バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第57話 事故

「ハァ…ハァ…」

 

-ズキッ

 

「クッ…ハァ…ハァ…美来…ちゃん…」

 

あたしは激闘の末、何とかデュエルギグ干支『亥』を打ち倒す事が出来た。

 

デュエルギグ干支の音楽は凄まじかった。

 

だからと言ってあたしはこのまま立ち止まる訳にはいかない。

あたしは満身創痍な身体を押して、美来ちゃんに追いつこうと、デュエルギグ干支に追いつこうと駅前へと向かっていた。

 

あたしは肩から流れる血を見て思っていた。

てか、何であたしはデュエルギグしただけで、こんな満身創痍になってんの?と…。

 

あたしが何とか駅前が見える所まで辿り着いた時、待ち合わせ場所に居るタカくんとトシキくんが目に入った。

 

…何で美来ちゃんが一緒に居ないの?

 

「くぅ…」

 

あたしは痛む身体を押して、タカくん達の方へと向かった。

あの場にはタカくんとトシキくんしか居ない。

 

だけど、もしかしたら、拓斗くんか英治くんが美来ちゃんを保護してくれて、タカくんとトシキくんは美来ちゃんに聞いてあたしを探してるのかも…。

でも、最悪はデュエルギグ干支の奴らが先に美来ちゃんを…。

 

「まさか…『亥』を倒したというのか。さすがだな、木原 梓」

 

「!?」

 

あたしは声がした方へ目を向けた。

そこにはさっきのデュエルギグ干支のひとり、『卯』と呼ばれていた奴が居た。

 

「…木原 梓。39番を何処に隠した?」

 

美来ちゃんを何処に隠したかって?

って事はこいつらが美来ちゃんを連れて行った訳じゃないって事だ。良かった…。

 

「答えろ。お前は『亥』との闘いで…もう、まともにデュエルギグは出来ないだろう。…エクストリームジャパンフェスの本戦も…」

 

確かにあたしはもうまともにデュエルは出来ないと思う。

片腕は上がらないし、ギターを弾く事は出来ない。

 

「木原 梓。私達の目的は39番だけだ。

あの子はお前の娘じゃない。お前の遺伝子から造られたクローン。ただの実験体だ。お前はmakarios biosの事なぞ忘れ、自分のやるべき事を全うしろ」

 

こいつ、何を言って…。

 

「実験体?makarios biosの事なんか忘れろ?

出来る訳ないやろ。あの子はあたしの娘や。あたしの遺伝子から産まれてきてくれた大切な娘や!」

 

「…いつ壊れるかわからない心、いつ崩れるかわからない身体。それがmakarios bios」

 

「美来ちゃんも、そんな事を言ってたな…。だったら、その日まであたしは美来ちゃんと一緒に居る!あの娘の最期の時まで!」

 

「美来?それがお前が39番につけた名前か?

このまま39番…美来の事を忘れて去れ!海原も、私達クリムゾンエンターテイメントはお前らには手を出さない!!今の内に…タカと結ばれて本当の子を産めばいいだろう?」

 

ふぁ!?何で!?

何であたしがタカくんの事好きな事バレてる感じなの!?

 

聖羅はともかく……そういや、お父さんにもバレてる感じやったもんな。

ま、まさかクリムゾンエンターテイメントのみんな知ってる感じなの!?

 

って、今はそれより!

 

「だったら、あんたらクリムゾンエンターテイメントが、あの娘の事忘れてよ。あの娘とはあたしがずっと一緒に居る」

 

「梓…わかってよ!私は貴女を倒したくない…!」

 

…こいつ、何で?

 

そうしてあたしは少しだけ、小さな感覚を思い出した。

 

「なぁ…あんた、もしかして…あたしと会った事ある?」

 

あたしがその小さな感覚を思い出そうとしていると…。

 

「お母さん!」

 

「「!?」」

 

あたしとデュエルギグ干支の『卯』が立っている場所から、大通りを挟んだ所。

そこに美来ちゃんは居た。

 

何で美来ちゃんがあんな所に…。

そう思った瞬間にあたしは思い至った。

 

美来ちゃんはあたしの遺伝子から造られた。

つまり、美来ちゃんも極度の方向音痴に違いない…。

 

「39番!?何故あんな所に!?」

 

すみません。多分あたしの遺伝子のせいです。

 

…あたしが方向音痴だという事を知らない?

