バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第51話 Artemis VS BREEZE

「「「す~……はぁ~…よし!」」」

 

「「「……」」」

 

「「「す~……はぁ~…」」」

 

「もう!さっきから梓ちゃんも澄香ちゃんも翔子ちゃんも何回深呼吸してるの!もうあたしが開けちゃうよ!?」

 

 

「「「ちょ、ちょっと待って!もう少し!」」」

 

 

「あたしは深呼吸よりため息しか出ないよ」

 

あたし達Artemisとタカくん達BREEZEの初めてのデュエルの日。

あたし達は挑戦者なんだから、あたし達からちゃんと楽屋まで挨拶に行こうという事になっていた。

この時にはリハも終わってたんだけど、リハの時にはBREEZEと会う事はなかったから…。

 

「梓と澄香はともかくとして…何で翔子まで緊張してるの?」

 

「あー、聖羅ちゃんには昨日の話まだしてないもんね。

実は昨日あたし達観光しててね。そこでうんぬんかんぬんがあって…」

 

「何ですって!?うんぬんかんぬんな事が!?

まさか翔子までBREEZEの毒牙にかかるなんて…」

 

聖羅は昨日の経緯をうんぬんかんぬんだけで理解してくれていた。

 

「BREEZEの連中にArtemis(あなたたち)を紹介した手前、私も挨拶はしておきたいし。早く会場に戻りたいしさっさと挨拶終わらせるわよ」

 

「ああ、聖羅ちゃんの彼氏さんも今日は会場に来てるんだっけ?」

 

「彼氏…と言ってもいいのかどうか…」

 

「ありゃ?そうなの?」

 

「ええ、もうお腹にあの人の子供も居るし、彼氏ってより旦那って感じだし?」

 

「へぇ~聖羅のお腹に子供居るんだ?おめでとう」

 

「待って?聖羅のお腹に子供が居るって事はあたしもう叔母さんになっちゃうの?」

 

「あはは、梓ちゃんもう叔母さんなんだね。あたしも梓叔母ちゃんって呼ぼうかなぁ?」

 

「え?待ってみんな。何でそんな反応が普通なの?聖羅まだ結婚してないよ?あれ?澄香から聖羅に彼氏出来たって聞いたのこないだだよな?あたしの倫理観がおかしいの?」

 

その時、聖羅はもう妊娠していたのだった。

そのお腹に居る子がBREEZEのベーシストである蓮見 盛夏。せっちゃんなんだけどね。

 

「って訳で私も早く旦那と合流したいから開けるわよ」

 

-ガチャ

 

そう言って聖羅はBREEZEの楽屋の扉を開けた。

 

「ん?誰だ?」

 

「あら?拓斗?」

 

「あ?聖羅か。何の用だ?お前が俺達の楽屋に…」

 

「ほら、今日のあんた達のデュエルの相手のバンド。私の紹介だしね。挨拶でもさせてもらおうと思って」

 

「ああ、そういや英治のヤツがお前に頼まれたからって勝手に受けて来やがったんだったな。チ、クリムゾンのヤツらのせいで今ややこしくなってるってのによ」

 

「あんたよく私の前でそれ言えるわよね」

 

「クリムゾンエンターテイメントの海原 聖羅の事は信用してねぇが、俺らのファンである聖羅は…クリムゾンとか関係ねぇだろ」

 

「へぇ~、もしかして私の事口説いてる?」

 

「アホか、英治と一緒にすんな。俺には今んとこ恋愛とか必要ねぇ。タカの歌と俺達の演奏。それがあれば他に何もいらねぇよ」

 

「ほんと音楽バカよね、あんたは」

 

「あ、あの~…」

 

聖羅が楽屋の扉を開けて出てきたのはBREEZEのベーシストである宮野 拓斗。拓斗くんだった。

 

聖羅と話をしているのを後ろで聞いていたんだけど、拓斗くんはクリムゾンエンターテイメントをはじめとしたクリムゾングループとの戦いの事で、あたし達とのデュエルは乗り気じゃなさそうだった。

 

だからArtemisのリーダーであるあたしからちゃんと挨拶したいから方が良いだろうと思い、拓斗くんと聖羅の間に割って入る事にした。

 

