バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第36話 きっかけなんて…

『は~い…BREEZEのグッズ売ってますよ~…売れ残ってますよ~。誰か買って下さい~う、うぅ…グスッ』

 

BREEZEの物販コーナーにはBREEZEのメンバーは居なかった。

その代わりに半泣きしている女の子が居た。

その女の子っていうのは三咲ちゃんだったんだけど…。

 

『BREEZEの物販…ここ…だよね?』

 

『何であの売り子の女の子半泣きしてるんだろ…?』

 

あたし達はBREEZEのメンバーが居ない事を不思議に思いはしたけど、せっかくの物販だからと三咲ちゃんに話し掛けた。

 

『あ、あの…BREEZEのグッズって…』

 

『何が売ってますか?』

 

『BREEZEのグッズ買ってくれますか!?(クワッ』

 

三咲ちゃんの鬼気迫る圧に一瞬たじろきはしたけど、少し話してみると話しやすい女の子だとわかった。

 

三咲ちゃんの話しによるとBREEZEのメンバーはじゃんけんに負けて英治くん以外のメンバーは会場の片付けに駆り出されたようだった。

だけどその英治くんは物販を手伝う事もなくどこかに消えてしまったらしい。

 

後で英治くんに『物販すごく忙しかったんだからっ!』と、文句を言おうと思っていたけど、CDが数枚売れただけでグッズは売れず、ものすごく暇をしているようだった。

 

『な、なるほど…それで半泣きしてたんですね…』

 

『そうなんだよ~、ヒマヒマで困ってて~…』

 

『あ、あの…英治くんってBREEZEのEIJIですか?』

 

『え?うん、そだよ。もしかしてお姉さんは英治くん推し?』

 

『いや、そういう訳じゃないんですけど…。

BREEZEのEIJIってもしかしてあそこで観客の女の子ナンパしてるあの人かな?って…』

 

あたしはその時は三咲ちゃんと英治くんが付き合ってる事なんか知らなかったから、普通にそんな事を聞いてしまった。

 

『あ、ほんとだ。英治くんだ。

……物販サボッてナンパとか…後でタカくんにチクッてやる。そしてその後で思いっきりぶん殴ってやる!』

 

三咲ちゃんから放たれるオーラは凄かった。

この子なら全力のあたしといい勝負が出来るかも知れない。あたしはそう思っていた。

 

『あ、あははは、そ、それよりBREEZEのグッズってどんなのが売ってるんですか?』

 

『あ、そうだね。ごめんね。接客はちゃんとしなきゃね。まずはね~…』

 

その日に売っていたBREEZEのグッズは、

新曲のシングルCD(500円)とアルバムCD(1500円)。

 

拓斗くんが考案したメンバーのブロマイド(100円)。

タカくんのブロマイドは使用用、観賞用、保存用の3枚は買おうと心に誓った。

 

そして英治くんの考案した応援うちわ(200円)。

表面は英治くんの写真が印刷されていて、裏面には小さくBREEZEと書かれていた。

正直これはいらないな。と思った。

 

次に紹介されたのはトシキくん考案のリストバンド(500円)。

当時はトシキくんは何を思ってこれを考案したんだろう?って思ったけど、今思うとやっぱりトシキくんもBREEZEのメンバーだね。って思うようなドン引きリストバンドだった。

 

最後に紹介されたのはタカくん考案のサイリウム(2,000円)。

タカくんカラーのレッド、トシキくんカラーのホワイト、拓斗くんカラーのイエロー、英治くんカラーのグリーン、BREEZEカラーのブルーの5色に光るサイリウムだった。

 

だけど注意事項に『このサイリウムはライブ中には使用しないで下さい。フェスとか野外ライブなら可』と記載されていた。

いやいやいやライブ中に使用するなって、そんならこれいつ使うの?って思った。

 

そりゃ誰もBREEZEのグッズ買わないよね…。

 

『それでお姉さん達は何を買ってくれるかな?』

 

ものすごい眼差しを送ってくる三咲ちゃん。

だけどごめんね。

うちわとリストバンドとサイリウムはいらないかな…。

 

 

『私はアルバムCDと新曲CDと…』

 

『あ、あたしもアルバムと新曲と…』

 

『『タカのブロマイドを3(4)枚で』』

 

あたしと被るようにタカくんのブロマイドを4枚と言った澄香。

使用用、保存用、観賞用以外にもう1枚だと!?

