「お、澄香ちゃん!
澄香ちゃんがベースケース持ってるの見るの久しぶりに見るね」
「あ、おじさんこんにちはー。えへへ、私も梓とバンドする事にしまして」
「へぇ~。梓ちゃんがバンドやるって聞いた時は、やっと梓ちゃんもかー。って思ったけど、澄香ちゃんも一緒にやるんか。昔は梓ちゃんと澄香ちゃんでよくバンドの練習してたもんなぁ」
「む、昔の話は…///」
「この村じゃ遙那ちゃんや龍馬さんと同じくらい、梓ちゃんと澄香ちゃんも有名やったからな。あはは」
「も、もう!///
わ、私もう行きますね。梓達も待ってるやろし」
「ああ、ごめんな。バンド頑張ってな」
「おじさんありがとう!おじさんも農作業頑張ってね!」
・
・
・
「こんにちは~」
「お!澄香、来たね!」
「澄香、バイトはもう終わったのか?」
「澄香ちゃんこんにちは!」
「うん、今日はバイトも終わり。それに今日から新人の子が2人も入ったから、バイトのシフトも減らせる事になったし、バンドの練習時間増やせるようになったよ」
「おお!澄香のバイト先ナイス!」
「へぇ~。でも、それはそれで給料減るから困らないか?」
「大学の学費もおじさんとおばさんに出してもらえるようになったから、今はお金にも困ってないでしょ」
「うん、まぁ…学費も出してもらうってのは申し訳ないから、私も出せる分は出すつもりやけど、大学許してもらえたし家は出なくてよくなったから、その分は…」
「え!?澄香、大学行ったら家を出るつもりだったの!?」
あたしの名前は木原 梓。
安定に今回もあたしの話だ。
この話の冒頭に出てきた澄香と話をしていたおじさんは、このお話には全く関係のない近所の人である。
ちなみにこの日は澄香がバンドに入る事になった翌日の土曜日の話である。
「よし、澄香も来た事だし、もっかい合わせようよ」
「いや、もっかい合わせようよって、澄香はまだこの曲知らないだろ?」
「あ、澄香ちゃん、これ。あたし達の曲の譜面だよ」
「え?私達の曲のって…もしかしてもう作曲出来てんの?」
「ふっふっふ、曲だけじゃないよ、歌詞もバッチリ!」
「歌詞も?すごいなぁ。もう曲出来てたんや…。私も練習せな…。………うん、この曲なら私も少し練習したらやれそう」
「初ライブまでに3曲くらいは欲しいけど、まずはこれがあたし達のデビュー曲だな」
「ま、まだあたし達バンド名も決まってないけどね」
実はあたしはもう既に作詞も作曲も完成させていた。
もはや天才と呼んでも過言ではあるまい。
とか思ってたんだけど、この後澄香にめちゃめちゃダメ出しされたんだよね…。
「あ、じゃあさ、翔子と日奈子はいけるでしょ?もっかい頭からやって澄香にどんな曲か聞いてもらおうよ」
「そうだな。じゃあそうすっか」
「うん!梓ちゃんも歌って歌詞付きで聞いてもらおう!」
「わぁ、聞いてみたい。私らのデビュー曲ならバシッと決めたいし」
そしてあたしは翔子と日奈子の顔を見て、コクリと頷いてから演奏を開始した、
-ドンドンドンドン!
