バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第4章 ギターとベース

「ダメだ…ギターが決まらん…」

 

奈緒ちゃ……奈緒とまどかとの飲み会の翌日の土曜日、俺は朝からライブハウス『ファントム』に来ていた。まどかの件で英治に一言文句を言ってやろうと思ったからだ。

だが、ファントムに入ってすぐに英治がこう言った。

 

「おお、タカか。ビール飲むか?奢るぞ?」

 

俺は英治を許してやる事にした。

うん、友情大事だからね。朝から飲むビール最高オブ最高。

 

「ギターやってるやつなら俺に心当たりあるぞ?」

 

「まじでか?誰?」

 

「初音」

 

「ダメだ。初音ちゃんとバンドやるとか俺の明るい未来が見えてこない。あ、俺の人生元から明るい未来見えてなかったわ」

 

「わかんねぇだろ?もしかしたら初音とのラブロマンスが待ってるかもしれん。むしろR18展開がくるかもだぞ?ほら、超明るい未来。俺もうこの若さでおじいちゃんになるのか…」

 

「それ父親の台詞なの?」

 

「父親の俺が言うのもなんだけどな。初音は可愛い。顔だけは。見た目だけは。初音目当ての男性客も多いくらいだしな。良物件だと思うぞ?見た目だけは」

 

「確かに見た目は三咲に似て可愛いけどな。見た目は…」

 

「お父さんもタカも私の横でよくそんな話出来るよね?もしかして私見えてないの?あれ?私存在してる?」

 

「トシキはほんとにダメなのか?」

 

「ああ、頼んではみたけどな。今は三線やってる時が楽しいって言ってるし、無理矢理バンドやらせるのもな」

 

「なら、今からトシキ呼ぼうぜ。俺も久しぶりに会いたいしな」

 

「トシキ土曜は仕事ちゃうかな?LINEしてみるか」

 

「お父さんお父さん。今私達もなうで仕事中なんですけど?」

 

「タカ、もう一杯飲むか?俺も飲んじゃおうかな」

 

「奢りならな」

 

「あれ?私の声聞こえてないのかな?」

 

そして英治はビールを2本持ってきた。

ああ、本当にお前も飲むのね?

そして英治は煙草に火をつけて大きく吸い込む。

 

「フー、仕事中に飲むビールは最高だな」

 

「あ、仕事中って自覚はあったのね?お前あれだよ?初音ちゃんばかり働かせてたらダメだよ?」

 

「そうだ!そうだ!!」

 

「だって俺が仕事に戻ったらお前帰るだろ?」

 

「あ?まぁそりゃな」

 

「らしいぞ初音?お父さん働こうか?」

 

「たまには親孝行も大事だと思ってるし、お父さんより私の方がしっかりしてるしね!お父さんゆっくりしてていいよ!」

 

「ほらな?初音は俺よりしっかりしてるから大丈夫だ」

 

「そーでっか」

 

それまるで初音ちゃんが俺に帰られたくないって思ってると勘違いしちゃうからね?もう止めてね?

 

「お前とまどかとやるバンドの何とかちゃん。あの子にベースじゃなくてギターにしてもらうとかは?」

 

「あ?それ本末転倒だろ?ベースがいなくなるじゃん」

 

「なるほどな。お前頭いいな。ならお前がギターボーカルやるとか」

 

「俺のギター…お前知ってるよね?」

 

「Fコードでほぼ引っ掛かるもんなお前。元々トシキにギター教えたのお前だったのにな。ははは、懐かしいな」

 

そんな話をしてると初音ちゃんが俺達にツマミを出してくれた。ほんと出来た娘さんですね!

