってくれたようだな。次はトリのBREEZEだ。演奏技術はまだまだだが、俺の演奏より盛り上げてくれるだろう』

 

\\ワー!キャー!//

 

BREEZE…。きっとそのバンドに昨日の人がいる。

大志さんの演奏も凄かった。

氷川さんの演奏も香保さんの演奏も。

でも、あたしは次はBREEZEという言葉を聞いたら、頭の中は昨日の人にまた会えるかも知れない。そんな事でいっぱいになっていた。

 

『次がトリやて。梓が昨日会ったって人が居たらいいね』

 

『う、うん…』

 

『そろそろ準備も終わったようだな。それでは俺は退散させてもらおう』

 

大志さんはそう言ってステージのライトは消えた。

 

『香保~!上手くやったよ~!そろそろ結婚してくれ~』

 

『うるせー!あたしに近寄んな!!』

 

何か聞こえた気がしたけど会場中誰も聞こえないふりをしていた。

 

それから少しした後、ステージの1ヵ所がライトアップされた。

 

-ドンドンドンドンドンドン

 

軽快なドラムの音が会場に響き渡った。

 

『お!さっすが大阪だな!可愛い女の子いっぱいいるじゃん!』

 

『梓…?あの人?』

 

『ううん、違う』

 

ライトアップされたのは英治くん。

そしてもう1ヵ所がライトアップされて…。

 

『うん!みんないい顔してるね!男の子も女の子も!

まだまだこれから盛り上がるからね!

大阪!暴れろよ!!』

 

トシキくんがそう叫んだ。

 

『あの人も違う』

 

『あの人でもない…か…』

 

そして次にライトアップされたのは

 

-ベンベンベンベン…ギュンギュン

 

『大阪…!まだまだこんなもんじゃねぇだろ!声出せ声!』

 

拓斗くんだった。

 

『あの人は違うよね』

 

『ん?うん、違うけど何でわかったの?』

 

『なんか…あいつムカつく…。顔かな?いや、違うな…。てかあいつが私と同じベースやってるのがめちゃくちゃ腹立つ』

 

『え!?何で!?』

 

澄香は何でか知らないけど初見で拓斗くんを嫌っていた…。

 

その後もギターのトシキくん、ベースの拓斗くん、ドラムの英治くんの3人で演奏が続いていた。

 

『あの3人でBREEZE…?』

 

『梓の想いの人は結局居なかったの?』

 

『そんな…。そか、しょうがないね。

でも音楽が楽しいものって少し…ほんの少しだけどわかった気がする。そう思ったら今日は来て良かったんだと思うよ』

 

『梓…』

 

昨日会った人は居なかった。

あたしは少しガッカリしたけど、音楽が楽しいものって知れた事は良かった事だと思ってもいた。

 

それからも続く単調な音楽。

あれ?どうしたんだろう?

盛り上がれーみたいに言ってたのに…。

 

〈〈〈ザワザワ…〉〉

 

会場中もざわつき始めた…。

 

『ど、どうしたんだろう?なんかずっと…』

 

『そやね。ボーカルさんも出て来てないし、さっきからずっと同じ音楽を単調に演奏してるだけやな』

 

あたしは澄香に言われてハッとした。

確かにボーカルの人が出て来ていないと…。

 

 

『お、おい…このままじゃマズイんじゃねぇか…?』

 

『あのバカ何で出て来ねぇんだよ…』

 

『ねぇ…はーちゃんが言ってた演出…、アレやらないと本当に出て来ないんじゃない?』

 

『は!?あいつ本当にバカか!?あんなの絶対ウケないだろ!?』

 

『でもこのままじゃ本当にはーちゃん出て来ないかも知れないよ?俺も会場も疲れてきてるし…』

 

ステージの上ではトシキくん達が何か揉めているようだった。

 

『トシキ、拓斗…覚悟決めろ。もう…やるしかねぇ…』

 

『チッ、やるしか…ねぇのか…』

 

