バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第41話 日奈子の理由

「ハァ…ハァ…やっと…やっと終わった…翔子…生きてる?」

 

「梓…ハァハァ…な、何とかな…お前も…無事か?ハァハァ…」

 

「梓も翔子もよくやった!」

 

あたしと翔子は毎朝、おっちゃん…なっちゃんのお父さんからギターの特訓を受けていた。

 

あたしはこの特訓の日々から、『神崎』呼びだったのが『翔子』呼びになり、翔子もまた、あたしの事を『木原』呼びから『梓』呼びになっていた。

 

…あたしの名前は木原 梓。

いつまであたしの昔話続くのん?

 

「梓も翔子もさすが俺の弟子やな。

よし、明日からは40kgの亀の甲羅を背負いながらギターの特訓をしよう!」

 

おっちゃんはめちゃくちゃ笑顔だった。

40kgの亀の甲羅って何ですか?

 

 

 

 

「なぁ、梓」

 

「ん?翔子?どしたん?」

 

「あたしらがやってるのはギターの特訓だよな?

こないだから今日まで、ずっと牛乳配達させられたり、工事の手伝いさせられたり…筋力アップの特訓しかしてなくね?」

 

そう。あたしと翔子はおっちゃんからの指示の元、ギターの特訓という事で牛乳配達したり工事の手伝いや、畑仕事の手伝いばかりしていた。

 

あたしは気付いていた。

これがドラゴンボールの初期くらいに、悟空とクリリンが亀仙人からこんな修行をさせられていた事を。

 

あたしは知っていた。

おっちゃんが最近になって、あたしの家からドラゴンボール全巻を借りて行った事を。

 

「あ、あはは…ま、まぁ、おっちゃんにはおっちゃんの考えがあるんやろ…」

 

あたしは言えなかった。

あたし1人ならおっちゃんに文句も言ってただろうけど、翔子はおっちゃんを信じきって真面目にこんな特訓を受けてるんだもん。

 

翔子がやっとやりたい事、頑張りたい事を見つけたばっかりなのに言える訳がない。

だからあたしも同じ特訓を翔子と一緒に受けていた。

 

「でもよ。あたしも梓もギターだしさ?まぁ、梓はギターボーカルだけどよ?他のメンバーはどうすんだよ。ベースとかドラムとか?キーボードとかもか?」

 

朝の特訓を終えたあたしと翔子は、いつものようにあたしのバイクで澄香の家に向かっていた。

まぁ、澄香の家にって言っても、あたし達の学校はバイク通学は禁止だったし、澄香の家にバイクを置かせてもらう為だったんだけどね。

 

今は翔子もいるから学校行くまでに迷子になる事はないし。

 

でも、その日、あたしは翔子の家からも離れた場所でバイクを停めて、バイクを押しながら翔子と歩いて澄香の家に向かった。

 

あ、そうそう。

その前にこれも話しておかないとね。

 

翔子がおっちゃんにギターを習いに来るようになってから、あたしと翔子は喧嘩ばっかりしながらギターの腕を磨いていた。

 

『へっへっへ、どうだよ、木原。あたしはもうここのフレーズ弾けるようになったぜ?』

 

『う!うっさいわ!あたしかてすぐに…』

 

翔子は本当にギターの才能があったんだろう。

それに加えて、あたしよりギターが上手くなりたいっと気持ちからか、練習もサボらずに必死だったし、今のあたしももちろんだけど、あの頃のあたしからしても翔子はすごく努力をしていた。

 

あたしはどんどんギターが上手くなる翔子を凄いと思いながらも、なかなか素直に褒めたり出来なくてね。

憎まれ口ばっかり叩いてた。

 

でも、そんなある日…。

 

『そういやあたしはギターだけど、木原ってギターボーカルやりたいんじゃなかったか?』

 

『…う、ま、まぁ…。お母さんは楽器やってなかったけど、あたしはギターも好きやし…』

 