 

「タカがどうしてもって言うなら私がギターやってもいいよ?ラブロマンス付きで」

 

「いや、いいよ。俺まだ捕まりたくないし。俺が捕まったら弟に迷惑かけちゃう」

 

「なら、うちのお客さんにあたってみる?ギターなら結構いるんじゃないかな?」

 

「本気でバンドやりたいって、バンドを探してる人に頼むのも気が引けるのもあるんだよな。ボーカルの歳が歳だし。いやん涙出そう」

 

「あー、そのタカにバンドやろうって言った女も、まどかお姉ちゃんもBREEZE絡みっちゃBREEZE絡みだもんね」

 

「うちに『15年前の伝説のバンドBREEZEのTAKAがバンドメンバーを募集中!ギターもしくはベースやりたい人募集!!』とかポスター貼るか?」

 

「やめて、恥ずかしくて僕死んじゃう」

 

 

 

「こんにちわー」

 

そんな声と共にファントムの扉が開かれ、トシキが入ってきた。

 

「うわ、二人共飲んでるの?」

 

「おう!トシキ久しぶりだな!」

 

「お、今日は休みだったか」

 

「えーちゃんも初音ちゃんも久しぶり。はーちゃんはこないだぶりかな」

 

「トシキさんこんにちは。トシキさんも飲む?」

 

「あ、俺はウーロン茶貰おうかな?」

 

「はーい」

 

そう言って初音ちゃんがウーロン茶を用意していると、トシキがエプロンを着けて洗い物を始めた。

 

「もう、えーちゃんダメだよ?初音ちゃんばかり働かせてたら。俺も洗い物くらいなら手伝うよ」

 

「あ、ありがとうトシキさん」

 

「俺はいい友達を持ったな」

 

「いや、お前が働こうね?」

 

洗い物を終えたトシキが追加のビールを持って俺達のテーブルにつく。

英治のやつが初音ちゃんにビールおかわりー!って言ったからだ。もうここの経営トシキか初音ちゃんに譲れば?

 

「タカとトシキと俺。こうやって3人揃うのも久しぶりだな」

 

「ああ、BREEZEが全員揃ったな」

 

「いやいや、宮ちゃんいないよ?」

 

「宮ちゃん?誰それ?」

 

「もう、はーちゃんは……。それより俺何で呼ばれたの?バンドの話?えーちゃんはまたバンドやるの?」

 

「いや、俺が久しぶりにトシキに会いたいって思ってな。バンドの話は俺は断ってないのに断った事になってた」

 

「え?そうなの?はーちゃんに好きな人出来たからって、恋の為にバンドやるんじゃないの?」

 

〈〈バリン〉〉

 

「あは、お皿拭いてたら割れちゃっタ」

 

「え?初音ちゃん大丈夫?」

 

「大丈夫だヨ。それよりトシキさんその話…詳しく聞かせテ?」

 

「お前トシキにそう言って頼んだの?」

 

「まぁ…トシキに頼むにはこれが1番かなと…あながち嘘でもないしな」

 

「その恋の相手ってタカにバンドやろうって誘った子?意外と大穴でまどか?」

 

「Cure2tronのマイリーだけど?」

 

「え?それ本気なのか?」

 

「それよりトシキ、こないだ頼んだギターの事だけどさ」

 

「あ、うん、はーちゃんごめん。やっぱりギターはもう出来ないかな…」

 

「そうか、なら逆に良かったよ。これじゃBREEZEの復活みたいなもんだって思ってたしな」

 

「そっか。なら良かったよ。それでギターはどうするの?」

 

「それなんだよなぁ…最悪俺がマジでギターしちゃう?」

 

「ああ!ほんとそれもアリじゃない?」

 

 

 

 

「あれ?トシキもいる」

 

「あ、あの…こ、こんにちは」

 

そう言ってファントムの扉が開きまどかと奈緒が入ってきた。

 

「あ、まどかちゃん久しぶり」

 

「おう、まどか。お?誰だその美少女は」

 

「び…美少女って…」

 

ん?なんか奈緒の様子が変?顔真っ赤だし。どしたんだろ?二日酔い?

