バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第55話 最期のデュエルギグ その2

次は翔子の話かな。

この日、翔子はあたしと一緒に関東来たし、澄香はバイトが終わった後って話だったしね。

 

「トシキさん…こちらに居らしたんですね」

 

「ん?え?翔子ちゃん!?何でここに!?」

 

「トシキさんに会いに来たんです。けど、ご自宅に伺ってもいらっしゃらないようでしたので。えへ、探しちゃいました」

 

うぅん…。翔子から聞いた話をそのまま伝えてるけど、改めてトシキくんの前に居る時の翔子って喋り方とか仕草とかもうアレだよね。

 

おっと、翔子のお話なんだから翔子視点でお話しなきゃ。

 

 

 

 

あたしは梓と一緒に関東までやってきた。

あたしはArtemisのギタリスト翔子としてではなく、ただのギタリスト翔子として、トシキさんとデュエルギグをしたいと思ったから。

 

トシキさんはあたしにとって憧れのギタリストだ。

勝てるとは思っていないけど、Artemisという居心地の良い場所から離れて、ハングリー精神で挑んでみたかったから。

 

……てか、梓は何で関東に来たんだろ?タカと会う為だとは思うけど、あたしみたいにArtemisとしてでなく梓としてタカとデュエルしてみたくなったから?

 

いや、無いよな。三咲と晴香の話だとタカはもうまともに歌えなくなったって事だし…。

 

「翔子ちゃん、ご、ごめんね。もしかして今日俺と会う約束とかしてたっけ?」

 

おっと、梓の事はいいか。

あたしはトシキさんとの事が大事だし。

 

「いえ、すみません。急でしたから驚かせちゃいましたよね。どうしてもトシキさんにお願いしたい事があったから、いきなりですけど来ちゃいました」

 

「あ、そうだったんだ。良かったぁ~…約束してたのに忘れちゃってたのかと思ったよ。

それで俺にお願いしたい事って何かな?」

 

トシキさん…何て優しいの…?

いきなり来たあたしに何も文句とか言ったりせずに、お願い事を聞いて下さるなんて…好きっ!

 

「翔子ちゃん?」

 

「あ、いえ、す、すみません。

あ、あの、いきなりで申し訳ないんですけど…あたしとデュエルして下さいっ!」

 

「デュエル?うん、いいよ。やろっか」

 

「え?いいんですか?」

 

「うん?デュエルでしょ?全然いいよ。

俺は本当のところ、もうギター弾く事はないんだろうなって思ってたけど…。デュエルをする為にここまで来てくれたんでしょ?いきなり来てまでデュエルって事は、翔子ちゃんにとってすごく大切な事なんでしょ?

だったら、俺は受けるよ」

 

トシキさん…なんて聡明なの…?

いきなり来たあたしにデュエルしてくれと言われて、あたしにとって大切な事だと思ってデュエルを受けて下さるなんて…んんんー!好きっ!!

 

「はい。あたしにとって大切な事です。これからのArtemisの為に」

 

「うん、じゃあここは煩いし、ちょっと場所を変えようか」

 

「ここも…もう壊しちゃうんですね」

 

「うん…寂しくなるけどね。BREEZE(おれたち)の未来の為だから」

 

あたしがトシキさんと会っていた場所は、かつてBREEZEがスタジオ代わりにバンドの練習をしていた所。

 

元々、英治の家がやっていた工場の1つの跡地。

その廃工場でBREEZEは練習をしていたんだけど、BREEZEが解散する事、英治の夢であるカフェを建設する為に、建物を取り壊し更地にしようとしていた。

 

今は英治のライブハウス、ファントムになっている場所だった。

 

 

「ここでデュエルしよっか」

 

「え?ここで…?公園でですか?」

 

あたしがトシキさんに連れて来られたのは、トシキさんの家の近所の大きな公園だった。

何かの記念館も建っているような大きな公園。

 

都市部から離れているから、そんなに人は居なかったけど、ちらほらと散歩している人達が居た。

えっと…こんな人が居るような場所でデュエルするんですか?