 

『あ、やっぱり梓もタカのブロマイド買うんや?』

 

『うん、えへへ、まぁね。使用用、保存用、観賞用にと思って…。でも澄香は何で4枚なの?』

 

『う。…えっ…と…、せ…』

 

『せ?』

 

『生徒手帳にも…挟んでおきたいかな?って…』

 

生徒手帳にもだと!?

バ、バカな…!?もし生徒手帳に挟んでいて、学校で落として誰かに拾われちゃったりしたら、タカくんの事が好きなのかな?とか思われちゃうよ?

 

いや、待て…。まさか…まさかそういう事か!?

『私はタカの事が好きなの』アピールか!?

このままじゃあたしの…敗けだ。

 

『あ、そっか。あはは。生徒手帳用か~。

あたしもうっかりしてたよ。じゃあやっぱりあたしはタカくんのブロマイド5枚で!』

 

『5枚!?何で!?』

 

『う~ん…予備?』

 

『予備って…』

 

新曲とアルバムとブロマイド5枚で2,500円。

大阪までの交通費やライブのチケット代の事もあり、あたしも出せるのはここまでが限界と思っていた。

 

『あ、あはは…予備…予備ねぇ。予備も必要だよね!

わ、私もタカのブロマイド5枚で…』

 

な、何ぃ!?

澄香も5枚だと!?

バ、バカな…。澄香もバイトを始めたばかりだから予算的にはギリギリのハズ…!それなのに追加しちゃうと言うのか!?

 

澄香もあたしに敗ける訳にはいかないと思ったんだろう。

 

『え?2人共タカくんのブロマイド5枚も買ってくれるの?私が言うのもなんだけど正気?』

 

あたしも澄香も退けない戦いだった。

 

『もしかしてなんだけど…2人共タカくんの事好きなの?ただファンってだけで5枚は…ね…?』

 

『『あはは、そんなアホな。好きとかないですよ全然。あの人下ネタばっかりやったし、さすがにね~?かっこいいとは思いましたけど』』

 

『ありゃ?そうなの?タカくんの彼女になりたいくらい好きってんならいい事教えてあげようと思ったんだけどな~』

 

『『でもあの人の彼女になれたら嬉しいなって思ってます。なんならそのまま結婚したい』』

 

あたしも澄香も本当に退けない戦いだった。

 

『うん、2人共正直だね!感心感心!

正直タカくんを好きとか引くけど正直でいいよ!』

 

え?引くの?

 

『じゃあ正直な2人には教えてあげるね。タカくんには彼女居ないし、絶賛彼女募集中だよ。』

 

『『か、彼女募集中!?』』

 

 

 

 

「あたしの胸は高鳴った。

これはもうタカくんと付き合って結婚するしかない。これは運命的な出逢いと言っても過言ではない。そう思ったんだよ」

 

あたしはなっちゃんに恥ずかしい告白をした。

まさかなっちゃんの前でこんな事を言う日が来るなんて…。

あたしはなっちゃんがどんな反応なのか気になってチラッと見てみた。

 

「もぐもぐ。あ、この料理美味しい。ビールにすごく合うや。もぐもぐ」

 

……え?聞いてないの?

 

「もぐもぐ。ん?どしたの梓お姉ちゃん?それで?もぐもぐ」

 

…聞き流すつもり?

 

 

 

 

そ、それでその後に三咲ちゃんは…

 

『そしてさらに朗報です!この看板見てみて』

 

あたしと澄香は三咲ちゃんに促されるように看板に目をやった。

 

『『な、なんやて!?』』

 

『ふっふっふ。そう。

今日はBREEZEメンバーのチェキ写真も持って来ています。3,000円以上のご購入で1枚プレゼント。

ねぇ?タカくんのチェキ写真欲しくない?』

 

3,000円分のグッズを購入したらチェキ写真をプレゼントしてもらえる。

あたしと澄香が買おうとしているのは合計で2,500円。

まだ500円も足りない。

当時のあたしはお小遣いも少なかったし、澄香はバイトをしているといっても初任給はまだだった。

 

500円はあたし達にとっては大金であり、手痛い出費であった。

 

『チェキ写真…か…』

 

『チェキって事はこの世に1枚しかないんだよね…?』

 

あたしと澄香は悩んでいた。どうすればいいのかと…。

 

『あ、チェキは全部で10枚しかなくてね?