「あ、あの。あたし、Artemisのギターボーカルの木原 梓と申します。本日は無理言ってデュエルを受けて頂いて誠にありがとうございます!」

 

そう言ってあたしは深々と頭を下げたんだけど…。

 

「…」

 

「(やっぱり怒ってるのかな?)」

 

「……」

 

「(クリムゾンエンターテイメント…。お父さんの会社か…。聖羅にも少し聞いてるけどやっぱり沢山のバンドに迷惑掛けてるんだね)」

 

「………」

 

「(だんまりかぁ…。やっぱりあたし達とのデュエル嫌だったのかな?)チラッ」

 

「バ、バカな…、何故こんな所に天使…いや、女神か…?ま、まさか俺死んだのか…?」

 

「へ?天使?」

 

「……ハッ!?

い、いや!な、何でもない!あ、頭を上げてくれ!

君が今日のデュエル相手のボーカルさんなのか。関西からこんな遠くまで大変だったろう?

あ、いつまでもこんな所に立たせておく訳にはいかん!

さ!大したもてなしは出来ないが入ってくれ!お茶でも用意しよう」

 

「へ?あ、あの…」

 

「おい!タカ!トシキ!英治!三咲!

今日の対戦相手のArtemisさんがわざわざ挨拶に来てくれたぞ!おもてなし!おもてなししないと!」

 

拓斗くんはそう言ってあたし達を楽屋に入れてくれた。

最初はあたし達の事嫌なのかな?って思って気まずかったけど、すごくいい人で安心した。

 

「拓斗…あんたまさか…。

まぁいいわ。面白い事になりそうだし。梓も澄香も翔子も日奈子もお邪魔させてもらいなさいな。私は会場に戻るわ」

 

「え?聖羅、一緒に居てくれへんの?」

 

「多分もう大丈夫よ。拓斗、この子達の事よろしくね」

 

「ああ、安心してくれ。さ、ほんと汚ない所だけどどうぞ。あ、粗茶しかない!ちょっと高級茶買いに行ってくる!」

 

聖羅は会場に戻り、あたし達はBREEZEの楽屋に入れてもらえる事になった。

 

「じゃ、じゃあ…あの、お邪魔します…」

 

「あ?お前ら…やっぱお前らがArtemisだったのか」

 

楽屋にはタカくんが居て、さすがに昨日の今日だったからか、タカくんはあたし達の事を覚えていた。

 

「ん?てかやっぱりって?」

 

「あ?お前のバッグのステッカー。Artemisって書いてるし」

 

「あ、あたしのバッグ…」

 

当時あたしはグッズって訳ではないんだけど、Artemisのステッカーを作っていて、それをバッグに貼っていた。

タカくんはそれを見て、あたしと澄香が関西弁だった事から、Artemisの関係者だとは目星を付けていたらしい。

 

「それより何でちびっこがこんな所に居るんだ?お前らの妹か何か?」

 

そう言ってタカくんは日奈子に近付いて行った。

 

「あ?誰がちびっこだっ……」

 

日奈子が怒っている。この場は血の海になるに違いない。

そう思って日奈子を止めようとしたんだけど…。

 

「……。そうなのー!今日はおねーちゃん達のおーえんに来たのー!」

 

「そうなのか。こんな遠くまで大変だったな」

 

そう言ってタカくんは日奈子の頭を撫でた。

何と羨ましい事だろうか。

 

「おにーちゃんがおねーちゃん達の対戦相手のボーカルのTAKA?」

 

「そうだよー。ちゃんとタカをTAKA表記に出来るとかお嬢ちゃん頭いいね」

 

タカくんは当時から幼女に甘かった…。

 

「(ニヤリ」

 

日奈子があたしと澄香に向かって黒い笑みを見せた気がした。

 

「おにーちゃん!抱っこ!抱っこして!」

 

「抱っこ?しょうがねぇな」

 

「「ああ!?」」

 

「フッ(ニヤ」

 

タカくんは日奈子を抱き上げ、羨ましい事に高い高いをしたのだ。

 

「わ~い♪高~い♪」

 

「ハハハ、そんな嬉しいか?じゃあもっと高い高いしてやるな」

 

タカくんはほんっっっっとに幼女に甘かった。

 

