「だから、貴さんにお願いです。私と一緒にバンド組んで下さい」
「奈緒ちゃん…俺は…」
「ダメ…ですか?」
「やるからには武道館目指すぞ」
「へ?」
「で、奈緒ちゃんは何の楽器出来るの?」
「あー…すみません。実は何も楽器出来ません」
「は?」
「すみません…」
「そか、じゃあ聞き方変えるか。何の楽器やりたいの?」
「個人的はギターとかベースがいいな…って思ってます。ドラムもかっこいいんで捨てがたいのですが…キーボードもうまく弾けたらかっこいいですよね!」
「全部かよ。う~ん、ギターとドラムなら何とかなるかも?」
「え?」
「ギターとドラムなら心当たりあるからな。だからやるならベースとかキーボードとか?ダブルギターもありだけどな」
「私!妹がいるんですけどベースやってるんです!だからベースは妹に教えてもらえると思うのでベースならやれそうです」
「わかった。じゃあ、ベースは任せるな。ギターとドラムは知り合いにあたってみるわ…」
「じゃあ…あの一緒にバンドしてくれるんですか?」
「あー…うん、まぁ、あれだ……バンドやろうぜ!」
「は、はい!」
「ねぇ、私もいるんだけど?私空気?」
そう言って奈緒ちゃんは嬉しそうに笑って泣いた。まどかはスルーしておいた。
だから俺がバンドをやるって決めた事は良かったとは思ってる。だが……。
何で俺あんな事言っちゃったかなぁー!?
ギターとドラムなら心当たりあるってなんだよ!あるけどねーよ!!
あいつらが今更バンドなんかやるわけねーじゃん!
しかもそのうち2人はBREEZEのメンバーだし!なんだよ。俺何繋り?バレるじゃん!BREEZEのTAKAさんだってバレるじゃん!ほんとバカじゃねーの!?
「ハァ…ハァ…僕疲れたよパトラッシュ……。あ、ラーメン食べたい。明日の昼はラーメン食べよ」
とりあえず明日の昼はラーメン食っとけば何とかなるか?いや、ならねぇよ。
一頻り悩んで悶えた後、俺は寝た。
明日は明日の風が吹くだろ……
「おはようございますー。あ、先輩、今日もぐったり死んでますね?」
「あぁ?水瀬か。おはようございますー。もうね。昨日のライブが最高過ぎてね?」
「あー、可愛い女の子2人も連れてましたもんね。奈緒と友達になれてラッキーでした」
「え?何?お前ら友達になったの?」
「ええ、先輩その時マイリーのポスターに夢中でしたしね」
「そか、奈緒ちゃんには俺がBREEZEのTAKAって事内緒にしててね。30円あげるから」
「300円なら考えますよ?ってか何でですか?」
「高いな。50円にして。あれだ。BREEZEのTAKAの大ファンなんだとよ」
「なるほど。それならしょうがないですね。晩御飯飲み放題付きで手を打ちます」
「それしょうがないって思ってないよな?値上りしてるし」
「ほんとはそう言いたいとこなんですけどね。私今2人で住んでますから。だから2人分でお願いします」
「いや、値上ってるよ?算数出来る?」
水瀬とそんなバカな会話から1日の仕事が始まった。
「やっと昼か。水瀬どうする?俺ラーメン食べに行くけど?」
「ふっふっふ、私には今日もお弁当があるのです!」
ああ、そういや同居してる彼女
「良かったな。リア充爆発したらええねん。俺にキラークイーンがあればなぁ…」
「私にキングクリムゾンがあったら先輩の昼休みまるまる時間飛ばしますよ?」
何それ怖い。そんな事されたら僕死んじゃう。
そして水瀬が弁当箱を開けると、そこには500円玉と『渚ごめん!寝坊しちゃった!』って可愛いイラスト入りの紙切れが入っていた。なんてベタな展開なんだろう。
「先輩…私もラーメンご一緒します…」
「はいはい」
そしてラーメン屋。
「あ、先輩。今朝の話の続きですけど」
「奢らないよ?」
「いや、私もバンド始めたって話したじゃないですか?」
「ああ、メンバー揃ったん?」
「いえ、まだなんですけど」
なるほど。この時点でまだメンバー揃ってないのか。そしたら時系列的には3章でもメンバー揃わないな。やだメタ発言でネタバレしちゃった。
「うちのベースの子もBREEZEのボーカルの大ファンなんですよ。だから私達の前でも先輩がBREEZEのTAKAっての内緒にしてくれません?」
「え?そうなの?可愛い?」
「ヤバいくらい可愛いです!そしてかっこいい女の子です!」
「いつご飯行こうか?お兄さん奢っちゃう」
「え?ほんとですか?ありがとうございます。いつでもいいですよ?そのベースの子は紹介しませんけど」
「いや、なんでだよ」
「私もバンドを始めて思ったんです。憧れは憧れのままの方がいいって。ほら、思い出って美化されるものだから」
「いい事言ってる風を装ってるけど全然そんな事ないからね?そんな素敵な笑顔で言う言葉じゃないからね?」
「笑顔が素敵とか照れますねー」
「はいはい。午後からも仕事頑張ろうね」
今日も無事にお仕事終了!
