バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第39話 バンドやりたい!

「そうしてあたしは、音楽を…バンドをやる事にした」

 

……またあたしのモノローグだよ!?

もう何回目!?あたしメインとかじゃなくちょい役だよね!?あ、タカくんが主人公だとしたらメインヒロインなのかもしれないけど!

 

だけど落ち着いて考えたらタカくんが主人公って事はない気がする。そもそもそれなら15年前に何とかなってるだろうし…。

 

もうわかってるかもしれないけど、あたしの名前は木原 梓。

今回もまだなっちゃんに過去話をしている。

 

「もぐもぐもぐ」

 

なっちゃんもあたしの話に飽きてきてるのか食事に夢中になってる気がする。

 

とりあえずちゃちゃっと続きを話していこうか…。

 

 

 

バンドをやると決めたあたしはおっちゃんにギターを教わり、お母さんから歌を教わる事にした。

 

小さい頃に1度ギターを習っていたといってもあたしにはブランクがある。歌も特別上手い訳でもなかったから、おっちゃんとお母さんの修行は大変なものだった。

 

 

まぁ、それはそれとして。

 

 

あたしはバンドをやる事を決めた。

あたしはギターをおっちゃんに教わる事に決めたけど、お母さんやタカくんと同じボーカルをやりたいと思っていた。

 

そしてあたしがバンドをやるなら、ベースは澄香にやってほしいと思っていた。

 

 

 

「行ってきまーす!……って梓!?また家の前で何やってんの!?バイクの上でそんな短いスカート穿いてあぐらかくなって言ったやん!?」

 

「あ、澄香やっと出てきた~。だから大丈夫やて。下に短パン穿いてるから」

 

あたしはまた澄香の家の前に来ていた。

あたしと一緒にバンドを。あたしのバンドのベースをやって欲しいと伝える為に。

 

「んで?どしたん?梓が休みの日に朝から…昨日今日とマジでびっくりなんやけど。学校の日もこれくらい早く来てくれたら…」

 

「そんな事よりさ。澄香お願いがあるの」

 

「そんな事って事じゃないんだけどね。お願いって何?嫌な予感しかしないんやけど」

 

「あたし、バンドやりたい。音楽はまだ嫌いって気持ちはあるけどさ。

あたし!バンドやりたい!」

 

あたしは澄香にバンドをやりたい想いを伝えた。

 

「え?ああ、そうなん?頑張って」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…え?話ってそんだけ?」

 

どうやら澄香にはあたしの想いは上手く伝わらなかったみたいだ。あたしはそう思っていた。

だから、ちょっと恥ずかしいと思ったけどもう少し踏み込んで話してみた。

 

「あたし!バンドやりたい!」

 

「え?いや、さっき聞いたよそれ。だから頑張ってって」

 

「違うの!」

 

「は?何が?」

 

「あたしはバンドをやる!だから!澄香があたしのバンドのベースをやって!澄香…あたしと…バンドやろうぜ!」

 

「え?ごめん、無理」

 

「…え?」

 

「え?」

 

「いや、だからあたしバンドやりたいって」

 

「うん、知ってる。そんで私に梓のバンドのベーシストになってって事やろ?」

 

「なんだよぅ~。びっくりさせんなよ~。わかってんじゃ~ん」

 

「いや、わかってるよ。わかってて断ったんやけど…」

 

「は?断った…?」

 

その時のあたしは澄香が何を言っているのかわからなかった。

 

「いや、だからね?澄香、バンドやろうぜ!」

 

「だから無理やて。私は大学も行きたいって思ってるし、バイトと学校の勉強と…頑張りたい事いっぱいあるんだよ。

梓はBREEZEと…タカとデュエルしたいって…本気でバンドやろうとしてんねやろ?本気のバンドは私はやれない。だから無理」

 

澄香は大学に行きたいって今はバイトを頑張りたいって言った。

バンドをやりたいっていうのは、あたしのワガママ。

澄香には澄香のやりたい事がある。

 

だから、あたしはバンドを頑張って、澄香は澄香の好きな事を頑張って欲しい。

 

今のあたしならそう思うんだろうけどね~。

 

「え?嫌だよ?」

 

「は?嫌って何?」

 

「あたしは!澄香と!バンドをやりたいの!

澄香が一緒じゃなきゃ嫌!澄香とバンドやりたい!!」

 

あたしは思わず叫んでしまった。

 

「ちょっ!梓!声でかいって!やめてほんま!