各メンバーのチェキが2種類とメンバー全員で写ってる写真が2種類。

つまり4/10。2/5の確率でタカくんの写真がゲット出来るよ?』

 

2/5の確率!?

あたしと澄香は顔を見合わせて震えた。

この確率ならタカくんの写真を手に入れる事が出来るかもしれないと…。

 

『クッ…』

 

『で、でも2/5…。半分以上は他のメンバーが当たる訳で…』

 

『あ、それでね?各メンバーのも、全員で写ってるのも2枚のうち1枚は直筆サイン付きだよ?』

 

『『買います』』

 

あたしと澄香は即答した。

 

直筆サイン付きのタカくんの写真。

これは末代までの家宝になるに違いない。

あたしと澄香はそう思っていた。

 

 

 

「ふぅん。梓お姉ちゃんも澄香お姉ちゃんも昔はアホだったの?」

 

なっちゃん?

今なっちゃんは何って言った?

あたし達の事をアホって言った?うん、今思い返すとあたし達はアホだったと思います。

 

「それで?結局梓お姉ちゃんも澄香お姉ちゃんも、3,000円分のグッズ買ったの?」

 

「あ、うん…それなんだけどね…」

 

 

『まぁ女子高生にどうでもいいグッズに3,000円はお高いよね~。よし!ここは売り子の私の特権で!

なんと今買おうとしてくれてるグッズにプラスでサイリウムを買ってくれたら1,500円おまけしてチェキを2枚プレゼントしちゃうよ!』

 

『な、なんやて!?…よ…4,500円か…』

 

『買います』

 

澄香!?

 

『え?澄香?4,500円だよ…?』

 

『提案した私が言うのもなんだけど正気?』

 

『た、確かに…4,500円は痛いけど…やっぱ欲しいし…』

 

あたしは澄香の言葉に感動した。

これはあたしも4,500円を出すしかない。

考えてみたらこのサイリウムはタカくんの考案したグッズだ。

ライブ中に使用禁止とは書いてあるけど、持っている分には問題ないはず。

 

もし今後もBREEZEのライブに行ける機会があって、タカくんがあたしの持っているサイリウムに反応してくれたら…。あたしの心は一気に昂った。

 

……なっちゃんがあたしの事を物凄い哀れみの目で見てきている。気付かなかった事にしよう。

 

「そ、それでね!あたしと澄香はサイリウムを買うことにしてね!」

 

「……」

 

ヤバい。これは本気でヤバい。

ごめんね、澄香。あたしのせいで澄香までなっちゃんにアホな子と思われてしまって…!

 

 

『わぁ~…本当に2人共サイリウム買ってくれるんだ?ちょっと引いちゃうね』

 

『『え?』』

 

『あ、何でもないよ!ちょっと待ってね!』

 

三咲ちゃんは後ろを向いて何かごそごそとしていた。

今思うと本当にあの頃のあたしと澄香は何であんな必死だったの?

 

『よし!準備完了!はい!!』

 

そう言って三咲ちゃんはあたしの前に2枚の封筒を、澄香の前に2枚の封筒を差し出した。

 

『私の左手に持ってるのがタカくんがソロで写ってる写真です!もちろん1枚は直筆サイン付き!2枚しかないし!』

 

『『え?それって…』』

 

『そして右手に持ってるのがBREEZEの集合写真。ちょっとズルかもだけどどうせ売れないし、タカくんのファンが居てくれたのも嬉しいし。2枚ずつ選んじゃって』

 

三咲ちゃんはタカくんの写っているチェキを左手に2枚、そしてBREEZEみんなで写っているチェキを右手に2枚持っていた。

 

『あの…ほんまにいいんですか?』

 

『いいよいいよ~。サイリウム売れてくれるならこんなのゴミみたいなもんだし!』

 

ゴミ…?