『あたしも1人でギター練習してても、何かアレだしさ?ちょっとセッションしてみないか?』

 

『セッション?』

 

翔子の提案に一瞬びっくりしたけど、実の所はあたしはドキドキしていた。

翔子のギターであたしが歌ったらどうなるんだろう?って。

 

『ま、まぁ…神崎が…やりたいなら…やってあげても…』

 

『お、マジか?じゃあさ、師匠らの曲のここのフレーズ。木原もここはギター、マスターしてたやろ?あたしもここから弾くからさ、木原は歌いながらギター弾いてみてくれよ』

 

『え?あたしもギター弾くの?』

 

あたしは翔子のギターに合わせて歌うだけだと思ってまから、翔子の提案には梓ちゃんダブルビックリだったよ。

 

『じゃあ、やるぜ?1…2…1…2…3』

 

 

♪♪

♪♪♪

 

 

……歌い終わったあたしは気が抜けたような。

歌っていた時はまるで夢の中にいるような、すごく楽しくて幸せな感覚になっていたのに、一気に現実に戻ったような…。

 

『木原!スゲェ!!スゲェよ!!』

 

翔子があたしに詰めよってくるくらい、さっきのセッションは良かった。

だけど、本当に凄かったのは…。

 

『うん、あたしもさっきの神崎とのセッションは最高だったと思う。

だけど、神崎、あんた譜面と違う音を…あたしのギターと合わせるように何かアレンジしてたやろ?』

 

『え?あ、ああ、まぁ…。木原もギターやるし同じように弾いてもパッとしないかな?って思って…』

 

『さっきの…おっちゃんに教えてもらったの?神崎が自分で考えてアレンジしたの?』

 

『…あ、やっぱ変だったか?怒ってる?

師匠に教えてもらったんじゃなくて、あたしがこうしたら合わせられて良い音になるかな~?って…』

 

あたしはゾクゾクした。

同じ譜面で同じように、おっちゃんからギターを教えてもらっている翔子が、おっちゃんの譜面に合うように、あたしの歌声と演奏に合うように、アレンジして新しい音を紡いだんだから…。

 

『あ、木原…な、何かごめんな、勝手に。

お前の歌声を聴いてたら何か咄嗟にさ…』

 

『謝る事じゃないよ、神崎。

むしろ逆。あたし、神崎のアレンジした音を聴いてゾクゾクした。おかげであたしも思いっきり歌う事も出来た。最高だったよ』

 

あたしはその時、あたしがギターボーカルで、翔子がリードギターで、同じバンドで演奏をしたらものすごい事になるじゃないだろうかと思っていた。

 

翔子とバンドをやるのも良いのかもしれない。

…そう思ったけど、翔子がギターを始めた理由の一つはあたしに音楽で勝つという事も入っていた。

 

あたしがバンドに誘ったりしたら、翔子は自分のバンドをやれなくなるかもしれない。

そう思って、バンドに誘う言葉を出せないでいた。

 

だけど…

 

『な、なぁ、木原。お前がそう言ってくれるってんなら、ちょっと相談があんだけどさ?』

 

『相談?』

 

『お前がギターボーカル!そしてあたしがリードギター!

あたしをお前のバンドに入れてくれないか!?』

 

『え?』

 

あたしと翔子の気持ちはその時一緒だった。

でも、あたしは翔子も同じ気持ちだった事にびっくりして、胸がいっぱいいっぱいで、すぐに返事を伝える事が出来ないでいた。

 

『え?え?神崎?』

 

『やっぱダメ…かな?こないだ木原、お袋さんと歌の練習してたろ?そん時にお前の歌声聴いてさ。セッションとかやってみたいって思って…そんでセッションしたら…やっぱお前の歌声は最高だった』

 

『あ、あの…』

 

『あ、あはは、悪い。困らせちまったな。忘れてくれ』

 

違う…違う!

やりたい!あたしは翔子とバンドをやりたい!!