と、父さんと母さんには聞こえてへんやろな…」

 

お父さんとお母さん?

 

「梓、お願い。私は梓の事大事な友達やと思ってる。だから、梓がバンドやるなら応援したいとも思ってるよ」

 

「澄香…」

 

「でも私は大学に行きたいって思ってるし、父さんと母さんの事もあるから…バンドはやれない」

 

「澄香?澄香のお父さんとお母さんの事って…?もしかしてそれで…?」

 

「ごめん…もうここでこの話はしないで…。私、今からバイトやからさ…本当にごめん…」

 

そう言って澄香は自転車に乗ってバイトへ向かった。

バイトを頑張りたいとか大学行きたいとかなら、両立出来るように頑張ろうよ。って言いたかったけど、お父さんとお母さんの事を出されたらあたしは何も言えない。

 

澄香のお父さんにもお母さんにも何度も会った事はあるし色々とお世話になってるけど、あたしにも海原…お父さんの事や、魚座のレガリア使いだったお母さんの事もある。

澄香にもお父さんとお母さんの事で何か事情があるんなら…。

 

あたしは澄香にこれ以上は言えない…。

 

「澄香」

 

「…ん?」

 

「ごめんね…」

 

「…!?

あ、謝れると何か違うって言うか…!梓、ちゃんと…」

 

「うぇぇぇぇ~ん、ごめ、ごめんね澄香ぁぁぁ~。あたし澄香の事情も知らずにー!うわぁぁぁん」

 

「泣き出した!?ち、違っ…梓聞いて!」

 

「あ、バイト頑張ってね」

 

「え?あ、ああ…うん」

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

「梓待って!」

 

あたしはこれ以上澄香にワガママ言っちゃいけない。

そう思ってバイクで走った。しゃにむに走った。

 

 

 

 

そうしてあたしが辿り着いたのは神社だった。

あたし達の地元で夏祭りやってる神社あるでしょ?あそこだよ。

 

本当は澄香にバンドの事をOK貰って2人で来たかったんだけどね。

この神社には音楽に纏わる御守りがあるって、おっちゃんとお母さんに聞いてたから。

 

「よし、婆ちゃんおるかな?あたしはギターもやるけどボーカルやりたいし、声が良くなるとか歌が上手くなるご利益の御守りとかあればいいけど」

 

あたしは誰に言う訳でもなく、説明口調でそんな事を1人言いながら授与所へと向かった。

 

授与所に行くと引戸が閉まっていたので、力付くで開いて声を掛けた。

 

「婆ちゃ~ん?おる?木原んとこの梓やけど~」

 

あれ?返事がない?

 

「婆ちゃ~ん!御守り欲しいねんけど~?」

 

また返事がない?もしかしてお留守かな?

 

「婆ちゃ~ん!おらんの~?」

 

…やっぱり居ないのかな?

 

あたしがそう思って帰ろうとした時だった。

 

「ま!待って!いるよ!いるいる!」

 

授与所の奥から声が聞こえた。

でもこの声はあたしの知っている婆ちゃんの声じゃない。え?誰?

 

「おまっ!おまっ!おまっ……たせ!」

 

そう言って出てきたのはまだ小学生くらいの幼女だった。

 

「お待たせしちゃってごめんね!」

 

この子は婆ちゃんのお孫さんかな?

ふふ、可愛いなぁ。しっかり巫女服まで着ちゃって。

なっちゃんもいつかこんな感じに成長するんだろうなぁ~。

 

…あかん、これ絶対可愛いやつや。何とかなっちゃんをうちの子にする方法はないだろうか?

 

とかそんな事を考えていると…

 

「あの?木原ちゃん?」

 

「え?あ?ご、ごめんね。じゅるり」

 

あたしは溢れ出る涎を拭い、そのお嬢ちゃんに婆ちゃんが居るかと尋ねた。

 

「それよりね。お婆ちゃん居るかな?御守り買いたいんだけど…」

 

「ああ、お婆ちゃんはぎっくり腰になっちゃってね!それで今日はあたしがバイトしてるんだよ。御守りって?どんな御守りが欲しいの?」

 

え?婆ちゃんがぎっくり腰?大丈夫なんかな?

ってか、それよりこんな幼女にバイトなんかさせてるの?それこそ大丈夫?