 

「あはは…あんまり人は居ないと思ってたけど、それなりに居るね。俺はここでデュエルしたいんだけど、翔子ちゃんは大丈夫かな?」

 

「あ、え、えっと…」

 

あたしからトシキさんに挑んだデュエルギグ。

本来ならトシキさんに断られても文句を言えないようなイキナリのデュエルギグだ。

 

それをトシキさんは快く受け入れてくれた。

あたしに場所の文句を言う権利なんてない。

 

「こ、ここで大丈夫です!」

 

「そっか。良かったよ」

 

でも…何でこんな人の多い場所で?

トシキさんはどちらかと言えば、ステージ上以外ではそんなに目立つような事は避けたがる方だったはず。

これまでのトシキさんはそうだった。

 

「あの、でも何故この場所で?何か理由があるんですか?」

 

あたしは思った疑問をそのまま聞いてみた。

まぁ、大した理由がなくてもトシキさんがここがいいと言うならここで良かったんだけど…。

 

「うん、ここはね。始まりの場所って言ったら大袈裟だし、BREEZEの始まりの場所かって言われたら、ちょっと違う気もするんだけど…」

 

「始まりの場所…ですか?」

 

「うん、ここは俺が初めてギターを弾いた場所。

そして、はーちゃんに俺と三咲ちゃんが中学の頃にギターを教わってた場所なんだよ。たまにえーちゃんも習いに来てたけど」

 

こ、ここがトシキさんが初めてギターを弾いた場所!?

聖地!まさに聖地じゃないですか!!

 

おっと、騒いだりしたらトシキさんに変な女だと思われちゃう。平常心平常心…。

 

「そうなんですね。ここが…」

 

あたしはそこである不安を感じた。

 

ここはトシキさんがギターを始めた場所。

もしかしたら、そのギターを始めた場所でギターを弾く事を終わらせるつもりなのかも知れない。

 

だからトシキさんは、この場所を選んだ…?

 

「じゃあ、早速だけどデュエルギグをしようか」

 

「ま、待って下さい!」

 

「え?どうしたの?」

 

BREEZEはタカの喉の事もあるし、解散するってのはわかってるし、あたしも納得はしている。

あの状態のままタカに音楽を続けさせる訳にはいかないしな。

 

トシキさんも、BREEZEが解散する事になって、もうバンドやライブはしなくなるかも知れない。あたしはそこも納得はしていた。

 

だけど、ギターを辞めるってのは違う!

ライブしたり人前でギターを弾かなくなったとしても、趣味とか暇潰しとか、そんなのでもいいから…。

たまに聴かせてくれるだけでもいいから、トシキさんにギターを辞めるという事だけは…。

 

「翔子ちゃん?」

 

「…お願いついでですが、せっかく…最期のデュエルギグなら賭けをしませんか?」

 

「最期の…?賭け?」

 

「ダメ…ですか?」

 

もしこれでトシキさんが賭けはしないと言ってきたら…。

 

「賭け…かぁ。うん、いいよ。何を賭けよっか?」

 

トシキさん!

 

「あたしが勝ったら…ギター辞めないで下さい。ずっと…ずっと…弾き続けて下さい。たまにでもいいです。ギターを弾いて…あたしに…あたし達にトシキさんのギターを聴かせて下さい」

 

「ギターを?……なるほどね。だったら、俺が勝ったら今日この場でギターを辞めても文句は無いね?」

 

「はい。構いません」

 

「わかった。その賭けでいこうか。

俺が勝ったら俺はギターを辞めていい。翔子ちゃんが勝ったら俺はギターを続ける」

 

「はい!お願いします!」

 

「賭けにはならないと思うけど……いくよ!翔子ちゃん!」

 

「今日はいつものあたしじゃありませんよ!トシキさん!」

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

「クッ!(さすが翔子ちゃん!さすがArtemisのギタリストだ!すごい!これが体調が万全な翔子ちゃんのギターか!)」

 

「ま、まだっ!(か、かっこいい~!!クソッ!トシキさんかっこ良すぎだろ!!……あ、やべ、また気を失いかけた…。でも、今日は!今日だけは!!)」

 

 

…ツゥー

 

 

「ハッ!?(翔子ちゃん!?やっぱり…今日も万全じゃないんだね。昨日ライブで今日は関東まで来て…体力も限界なんだね)」

 

