バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第45話 雨の中のライブ

「だから大丈夫やって~。ただの過労やってさw」

 

「いやいやいや、wじゃないでしょ。wじゃ。血を吐いて倒れて意識失くしとったやん…」

 

「遙那が血を吐くのは日常茶飯事やったとしても、意識失うのは初めてやろ。そりゃ梓も心配するやろ」

 

「いやー。梓がバンドで忙しいからさ。お母さんも梓の力になろうと思って、梓が攻略してないゲームをお母さんがクリアしといたろと思ったんやけど、うっかりハマって長時間プレイし過ぎたし、攻略対象キャラがあまりにも尊くて意識飛んじゃったよ」

 

「いやいやいや、あたしのゲームはあたしがクリアするし。めちゃくちゃ余計な事やん!?」

 

あたしは木原 梓。

血を吐いて倒れているお母さんを見つけ、急いで救急車を呼んで病院に運んでもらった。

 

お母さんが医者に診てもらっている間、パニックになっていたあたしは、なっちゃんちのおっちゃんを呼び出していた。

お母さんの治療は終わったけど、お母さんはこのまま入院する事になった。

今はあたしとお母さんとおっちゃんの3人で、お母さんが入院する病室に居た。

 

「ま、ただの過労で良かったわな。俺も一安心や」

 

「おっちゃん…お母さん…本当に過労なの?」

 

「あ?入院の手続きをお前に代わってやってやった時に先生がそう言ったからそうとちゃうんか?」

 

「そっか…良かった…」

 

「だから大丈夫言うてるやん。またゲーム途中やし、早く続きやりたいからすぐ退院するよ」

 

「だから、ゲームはしなくていいから…」

 

「ほんま退院しても大人しくしとけよ、お前は…」

 

そんな話をしていると、おっちゃんにおっちゃんの嫁である明子さんからメールが届いた。

どうやらあたしを車で迎えに来てくれたらしい。

 

「って訳で病院の玄関で明子と渚が待っててくれとるからお前は帰れ」

 

「なんやて!?なっちゃんがあたしをお迎えに!?なんて…なんて可愛いんやろか…って、明子さん来てくれたのにおっちゃんは一緒に帰らへんの?」

 

「帰りたくても帰られへんねん。まだ手続きがいくつか残っとるからな。だから梓だけ先に帰らせたろと思って、明子を迎えに呼んだんや」

 

「あ、そうだったんだ…」

 

「梓、入院中悪いけど家の事お願いね。あと、バンドもちゃんと頑張るんやで」

 

「わかってるって…。んじゃ、明子さんとなっちゃんをお待たせしすぎても悪いし、あたしは帰るな。また明日も来るから」

 

あたしは急いで病室を出ようとして、ふと思い出した事があったので、またお母さん達に声を掛けた。

 

「そやそや。あたしらのデビューライブ。2週間後の土曜日に決まったからさ。お母さんとおっちゃんにも観てもらいたいし、それまでに退院してな。おやすみ!」

 

あたしはそれだけを言って、明子さんとなっちゃんの待つ病院の玄関へと向かった。

 

 

------------------------------------------

 

「ごめんね、龍ちゃん」

 

「…何がや?」

 

「梓に嘘つかせて…」

 

「…それぐらい何でもないわ。それよりほんまに梓に言わんで良かったんか?」

 

「うん…今あの娘はやっと音楽を好きになれて、バンドを頑張ろうとしてる。どうにもならない事やし余計な事は考えさせたくない」

 

「そう…か…」

 

「でも2週間後にデビューライブか。…多分行かれへんやろなぁ」

 

「……」

 

「まだいっぱいやりたい事とか見たい事あったんやけどね。梓のウェディングドレス姿も見たかったし、孫も見たかったし…。それから他にもさ…。あ、氷川くんが大神くんのレガリアを託したタカくんって子にも会ってみたかったな」

 

「……グスッ」

 

「あと数ヶ月じゃ…無理やろうね…」

 

------------------------------------------

 

 