-ギュイーン…ギュギュ…
「わ、かっこいい!これを梓が…。すごい、期待以上だよ」
-ドン、ドンドンシャン
『Ah~♪タカ~ラブ~♪』
「ブホッ!」
『あの日出会った夜~♪運命だと思った♪タカ~ラブユ~♪』
「待って待って待って!」
『あなたに
\\ラビュラビュずっきゅんラビュ♪(笑)//
『暗かった景色が彩って…』
「だから待ってって!ストップストップ!!」
「もう!どうしたの澄香!気持ち良く歌ってたのに!」
「あ?何かあたし達失敗してたか?」
「ぷっ…くくく…あ、あたし達何か変だった?フフフフ…」
あたし達が気持ち良く歌いながら演奏をしていると澄香に止められてしまったのだ。
「いや、日奈子めちゃ笑ってしまってるやん!てか、何なのあの歌詞!?曲がめちゃかっこよかっただけに残念が過ぎるんだけど!」
「え?何か変?」
「あ、もしかしてあたしらの演奏の音がデカすぎて、歌詞をちゃんと聞き取れなかったとか?」
「ぷふ…きっとちが…フフ、違うよ。あたしが緊張しちゃって、コーラスのところで笑ってしまったからだよ。ププププ…」
「いや、そういう問題じゃないでしょ!翔子も日奈子…いや、日奈子は変って思ってるから笑ってるのか。翔子は変と思わなかったの!?」
「いや、あたしは梓に付いていくだけだし」
「ププ…澄香ちゃん、もっかいやるから今度はちゃんと聴いてね?フヒヒ…梓ちゃん、翔子ちゃんもっかいやろ」
「オッケー!翔子、日奈子。じゃあAメロから…」
「いや、だから待ってって!私の話聞いて?お願いだから!」
「もう!何なの澄香!」
「梓?この歌詞で本当に歌うの?正気なの?
そもそもタカの事好きですって暴露しまくってる歌詞になってるやん?」
「フッ、さすがあたしだ。初見の澄香にまでこの歌詞がタカくんを想って書いた歌詞だと見抜かれているとは」
あたしは自分に作詞の才能があると奮い立っていた。
「見抜くも何もめちゃタカって言っちゃってるやん?
それに何でハートにルビで心臓って読ませてんの?
普通は逆でしょ?心臓を鷲掴みって猟奇的な何かなの?」
「えー?あ、そこはハートって歌うと曲のリズムに合わないから、心臓って歌おうかと。気持ち的にはハートだよ?」
「気持ち的にはって…。と、とにかくこの歌詞はダメだって。曲は良いんだからさ?もう少し歌詞を何とかしようよ」
「え~…あたし曲に歌詞合わせるの苦手なんだけど」
「澄香は何で梓のこの歌詞にダメ出ししてんだ?」
「プクク…あれじゃない?タカちゃんの事は澄香ちゃんも好きだから、なんかそんな感じのあれがあれなんじゃない?あー、おもしろ」
「まったく…んな訳ないやろ。てか、日奈子は面白がってるだけだよね?何で翔子はダメ出ししないの?梓はもっかい聞くけど正気?」
「お母さんとおっちゃんにも、あたしの想いを歌詞にしろって言われたし…」
「んー、まぁあたしも変な歌詞だとは思ってるけど、あたしはリーダーである梓が作った曲を必死で演奏するだけだしな」
「あたしは澄香ちゃんの言う通り面白がってるだけだよ」
「え!?翔子も変だと思ってたの!?そんで日奈子は面白がってるだけ!?」
あたしはショックだった。
翔子も日奈子も変だと思っていたのに、指摘もせずにあたしに歌わせていたのかと。
あたしはまさにピエロだったのかと…。
確かに今思えばあの歌詞はないわーとか、もし本当にあの歌詞でデビューしてたら黒歴史以外の何物でもないわ。とか思うけど…。
「いい?梓、よく聞いて」
「澄香はあたしの歌を聴いて?」
「梓、こんな歌を歌ってタカが好きってバレちゃっていいの?ライブでも歌うつもりなんだよね?」
「むしろそれ望むところだよね?てか、もちろんライブでも歌うよ」
「梓はアニメとか漫画が好きだよね?恋愛物の漫画とかってさ?男の方から女の子に告白するのが王道だよね?」
「いや、そんな事はないよ?最近のは女の子の方から告白する漫画も多くてね~」
「オッケー、わかった。ちょっと話を変えるね。
梓は昔さ?お母さんの魚座のレガリア受け継ぎたいって言ってたよね?」
「レガリア?……うん、ずっと忘れてたけど、お母さんとおっちゃんにレガリア戦争の話を聞いて、お母さんのレガリアはあたしが受け継ぎたいって余計に思ったよ。
…せっかく音楽が楽しいってまた思えてきたんだから、もうあんな話で聞いたような音楽の争いなんか起こさせたくない」
「うん、私もそう思うよ。私は当事者じゃないけど、父さんと母さんからレガリア戦争の事は聞かされた事があるから」
澄香のご両親はお母さん達のバンドのファンだったから、レガリア戦争の事やお母さんが歌えなくなった経緯も知っていたようで、だからあたしと澄香は幼い頃から一緒だったんだろうけど。
それで澄香はご両親からレガリアの事や、レガリア戦争の事を何度も聞かされてたみたい。
「レガリア?レガリア戦争?音楽の争い?何だそれ?」
「うーん、あたしも詳しくは知らないけど、お婆ちゃんから何となく聞かされた事あるかな?