「うぅ…(うそーん!は、鼻血!?ちょっと待って!トシキさんかっこ良すぎてあたしのぼせちゃった!?デュエル中だし鼻血も拭えないし!トシキさんにこんな醜態を!?)」

 

「翔子ちゃん…!(そんな体調が悪いのに…鼻血を拭う事もせずにまだデュエルを続けるなんて…本気なんだね!)」

 

「くそっ!(鼻血!鼻血が気になる!ヤバいヤバいヤバい!!いや、でも今日は負ける訳には…)」

 

「だったら!(俺も俺の本気でいくよ!翔子ちゃん!!)」

 

「ハッ!(な、何てギラついたかっこいい眼を…。あかん、あかんて!そんなかっこいい眼差しであたしを見られたら…)」

 

 

…ドバドバドバドバ

 

 

「ぎゃぁぁぁぁ……!!!!」

 

-バタリ

 

「翔子ちゃん!?」

 

あたしは大量の鼻血を吹き出してしまい倒れてしまった。

演奏を途中で止めてしまったあたしの…敗けだ。

 

 

 

 

 

「ん…ここは…?」

 

「お、起きたか翔子」

 

「晴香?あれ?あたし…」

 

「トシキとデュエルして倒れちゃったんだって?」

 

「あ、そっか。あたし、最期の最期までやっちまったか…」

 

「トシキから翔子が倒れたって連絡来た時はびっくりしたよ。英治と三咲は昨日から関西だし、タカには無理させたくないし、兄貴もいきなり関西に行っちゃうし」

 

「英治と三咲と拓斗が関西?何で?」

 

「英治と三咲は昨日のArtemis(あんたら)のライブを観に。兄貴は何か朝に梓から連絡あって急に?」

 

拓斗が梓から連絡あって急に関西に?

いや、それこそ何で?梓は関東に来てんだし拓斗がわざわざ関西(あっち)に行く必要ないだろ。

 

「んで、あたしはトシキに呼び出されて翔子を家に運んで来て、トシキはあたしを呼び出した罰と、翔子を倒れさせた罰としてケーキを買いに行かせてる」

 

え?あたしを倒れさせた罰って…。

うぅ…トシキさん、本当にすみません…。

 

「それで翔子は何でわざわざ関東(こっち)まで来てトシキとデュエルを?」

 

あたしは晴香からトシキさんと何故デュエルをしに来たのかを問われ…

 

「う、うぅ…グスッ…そう、だよな。あたし、結局負けちゃったんだよな…うぇぇぇぇん」

 

泣き出してしまった。

 

「翔子!?どした!?何で泣いてんの!?」

 

そしてあたしは晴香に、何故関東まで来たのか、何故トシキさんとデュエルをしたのか。

トシキさんとどういう約束でデュエルをして負けてしまったのかを話した。

 

 

 

 

「そっか、お前それで…」

 

あたしの話を聞き終えた晴香はタバコに火を着けて、

 

「翔子も吸うか?」

 

「あ、うん、ありがと」

 

当時はあたしも成人していたし、BREEZEではトシキさん以外が、Artemisではあたしだけが喫煙者だった。

あれ?あたし何でタバコ吸い始めたんだっけ?

 

あ、今はそれはいいか。晴香はタバコに火を着けて、あたしにもタバコをくれて火を着けてくれた。

 

「ふぅ~…。翔子。あたしが言う事じゃないけどさ。あんたの心配はいらないと思うよ。…あ~、Artemisがスランプって意味では心配は心配か」

 

「あたしの心配はいらないって?何で…」

 

「そろそろトシキも帰ってくるだろうし、トシキから聞いた方が安心するだろ?」

 

「トシキさんから?あたしの心配事ってさ…」

 

「トシキも口下手だからな。BREEZEの奴らは何で揃いも揃って…【ピンポーン】…あ、トシキかな?」

 

あたしと晴香が話しているとインターホンが鳴り、晴香はトシキさんが帰って来たと思って玄関まで迎えに行った。

 

「ああ、よかっふぁ。しょうこふぁん、だいびょうぶ?」

 

あたしの部屋に入って来たトシキさんの頬は、何故か赤く腫れ上がり、まともに喋る事も出来ないでいた。え?何で?