 

『しょ…翔子!』

 

『え?木原…お前、あたしの事、今翔子って…』

 

『翔子も!これからあたしの事は梓でいい!

同じ…バンドメンバーなんだから!

だから翔子、あたしとバンドやろうぜ!』

 

『いいのか?あたしなんかが…お前のバンドに入って…』

 

『あたしもさっきのセッションで、翔子とバンドやりたいって思ったから…だから、翔子、バンドやろうぜ!』

 

『うん…!うん!やる!

あたしが梓のバンドのリードギターだ!

絶対お前を、BREEZEってバンドとデュエルギグやれるような…スゲェバンドのボーカルに…』

 

翔子にもタカくん達BREEZEの事や、お母さんやおっちゃん達の事、お父さんの事やレガリア戦争の事も、これまでの練習の合間に話していた。

だから、翔子もあたしがバンドをやりたい理由を知ってくれていた。

 

だけど、翔子にバンドを一緒にやろうと言われた時、これじゃダメだとあたしは思った。

 

あたしがやりたい事の為に、翔子や澄香や日奈子を誘っていたんじゃないだろうか?と…。

 

あたしはバンドでやりたい事がある。

だけど、それは翔子や澄香や日奈子のやりたいバンドじゃない。

 

『翔子、もちろんいつかはBREEZEとデュエルギグはしたいよ。でもそれは通過点、あたしの目標であって、あたし達の目標じゃない』

 

『梓?』

 

『翔子は?翔子はバンドをやってどうなりたい?やりたい事ってない?』

 

『あたしのやりたい事?』

 

『うん、バンドで、音楽でやりたい事』

 

『ぜ…全国制覇…』

 

『全国制覇?』

 

『あ、ああ。師匠に聞いたんだけどさ。

エクストリームジャパンフェスって、でかいフェスイベントがあるらしくて…』

 

『エクストリームジャパンフェス?エクストリームジャパンフェスって、デュエルギグで勝ち抜いたバンドがメジャーデビュー出来るってやつ?』

 

『ああ、エクストリームジャパンフェスはデュエルギグでガチ勝負して、地区大会やら県大会やらを勝ち抜いたバンドしか出場出来ねぇ。そんで各都道府県から勝ち抜いたバンド同士で勝ち抜きデュエルをやって、優勝したバンドだけがメジャーデビュー出来る。

つまり、エクストリームジャパンフェスで優勝したら、全国制覇も叶ったって事になるだろ?』

 

『確か予選に参加するにもデュエルギグで勝ち抜いた実績とかもいるんだっけ?』

 

『そう!あたしはエクストリームジャパンフェスで優勝して全国制覇して…師匠達が叶える事の出来なかったメジャーデビューをしたい!』

 

メジャーデビュー。

翔子がその言葉を発した時まで、あたしはアマチュアだとかインディーズだとかメジャーだとか、あんまりそんな事を考えた事はなかったけど、おっちゃんやお母さんが叶える事の出来なかったメジャーデビューという夢を受け継いで、あたし達がメジャーデビューするのもいいかも知れないと思った。

 

結局あたし達はメジャーデビュー出来なかったんだけどね。

 

『全国制覇、メジャーデビューか。

いいね、翔子、あたし達はエクストリームジャパンフェスで優勝するのを目標にしよう!』

 

エクストリームジャパンフェスで優勝するって事は、いつかBREEZEとデュエルする事にもなるだろうしね。

 

『いいのか梓?』

 

『もちろん!バンドやろうぜ!』

 

翔子とはそんな話があって一緒にバンドをやる事になったんだよ。

 

あ、話を戻すね。

 

あたしはバイクを押しながら、翔子と澄香の家に向かっていた。

 

「翔子、その事なんだけどね、ベースは澄香、ドラムは月野さんにやってもらいたいって思ってるの」

 

「澄香って瀬羽さんだよな?月野さんってまさか生徒会長か?」

 

「うん」

 

「瀬羽さんは梓の幼馴染みだって話だし、音楽やってても…って思うけど、何で生徒会長?あのちびっこがドラムなんかやれるのか?」

 

「本人はドラムをやってたって言ってたけど…」

 

「あ?生徒会長のドラムを聴いた訳じゃねーのか。てか、それで何で生徒会長にドラムやってほしいんだ?他に上手いドラマーもいるかも知れねぇじゃねーか」

 

「う~ん、何でだろ?直感かな?