あたしが知ってる程度なら翔子ちゃんにも教えたげるよ」
「おお、日奈子は知ってんのか。悪いけど聞かせてくれよ」
あ、これもちなみに余談なんだけどね。
日奈子のお婆ちゃん。
神社のお婆ちゃんなんだけど、ドラムを叩けるみたいでね。日奈子にドラムを教えたのは日奈子のお婆ちゃんで、元々、お母さんとおっちゃんが若い頃に音楽を教えてくれたのも日奈子のお婆ちゃんなんだってさ。
「そう。だからね澄香。あたしはラブアンドピースを歌おうとあの歌詞を…」
「あっちゃあ~…そうきたか。ラブアンドピースね…。
梓、聞いて。レガリアを受け継ぎたいんならさ。
タカへの想いじゃなくて、音楽への想いを歌った方がいいちゃう?」
「ハッ!?た、確かに…あたしの音楽への想いか…」
「そう!そうだよ梓!音楽への想いが大事だよ!」
「うん…そうだね。あたし…歌詞書き直す!」
そしてあたしはその日も机に向かう事になった。
まさか前回に続いて今回も机とにらめっこするはめになるとは…。
「う~ん…やけにあっさり説得出来たけど、こないだ勉強しすぎた後遺症かな?梓ってあんなにチョロかったっけ…?
って、それより翔子!日奈子!」
「へぇー、そんな事があったんだな。レガリアかぁ…。って澄香?どした?」
「でもまさか梓ちゃんのお母さんがレガリア使いだったとはね~。お婆ちゃんは知ってるのかな?どしたの澄香ちゃん」
「ふたりともあの歌詞はないなぁって思ってたんでしょ?何で梓にちゃんと言わへんの?」
「まぁ、変だとは思ってたけどな。指摘して逆ギレされて殴られたらたまったもんじゃないだろ?」
「あたしは面白いと思ったけどなぁ。歌詞は圧倒的に変だったけど」
「翔子も変だと思ったらちゃんと言わなきゃ。
エクストリームジャパンフェスで優勝したいんでしょ?」
「うっ…。確かに…そうだよな。あんな歌詞じゃダメだよな…。予選すら出れなそうだし…」
「日奈子も面白いじゃないでしょ。前のバンドのメンバーと対バンするやろ?あんな歌詞の曲を前のバンドメンバーの前で演奏するつもりだったの?」
「ハッ…!?そ、そうだった…。面白いだけじゃダメだよね。危なく恥をかくところだったよ…」
あたしの歌詞ものすごい言われようじゃない?