その次の日からあたしは毎日お母さんのお見舞いに行った。

お母さんは大丈夫だと言っていたけど、あたし自身がお母さんに会いに行きたかったから。

 

その時にはお医者様には、お母さんはもう長くないと言われていたらしい。

お母さんはまだ元気そうだったし、あたしはそんなの全然知らなかったけど、なんとなくお見舞いに行かない日を作りたくなかった。

 

もちろん、ライブに向けて練習も必死に頑張っていたし、あたし達の曲、4曲目も完成させていた。

 

そしてデビューライブまで残り6日となった日曜日のこと。

あたしは澄香と翔子と日奈子を連れて、お母さんのお見舞いに来ていた。

 

「みんなありがとうね。バンドの練習もあるやろうに、わざわざお見舞いに来てもらって」

 

「うぅ~…お母さんの退院…デビューライブまでに間に合わなかったか…」

 

「私もおばさんには小さい頃からベース見てもらってたし、デビューライブには来て欲しかったですけど、残念です。でもこれからもライブはやっていくんで、退院したら是非!」

 

「澄香ちゃんもありがとう。退院したら行かせてもらうね」

 

「お、なんや。梓だけやなくて澄香も翔子も日奈子も来とるんか」

 

「お、師匠。お疲れ様です。今日はお仕事サボりですか?」

 

「いや、今日は日曜日やしな。普通に休みやし」

 

あたし達がお見舞いに来ている時に、たまたまおっちゃんもお見舞いに来た。

 

「おっちゃんが来たならちょうどいいね。おっちゃん、あたし達を車で楽器屋まで送ってよ」

 

「あん?楽器屋」

 

「うん、お母さんのお見舞い終わったらみんなで行こうと思ってたんだけど、あたしも翔子もそろそろ自分のギター買おうと思って」

 

「は!?ライブは次の土曜日やろ!?お前らまだギター買ってなかったんか!?」

 

「そうなんだよね。ぷんぷん。

あたしなんてArtemisの為にドラムも新調したのにさ。FXで儲かったし」

 

「私も自分のベースあったんだけど、父さんと母さんがバンドやるなら新調しろってうるさくてさ。まぁ、お金はありがたい事に父さんが出してくれたんだけど…」

 

「澄香も日奈子も新調したのに、あたしと梓だけ師匠の借り物ギターってのも…。大したギター買えないでしょうけど…」

 

「あたしはお金はないけど、カードがあるから大丈夫!」

 

「え?待って梓。それお母さんのカード…」

 

「なるほどな。そういう事なら連れてったるけど、梓もカードの力でいいギター買えそうやのに、翔子だけしょぼいギターってのは可哀想やな」

 

「うぅ、言わないで下さいよ、師匠…」

 

「待って龍ちゃん。梓はいいギター買えそうって何?あれ私のカードなんやけど」

 

「よし!翔子は俺の唯一のギターの弟子やしな。翔子のギターは師匠から弟子へのプレゼントって事で俺が買ってやる!」

 

「え!?いいんすか!?いや、でもさすがに申し訳ないですよ!」

 

「翔子だけズルい!ってか、唯一のギターの弟子って、あたしもおっちゃんのギターの弟子やん!」

 

「待って龍ちゃん。龍ちゃんが翔子ちゃんにギター買ってあげるとか、梓に私のカード使うなってめちゃくちゃ言いづらくなるやん」

 

「そうと決まれば行くでお前ら!俺に着いて来い!」

 

「「「「おー!」」」」

 

そうしてあたし達は楽器屋へと向かった。

 

「私の…カード…」

 

・

・

・

 

「翔子はリードギターやし高音域に強くてソロもしやすいストラトがええやろ。これとかどうや?」

 

「これすか?う~ん、あたしにはちょっと軽いような…」

 

-ギュインギュインキィン

 

「音は確かにいいすね。でもなぁ…あたしに使いこなせるかな?」

 

「軽くて持ちやすいからネックの根元部分も弾きやすいやろ?」

 

「あ、ほんまや。あんま引っ掛からんとスムーズで弾きやすい」

 

