「いくよ。せっちゃん」
「ほ~い」
「「はぁぁぁぁぁ…」」
「流派!東方不敗が!」
「さいしゅ~」
「奥義!」
「石!」
「破!」
「「天驚拳!!」」
--ドゴーン!!!!
「ふぅ…さすがだね。せっちゃん」
「いや~、なんのなんの~。まだまだ本家の石破天驚拳には敵いませんなぁ~」
あたしはエクストリームジャパンフェス本戦に参加の為に、Artemisのみんなより先に関東入りして、聖羅の家にお泊まりさせてもらっていた。
その間は聖羅の娘であるせっちゃん。
Blaze Futureのベーシスト、蓮見 盛夏の遊び相手になってあげていた。
「梓…?私が頼んだのは盛夏の遊び相手よ?変な技を教えてやってほしいとは頼んでないわよ?」
「ふぇぇ…まだまだおばちゃんの石破天驚拳の威力には及ばない~…」
「こら!せっちゃん!あたしの事は『
「ふぇぇ…」
当時、せっちゃんはもう5歳。
いや、まだ5歳だというのに石破天驚拳を撃てるようになっていた。
この時のせっちゃんなら界王拳も10倍までなら使えていただろう。あたしの英才教育の賜物だった。
そして美しい堕天使シャイニング梓お姉様と呼ばせるようになったのは、この時より数年後の事である。
「それより梓。あなたは今日からエクストリームジャパンフェスの本戦でしょ?盛夏に変な技教えてる暇あるの?」
「まぁ、あたしはまだ時間あるし。
それより聖羅はあのアホが海外に逃げたからって、クリムゾンエンターテイメントの本社に行かなあかんねやろ?時間大丈夫?」
タカくんが足立とデュエルギグをして足立を倒した後、アーヴァルの主催によるドリーミン・ギグは無事に開催され、アーヴァルのボーカルであるユーゼスがあんな事になってしまった。
ユーゼスがあんな事になってしまったって事が気になる人は本家の『バンドやろうぜ!』に沼って下さい。マジで面白いから。
そしてクリムゾングループの大元であるクリムゾンミュージックが日本から撤退し、足立と手塚さんを失ったクリムゾンエンターテイメントの創始者であるお父さん。
…海原 神人も日本から海外へと逃亡した。
それからのクリムゾンエンターテイメントは、いや、クリムゾングループの会社全体が色々と迷走する事になってしまった。
あたし達のように楽しい音楽をやるバンドマンにとっては、新しい時代が来たような気持ちを持てる事だった。
「そうね。私はそろそろ出掛けないといけないし、盛夏も今日は旦那のご両親に預けるつもりなんだけど…」
そっか。じゃあせっちゃんとも今日はそろそろお別れか。
「梓は大丈夫?その…迷子になったりとか?私と一緒に出掛けない?」
「フッフッフ。その心配は無用だよ聖羅」
そう。この日、あたしはBREEZEのメンバーとArtemisのメンバーに、あたしを迎えに来てもらうように連絡してある。
この聖羅の家から直線で辿り着ける最寄りの駅まで!
