「…え?何この路線図…池袋ってどうやって行けばええの?え?あれ?」
「澄香ぁー、まだぁ?あたしはいくら(何円)の切符買えばええの?」
「ちょ…ちょっと待って…私今迷路頑張ってるから…」
「迷路…?」
あたしと澄香は池袋に向かおうと券売機の前で路線図とにらめっこをしていた。
していたと言ってもあたしが高校生の頃の話なんだけど…。
あたしの名前は木原 梓。
BREEZEというバンドとデュエルギグをする為に関西から関東までやってきた。
あたしと同じArtemisのバンドメンバーであるドラマーの日奈子は秋葉原でBREEZEのドラマーである英治くんと出会い、Artemisのギタリスト翔子は原宿でBREEZEのギタリスト、トシキくんとベーシストの拓斗くんと出会った。
そしてArtemisのボーカリストであるあたしとベーシストである澄香が、BREEZEのボーカリストであるタカくんと再会する。
「えっ…と…、私らが今居る駅がここで…池袋には…」
「澄香も全然路線図わからへんねやん。もうあれやね。あたしの事を方向音痴とか笑えないね」
「いや、梓の方向音痴のレベルは全然笑えないし心配しかないんやけど…。てか、私は方向音痴ちゃうしな!この路線図が悪いだけで…!」
あたしと澄香は池袋に向かおうとしていたけど、路線図が迷路のようになっていてどこからどう向かえばいいのかを迷っていた。
池袋に行くだけ。なら、山手線をぐるぐる回ってたら着くんだろうけど、澄香とあたしは安く最速で行く方法を考えていたのだ。
「澄香ぁまだぁ?」
「だ、だからちょっと待ってって…えっと今がここで…目的地があそこで…」
あたし達がそんなやり取りをしていると…。
「あの…切符買いたいんですけど…」
後ろに並んでいる人に話し掛けられた。
「え?わ、す、すみません…」
「もう!澄香がもたもたしてるからっ!」
あたし達が振り向いた先に居たのは…
「わぁぁぁぁぁぁぁ!お腹いっぱい!!」
振り向いた先に誰が居たのか話そうとした所で、目の前にいるDivalのボーカリストこと水瀬さんちのなっちゃんが叫んだ。
「ど、どうしたのなっちゃん…急に叫んで…」
「いや、トシキさんと翔子お姉ちゃんのお話はある意味衝撃的だったし別にいいんだけど、どうせ振り向いた先に居たのは先輩でしょ?」
「え?ま、まぁタカくんやったんやけど…」
「私が梓お姉ちゃんから聞きたいお話は、梓お姉ちゃん達Artemisがどんなバンドやって、どんな音楽をやってきたかってお話だよ?」
「わ、わかってるよ。あ、あたしも恥ずかしいけど、こうやって話を…」
「だから、私が聞きたいのは梓お姉ちゃんや澄香お姉ちゃんが先輩に恋してラブなコメ的展開になったお話じゃなくてね?」
まぁ、なんて低い声を出すのかしらなっちゃんは。
でもここは大切なお話だ。この日の事は…。
だからあたしはなっちゃんの目をしっかりと見てこう言った。
「本当にわかってるよ、なっちゃん。
そしてあたしが何故歌うのを辞めてしまったか…でしょ?この日のあたし達とタカくんとの再会は、本当に大切な事だったの」
「梓お姉ちゃん…?」
そう。あたしの事を語るのならこの日の事も欠かせない。
「…続き、話すね」
「え…あ、う、うん。ごめんなさい。話を遮っちゃって…」
素直に謝るなっちゃんって何て可愛いの?