 

「まどかも奈緒もどしたん?ここにランチでもしに来たの?」

 

「うわ、英治もタカも飲んでるの?初音ちゃん!私もビール!!」

 

いや、お前も飲むんかい。

 

「はーい、まどかお姉ちゃんのお友達さんは?ビールにする?」

 

「あ、わ、私はえっと…じゃあ紅茶を…」

 

「え?飲まないの?てかやっぱり二日酔い?」

 

昨日はそんなに飲んでなかったと思うけどな。一応奈緒に確認してみる。

 

「そ、そんな事ないです…大丈夫です」

 

「いやー、今日は奈緒とショッピングしてたんだけどね。実はBREEZEのドラムの人がやってるライブハウスを知ってるって話したらさ。行ってみたいって言うからさ」

 

「す、すみません…お邪魔でしたか?」

 

「いやいや、全然!へー、俺達の事知ってくれてるんだ?あ、タカにバンドしようって言ったの君とか?」

 

「あ、はい。母が元々BREEZEさんのファンでして、ライブにも行かせて頂いた事もあります!あ、もちろん私もそれで大ファンになりまして」

 

「まずいな…」

 

そう思って奈緒の死角になるように、トシキと英治に小声で俺がBREEZEのTAKAって事は内緒にしてくれと頼んだ。

奈緒の思い出も壊したくないし、奈緒のやりたいバンドはBREEZEのTAKAとやりたいわけじゃない。

だから何としてでも隠し通さないと…。

 

「あ、憧れのBREEZEのEIJIさんにお逢い出来るとか、ほんと幸せです…!あのはじめまして!私、佐倉 奈緒と申します。挨拶が遅れてしまってすみません!」

 

「お、ありがとう!奈緒ちゃんね。ここに居るトシキはBREEZEのギターやってたんだぜ?」

 

「え!?ト…TOSHIKIさんですか!あの、あの!は、はじめまして!」

 

「はじめまして。俺達のファンだったとかすごく嬉しいよ。よろしくね、奈緒ちゃん」

 

「は、はいー!よろしくお願いします!」

 

奈緒はすごく嬉しいだろう。

憧れのバンドのTOSHIKIとEIJIに会えたのだから。俺もイケメンに育っていたらTAKAだよ。って言ってやれたんだけどな。あれ?そういやBREEZEにはもう一人誰か居たような?誰だっけ?

 

「ギターのTOSHIKIさん、ドラムのEIJIさん、憧れのBREEZEのメンバーのお二人とお知り合いになれるとか…生きてて良かったです…」

 

「え?二人?タカは?」

 

「へ?」

 

しまった!?まだ注意しなければいけない人物が居た!初音ちゃん!!!

 

俺がそう思った時、まどかが俺の方を見てウインクしてくれた。

初音ちゃんに説明してくれるのか!ありがとうまどか!あと5秒くらいだけ世界で一番愛してる!!

 

「初音、初音。あの子にはタカがBREEZEのTAKAっての内緒にしときな?あの子BREEZEのTAKAの大ファンでラブの意味で好きだから」

 

「え?は?今のうちに倒しておけって事?」

 

「違う違う。もしタカがBREEZEのTAKAって知っちゃったら、あの子タカの事好きになるかもしれないよ?だから内緒にしてた方がよくない?」

 

「な、なるほどね。わかった。内緒にしておく」

 

まどかが俺にピースサインを見せてきた。でも何だろう?あの笑顔がすごく黒く見える。

 

「あ、貴も居たんですね。影が薄いから見えてませんでした。こんにちはです」

 

「え?最初から居たけど?さっき普通に会話もしてましたけどね?」

 

「それよりBREEZEのメンバーがやってるライブハウスに何で貴が居るんですか?しかも、お二人と一緒に飲んでるとか。BREEZEの事知らないって言ってましたよね?ね?」

 

「あれ?トシキと英治ってBREEZEのメンバーだったの?マジで?知らなかったわー。タカさんびっくり。今世紀最大のカルチャーショック受けてるわー」

 

「な、なんか白々し過ぎませんかね…?」

 

「それよりタカはなんでここに居るの?」

 

まどかがそんな事を聞いてきた。

奈緒もいるしうまく誤魔化さないとな…。

 

「あー、あれだ。ギターのメンバーどうしよっかってな」

 

「またトシキに頼もうとしたの?(ボソ」

 

「いや、それを断ろうと思ってな。先に断られたけど」

 

「そっか」

 

「あ、そういえば今日はTAKUTOさんはいらっしゃらないんですか?」

 

TAKUTO?誰それ?