「軽さには馴れてけばええし、ギターソロもやるならパフォーマンスも大事やしな。カラーは適当でええから、その辺のストラトから選び」

 

「はい!そうします!あ、師匠、これとかどうすか?」

 

「おっちゃんおっちゃん、あたしはどんなんがええかな?」

 

「あん?好きなんでええんちゃう?あ、翔子、それはな…」

 

おっちゃんは翔子に付きっきりであたしにはアドバイスすらしてくれず、あたしは路頭に迷っていた。

 

「うぅ、おっちゃんのアホめ…」

 

「まぁ、ギターは翔子ちゃんがメインだしね。梓ちゃんは適当にデザインとか好きなので選んだらいいんじゃない?」

 

あたしがギター売り場をうろうろしていると、いつの間にか変形ギターのコーナーに辿り着いていた。

 

「へ、変形ギターか…。かっこいいのも多いけど、後で後悔しそうやしなぁ…」

 

そんな事を思いながらも一応一通り見ていると…。

 

「これ…星の形…?」

 

あたしはヘッドがレスポールタイプで、星の形をしたランダムスターを手に取ってみた。

なっちゃんが今使ってくれてるギターだね。

 

そういえば美来ちゃんもランダムスターのギターで演奏してるらしいけど、ヘッドの部分はあたしのと違ってナイフヘッドにしてるって言ってたっけ?

あたしは尖ってるんだぜってアピールかな?

 

「ん?梓はそれにすんの?確かランダムスターやっけ?」

 

「ランダムスター?澄香はこのギター知ってんの?」

 

「ほう、ランダムスターか」

 

「おっちゃん?」

 

「梓にしてはええギター選んだやんけ。翔子の選んだギターと違って低音域に強いし、派手なピッキングもしやすいボディーになっとるしな」

 

「へぇ…そんなにいいギターなんだ?」

 

「デザインもいいんじゃない?変形ギターだから他と被りにくいし、梓ちゃんにはスターになって欲しいしね」

 

「あたしが…スターに…。うん、これにする。あたしのギターはこのランダムスターにする!」

 

そうしてあたしと翔子は自分のギターを手に入れ、とうとうデビューライブの日がやってきた。

 

・

・

・

 

「うぅ、緊張する…私もっかいトイレ行ってくる」

 

「日登美ちゃんまたおトイレ?」

 

「じゃあ私が場を盛り上げて、次にM&S、そしてトリがArtemisで。予定通りこの順番でいい?」

 

「うん、大丈夫。みんなも大丈夫だよね?」

 

「姫帝の次とかめちゃプレッシャーやし、Artemisの前に失敗しちゃったらどうしよう…」

 

「葉月は心配性やなぁ。失敗もまたええ思い出になるって」

 

「さすがにお客さんはまちまちだね。いつかこのライブハウスもいっぱいにしたいよね」

 

もう少しで開演時間。

あたし達は緊張しながら思い思いに喋っていた。

 

「よし、時間かな。じゃあ1番手行ってくるね」

 

加奈子ちゃんはそう言ってギターを肩から掛けて、左手に綺麗な宝石の付いたバングルを着けた。

 

「加奈子ちゃん?そのバングルは?何か綺麗な宝石だね」

 

普段は他人のアクセサリーなんか気にしないんだけど、そのバングルだけは妙に気になったので、加奈子ちゃんに聞いてみた。

 

「あ、これ?これはレガリア。天秤座の宝玉だよ」

 

「レガリア!?」

 

そう言って加奈子ちゃんはステージへと向かった。

 

「あれがレガリア…」

 

「初めて見たよ…」

 

M&Sのみんなにはちんぷんかんぷんだったみたいだけど、あたし達Artemisにとっては初めて見るレガリアに感動していた。

 

そして加奈子ちゃんの…初めてのソロになってからのライブが始まった。

 

いつもの印象と違って力強い存在感のある歌声だった。

まるで1人で歌っているんじゃないみたいなサウンドに、会場もあたし達ものみこまれていた。

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

「ありがとうございましたー!次は今日デビューライブのM&Sです!みんなこの後も盛り上がって下さーい」

 