 

「ト、トシキさん!?あ、あの、お顔が…!」

 

「ああ、さっひぃ、晴香ふぁんに思いっひぃりなふられてね。あはは」

 

「…さっき、晴香ちゃんに思いっきり殴られてね。ですか?」

 

「うん、まぁ…」

 

まさか…まさか晴香はあたしの事を思ってトシキさんの事を殴ったんじゃ…。

あたしを思っての事だったら晴香の気持ちは嬉しいけど、トシキさんに手を挙げたのは許せない。

あたしは晴香を殴ってしまうかもしれない。そう思っていた。

 

「ほい。トシキはコーヒーで翔子は紅茶で良かったよな?」

 

晴香がお盆にコーヒーや紅茶を乗せて、あたしの居る部屋に入って来た。

 

「晴香!お前!何でトシキさんの事を…!」

 

「ああ、こいつさ。あたしの分はチーズケーキって言ってあったのに、売り切れてたからって違うケーキ買ってきたんだよ」

 

え?ケーキ?あたしの為じゃなかったんだ?

 

 

それからあたし達は無言のままケーキを食べていた。

たまに晴香から『早くトシキに声を掛けろ』という謎のプレッシャーを投げかけられてはいたけど、あたしから何かを話すというのは、少し躊躇われていた。

 

「クッチャクッチャクッチャ…」

 

晴香はいい加減イライラしてきたのかクチャクチャと音を立てながらケーキを食べていた。正直怖かった。

 

「フン!!」

 

-ドゴッ

 

「痛っ!」

 

「トシキさん!?ちょ、ちょっと!晴香!!」

 

晴香はいきなりトシキさんにかかと落としをくらわせた。

 

「いってぇぇ…え?俺なんでかかと落としされたの?」

 

「お前らがあたしの部屋で暗い雰囲気出してるからだよ。トシキ、お前あたしに言った通りちゃんと翔子に説明しな。翔子もそのフォークをあたしに向けてくんな。黙ってトシキの話を聞け」

 

「うん…わかったよ…。翔子ちゃん、聞いてくれるかな?」

 

「トシキさん?」

 

あたしは晴香に向けていたフォークを下ろし、トシキさんの話を聞く事に集中した。

 

「まぁ、結論だけ言おうかな。

俺は確かにバンドは辞める。ライブをする事はもう無いかもしれない。だけど、音楽を辞めるつもりはないよ。もちろんギターも」

 

「え?トシキさん…音楽をギターを続けてくれるんですか?」

 

「あはは、う~ん…それは約束は出来ないんだけど…」

 

「え?そ、それじゃ…やっぱり…」

 

「トシキ?」

 

「わ、わかってるよ。ちゃんと話すってば」

 

そうしてトシキさんは話を続けてくれた。

 

「俺は正直バンドっていうのはBREEZEでしかやりたいと思ってない。でも、音楽は好きだからね。もちろんギターも。だから趣味としてこれからは音楽をやっていくつもりだよ」

 

「趣味として?ですか?」

 

「うん。BREEZEをやってた時はギターだったけど、もしかしたら、これからも音楽やっていく中で、他の楽器をやりたいって思うかも知れない。キーボードとかベースとか…リコーダーとかカスタネットかも知れないけど。だから、ギターを続けるってのは約束出来ないかな?って…。もちろんやっぱりギターがいい。ってギターを続けるかも知れないよ?」

 

トシキさんはこれからも音楽はやっていくと言ってくれた。もしかしたら、ギターはここで終わりなのかも知れない。

あたしはもうトシキさんとギターでデュエルギグをやる事はないのかもしれない。でも、それでもトシキさんが音楽は続けてくれるという事は嬉しかった。

 

「音楽ってさ。やっぱり最高だと思うし、これからも関わっていきたいと思ってる。俺がBREEZEをやってきて出会ったミュージシャンはみんな凄かった。だから俺もBREEZEの解散を機に、色々他の音楽もやっていきたいって思ったんだよ」

 

「わかり…わかりました…。あたしはトシキさんが、音楽を続けて下さるなら…」

 

あたしはトシキさんからその言葉を聞いて満足していたけど、

 

「トシキ、それだけじゃないだろ?」

 