 

「あ、宮ちゃんは…」

 

「あいつは15年前に俺達が解散してから風来坊になっちまってな。あれ以来会ったのは…初音が生まれた時くらいか?」

 

「もう1度だけあるよ…」

 

「……」

 

「あ、な、なんかすみません…本当に…」

 

「いや、気にしなくていいぞ。大した事じゃねぇよ」

 

「貴……。って、何で貴が言うんですか?関係ないですよね?」

 

「すみませんね。ついね」

 

「奈緒ちゃん、本当に気にしなくていいよ。宮ちゃんの事は多分元気でやってると思うし」

 

「ありがとうございます。……気付いてない振りも大変だなぁ(ボソ」

 

「お待たせしました。紅茶です。それよりボーカルのTAKAの事は気にならないんですか?」

 

「ありがとうございます。って、そりゃ…気になります…けど」

 

「ボーカルのタカは痔が悪化して入院しました。面会謝絶の危篤状態です」

 

「「「ぶほっ」」」

 

俺と英治とまどかがむせてしまった。

あぶねぇ、吹き出すとこだった。

 

「む?へー、それは大変です!是非お見舞いに行きたいです!」

 

「いえいえ!それにはおよばないです!面会謝絶ですので!」

 

「そうなんですね。痔かぁ~」

 

そう言って俺を見る奈緒。

なに見てんの?俺は痔じゃないよ?マジで。てか、まどかは初音ちゃんに何を言ったの?

 

「それよりまだギターの人決まらないんですか?」

 

「ああ、まぁな。どうすっか悩んでたとこ。あ、奈緒はベースの調子はどうだ?」

 

「私ですか?ベース触ってすらいませんよ?」

 

「え?バンドやりたいって言ったの奈緒だよね?何で練習してないの?」

 

「まどか先輩に『本当に奈緒がベースになるかわからないから、ギターかキーボードでも出来るようにまだ楽器は触るな』って言われまして。ほら、楽器も高いじゃないですかー?」

 

「あ、なるほどね。把握。なら今からやっぱりギターしてってなっても大丈夫なわけだ?」

 

「はい!」

 

「だからギターなら私がやるってー!BREEZEのTAKAから引き継いだレスポール・スタジオがあるんだし!」

 

あ、あれ大事にしてくれてるんだ?

 

「え?TAKAさんってギターやってたんですか?」

 

「え?知らなかったのか?初期の頃はタカもギターしてたぞ?中盤の頃はただぶら下げてるだけになったし、終盤は持ってくる事すらなかったけどな」

 

止めて!黒歴史ほじくり返さないで!

 

「俺にギターを教えてくれたのは実ははーち…タカなんだよ?中3の時の音楽のテストで自分で作詞作曲して発表したって黒歴史もあるし」

 

トシキ!黒歴史ってわかってるなら言わないで!!

 

「TAKAさんにギター教わったんですか!?」

 

「そうだよ。タカがギターしてたから俺達もバンドしたようなもんだし」

 

「まどか先輩は知ってたんですか?(ボソ」

 

「いや、楽器は出来ないって言ってたし知らなかったよ(ボソ」

 

「なるほど…わかりました!私!ベースは止めてギターやります!ギターがやりたいです!!」

 

「は?いや、ベースどうすんの?妹さんに教えてもらうんじゃないの?」

 

「それです!」

 

「どれ?」

 

「ベースはその気になれば妹に頼む事が出来ます!あ、でも妹に手は出さないで下さいね?通報します」

 

「いや、出さないけど」

 

「だ…だからその…。私にギターを教えて下さい」

 

「は?」

 

「そういう事なら教えてやれよタカ。お前もギターやってた時期があっただろ?」

 