ステージ上でそう言った加奈子ちゃんは、ステージ袖へと戻ってきた。

 

「うーん…!疲れたけど楽しかったぁ~」

 

「つ、次は私達だ…」

 

「葉月も落ち付きいゃ。なるようにしかならへんねんから今の精一杯をやろうや」

 

「日登美、ごめん、私お腹痛くなってきた…トイレ行っていい?」

 

「え!?今から!?ちょ、もうスタッフさんが私らの機材出してくれてのに…!」

 

加奈子ちゃんのライブが終わり、M&Sのみんなはワチャワチャとしていた。

 

M&Sの演奏をリハで観た時、、あたし達とは違ったジャズではあったけど、すごく繊細なリズムですごい演奏だと思った。

日奈子もこう言っていた。

 

『なるほどね~。あたしがいない方が葉月ちゃん達には良かったかも』

 

『ちょ、日奈子。そんなネガティブな発言は…』

 

『違うよ、梓ちゃん。ネガティブな気持ちで言ってない。

あたしはM&Sの時も楽しかったけど、今のArtemisはすっっっごく楽しいし、あたしがわざと無茶なリズムを刻んでも翔子ちゃんも澄香ちゃんもしっかり着いてきてくれるしさ』

 

『あ?いつも無茶しやがってって思ってたけど、お前アレわざとだったのかよ!』

 

『私も翔子も必死だったっての…。でも結果いい曲調にはなってるからええけど…』

 

『あたしもM&Sの時は葉月ちゃん達に合わせなきゃってのもあったし、葉月ちゃん達もあたしに合わせるのに必死だったんだと思う。でも、今の葉月ちゃん達はのびのびと演奏してる。なんかね、それって寂しい事なのかも知れないけどさ。今、あたしは嬉しいんだよ』

 

『『『日奈子…』』』

 

あたし達はM&Sのリハを観てそんな話をしていたんだけど…。

 

「う…うぅ…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

M&Sのライブが終了して、舞台袖に戻って来た日登美ちゃんは泣き出してしまった。

 

3曲目の途中でベースの日登美ちゃんは失敗してしまい、その失敗がこたえたのか3曲目はそのままボロボロの演奏になってしまった。

 

なんとか4曲目には持ち直して、失敗する事なく終わる事は出来たけど、日登美ちゃんの失敗で3曲目がダメになってしまった事を悔やんでいた。

 

葉月ちゃん達は何とか慰めようとしていたけど、スタッフさんが機材の入れ替えを完了させてくれたら、次はあたし達の番だ。

あたし達も緊張していたのもあったし、当事者じゃないあたし達は日登美ちゃんに何も声を掛ける事が出来なかった。

 

「私、情けないよ…みんなでいっぱい練習したのに…日奈子と約束もしたのに…私…バンド辞めた方が…」

 

「「「日登美!?」」」

 

日登美ちゃんは自分の情けなさにバンドを辞めようとしていた。だけど、そんな時に…。

 

「「本当に情けないね」」

 

日奈子と加奈子ちゃんが同時に日登美ちゃんに声を掛けた。

 

「ちょっと!日奈子!そんな言い方…!」

 

「加奈子さんも情けないってのは言い過ぎじゃないですか?」

 

葉月ちゃん達はそんな日奈子と加奈子ちゃんの言葉に対して非難を送った。

だけど、2人ともそんなのはお構い無いにこう言った。

 

「だって!今泣くほど悔しいのに!ステージの上では泣かなかったじゃん!最後の曲も笑顔でやりきったじゃん!それってすごい事じゃん!」

 

「最後までしっかりやりきったやん!音楽が好きだから今、悔しいって泣いてんでしょ!?そんな好きな音楽なのに!今、辞めちゃったら全体後悔するやん!」

 

「グスッ…日奈子…加奈子さん…」

 