月野さんのドラムって、きっとすごくあたしに合ったリズムな気がするんだよ。何となくなんだけど…」

 

「そうなのか…。まぁ、その何となくってのも大事だしな」

 

「まぁ、2人共に断られてるんだけどね」

 

「ダメじゃん。ってか何で?」

 

「澄香はバイトとか勉強とかやりたい事あるとかで、月野さんは…知らない」

 

「ふぅん…そうなのか…」

 

その後は翔子とはバンドの話をする事もなく、澄香の家まで行って登校し、お昼休みもあたしと澄香と翔子の3人でお弁当を食べたけど、お昼休みもバンドの話をする事はなかった。

 

この頃は毎日毎日、澄香と日奈子にバンドに入るのを断られ続けてへこんでたから、翔子にも澄香と日奈子をバンドメンバーにしたい事を話したし、翔子からも澄香と日奈子をバンドに誘ってくれないかな?って期待してたんだけどね。

 

そして放課後になった。

 

今日も翔子とギターの練習かな?と思ってたんだけど…。

 

「おっし!梓!行こうぜ楽器屋!」

 

「え?楽器屋?」

 

この日の放課後、何故か翔子に楽器屋に誘われた。

 

「え?翔子?楽器屋って…何で?」

 

「ま、来たらわかるって。生徒会長も誘って行こうぜ」

 

「月野さんも?」

 

 

 

 

-ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン…

 

 

あたしは翔子と日奈子と3人で、何故か電車に乗って楽器屋へと向かっていた。

てか電車ってガタン、ゴトンって描写なんだ?語彙力よ…。

 

「てか何で!?何であたしは木原ちゃんと神崎ちゃんと電車に乗って楽器屋に向かってるの!?」

 

「何でって…あたしが誘ったからだろ?」

 

「ごめんね月野さん」

 

「いやいやいや!確かに神崎ちゃんに誘われたけど、あたしはちゃんと断ったよね!?

それに木原ちゃんも全然ごめんねって顔してないしっ!」

 

そうなのだ。

この頃の日奈子はあたしのバンドの誘いを断る程、音楽とは関わらないようにしていた。

 

そんな日奈子は当然、翔子の楽器屋への誘いは断った。

だけど翔子は日奈子の断りを無視し、水月(すいげつ)(人体の急所)にいい一撃を入れて気絶させたのだ。

 

そして気絶した日奈子を翔子は抱えて、電車へと乗り込んだ。

良い子も悪い子も本当にマジでガチで人体の急所に一撃なんて入れちゃダメだよ?ほんま危ないから。

 

「まぁ、また殴られちゃうのも嫌だし、ここまで来たらしょうがなく着いて行ってあげるけど、何で電車に乗ってるの?地元の楽器屋じゃダメなの?てか、いつもこんな所まで来てるの?」

 

「質問が多いな、生徒会長は…」

 

「あたしも楽器屋行くのに遠出とかしないけど、今日は翔子に誘われてって感じかな?」

 

「むぅ~…今日は来週末にあるテストの勉強しようと思ってたのに…」

 

「ら、来週末の…テスト…べ…ん強だ…と…!?まさか…生徒会長になるとそんな事もしなきゃいけなくなるのか…?大変だな、生徒会長は…」

 

「来週末のテスト勉強か~。そういえば澄香もそんな事するって言ってたかも?それって今のJKで流行ってるの?」

 