さっきの小さな感覚は気のせいなのかな?

 

「お母さん!何でそんな大怪我を!?」

 

すみません。あたしも何でデュエルギグでこんな大怪我をしているのかわかりません。

 

…そして、美来ちゃんはあたしを心配したのか、大通りの左右を確認せずに、走ってあたしの方へ向かって来た。

 

「だ、だめ!美来ちゃん!」

 

ここには、あたしの横にはデュエルギグ干支が居る。

あたしはこのデュエルギグ干支には勝てない。美来ちゃんを守れない。

 

いや、今はそれよりも…

 

「美来ちゃん!信号はまだ…!」

 

「39番!ちぃ…そこを動くな!」

 

「え?」

 

美来ちゃんはあたしとデュエルギグ干支に大声で静止され、道路の真ん中で立ち止まってしまった。

 

 

-パッパー!

 

 

さっきのパッパーって音は車のクラクションの音である。

 

「車が…!」

 

「39番!避けろ!!」

 

「え?え?」

 

「「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

 

-ドン!

 

 

あたしは何とか美来ちゃんを押し飛ばす事が出来た。

 

だけど、身体中が痛い。

身体が動かない。あれ?あたしどうなったの?

 

あたしが押し飛ばした美来ちゃんの方を見た時、美来ちゃんは、デュエルギグ干支の『申』と呼ばれる奴に捕まっていた。

 

何で…こんな事って…ないよ。

 

 

 

 

 

「梓!梓!!しっかりしろ!」

 

あれ?暖かい…。

 

「梓!」

 

あたしの目の前にはタカくんが居た。

 

「じょ、冗談だろお前!お前が!車に轢かれ…たくら…ケホッ、ゲホッゲホッ」

 

タカくん、ダメだよ。そんな大きな声出したら。

 

あ~…あれ?声を出したいのに声が出ない?

身体も動かない…何で…?

 

あたしはそう思いながら、今の自分の状況を考えてみた。

 

……声も出せない、身体も動かないあたしをタカくんが抱き抱えてくれているのが理解出来た。

 

そっか。あたし、車にハネられて…。

 

タカくんの横にはトシキくん。

あれ?澄香と翔子と日奈子も居る。

そっか。今日はエクストリームジャパンフェスの本戦だもんね。あたしもこんな所で倒れてる場合じゃないよね。

 

あれ?あたし何で車にハネられたんだっけ?

 

「梓…ゲホッ、ゲホッ」

 

タカくん、だから大きな声出しちゃダメだってば。

 

「梓ちゃん!しっかりして!」

 

トシキくん。あはは、トシキくんの泣いてる所初めて見たかも。日奈子にヤバい事やらされてもいつもトシキくんだけは苦笑いしてたのに…。

 

「梓!嫌や!嫌やで!ずっと、ずっと一緒やったやんか!」

 

澄香…、何で泣いてるの?もちろんだよ。澄香はあたしの幼馴染みやもん。ずっと一緒だよ。

 

「梓…嘘だろ?いつものお前は車なんか逆にハネ返してたじゃねぇか…。なぁ、起きろよ?」

 

翔子、待ってて今起きるから。

てか、逆にハネ返してたって何?あたしそんな事しませんけど?

 

「梓ちゃん…。もういいよ。あたし達へのドッキリ大成功だよ!ほら!そろそろネタバレタイムだよ!

……早く起きてよ、いい加減にしないとあたし怒るよ!」

 

日奈子…ごめんね。だから怒らないで…?

すぐに…起きるから…。あれ?起きたいのに…。

 

起きたいのに…何だか…もう、眠い…。

 

「「「「「梓(ちゃん)!!」」」」」

 

あたしは…車に轢かれて、もう…。

 

 

『お母さん!!』

 

 

ハッ!!?

 

 

美来ちゃん…。

そうだ。そうだよ。

あたしは美来ちゃんを守る為に…。美来ちゃんは?

美来ちゃんは無事!?