「あたしはそんな日登美ちゃんはすごいと思う。全然情けなくなんかない!そんなすごい事をやり遂げたのに、今辞めちゃう方が情けないじゃん!」

 

「私も失敗した事いっぱいあるよ。歌詞を間違える事もあれば、ふっつーにコード押さえきれなくて音がちゃんと出せなかったりとかさ。失敗はみんないつかは経験するよ。日登美ちゃんは今日がたまたまそうだっただけ。次のライブでまたリベンジしたらいいやん。音楽が好きならさ」

 

日奈子と加奈子ちゃんがそう言って、日登美ちゃんは『うん…本当はまたリベンジしたい。葉月達がいいなら…私もまだバンド続けたい。次は失敗しないように…』そう言ってバンドを辞める事を撤回してくれた。

 

その時の日奈子と加奈子ちゃんの言葉は、あたしにも重く乗っかってきた。

 

あたしも失敗するかも知れない。

でも、ステージでは最後まで笑顔でいよう。

あたしも…今は音楽が好きだから。

 

あたしは改めてそう思い、ステージに立った。

 

まだステージは暗かったけど会場は明るいから、お客様達の顔がよくわかる。

そして、会場に居た時には気付かなかったけど、ステージから見る会場はすごく広く感じた。

 

ここがBREEZEのTAKAが…。

ううん、多くのバンドマン達が見た景色なんだ…。

 

あたしは柄にもなく緊張してきた。

軽く深呼吸して呼吸を整え、澄香達も緊張しているだろうと心配して、澄香と翔子と日奈子に目をやった。

 

…3人共全然緊張してる気配がない。何で?

緊張どころかめちゃ落ち着いてて、いつでも演奏出来ますよ。って顔をしている。

日奈子に至ってはくるくると軽快にドラムスティックを回していた。

 

あたしだけ緊張してるのも何か恥ずかしくなって、逆に緊張もほどけた程だった。

 

-パッ

 

あたしがそんな事を考えていると、ステージにライトが当てられて一気にステージが明るくなった。

 

ここからがあたし達のハジマリだ。

 

「いっくよぉ~!Artemisぅぅぅ!!」

 

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

 

「そうしてあたし達のデビューライブは終わった」

 

「え?」

 

「そしてそれからの日々も…」

 

「梓お姉ちゃん!待って!ちょっと待って!」

 

「ん?どしたの、なっちゃん?」

 

読者のみんなも既に忘れているかも知れないが、これはあたしがなっちゃんに昔の事をお話してあげているお話なのである。

 

あたしがデビューライブを終えたところまで話終えると、ずっとビールを飲みながらあたしの話を聞いていたなっちゃんがあたしにストップをかけてきた。

 

「何か変なところあった?」

 

「いや、変なところあった?っていうか、変なところだらけだったんだけど、やっとまともにライブのお話だって思ってたのに、デビューライブのお話はもう終わっちゃうの?」

 

「……えっと、普通に大成功して普通に終わったし?特にお話して聞かせるような面白い事は…」

 

「正直さ?どうでもいいような所とかいっぱいあったし、めちゃ長かったけど、やっとデビューライブだよ?もっと色々あるでしょ!?」

 

どうでもいいような所?

はて?今までの話に、はしょってもいいような所あったかな?

デビューライブは滞りなく終わっちゃったから何も話すような面白い事もなかったし…。

 

「あっ!そういえば!」

 

「何か思い出した!?」

 

「ライブ終わった後、みんなでステージで挨拶した時、あたしだけピック投げしたら、みんなに『え?お前マジ?デビューライブで何やってんの?』って顔されちゃって恥ずかしかったなぁ~」

 

「そういうのがどうでもいい所だよ!?」

 

「う~ん…まぁ続き話しちゃうね」

 

「え?あ…あぁ、うん、はい」

 

「それからあたし達はエクストリームジャパンフェスの為にも、いつかBREEZEと対バンする為にも、曲もちょっとずつ増やしてライブもたくさんしてね。M&Sや

加奈子ちゃん以外のバンドとも仲良くなったりしてね」

 

