バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第53話 決戦前夜

そしてもうそろそろ本気で本編に戻らないとヤバいと思っているあたしがいる。

もう過去編入ってから1年以上経ってるよ!?

 

よし、ここからは駆け足で…。

 

って訳でね。

クリムゾンエンターテイメントとの闘いや、生死を賭けた日奈子の企画ライブ、アルテミスの矢を通じて出会った仲間達、異世界への召還、他のクリムゾングループのミュージシャンやレガリアを狙うミュージシャンとの戦い、数千年前の封印から解かれた妖魔達との戦い、BREEZEのライブにこっそり行った時に迷子になってBlaze Futureの奈緒ちゃんのお母さんに助けてもらったり、謎のデュエルギグ原住民の住む無人島に流れついたり、エクストリームジャパンフェスの決勝リーグへの出場を賭けたデュエルギグ、未来から来た機械兵器(アンドロイド)との戦い、モンブラン栗田さんのirisベースの事、宇宙人(スペースノイド)との邂逅、仲間と思っていたミュージシャン達との別離。

 

その他にもたくさんの事があったけど、その闘いのひとつひとつが、あたしにとっては掛け替えのない想い出。

 

「いやいやいや、待って梓お姉ちゃん」

 

「どうしたのなっちゃん。あ、もしかしてまたはしょり過ぎとか言う感じ?でも前回も言ったけど、あたし達がBREEZEと出会ってからの話はきっとトシキくん達から詳しく…」

 

「いや、それはわかってるよ?聞きたい気もするけど早く本編に戻らなきゃだし我慢する。文化祭編とか修学旅行編とかも控えてるし。ん?あれ?文化祭に修学旅行…?これ社会人の私関係なくない?」

 

なっちゃんも時々変な事言う子になっちゃったなぁ。

タカくんの影響かな?

 

「ってそりよりさっき梓お姉ちゃんの言った想い出話!」

 

「ん?何かあった?」

 

「何かあった?…って言うか、異世界とか機械兵器とかデュエルギグ原住民とか宇宙人とか…」

 

「ああ、その辺もトシキくん達が詳しく話してくれるんじゃないかな?」

 

「あの…ちょっと言い方に悩んだんだけど…えっと、梓お姉ちゃんの変な妄想とか、中二病の行くつく先に見えるもの…とかじゃなくて?」

 

「え?何を言ってるのなっちゃんは?」

 

「…あ、う~ん…まぁ、いいか。今は忘れておこう」

 

「もう続き話して大丈夫?」

 

「う、うん…」

 

エクストリームジャパンフェスの決勝リーグに出場するっていうのは本当に大変な事でね。

まぁ、お父さん達クリムゾンエンターテイメントの妨害とかも色々あったんだけど…。

 

だけどあたし達は長い闘いの中で、やっとArtemisがエクストリームジャパンフェスの決勝リーグに参加出来るまで間近という所まで辿り着いた。

…もうあたし達Artemisもみんな大学生になってたんだけどね。本当に長かったよ。

 

「(梓お姉ちゃん大学行けたんだ!?)」

 

「どうしたのなっちゃん?」

 

「な、何でもないよ。エクストリームジャパンフェスって大変だったんだなぁって思って…」

 

「そうなんだよ~。それでね…」

 

その時もまだクリムゾンエンターテイメントとの闘いは苛烈で、アルテミスの矢とクリムゾンエンターテイメントは激しい闘いの最中だった。

 

この闘いはいつ終わるのか。本当に終わるのか。

そんな闘いの中で希望が生まれた。

 

 

アーヴァルによるドリーミン・ギグの開催。

 

 

何がどうなってこうなったのかはわからないけど、タカくん達BREEZEにもアーヴァルから声が掛かり、ドリーミン・ギグに参加出来る事になった。

BREEZEのみんなもあたし達もアルテミスの矢のみんなもすごく喜んだ。

 

だけど、タカくんの喉はもうクリムゾンエンターテイメントとの闘いの中で、壊れかけていた。

 

このままクリムゾンエンターテイメントと闘い続けたらタカくんの喉は完全に壊れるかもしない。

だから拓斗くんはドリーミン・ギグを最期にBREEZEを解散しようと持ちかけ、タカくんだけは意地を張って反対していたけど、拓斗くん達やあたし達、アルテミスの矢のみんなで説得して、BREEZEはドリーミン・ギグをもって解散する事になった。

 

そうなるはずだったのに、クリムゾンエンターテイメントの四天王の1人である足立が、ONLY BLOODの3代目である波瀬くんを倒し、アルテミスの矢のバンドも倒され、足立の軍勢の猛攻により、トシキくんと拓斗くんと英治くんも入院する程のダメージを受けた。

……あたし達がやってるの音楽だよね?