 

「あ~…えっと、婆ちゃんがぎっくり腰なんなら別に今度でも…」

 

「え?何で?あたしが売ったげるよ?

木原ちゃんの事だから…無病息災って事はないだろうし…学業成就もないよね?だったら恋愛…?いやいやそれこそないかー」

 

え?無病息災も学業成就も恋愛成就もないって失礼じゃない?あ、学業成就はあたしがお利口さんなら必要ないし、恋愛ならあたしは可愛いから大丈夫だと…ふむふむなるほど。そういう事だね。わかります。

 

「学業成就とか今更だろうし、恋愛成就も逆に言い寄る男達をぶっ飛ばしてるもんね。アハハ」

 

ほんっっと失礼な子やな。

 

って思ったけどちょっと待って。

この子あたしの事知ってる?多分はじめましてやと思うんやけど…。

 

「あのさ?お嬢ちゃんもしかしてあたしの事知ってる?のかな?」

 

「あ?お嬢ちゃん?(怒」

 

ヒィ!?

な、なんやのこの子。危なくごめんなさいって謝りかけちゃったよ。

だからどうかそのお怒りをお収め下さい、ごめんなさい。

 

「ハァ~…木原ちゃんはあたしの事知らないのかぁ~…。ま、木原ちゃんだもんね」

 

え?どういう事?

 

「あたしの名前は月野 日奈子だよ?名前くらいは聞いた事あるでしょ?」

 

つきの…ひな…こ…?はて?

 

「…え?本当に知らない?」

 

「えっと…?」

 

あたしには聞き覚えのない名前だった。

ま、後にArtemisのドラマーになる日奈子なんだけどね。

 

「え!?本当に知らないの!?木原ちゃんの隣のクラスだよ!1年にして生徒会長になった伝説の才女!」

 

この子…自分で才女と言っただと…!?

 

って待って!!

 

「あたしの隣のクラス!?生徒会長!?」

 

「そだよ。木原ちゃんと同い年だよ」

 

この見た目で1年とはいえJKだと…?

どうなってんのこの世の中…。

 

「ま、そんな事より」

 

そんな事なの?あたしの中ではビッグな問題だよ?

この子は至ってスモールだけど。

 

「木原ちゃん、何か失礼な事考えてる?」

 

「え?いやそんな事ないよ?」

 

怖いわぁ~、この子。

もしかしてあたしの心読めるの?

 

「んで?御守りだよね?何の御守りが欲しいの?」

 

あ、そうだ。御守り。とりあえず御守り買わなきゃ。

 

「えっと…ここには無いのかな?バンド…音楽が上手くなるようにって…何かそんな御守りがあるって聞いたんやけど…」

 

「バンド!!?」

 

わ、びっくりした。

え?何か変かな?

あ、こんなちびっ子だけど、うちの学校の生徒会長様なんだっけ?もしかしてうちの学校バンド禁止とか?

 

「木原ちゃん…バンドやるんだ?」

 

「え?うん…あの…何か変かな?うちの学校バンド禁止とか?」

 

「え…?ううん…そんな事ないと…思うよ。バンド…か…」

 

あ、別に禁止されてる訳じゃないんだね。良かった。

でもそれなら何でバンドに驚いたんだろう?

 

「えっと…ちょっと待ってね。音楽関係の御守りは確かこっちに…」

 

その時は何で日奈子が驚いたのか気にはなってたけど、音楽関係の御守りがどんなのか気になって、あたしの中でその疑問は忘れ去られてしまった。

 

「これが確かボーカル用でこれがギター用…こっちのは何だっけ?カスタネット用…?」

 

ふぅん…楽器のパート毎にわかれてるんだ?

ならあたしはボーカル用の御守りがいいのかな?

それともギター下手くそだしギターを選ぶべき?