「あの…本当の本当に大丈夫?」
「大丈夫やって~。聖羅こそクリムゾンエンターテイメントの本社に行くんやし気を付けてや」
「わかってるわよ。梓も気を付けてね。ほら、盛夏、行くわよ」
「おばちゃ~ん、ばいば~い」
「だから!せっちゃん!」
そして聖羅とせっちゃんは行ってしまい、あたしは家主の居なくなった部屋でダラダラと過ごしながら、みんなとの待ち合わせの時間を待っていた。
・
・
・
「ほらな?直線したらいいだけの最寄り駅なら、あたしも迷わず辿り着けるって~」
みんなとの待ち合わせ時間は14時。
最寄りの駅までの所要時間は徒歩7分だったけど、あたしは念のために12時過ぎには家を出て、13時半前に最寄り駅に辿り着ける事が出来た。
「まだ30分以上あるかぁ。……どこかで時間潰そうかとも思ったけど、みんなが来た時にあたしの姿がなかったら迷子になったとか言われそうやし、ここでボーっと待っとくかな?」
あたしがそんな事を考えていると…。
「お母さん?」
見知らぬ女の子があたしに声を掛けてきた。
「やっぱり木原 梓…。お母…さん」
あたしの名前を呼び、あたしの事をお母さんと呼ぶ女の子。
あたしはその顔を見てびっくりした。
あたしの子供の頃にそっくりだったから。
「え?あなた…は?え?あたにそっくり…?何で?」
「ずっと…会いたかった。会ってみたかった。
これで思い残す事もない。迷惑を掛けた。バイバイ」
その女の子はそれだけを言って、私から踵を返し走って去って行ってしまった。
まぁ、その子があたしのmakarios biosである美来ちゃんだったんだけどね。
「ま、待って!」
あたしは美来ちゃんを追い、その手を掴んだ。
「あ、あたしの事、お母さんって何!?そんで何でそんなあたしにそっくりなん!?」
「お母さん?何の事?多分気のせい。それより手を離して」
「あなた…あたしのmakarios bios?」
「makarios biosの事を…知っているの?」
あたしはあたしに似すぎている女の子、美来ちゃんにmakarios biosなのかと尋ねた。
あたしはmakarios biosなんだと確信した。
美来ちゃんは『makarios bios?何の事?』と言わず『makarios biosの事を知っているのか』と、あたしに聞き返したんだから…。
「やっぱり…makarios biosなんだね。九頭竜の研究は成功してたんだ…」
「何でお母さ…木原 梓がmakarios biosの事を知っているの?アレは二胴にも手塚にも聖羅にも秘匿だったはず…」
「そう…だね。聖羅も手塚さんも知らなかった。
でもあたしは知っていた。……何であたしが知っていたのか知りたくない?」
「……わかった。少しだけなら」
あたしは近場にあったカフェに美来ちゃんと入り、少し話をする事にした。
「まず…あなたの事を知りたいけど、あたしから誘ったんだし、何故あたしがmakarios biosの事を知っていたのか話すね。そのかわり…」
「わかっている。あたしもあたしの事をちゃんと話す。スジは通すから安心して」
「お待たせしました~。チェコレートパフェとブラックコーヒーです♪」
店員さんがあたし達の注文した料理を運んで来てくれた。
今から大事な話をする所だったから丁度いいタイミングだった。
そしてあたしの前に置かれたブラックコーヒーと、美来ちゃんの前に置かれたチェコレートパフェを交換し、あたしはチョコレートパフェを一口、いや、五口ほど食べてから話した。
「昔にね。Artemisとアルテミスの矢で九頭竜の研究施設に乗り込む事があってね。そこであたしはmakarios biosの資料を見つけちゃったんだよ」
「アルテミスの矢が九頭竜の研究施設に?
…あ、聞いたことがある。『九頭竜施設大爆破 -大爆破されて大爆笑-』事件の事だね?」
何その変な事件の名前。大爆笑なの?
「これはあたし達makarios biosの36番が付けた名前。
てか、あたし達はどんな闘いがあったのかはある程度、九頭竜や海原から聞いている。
ちなみにArtemisやアルテミスの矢との闘いの名前は36番が命名している」
36番?makarios biosの36番目って事なの?