「なんで俺に?それならトシキの方がいいんじゃね?」

 

「トシキのが確かにギターは上手いけどお前の方が教えなれてるだろ?」

 

「えー、めんどい」

 

「ほら、はーちゃん。俺が教えるには色々問題あるし…」

 

「ああ、女の子と二人きりになると急に喋れなくなる病か」

 

「あははは、うん、まぁ…」

 

「まどか、まどか!ちょいちょい」

 

「英治?何?」

 

「奈緒ちゃんってさ?タカがBREEZEのTAKAって気付いてるよな?(ボソ」

 

「うん、バッチリ。でもタカが気付かれてないって思ってるから、気付いてない振りしてるんだって(ボソ」

 

「なかなか面白い展開だな。俺超協力しちゃう(ボソ」

 

「でしょ?ほんと笑えるよね(ボソ」

 

「う~ん、それならしゃーないか…。んで、妹さんはベースやってくれそうなの?」

 

「そこは…実は難しかったりするんですが…妹はもうバンド組んでますしね…」

 

「なら意味ないんじゃないか?う~…ん…」

 

「タカ教えやれよ。このままギターが決まらないのもベースが決まらないのも一緒だろ?それに本人がギターやりたいって言ってんだし。それともお前、憧れの人がやってた楽器をやりたいって奈緒ちゃんの気持ち踏みにじるのか?」

 

「いや、それはそうだけどな。それじゃなくて俺が教えるってとこがな」

 

「貴」

 

「ん?」

 

そして奈緒は顔を赤らめて俺の袖を掴み涙目で潤ませながら上目遣いで言ってきた。

 

「ダメ……かな?」

 

「い…いいよ?」

 

「フッ」

 

ハッ!?しまった!

 

「はい!言質は頂戴しました!チョロいですねー!」

 

そして奈緒はギターをやる事になり、俺は奈緒にギターを教える事になった。

 

ハァ~…ベースどうすっかぁ…。

奈緒の妹さんの返事待ってからにするか…?ベースやってる知り合いか……。

居ないこともないんだが…。

 

「よし!そうと決まれば早速妹に電話してみますね!」

 

「ん、よろしく頼むわ」

 

そして奈緒はスマホを取り出して席を少し外した。

このまま奈緒の妹さんがベースやってくれるならいいだろう。

バンドに入るのは断られても、たまにヘルプでやってくれたりすれば……。

 

「ん~…ベースかぁ。私の友達にもいないかなぁ…」

 

「え?まどか、お前友達いるの?」

 

「タカと一緒にすんなし。それなりには居るよ」

 

そしてふと視線を横にした時だった。

向こうのテーブルの女の子が俺達の方を睨んでいた。え?なんで睨まれてんの?やだ怖いわ。

言い方を変えよう。俺達の方に熱視線を送っていた。やだ何それ照れちゃう。

 

そしてその子は俺と目が合ってからも視線を反らさない。フッ、これは先に目線を反らした方が負けだな。

 

「それより奈緒はまだか?」

 

俺はまどか達の方を見た。だって怖いんだもん。

 

「まだみたいね。あ、それより英治さ?ちょっとドラムの事で聞きたい事あんだけど?」

 

「ん?何だ?」

 

まどかは英治と話している。

トシキの方を見るといつの間にか初音ちゃんと洗い物をしている。

 

そういやこないだここに来た時は、英治は厨房にいる。って事で俺はここのカフェスペースで英治が来るのを待ってたんだが、今はこのカフェスペースからトシキと初音ちゃんが洗い物をしている所が見えている。このライブハウスの造りどうなってるのん?

 

俺はそんな事を考えながら、さっきの女の子の方を見てみる。

うっわぁ、まだこっち見てるよ?何なの?いい加減にしないとビビりすぎてちびるよ?

 

するとその女の子は立ち上がって俺達の方に歩いて来た。なんだ?やろうってのか?とりあえず土下座して謝ればいいか?そう思っていると、

 

「あの~」

 

普通に声をかけてきた。なかなか可愛い声をしている。フッ、危なく大人の尊厳をなくすとこだったぜ。

 

「あの~!」

 

「あ、はい?何ですか?」

 

「さっきからそちらのお話が聞こえてたんですけど」

 

あ、うるさかったとかかな?