「わ、わかってるって…。

そ、それでね、俺も初心に戻ってギターを始めた場所で翔子ちゃんとデュエルギグをしたくなったんだよ」

 

「あたしと…?初心に戻って…?」

 

「うん。翔子ちゃんも、はーちゃんの喉の事を心配して、ライバルだったBREEZE(おれたち)の事が気になって、スランプになってたんだと思う。

だけど、あの場所に連れて行って、俺がギターを始めた場所だということを伝えて、翔子ちゃんも俺達に出会う前の、ギターを始めた時の気持ちにリセット出来たらなぁって思ってたんだよ」

 

「トシキさん…!そんな、あたしの…あたし達の事まで考えて…」

 

「正直…翔子ちゃんは『あ、勘違いしてるな』ってのは気付いてたんだけどね。あはは。

でも、そのまま勘違いしてくれてた方が本気の翔子ちゃんの演奏をしてくれるかな?って思って…。ごめんね、昨日ライブで疲れてるだろうに今日も無理させちゃって…」

 

「そうだぞトシキ。翔子は梓や澄香やBREEZE(おまえら)と違って身体が弱いんだからさ」

 

「あはは、だよね。反省してるよ」

 

あたしは身体が弱い訳ではない。

ただトシキさんのかっこ良さに逆上せてしまって、倒れたり鼻血を出したりしているだけだ。

 

だけど、あたしがトシキさんの前に居る時だけこうなっちゃうっていう事を、トシキさんと晴香には知られていなかった。…現代(いま)は晴香にもバレちゃってるんだけどね。

 

「それでね翔子ちゃん。俺が音楽を続けていくのは、もうひとつ理由があって……」

 

 

 

 

 

 

「それが翔子のトシキくんとの最期のデュエルギグだよ」

 

そして舞台はまたあたし、木原 梓に戻ってきた。

また澄香の舞台にすぐ行くんだけどね。

 

「だから晴香ちゃんにあたしのせいでArtemisがBREEZEに負けてたって思われてたんじゃないかな?ほとんど翔子のせいだったのに」

 

「いや、翔子お姉ちゃんもアレだと思うけど梓お姉ちゃんも大概だよ?」

 

おおう…。

まぁ…あたしのせいだけ(・・)じゃないとわかってもらえただけでいいか…。

 

そして最期のデュエルギグ。

澄香と拓斗くんのお話。ここからはまた澄香目線で話すね。

 

 

 

 

「う~ん…今日もバイト疲れたぁ~」

 

大学もバンドもバイトも順調と言えば順調だ。

だけど、私の中のモヤモヤ。それがずっと心に重くのし掛かっていた。

 

「…私はどうしたいんだろ?大学行きたいってみんなに迷惑掛けて…。大学に行かせてもらえて好きなバンドもやれてんのに…」

 

すごく贅沢な悩みなんだと思う。

大学にも毎日楽しく通えて、好きな音楽でももう少しでエクストリームジャパンフェスに参加出来そうな所まで来れた。

 

ここまで来る為にたくさんの人に迷惑も掛けたし、たくさんのバンドを倒したりもしてきた。

私達の夢を守る為に潰れていったバンドも…。

 

「タカ…」

 

私はバイト先からの帰宅路でタカやBREEZEの事、Artemisの矢の事や、クリムゾンエンターテイメント、エクストリームジャパンフェスの事を考えていた。

 

……もう少しで家に着く。

 

せっかく大学にも行かせてもらえたんだから、父さんや母さんにはこんな暗い顔をしている私を見せる訳にはいかない。

 

そう思って気持ちを入れ替えようと考えていた時、不意に声を掛けられた。

 

「よう、澄香」

 

「え?拓斗?」

 

そこには何故か拓斗がいた。めっちゃ怖かった。

 

「あんた何でここに居んの?」

 

「ああ、お前を待ってたんだ」

 

本気で怖かった。

助けてと叫ぶべきか、ポリスメンにTELすべきか本気で迷っていた。

 

「安心しろ。俺は梓一筋だ。だからその携帯電話はしまってくれ」

 

私はポリスメンに助けを求めるべく、携帯電話を取り出していたけど、拓斗に静止されてしまった。

確かに拓斗が私に何かするとは考えられないけど…。

 