ジャンプ買って帰ろう。
月曜日の楽しみなんてジャンプくらいしかないからな。
あ、胸キュンスカッとを観て世の中の不条理に対して憎しみの炎を燃やすのもいいかも知れん。やだ、俺の人生超充実。
そしてスマホを開く。
とりあえず連絡してみるか。
まずはトシキからだな…。
そして俺はBREEZE時代のギターを担当していた
『お疲れ様ですー。
今日とか暇すか?19時くらいに家の前で少しお話しません?』
トシキとは小学校の頃からの仲だが、何故かLINEとかメールでは敬語で話してる。なんでだろうな…。
--ライ~ン
『大丈夫ですよ~。お待ちしてますね(^o^)』
『ならよろしくですー!家の前に着いたらワンコしますねU^ェ^U』
--ライ~ン
『は~い』
そして俺は帰宅する前にトシキの家に向かった。玄関ではすでにトシキが待っていた。
「おつかれ~。家の前に着いたらワンコするって言ったのに」
「いやー、はーちゃんは19時に来るって言ったら10分前にはいつも来るしさ。で、今日はどしたん?」
「ああ、超言いづらいんだけどな」
「うん?」
「もっかい俺とバンドやらね?」
「うん、無理」
「そうか、ならギターの練習しといてくれ。またバンドの練習日とか連絡する」
「え?俺無理って言ったよ!?」
チッ、押しきれなかったか…
「てか、今更でしょ?なんでバンド?」
「まぁ、色々あってな。いつもバンドもっかいやりたいって言ってたろ?それを実行しようと思って」
「う~ん、俺15年前から一切ギター触ってないしな…。今は三線にハマッてるし…」
ああ、そういや三線やり始めたって去年くらい言ってたっけか。
じーちゃんの実家から出てきたんだっけ…
「だから、ごめん。三線教室に通って三線をやってる時が、今の俺の音楽の時間だから」
やれやれ、気が進まないが…
許せ我が友よ。
「俺、好きな人が出来た」
「え?」
「その子の事が好きで結婚したいと思ってる。その子はバンドやってるから俺も同じ土俵に立ちたいと思ったんだ。だから、バンドがやりたい」
「はーちゃんの…恋の為……」
まぁ、嘘ではないよな。
マイリーと結婚したいし、バンドやればキュアトロとデュエルする事もあるかもしれん。
そしたらマイリーとお近づきになれる可能性もある。あ、これマイリーと結婚出来るんじゃね?
俺なんで今までバンドやらなかったんだろう?