「お、おい、タカあのな」

 

「タカくん、それは…まずいと思うよ?」

 

「あ?英治に三咲?何が?何がまずいの?」

 

「タカ。落ち着いて聞いてくれ。お前が今抱っこしてるその子がArtemisのドラマーだ」

 

「うん、その子もう高校生だよ?英治くんより力強いドラムやるスーパーJKだよ?」

 

「……は?女子…高生…?」

 

そしてタカくんはあたし達の方を見て来た。だからあたしと澄香は思いっきり頷いた。

 

「えっと…まじ…?」

 

「や~ん♪BREEZEのTAKAに激しく抱かれちゃった~。これもうセクハラだよね?あ、この人痴漢ですってポリスメンに電話しちゃおうかな?抱っこのどさくさに胸触られてるし」

 

その後、タカくんは「美麗」という言葉がしっくりくるような綺麗な土下座を披露し、日奈子は新しい下僕が出来たと喜んでいた。

 

それからあたし達は軽く挨拶を交わし、三咲ちゃんとも久しぶりに会話出来たあたし達は自分達の楽屋へと戻った。

30分以上はお邪魔させてもらってたんだけど、お茶を買って来ると出て行った拓斗くんは戻って来なかった。

 

 

 

 

 

「BREEZEのみんな話しやすくて良かったよね。

うふふ、昨日と今日で新しい下僕も出来たし、あたし的に今回の遠征は万々歳だよ」

 

「日奈子はほんまに…タカに抱っこしてもらうとか何なんよ…」

 

「澄香ちゃん?羨ましかった?」

 

「……そんな訳ないやん」

 

BREEZEの楽屋にお邪魔させてもらった後は、あたし達は自分達の楽屋に戻り、その日の前日に翔子が引き取りに行ってくれた衣装に着替え、本番までの時間をいまかいまかと待っていた。

 

「…よし!」

 

「ん?梓?どした?」

 

「まだ本番までは時間あるけど、そろそろステージに向かおうと思って」

 

「ん?ああ、そうだな。まだ開演時間には早いけど、もう開場もしてるしな。澄香も日奈子も準備出来てるならステージに向かおうか」

 

「私も準備はOKだよ。ここに居ても緊張しちゃうだけやしね。ステージに向かおうか」

 

「あたしも大丈夫!

じゃあ、いつもみたいに円陣組んじゃう?」

 

翔子も澄香も日奈子も準備は万端。

あたし達は少し早いけどステージに向かう事にした。

 

あたし達はステージに向かう前には、いつも円陣を組んで気合いを入れていたんだけど、この日はあたしにとって大切なBREEZEとのデュエルの日だから。

 

いつもの円陣とは違って、あたしは拳をみんなの前に出していた。

 

「梓?円陣は?しないの?」

 

「うん、今日は何となく…。みんな、あたしに拳を合わせて欲しい」

 

翔子も澄香も日奈子も最初は怪訝そうな顔をしていたけど、あたしに合わせるように拳を出して合わせてくれた。

 

「…みんな、今日までありがとう。

あたしはお父さんの事もあって音楽が大嫌いになってたけど、音楽の素晴らしさ、楽しさを知ってから…あたしはやっと今日を迎える事が出来た。それもこれも翔子と澄香と日奈子のおかげだよ。本当に…本当にありがとう」

 

「ちょっ…!待てよ梓!何だよそれ!まるで今日が最期みたいな…」

 

「梓!梓らしくないよ!そんなのって…」

 

「梓ちゃん…?何でそんな事を今言うの?違うよね?あたし達Artemisは…」

 

「もう!みんな早とちりし過ぎ!引退と音楽辞めるとかないから!ちゃんと聞いて!」

 

「「「ああ、良かった…」」」

 

「今日、あたしが音楽をやり初めた目標であるBREEZEとのデュエルが叶おうとしてる」

 

「「「…」」」

 

「あたし、木原 梓の目標は達成出来た。

だから、これからあたしはArtemisの目標に向かって突っ走るよ。あたし達Artemisはエクストリームジャパンフェスで優勝してメジャーデビューを果たす」

 

「おう!当たり前だ!」

 