同性じゃなかったら襲ってしまってるまである。
ペロペロしたい。………おっと、こんな事を考えてる場合じゃないね。
「早く…本編にも戻らないとだし、ちゃんと聞いてね」
「う、うん!」
振り向いた先に居たのはなっちゃんの想像通りタカくんだった。
前回とかでArtemisのメンバーは各々、BREEZEのメンバーと会ったとか話してたけどそこは気にしない。
「何でここに…タカが…(ボソッ」
「これはきっと運命…ううん、デスティニー!(ボソッ」
「ちょっと梓、!マーク付けてるのにボソッってどういう事よ?(ボソッ」
「ニュアンスだよニュアンス。ってか澄香もタカくんだって気付いたんだね?(ボソッ」
「こんなこの世の全てに絶望して死んだ魚のような目をしてる上に、めちゃくちゃ曲がった猫背やし…すぐわかるよ(ボソッ」
澄香もすぐにタカくんだとわかったようだけど、ものすごい言い様だった。
だけど、さすが澄香だ。的を得ているとも思った。
「あ?あの?切符買いたいんですけど、さっきから何をボソボソと言ってるんですかね?」
「も、もしかしてあたしも澄香も気付かれてない?(ボソッ」
「あ、梓は金髪ロングから髪型めちゃ変わってるし…とか?あれ?私は?(ボソッ」
「あの~…?」
「あ、ああ、すみませんすみません。ちょっと私らここら辺初めてで路線図に迷ってて…」
「あ、そうなんですね。どこまで行きたいんですか?」
「あ、えっと…」
「池袋!あたし達池袋に行きたいんです!」
「ああ、池袋なら…」
この時のあたしと澄香は、池袋への行き方を淡々と話してくれるタカくんに対して、『ああ、あたしらの事に気付いてなくても困ってる人を見掛けたら声を掛けてくるれる人なんだ』って想いと、『こいつ…あたしらの事覚えてねぇのかよ』って想いとでごちゃごちゃしていた。
「で?わかりました?」
「あ、はい。よくわかりました。ありがとうございます」
澄香はタカくんにそう答えたけど、あたしはよくわかっていなかった。
「わかったなら良かった。んじゃ、そういう事で」
タカくんはあたし達に池袋の行き方だけを教えて去って行った。
「「って!ちょっと待って!」」
「は?何?」
「「去って行ったじゃないよ!何で去っちゃうの!」」
「え?綺麗にハモって何なの?」
「いや、だってあんた、切符買いたいって言ってたのに切符買ってないやん!」
「うっ…」
「そうだよ!あたし達に池袋の行き方…教えてくれたのはありがとうって思うけど、切符買いたいからって話し掛けて来たやんか!…ハッ、まさかあたし達の身体を狙って!?」
「え?ヤダ。どうしよう。梓、ここは私に任せて逃げて!私だけなら…うぅ…お母さん…(グスン」
「は?何言ってんだこいつら」
「「だ!だから!あんた切符買いたいってあたし(私)らに声掛けてきたやん!なのに何で切符買わずに去っちゃうの!?え?これ新手のナンパ!?」」
「お前らどんだけ仲良いの?何でそんな綺麗にハモれんの?」
「「だ!だから!」」
「あー、もー…めんどくせぇ。何だよ今朝のニュースの占い。何が射手座は1位だよ。全然いい事ないじゃん。もう朝の占いコーナーなんか信じねぇ…。いや、待てよ?ラッキーアイテム何だっけ?そのせい?」
タカくんは何か早口で独り言を言っていた。
「まぁあれだ。お前らめちゃ関西弁だしな。何か困ってんのかな?って思っただけだし。ほんとは2、3回見なかった事にして行こうと思ってたんだけど、このままどっか行くのも気持ち悪いしな……ん?あれ?こないだもこんな話したような記憶が…デジャブ?」
タカくんはあたしと初めて会った時のような事を言っていた。
この人はいつもこうなんだろうな。って思った。
「ま、そういう訳なんで。それじゃ」
「で、でも…」
「電車乗りたいから駅に居るんじゃないの?」
「ICカードにチャージしてるから切符買わなくていいしな」
「「あ!ICカード!そうやん!チャージしたら良かったんやん!!」」
「お前らほんと仲いいな。じゃ、そんな訳で」
タカくんはそう言った後、あたし達に背を向けて歩いて行った。
「梓、どうする?」
「ど、どうするって…」
あたしはこのままタカくんを追いかけたいと思ったけど、明日のライブで会った方がいいのかな?
今は会わない方がいいのかも。
あたしはそう思っていた。
いや、マジでそう思ってたんだよ!?
でも、あたしはタカくんを追っかけて…
「あの…ありがとうございました(上目遣い」
とか、言ってしまった。
「う…か…かわ…可愛い…」
タカくんにお礼を言ってしまった。
お母さんの遺品整理をしている時に見つけた『木原流男を落とす為の極意』という手記に書いてあった『男は上目遣いに弱い』の技を用いて。
タカくんに可愛いと言われたあたしは『ありがとう、お母さん』と、レガリアを受け継がせてもらえた事以上に感謝していた。
「ちょ、ちょっと!梓!今の何!?」
「フッ、これはお母さんから受け継がれた『木原流男を落とす為の極意』に書かれてた技だよ。フフフッ、タカくんは今頃あたしの事を思い出しながら股間を抑えているに違いない」
「こ、股間って…?……ん?あ、そ、そういう事!?」
うぶな澄香には酷な話だったんだろう。
…ん?これ一応15R付けてるからこれくらいならセーフだよね?