よかろう。大人のお兄さんとして綺麗な土下座を見せてさしあげよう。

 

「BREEZEのTAKAさんとEIJIさん。あちらで洗い物をしているのがTOSHIKIさんですか?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「え?誰?この子?」

 

奈緒はまだ電話中だな。よし。

 

「ええ、そうですよ。あの、あっちで電話してる子には僕がBREEZEのTAKAってのは内緒にして下さいね」

 

「わぁ、本物だぁ。わかりました。とりあえず内緒にしておきます」

 

「えっと、キミ確かうちにたまに来るお客さんだよね?」

 

ん?英治はこの子の事知ってるのか?

 

「はい、こちらはBREEZEのEIJIさんが経営してるライブハウスと聞きまして、もしかしたら会えるかな?と思いましてランチによく来させていただいてました」

 

なるほどな。このライブハウスもそれなりにはライブもやってるし、BREEZEのEIJIがやってるライブハウスだって気付かれても不思議ではないか。

 

「そうなんですね。僕達のファンだったとかですか?」

 

「ねぇ、タカって可愛い女の子の前に行くと一人称僕になるし、敬語になるよね?(ボソ」

 

「いや、そうじゃないぞ?あれはタカのぼっちスキルが発動してる状態だ。つまり警戒してるって事だ(ボソ」

 

お前ら聞こえてるからな?

 

「お父さんとお母さんがよくBREEZEの曲を聞いてましてそれで私もって感じです。あ、お父さんとお母さんは付き合ってなかったんですけど、BREEZEのライブに行って燃え上がっちゃって、そのまま燃え上がったらあたしが出来ちゃったみたいな?BREEZEがいなかったらあたしは生まれてなかったみたいな~?」

 

この子さらっとすごい事言ったな…

 

「俺達の歌詞は全部タカが書いたからな。タカが産みの親みたいなもんか」

 

いや、英治お前何言ってんの?

 

「お母さんがEIJIさんに何度か口説かれた事あるってよく自慢してました。意外と私のお父さんはEIJIさんだったりして~」

 

「タカヤバい。奈緒ちゃんの前ではお前がTAKAっての内緒にしてやるから、この子の前では俺がEIJIってのは内緒にしててくれ」

 

はい。もう手遅れですね。俺とトシキで何度三咲を慰めたと思ってんの?あれ?三咲を慰めてた時もう一人誰か居たような?誰だっけ?

 

「大丈夫ですよ。冗談です。多分、髪色はお父さん譲りですし」

 

「心臓に悪いな。それより初音が目をキラキラさせてこっち見てるのも俺は怖い」

 

「ははは、英治はその…色々あったからね…」

 

まぁ、あの頃はほんと俺もトシキも大変だったからね。俺なんてまだ童て…げふんげふん。だったのにね。

 

「あ、それで俺がBREEZEのTOSHIKIです。よろしくね」

 

「あ、申し遅れました。あたし蓮見 盛夏(はすみ せいか)と申します。以後お見知りおきを~」

 

「蓮見…記憶にない。やっぱり俺はやってない」

 

「それ父親の姓じゃないの?」

 

「英治の昔の話は聞いてたけど…こんなのにドラム習ってたかと思うと泣けてくるわ」

 

「チッ、お姉ちゃんじゃないのか…」

 

初音ちゃん?その方が良かったんじゃないかな?

 

「あ、それでですね。ずっと皆さんのお話が聞こえてたんですけど…」

 

「たかぁぁぁ!!」

 

奈緒が戻ってきたようだ。あの抱きついてくるの止めてくれませんかね?柔らかいのが……ね?

 

「妹が…嫌とか無理とか貴を葬るとか……グス」

 

ちょっと待って葬るって何!?俺、奈緒の妹さんに葬られちゃうの?