「びっくりしたじゃんか…。私も今日やっとBREEZEとデュエルするって目標が叶うんだもんね」

 

「梓ちゃんは言い回し下手だよね。心臓に悪いよ」

 

そしてあたしは深呼吸を1回挟み、あたしを含めみんなに向けて大きな声で叫んだ。

 

「あたし達はこれからも誰にも負けない!今日BREEZEに負けたらエクストリームジャパンフェスでの優勝なんて夢のまた夢だ!今日も勝ちに行くよArtemis!!」

 

「「「おう!(うん!)」」」

 

「ま、俺らも誰にも負けるつもりありませんけどね」

 

「「「「TAKA(タカちゃん)!!?」」」」

 

そこには居るはずがないタカくんがあたし達の間に入ってきた。

 

「な、何でテメェがここに居るんだよ!」

 

「え?そろそろお前らの出演時間だからと思って声掛けに来ただけど」

 

「こ、声掛けに来ただけならノックするとかあるやん!」

 

「いや、ノックしましたけど?返事無いのになんか盛り上がってるからさ?」

 

「タカちゃんは!あたし達がもし着替えとかしてたらどうするつもりだったの!」

 

「あ?この時間になっても着替えてるとかならこいつら時間調整出来ないの?って思うだけですけど?仮に着替え中だったとしたら心の中ではありがとうって感謝はしてるだろうけどね」

 

「BREEZEのTAKAさん。今日はよろしくお願いします。さっきはちゃんと挨拶出来なかったけど、今日はあたし達が勝つから」

 

「「「梓!?何でそんな真面目!?」」」

 

翔子と澄香と日奈子はあたしの事を普段はどう思ってたんだろう?

思い返すと何か腹立ってくるなぁ。

 

「おう。梓…ちゃんだっけ?」

 

「そう…ですけど…あたしの方が年下ですし呼び捨てのタメ語でいいですよ?将来的な事もありますし」

 

「「「梓(ちゃん)?」」」

 

「将来的な事?何かよく分からんが…。

お前、木原 遙那さんの娘さんなんだってな」

 

「え?お母さんの事…知ってるの?」

 

「まさかお前がな…ってのはあるけど。

氷川さんから色々聞いてんよ。お前らのArtemisの音楽…楽しみにしてるわ」

 

「氷川さん…から?」

 

「そろそろステージ向かえよ。オーディエンスが待ってんぞ」

 

そう言ってタカくんはあたし達の楽屋から出て行った。

 

タカくんがあたしの事を。

あたしのお母さんの事を知っている。

 

氷川さんはお母さんのお葬式にも来てくれた。

そして射手座のレガリアの使い手と同じバンドを組んでいて、あたしがBREEZEと出逢うライブの主催者だったベーシストの氷川さん…。

 

あたしはそしてこう思った。

タカくんかっこよすぎてドキドキする。こりゃあたしら初めてデュエルで負けるかも知れないわ。

 

まぁ、あたしの予想通りこのデュエルは負けちゃう訳だけどね。翔子のせいで。

 

 

そしてあたし達はステージに立った。

 

この日のライブ構成は、あたし達Artemisが3曲歌い、その後BREEZEが3曲歌ってからデュエルギグ。

その後にデュエルギグで勝った方が2曲歌い、あたし達とBREEZEで最後にデュエットして解散という構成になっていた。

 

「(う~…ドキドキしてきた。あたしらの曲は関東の人達にも響いてくれるかな…?)」

 

「(はぁ…トシキさん…今日も超かっこ良かった…)」

 

「(タカかっこ良かったなぁ。私達の曲でドキドキしてくれるかな?)」

 

「(今日の晩ごはん何だろ?)」

 

あたし達はステージに立った後、無言でライブの開始を待っていた。

 

ちなみにさっきのみんなの心の声は、みんな無言だったから、翔子と澄香と日奈子はこんな事考えながら待ってたんじゃないかな?っていうあたしの勝手な妄想である。

 

 

-パッ

 

 

突然ライトに照らされたあたし達。

 

ステージの上からオーディエンスの顔がよく見える。

…ステージの上からみんな1人1人の顔を確認出来るくらいオーディエンスの数は少なかった。

 