とか思っていたんだけど…。
「タカ…行っちゃったけど…」
タカくんはあたしの思い切った行動で可愛いと言ってくれたのにも関わらずそのまま去っていった。
「え?あれ?何で?お母さんの極意書ではこの後ホテルに連れ込まれて…」
「…梓のお母さんってアホやったっけ?」
「おかしいなぁ…。お母さんの極意書ではこの技で当時の射手座のレガリアの人にモーション掛けてたみたいだったのに…」
「当時の射手座のレガリアの人って…。梓のお父さんって…あんま言うのもあれやけど、クリムゾンの海原でしょ?海原の前にその射手座の人と付き合ってたん?」
「ん?いや?射手座の人には片想いで終わって手を握る事すら叶わなかったみたいやけど?」
「え?それ何の為の極意書なん?」
「あ、そっか…。極意書って言葉に騙されてた…。考えてみたらお母さんも片想いで終わってるやん」
その時、あたしはやっぱりお母さんの娘だな。と改めて実感していた。
お母さんが亡くなってから、あたしはそう思う事が多くなっていた。主に変な方面ばかり。
「ハァ…、ま、タカも行っちゃったし…私らは池袋向かおっか?」
「うん、そやね。タカくんには明日も会えるし」
あたしと澄香はとりあえず池袋に向かおう。
そう思って改札の方へ向かって歩き始めた。
そしてその場所から少し歩いた時…。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待てお前ら!」
「「ふぇ?」」
タカくんが再び話し掛けてきた。
「なっ!?なんやのあんた!?ハッ!?やっぱり私達の身体を…」
「グッジョブお母さん、さすが『木原流男を落とす為の極意』やで」
「あ?お前らほんと何言ってんだ?…ってちげぇよ!そっちの改札は池袋行きじゃねぇ!いや、ぐるっと回ったら行けなくはないけど、池袋行きはこっちだ!」
「え?」
「池袋行きはそっち?」
どうやらあたしと澄香は別の方向へ向かって歩いていたらしい。タカくんはそれを見かねて声を掛けてきたそうだ。
「てか、あんた、私らに背を向けて歩いてったのに何で私達が違う方向に歩いて行ったってわかったん?」
「うっ…そ、それは…だな…」
「もしかしてあたしらの事心配してずっと見てたとか?嫌らしい目でなめ回すように」
「ち、ちげぇわ。お、俺も池袋行くつもりだったし?池袋向かって歩いてんのにお前ら全然こっち来ねえから…まぁ、そのなんだ…」
「池袋?」
「あんたも池袋に?」
「そ、そうだよ。何か文句ある?」
「「そんなあたし(私)らの事心配やったらさ。連れてってよ。池袋」」
「だから何でそんな綺麗にハモれんだよ…」
「「ね?連れてって?」」
「め、めんどくさ…」
その後、連れて行かない連れて行ってと、数分に渡って無駄な時間の問答が繰り広げられた。
結果。
あたしと澄香は色んな脅し文句……じゃない。
誠意をもって懇願し、何とか池袋駅まで同行してくれる事を承諾させたのだ。
・
・
・
-ガタンゴトンガタンゴトン
「ねぇ、何とかタカに連れてってもらえる事になったけど…(ボソッ」
「うん、電車こんなに空いてるのに座りもせずにドアの所に立ってるとか…乗ってくる人や降車する人にさりげなく迷惑だよね(ボソッ」
タカくんはせっかくあたしと澄香が1人分の隙間を空けて座ってあげたのに、あたし達の隣に座る事なくずっとドアの側に立っていた。
あたし達も間を空けて座っていると言っても、乗車客も少なかったからってだけで、人が増えてきたらちゃんと詰めるつもりだったからね?