「そうそう!そういうお話だよ梓お姉ちゃん!」

 

「まぁ、たまに失敗したりもしたけど、滞りなくなくバンドライフは順調だったよ。夏休みには1週間毎日ライブってのもやったりしてね」

 

「1週間毎日ライブ!?すご…!それでそれで?」

 

「まぁそれも滞りなく終わっちゃって」

 

「おうふ…」

 

「それでもBREEZEには対バンを断られ続けてて、夏休みももう終わっちゃうって時だった」

 

 

・

・

・

 

 

お母さんの体調が悪化し、呼吸器を付けて、起き上がる事も出来なくなっていた。

 

「お母さん…」

 

呼び掛けてもお母さんは何も応える事はなく、静かに眠るだけ。たまに目を覚ます時もあるけど、少し話をしたらまた眠る。それだけしか出来なくなっていた。

 

「梓…」

 

「あ、澄香。どうだった?」

 

「え?どうだったって?何が?」

 

「もう。BREEZEからの対バンの返事だよ」

 

「BREEZEとの対バンって…。ごめん、ここ何日かは連絡してない」

 

「そっか。次のライブはいつだっけ?」

 

「次のライブって…」

 

「いつ?」

 

「まだ決まってない。夏休みずっとライブばっかりやったやん。少し…休憩しよ」

 

「そっか。確かに毎日バンドやライブばっかりやったもんね。たまには休憩も必要だよね」

 

「…しばらくおばさんと一緒におり。私は明日も来るから」

 

「うん、そうする。ありがとね、澄香」

 

お母さんの病状が悪化してから、これまでの事が嘘だったかのように、あたし達はバンドの練習もライブもやる事はなかった。

 

澄香も翔子も日奈子も、きっと気遣ってくれていたんだろうね。

 

「あ…ずさ?」

 

「お母さん!?」

 

「今日…は…ライブは?」

 

「うん、今日はライブは無いんよ。夏休みずっとライブやってたしな。みんな宿題もあるし、今は音楽より学生の本分やw」

 

「だ…ぶりゅ…って…あず…さは…宿題…」

 

「何言ってんのお母さん、あたしが宿題なんかやるわけないやんか(ニコッ」

 

「何…いいえが…おで…」

 

「お母さん?」

 

「…」

 

「お母さん…」

 

「…」

 

「何で…いつもみたいに怒ってよ…。ちゃんと宿題しろって…」

 

お母さんとゆっくり会話をする事も出来ず、お母さんが寝た事を確認したあたしは家に戻り、1人でギターを弾いていた。

 

-ポロン

 

「お母さん…ライブ来てくれるって、楽しみにしてるって言ってくれてたのに」

 

-ポロン

 

「バンドばっかり…音楽やってたから、お母さんとゆっくり話す時間もなくなって…」

 

-ポロン

 

「ううん、違う。音楽のせいじゃない。あたしがあたしだったからだ。音楽やってなくてもゆっくり話なんて…」

 

-ポロン

 

「それも違うか…。音楽をやったからだ。音楽を始めたから、バンドを始めたから、中学ん頃よりずっとお母さんとお話する事が出来た。音楽のおかげで、またいっぱいお母さんと話せたんだ…」

 

-ポロン

 

「お母さんに…あたしの、あたし達Artemisの歌…聴いて欲しいよ」

 

グスッ…

 

「決めた。お母さんにあたし達の歌を届ける!」

 

次の日、あたしは病院に行く前に澄香と翔子と日奈子をあたしの家に呼んだ。

 

「は?ライブやる?」

 

「何言ってんの梓。今は…おばさんと一緒に居た方が…」

 

「あたしもそう思うよ。今はちょっとバンドはお休みしようよ」

 

「違うの…!みんな聞いて!」

 

 

・

・

・

 

 

「梓…お前、本気か?」

 

「怒られるだけじゃすまないよ、それ」

 

「梓ちゃんはもっと利口だと思ってたんだけどな」

 

「あかん…かな?そうだよね。さすがに無茶だよね…」

 