「え?二人共何を言ってるの?大丈夫?」

 

 

 

 

「よし!着いた!」

 

「ここ?ここって…アメ村?楽器屋じゃなくてお洋服買いに来たの?」

 

翔子に連れて来られたのは大阪のアメリカ村だった。

今は音楽関係のお店やライブハウスも多いけど、昔はもう少し少なくて、ファッションやストリート系、食べ歩きとかするような街ってイメージだったからね。

今もそういうお店も多いけど。

 

「こっちこっち。こっからちょっと歩くんだけどな。バンド練習出来るスタジオが完備された楽器屋があるんだよ」

 

あたしと日奈子は言われるまま翔子の後を追った。

アメ村から少し離れた所。

割と大きめの楽器屋があたし達の目に入った。

 

「え?もしかしてバンド練習もするつもり?あたしはやんないよ?」

 

「ああ、心配すんな。スタジオは予約制だし、今日は別の用だから」

 

翔子は日奈子にそう言って、楽器屋へと入って行った。

 

「ほんとに楽器見に来ただけ?」

 

楽器屋に入って行った翔子を尻目に、あたしに問い掛けて来た。

あたし自身も翔子には楽器屋に行くぞって誘われただけだし、何でこんな所まで来たのかわからなかった。

 

「あたしも翔子に誘われただけだし。

あたしも翔子もギターの練習はしてるけど、おっちゃんに借りてるギターやし、まだ自分のギター持ってないから見に来たのかな?」

 

実はその時、あたしもまだ自分のギターを買っていなかった。

 

「ふぅん…、ほんとはその辺のカフェで勉強しときたいけど、この時代タブレットもフリーWi-Fiもないしね。…しょうがない、あたし達も入ろっか」

 

「たぶれ?わいふぁい?」

 

「ううん、何でもないよ。行こ」

 

日奈子は当時では訳のわからない事を言っていた。

何であの頃に日奈子はそんな単語を知っていたんだろ?そういやタカくんも当時そんな感じだったような…。

 

そしてあたしと日奈子が楽器屋に入った時、翔子は色々ギターを見ながら持ち上げてみたり値段を見てビックリしたり。

ほんとにただギターを選んでいるだけのようだった。

 

「ありゃ?神崎ちゃん普通にギター選んでる?」

 

「あ?そりゃそうだろ。いつまでも師匠にギター借りとく訳にもいかねぇし、まぁ今日は買えない…けど…。あたしもバイトしなきゃなぁ…」

 

「ふぅん…だったら何であたしも呼ばれたんだろ?

ギター選びならあたしいらないし」

 

「さぁ?あたしにもさっぱりやけど…」

 

「てっきりあたしをバンドメンバーに入れたい木原ちゃんが、神崎ちゃんと組んであの手この手でバンドに入らせようとするのかと思ってたよ」

 

はい。あたしもそう思ってました。

でも違うのかな?

それからも翔子はギター選びに夢中になっていた。

 

「あ、月野さん、ほらドラムあるよドラム」

 

「見たらわかるよ」

 

「ここにドラムがあるのも何かの縁だよね!ねぇ月野さん、あたしと一緒にバンドや…」

 

「やらない」

 

「ろう…ぜ…」

 

「木原ちゃんもいい加減諦めたら?あたしはもう…バンドも…ドラムもやりたくない…」

 

「月野さん…何でそんなに…」

 

「「「日奈子!?」」」

 

あたしと日奈子が楽器店にあったドラムの前で話をしていると、後ろの方から日奈子を呼ぶ女の子達の声が聞こえた。

 

「え?…葉月ちゃん、結月ちゃん、日登美ちゃん…?」

 

「日奈子久しぶりやん!中学卒業以来やんな?」

 

「え…う、うん」

 

日奈子に中学卒業以来と言ったその子達は、ギターケースやベースケースを持っていた。

 

きっとこの子達は日奈子とバンドをやっていた子達なんだろうとあたしは思った。

こんな偶然があるなんて…。あたしはそう思ってたんだけど…。

 

その子達のうち1人があたしに話し掛けてきた。

 

「私、日奈子と同中で一緒にバンドやってた朝日奈 葉月っていいます。あなたが今の日奈子のバンドメンバーさんですか?」

 

「え?あたしの…?」

 

その子はあたしを見て日奈子のバンドメンバーなのかと聞いてきた。

こういう場合、あたしはどう答えるべきなんだろう?