「ま、でも歌詞はともかく曲は良かったし。私もこの曲練習したいしさ。少しずつ合わせようよ」
「ああ、そうだな。それにしても昨日までバンドは出来ないって言ってたのに今はやけにやる気だな」
「うっ、うるさいなぁ…私だって音楽もベースも好きやし、バンドはずっとやりたいと思ってたって言ったやろ?///」
「じゃあ頭から通してみようか。澄香ちゃんが詰まっちゃったらもっかい頭からって感じで」
「うん、そやね。そうしよう」
♪~
♪♪~
♪♪♪~
「で…出来た…!完璧や!完璧過ぎる歌詞やで!まさにパーフェクトと言っても過言ではない!」
あたしはやっと歌詞を完成させた。
「ねぇ!澄香、翔子、日奈子見てよ!この歌詞!絶対文句ないはずやから!」
この時、まるで音楽の神様があたしに乗り移ったかのように自画自賛する程の歌詞を完成させていたのだった。
それなのに澄香も翔子も日奈子も聞いていないようだった。
「…って聞いてる?あたし歌詞完成させたんやけど?」
「ん?ああ、悪いな。やっと歌詞出来たのか」
「ごめんごめん、聞いてるよ。どんな歌詞?」
「ありゃ?歌詞が2つある?もしかして2曲も作ったの?」
「フッ、まぁね」
あたしはその時、歌詞を2曲分作っていたのだ。
曲も何となくでだけどリズムだけは作ってある。
まさに天才の領域のお仕事だった。
だけどそれよりも…。
「てかさ?澄香も翔子も日奈子も楽器やってなかったやん?あたしに歌詞書かせといて練習サボってたの?」
「ん?いや、澄香もベースやってただけあって、それなりに形になってきたからな。少し休憩がてらに…」
「サボってた訳ちゃうよ。私らは私らでバンド名どうしよっか?って話してたんだよ。あ、今回の歌詞はいいじゃん。なかなかかっこいい」
「澄香ちゃんもベース出来てたからそろそろライブもやりたいねーって。バンド名ないと色々不便でしょ?」
「あ、そうなんだ?バンド名か…。
ねぇ、バンド名決まったらライブやれるの?」
「あ?いや、そういう訳じゃないけど、段取り決めるのもバンド名決めてからのがいいだろ?ってか、こんな歌詞書けるなら最初から書いとけよ。あたしもこの歌詞いいと思うぜ」
「あたし達はエクストリームジャパンフェスの為にもライブ実績必要だし、BREEZEともM&Sとも対バンもしたいじゃん?ちょっと早い気もするけど、早いにこしたことないもんね」
「そっか。じゃあバンド名は
「「「…」」」
「え?どしたの?あたし何か変な事言った?」
「梓、お前もうバンド名決めてたのかよ…。Artemisか。何かかっこいいな」
「へぇ、梓にしてはまともだ…。Artemis…確か神話の女神様の名前やっけ?」
「うん。ギリシャ神話の月の女神様の名前だね。梓ちゃんのチョイスとは思えないレベルだね」
「…女神?何の事?」
Artemisというバンド名をあたしは既に考えていた。
だけど、澄香も日奈子も神話の女神様の名前とか言っていて、何言ってんのこの人達。ってあたしは当時思っていた。
澄香と日奈子に女神の名前と聞かされて、ちゃんと調べたから、今はもちろんアルテミスという女神様の事は知っている。だから今となってはあたし達Artemisの名前の由来は女神様の名前から取ったという事にしている。
でも、あたしがArtemisにしようと思ったのは、女神様の名前が由来ではなかった。
「へぇー、女神様の名前なのか。あはは、あたしなんかがってちょっと恥ずかしいな」
「あはは、私も女神様ってガラちゃうけどね」
「あたしは女神様すら裸足で逃げ出すくらい可愛いけどね」
「ちょ、ちょっと待ってって。女神様って何の事?何の話?」
「え?違うのか?」
「Artemisやろ?ギリシャ神話から取ったんちゃうの?」
「もしかして…ねぇ、梓ちゃん、梓ちゃんは何でバンド名をArtemisにしようと思ったの?」
「え?Artemisってのは…」
あたしは翔子と澄香と日奈子にArtemisの由来を説明した。
そう、当時あたしが大好きだった漫画のヒロインから名前を取った事を…。
ふふ、当時は翔子には『何じゃそりゃ?』って顔をされて、澄香には『ああ、やっぱり梓は梓だな』って顔をされて、日奈子には養豚場のブタでも見るかのように冷たい目で『かわいそうだけど、明日の朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのね』って感じの顔をされた。
ふふふ。それが今となっては、目の前のなっちゃんにめちゃくちゃ複雑そうな顔をされている。
ふふ、泣きそうになってきた。
「まぁ、私もこの歌詞はいいと思うし、関東殴り込みってのは行き過ぎだけど、BREEZEかM&Sと対バンでデビューライブってのはいいかもね」
「そうだな。あたしらもバンドっても右も左もわからないんだし、ワンマンよりはそっちの方がいいか」
「じゃあ、葉月ちゃん達にはあたしから声掛けてみるよ。BREEZEの方は誰かにお願いしていい?確かBREEZEってホームページ作ってたよね?」
そうなのだ。
今はさすがに閉鎖しちゃってるけど、当時タカくんはBREEZEのホームページを作っていた。
コンテンツも少ないし、アクセス数も少なかったみたいだけど。
さすが今はweb関係のお仕事をしているだけある。
「じゃあ、父さんのパソコン借りて、私からBREEZEにはアポ取ってみようか?