「でも面白そうだよな。あたしは賛成だ!」

 

「私もおばさんにはArtemisの曲聴いてもらいたいし賛成。怒られたらみんなで謝ろ」

 

「ふひひ、やっぱ梓ちゃんは…Artemisは楽しいよね。あたしは大賛成!さっそく今日やっちゃおー!」

 

「日奈子…今日って…。

今日は雨やし準備もいるし、また後日の方が…」

 

「何言ってんだよ、梓。こういう事は早い方がいいって」

 

「私もそう思うよ。今から行こ、梓」

 

「雨の中でライブとか超かっこいいじゃん」

 

「みんな…ありがとう…!」

 

あたしはどうしてもArtemisの曲を、あたし達の音楽をお母さんに聴いてもらいたかった。

だから、澄香達にお母さんの病室に向けてライブがしたいと伝えたのだ。

 

そしてあたし達は病院へと向かった。

 

病院の前で…お母さんの病室が見える所で演奏を…。

Artemisのライブをやる為に。

 

 

・

・

・

 

 

あたし達は病院に到着し、お母さんの病室が見える裏庭でライブの準備を始めた。

 

「ぶわっ…雨風が強くなってきたな…」

 

「梓、いい?本気で歌わないとおばさんに届かないよ?」

 

「あはははは、嵐だ嵐だ。みんなは絶対真似しちゃダメだよ?」

 

「うん、わかってる。もう2度とやるチャンスもないだろうし、あたしは思いっきり歌う!みんな準備もセトリもオッケー?」

 

「ああ、あたしは準備オッケーだ」

 

「私も大丈夫。警備員さんとか来たら演奏止められるかもやし、最初っから飛ばしていくよ!」

 

「あたしも準備オッケー!いつでもいけるよ梓ちゃん!」

 

みんな準備が整いあたし達は今やれる最高のライブをここでやる。

でも、今思い返してみると、あの時日奈子はどうやってドラムを準備したんだろう?

 

「いくよ、お母さん」

 

あたしは思いっきり息を吸って出せるだけの声で…。

 

「いっくよぉ~!!!Artemisぅぅぅ!!!!」

 

いつもの掛け声を叫んで演奏を始めた。

 

 

 

----------------------------------------------

 

「あず…さ…?」

 

「遙那?起きたんか?」

 

「梓の…声が…聴こえる…」

 

「あ?夢でも見たんか?梓は今日はまだ来とらへんぞ」

 

「歌…りゅ…ちゃん…窓開けて…」

 

「やめとけやめとけ。今日は雨風強いしな。窓は開けん方がええよ」

 

「りゅ…ちゃ…おね…がい…」

 

「ハァ…しゃーないな。ちょっとだけやで?」

 

-ガチャ

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

「なっ!?あいつら…この雨の中何やっとんねん…」

 

「聴こ…える…これが梓の…Artemisの…」

 

「あいつら…遙那に聴かせる為に…って…」

 

「ごめん…龍ちゃん…」

 

「おまっ!お前何を起き上がっとるねん…!寝とかんとあかんやろが!!」

 

「こんな凄…い音楽…聴いて…寝…られへん…よ」

 

「遙那…。見えるか?あれが梓のバンドや」

 

「ええ曲…やね。梓の…歌も…翔子ちゃ…ギターも、澄香ちゃんのベー…日奈…ちゃ…ドラム…も」

 

「そうやな。ええ音楽や。

まだまだ荒々しい所もあるけどな」

 

「ふふ…きびし…なぁ…龍ちゃ…んは…。

りゅ…ちゃん…お願いが…あ…るの…」

 

「あん?お願い?」

 

----------------------------------------------

 

「ハァ…ハァ…、翔子、澄香、日奈子!もう1曲いける!?ハァ…ハァ…」

 

「誰に言ってんだ!全然余裕だよ!」

 

「雨が更に強くなってきた…。梓!次はもっと全力でやるよ!私の音も雨の音に負けんようにせんと…」

 

あたし達は警備員さん達にバレる事なく、4曲の演奏を終えた。

この時はお母さんにあたし達の歌が届いているのかわからなかったけど、あたし達は限界までやりきるつもりでいた。

 

「よし!梓ちゃん、翔子ちゃん、澄香ちゃん!次は新曲いっちゃおう新曲!」

 

「は!?日奈子何を言ってんの新曲って…」

 

「オッケー、あたしは大丈夫だ!」

 

「私も大丈夫!梓!