 

「わぁ、良かった~」

 

「ほえ?誰ですかこの可愛い女の子。貴が嫌らしい目で見て通報するとか言ってきてるですか?それならしょうがないですね…」

 

え?しょうがないの?何で諦めてるの?もしそうだったら一緒に冤罪だって戦おうよ?あ、もしかしてちょっと見たりしたら捕まっちゃう世の中?うっわ、この世界生きづらいわぁ。

 

「いえいえ。そうではなくてですね。あ、貴さんと目が合って見つめられてたのは本当ですけど」

 

「ヤバいです。貴、短い間でしたが楽しかったです。貴とライブ…し…したかっ…た…グスッ」

 

え?奈緒何で泣いてるの?俺捕まるの?うっわ、BlazeFuture編第4章で完結?待ってよ。俺まだライブしてない。

 

「はーちゃん、面会には行くからね」

 

「タカ。俺はいつまでもお前の友達だからな」

 

「タカ…そんなの…そんなの嘘だよ…私、子供の頃からタカの事…う…う…うわぁぁぁぁん」

 

「タカ。私はいつまでも待ってるからね。お腹の中にいる子と一緒に…。

タカと私の名前の1字から取って…いい名前ないから適当に名前付けとくね」

 

「いや、お前ら揃いも揃ってアホなの?バカなの?そんなんで捕まるわけないだろ。それで捕まるくらいだったら今頃俺は捕まってここにいないわ。え?捕まらないよね?大丈夫だよね?」

 

「わぁ、みんなさっきからお話聞こえてた通り面白いですね~。大丈夫ですよ。通報とかしませんし」

 

た、助かった…助かった……。

 

「あのですね、最初はギターを探してるみたいでしたので声を掛けれなかったんですけど、あたしベースやってますんで良かったらベースとしてバンドに入れてくれませんか?」

 

「え?ほんと?俺通報されない?」

 

「まじですか!ベースやってくれるのですか!?」

 

「お!いいじゃんいいじゃん!BREEZEのファンだったんなら、私らとも話合うだろうし!私は別にBREEZEのファンでも何でもないけど」

 

「良かったぁ。はーちゃんが捕まったりしたらどうしようかと…」

 

「また新しい女が…」

 

「俺達のファンでベースって事はその…拓斗のファンだったとかか?」

 

拓斗?誰それ?

 

「いえ、ほんとはギターがやりたかったんですけど、お父さんがギターとベースを間違えて買ってきて、それからベースをする事にしまして。今じゃ完全ベーシストって感じです」

 

ああ、親にジャンプ買ってきてくれって頼んだらマガジンとかサンデー買ってこられたようなもんか…

 

「貴!お願いしましょう!BREEZEのファンでこんな可愛い子が入ってくれるとか奇跡に近いです!可愛い女の子に囲まれてハーレムですよハーレム!ね!入ってもらいましょう!」

 

「私もいいと思うよ。この子の話面白いし」

 

「まぁ、そうだな。俺達にとってはありがたい話ではある」

 

しかし、こんなトントン拍子でメンバーが決まるとはな。まぁ、バンドのメンバーとかってそんなもんか。BREEZEん時も似たような感じだったしな。

 

「う~ん、ダメですか?…お、あれやれば入れてもらえるかな?」

 

「えっと…蓮見さんでし…」

 

俺が話をしようとしたら、蓮見さんは顔を赤らめて俺の袖を掴み涙目で潤ませながら上目遣いで言ってきた。

 

「貴…お願い…いれて…?」

 

「…いいよ」

 

ハッ!?

 

「貴…不潔です…変態です」

 

「あは、あははは、あははははは」

 

「また敵が増えた…」

 

「バンドの問題解決して良かったね」

 

「ははは、良かったな!タカ!初ライブはうちでやれよ?割り引きするから」

 

「わぁい!入れてもらえた!うっし、バンド頑張るぞ~」

 

「ああ、よろしく…ね…」

 

そうして俺達のバンドのメンバーは揃った。

はぁ、次はどう動きましょうかね……。


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