「頼む!俺が結婚する為にはバンドが必要なんだ!!」
俺はさっきより力を込めてトシキに頼んでいた。
「はーちゃんの結婚の為なら俺も…力になりたいけど…」
頼む。トシキ、俺とマイリーの為に…。
「考えとくよ…」
「ああ、頼むな。無理はせんでもいいけど」
俺も帰って考えよう。
マイリーとの明るい未来を。
「はーちゃん、他のメンバーはどうするの?」
「ああ、一応明日は英治に話しに行こうと思ってる」
英治とは
俺達BREEZEのドラムを担当していた男だ。妻子持ちだしかなり可能性低いんだよなぁ……
「宮ちゃんは?宮ちゃんはどうするの?」
「誰だそれ?」
「
「宮野?拓斗?」
「まだ連絡取れない?」
「ああ、どこで何してんだろな」
「やっぱり覚えてるじゃん」
ぐっ……誘導尋問とはやるじゃねぇか。
BREEZEのベースの宮野 拓斗。
俺達の解散後あいつは消息不明。
元々音楽は学生期間の思い出作りってバンドをやってたが、そのままずるずると俺達とBREEZEを続けていた。
でも、アーヴァルからドリーミン・ギグの話が来た時。
このドリーミン・ギグを自分の引退ライブにしたいって意気込んでた。
その直前に俺が喉をやらかしてドリーミン・ギグには参加出来ず、あいつのそんな想いは実現する事はなかった。
俺の事を恨んでてもしょうがないやつの一人だ。
まぁ、闇討ちでもしてきたら返り討ちにしてやるけどな。どうしよう。15年も経つのに怖くなってきた夜出歩くのは控えよう。
てか、ドリーミン・ギグってアーヴァルの引退ライブじゃん?
俺らレベルのバンドのベースが、あんな所で引退して『普通の男の子になりま~す』とか言ってもピエロだったからね?
拓斗、俺に感謝しろよ。だから闇討ちはやめて下さい。
「はーちゃん、どうしたの?」
「ああ、拓斗の事をな…」
闇討ちされるかもってビビってただけだけど。
「そか」
「じゃあ、俺は行くわ。今日はありがとうな」
「うん、気を付けてね!明日はえーちゃんによろしくね」
「おう、おやすみ」
そして俺は帰宅した。
俺もしっかり考えないとな。
マイリーとの事…。俺は深夜までマイリーとの明るい未来を妄想していた。
「やっとお昼だー!今日はちゃんと志保のお弁当もあるしね!幸せ!」
はいはい、百合百合。
「水瀬は元気だな?」
「先輩は今日もめちゃ眠そうですね?いつも眠そうな目をしてるのに、今日は一段と眠そうな目が冴え渡ってます」
「何それ?眠そうなの?冴えてるの?どっち?日本語合ってる?」
「今日もまたラーメンですか?太りますよ?彼女出来ませんよ?」
ふ、こいつめ。甘いな。俺は昨日は深夜までマイリールートをどう進めるかを考えていたから寝不足なのだ。もう結納直前までいっている。彼女どころか嫁と言っても過言ではあるまい。超有意義な時間を過ごしたものだ。
「大丈夫だ。俺はマイリーと結婚するから」
「は?何言ってるんですか?マイリーと結婚なんかさせません。全力で阻止します」
「は?何?ヤキモチ?なら水瀬がマイリーの代わりに俺と結婚してくれる?」
「………考えときます」
え?マジで?考えてくれんの?
「え?考えて…くれんの?」
「はい。先輩をこの世から抹殺する方法を……社会的に」
何それ怖い。社会的に抹殺って何されんの?
なんで俺のまわりの女の子みんなこんな怖い事さらっと笑顔で言うの?
俺がドMだったら悦んでるレベル。
「ラーメン食ってくるわ」
「行ってらっしゃ~い」
さて、今日も定時にお仕事終了。
まだ火曜日か。早く土曜日にならないかな…。
今日は英治んとこ行かなきゃな。
はぁー!気が重い!気が進まない!
帰りたいよ!マジで!
そんなこんなしてるとライブハウス『ファントム』の前に着いた。
ここは英治が経営してるライブハウスだ。
元々は英治の家の工場の倉庫の1つだったここは、俺達がいつもスタジオ変わりに練習する溜り場だった。
「いらっしゃ~い。あれ?タカ?」
この子は英治の娘の
もう……いや、年齢は伏せておこう。
なんでって?