 

幸いトシキくん達の怪我は大事には至らず、ドリーミン・ギグまでには退院出来そうだった。

だけどタカくんはバカだから…。

 

タカくんは手塚さんの手引きもあって、足立の所在を知り、1人で闘いを挑む事にした。

 

 

「よし!明日のデュエルも勝つぞ!!あと3勝でエクストリームジャパンフェスの決勝リーグだ!」

 

「うふふ、翔子ちゃん燃えてるね~。ま、やっとあたし達もエクストリームジャパンフェスの決勝リーグに出場出来そうだもんね!」

 

「でも私達の目標はエクストリームジャパンフェスでの優勝!まだ決勝リーグもあるんやし気合い入れないと!ね、梓」

 

「うん、そだね。BREEZEやアルテミスの矢のみんなの頑張りに報いる為にもあたしらは優勝しなきゃ!」

 

この時、あたし達は翌日に行われるデュエルギグに勝とうと意気込んでたけど、本当はみんなBREEZEやアルテミスの矢の事を心配して空元気を出しているだけだった。

 

「あんたら威勢だけはいいけど顔が暗すぎ。もっと楽しまなきゃだよ」

 

「そうだよ!晴香ちゃんの言う通り!せっかくなんだから楽しまなきゃ!って訳でじゃ~ん!お酒をいっぱい買って来ました~。今夜は私と晴香ちゃんの奢りだよ!いっぱい飲もー!」

 

そんなあたし達を心配してくれたのか三咲ちゃんと晴香ちゃんが大量のお酒を持って応援に来てくれていた。

あ、ちなみにこの時は関東ね。

 

「いいか。澄香!今日こそお前を飲み潰してやるからな!」

 

「晴香…飲み潰してやるって、私ら明日デュエルなんやけど…」

 

「あはは、いいじゃんいいじゃん!今夜はじゃんじゃん飲もう!」

 

「日奈子の言う通りだな。ありがとな、晴香、三咲」

 

「ううん、私もみんなで飲みたいだけだし。あ、梓ちゃんは何にする?」

 

「そうやなぁやっぱり1杯目はビールかな?」

 

正直、翌日のデュエルギグへの緊張と、みんなの事の心配で心が弱っていたあたし達には、三咲ちゃんと晴香ちゃんの明るさがすごく助けになっていた。

 

そして、みんなで乾杯しようとした時、

 

「ん?おい、梓、お前のケータイに電話だぞ」

 

「ん?誰だろこんな時間にタカくんからのラブコールかな?」

 

「いや、ないだろ」

 

「即答しないでよ翔子…。ん?あれ?公衆電話?」

 

その電話は公衆電話からだった。

何か怖い気もしたけど、あたしは出る事にした。

 

\\かんぱ~い!//

 

みんなはそんなあたしを放置して飲み会を始めた。

 

「も、もしもし?」

 

『Artemisの木原 梓だな』

 

「そ、そうやけど…」

 

『俺が誰かなんてのはどうでもいい。時間もねぇから手っ取り早く用件だけ伝えさせてもらうぜ』

 

「いや、声でわかりますけど?手塚さんやんね?何で公衆電話から?」

 

『ギクッ!?』

 

「ほら、ギクッって言ったし」

 

『そ、そんな事はねぇ!とりあえず用件を伝えるぞ!