「…私に何か用?」

 

「ああ、やろうぜ。デュエルギグ」

 

「は?デュエル?」

 

拓斗は私にデュエルギグをしようと言ってきた。

これまで私には1度も勝った事もないくせに、わざわざ関西に来て私を待ち伏せしてまで。

 

…こいつドMだったっけ?あ、そういやBREEZEの連中どっちかというとドMだったわ。

 

「何で私が結果も見えてるデュエルをせなあかんねん。

てか、昨日はライブだったし今日はバイトだったしで疲れてんだよね」

 

私は拓斗のデュエルの申し出を断った。

ま、受ける義理も無いし。

 

「あ?逃げんのかよ、根性無し」

 

「こ、根性無しやて…?(ギリッ」

 

「おう!根性無し!根性無しだから俺とデュエルする気合いも残ってねぇんだろ!?」

 

拓斗のわかりやすいまでの挑発。

 

「うん、なら根性無しでいいわ。私はバイトで疲れてるから帰らせてもらうな」

 

「は!?ま、待てよ!せっかく晴香から法外な利息を条件に付けられてまで金借りて来たってのに…!」

 

晴香…実の兄にも法外な利息を条件にしちゃうんだ?

 

「そんなんあんたの勝手やろ…」

 

「ま、待てって…。だ、だったらお前が俺にデュエルで勝てたらタカとデートさせてやる!」

 

「あのなぁ。そんなんで釣られてデュエルなんかする訳ないやろ。てか、何回その条件でデュエル受けて騙されたと思ってんねん…」

 

「あ?だから毎回タカとデートさせてやったじゃねーか」

 

「アホか!アレはデートちゃうやろ!めちゃくちゃ至近距離に梓か聖羅か日奈子か英治か三咲が居たやん!尾行するにしても上手くやればいいのに毎回邪魔してきてたやん!」

 

私はもう騙されない。こんな約束をしてデュエルで勝っても、デートらしいデートなんて出来た事ないんだから。

そう!1度もだっ!

 

「チ、だったら…。お前が勝ったら…」

 

「私が勝ったら?」

 

「ど、どうしよう…?」

 

こいつは…。それくらいしか私がデュエルを受けないと思ってるの?

 

私は気が抜けたのもあって、そのまま家に帰ろうとした。

 

帰ろうとした…けど…。

 

BREEZEはもう解散しちゃう事になるんだろうな。と、考えてしまった。

私がデュエルを受けなかったら、もしかしたら拓斗にずっと悔いが残っちゃうのかな?

 

「ハァ…特別サービスや。せっかくここまで来たんやからな。デュエルしたるよ」

 

「まじでか!?」

 

「そんかわり私は全力でやるで?1曲で終わらせる」

 

「上等だぜ澄香。よし、Irisベースを出せ。本気のデュエルだからな。

俺も晴夜でやるからよ。お前も虚空で…」

 

Irisベースで?

 

「…うん、わかった。拓斗如きに虚空を使うまでもないやろけど…」

 

「何だとこの野郎」

 

「もし万が一、奇跡が起こって拓斗が私に勝ったら、私は何かした方がいい?梓と付き合わせろとかは無理やで?」

 

そういえば拓斗が私とデュエルしたいってんだから、拓斗が私に勝てた時は何を頼みたかったんだろうと思った。てか、何を頼みたかったの?

 

「アホか。俺がそんなの頼む訳ねぇだろ」

 

「いや、何度か頼まれた事あるけど?」

 

「それはそれ。これはこれだ。

もし、今からやるデュエルで俺が勝ったら」

 

「拓斗が勝ったら?」

 

「お前には俺の後継者の答え合わせをしてやってほしい」

 

「は?後継者?答え合わせ?」

 

私には何の事だかさっぱりだった。

拓斗に後継者がいるなんて話も聞いた事ないし、答え合わせってそもそも何の答え?