 

「タ、タ…カくん…」

 

「何だ!?どうした梓!」

 

「おん…なの子…あたしが…まも…、女の子は…無事?」

 

あたしはその時に出せる精一杯の声を出した。

 

「女の子?…ああ、お前が突き飛ばした女の子な。あの子は無事だぞ。そこに居る。見えるか?」

 

あたしはタカくんに顔を少し横に向けられた。

そこには美来ちゃんが確かに居た。

 

良かった。無事だったんだね。

さっきはデュエルギグ干支に捕まったように見えたのに。

 

「良かっ…無事…で」

 

「あたしの…あたしのせいで…あたしが脱走なんかしたから…」

 

「ち、ちが…」

 

違うよ!美来ちゃん!

 

「あたしが…あたしのせいだ…」

 

違う!違うから!

何で…何であたしの声は出てくれないの!

美来ちゃんのせいなんかじゃない!これは…ただの事故で…。

 

美来ちゃんが無事だったなら良かった…。

 

「あたしが!あたしが飛び出したりなん『違う!』かしたか…ら?」

 

タカ…くん?

 

「違うよ。キミは悪くない。だから、梓には…ケホッ、ありがとうって言ってやってくれ」

 

タカくん…。

 

「な、何で…あたしが飛び出したりしたから…」

 

「こいつは車に轢かれたくらいで、どうこうなる奴じゃねぇよ。むしろ運転手さんの方が可哀想なレベル」

 

え?タカくんは何を言ってるの?

 

「で、でも…」

 

「本当に…こいつは大丈夫だから」

 

タカくんは何て幼女に甘いの!?

いや、確かにあたしは大丈夫やけどね!?

 

そう言ったタカくんは、美来ちゃんの頭に手を置いた。

 

 

『39番、約束の3分が経ったぞ』

 

 

「え?あ…」

 

「だから、お前も心配すんな」

 

 

『その場に居るタカやトシキ、Artemisの連中も木原 梓と同じような目にあってもいいのか?』

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

美来ちゃんはタカくんの手を払って逃げ出してしまった。

 

「お、おい…!……あ、あれ?俺が頭撫でようとしたから?まさかセクハラと思われて逃げられた…?」

 

あたしは走って行く美来ちゃんを見ながら気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?ここは…?って!いだだだだだだ…!何!?身体中痛いんやけど!?ヘルプ!誰か!ヘルプミー!」

 

「梓…?良かった…良かった…」

 

「ふぇ?澄香?って、痛い痛い痛い!マジで身体中痛いんやけど!?」

 

あたしが目を覚ました時、そこは病院のベッドの上だった。

あの日あたしは車に轢かれてしまい、それから手術をして、目を覚ますかどうかはお医者様にとっても賭けだったらしい。

 

幸い頭部や内臓には損傷が見られず、血を失い過ぎてしまっていたのもあるみたいだけど、命には別状はないとの事だった。脊髄にちょっと傷があったから、歩くのに支障があって、これからは車イス生活になるって事だったけど。

 

あたしが目を覚ましてすぐに、BREEZEやArtemisのみんな、アルテミスの矢のみんなや、関西に居るはずのおっちゃん達も来てくれた。

 

それから数週間あたしはベッドから起き上がる事も出来ず、当然エクストリームジャパンフェスに参加も出来ず、美来ちゃんがどうなったのかもわからず、ただただ日が過ぎていった。

 

「運転手がわからない…?」

 

「ああ、ポリスメン達が必死に捜査もしてくれたみたいだけどな。お前を轢いた車には誰も乗ってなかったそうだ」

 

「それどころかあの事故はニュースにも新聞にも載らなかった。ポリスメン達も捜査は打ち切ってるみたいだ」

 

確かに交通事故なんて毎日たくさんあるだろうし、あたしの事故がニュースになったりなんかしないと思うけど…。

 

タカくんと拓斗くんがあたしにそんな事を話してくれたけど、あたしはそんな事より、あたしのせいでエクストリームジャパンフェスに参加出来なくなった事と、美来ちゃんの事が気掛かりだった。

 

それからまた数日が過ぎた。

 

「タカくん、毎日あたしのお見舞いに来てくれてありがとね」

 

「あ?いや、別に。暇だし。それに拓斗と三咲も毎日来てんだろ」

 

「拓斗くんも三咲ちゃんも来てくれてるけどさ。タカくんがいつもあたしに会いに…ハッ!?そういう事!?あたしに毎日毎日会いたいから…」

 

「いや、ないけど?」

 

即答だった。

 