あ、でもライブ関係のアポとかは翔子が本来やるんやっけ?」
「あたしがやるのはライブハウスの調整とかそんな感じの体外的な事だし、他のバンドとのアポはやりやすいヤツがやったらいいんじゃないか?あたしパソコン持ってないし」
「うぅ~!早速ライブやれそうやね!ワクワクしてきた!」
・
・
・
それから数日後の学校からの帰り道。
あたしと澄香と翔子と日奈子の4人で帰路を辿っていた。
「はぁ…BREEZEまたダメやって…」
「えぇ~…また?」
澄香はあの日から早速、BREEZEとアポを取ってくれていたけど、BREEZEには断られていた。
まず1通目。
『私達、関西でバンドデビューしようと思ってるArtemisといいます。
先日の大阪でのBREEZEのライブを見てかっこいいと思いました。もしよろしければ私達のデビューライブに対バンしていただけませんか?』
『すみません、関西とか遠いのでそんなしょっちゅう行けません。申し訳ないですが関西で対バンは出来ません』
という断られ方をした。
これは確か拓斗くんからの返信だったかな?
そして2通目。
『私達、BREEZEに憧れてバンドやりたいって思ったんです。もし関西に来れないようでしたら私達が関東の方へ行かせていただきます!』
『いや、俺達そんな来ていただくような凄いバンドではありませんので。いやマジで申し訳ないし』
これはタカくんからの返信だったよ。
本当はもっと卑屈な事が書かれてたみたいだけど、はしょるね。
3通目。
『お願いします!デビューライブはBREEZEさんと一緒にしたいんです!』
『デビューライブを俺達とって気持ちは嬉しいですけど、う~ん…やっぱり関西に行くとか、関東に来てもらうとか…。みんなとまた話し合ってみますけど期待はしないで下さいね』
これはトシキくん。
そして今日届いたという4通目。
『私達ガールズバンドですけど気持ちは熱いのを持ってるつもりです!お願いします!』
『お、君たちガールズバンドだったのか?だったら取り敢えずメンバーの顔写真を添付し…ちょ、ま、タカ何で殴っ…あ、三咲!違うこれは違っ…』
英治くんからの返信だった。
何であんな内容のメールが送られてきたのか不思議だったけど、もうこの事については触れないでおこうと思った。
「う~ん…ダメかぁ。葉月ちゃん達もダメだったんだよね?」
「葉月ちゃん達M&Sはダメっていうか、曲がまだ2曲しかないから出来ないって。3曲目もあるにはあるけど、まだ練習中だからってさ」
「あたしらも2曲しかないしな。まだ時期尚早だったかなぁ」
BREEZEには断られて、M&Sはあたし達同様に曲数がない。
もう少し時間を掛けて曲を作ってからの方がいいのかな?