 

あたしと澄香は申し訳ないって気持ちもあるにはあったんだけど、これでタカくんのチェキが手に入るんだと興奮していた。

 

『じゃ…ハァハァ…あたしから…ハァハァ…ゴクリ』

 

あたしは三咲ちゃんのご厚意に甘えてチェキを選ぼうとしたけど直前で思い止まった。

 

『…澄香から選んで』

 

『え?わ、私から?梓から選んでくれたんでええよ?』

 

あたしは思った。

澄香も絶対タカくんの事が好きだもん。

だからあたしから選ぶのはよくない。だって…。

 

タカくんと出会ったのは時系列的に考えると澄香の方が早いんだからと。

 

『あ、あたしさ?クジ運だけらいいやん?だから澄香に…先に選んで欲しいって…』

 

『は?クジ運いいとか初めて聞いたけど?商店街の福引でも梓はいつもポケットティッシュやったやん?あん時私は沖縄温泉旅行当てたし、私の方がクジ運よくない?』

 

『そ、それでも…さ?』

 

『梓…?』

 

『だから…澄香が先に選んで。残り物には福があるって言うやん?あたしは残り物に賭ける!』

 

『梓…もう、ほんまにアホやな…』

 

澄香はあたしの肩に手を回して来て…。

 

『私とTAKAが先に会ってたとか、そんな事で気を遣わないでよ。余計にさ。梓が本気でTAKAの事好きなんやなって思わされちゃったじゃん』

 

『澄香…』

 

『TAKAが梓と出会った時にお酒を持ってたんやったら、確かに私の方が早く会ってたのかもだけどさ』

 

澄香はあたしの方を真っ直ぐ見てこう言った。

 

『先に会ったとかどうとか関係ないよ。

私もTAKAに出会って恋をした。梓もTAKAに出会って恋をした。これから先はどうなるかもわかんない。だから、私も梓も今の気持ちを大事にしようよ』

 

『澄香…』

 

『もしかしたら私が他に好きな人が出来るかもしれへんし、TAKAとはもう会える事はないかもしれへん。それにずっと私達がTAKAを好きでもさ?TAKAは私達のどっちを選ぶのか、他の女の子を選ぶのかもわからへんやん。だから…私に遠慮なんかせんといて?』

 

『澄香…(うるっ』

 

『あ!あの!どっちからでもいいから早く選んで!2人の前にチェキとはいえ差し出してる訳だし!私もずっと手をあげっぱなしでしんどいし!』

 

そんな話をその時に澄香としたんだけど、結局、先にタカくんソロのチェキは澄香に選んでもらって、BREEZEのチェキはあたしが選ぶという事で話は纏まった。

 

 

 

「ふぅん…それで?

先輩のサイン付きソロ写真はどっちが手に入れたの?」

 

「あ、あはは、タカくんのソロチェキのサイン付きは澄香が引き当てたよ」

 

「あ、澄香お姉ちゃんが当てたんだ?」

 

「で、でも、BREEZEメンバーのサイン付きチェキはあたしが…」

 

「う~ん…澄香お姉ちゃんにはそのチェキ頂戴って言いにくいよね…」

 

なっちゃん?あたしが引き当ててたとしてもさすがにあげないよ?

 

「あ、でもそれで何でバンドやろうって事に?

今までの話だと梓お姉ちゃんと澄香お姉ちゃんが先輩を好きになったきっかけ話じゃない?」

 

う、た、確かにここまでの話はそんな感じだけど…。

 

「ぶっちゃけ梓お姉ちゃんも澄香お姉ちゃんも、先輩の事が好きだったのはみんな知ってるしさ?そこら辺の話はもうお腹いっぱいなんだけど?……あんま昔の聞かされると諦めなきゃいけないかな?とかも思っちゃうし…」

 

なっちゃん…。やっぱりなっちゃんもなんだね…。

 

「そ、それはこれからだよこれから!」

 

なっちゃんもりっちゃんもも奈緒ちゃんも失敗してるからなぁ。昔のあたしと澄香みたいに…。

 

あ、それより続きを話して挽回しなきゃ。

 

あたし達はその後、三咲ちゃんと連絡先の交換をして、帰宅することにした。

家に帰るまでずっと澄香とライブの…音楽の話をしてた。

 

もちろんタカくん達BREEZEの話だけじゃなくて、氷川さんや香保さん、雨宮さんの話もね。

 

『あ、もう澄香の家に着いちゃった』

 

『ほんまや…話に夢中になりすぎてあっという間やったね』

 

本当に楽しくて、学校の授業とかあんなに長く感じるのに、今日のライブは一瞬の出来事だったかのような感覚だった。

 

『ん?梓…?帰らへんの?』

 

『え?いや、帰るよ?何を言ってるの澄香は』

 

『バイク…エンジンもかけずに押してるからさ?』

 

『あ、いや、考え事してたからさ?