英治の娘って事は、俺もそれくらいの娘が居てもいいという歳になる。
それは俺の年齢がバレてしまうとほぼ同意だろう。
つまり初音ちゃんの年齢は隠し通さねばならないのである。
「今日はどしたん?私にプレステ4でもプレゼントしたくなった?」
「いや、英治いるか?ちょっと話があってな」
「お父さんなら厨房だよ?」
「あー、今日は忙しい?なら出直そうか?」
「ううん、今日はお客さんも少ないし厨房でも暇してるんじゃない?」
「そんで初音ちゃんは受付の手伝いか?偉いな」
そう言って初音ちゃんの頭を撫でる。
こうやって初音ちゃんを子供扱いする事で読者に初音ちゃんは幼い年齢と錯覚させる技法である。やだメタ発言多いわ。
「お触りは1万円になります」
とんだぼったくりライブハウスに入ってしまったものだ。
昔はタカお兄ちゃんのお嫁さんになるとか言って可愛かったのに。
おっと、昔とか言っちゃったよ。
「じゃあ、厨房に行くわ。すぐ帰るけどな」
「入場料は5,000円になります」
「わかった。ここで待たせてもらうな」
5,000円なんて払えるわけがない。
ましてや知り合いのおっさんに会う為に5,000円とか絶対払いたくもない。
「で?お父さんに何の用?とうとう娘さんをくださいって挨拶に来たの?」
「もしそうだったらどうする?」
「ん~…タカだとあんまり遺産も期待できないよね…?」
こわっ!ほんま怖いわ!
何なの!?俺のまわりの女の子はほんとなんでこうなの!?
「いや、実は仮想通貨で大儲けしたんだけど?」
「私ね、実はずっとタカの事が好きだったの」
「その仮想通貨の財産も大暴落して今はもうないけどな?」
「ごめん、やっぱりタカとは結婚出来ないや」
「はいはい、そうですか」
「あれ?珍しいなタカか?」
初音ちゃんとそんなやり取りをしてると英治が来た。
「おう、久しぶりだな。ちょっと話……ってか相談があってな」
「初音をもらいにきたのか?」
「なんでお前ら親子揃ってそう思うの?」
「だってお前、昔初音に結婚してやるって言ってたろ?」
「いやいやいや、お前いつの話してんの?」
「ひどい!嘘だったの!?結婚してやるって言って何度も何度も私の事抱いたくせに!」
「いや、何言ってんの!?ほんと何言ってんの!?抱いたって、ただ高い高いしてあげたり歩くの疲れたとか言うから抱っこしてあげてただけだよね!?」
「最低だなお前」
「頼む。お願いだからちゃんと話させてくれ」
そして俺はバンドの事を話した
「アホか……」
やっぱそう思うよな…
「俺もライブハウスの経営者だぞ?Cure2tronの名前くらい知ってる。そんなバンドのボーカルと結婚出来るわけないだろ?」
あ、そっち?
「お父さんお父さん。誰その女?」
「それは決定事項だからいい。ドラムやってくんねぇか?」
「今でもたまに叩いてるけどな。お前のバンドに入った子にドラムを教えてやってくれ。ってんじゃダメなのか?」
やっぱりダメか…
まぁ、そんな気はしてたけどな
「お父さん?だから誰その女」
「お前、それより喉は大丈夫なのか?」
「まぁ、大丈夫だろ。カラオケ程度しかしてないけど声が出なくなるって事はもうないしな」
「カラオケとライブは違う。お前が一番わかってんだろ」
「…」
「ぐれるよ?盗んだバイクで走り出すよ?」
「初音。大事な話だ。うるさいから黙ってろ」
「はい…」
「お前、初音ちゃんかわいそうだろ?」
だから英治にはあんまり話したくなかったんだよな…バカのくせに俺らに気ぃばっか遣いやがって
「お前とトシキ程じゃねぇよ。俺が人に気を遣うようになったのはお前らのせいだ」
「何なの?お前エスパー?人の心読むなよ」
「それもお前らの影響だな」
そう言って英治は笑った。
「それに、今お前が一緒にバンドをやりたいドラマーは俺じゃないだろ」