いいか、よく聞け。今からタカの奴は足立とケリを着けに行く』

 

「…え?」

 

『…クリムゾンエンターテイメントのスーパー四天王、手塚様と一緒に足立のヤサに殴り込みだ』

 

「手塚さんと…?ってお前のせいか!!」

 

『勘違いするな!俺はあんなに崇高でかっこいい天才的ギタリストじゃねぇ!ただの通りすがりのギタリストだ』

 

「声でわかるって言ったやろ!てか、タカくんを止めてよ!」

 

『そうだな。それが用件だ。タカの奴が足立とデュエルギグをして勝てる見込みは五分五分。いや、今のあいつの喉を考えると勝てる可能性は20%くらいかも知れねぇ』

 

「だ、だったら尚更!」

 

『だが、今、足立に勝てる可能性があるのはタカだけだ』

 

「そんな…そんなのって…」

 

『あいつはトシキ達がやられた恨み辛みもあるだろうが、お前らを守る為に足立に挑むつもりだ。足立さえやっちまえばクリムゾンエンターテイメントも止まらざるを得ないしな』

 

「それでも…」

 

『いいか、梓。俺がお前にこの事を伝えたのは、俺も迷ってはいるからだ。タカなら勝てるかも知れねぇが、確実にタカは終わる。ドリーミン・ギグにも参加は出来なくなるだろう』

 

「どこ?タカくんはどこに…ううん、足立はどこ!?あたしがタカくんの前に足立を…」

 

『落ち着け、お前じゃどう転んでも足立には勝てねぇ。お前の歌じゃ足立は折れる事はねぇ』

 

「確かにあたしの歌じゃ…。でも…それでも…」

 

『俺も色々覚悟してるからよ』

 

「覚悟?」

 

『いいか、俺は今からお前にある場所を伝える。そこにはタカが居るはずだ。

タカを止めるのか、そのまま送り出すのか、お前がタカに会って決めろ』

 

「あたしが…?止めて…いいの?」

 

『言っただろ、俺も迷ってると。

だからお前に託す。ずっとタカを見て音楽をやってきたお前が決めろ』

 

「うん、ありがとう、手塚さん」

 

『俺は手塚様じゃねぇって言ってんだろ!まぁいいや。いいか、場所はな…………』

 

そして手塚さんはタカくんの居場所だけを伝えて電話を切った。

電話の時に手塚さんが言っていた『覚悟』ってその時はわからなかったけど、あたしは絶対にタカくんを止めなきゃいけないと思った。

 

「晴香ちゃん今日バイクだよね!?キーある?」

 

「バイクの鍵?あるけど梓どっか行くのか?」

 

晴香ちゃんは特に渋る事もなくあたしにバイクの鍵を貸してくれた。

みんなは飲み会始めちゃってたけど、あたしはまだ飲んでなかったしね。

 

「ありがとう!」

 

「ちょっと、梓!何処に行くの!?」

 

「だいじょ~ぶ!すぐに戻るから!」

 

そう。すぐに戻る。

明日は大切なデュエルギグだし、タカくんが足立の所に行くのを止めるだけだから。

タカくんがグダグダ言って、足立の所に行くのを止めなかったら容赦ない暴力で心を折ればいいしと思っていた。

 

だけど問題は…。

 

「あたしが迷子にならずにタカくんの居る場所に行けるかどうかだよね…」

 

手塚さんに聞いたタカくんの居場所はわかっている。

だけど行き方がわからない。いや、わかっていたとしてもあたしには辿り着ける自信がなかった。

 

「考えててもしゃーない。…梓!ガンダム、行きまーす!」

 

「よっ…と、お前、酔ってもないのにバイクに乗って『ガンダム行きまーす』とか恥ずかしくないのか?」

 

「うぇ!?ふぇ!?翔子!?」

 

あたしがバイクを発進させようとした時、後ろに翔子が座ってきた。

ちゃんとヘルメットを着けて。

 

てかね。あたしは1人だと思ってたんだよ?

だからガンダム行きまーすとか言ったんだよ?まわりに誰か居たらさすがに言わないからね?

 

「翔子!?な、何で!?」

 

「さっきの電話。BREEZE…ってか、タカ絡みだろ?

澄香は晴香と飲み比べしてたし、日奈子は三咲と何か難しい話をしてたから気付いてないみたいだったけど」

 

翔子はあたしと手塚さんの話を…って言うかあたしの発言を聞いていたみたいで、タカくんの名前が出たものだからと心配して着いて来てくれたらしい。

 

「お前1人じゃ迷子になって明日のデュエルに間に合わなくなってもヤバいしな。あたしも連れてけよ」

 

「翔子…」

 

そしてあたしは翔子に手塚さんとの電話の内容を伝えた。もちろんタカくんの居場所も。翔子ならわかるかもだし。

 

「は!?足立と決着!?あの馬鹿、喉が壊れけてんのにあんなヤベェ奴とデュエルしようってのかよ!?」

 

「うん、だからあたしはタカくんを止めたい」

 

「そ、それはそうだろ。あたしだって止めるわ!