「お客さんも少ないしさ。ちょっとタカくんをびっくりさせてやろうよ(ボソッ」
「は?びっくりさせるって…梓あんた何するつもりなの?(ボソッ」
「わぁ♪ねぇねぇ、澄香見て!さっすが東京だね!ほら…窓の外見てよ!」
「え?窓の外って…?」
「ほら!バス!」
「は?バスくらい大阪にも…ああ、そういう事か。
わぁ!ほんとだ!バスだ!初めて見た!さっすが東京!」
大阪の人ごめんなさい。
「ほら!梓!あっち見て!すごいよ!」
「え?何?」
「犬」
「…わぁ♪ほんとだ!すっご~い!」
「じゃあ今度はね…」
「あのな、お前らうるせぇよ。いつも人でいっぱいなのに何でかこの車両に俺らしか居ないもんだから、あれ?俺異次元に迷い込んじゃった?とか考えてたけど、お前らほんとうるさい。大阪にもバスもありゃ犬も居るだろうが」
「ブー!」
「いや、だってあんた全然私らに話し掛けてくれへんし」
「何でわざわざ無い話題を探してまで会話をするとか難易度の高いミッションを自らに課さないといけないんですかね?お前らを池袋まで連れてってやればそれでミッションクリアでしょ」
「無い話題って…ほんならあんたの事教えてよ」
「え?めんどい」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「お、そろそろ池袋着くな」
「「ほんまに何も話さへんの!?」」
本当に大した会話が繰り広げられる事もなく、あたし達は池袋駅へと到着し、改札を出て外に出た。
ここからは少し澄香から聞いたお話を織り混ぜながら語ろうと思います。
「やっと池袋着いたな。長かった。いつもより長く感じたわ」
「ほんまに全然会話もせえへんとは…」
「ま、そんな訳で池袋までは案内したわけだし、俺は俺の用事があるからここで解散な」
「う…そ、そやね。ここまで案内してくれてありがとう」
「…」
「ん?どしたん?行かへんの?」
「いや…それよりも…」
「あ、もしかして、私達ともうちょっと一緒に居たいとか?」
「いや、ないわ」
「即答…」
「それよりもお前の相方…どこ行ったの?」
「相方?梓のこと?梓ならずっと一緒に…って!?あれ!?梓が居ない!?」
「さっきから静かだなぁと思ってたら…」
「ど、ど、ど、どうしよう!?まさか池袋に着いた途端、欲望の赴くままにヲタショップに1人で突撃したんじゃ…」
あたしは池袋に着いた事に浮かれ、当然澄香もタカくんもあたしに着いて来てくれていると思い込み、1人で暴走してしまっていた。
「あ、ヲタショップ?なるほどな、そんで池袋に来たがってたのか」
「ほんまどうしよう…。ねぇ!悪いんだけど…」
「だが、断る!」
「ま、まだ何も言ってないやん!」
「どうせ一緒に探してくれとかそんなんだろ?だいたいもうそんな迷子でどうこうなる歳でもねぇだろ。ヲタショップに向かったってんなら、その辺ブラついてたら…」
「あの娘の方向音痴っぷりを舐めないで!!」
「方向音痴ぷりって…」
「あの娘、あの歳になっても未だに1人じゃ学校にも辿り着く事も出来ないんやから!」
「え?学校にも…?」
まさかタカくんにあたしの方向音痴っぷりを暴露されているとは思いもしなかったのに…とんだ赤っ恥だよね。
「それに…小学校の頃の修学旅行の時なんかは…。どうしよう…埼玉とか千葉まで行かれてたら…もう2度と会えないかも…グスッ」
「いやいやいや!埼玉とか千葉とかさすがに徒歩じゃ無理だろ。ってか泣かないで。お願い。これ俺が泣かせてるみたいじゃん」
「だから…あの娘の方向音痴っぷりを…うぅ…ぐすん」
「わかった!わかったから!俺も一緒に探してやるから!だから本当にお願い!泣かないで!」
「ほんまに…?探すの手伝ってくれる?グスッ」
「ああ、探してやるから泣くなって…」
「な、泣いてなんかないしな!」
そうして澄香はタカくんにあたし探しを承諾させる事に成功した。