「あ?何言ってんのお前」
「そういうのわかっちまうのもお前らの影響だよ」
「……そか。……あれだ。俺の喉の事なら大丈夫だ。問題ねぇよ」
「喉だけじゃねぇだろ。クリムゾンの事もあんだろ。だからあいつにはドラムを頼めないのか?」
クリムゾングループ。
最近また日本にも進出して来たらしい。
………バンドを『また』やるならいつかは決着も付けないとな。
「心配すんな!俺だよ?タカさんだよ?なんか問題あるか?」
そう言って俺は英治に笑ってみせた。
「そうだな。お前は昔からそうだな。だから…頼んだぞ。三咲と初音の事」
「お前、自分の嫁とか娘とかバカに託すなよ。男なら守りきってみせろ」
「バカ以外には任せられねぇからな」
「時間取らせて悪かったな。ドラム教えてくれるって件と…良かったらここでライブやらせてくれ。無料で」
「気にすんな。俺こそ変な話して悪かったな。バンドの事は…悪い」
「お互い様だろ。それにお前と話して本当にやりたい事も決まった。あと……さっきの話だけどな」
「あ?無料じゃ無理だけど10%オフくらいならライブやらせてやるぜ?」
「守るよ。三咲も初音ちゃんも。お前もトシキもな」
「……拓斗は?」
「拓斗?誰それ?」
「あいつはもう守ってやんねぇのか?」
「俺は神でもなんでもねぇよ。俺の手の届かないとこに居るやつは守れねぇよ」
「噂で聞いただけだけどな」
「あ?」
英治にそう言われて嫌な予感がした。
「あいつを見たってバンドの話を聞いた」
息が止まりそうになった。
心臓が何かに鷲掴みされたような。
そんな錯覚。
「今あいつは…………………」
血の気が引く。目の前が真っ暗になる。
そんな言葉がピッタリと収まるような。
俺は…いつか自分の手で拓斗を……
他の誰でもない。俺が…………きゃいけない
。
まだ水曜日だよ。中日だよ。
トシキは考えてくれるとは言ってたけど…英治は無理だもんな…。
さて、奈緒ちゃんになんて言おうか?
ドラム……もう一人心当たりあるっちゃある。俺がドラムを本当にやって欲しいのはあいつだ…でもあいつは…。
そんな事を考えてたら水曜日も定時上りでした。
何この1日の流れの早さ!
ほぼ10行!現実もこれくらい早く時が流れてくれていいのよ?仕事の日に限るが!
昨日、英治と話をして…俺達を思い出してた。あの時はほんとバカで…怖いもんなんか何もなかったもんな。
奈緒ちゃんはBREEZEのTAKAじゃなく、今の俺とバンドをしたいと言ってくれた。でも俺は…BREEZEのTAKAなんだよな。
俺がやりたいのはBREEZEの復活じゃない。
BREEZEのTAKA、BREEZEのTOSHIKI、BREEZEのEIJI。
それじゃないんだ。俺がやりたいのは。
だから俺が今連絡するのは奈緒ちゃんじゃない。
木曜日も終わった!明日は金曜日だキャッホー!!
明日の夜は奈緒ちゃんにドラムを紹介するからとご飯に行く約束を取り付けている。
だから今日はあいつと会う約束をしていた。ドラムをやってもらう為に。
「だ~れだ!?」
そんな言葉と共に俺は後ろからものすごい衝撃を受けた。背骨が折れたかと思った……。
こんなイタズラする子猫ちゃんは一人しか知らないぞぅ?いや、やっぱいっぱいいるわ。
「おう、呼び出して悪かったな、まどか」
「タカから女の子に会いたいとか言うの珍しいよね?私に惚れた?」
「石油王じゃねぇけど?」
「だったら惚れられても困るかな!」
俺はまどかを呼び出していた。
「あんま時間は取らせねぇ。頼みたい事があってな」
「う~……ん、どうしてもっていうなら考えなくはないけど…やっぱ今の関係でタカとHとか無理かな。ごめんね」
お前ほんと何なの?
この状況で俺がそんなの頼むと思ってたの? 今の関係でってどんな関係ならいいんですかね?