 

あたしがボーカル用の御守りにするかギター用の御守りにするか悩んでいた時、視界の隅に入った金色に輝く一回り大きい御守りに目を奪われた…。

 

「あの…月野さんだっけ?この金色の御守りは…?」

 

「ん?これ?これは音楽関係ないよ?想いの人の写真を入れて肌身離さず持っていたら、その想いの人と×××とか○○○とか…【ピー(自主規制音)】とかが出来ますようにって願掛けのスーパーミラクルワンダフル恋愛成就の御守りなんだよ」

 

「あたし…それにする」

 

「え?正気?これ音楽関係ないよ?」

 

想いの人と色々アレな事が出来るようになる御守り…。

 

「いや待って?あたし色々アレな事が出来るようになる御守りとか言ってないよ?ただの願掛けだよ?木原ちゃんは何を都合良くモノローグで語ってるの?」

 

これをあたしは手に入れなくていけない。

バンドも大事だけどタカくんとアレな事をする…いや、タカくんにアレな事をされる為に。

 

「される為にって何?タカくんって誰?木原ちゃんほんま怖いんやけど?」

 

「えっと、やっぱりこの金色に輝く恋愛が成就する御守りをもらえるかな?」

 

「恋愛成就の願掛けだからね!?成就する御守りじゃないから!」

 

あたしは日奈子の声も聞こえず恋愛が成就される御守りを買うことにした。

 

「ハァ~…、本当にこの御守りにしちゃうのか…。あたしもここのドラムの御守り持ってたんだけどね。バンドやるならご利益ありそうなのに。はい。スーパーミラクルワンダフル恋愛御守り。9,800円ね」

 

あたしは日奈子の言葉を聞いて驚愕した。

 

「…月野さん、今…何って…?本当なの?」

 

「まぁ…中学の時の話だけどね。あたしもバンドやってたからさ」

 

「え?バンド?月野さんバンドやってたの?」

 

「え?そだよ?ありゃ?ドラムの御守り持ってた~って事を驚いてたんじゃないの?」

 

あたしは日奈子が何を言っているのかわからなかった。

 

「ドラムの御守り?何それ?」

 

「え?違うの?それじゃ何に驚いてたの?」

 

「その恋愛成就の御守り…9,800円って…」

 

おっちゃんにギターを買って来いとお小遣いを貰っていたとはいえ、先日のBREEZEのライブでお金を使いすぎたあたしにとっては9,800円は恐ろしい程の大金だった。

 

ギターを買うよう貰ったお小遣いからなら出せる金額ではあるけど、本当にこんな御守りにお金を使っちゃっていいのだろうか?あたしは葛藤していた。

 

「あ、ああ…そうなんだ。そっちに驚いてたんだね。

そだよ、この御守りは9,800円。やっぱ止めとく?バンド用の御守りにしとく?それとも音楽の御守りにする?そっちなら700円だよ?」

 

音楽の御守りは700円…。でもあの恋愛成就の御守りは9,800円。

ははは…さすがに悩むまでもないよね。

 

あたしは日奈子に1万円札を渡し200円のお釣りを貰った。

 

「いや~…さすが木原ちゃんだね。本当に買うとは思わなかったよ。そもそもこの御守りにご利益あったらもっと話題になったり売れたりしてるハズなのにね」

 

「ん?月野さん?何か言った?」

 

「ううん、何でもないよ」

 

あたしは早速家に帰って先日手に入れたタカくんのチェキをこの御守りに入れようと思っていた。

 

だけどその前に…。

 

「月野さんってバンドやってたの?」

 

「え?今更そこ?」

 

あたしはさっきからずっと気になっていた事を日奈子に尋ねた。

 

「いや、さっきからずっと気になっていたって何?さっきまでずっと御守りの事しか考えてなかったじゃん?」

 

「月野さんはバンドで…何の楽器をやっていたの?もしかしてボーカル?」

 

「いや、絶対気になっていたっての嘘でしょ?あたしの話全然聞いてないじゃん」

 

日奈子は中学の時にバンドをやっていたと言った。

もしボーカルじゃないのなら、今はバンドをやっていないのなら、あたしのバンドに入ってもらえるかもしれない。

 

「いや、あたしのバンドに入ってもらえるかもしれない。って何なの?あたしはもうバンドやるつもりはないし」

 

「月野さん…やっぱりボーカルだったの?」

 

「やっぱりって何?てかさっきからあたしの台詞無視なの?あれ?もしかしてあたしの声届いてない?」

 

あたしはその時は日奈子がドラマーだって知らなかったから…

 

「知らなかったからじゃないよ!あたしはドラムやってたの!ってかさっき言ったじゃん!ドラムの御守り持ってたって!ドラマーじゃないのにドラムの御守り持つ訳ないでしょ!」

 

日奈子はドラムをやっていた…。

 

ドクン

 

「ドラム…?冗談だよね?」

 

ドクン

 

「冗談なんか言う訳ないでしょ。

あたしのこの身長だと…まぁ信じない人の方が多いだろうしさ?」

 