 

「いや、意味がわからんねんけど。そもそもあんたに後継者なんて…。あ、達也くんの事?」

 

「達也も悪くねぇな。ベースも一応教えてやってるし。

だけど、あいつは俺の後継者って訳じゃねぇよ。」

 

「じゃあ、誰の事を…」

 

「取り敢えず弾丸で関西に来たからな。時間がねぇ、いくぜ!澄香!!」

 

そう言って拓斗は晴夜を取り出してベースの演奏を始めた。

 

「ちょ、ちょっと待ちぃや!」

 

私もさすがに訳のわからないまま負ける訳にはいかないと思い、虚空を取り出してデュエルを開始した。

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

「チッキショオオオオオオオオオ!!」

 

「まぁ、結果は見えてたけどな」

 

私は拓斗とのデュエルギグに圧勝。

Irisベースの声を聞いた事のない拓斗と、聞いた事のある私とでは、同じIrisベースを使ったデュエルギグで私が負ける事はなかった。

 

「今日も私の勝ちやな」

 

「ああ、わかってんよ。もうお前帰れ。

俺ももう少しここで悶えたらホテルに戻るからよ」

 

「あ、あんた今日はこっち泊まんの?」

 

「ああ、終電までにお前と決着が着くかわかんなかったしな。今日は泊まりにした」

 

終電はまだまだ先だけど…。

そうか、拓斗は私といい勝負が出来ると思っていたのか。

あ、それとも私がデュエル受ける受けないで時間掛かると思ってたのかな?

 

「はぁ…。今日こそは勝てるって思ってたのによ」

 

「何で私に勝てると思ったん?」

 

「あ?まだお前居たのかよ。帰れよ」

 

「いや、私の自由やろ。てかさ、さっきのあんたの頼み事?あれ何?」

 

「あ、負けた俺にはもうそんな事お前に話す義理はねぇ。テメェはさっさ帰って飯食って寝ろ」

 

こいつは負けたくせに何でいつもこんな偉そうにしているんだろう?私はいつもそういう所にもイライラしていた。

 

だけどこの日だけは…。

 

「何となくやけどな。拓斗のさっきの頼み事。

私が勝ったんやから聞いてやる義理はないけど、ちゃんと話してくれるなら、あんたの後継者の答え合わせ?ってやつ。やってやってもいいよ」

 

「なっ!?ま、マジでか!?」

 

「何となく気になるし。拓斗らしくないって言うか…。ちゃんと理由話してくれたら、同じベーシストとして聞いたるわ」

 

「…チ、借りを作るのは癪だが、背に腹は変えられねぇか」

 

 

 

そして拓斗は何であんな条件を出したのか話してくれた。

BREEZEはもうまともに今までのようなライブは出来ないだろうということを。

 

そして、拓斗はIrisベースの黄の使い手。

元々はモンブラン栗田のおじいちゃんに、クリムゾンに奪われた青の雨月と、緑の雷獣を取り戻す為に託された物だ。

私も同時に橙の虚空を託されている。

 

結局、クリムゾンに奪われたIrisベースを取り戻す事は出来なかったから、拓斗はいつか自分が認めたベーシストに黄の晴夜を託したいと思っていた。

 

それが拓斗の後継者。

 

「そっか。Irisベースをね。

それで?その答え合わせって言うのは?」

 

「ああ…、それだけどな。お前、じいさんのIrisベース。全部の声が聞こえたんだよな?それで、晴夜が俺には合ってるって言って…」

 

「ん。まぁ…ね。今はもう虚空(このこ)の声も聞こえなくなっちゃったけど」

 

私には楽器の声を聞くチカラがあった。

Irisベースに限らず、みんなの楽器の声が。

 

だから、おじいちゃんからIrisベースを託された時、私達に合っている虚空を選び、BREEZEに合っているだろう晴夜を拓斗に選んであげた。

 

「俺は結局、晴夜の声を聞くことは出来なかった。だから何でお前が俺に晴夜を選んだのか。それをずっと聞きてぇと思っていた」

 

「は?そんな事?晴夜の声はね…」

 

「ウワァァァァァァ!!!!」

 

私が拓斗に晴夜の声を教えようとした時、いきなり拓斗かでっかい声を出すものだからびっくりした。

 

「な、何やねんいきなり!」

 

「晴夜の声はいい。

お前の虚空、そしてじいさんの所にある花嵐と狭霧と雲竜。そいつらの声を教えてくれ」

 