「俺がそんなん頼むか。どうしても俺に頼ませたいなら俺を惚れさせてからにしてもらおうか」
「じゃあ何?他に私に頼みそうな事って思い付かないんだけど?」
「お前俺の事どんな目で見てんの?アホなの?」
「だから何?タカの本気のお願いなら聞くよ」
ふぅ……緊張する。
まさかまどかにこんな事頼む時が来るとはな…。
「俺の本気のお願いだ。俺達のバンドのドラムをやってくれ」
「…本気で言ってんだ?」
「ああ、頼む」
「英治がダメだったから?私?」
「お前には嘘とか言いたくないしな。だから言っておく。確かにトシキにも英治にもバンドやってくれとは頼んだ。でもダメだったからとかじゃねぇよ」
「なら何で奈緒と居た時に私にドラムをやってくれって言わなかったの?」
「あの時に頼んでたら、『ああ、タカにバンドやれって言っちゃったしな』とか思って責任感から受け入れてただろ?」
「うん、多分受けてただろうね」
「そんな責任感からバンドやっても楽しくねぇだろ。俺がやりたいのはみんなで楽しくやれるバンドだからな」
「うん…」
「でも、こないだ英治と話してな。思ったんだよ。今の俺がやりたい音と一緒にバンドやらないと俺自身が楽しくないんじゃないかってな。だからまどかに頼もうと思った」
「そっか。断ったらどうする?」
「理由は?」
「ん……なんとなく嫌だから」
「そんな理由なら何度でもまた頼むだけだ。俺はお前とやりたい」
「ん~…どうしよっかな?タカはさ。私のドラムの音…………好きなの?」
「ああ、好きだ」
「そんなに私としたい?」
「ああ、俺はお前とやりたい。お前じゃなきゃダメだ」
「そっか、なら……いいよ」
「ほんとか?」
「本気のお願いかどうかは長い付き合いだし顔を見ればわかるしね」
「ありがとうな」
「大学卒業してからはしてないから、上手く出来ないかもしれないけど、なんとかやってみるよ」
「大丈夫だ、俺もサポートしてやる」
「うん、よろしくね」
「あ、それで早速明日なんだけどな」
うし!金曜日も終わり!
今から飲み会だぜ!キャッホー!
そんなこんなで俺はいつもの駅前で奈緒ちゃんとまどかを待っていた。
おかしいな。こないだは奈緒ちゃんめちゃ早く来てたのに…俺が誘ったら遅刻する病にでもかかってるの?
そしてそんなこんなって言葉便利だな。
そんな事を考えてると……
「すみませーん!
はぁ…はぁ……。遅れちゃいました…」
「うん、めちゃデジャビュだわ。このやり取りこないだやったわ」
「はい?それよりまどか先輩はまだ来てないんですか?」
え?なんで奈緒ちゃんがまどかが来るって知ってんの?
「ごめんごめん、遅れちゃった!待たせちゃった?」
「まどか先輩遅いです!」
え?奈緒ちゃんも今来たとこだよね?
「いや、ほんとごめん!本当は待ち合わせ時間前には着いてたんだけどさ」
は?ならすぐ来いよ。
俺実は二人にすっぽかされちゃったかと思って不安だったじゃん
「もう!ならすぐに来て下さいよー!」
え?奈緒ちゃんがそれ言うの?
それどっちかというと俺の台詞だよ?
「それがね、海より深い理由があんのよ。まじで」
「しょうがないです。その理由に寄っては許してあげます」
だから奈緒ちゃんの台詞じゃないからね?
「それがさ。待ち合わせにちゃんと間に合うように来てタカに声をかけようとしたその時にね。タカからの死角の所。ちょうどあの辺かな」
そう言ってまどかは奈緒ちゃんの後ろの方を指さした。
確かにあそこなら俺からは死角になってるな。
「その辺りで可愛い女の子がさ?一生懸命メイク直したりコンパクトで前髪チェックしてんの。それ見てたら笑えてきてさ。ついずっと眺めてたら遅刻しちゃった」
「は?そんなの見てて遅れたの?」
「それより貴さん、今日はどこのお店行きます?私お腹ペコペコです」
「んで、その後また笑えるのがね」
「まどか先輩。もういいです。遅刻とか誰にもあるものです。それよりご飯行きましょう。バンドのドラム引き受けてくれてありがとうございます」
「こっからが面白いとこなんだけど?」
「いえいえ!もう大丈夫です。お腹いっぱいです。それよりお腹空いたのでご飯食べたいです」
お腹空いてるの?いっぱいなの?どっち?