あたし達がそんな風に考えてた時…。
「げ、か、神崎…!」
「「あっ!お前は!!」」
あたし達の帰り道。
そこにたまたま現れたのは、翔子と敵対していたボランティアグループ
「お前…まだあたしの事狙ってんのか」
「前回は日奈子にいいとこ持ってかれちゃったけど、まだ翔子の事狙ってんなら今度はあたしがやっちゃうよ!」
「違っ!違うわ!たまたまじゃ!」
「梓…ライブが決まらんからってイライラしすぎ。やっちゃうよじゃないよ」
「そうだよ、翔子ちゃん、梓ちゃん。中学生相手に大人気ないよ?」
「「え?中学生?」」
ダークソルジャーの女の子はまだ中学生だった。
確かにこの日、その子は隣町の中学校の制服を着ていた。
考えてみたら翔子の中学の後輩ちゃん達のボランティア部の争い事だったんだから、その相手も中学生だよね…。
「そうや!大人気ないで!そ、それにもう日奈子さんを怒らせるような事せぇへんわ!」
「日奈子さん?日奈子、この子にあの後何したの?」
「ニコッ」
日奈子の笑顔が怖かった。
ダークソルジャーの女の子と会ったのは、たまたまだったのかと安心したあたし達は、このまま家に帰ろうと思ったけど…。
「ちょ!ちょいまち!」
ダークソルジャーの女の子に呼び止められた。
「あ?何やねん。やっぱりあたしに何かあんのか?」
「さっきそっちの子がライブ決まらんとか言ってたけど、神崎、お前らバンドやってんのか?」
「あ?そんなんお前に関係あらへんやろ」
「私の先輩がライブやりたがってて…、だから今、私はライブやりたいってバンドを探してる。
もし…お前らライブやりたいって思ってんねやったら、先輩を紹介したるけど…」
「あ?誰がお前の先ぱ…」
「「「やる!ライブやる!紹介して!」」」
そうしてあたし達はダークソルジャーの女の子に、ライブをやりたがっているという先輩を紹介してもらう事になった。
「あたしは気乗りしねぇなぁ…」
「もう!翔子もいい加減大人になりいや。BREEZEもM&Sもダメだったんだし、私達がライブやる為にも紹介はしてもろた方がいいでしょ」
「澄香の言う通りだよ。もし、あたし達と合わないようなら断ればええんやし。あたしは早くライブやりたいし」
「ねぇ、その先輩さんってバンドやってるの?ライブやりたがってるってどんな状況?」
「行けばわかる事ですが、先輩はバンドは今は無くてソロなんです。ギタボなんですけど、他は打ち込みで…」
「打ち込みで?てか、ギタボなら梓ちゃんと一緒か」
「バンドはクリムゾングループの奴らに…」
クリムゾン…?
今、ダークソルジャーの子はクリムゾングループと言った?
クリムゾングループって…お父さんのいる…あの?
あたしはダークソルジャーの女の子がクリムゾングループの名前を出してびっくりした。
いくらあたしが音楽から離れてたと言っても、当時はまだクリムゾンミュージックは日本に進行してきてなかったし、お父さんのいるクリムゾンエンターテイメントも他のクリムゾン関係の会社も、まだそんなに力を持っていなかったんだから、クリムゾングループの名前を聞く事なんか当時はほとんどなかった。
「で、でも先輩は凄いですよ!みんな知らないでしょうけど、音楽界では伝説のように語り継がれてるレガリアってのがあって、先輩はそのレガリアの使い手なんですからっ!」
「「「「レガリア!?」」」」
「え?あれ?みんなレガリア知ってる感じ?」
あたしはまたびっくりした。
まさかレガリアを知っている人が、あたし達以外にも居るなんてと…。そして、今からそのレガリアの使い手に会えるんだと…。
・
・
・
「先輩!ライブやりたいってバンド見つけてきました!」
「へ?
ダークソルジャーの女の子が先輩と呼ぶ女の子。
あたし達と同い年くらいに見えた。
そしてダークソルジャーの女の子は麻友って名前なのか。と、その時初めて知った。
「あー、えっと、ごめんなさい。ライブやりたいってずっと言ってたのは本当なんですけど、私今バンドないから…って、」
その先輩は言葉を途中で止めて、澄香の方へと歩いて来た。あれ?この子どこかで会った事があるような?
「あ、もしかして、こないだのライブの時、タカのピックを交換してくれた…」
あたしは澄香の言葉にハッとした。
そうだ。確かあの時、澄香と雨宮さんとタカくんのピックを交換してくれた女の子だ。
「やっぱり!あの時はありがとうございました!