涙はここぞと言う時の女の武器とはよく言ったものだ。
「はぁ…めんどくさ…。もうあの朝のニュースの占いは信じねぇ…。明日から絶対観ねえ…いや、あのニュースのお天気お姉さん可愛いんだった。やはり観ざるを得ないのか…」
「ん?何か言った?」
「いや、何でもねぇよ。それよりほれ」
「ん?……何?」
「連絡先の交換だよ!どっちかがあの娘見つけても連絡先知らなかったら連絡出来ねぇだろ!」
「え?あ?連絡先の交換?わ、私と連絡先の交換…してくれるの?」
「しなきゃどうにもなんねぇだろ。ああ…自分から女の子に連絡先の交換を申し込むとか…」
「へ?自分から女の子に連絡先とか聞いた事ないん?」
「無かったら何だっての?犯罪でもないしいいんじゃないですかね?何か文句ある?」
「私も…男の人と連絡先の交換は…あ、父さんとおっちゃんがおるわ…チッ…。
…ほ、保護者以外の男の人と連絡先の交換とか…は、初めてだから…」
「え?何?めちゃくちゃ勇気出したつもりなんだけど…あ、だったら辞めとく?ここに1時間後に集合とかにする?」
「え?ち、違…、違う…。わ、私の初めて…あ、あげる…から…しよ?」
「…あ、あの、そ、その言い方…あの…あれがあれであれなんで…あの…な?」
「わ、私が初めてじゃ…嫌…?」
「いやいやいやいやいや!嫌とかじゃないよ!?嫌とかじゃないけど!いや、むしろお願いします!?てか、何テンパッんだ俺!?連絡先の交換だよな!?お互い異性と連絡先の交換が初めてだからって話なだけだよな!!?何を考えてんの俺!!」
「ちょ、ちょっと…あんまり大きな声出さないで…みんなに聞こえちゃう…」
「そうだよなー!そうですよねー!ごめんね!ごめんな!俺声が大きくてー!!連絡先の交換ですよ!連絡先の交換だけなんです!!」
「あんた何言ってんの?はい、私の携帯」
「ああ…は、はいはい。連絡先の交換ね、連絡先。
ほい、登録した。とりまどっちかがあの娘見つけたら連絡するとかって事で…」
「あの…私の…初めてあげたんだから…ちゃんと責任…取ってね?」
「初めてって異性との連絡先の交換の初めてなー!だから全然変な事の初めてとかじゃないからなー!責任って何の責任かなぁー!?ああ、ちゃんと連絡はマメにしろ的なー!?いや、この連絡はマメにしろって言い回しも何かなー??」
「ちょっと、あんたさっきからうるさいんやけど?」
「誰の言い回しのせいだと思ってんだ?」
そうして澄香はタカくんの連絡先を手に入れる事が出来た。
タカくんもさすがに三咲ちゃんや香保さんとの連絡先交換はしていたが、どの女の子との連絡先の交換は自分からじゃなく女の子から言ってもらわないと出来ないチキン野郎だったらしい。
「くっそ、とんでもなく疲れたわ。明日ライブなのに…」
「ん?何か言った?
それじゃどっちかが梓を見つけたら連絡するって事で。どっちも見つけられなくても1時間後にはここに集合するって事でいい?」
「ああ、それでいいよ」
「じゃあ私はあっち。あんたはあっちからね」
「ああ、はいはい。
てか、あのヤンキー女、バイク乗ってんくせに方向音痴なのかよ」
「え?今、あんた…」
「じゃ、俺あっちから探して来るわ。うぅ…早く用事終わらせてお家帰りたい…」
そう言ってタカくんはあたしを探す為にその場から離れたらしい。
「ヤンキー女…バイクに乗ってる…?私らそんな話全然してなかったのに…。タカ…梓の事…覚えてたの…?」
・
・
・
「いっやぁー!さっすが東京!いや、池袋?
大阪では高額で買えないようなグッズがわんさかあるよ!フッ、関西に帰ったらしばらくはお米とカップラーメンだな…。いや、おっちゃんの家に食べに行けば…」
あたしは欲望のままにショッピングを楽しんでいた。
当時のあたしにとって池袋は魔境の地だった…。
「だが用意していた弾丸はこれだけじゃない。ね、澄香。次はどこのお店行こっか?