「じゃあ…何で毎日…お見舞いに来てくれるの?」

 

「お前の担当の看護師さんが可愛いからだ」

 

 

 

 

「あれ?タカ?何でこんな所で寝てんの?」

 

「あ、澄香久しぶり~。大学の方は順調?」

 

「澄香だけじゃないぜ。あたしも来たぞ」

 

「ねぇ。これタカちゃん本当に寝てるだけ?生きてる?」

 

この日は久しぶりに澄香と翔子と日奈子もお見舞いに来てくれていた。

澄香も翔子も日奈子も、わざわざ関西からお見舞いに来てくれる事はあったけど、こうやって4人が揃うのは久しぶりだった。

 

ちょうど4人揃ってるから、今まで言えなかった事を伝えよう。

 

「みんな…ごめんね」

 

「何が?」

 

「あ?わざわざ見舞いに関西から来た事か?」

 

「もう!梓ちゃんは!こういう時はごめんじゃなくて、ありがとうだよ!」

 

お見舞いに来てくれたのはありがたいと思ってる。

だけど、それよりも

 

「あたしが…バンドやろうって言ったのに、あたしが誘ったのに…あたしがこんな事になってメジャーデビュー出来なくなっちゃって…」

 

「「「ああ、そんな事?」」」

 

「え?」

 

そ、そんな事って…。

翔子はメジャーデビューしたいってずっと言ってたし、澄香はお父さんとお母さんの為にもメジャーデビューしなきゃじゃん!日奈子もM&Sとの約束とか…。

 

「梓、あたしは確かにメジャーデビューしたかったけどよ。今は他にもやりたいって事もあるにはあるからさ。そっちもやってみるかって思ってんだよ」

 

他にもやりたい事?

 

「私はメジャーデビューしたいって訳じゃなかったからね。父さんと母さんの事はあるけど。私は梓と翔子と日奈子とバンドをやりたいってだけだったから」

 

澄香…。でも、結局それもあたしが事故にあっちゃったから…。

 

「あたしはこれまでArtemisをやってきてさ。常々プロデュースとかそっちの方が合ってるのかも?って思ってきてた所だったんだよね。だからこれからはプロデューサーの方向で…」

 

待って日奈子。それはマズイよ。

日奈子のプロデュースは命の危険があるじゃん。

あれはあたし達とかBREEZEだったから何とか助かってただけで…。

 

「…でも、やっぱりごめんね。ちゃんと謝らせて」

 

あたしが事故にあわなかったら、今もみんな…Artemisでバンドしてたんだと思うから。

 

とは、言わなかった。

きっと翔子も澄香も日奈子も、あたしに負い目を感じさせないようにと気を遣ってくれてるんだろうから。

 

「それよりさ、梓。ビッグニュースがあるんだよ」

 

「ビッグニュース?」

 

「ああ、師匠の親父さん。なっちゃんのお爺さんが世界中旅してんのは知ってるだろ?」

 

なっちゃんのお爺ちゃん?

確か日本はワシには狭すぎるとか言って、世界中を旅するようになっちゃったんだっけ?

 

「そのお爺ちゃんがね!すんごい名医と親しいらしくて、梓ちゃんがまた歩けるように手術してくれるんだって!」

 

え?あたしまた歩けるようになるの?

 

「まぁ、その医者は忙しいらしくて、実際手術出来るのはまだ先にやし、梓の状態見てみないとほんまに歩けるようになるかはわからんけどな」

 

「え?おっちゃん?おっちゃんも来てくれたんだ?」

 

「ああ、今のお前の担当医と話しがあってな。お前の転院の手続きをしてきた所や」

 

「転院?」

 

「ああ、そのお前を看てくれるって医師がおるんはアメリカやからな。親父…じいさんがこっち戻ってくるまでは関西の病院に転院。そんで、じいさんが日本に戻ってきたら次はアメリカに転院や」

 

アメリカ?

え?日本から離れる事になるの?

 

「手術もいつになるかわからへんし、ちゃんとまた歩けるようになるかはわからへんけどな。…しばらくは日本には帰って来られへんと思う」

 

澄香達ともタカくん達とも…なっちゃんともしばらく会えなくなっちゃうの?