「てかさ、なんでまどかがドラムやってくれるって事奈緒ちゃんが知ってんの?昨日話したのか?」
いやん、サプライズ的な事考えてたのに僕恥ずかしい!
「え?まどか先輩から火曜日かな?の夜にLINEで、私達のバンドのドラムやる事になったからよろしく!って来ましたので。なのに貴さんからドラムやってくれる人紹介するからってLINE来て、この人サプライズでも狙ってるのかな?マジキモい。って思ってましたけど?」
いや、マジキモいのくだりいらなくないですかね?
って先にやっぱまどかが言ってたのか…
ん……火曜日の夜?
「奈緒ちゃん、まどかから火曜日の夜に聞いてたの?」
「はい?ちょっと待って下さいね。え~っと……」
そう言って奈緒ちゃんはスマホを確認している。
「はい!間違いなく火曜日です!」
1週間を振り返ってみるか。
月曜日はトシキに会いに行った。
火曜日は英治に会いに行った。
水曜日はまどかにちゃんと話さなきゃって悩んでた。
木曜日にまどかに話してバンドに入ってもらった。
金曜日は今日だ。
知ってるか?時系列って大事なんだぞ?
そう思ってまどかの方を見る。
「あはは、火曜の夜にさ。英治から連絡あってね。『タカがバンドのドラムをお前にやってもらいたいみたいだ。ドラムやる事断ってないのに断った扱いになっててワロタwww俺涙目うぇwwww』って」
火曜の夜を思い出す。
……………確かに直接断られてはないな。
「まぁ、タカは私の事大好きすぎるもんね!」
「は?何ですかそれ?どういう事です?貴さんはまどか先輩の事好きなんですか?片想いですか?貴さん、可哀相過ぎます」
「奈緒、これ聞いてみ?」
そう言ってまどかは何かを取り出した。
僕あれ見たことあるよ。ICレコーダーっていって会話とかを録音するやつだ。
どうしよう?嫌な予感しかしない。
『……好きなの?』
『ああ、好きだ』
『そんなに私としたい?』
『ああ、俺はお前とやりたい。お前じゃなきゃダメだ』
『そっか、なら……いいよ』
『ほんとか?』
『本気のお願いかどうかは長い付き合いだし顔を見ればわかるしね』
『ありがとうな』
『大学卒業してからはしてないから、上手く出来ないかもしれないけど、なんとかやってみるよ』
『大丈夫だ、俺もサポートしてやる』
『うん、よろしくね』
そこでICレコーダーの録音は終わった。
そして多分俺の人生も終わった。
「な、な、な、何ですかこれ!?2人はそういう関係だったですか!?不潔です!インモラルです!貴さん変態過ぎてキモいです!」
「あは、あはははははは」
「ま、まどか先輩も何を笑ってるんですか!?最低!2人共最低!!」
その後もずっと爆笑してるまどかを横に、なんとか奈緒ちゃんの誤解を説く事が出来た。
何で俺は奈緒ちゃんの誤解を説くのにこんな必死なのん?
そうして俺達のバンドにドラムが加わった。3章終わったのにメンバー揃わなかったよ!いや~ん!
「お、お話はわかりました。別に2人がそういう関係でもそういう事してても別にいいんですけどね!別に!」
「~~~」
まどかは声にならないくらいまだ爆笑している。窒息死したりしないかな?大丈夫かな?
「と、とりあえずですね!まどか先輩もバンドメンバーで、私もバンドメンバーです!」
「はい、そうですね」
「だ…だからですね……いつまでも私の事をちゃん付けで呼ぶのはおかしいと思うのです!だ、だから私も貴さんの事はタカって呼ぶので、私の事はな…奈緒って呼び捨てにして下しゃち」
あ、噛んだ
「か…噛んでるし……~~~(ジタバタ」
そんな感じで3章は幕を閉じるのである。
いつになったらバンドやれるんだろうな
俺ら……