ドクン

 

「本当に…ドラマーなんだ…」

 

ドクン

 

あたしは胸の高鳴りを覚えた。

 

まさか…こんな小さな女の子が…ドラムをやっていたなんて…。

 

 

 

って当時は思ってたんだよね~。

 

あの子のドラムテクは凄いって今だから思えるっていうか…。

当時はまさかこんなちびっ子がドラムやるなんて信じられなかったよ。

 

 

「む~!木原ちゃん信じてないでしょ?」

 

「ううん、信じるよ。その見た目でドラムやってたなんて…普通の人はそんなすぐバレする事なんか言わないだろうし」

 

「なんか嫌な言い方だなぁ…すぐバレて…」

 

「ねぇ、月野さん」

 

「ん?何かな?」

 

「あたしと…バンドやろうぜ!」

 

「ごめん、無理」

 

無理?…え?待って。今の流れで断られるの?

 

「あたしがバンドを辞めたのは嫌な事があったから。

だからもうあんな嫌な想いはしたくない。そう思ってるからね」

 

「嫌な事って何?あたしは絶対月野さんに嫌な想いはさせないよ!約束する!

だから…バンドやろうぜ!」

 

「うん、木原ちゃんならあたしにあんな嫌な想いはさせないだろうなぁ~とは思う」

 

「な、ならさ!」

 

「だけど、この世に絶対なんてないと思う。それにもしまたあんな事があったら…あたしはきっと音楽を好きでいられないと思う」

 

音楽を好きでいられないと思う。

日奈子のその言葉はあたしには重かった。

 

BREEZEや氷川さん達の音楽を聞いて、音楽ってすごい。音楽って楽しいって思ったけど、それまではお父さんの事で音楽なんて嫌いだったんだから。

そしてその時にも胸を張って音楽が好きって言えない自分の葛藤もあったから。

 

「うぇぇぇぇ~ん、ごめ、ごめんね月野さぁぁぁ~ん。あたし月野さんの事情も知らずにー!うわぁぁぁん」

 

「泣き出した!?ち、違っ…木原ちゃん聞いて!」

 

「あ、月野さん、また明日学校でね」

 

「え?あ、うん」

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

「木原ちゃん!?」

 

そうしてあたしは帰宅し色々と考えた。

もちろん晩御飯もしっかり食べてお風呂に入った後に。

 

あたしは音楽をやりたい。バンドをやりたい。

いや、本当はやってみたいっていうのが本音なんだろう。

 

バンドをやってみて、音楽が好きなのか嫌いなのか。

あたしは自分の中でその答えが知りたいだけなのかも知れない。

 

澄香は音楽が好きでベースをやっている。

月野さんも音楽が好きだからドラムをやっていたんだろう。

 

でもふたり共にバンドをやるのは断られた。

それぞれ事情もあるのだろうけど。

 

こんな気持ちでバンドをやりたいって思ってるあたしは中途半端なのかな?

 

 

 

 

「いや、やっぱりそんな事ないと思う!」

 

「え?梓…おはよう?いきなり人の家の前で何いってるの?」

 

「おはよう、澄香!」

 

次の日、あたしはいつも通り澄香の家に行き、いつも通り澄香と通学していた。

 

「…梓?さっきから全然喋らへんけどどうしたん?」

 

いつもの通学路。

あたしは澄香にどう声を掛けようか悩んでいた。

 

でももう1度、もう1度だけ澄香に…

 

「あ、あのね、澄香…」

 

「おはよう。木原さん!今日も素敵なモーニングだね!」

 

澄香にもう1度バンドをやろうと声を掛けたかったのに、いつものアホに声を掛けられた。

 

でも、あたしはもう暴力は奮わない。そう誓っていた。

うん?何かこの言い回しもおかしいね。あたし暴力なんか奮った事ないし。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

さっきも言ったけど…あたしはもう暴力は奮わないと誓った。

だから暴力奮ってないですよ?この男の人は何で悲鳴をあげたの?

 

「き!きはっ、木原さん!」

 

「え?は、はい」

 

何なのマジで。

 

「そ、その髪型は一体…?髪色も金髪じゃなくなってるし、スカートの丈も引き摺るくらい長かったのに…」

 

…あたしそんなスカート丈長かったっけ?一応バイク乗ってるし…いや、澄香にも短い丈であぐらかくなって注意されてましたけど?