 

「でもま、一生会えなくなる訳じゃないだろうし、手術さえ成功したらまたすぐ日本に戻って来れるだろ」

 

「あ、タカちゃん生きてたんだ?」

 

「タカちゃんの言うとおりや。すんごい医者らしいし、病院の設備も凄いらしいぞ。確か、ショッカーって名前の病院で、その名医はコンビを組んでてな。

男の医者の名前が籔石 弥太郎(やぶいし やたろう)ってのと、女医がサジナ=ゲールって名前や」

 

…ショッカー?あたし手術じゃなくて改造されちゃうって事にならない?

ってか、コンビを組んでる医者って何?ヤブ医者タロウと匙投げる?

 

あたしはとても不安になっていた。

 

「でも、また歩けるようになる可能性があるならな。と、思ってじいさんに頼んだんや」

 

確かにまた歩けるようになるなら、あたしも嬉しいよ?だけど名前が色々不穏じゃない?

 

「手術って怖いもんね。梓が不安になるのもわかるよ」

 

いや、まぁ?確かに?

手術が怖いってのもあるよ?でもあたしが不安なのはその色々な名前であってね?

 

「梓。よう聞け。

確かに色々不安もあると思う。でも、このままやともうずっと車イスの生活になる。もちろん医学は色々進歩しとるし、日本に居てもまた歩けるようになるかもしれん。でも、今、可能性があるのはショッカーに行って改造人げ…あ、いや、手術する方が可能性はあるんや」

 

今おっちゃん改造人間って言おうとしなかった?

 

でも、確かにこのままじゃ…。

あたしはみんなに会えなくなるのは辛かったけど、手術を受ける事にした。

…もし、本当に改造人間にされちゃうなら仮面ライダーになれる可能性もあるかもしれないし。

 

「うん。だったら、あたしアメリカに行く。

おっちゃん、おじいちゃんによろしく伝えてて」

 

「……そうか。わかった」

 

 

あたしは翌日には関西の病院に転院する事になった。

もう毎日のようにタカくんに会えなくなっちゃうな。

 

その後は拓斗くんやトシキくん、英治くんに三咲ちゃんもお見舞いに来てくれて、他愛のない話をして過ごした。

 

「そろそろ面会も終わりの時間だな」

 

翔子がそう言って、みんな帰ろうとした。

もうあたしは明日には関西、そして、その後はアメリカ。

もうみんなと顔を合わせてゆっくり話す時間はないかもしれない。

 

「ねぇ、最後に…みんなに聞いて欲しい事があるの」

 

面会時間が終わりに近づき、みんなが帰ろう部屋から出て行こうとした時、あたしは…この時初めて美来ちゃんの事を、makarios biosの事を話した。

 

 

 

 

「まかり…おす…びお……す?」

 

「うん」

 

「は?遺伝子から…造られたって、そんなの…」

 

「さすがの日奈子もびっくりだよね。漫画みたいでしょ?」

 

「……出来るかどうかは別にして。あのアホ共が考えそうな事だよな。チ、だからお前も今までかたくなにあの子の事話そうとしなかったのか」

 

「あはは、タカくんの言う通りだよね。あたしもそう思う。でもね、その女の子。39番ちゃんは…」

 

39番。

あたしは美来ちゃんとは伝えなかった。

美来ちゃんはそんな名前は嫌だ嫌だと言ってたし、タカくんに『美来』って伝えても、美来ちゃんがそう名乗ってなかったら混乱しちゃうだけだしね。

 

「居るんだよな…。

わかった。お前が関西に…アメリカに行ってる間は俺らがその子を…」

 

「うん、本当にごめんなさい。あたしが歩けるようになったら、あたしが探し出してあげたかったんだけど…」

 

「うん、任せて。だから安心してくれたらいいから」

 

「うん、ありがとう、澄香。でもね、みんなひとつだけ、約束してほしい。…絶対に無茶はしないで」

 

そしてみんながみんなタカくんの方を見た。

 

「え?何でみんな俺を見てんの?」

 

「なるほどね。わかったよ、梓ちゃん。はーちゃんはちゃんと俺達で見張っておく」

 

「え?トシキ?俺を見張っておくって何?」

 

「わかったよ、安心しろ梓。タカが無茶をしそうだったら、あたしが責任持って息の根を止めてやる」

 

「翔子!?息の根って何!?俺は無茶なんかしたことありませんし、これからの人生でもするつもりはありませんけど!?」

 