まぁ、関東では名前も知られていないあたし達と、ライブも何回もやっているとはいえ、大して有名でもないBREEZEの対バンやもんね。

 

「い、いっくよぉ~!Artemisぅぅ!!!」

 

そうしてあたし達Artemisの…関東での初ライブが始まった。

 

 

 

 

「マジか…これがArtemis…?最近音楽やり始めたって奴らの音楽かよ。英治、どう思う?」

 

「ほぉ~…さすが大口叩くだけあるな。あいつらの音楽すげぇじゃん。ま、そりゃ昨日は負けちまうか…」

 

「すごいねー。梓ちゃんと澄香ちゃんからデュエル負け無しって聞いてたけど…」

 

「あ?三咲、こいつらの事知ってんのか?

しかし…これは俺達BREEZEでやっても負けちまうんじゃねぇか?」

 

「えーちゃんもそう思った?正直すごいよね。……あはは、今日のデュエル、俺達負けちゃうかもね…」

 

「すげぇな…天使か女神と思ってたら、こんな素敵な歌声をしているとは…やはり、あの娘は…」

 

「もう俺は拓斗が何言ってんのかわかんなくて怖いんだけど?……うぅむ、しかしこれは俺らも飛ばしていかないとマジでヤバいな…」

 

「ねぇ?タカくんはあの中で誰かと付き合うってなったらどの娘とがいい?」

 

「三咲が何言ってんのかもさっぱりわからねぇ…」

 

 

 

 

タカくん達が舞台袖でそんな話をしていたらしいけど、あたし達の関東で初めての曲は終了した。

 

「あ、Artemisでしたぁ~…はぁ、はぁ…」

 

「あ、あはは、私達の曲、どうでしたか?」

 

「あたしらの曲!関東でも盛り上がりましたか!?」

 

「ハァ…ハァ…関東で初めての曲だからね!あたしもめちゃ張り切って叩いたよ!…ハァ、ハァ」

 

しばらくの静寂。

あたし達は最高に飛ばして演奏したし、すごく上手くいったと思ってたんだけど、オーディエンスの反応は静かで…。

関東ではあたし達の音楽は受け付けてもらえなかったのかな?と少し落胆していた。

 

だけど、あたし達は次のBREEZEに繋ぐ為にも、まだ曲をやらないといけない。

 

「あはは…つ、次の曲は…」

 

あたしは次の曲に入ろうとタイトルコールをしようとした。

だけどその時…。

 

-パチパチパチ…

 

-パチパチパチパチパチパチ

 

拍手の音が聞こえ、そしてそれから…。

 

 

 

\\うぉーーー!!!//

 

 

 

「え?え?」

 

「さいこー!」「かっこいい!」「もっと歌ってー!」「やべぇ!鳥肌立った!」「俺も!凄すぎて声出なかったし!」

 

オーディエンスから聞こえてくる声。

 

あたしはすごく嬉しくて、落胆してた気持ちが一気に高ぶってきて、あたし達の曲は、あたしの歌は関東でも関西でも関係ない。

音楽はやっぱり最高だ。あたし達は最高だ。

そう思った。

 

「ま、まだまだ行くよぉ~!Artemisぅぅぅ!」

 

「みんな!次の曲行くよ!みんな、着いてきて!」

 

「盛り上がってきたなぁ!あたしもまだまだ行くぜ!」

 

「ふひひ、やっぱライブは最高だね!!」

 

あたし達は次の曲を演奏し、その曲も大成功。

その日その時、あたし達はノリに乗っていた。

 

 

 

 

あたし達の3曲が終わりBREEZEが交代した。

そしてBREEZEも3曲の演奏が終わり、あたし達Artemisとタカくん達BREEZEのデュエルギグが始まった。

 

 

「ここは俺達のホームだ!Artemis、負けないぜ!」

 

「じょ、上等!あたし達だって負けないから!」

 

「あはは、今夜は最高だね、負けないよArtemis!」

 

「はぅ…トシキさん…何てかっこいいの…(あたしらも負けねぇ!かかってきな!)」

 

「天使…女神…?い、いや、お、俺らは負ける訳には…」

 

「何言ってんだこいつ…。みんな!私達Artemisは負けないから!応援よろしく!」

 