 

「ハッ!?まさか…とうとう僕の想いが届いて、僕と付き合う決意を…その姿は僕と付き合う為の決意表明という訳だね?」

 

何なのこの人。マジで面倒くさ…。

 

「フフ、なるほど。つまり僕は今日からキミのラバーだという訳だね?」

 

ラバー?ゴム?この人ゴムなの?何言ってるのこの人。

 

「では、木原さん、いや、もう木原さんと呼ぶのは失礼だね。梓さん」

 

暴力を奮わないと誓った自分を少し呪った瞬間だった。

 

「梓さん、今から役所に行こう。そして婚姻届を提出しよう」

 

ほんま何なんだこの人。

 

「えっと…ごめんなさい、名も知らない毎朝会う人」

 

そういやあたしこの人の名前知らないや。

 

「フフ、僕の名前は…」

 

「いや、名前とかどうでもいいです。ごめんなさい。

あたしは好きな人がいるのであなたと役所には行けません」

 

「ん?何を言ってるのかな?キミの好きな人は目の前にいるこの…」

 

「すみません。あたしの好きな人はあなたではありません。あたしは好きな人の為に髪色も戻して…好きな人を追っかけようと思っています。だから…名も知らない人、ごめんなさい」

 

あたしはあたし流の誠意あるであろう謝罪をした。

 

「バ、バカな…つまりそれは…僕が木原さんにフラれた確率12%…?」

 

「…すみません。12%じゃないです。100%です」

 

「こ、この人、毎朝梓に告白する度にぶん殴られてたのに、フラれてた事に気付いてなかったん…?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!そんな!そんなバカなぁぁぁ!!」

 

そう言って名も知ない人は、泣きながら走って去って行った。

 

「えっと…あたしが悪いのかな?」

 

「いや、梓は悪くないと思うよ?」

 

その名も知らない人が去った後、あたしと澄香はいつも通り学校へ向かった。

だけど、その学校はいつも通りではなかった。

 

「う、うぅ…まさか、まさか木原さんに好きな人が出来たなんて」「俺達は諦めよう」「うわぁぁぁぁぁぁん」「フッ、グッバイマイラブ」

 

毎朝ぶっ飛ばしていた人達、みんなあたしに好きな人が出来たようだと、あたしの事を諦めてくれていた。

てか、何で学校の人達があたしに好きな人が出来た事を知ってるの?あの名も知らない人が言いふらしたの?

 

でもこれで毎朝暴力を振るわなくて済む。これからは静かな朝を過ごせそうだ。そう思っていた。

 

だけど

 

「木原、待ってたで」

 

「神崎…。うわぁ、一番面倒なヤツ忘れてたぁ…」

 

「あ?面倒なヤツだと?」

 

「あー、あのね、あたしもう喧嘩…じゃない。人を殴ったりする事はやめたの。だから神崎ももうあたしに関わるの止めてくんないかな?」

 

「ああ、わかった」

 

あたしはビックリした。

翔子がこんなにあっさり引き下がってくれるなんてと。

てか、こんなにあっさり引き下がってくれるなら、今まで何でしつこく喧嘩売ってきてたの?

って思ったけど言わない事にした。だって面倒な事になりそうだから。

 

「わかってくれたなら良かったよ」

 

あたしは翔子の横を通って昇降口に向かおうと…

 

「フン!」

 

-ブン

 

「わひゃあ!」

 

-ヒョイ

 

いきなり翔子が殴りかかってきた。

あたしはギリギリのところで避ける事は出来たけど。

 

「か、神崎!何すんねん!あたしはもう喧嘩はせえへんって…」

 

「あ?木原、お前がどうしようがあたしには関係ないやろ?あたしはあたしでお前をぶっ倒す!それだけや」

 

こいつ何言ってんの?

って、ちょっとイラッとしたけど今のあたしは今までのあたしじゃない。

ミュージシャン木原 梓なんだ。

って気持ちでイライラする気持ちを落ち着けていた。

 

「落ち着けぇぇ!落ち着けあたしぃぃぃ!」

 

「うわっ!?ビックリした。木原、お前頭大丈夫か?」

 

「ふぅ、大丈夫だよ。神崎。あたしはもう喧嘩はしないんだから…」

 

「だから、お前の都合は関係ないって。あたしはお前を今日こそ倒す」

 

か、神崎ぃぃぃ!

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