この時はまだ日奈子はあたしのバンドメンバーじゃない。だけど何だか訳ありっぽいし、そうだと言った方がいいんだろうか?

 

あたしがどう答えるべきか悩んでいると…

 

「違う!あたしはバンドなんかもうやらない!」

 

「え?日奈子…何で?」

 

「何で?何でって?あたしをバンドから追い出しておいて…」

 

「追い出す…?それが月野さんがもうバンドをやりたくない理由…?」

 

その時、あたしは日奈子がこの子達にバンドを追い出されて、日奈子がバンドをやりたくないって思うようになったんだと理解した。

 

でもそれよりも、日奈子を追い出しておいて、あたしとバンドをやっているのか聞いてくるなんて、何てひどい子なんだろうと、思いっきりひっぱたいてやるつもりだったんだけど、その子はすごい勢いであたしを押し退け、日奈子の肩を掴んでいた。

 

「日奈子!待って!違う!…そんな風に受け取ってたんやったらごめん!でも違うの!私達は…」

 

「黙れ、何も違わない、私は何も間違えない」

 

日奈子はそう言って、その子の手を払い走って楽器店から出て行った。

 

「日奈子!そんな無惨様みたいな台詞を…って言うか待って!」

 

こないだ三咲ちゃんも似たような台詞言ってなかったっけ?と、メタな事を思ったけど、あたしも日奈子を追わなくちゃいけないと思い、店の外に出ようとしたけど…。

 

「梓!生徒会長は追わなくていい!」

 

翔子にそう言われて日奈子を追うのを止めた。

 

「って何で!?月野さん泣きそうやった!追わなきゃ!」

 

あたしが翔子の方に目をやってそう言った。

 

「ごめん!通して!」

 

「何やっとんの葉月!日奈子を追わなきゃ!」

 

「え、あ、うん、そう…だね。追わなきゃ!日奈子がバンドやってないなんて…そんなの…」

 

あたしが翔子の方を見ている隙に、日奈子の元バンドメンバーだろうと思われる3人も走って店を出て行った。

 

「翔子!何で止めたの!あたし達も…!」

 

「あーあー、あたしらは今は追わなくていい。ほんとはあの3人から詳しく話を聞きたかったけど、見た感じ色々誤解っぽいしな。あの4人で話した方がいいかも知んねぇし」

 

「話を聞きたかった?誤解?何の事?」

 

「ま、あんたもそう思ったから追わなかったんだろ?」

 

すると翔子はすぐ近くにいた女の子に声を掛けた。

 

「ん、まぁ、うちも追っても良かったんやけどね。

月野さんには1度会ってみたいなぁって思ってたし」

 

その女の子はドラムスティックを軽快に回していた。

ドラムスティックを持っているという事は、きっとこの子がさっきの女の子達のバンドのドラマーなんだろう。

日奈子の代わりに……。

 

「けど、月野さんがどこに行ったかうちにはわからんし、葉月達に任せとけばええかな?って。

うちはそれよりあんたらに、月野さんが抜けた時の事。昔の話を聞かせたげた方がええやろし」

 

日奈子が抜けた時の事?

追い出したんじゃなくて?

 

「うち、月野さんの代わりにあの子らのバンドでドラムをやる事になった如月 陽子(きさらぎ ようこ)っていいます。よろしく~♪」

 

陽子ちゃん、その子はこの後、日奈子のバンドをやっていた時の事を話してくれた。

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