考え事しながらバイク乗るとか危ないやん?』

 

『そりゃそうやろけど…』

 

あたしがその時ずっと考えていた事、それを澄香に言うべきかどうか。

"それ"を言ってしまったら後戻りは出来ないし、澄香に断られてしまったらどうする事も今のあたしには出来ない。

 

そして何より、今まで音楽に対して思ってきた事と、お父さんの事を考えていたら、あたし自身がどうしていきたいのかがわからないままでいた。

 

 

-ドルン、ドルンドルン…ドルルル……

 

 

『よし、帰るよ』

 

『え?あ、うん…』

 

あたしはバイクのエンジンをかけてヘルメットを被り、澄香に言えた事は…

 

『また明後日学校でな。今日はゆっくり休んでね』

 

それだけだった。

 

『あ…うん、梓もな。おやすみ』

 

『うん、おやすみ』

 

 

あたしはそのままバイクで…

 

 

家まで帰ってきたはずなんだけどね。

その日もいつの間にか布団の中に居たんだよね…。

 

あたしがその日想った事。

 

音楽をもっと知りたい。

お母さんやおっちゃんがやっていた音楽の話を聞きたい。

お父さんの事を聞きたい。

ギターをもう1度弾いてみたい。

澄香とまたセッションしたい。

澄香と一緒にバンドをやってみたい。

思いっきりステージに立って歌ってみたい。

……でもお母さんとあたしを捨てた音楽なんか大嫌い。

 

そんな事ばっかり頭の中でループして、モヤモヤとか…何て言えばいいんだろう。色々な事が苦しくて悲しくて、そして…ドキドキもしていた。

 

『考えてたって…考えてるだけなんて…答えなんか出る訳ないのに…』

 

そうして目を閉じても、あたしには答えなんか出なかった。でも、その時にふとタカくん達BREEZEの事を思い出した。

 

『……あたしがバンドを始めてBREEZEとデュエルする事とか出来たら…タカくんがあたしに惚れて結婚とかもワンチャンあるんじゃね?』

 

その考えに至ったあたしは……動いた。

 

 

「最後の先輩が梓お姉ちゃんに惚れて~…みたいな話がなかったら私も感動したかもね」

 

おおう、やっぱりなっちゃんの視線が痛いぜ。

 

「で、でもさ、きっかけなんてそんなもんじゃない?

悩んでうじうじしてたって答えなんか出ないしさ?それもあたしが決心するひとつのきっかけみたいな…」

 

「はぁ…もう先輩の話はいいよ梓お姉ちゃん。それより続き聞かせて?」

 

ああ…はい。そうですね…すみません。

続きを話させて頂きます…。

 

「先輩は私が可愛くなったら結婚してくれるって約束してくれてるんだし」

 

……なっちゃん?

 

 

 

 

『梓ぁぁぁぁぁ!!!!』

 

『うわ、びっくりした。龍ちゃんどうしたの?梓はまだ寝てるんちゃうかな?』

 

『なんやて!?

クッ…あのクソガキ、夕べ俺の部屋に矢文を飛ばしてきおってな…』

 

『矢文…?』

 

『って…遙那!?お前…起きてて大丈夫なんか?』

 

『いや、いつもいつも寝てられへんしね。今日は調子いいから』

 

『調子いいって言っても…』

 

『ほんま大丈夫やって!ほら!今からブレイクダンスするから見てみ!』

 

『いや!調子乗り過ぎやろ無理すんなって!』

 

『大丈夫大丈夫!ほらいくで!せ~の…ゲホッ、ゲホッゲホッ…グハァ!」

 

『お前喀血してんじゃねぇか!頼むから大人しく寝て!ほんま頼むから!』

 

『くそっ…ゲホッゲホッ…私がこんな身体じゃなかったらブレイクダンスのひとつやふたつ…』

 

『そんな身体やから寝てろ言うてんねやろが!』

 

お母さんが無理をして喀血をする事は当時は日常茶飯事だった。だから毎日あたしが家事をしてたんだけど…。

 

まぁそれはいいとして。

 

あたしはその前の日の夜中に、おっちゃんの部屋にめがけて矢文を放っていた。今日、あたしの家に来てほしいと…。

 

『梓が…?ゲホッ…ゲホッ、龍ちゃんを家に呼ぶのは珍しいね。ゲホッ…ゲホッ…カハァ!』

 