梓がノートに走り書きしてた『Mother(マザー)』って曲!あれやるよ!」

 

「えぇぇぇぇ!?アレ見たの!?ってか、アレはArtemisの曲ってつもりで書いた曲ちゃうし!」

 

「そうじゃなくてもやるよ梓!私達、曲はちゃんとやれるようになってるから」

 

「いつの間に!?」

 

お母さんが悪化して、もう永くないかも知れないと思った時、お母さんを想って書いた曲。

あれはArtemisの曲としてじゃなく、いつかお母さんが元気になったら聴いてもらおうと思っていた曲だった。

 

それなのに澄香達はその曲を演奏出来るレベルまで完成させていた。譜面も自分用にしか書いてなかったのに…。

 

「梓!お前、歌詞は覚えてるか!?」

 

「も、もちろん覚えてるけど…」

 

「ならやっちゃおうよ、梓」

 

「あの曲いい曲だよ。おばちゃんに届けようよ」

 

そしてあたし達はその日しか歌う事がなかった曲を演奏した。

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

「あっ!コラー!お前らこんな雨の中、こんな所で何をライブやっとるんやー!」

 

「げ!?ヤバッ、警備員に見つかってしもた…。

梓!澄香!日奈子!逃げるぞ…ってあれ?」

 

あたしと澄香と日奈子は警備員に見つかってしまったのでこれはヤバいと思ってそそくさと逃げ出していた。

 

「いや!待てよ!逃げるならあたしにも声掛けろよ!

何でもうあんな所まで逃げてんだよ!日奈子はドラムセットどうしたんだよ!」

 

「ゴルァ!待たんかい!」

 

「あ、ヤバ。あたしも逃げな…」

 

あたしも澄香も日奈子も翔子も警備員さんに捕まる事はなく、そのままどこをどう通ったのかわからないまま、あたしの家にみんな逃げてきた。

 

「ハァ…ハァ…お前らな!仲間だろ!逃げるならあたしにも声掛けろよ!」

 

「えー?翔子ちゃん、あたしに構わず逃げろ!って言ってなかった?あたしには聞こえたんだけど?」

 

「言ってねぇよ!日奈子の耳どうなってんだよ!」

 

「あはは、最後は締まらなかったけど、Motherも演奏出来たし大成功だよね」

 

「うん…でも、成功したのかな?お母さんに…Artemis(あたし達)の曲、ちゃんと届いたかな?」

 

「それは大丈夫だよ梓ちゃん」

 

「日奈子?」

 

「ふふ、梓。私も言ったやろ。大成功だよねって」

 

「澄香?」

 

「あたしチラッと見えたんだけど、病室の窓からおっちゃんとおばちゃんが顔出してこっち見てたよ」

 

「え?本当に…?」

 

「うん。私も見えたよ。2曲目やってた時かな。

おばさんに届いてるか心配になって病室の方見たらさ。おっちゃんとおばさんが顔を覗かせてた。だから絶対届いてるよ」

 

「良かった…良かったよぅ…。お母さんにちゃんと届いてたんだ…」

 

「はは、明日にでも師匠とお袋さんにあたしらの曲の感想でもみんなで聞きに行くか」

 

「「「うん!」」」

 

あたし達のお母さんに届ける為の雨の中のライブは大成功だった。

次の日、みんなでお母さんのお見舞いに行って、少しだけだったけど、お母さんからあたし達の曲の、音楽の感想を聞く事が出来た。

 

おっちゃんにはめちゃくちゃ怒られたけど…。

 

 

 

そしてそれから数日後、お母さんは亡くなった。

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