『うん、もうやっちゃお。スベったらはーちゃんのせいって事で…』

 

そして3人は演奏を止め、

 

『『『関西!』』』

 

そう叫んだ。そしたらどこからともなく…

 

『で○きほ~○○きょ~○○♪』

 

〈〈ザワッ〉〉

 

そして…

 

『『『ハナテン!』』』

 

『ちゅ~○しゃ○○~○~♪』

 

その時BREEZEが言っていたのは関西ローカルのCMのフレーズって言うか歌って言うか…。

 

『『『ホテル!』』』

 

『にゅ~○~わ~○~♪』

 

そして静まりかえる会場。

ステージの上の3人は泣いているようだった。

 

少しの間の静寂…。

 

『駆け抜ける~瞬間(とき)を~♪』

 

-バン!

 

会場の入り口のドアが開かれ、男の人が入って来た。

 

『『は!?あいつマジか!?』』

 

『ちょっ…はーちゃん歌っちゃってるし!俺達も演奏しないと!!』

 

そしてBREEZEの演奏が始まり、入り口から入って来た人…、タカくんはあたし達フロアに居る客とハイタッチしたり何かしながら歌っていた。

残念ながらあたしと澄香の所には来てくれなかった。

 

タカくんは1曲歌い終わり、ステージの上にあがってあたし達客席の方を見た。

 

『あ!あの人昨日の!』

 

『え?あの人昨日のお客様!?』

 

タカくんを見た時、あたしと澄香は同時に声をあげた。

 

『す、澄香?昨日のお客様って…もしかして昨日澄香が会ったって人あの人なの?

 

『梓こそ…あの人が夕べ梓を助けてくれた人なの?』

 

あたしと澄香の会った人は、同じ人だった。

なっちゃんや読者の人達にはバレバレだっただろうけど、BREEZEのボーカルがあたしと澄香のもう1度逢いたいと思った人だった。

 

『澄香…』

 

『あ、梓…』

 

あたし達はお互いを見合い何も言えずにいた。

 

『来たぞ大阪ぁぁぁぁぁ!!!!』

 

『『ハッ!?』』

 

タカくんの叫びと同時にあたし達は我に返り、ステージへと目をやった。

 

『まずは1曲聞いてもらいました!最高だな大阪!!』

 

\\わ、わ~…イエ~ィ…//

 

『あ?なんだなんだ大阪!全然声出てねーじゃん!さっきの盛り上がりは何だったの?あ、もしかして接待?』

 

『ちげぇよバカ。みんなお前の登場の仕方に戸惑って声を出せねぇでいるだけだ』

 

『え?何で?』

 

『何でってお前…昨日この演出は止めようって言ったじゃねぇか。トシキにも拓斗にも俺にも説得されて止めてくれたんじゃなかったのかよ…』

 

『あ?何で俺がお前らの言う事を聞かねばならんの?』

 

『はーちゃん、現実を見て。これがはーちゃんが決行した結果の反応だよ?』

 

『…感動のあまり声が出ない?なるほどな』

 

『『『なるほどなじゃねーよ!』』』

 

『でもな!お前ら!せっかくのライブだぜ!?

俺らも来たくてもなかなか来れなかった大阪にやっとの想いで来たんだからよ!もっと声出して暴れよーぜ!!』

 

『『『え!?俺達のツッコミスルーなの!?』』』

 

『クスクス、あの人らの話おもしろ』『ね?さっきの曲かっこ良かったのに』『あのバンド好きかも』

 

さっきまでシーンと静まりかえってたのに、会場中BREEZEのMCに口々と反応していた。もちろんあたしと澄香も。

 

『何あのボーカル。メンバーのみんな困ってんじゃん』

 

『すごいね。バンドって歌って演奏するだけじゃないんだね。さっきのバンドやギターの人達もだけど、まるで会場に居る人達や自分達が昔からの友達みたいな…。

これがバンド…音楽なんだね…』

 