さっき梓の言った場所ならあたしはわかるからよ。行くぞ梓。止まらねぇようならぶん殴る」

 

「うん!ありがとう翔子!」

 

翔子が着いて来てくれるなら、こんなに心強い事はない。

あたしは翔子を後ろに乗せて、タカくんの元へと向かった。

 

「そこの道を左!」「次の信号を右だ」「左に曲がったら2つ目の信号を右!」「次の交差点で右、そして右に曲がって、右行って右行って左!」

 

翔子に案内してもらいながらあたしは運転してたけど…。

 

「何でこんな入り組んでんの!?本当に道合ってる!?さっきからぐるぐるぐるぐる回ってない!?」

 

「あ?うるせぇよ梓!急いでんだろ!道は合ってるから言う通り飛ばせ!次のガソリンスタンドを左!」

 

「さっきからもう!右とか左とか上上下下左右左右BAとか訳わかんないよ!え?左?左ってどっち?こ、こっち?」

 

あたしは焦る気持ちと入り組んだ道を右へ左へと進んで居て、頭の中は混乱していた。

 

「よし!ここまで来たらもう少しだ!次のコンビニの所を左!そしたらタカが居る所まで真っ直ぐだ!」

 

「ふ、ふぇぇぇぇぇぇ…。もう訳わかんない!!左?左ってどっち!?お箸持つ方!?お茶碗持つ方!?」

 

「あぁ!?えっと…お箸を持つ方だ!!」

 

「オッケー!こっちね!」

 

「わっ!?バカ!!こっちじゃねぇ!お箸持つ方って言っただろ!!」

 

「え!?何で!!?お箸持つ方こっちじゃん!翔子もこっちの手でお箸持つじゃん!」

 

「あ、そうだ。いやん///

トシキさんってご飯食べてる時は左手じゃん?トシキさんの事考えてたらつい///

ごめんな梓(キリッ」

 

「お!お前はアホか!!ごめんで済むか!!」

 

あたしは長年の運転で培ってきたバイクテクを駆使し、スピードも安全性も損なわないまま高速ターンを披露した。前輪を動かさないまま後輪だけでターンするあのマックスターンを!

 

 

「…え?うわ、ちょ、梓!」

 

-ゴロゴロゴロ

 

「ふぇ?翔子?何か言った?」

 

翔子が何か言った気がしたけど返事はない。

時間もないから翔子の返事を待たず、あたしはアクセル全開にして走った。後は真っ直ぐって翔子が言ってたしね。

 

「あ、あぶねぇとこだった…。って!梓!

待て!待てって!あたしを落としてる!さっきのマックスターンであたしを落としちゃってる!ちょっと!本当に待って!!」

 

もう真っ直ぐ進めばタカくんが居る。

あたしはタカくんにもうすぐ会えるという思いからか、バイクが軽くなったような錯覚に陥っていた。

 

まぁ、実際は翔子を落っことしちゃってたから、錯覚じゃなくてバイクは軽くなってたんだけどね。

 

そして、あたしは歩いているタカくんを見つけた。

 

「見つけたぁぁぁぁ!!タカくんんんんん!!!」

 

タカくんを少し追い抜かし、タカくんの前に出て道を塞ぐようにバイクを止めた。

 

「やっと見つけた!……って、あたしやから。梓やから怖い人ちゃうから。そんな壁のとこにうずくまって無機物の振りせんでいいから」

 

「あ?梓?何でお前がこんな所に…?」

 

びびりのタカくんはバイクの爆音が近付いて来るものだから、ヤンキーか何かに絡まれたら怖いと思って無機物の振りをしていた。

 

「てか、何俺をビビらせてくれてんだテメェ。あ、待てよ。考えてみたら梓も十分怖い人じゃん。すみません、さっきの暴言は忘れて下さい」

 

「こんな可愛い子つかまえて何が怖い人やねん。本当の恐怖を教えてやろうか?」

 

「ほらめちゃくちゃ怖いじゃん」

 

「それより!」

 