と、当時は思ってたけど、36番ってSCARLETの有希ちゃんの事だよね?今思うとさすがタカくんのmakarios biosだよね。って思う。
「あたしがmakarios biosの事を知ったのはその時だよ。聖羅も手塚さんも、アルテミスの矢の誰もが知らなかった事だし、あたしだってあんな研究なんて…」
「そう。あんな研究から生まれたのがあたし達。あたしはmakarios biosの39番目の実験体。もうわかってると思うけど、あたしは木原 梓の遺伝子から造られた」
「だからあたしの事をお母さんって…」
「ち、違っ!そ、それは聞き間違いだから!あたしにはお母さんなんて…」
「あたしまだバージンなのにお母さんになっちゃったか」
「バ……ちょ、ちょっと、こんな所で言うセリフじゃないでしょ…。……あの…なんかごめんなさい」
あたしはその後、美来ちゃんからmakarios biosの事を色々と聞いた。
もう何人ものmakarios biosが造られた事も、身体が耐えきれずに亡くなってしまったmakarios biosの事も。
そして、お父さんと九頭竜が何の為にmakarios biosを産んでいるのかという事も…。
「あたしもいつ崩れるかわからない。だからあたしは脱走した。ひと目だけでも…お母さ…木原 梓を見てみたかったから」
「39番目のmakarios biosか。名前は?名前はないの?」
「名前なんてものはあたし達にはない。あるのは番号だけ。あたしはあたしの知る限りの事は話した。もう帰る」
「帰る?どこに?」
「もちろんクリムゾンエンターテイメント」
せっかく脱走して来たのに…。
もしあたしが今手を取れば、あたしと一緒に居てくれるんだろうか?
「それじゃごちそうさま。バイバイ」
そう言って美来ちゃんは立ち上がり、店を出てしまった。
「ま、待って!まだ」
あたしも席を立ち、会計を素早く済ませて美来ちゃんを追った。
「何?まだあたしに用事?痛いんだけど?」
あたしは美来ちゃんに追い付いて、また手を思いっきり握っていた。
「まだあたしの話が終わってない!」
「話?何故、木原 梓があたし達makarios biosの事を知っていたのかは聞いた。もう話は無いはず」
「まだ…言ってない言葉があるの!」
あたしは美来ちゃんの身長に合わせてしゃがみ、真っ直ぐと目を見て…
「産まれてきてくれてありがとう」
「え?」
「あたしの娘として、産まれてきてくれてありがとう。あたしをお母さんにしてくれて、ありがとう」
あたしは素直にそう思った。
九頭竜の施設に乗り込んだときに見つけた資料。
それを見た時は何とも言えない嫌な気持ちになっていたけど、今、目の前の美来ちゃんを見て、美来ちゃんと話をして、美来ちゃんが産まれてきてくれた事が、凄く嬉しくて、美来ちゃんと触れ合える事がすごく幸せだと思っていた。
「な、何を言ってるの?木原 あず…」
「お母さんだよ。お母さんでいいんだよ。いや、ママと呼ばれたい気もするが…うぅむ…」
「え?え?」
そしてあたしは美来ちゃんを抱き締めて、
「そうだなぁ~…。うん、美来ちゃん。
あなたは今日から『美来』ちゃんだよ」
「みく…?」
「うん。美来があなたの名前。39だから
「美しい未来で…美来?
嫌!そんな名前は絶対嫌!あたしには!あたしには美しい未来なんて…!」
あたしは美来ちゃんを抱き締める力を強めて…
「痛い!木原 梓!!痛い!離して!」
「あるよ。美来ちゃんには美しい未来が絶対待ってる。そして、あたしがそんな未来を作ってみせる。だから、離さない。あたしは美来ちゃんのお母さんなんだから」
…その時に思ったんだよ。
あたしはArtemisとしてエクストリームジャパンフェスで優勝するより、美来ちゃんの未来の為に歌いたいって。
澄香や翔子、日奈子には悪いなぁって、申し訳なく思ったんだけど、あたしはBREEZEやアルテミスの矢のみんなが
「そんなの…お母さん…って、呼んで…いいの?…グスッ」
抱き締めた胸元で泣きそうになる美来ちゃん。