『梓…?』

 

 

 

『そろそろ次の曲いくぞ!大阪ぁぁ!声出してけよ!ウォイ!ウォイ!』

 

\\ウォイ!ウォイ!!//

 

会場のみんなを煽るタカくんに反応して、会場のみんなも盛り上がっていった。

あたしは今まで嫌って避けていた音楽が、こんなにも楽しくてこんなにも尊いものだったなんてと、すごく衝撃を受けていた。

 

『大阪ぁぁ!まだまだ声出せるだろ!!大阪!大阪!!』

 

\\ウォイ!!ウォイ!!!//

 

『いいねいいね大阪!そろそろ次の曲いっちゃうか!トシキ!』

 

タカくんの呼び掛けに反応してトシキくんの演奏が始まり、タカくんが曲名をコールした後、激しいヘドバンが始まった。それに呼応して会場中のみんなもヘドバン始めてね。

あたしも澄香もびっくりしたけど、今この時間に楽しんで暴れないのは勿体無い。あたしも楽しんで暴れたい。そんな気持ちになっていた。

 

BREEZEの演奏も本当に楽しくてかっこ良くて…。

何より昨日は死んだ魚みたいな目をして猫背だったタカくんは、背筋もピンとしていたし、目が輝いていた。

 

『『か、かっこいい…!』』

 

『ん?澄香?』

 

『ん?梓?』

 

『す、澄香、今あの人の事かっこいいって言わなかった?』

 

『え?いや、あの…かっこいいとは言ったけど、あの人の事ちゃうから曲がかっこいいと思っただけだから。それより梓こそ…』

 

『あ、あたしもそうだよ!曲がかっこいいって言ったの!』

 

『…』

 

『…』

 

『『だ、だよね~』』

 

『まだまだ行くぞ大阪ー!』

 

BREEZEの次の曲が始まろうとしていた。

 

『…』

 

『…』

 

『『い、今はライブに集中しよっか』』

 

その後もBREEZEのかっこいい演奏。

MCには当時のあたしと澄香もどん引きするような下ネタ。

でも楽しいライブだった。

 

『ありがとうございました!BREEZEでした!』

 

 

そうしてその日のライブは終わった。

 

 

かと思ったんだけど…。

 

『みんなありがとう!久しぶりの大阪ライブ!すごく熱かったし楽しかった!』

 

氷川さんが1人でステージに出て来た。

 

『本当に楽しかった。今日、大阪でこうやってライブ出来た事を嬉しく思います。ライブはさっきのBREEZEで終わりですが、皆さん楽しかったですか!?』

 

\\ワァー!楽しかったー!//

 

『ありがとう!俺たちも楽しかった!!

……では、名残惜しいですが、これでエンディングです』

 

氷川さんはベースソロで演奏を始めた。

氷川さんのバンドで演奏していたような静かで心地好い演奏ってより、激しく荒々しく、暴れたくなるような熱いサウンドだった。

 

そしてステージの上に香保さん達や大志さん、BREEZEのメンバーが登場して…

 

『みんなー!あたしも今日は楽しかった!!』

 

香保さんがそう言って会場に向かってピックを投げた。

そんな香保さんに続くように、ステージのみんな会場に向けてピックを投げてくれた。

 

『え!?ピック!?タ、タカの欲しい!』

 

『澄香!?』

 

澄香はもう自分の気持ちを押し殺す事も出来ない程に興奮していた。

やっぱり澄香はあのBREEZEのボーカルさんの事を好きなんだね。

 

あたしは澄香を見てそう思ったけど

 

『あ、あたしも欲しいし!絶対ゲットする!!』

 

あたしもやっぱりタカくんのピックが欲しかった。

 

『あ!タカくんがこっちに向かってピック投げそう!』

 

『負けへんで梓!』

 

『あ、投げた…。澄香!邪魔!』

 

『なっ!?私かて欲しいんやから!』

 

あたし達の方に飛んでくるタカくんのピック。

 

『『うがぁぁぁぁぁぁ!!!!』』

 

あたし達は今思うとどんだけ必死だったの?