「は?晴夜以外の?」

 

もちろんおじいちゃんの所に残ってるベースの声も聞いたし覚えてる。

雨月と雷獣は奪われていたんだからもちろん聞いた事は無いけど。

 

「まぁ、私の虚空は『一緒に踊ろう』だよ」

 

「一緒に踊ろう?それが虚空の声か」

 

「うん。そして花嵐が『一緒に歌おう』。狭霧が『一緒に遊ぼう』、雲竜が『一緒に奏でよう』」

 

「そうだったのか。一緒に…ってのがIrisベースの声か」

 

「そんであんたの晴夜は『一緒に…』」

 

「だぁぁぁぁぁ!!だから!晴夜の声はいいってんだよ!!」

 

他のIrisベースの声は知りたかったのに、晴夜の声は知らなくていいと言う拓斗。

なるほどね。だから答え合わせか…。

 

「拓斗」

 

「あ?何だ?晴夜の声は俺に教えなくていいぞ?」

 

「わかってるよ。

あんたが晴夜を託した後継者。その子が晴夜の声が聞こえた時、私の聞いた声と合っているのかどうか。その答え合わせをしてくれってんだよね?」

 

「ああ、まぁ、そういう事だ。俺は晴夜をクリムゾンと戦う武器として使っていた。だから、晴夜の声は聞けなくて当然だと思ってる」

 

それは…私もだよ。

私もいつの間にか虚空をクリムゾンと戦う為の武器として演奏していた。

だからこの子の声が聞こえなくなったんだと思う。

 

「俺は…タカがやってきたような音楽、大神さんが求めた音楽。そしてお前らArtemisが夢見た音楽。そういうのを丸ごと持ってるヤツに晴夜を託してぇ」

 

私達が夢見た音楽…か。

 

「そういうヤツを見つけて俺が晴夜を託した時。

そいつがちゃんと晴夜の声が聞こえるかどうか、お前に答え合わせをしてほしいんだ」

 

「あ、あのなぁ!何で私があんたの後継者の事見たらなあかんねん!晴夜の声は教えたるから、その時に拓斗が答え合わせしたらええやん!」

 

「言っただろ。俺の選んだヤツって。

俺はそいつを溺愛して答えを教えてしまうかも知れねぇし。俺が間違えて選ぶかも知れねぇ。だからお前が最適だと思った。お前なら信じられっからよ」

 

こいつ…そんな恥ずかしくなるような事を堂々と…。

 

「て、てかさ?だったら何で晴夜以外の声は知りたいと思ったん?」

 

「ん?あ、ま、まぁ、もしかしたら?ワンチャン俺も晴夜の声聞こえてたりしたら?って思ってな。

一緒に……って声は聞いた事無かったけどな」

 

「…あんたが後継者を選らんだ時、私は音楽辞めてるかも知れへんよ?」

 

「あ?その心配はしてねぇよ。……何か奇跡が起こってタカと結婚出来て子ども出来てたとしても。バンドは辞めても音楽は辞めねぇだろ」

 

奇跡が起こらないとタカと結婚出来ないっていうの!?

 

「お前らArtemisはこれからまだまだだろ。最近はスランプらしいが、お前らなら…な」

 

 

 

 

「これがあたし達Artemisの最期のデュエルギグ。だったんだよ。ふふ、まさかみんな同じ日にデュエルしてるなんてね」

 

「凄かったんだね。翔子お姉ちゃんも、澄香お姉ちゃんも、日奈子お姉ちゃんも…」

 

え?あたしは?

 

「そして拓斗さんの晴夜は内山くんに託されて、澄香お姉ちゃんの虚空は姫咲ちゃんに託されたんだね…。

あ、それで?何でバンドを…辞めるって事に?

今までのお話だと、これから先輩達の分も頑張ろう!ってなりそうじゃない?」

 

「うん。実際、みんなスランプから抜け出せてね。決勝戦はあたし達Artemisが勝って…。

あたし達はエクストリームジャパンフェスの本戦に出場出来る事になったよ」

 

「そ、それだったら尚更…」

 

「そしてエクストリームジャパンフェス本戦の朝。

あたしは…美来ちゃんに出会った」

 

「え?美来お姉…ちゃん?」

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