「日奈子!俺達が勝ったらわかってるよな!」

 

「このおっさん何であたしを呼び捨て?」

 

「「「「ヴァンパイア!」」」」

 

「「「「CHERRY CHERRY!(チェリーチェリー!)」」」」

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

「(すごい…。やっぱりBREEZEはすごい!改めて近くで見てるとよくわかる…!タカくんのかっこよさが!……じゃない!集中!集中しなきゃ!いくらタカくんがかっこいいからって負ける訳には…)」

 

「(すげぇ…、トシキさんのギターテク…なんて力強いんだ…!近くで見てるとよくわかる…!トシキさんのかっこよさが!………じゃねぇ!集中しねぇと…、梓のやつ走り過ぎだろ…!ああ、でもトシキさんかっこよすぎ!)」

 

「(梓も翔子も何やってんの…!梓は走り過ぎだし、翔子はそれに着いていこうとしてミスが目立つし…!でも、それを差し引いてもやっぱりBREEZEはデュエル馴れしてるだけあるね。あ、タカがチラッとこっち見た。か、かっこいい~!!)」

 

「(梓ちゃんも翔子ちゃんも澄香ちゃんも何やってんの?バカなの?やる気あんの?あ、澄香ちゃんもミスした)」

 

…そしてデュエルはBREEZEの圧勝で終わった。

 

「「「「………」」」」

 

「ハァ…ハァ…負けちゃった…(うぅ~…オーディエンスの視線もBREEZEの視線も痛い…やっちゃったなぁ…。そして日奈子の顔がめちゃくちゃ怖い…)」

 

「くそ…負けた…。あたしがミスらなけりゃ…(やべぇ…トシキさんかっこ良すぎだろ…いや、そもそも集中しきれなかったあたしが未熟なだけか…。それより日奈子の顔がめちゃくちゃ怖い…)」

 

「さすが…BREEZE…。(違う…。演奏なら本来こんな惨敗する程の差はなかった。リズム隊の私が梓と翔子をちゃんと引っ張れる実力がなかったから…。てか、日奈子の顔がめちゃくちゃ怖い…)」

 

「ま、負け…あたし達…が…。(こいつらマジで何やってんの?勝てない相手じゃないじゃん!)」

 

「あ、あはは、やっぱり関西から関東への遠征だからね。疲れも限界なのかもね」

 

「ああ、そうだな。それにArtemisにとっては今夜が関東での初ライブ。緊張してたってのもあるんだろ」

 

トシキくんと拓斗くんがオーディエンスに向かって、あたし達をフォローしてくれた。

 

「そうだな。それにさっきデュエルの前のライブは最高だったしな。あれが本来のArtemisの演奏だったんだと思うぜ?」

 

「ああ、さっきのライブはめちゃくちゃ盛り上がったもんな。もうなんだかんだ4曲目だしな」

 

そして英治くんとタカくんもフォローしてくれて、その後タカくんは…。

 

「でもな!これで終わったらオーディエンスのお前らもArtemisも不完全燃焼だろ!Artemis!もっかい演奏やれんならやろうぜ!デュエルギグ!」

 

「え?もう一回…いいの?」

 

「おう!次も本気でいくからな!お前らも本気でこいよ!もちろんオーディエンスも本気で暴れろよな!!」

 

「翔子!澄香!日奈子!」

 

「ああ!あたしもやりたい!」

 

「せっかくタカがくれたチャンスやもん!私もやりたい!」

 

「…何となく展開読めちゃうんだけど」

 

日奈子だけはなにか思う所もあったみたいだけど、あたし達はタカくんの申し出を受け取り、もう一度デュエルギグをする事にした。

 

「次は負けないから!いっくよぉ~!Artemisぅ!」

 

「トシキ!拓斗!英治!次も負ける訳にはいかねぇぞ!飛ばすぜ!!」

 

そしてBREEZEとArtemisの2曲目のデュエルギグが始まった。

 

「「「「Artemis!食らい付いてこいよ!Silent Hope(サイレント ホープ)」」」」

 

「「「「あたし達の全力で応える!Mysterious Kiss(ミステリアス キッス)」」」」

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

「♪~♪~!(いける!このままなら!)」

 

「(そうだ!これがあたしらの音楽だ!トシキさんを見ないように意識すれば…)」

 

「(梓も翔子すごく調子いい。私もこのままやりきれば!失敗すんなよ私!集中…集中して!)」

 

「(梓ちゃんも翔子ちゃんも澄香ちゃんもノリにノッてる!このままいけば……いいんだけど無理だろうなぁ…。はぁ…また負けちゃうのか…)」

 

あたしはたまに歌詞を間違えたり、翔子も澄香もコードを間違えたりしてたけど、日奈子はノーミスだった。

あたし達はノリにノッていた。このままいけばBREEZEに勝てる!