って思う程に恥ずかしいくらい欲していた。

 

 

『フッ…取った』

 

 

あたしはタカくんの投げたピックに『TAKA』と名前が記載されていることを確認し、あたしはこの手に勝利を掴んだと確信した。

 

『くっそ~…梓に取られちゃったか。羨ましい…でも、おめでとう』

 

『えへへ…良かった…。うん、ありがとう澄香』

 

あたしと澄香は互いに全力を賭けてタカくんのピックをゲットしようとした。

今回は運良くあたしが手に入れる事は出来たけど、澄香が手に入れていたとしても、あたしも澄香におめでとうと声を掛けていただろう。

 

あたしは額から血を。

澄香は肩から血を流していた。

通常のライブではこんなに必死になっちゃダメだよ?

迷惑行為だからね?

 

『まだタカくんもこっちに投げてくれるかもよ?』

 

『あ、そやな。つ、次は私に譲ってや?』

 

『あ、ピック飛んできた』

 

『うがぁぁぁぁぁぁ!』

 

澄香は飛んできたピックをスライディングキャッチした。

読者のみんなはほんまにこんな事したらあかんからね?

これは創作だからやってるだけなので…。

 

『と、取れた』

 

『おめでとう澄香!』

 

『うん!ありがと……う?え?これ…』

 

澄香がキャッチしたピックは雨宮さんのピックだった。

 

『こ、このピック…雨宮 大志さんの…?』

 

『それじゃみんな!ありがとうございました!』

 

『『あっ…』』

 

ピックを全て投げ終わったのか、ライブの終了時間がきてしまったのか、氷川さんの演奏は終わり、ステージの上に居たみんなも退場してしまった。

 

『う~…ピック取れたのは嬉しいけど、やっぱりタカのが良かったかな…』

 

『……あげないよ?』

 

『いや!梓もタカの事が好きなんやろ!?さすがに頂戴とか言わんし!』

 

例え親友の澄香にもタカくんからのピックは渡す訳にはいかない。あたしはそう思っていた。

 

『あ、あの~…す、すみません…』

 

『あ、はい?何ですか?』

 

そんなあたし達に1人の女の子が声を掛けてきた。

 

『あ、あの…ぶしつけに申し訳ないんですけど…先ほど雨宮さんのピックを取られてましたよね…?私、雨宮さんの大ファンでして…』

 

その女の子は雨宮さんのファンだったようで、澄香が雨宮さんのピックをゲットしたのを見ていたのか、澄香に声を掛けてきたようだった。

 

『あ、そうなんですね。このピックが欲しいとかですか?私は別に雨宮さんのファンって訳ではないですし、良かったらどうぞ』

 

そう言って澄香はその女の子に雨宮さんのピックを差し出した。ほんま澄香いい子だよね~。

 

『あ、いえ、雨宮さんのピックを譲って頂きたいのはそうなんですけど、BREEZEのTAKAさんのファンのようでしたので、私がさっき取れたこのピックと交換をと…』

 

『え!?タカのピックと交換してくれんの!?』

 

『はい!もしよろしければ…』

 

そうして澄香もタカくんのピックが手に入って、あたし達は今日来て良かった。最高だったと感動していた。

 

だけどそれだけじゃなかった。

その日にはまだ…。

 

『さっきのバンドとか今日は手渡し物販やってるってー』『マジ?あのバンドかっこ良かったしCDとかあるかな?』『雨宮さんもやってるかな?』

 

『『手渡し物販!?』』

 

あたしは胸が高鳴った。いや、昂った。

も、もしかしたらタカくんとまたお話出来るかも…。

 

『梓!』

 

『うん!行こう!澄香!』

 

あたしと澄香は物販会場。

会場と言ってもエントランスだけど。

あたし達はそこへと向かった。

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