あたしはタカくんを足立の所に行くのを止めないといけない。だけど、タカくんは真面目に話しても聞いてくれないんだろうなと思っていた。

 

「それより…、タカくんこそ何でこんな所にいるの?ここってタカくんの地元から離れてるし…。BREEZEの活動圏内じゃないやん…」

 

どうせタカくんは本当の事は話してくれないだろうから、あたしは上手く誘導尋問して足立とのデュエルを止めようと思った。

 

「…あ?あぁ…。波瀬の奴もだけど、トシキ達までやられちまってよ?さすがにムカついたからな。足立の野郎をグシャグシャに潰してやろうと思ってよ?」

 

「もう!いつもそんな変な事言って誤魔化して!大体タカくんは………って?え?足立?足立を潰しに?」

 

「ん?おお、まぁな」

 

あたしはびっくりした。

いつものタカくんなら、しょーもない事とか訳のわからい事を言って話をはぐらかしてくると思っていたから…。

 

「まぁ、大神さんの事とかレガリアの事もあるけどな。あの野郎はマジでやっちまわねぇとって思って…」

 

「…それならさ?あたしが何でここに居るのか…わかるよね?」

 

タカくんは変に誤魔化したり、変な事を言ったりせず、あたしに足立を潰しに行くと言った。

 

だからあたしもタカくんを変に探ったりせず、あたしがなぜここに来たのかを話そうと思った。

 

「足立とのデュエルを止めに来たんだろ?アホの手塚に聞いたのか、手塚のアホに聞いたのかは知らんが、俺がここに居るのは手塚しか知らねぇ事だしな」

 

「…わかってるなら話は早いね。足立のは所に行くのは止めて。タカくんじゃ足立に勝てないよ」

 

「あ?俺が足立ごときにヤられると思ってんのか?梓、知っていたがお前はやはりアホだな」

 

「アホでも何でもいいよ。ここで止まってくれないなら、あたしはタカくんに容赦ない暴力を奮って入院させる事になっても止める。翔子が止めてもあたしはタカくんが泣くまで殴るのを止めない」

 

「何そのジョナサンみたいな台詞。てか、何でここに翔子が出てくんだ?」

 

「翔子もあたしと一緒にタカくんを止める為に来てくれたの!」

 

「来てくれた…?いや、翔子どこに居るの?」

 

「だからあたしと一緒に!」

 

あたしは後ろに居る翔子を見た。

つもりだったんだけど、そこに翔子は居なかった。

その時は気付いてなかったけど、ここに来る途中に翔子落っことしちゃったもんね。

 

「…翔子が居なくてもタカくんをしばき倒すくらいわけないしな」

 

「そうだな。お前がちょっと本気出しただけで俺は骨すら残らないだろうな」

 

いや、そこまではしないよ?

 

「梓」

 

「な、何?」

 

「やめろ、僕を行かせてくれ!」

 

タカくんは念願だった『人生の間で言ってみたい台詞ベスト10』に入る台詞を言えて満足気な顔をしていた。

 

「やめろって何をやめるん?それガンダム種でキラがフリーダムに乗って地球行く時の台詞やろ?でもここで『やめろ』ってのは無理あるんちゃうかなぁ?」

 

「お前な!俺がキラ好きなの知ってんじゃん!?せっかくキラの名言をリアルで使うチャンスきたー!って思ってたのに、ダメ出ししてんじゃねぇよ!」

 

タカくんにキラの台詞をドヤ顔で言わせる訳にはいかない。あたしはそう思っていた。

何故ならあたしは『アスキラ派』なのにタカくんは『キラアス派』だからだ。

 

「あのね、タカくん。あたしは真面目な話をしてるの。足立とのデュエルなんか行かせない」

 

「梓、お前の気持ちはわかるよ。俺も同じ立場なら止めてるだろうしな。アホの波瀬は止まらなかったけど」

 

「だったら止めて。足立もお父さんもあたしが倒すから。二胴も九頭竜もあたしが倒す。クリムゾンエンターテイメントはあたしが…」

 

「それでも、守りたい世界があるんだ!」

 

こ、ここに来てまたキラの台詞だと!?

あたしはタカくんには勝てない。

そう思った。

 

……何であの時のあたしはそう思ったんだろう?やっぱりアホだったのかな?