あたしはソッと美来ちゃんを離して、首から下げていたお守りを美来ちゃんに付けた。
「これは?お守り…?」
「うん。あたしの大切なお守りだよ」
あたしはこれはチャンスだと思った。
タカくんとあたしが死ぬ前に1度は言ってみたいねって言っていたセリフBEST3に入るあのセリフを…。
「このお守りをお前に預ける(イケボ」
「え?何?シャンクスの真似?」
さすがあたしの遺伝子だと思った。
「あたしの大切なお守りだ。いつかきっと返しにこい。…立派な海賊になってな(イケボ」
「え?は?シャンクスの真似ってバレたのに、まだそれ続けるの?立派な海賊って何?あたし別に海賊になるつもりないけど?」
「いいんだよぉぉぉ!そんな事は!ここまでがワンセットなの!ワンセット!美来ちゃんもわかるでしょ!?このセリフは1度言ってみたい気持ち!」
「た、確かにあのセリフは死ぬまでに1度は言ってみたいセリフBEST3には入るけど…」
やはりあたしの遺伝子。美来ちゃんはよくわかっている。
「あ、でもさ。これからはあたしは美来ちゃんとずっと一緒。
だから、いつか返しに…って言うか…。これからは美来ちゃんが
「嫌…こんなの受け取れない。それにずっと一緒なんかじゃない。あたしは…もうクリムゾンに…」
「戻らなくていい。一緒に居よ?美来ちゃんの事はしっかり養ってあげるから」
「嫌!嫌…嫌嫌!!そんなの無理!絶対無理だもん!それに、あたしは美来なんて名前…」
あたしと美来ちゃんがそんな話をしている時だった。
「見つけたぞ。39番」
そんな声が聞こえ、あたしが声のした方に目を向けると…
「デュエルギグ
そこには数人のデュエルギグ将軍が立っていた。
ただの人探しの為に、戦闘員や兵士じゃなく、暗殺者よりも上の騎士、さらにその上の将軍を動かすなんて。
makarios biosの脱走は九頭竜にとって、それ程の事なんだろうと思わされた。
「キサマ、Artemisの木原 梓だな?まさか39番がキサマと居るとは…」
「まさかワタシ達がデュエルギグ将軍だと見抜かれるなんてね」
「海原様にはArtemisに手を出すなとは言われているが、これは好機!
Artemisの木原 梓を倒したとなれば我らもまた日のあたる場所に…」
お父さんが
「ああ、39番を連れ戻すついでだ。ここで木原 梓も…」
デュエルギグ将軍達は楽器を取り出し、デュエルギグの体制に入っていた。
こいつらこんな街中でもデュエルギグをする気だ。
でも、このまま逃げても美来ちゃんが、こいつらに連れ戻されるだけ。
あたしもランダムスターを取り出してデュエルギグに備えた。
「ま!待って!あたしはクリムゾンエンターテイメントに戻る!だから、お母さんには手を出さないで!」
美来ちゃんはあたしとデュエルギグ将軍の間に入ってきた。
「ふふふ。お前をクリムゾンに連れ戻す事は決定されている事だ」
「だからと言って木原 梓に手を出すなとは…。ワタシ達の悲願の為にもそれは無理な話だ」
「そんな…あたしが…脱走なんかしたから…」
それでもあたしとデュエルギグをしようとしてくるデュエルギグ将軍。
そして、それを心配する美来ちゃん。
確かにデュエルギグ将軍達の
でも、あたしにとっては…
「大丈夫だよ、美来ちゃん。そこでお母さんのデュエルを見てて」
「お母さん…?」
そして、あたしとデュエルギグ将軍達とのデュエルが開始された。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
「バ、バカな…グフッ」
「こ、これが…Artemis…」
「ハァ…ハァ…お母さんパワー舐めんな…」
あたしはデュエルギグ将軍達をすべて倒した。
「ハァ…ど、どう?美来ちゃん。お母さん凄いやろ?ハァ…ハァ…」
「す、すご…い、お母さんかっこい…。ハッ!?
そ、そんな事ない。ま、まぁ?さすが?Artemisのボーカルの木原 梓だな。とは思っ…」
せっかくなんだから最後までちゃんと褒めてくれたらいいのに!