………あれ?澄香?居ない?迷子?」
あたしは買い物に夢中で澄香とはぐれてしまった事をその時初めて気付いたのだ。
「まったく澄香は…。いくら初めての東京だからって浮かれすぎだよ。まさかあの澄香が迷子になっちゃうなんて」
「迷子はあの娘じゃねぇよ、お前だお前」
「え?」
そこには何故かタカくんが居た。
「あれ?何でここに居るの?」
「お前の相方が泣きながらお前が迷子って言うからな。一緒に探してやってたんだよ」
「澄香…!高校生にもなって迷子になったくらいで泣いちゃうなんて…」
「どんな都合のいい耳してるんだ?迷子はお前の方だっつーの」
そうしてタカくんは携帯電話を取り出し、どこかに電話し始めた。
「ってどしたの?誰かに電話?」
「あ?お前を見つけたってあのコンビニ女に連絡すんだよ」
「え…?澄香に?」
「あ、言っておくけどもあれだからな!ナンパじゃないから!どっちかがお前見っけたら……お、あ、もしもし、俺だけど。俺だよ俺」
「澄香の事、コンビニ女って…。何で…?」
そうしてタカくんは澄香を呼び出してくれて、あたしと澄香は無事に合流する事が出来た。
澄香はタカくんがあたしの事を『ヤンキー女』と覚えていた事を気にしながら、あたしはタカくんが澄香の事を『コンビニ女』と覚えていた事を気にしながら…。
「「また迷子になったら困るやん」」
という事でその日の夕暮れまでタカくんを引っ張り回した。
・
・
・
「ってな事があってね。それがあたしと澄香がタカくんに再会したお話だよ」
「……へ?」
「へ?って…どしたの?なっちゃん」
「いやいやいや、どしたの?って聞きたいのは私の方だよ?『この日のあたし達とタカくんとの再会は、本当に大切な事だったの((キリッ』とか言ってたじゃん?」
「いや、(キリッっとは言ってないけど…」
「全然大切じゃないじゃん!めっちゃどうでもいい事やん!真面目に聞いてた私がバカみたいじゃない?」
バカみたいじゃない?って…。
「えっ…と、だからタカくんは再会した時もあたしと澄香の事を覚えててくれた大切な話って言うか…」
「は?(怒」
なっちゃんったら!
しばらく会わない間になんて怖くなっちゃったのかしら。
「だ、だからね!その日の夜は澄香もあたしもお互いにタカくんがあたし達の事を覚えててくれた事は言い出せなくて…。そ、それでね?あたしと澄香はどちらからでもなく、『タカくんに告白するのはメジャーデビューを果たしてから!もしくはタカくんから告白されたらお互い恨みっこ無しで』みたいな不可侵条約を交わしてね?」
「<○><○>」
何なのなっちゃん!!
それは何て発音をしているの!?目を見開いて睨んでいるって表現じゃないよね!?
こ、こうなったら…。
「だ、だからぁ…、タカくんからの告白を待つ感じであたしと澄香はタカくんから付かず離れずをしてたんだけど…」
「<○>言<○>」
ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?
「も、もしね!今!現代で!なうでタカくんの事を好きな娘が居るとしたら、あのチキン野郎から告白を待つなんて高難度の無理ゲーだから、あたしと澄香はそれで失敗したんだよ?もうちょい上手くやった方がいいよ?ってアドバイス!そう!アドバイスなんだよ!ね?もしタカくんの事好きな娘が居るとしたら割と大切な話でしょ!?」
「<○><○>」
「<・><・>」
「^^…あ、そっか。私は違うけど先輩の事を好きそうな子もいるもんなぁ。確かに梓お姉ちゃんも澄香お姉ちゃんも失敗してるし、そういう事なら割と大切な話ではあるのかな?」
…笑顔?その台詞の前の『^^』ってのは笑顔なの?
どうやって発音してるの?
でもやっぱこれで正解だったかな?危なかったぁ。怖かったぁ。
「ま、私は違うけどね。先輩の事好きなのかなぁ?って子にさりげなくアドバイスしとこうかな?」
どう見てもなっちゃんもタカくんの事好きじゃん!
バレバレじゃん!
ってか、他のタカくんの事好きそうな子って誰ですか?教えて下さい。澄香と共有しないといけないので。
「でも梓お姉ちゃん!」
「な、何かな!?」
「私が聞きたいのはそういうお話じゃないからね!
そろそろ先輩達BREEZEと梓お姉ちゃん達Artemisのライブのお話を聞かせてよ」
「え?う、うん。わかってるよ!次はライブのお話。
あたし達Artemisと、タカくん達BREEZEの…初めてのデュエルギグ」
「やっぱ先輩からの告白ってのは期待しない方がいいよね(ボソッ」
なっちゃん?
「と、とにかく話すね。
その日の翌日、あたし達はライブハウスに到着し、聖羅に連れられて、リハーサルの前にタカくん達の楽屋へと挨拶に向かった」