 

「守りたい世界って何?あたし達Artemis?それともアルテミスの矢のみんな?トシキくんや拓斗くんや英治くん?三咲ちゃんや晴香ちゃん?その世界にタカくんは居るの?」

 

「おおぅ、キラの名言にそんなぶっ込んでくるとはな。……あぁ、まぁなんだ。俺はお前らが笑って楽しくライブやったりよ。ライブじゃなくてもいいわ。好きな事を好きにやってんのが好きだからな。そういうの見てるとよ。俺も頑張ろうって、すっげぇやる気とか生きる活力?そういうの感じれんだよ。似たような事昔言ったことあるだろけど…」

 

いつもふざけた事ばっかり言うタカくん。

この時の台詞もすごくふざけてると思う。

 

「だからな。俺は俺の為にやってるだけに過ぎねぇよ。足立を潰しに行く事だって、トシキ達がやられてムカついたってだけだしな」

 

「いつまでも夜の太陽で居なくてもいいんだよ?」

 

「あ?何言ってんだお前。お前も俺の事、夜の太陽とか…」

 

「うぇぇぇん…。だから…止めてよぉ…うぇぇぇ…あたしヤだよ。タカくんと…BREEZEとずっと…ずっと…うぇぇぇぇぇん」

 

あたしは泣き出してしまった。

タカくんが頑張ろうとするのは、確かに自分の為なのかも知れない。だけど、そこの根本にあるのは"あたし達"だから。

 

「ふぁ!?何で!?何で泣いてんの!?これ俺が泣かせた事になんの!?」

 

「あたし、まだタカくんにデュエルで勝ってないもん!グスッ…あたしが…あたし達がエクストリームジャパンフェスで、ゆ…グスッ…しょうして…、も、タカくんに勝たなきゃ…だもん!だから…」

 

「ハァ…、梓」

 

「な"に"?」

 

 

-ギュッ

 

 

あたしはタカくんに抱き締められた。

これはもう妊娠した。結婚だ。そう思った。

 

「ふぁ!?ふぃ!?ふぅ!?ふぇ!?ふぉ!?」

 

「大丈夫だから」

 

「ふぁふぁふぁふぁふぁ…にゃにゃにゃにゃにゃにゃ…にゃにが!?」

 

「俺は帰ってくるよ。足立に必ず勝つ。まだ俺にはやらなきゃいけねぇ事もあんしな」

 

「やらなきゃ…いけない事…?」

 

「ああ。俺は足立をぶっ倒して、ドリーミン・ギグも無事に成功させてな。そんで…海原もクリムゾンも俺が倒してやる」

 

足立もお父さんもクリムゾンも?

 

「だから…お前は明日のデュエル…頑張れ」

 

「本当に?本当に帰って来てくれる?お父さんもクリムゾンも…倒すまで歌ってくれるの?」

 

「ああ」

 

そしてタカくんはあたしから離れて…

 

「約束だ」

 

笑ってそう言ってくれた。

 

 

 

 

タカくんは足立を倒して帰って来た。

だけど、もう満足に歌う事も、もう思いっきり歌う事も、今までのように歌う事は出来なくなっていた。

 

 

 

 

あたし達はそんな事も知らないまま、翌日にデュエルをして、みんなタカくんと足立との闘いの事を心配していた。

 

その時はね、三咲ちゃんと晴香ちゃんからタカくんは足立を倒したよ。と、いう事しか聞かされてなかった。

あたし達に心配させない為なんだろうけど。

 

だけどあたし達は足立とデュエルをして、無事にいられる訳がないと確信していた。

だから余計に三咲ちゃんも晴香ちゃんもタカくんの現状を何も言ってくれないから、余計に色々と考えさせられていた。

 

実際、タカくんは足立とデュエルして喀血したり、気を失ったりしたみたいなんだけどね。

入院するくらいにダメージあったみたいなんだけど、勝手に病院を脱走してラーメンを食べに行ってたんだって。あたし達心配損だよ。

 

「何とか勝てたね…」

 

「ああ、辛勝だったな。今回の相手は…」

 

「私達が…勝てない相手じゃなかったよね。そんな相手に辛勝か…」

 

「澄香ちゃんもそう思ったんだ?そうだよね。あたし達の敵じゃなかった…」

 