『そうやな…。あいつはどっちかと言うと渚に会いに俺の家に来る方が多いしな。ってお前また喀血したじゃん!ほんまお願いやから寝て!!』

 

『大丈夫やって。龍ちゃんも梓もいつも心配しす…ゴフッ…ゴフッ…ガハァ!』

 

『ぎゃあああああ!血が!血が飛んできた!!ほんま怖いんやけど!梓!梓早く来て!そして救急車も呼んで!!』

 

あたしはその時、お母さんの居る部屋の前に居た。

おっちゃんも来てくれている。

 

いつも通り楽しい時間を過ごしてるようだった。

 

あたしは今からおっちゃんとお母さんに聞きたい事、そして決意した事を聞いてもらいたいと思っていた。

 

ふふふ。初めてだったよ。あんなに緊張したのは。

 

だけどこのままじゃ何も変わらないから…。あたしは意を決して部屋の扉を開けた。

 

『お母さん…おはよ。おっちゃんも来てくれてありがとう』

 

『あ、あ…ずさ…龍ちゃ…んも呼んで一体な…に…を…

って!あんたその頭!?』

 

『梓!もうヤバい!マジで遙那の命がヤバい!早く救ちゃんを!救急車を呼んで!!

…って!お前その頭!?』

 

『ん、何か変…かな?』

 

あたしは長かった髪をバッサリと切り、髪の色も金髪から地毛の色に戻していた。

自分でやったもんだから、ちょっと変な感じになっちゃってたけど…。

 

『ぶは!ぶはははははは!!ワカメちゃんや!ワカメちゃんがおる!もしくはちびまる子ちゃん!ぶはははは!』

 

バッサリいきすぎていた。

 

『龍ちゃんうるさい。しばくよ?梓、あんたその髪どうしたの?』

 

『まぁ…思うとこあってさ…』

 

『ぶははははははは!おま、お前、俺を笑い殺すつもりで俺を呼んだんか!?ぶははははは!』

 

おっちゃんは笑い過ぎだった。

 

『龍ちゃんうるさい』

 

-ドゴッ

 

『グホッ…え…?俺…殴られた…?』

 

『梓、ほんまにどうしたの?』

 

『うん。まぁ自分で切ったからさ。変かも知れへんけど。それより、お母さんとおっちゃんに聞きたい事があります』

 

あたしはその場で正座して、お母さんとおっちゃんの方を真っ直ぐに見た。

 

『梓が私達に聞きたい事…?何?』

 

『お前のその頭の感想か?今はすまん、笑いしか出ない』

 

『龍ちゃんうるさいよ。ほんまにしばくよ?』

 

『お母さんとおっちゃんがやっていたバンドの事!

あたしのお父さんの事…そして、レガリアの事を教えて下さい!』

 

あたしはお母さんとおっちゃんに頭を下げてお願いした。

あたしは氷川さんや香保さん、雨宮さんやBREEZEのライブに行って音楽が好きになっていた。だけど、お母さんとあたしを捨てたお父さんが熱狂していた音楽なんてとも思っていた。

 

だから今、お母さんとおっちゃんから音楽の事を、お父さんの事を、先日話していたレガリアってやつの事を聞きたいと思っていた。

 

『私と龍ちゃんがやっていたバンドの事…か。それよりレガリア事まで知ってるなんて…』

 

『梓…どういう風の吹き回しや?お前は音楽を…父親の事を嫌ってたやろ?何で急に…』

 

『うん、あたし…実は昨日…ライブってのに行ってきた』

 

『ライブ…?』

 

『ライブって…お前…』

 

『音楽なんて嫌い。今もそう思ってる所はある。

だけど昨日聞いた音楽は…だからお母さんとおっちゃんの話を…お父さんの事を聞きたいって思ったんだ』

 

この話を聞いたらあたしの中で何かが変わるかも知れない。いいようにも悪いようにも。

 

でも、あたしは自分の中でずっとモヤモヤしているよりはそうしなきゃいけないって思ったんだよ。

 

『梓…』

 

『遙那。いい機会や。梓に聞かせたろう。俺達の話と海原と…あの忌々しいレガリア戦争の事を…』

 

 

 

そしてお母さんから聞かされたレガリア戦争は…。

あたしが想像してたよりもずっと凄惨で…でも、あたしが音楽をやろうと決意するには十分な話だった。

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