って思ったけど、美来ちゃんはあたしの後ろを見て言葉を失っている。
どうしたんだろう?と思い、あたしも振り返ってみた。
-ゾクッ
な、何?こいつら…。
気配も何も無く、ただ立っているだけ。
ただ立っているだけなのに物凄い威圧感。
「木原 梓。キサマは海原様からの命令で手を出さないように言われている。39番を引き渡してここから去れ」
デュエルギグ将軍なんて全然雑魚だ。
そう思わされるようなチカラを、ただそこに立っている3人から感じていた。
もしかしたら、こいつらが聖羅と手塚さんから噂に聞かされている、九頭竜の最強の配下であるデュエルギグ
「デュ、デュエルギグ…
デュエルギグ干支!?
美来ちゃんはそいつらを見てそう言った。
デュエルギグ干支…。
なんて語呂が悪いんだろう…。
「そう。我々は海原様の直属の配下。デュエルギグ干支だ」
「木原 梓。キサマでは私達には敵わない。大人しく39番を置いて去れ」
海原…お父さんの直属の配下?
なら、デュエルギグ干支って名付けたのはお父さん?
ぷふっ、あいつ音痴なだけじゃなくて、ネーミングセンスも無かったのか。
と、思ったけど、あたしもお母さんも他人のネーミングセンスは笑えないな。とも同時に思っていた。
「ま、まさか、デュエルギグ干支まで出てくるなんて…。さすがに木原 梓でも無理。あたしはクリムゾンエンターテイメントに帰る」
美来ちゃん!?
「39番。賢明だな。
我々も海原様直属のデュエルギグ干支。お前が戻るならこのまま木原 梓には手を出さないと約束しよう」
「クリムゾンとの約束なんて信用出来ないけど。あなた達が本物のデュエルギグ干支なら信用するしかない」
そう言って美来ちゃんはデュエルギグ干支達の方へと歩いた。
「…どういうつもりだ?木原 梓」
あたしは美来ちゃんの前に出て、美来ちゃんを制止していた。
「木原…梓?」
「美来ちゃん。そこの後ろの路地。
そこを入って真っ直ぐ走って。そして、十字路に出たらそこを右。そしたら駅前に出るからそこで待ってて」
「木原 梓?何を言っているの?あたしはクリムゾンに…」
「そろそろ約束の時間になる。駅前にはタカくん達BREEZEが居るはずだから…いや、時間にルーズな英治くんは居ないかもしれないけど…」
「タカくん達BREEZEが?」
「こいつらはあたしが食い止める!だから行って!美来ちゃん!」
「あ、あたしは…お母さん達と一緒に居ていいの?」
「…!?39番!木原 梓の言葉に惑わされるな!」
「そうだ。39番。今ならお前が戻って来たら、木原 梓は見逃してやる。だが、お前が逃げるのであれば…わかるな?」
「あたし…あたしは…」
「いいから行け!美来!!これ以上あたしを困らせんなっ!!」
「はっ、はい!」
あたしは美来ちゃんを怒鳴りつけ、美来ちゃんは返事をして、後ろの路地へと走って入って行った。
美来ちゃんが駅前に辿り着けばタカくん達が居るはず。
もう本当はタカくん達BREEZEに迷惑を掛けたくなんかなかったけど…。
「クッ、39番をBREEZEと合流させる訳にはいかん!追うぞ!」
デュエルギグ干支達は美来ちゃんを追おうとした。
だけど、追わせる訳にはいかない。
こうやって対峙しているだけでも、あたしはこの3人に敵う訳がないというのは感じていた。
だけど、美来ちゃんがタカくん達と合流するまでの時間稼ぎくらいなら…。
「そこを退け、木原 梓」
「今ならキサマは見逃してやる。今日はエクストリームジャパンフェスの本戦の日だろう?ここでヤられる訳にはいかないんじゃないのか?」
「お前の仲間と散っていったアルテミスの矢の為にもな」
こいつらの言う通りだ。あたしはこんな所で負ける訳にはいかない。だけど。
「だけど、あの子はあたしの娘や。手ぇ出すな。お前らが消えろ」
あたしは美来ちゃんを守りたかった。
「木原 梓。お前もレガリアを受け継がれし者なら聞いた事があるだろう?レガリア戦争を。そして、それより昔に勃発していた音楽での争いを」
もちろんレガリア戦争の事も、その前のお母さん達、初代のレガリア使いが闘っていた音楽での争いも知っている。
だから何?そもそもあたし達がやってるのはバンドなんですけど?