この日あたし達の対戦相手だったバンドは、ろくにライブもやった事のないバンドだった。…らしい。

何かね、対戦相手のバンドがみんなクリムゾンに潰されて運良くここまで来たみたいな…。

 

まぁ、あたし達もだけど対戦相手のバンドさんもびっくりしてたよ。

 

数日後、あたし達は晴れない気持ちのままデュエルをした。

その日のデュエルも何とか勝つ事が出来た。

だけど、本当に勝てたのが奇跡とでも思うような失敗の多いデュエルだった。

 

「数日後にはまたデュエルだな。勝てたら決勝リーグ。負けたらまた一から再出発だな」

 

翔子があたし達の前で、ソッと一言だけそう言った。

タカくんと足立がデュエルをした日から、あたし達は誰もBREEZEの関係者には会っていない。

 

そしてドリーミン・ギグはアーヴァルの主催の元、開催され、当然参加バンドの中にBREEZEの名前は無かった。

 

「あたしらさ。これまでずっとエクストリームジャパンフェスで優勝する事を目標にしてたけどよ。いつの間にか…バンドやってる目標変わってたんだと思う。あたしも梓も、澄香も日奈子も」

 

翔子の言っている事は、あたし達Artemisのみんなが思っていた事だったんだけど、誰も口に出せていなかった言葉だった。

 

タカくんの喉がヤバいって話を聞いた時から、あたし達の音楽もパフォーマンスも、誰が見ても明らかに落ちていたから。

 

もちろんあたし達はそれでも楽しいって気持ちで音楽やってたよ?

だけど、あたし達を守る為に散ったアルテミスの矢のバンド達や、あたし達を守る達に壊れたBREEZE。

どれもあたし達には重かったんだと思う。あたし達はそんなみんなと楽しんでやるライブやバンド活動が好きだったんだから。

 

それが散っていったみんなの為にエクストリームジャパンフェスで優勝しなくちゃいけない。という気持ちに変わってたんだよ。そんな想いで音楽やってもみんなの心に響かないってわかってた事なのにね。

 

「あたしは正直このままじゃ、エクストリームジャパンフェスで優勝なんて出来ないと思う。いや、その前に次のデュエルも勝てないかもしれねぇ」

 

「翔子ちゃんは何言ってるの…。そんなの…」

 

日奈子も同じ気持ちだったんだろう。

それ以上の事は何も言えなかった。だけど、翔子は…

 

「だからあたしは一旦Artemisを抜ける」

 

「「「は!?何で!?何でそうなるの!?」」」

 

「ちょっと翔子!それはいくらな…」

 

「澄香。いや、梓も日奈子も最後まで聞いてくれ。数日後のデュエルまでにはもちろん戻ってくる。あたしはこのままじゃ、楽しんで音楽がやっていけねぇ。だから、あたしがこれからの音楽をやる為に、ただのギタリストの神原 翔子としてやっておきたい事があるんだ」

 

「これからの為に?」

 

「ギタリストの神原 翔子として?」

 

「ああ、手前勝手なのは承知してる。だけど、頼む…」

 

その時は翔子には翔子なりの何か考えがあるんだろうと思い、あたし達は翔子の提案を受け入れる事にした。

あたしもあたしが楽しんで音楽をやる為にやっておきたい事があったから。

 

「わかった。あたしはオッケーだよ」

 

「ふぅ…翔子は本当に言葉足らずやんね?私もオッケー。そんかわり、ちゃんと次のデュエルまでには戻って来なよ?」

 

「梓ちゃんと澄香ちゃんがオッケーなら、あたしもオッケーって言うしかないじゃん」

 

「おお!ありがとうな、みんな」

 

そう言った翔子はギターを担いで『んじゃ、早速行って来る』とあたし達の前から去って行った。

 

だから、あたしもあたしの思う『これから』の為にタカくんに会いに行こうと決意した。

 

 

 

 

次の日、あたしは早速タカくんに会う為に新幹線へと乗り込んだ。

 

だけど事件はそこで起こった。

 

 

 

「え!?梓!?な、何でここに!?」

 

「しょ、翔子こそ!何で新幹線に乗ってるの!?昨日カッコ良く去って行ったやん!?」

 

「あ、あの後は…ふ、普通に家に帰って今日の準備を…」

 

「……」

 

その後、あたしと翔子は気まずい想いをしながら関東へと向かった。

 

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