雨宮さんのピック、すごく大事にしてます!」
「いえ、私こそ。私もタカのピック、すごく大事にしてます!」
「あ?この子澄香の知り合いなのか?」
その先輩さんの名前は、
あたし達より1つ歳上の高校2年生。
加奈子ちゃんは天秤座のレガリア使いで、レガリアはかつて矢沢さんやお母さんと共に戦い、大神さんとレガリア戦争で戦ったお父さんから受け継いだらしい。
そして、中学生になった頃に友達と
クリムゾンマーケットって聞いたことすらないとはいえ、そんな会社に打ち勝つとはさすがレガリア使いだと思ったけど、これって音楽の話だよね?倒れてしまったって何?
「そっか。澄香ちゃん達はあの日BREEZEを聴いて、バンドやろうと思ったんだ?そして目標はエクストリームジャパンフェスか。すごいね」
「そ、そんな事ないですよ…!それよりクリムゾンの事とか…それでもソロで音楽頑張ってるって…さすがレガリア使いっていうか何というか…」
「そんな大した事ないよ。それに…私が音楽辞めちゃったら、それこそクリムゾンとの戦いで倒れたメンバー達に悪いしね。それに私も音楽好きだし、今もまだ雨宮さんといつか対バンしてみたいなって思ってるし」
加奈子ちゃんはいつか雨宮さんと対バンするのが夢だったみたいでね。
加奈子ちゃんはこれからだいぶ後の事だけど、その夢は叶える事が出来たんだよ。
「Artemisってさ、曲ってどれくらいあるの?」
「あ、あたし達はまだ2曲しかなくて…」
「2曲かぁ…。私もライブしたいし、Artemisのみんなもライブしたいって思ってるなら、ちょうどいいと思ったけど、さすがに曲が少ないかなぁ…」
「あ?加奈子さん、あんたも曲数あんまりないんすか?」
「ううん、さすがに私はあるけど、お客様に来てもらうんだから10曲くらいはやりたいじゃない?Artemisが2曲で私が8曲とかになったら、せっかくのデビューライブなのにArtemisはゲストみたいになっちゃうやん?」
「あ、そっか…」
「んん!ねぇねぇ、だったらM&Sに声掛けようよ。葉月ちゃん達は練習中らしいけど3曲あるから、梓ちゃんがライブまでにもう1曲作っちゃえば、3曲ずつで9曲になるじゃん」
「お、Artemisは他にも声掛けれるバンドさんがいるんだね。9曲ならまだいいかな。梓ちゃん出来そう?」
日奈子と加奈子ちゃんからとんでもない無茶振りが来たけど、あたしはライブをやれるという気持ちで、気が大きくなっていた。
「うん、全然出来るよ。でも9曲じゃお客さん達も満足しないかもしれない。あたし、ライブまでに2曲作る!葉月ちゃん達にも4曲作ってもらったら、ほら!3バンドで12曲!!」
「梓本気…?」
「え?梓ちゃん本当に出来るの?まぁ、ライブの日程を延ばせば出来そうだけど…」
「あ、そだ。忘れてた」
あたしはひとつ大事な事を忘れていた。
バンドを始めた時、デビューライブは…
「あの、加奈子ちゃん。デビューライブはこないだのBREEZEのライブ観たあのライブハウスでやりたいんやけど…ええかな?」
デビューライブは氷川さん達がライブをしたあのライブハウスでしたいと思っていた。
あ、別にBREEZEと出会った場所だからとかそんなんじゃないよ。
あのライブハウスは、あたしがまた音楽を好きになった場所だから、バンドをやりたいと思った場所だから、そこからスタートしたいって思っていたの。
「あそこか…。あそこは前に私もやったことあるし、いいと思うよ」
「良かったぁ~♪」
「じゃあ私からライブハウスに連絡して、みんなに連絡するの」
「あ、加奈子さん、待ってくれ」
「どうしたの?翔子ちゃん」
「Artemisのライブハウスとの調整とかさ。あたしがやる事になってんすけど、今は右も左もわかんなくて…。良かったらあたしに色々教えてもらえないですか?」
「あ、そうなんだ?じゃあ一緒にやろっか。ライブハウスに寄って違うシステムのところもあるけど、大体基本的なところは一緒だし、色々教えてあげるよ」