「我々、デュエルギグ干支はレガリア使いに対抗する為に作られた部隊だ」
あたし達レガリア使いに対抗する為に?
何でお父さんが、海原がそんな部隊を…?
「かつての音楽での争い。あの争いではデュエルギグのハズなのに音も何もしなかった。と、お前も聞いた事があるんじゃないのか?」
確かにお母さんやおっちゃん達が闘っていたデュエルギグによる音楽の争い。あの時は物音すらしなかった闘いだと聞いている。音楽の闘いのはずなのに。
「我々はそんなデュエルギグが出来るミュージシャン。デュエルギグをしている当人達以外には何も悟らせない。何も聞かせない。何も気付く事もない。そんな音楽を我々は出来るのだ」
「な、なんやて…?」
そんな凄いチカラが…。
そんな音楽を。そんなデュエルギグをする奴らにあたしは勝てるだろうか?
何が魚座のレガリア使いや…。
お母さんもおっちゃんも、そんな闘いをやってきたバンドマンなんやな…。あたしなんかまだまだや。
あたしがそう思っていたその刹那。
-ドカッ
「え?うわ、何?」
「い、痛い!」
あたしの目の前に居るデュエルギグ干支の内、1人が自転車にハネられた。
「あ、あれ?何かにぶつかった気がしたけど…気のせいかな?」
そう言って自転車に乗っていた人はそのままこの場を去って行った。
「ふふふ。これがそのチカラの代償。と言えばいいかな。
このチカラを使っている時は、誰からも認識をされないから、普通に事故に合ったりする」
「わかるか?満員電車の中でこのチカラを使えば、誰かに足を踏まれても謝られたりする事はない」
「それ程までに我々のチカラは絶対なのだ」
…何か一気にしょうもないチカラな気がしてきた。
「39番を逃がす訳にはいかん!通してもらうぞ!木原 梓!」
「ここは通さへんって言ったやろ!」
あたしはランダムスターを構えてデュエルギグの体制に入った。
「待て!」
だけど、デュエルギグ干支のうちの1人に止められた。
正直勝てる気がしてなかったから、こうやって時間稼ぎ出来てるのは良かったけど…。
「私達は海原様の勅命で木原 梓、Artemisに手を出す訳にはいかないでしょ?」
「確かに…デュエルギグ将軍共は愚かにもその命令を破っていたがな。海原様の怒りを買うことになるだろうにな」
そういやさっきもそんな事言っていたけど何で?
「だが、このまま39番を逃がす訳にもな。それこそ海原様の望むところではあるまい」
何か揉めてるみたい?あたしとしてはラッキーだけど。
「やむを得んな。木原 梓の相手はワタシがしよう。『申』、『卯』お前達は39番を追え」
「しかし、『亥』!Artemisは…」
「黙れ『卯』。ワタシは1度Artemisとデュエルをしたいと思っていた。いい機会だ。海原様に叱られるならワタシだけで済むだろうしな」
「…いいだろう。行くぞ『卯』。我々は39番を追う」
「……しょうがないか」
そして、2人のデュエルギグ干支があたしの前から消えた。これがあいつらの言ってたチカラの真骨頂か!
あたしはまずいと思って、あたしも美来ちゃんを追おうとしたけど。
-ゾクッ
再びあたしを悪寒が襲った。
「先程とは立場が逆転したな。
キサマに39番は追わせない。ここで食い止めさせてもらおう」
「やるしか…あらへんか…」
「見せてもらおうか。西の最高バンドArtemisの音楽とやらを」
「あいつらを美来ちゃんに追いつかせる訳にはいかへん!全力でやらせてもらうで!!」
そうして、あたしとデュエルギグ干支『亥』とのデュエルギグは始まった。