 

1曲目もこんな感じだったし、日奈子はノーミスだったんだけどね。えへ。

 

 

「(ヤバ、BREEZEもノリノリやん…。そうだよね、BREEZEにとっても大事なデュエル。あたしももっと気合い入れなきゃ…)」

 

と、あたしが思った時だった。

 

デュエルギグ2曲目。

BREEZEはステージをいっぱいいっぱいに使い、タカくんもトシキくんも拓斗くんも動き回っていた。

英治くんはドラムだから動けてなかったけど。

 

そしてあろうことうか、タカくんはあたしの目の前に立ってすごく至近距離で歌っていた。

あたしの目の前だからオーディエンスには背を向けている感じで。

 

そして今更思う事じゃないんだけど、今更になって不思議な事を思った。

 

デュエルギグって何なの?

 

そう。音楽と音楽のぶつかり合いというのはわかっている。バンやろのデュエルの時も音ゲーパートだったし。

 

だけど対バンとは違って交互に歌うのではなく、あたし達Artemisとタカくん達BREEZEは一緒に各々のバンドの曲を歌っている。

これオーディエンスを盛り上げるもクソも、オーディエンスってあたしらのとタカくんらのと曲を聞き分けられるのかな?

 

とか、一瞬思ったが忘れよう。この話が破綻してしまう。

 

それより今はあたしの目の前で歌っているタカくんをどうにしかしないと…。今はとか言ってるけどこれ過去話だから過去の事だけどね。

 

あ、あの時のタカくん思い出したら胸が痛い。キュンキュンする。

 

「…(あわわわわ…タ、タカくんがあたしの目の前に…)」

 

その時のあたしは目の前で歌うタカくんのかっこよさにノックアウトされ、歌詞が頭から抜け出てしまっていた。

 

「(あかん!これ敗けのやつや!梓、急に歌うの止めちゃったし!何とかギターは弾いてるけど…。し、翔子と日奈子は!?)」

 

「(あ、梓ちゃん、とうとう歌うの止めちゃった。まぁ、しょうがないか。あんな至近距離だしね。梓ちゃん、顔真っ赤になって頭から湯気出ちゃってるし。澄香ちゃんは大丈夫みたいだけど…)」

 

あたしは至近距離に居るタカくんに身も心も奪われ、歌う事は出来なくなっていた。

 

何とかギターは弾けているけど…。

 

あたしが歌う事が出来なくなってしまったせいで、このステージ上には、タカくんの歌、トシキくんのギター、拓斗くんのベース、英治くんのドラム。

そしてあたしのギター、澄香のベース、日奈子のドラムの音だけしか鳴り響いていなかった。

 

「(…ん?あれ?翔子のギターの音がしない?)」

 

「(翔子!?何で!?何で微動もせずに石みたいに固まっちゃってんの!?)」

 

「(あ、そういやみんなの後ろにいるドラムのあたしにはわかったけど、翔子ちゃんさっきのAメロ入る前にトシキちゃんにハイタッチみたいなのされてから固まっちゃってるね。梓ちゃんの歌と翔子のギター無しか。うん。負けだわ)」

 

翔子はこのデュエルの最中に、トシキくんからハイタッチみたいなのをされて、手と手を触れ合ったらしい。

そして翔子はそのハイタッチのポーズのまま、固まってしまい動かなくなっていた。

 

あたし達が「「「翔子(ちゃん)!!)」」」と、思った矢先。

 

-バターン!!

 

翔子は鼻血を出して倒れてしまった。

 

 

 

……そしてデュエルギグはあたし達Artemisの負けで終わり、幕は閉じられた…。

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