「おぉ~!ありがとうございます!」
「梓ちゃん、加奈子ちゃん!M&Sもオッケーだって!」
日奈子はあたし達が話している間にM&Sと連絡を取っていた。
葉月ちゃん達、旧M&Sに言っても4曲は無理とか言いそうだったからと、陽子ちゃんに連絡したらしい。日奈子グッジョブ。
・
・
・
それから2日後。
「梓、澄香、日奈子!」
「ん?どしたん?」
「ライブの日程決まったぜ!2週間後の土曜日!その日なら大丈夫そうなんだよ」
「2週間後!?な、何か長いような短いような…。梓、曲の方は大丈夫?」
「ふっふっふ、余裕。既に3曲目が完成間近なところまで出来ている。後ちょっと調整したら、おっちゃんに譜面におこしてもらって、みんなに渡すよ」
当時はまだみんな分の譜面を作るスキルはなかった。
「葉月ちゃん達にも伝えたよ!」
日奈子は仕事が早かった。
ともあれ、2週間後の土曜日には、とうとうあたし達のデビューライブ。
あたしは楽しみとワクワクでいっぱいだった。
「ただいま~」
あたしは早く曲を完成させようと颯爽と帰宅した。
この日は澄香はバイトで、日奈子は生徒会のお仕事。
翔子は加奈子ちゃんとライブハウスに行っていた。
-シ~ン
「あれ?お母さん?ただいま~って~」
-シ~ン
「寝てるのかな?珍しい。
いつもこの時間なら時代劇の再放送とか観とるはずやのに」
あたしのただいまという言葉に、お母さんからのおかえりという返事はなかった。
お母さんは昔に病気になってからどんどん悪化し、今では1日のほとんどを布団の中で過ごすようになっていた。
…たまに起き上がってダンスしたり、吐血したり、出来もしない料理をしたりしていたけど…。
あたしはお母さんがちゃんと寝ているか確認する為にお母さんの部屋の襖を開けた。
「あれ?居ない?……あ、もしかして今日って病院の日やったかな?」
お母さんは定期的に病院に通い、薬を貰っている。
病院には1人では行けないから、いつもなっちゃんちのおっちゃんに連れて行ってもらっていた。
だから定期的とは言っても、おっちゃんの時間のある日に限定されていた。
「あー、最近はバンドの練習とか曲作りばっかりで、お母さんの病院の日把握してなかったなぁ」
部屋にお母さんが居なかったから、あたしはお母さんは病院に行ったものだと思い込んでいた。
「あ、それより曲作らなきゃ!」
あたしは曲作りをしようと、あたしの部屋に入った。
「お母さん!!?」
病院に行っていると思っていたお母さんは、あたしの部屋で血を吐いて倒れいた。
「お母さん!お母さん!!」
お母さんから返事はなかった。
だけど、かすかに呼吸音はしていた。
「お母さん…いや、救急車…救急車呼ばな…」
あたしは携帯を取り出し、急いで救急車を呼んだ。
「お母さん…嫌やで…あたしをひとりにせんとってや?」
あたしは泣きそうになるのを必死に堪えていた。
今泣いてしまったら…何か全部終わってしまいそうな気がしたから。
そして、なっちゃんに『涙はここぞという時の女の武器』だと教えた手前、あたしは涙を流す訳にはいかなかった。
「お母さん…そういや何であたしの部屋に…?」
あたしは不思議に思い、あたしの部屋を落ち着いて見渡してみた。
「なっ!?何で!?」
あたしは驚いた。
むしろ驚愕した。
だって、あたしの部屋のテレビで、あたしがいつもこっそりやっている乙女ゲーがプレイ中になっていたからだ。
そして、主人公の名前。
あたしは改名出来るゲームは『あずさ』という名前でプレイしている。
だけど、プレイ中のゲームの主人公の名前は『はるな』になっていた。
お母さんが…まさか…。
このゲームはレトロでセーブデータは1つまでしか保存出来ない!
あたしの…あたしのゲームデータはどうなった!?と思ったけど、冷静に考えたら救急車が到着して、救急隊員の人がこの部屋に入ってきたら大変な事になる。今はセーブデータの事を考えている場合じゃない…。
あたしは急いでゲームの電源を切り、別の意味で流れそうになる涙を堪えていた。