そしてその後、あたしはもうひとつ、聞いてもらいたい我が儘があったから、思い切って言ってみた。

 

「あ、後ね。ちょっと悪いんだけど…最後に、タカくんと2人きりでお話させてくれないかな?」

 

 

 

\\ふぁ!?//

 

 

みんな驚いて奇声をあげた。

 

「あ、あの…なんで俺…?」

 

「タカ、てめぇ…!いや、グスッ、梓の最期のたの…頼みだ。グス、話してやってくれ。グス」

 

「拓斗、あんた何を…何を泣いて…う…うぅ…グスッ」

 

「何で拓斗ちゃんも澄香も泣いとるんや?最期って別に梓は…」

 

「もう!おっちゃんうるさい!あたし達は行くよ!」

 

「梓ちゃん!頑張ってね!タカくん!ちゃんと梓ちゃんの事考えてお話するんだよ!」

 

何となくみんなに勘違いされている気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「あ!あの!お話ってなんでしゅかにぇ!?」

 

「タカくんは何でそんな噛み噛みなの?」

 

「べ、別に!俺は普通ですんで!普通です!」

 

何で敬語?

 

「あ、もしかして…あたしがアメリカ行っちゃうからって、最後に告白するとか思ってた?鏡見る?貸そうか?」

 

「え?何?俺の心折る為に俺を残したの?」

 

「ごめんね、タカくん。あたし面食いで」

 

「いやいやいや!謝られる事なんかありませんけど!?何も期待もしてないし!マジで告白だったら拓斗に悪いなぁとかしか思ってませんでしたし!?」

 

「え?何で拓斗くん?」

 

「え?何で拓斗って…いや、やっぱりいいや。で?話って何?」

 

何で拓斗くんが出て来たのか…。

未だに謎なんだけどね。

 

「まぁ、いいや。面会の時間も終わっちゃうし。

タカくんに話したいのは…さっきのお話の事でね」

 

「あ?ああ、あの話関連の事か?」

 

「うん、約束してほしいの。絶対に無茶はしないって」

 

「は?約束するも何も俺は無茶なんかするつもりありませんけど?」

 

「いつもさ?そんな事言いながら無茶しちゃうやん?

足立とのデュエルの前にも言ったけどさ?いつまでも夜の太陽じゃなくていいんだよ?」

 

「は?だから俺は…」

 

「お願い。そのお願いを聞いてくれたら、胸くらいなら触らせてあげるから」

 

「……………いや、いらないけど」

 

「即答じゃないだ!?悩んだんや!?」

 

「ち!違うし!おっぱいとかどうでもいいし!いきなり変な事言うからびっくりしただけだし!」

 

「ちょっと、タカくん。声が大きいよ。みんなに聞こえちゃう」

 

「聞かれてもいいしな!触るつもりなんかありませんし!」

 

こうやってタカくんとバカみたいな話しも、もうしばらく出来なくなっちゃうんだろうなって、泣きそうなくらい寂しかった。

 

だけど

 

「これはタカくんだけに伝えとくね。海原は、お父さんは、あたし達レガリア使いを倒す為にデュエルギグ干支っていう部隊を作ったみたい」

 

「デュエルギグ…干支…だと…?なんて語呂が悪いんだ…」

 

うん、あたしもそう思います。

 

「お父さんはまたデュエルギグによる戦争を、レガリア戦争を引き起こすつもりなのかもしれない」

 

「…あのアホならやりかねねぇな。……そうか、お前が俺とのデュエルで見つけた答えがそれか」

 

「さすがタカくん♪さすが夜の太陽~♪」

 

「あ?そんな風に呼ばれても嬉しくも何ともないんですけど?」

 

「あ、それとは別の話でさ?

あたし、絶対また歩けるようになって帰ってくるから。だから、またあたしとデュエルギグしてね」

 

「あ?まだ俺に勝てると思ってんのか?

まぁ、約束してやるよ。また、デュエルしような」

 

そうしてタカくんと、またデュエルギグをしようと約束をしたんだけど、あたしの考えは浅はかだった。

 

……この部屋を出た所では、あたしがタカくんに告白するつもりなんじゃないかと、みんながみんな部屋の前で聞き耳を立てていたのだ。

 

 

 

 

 

「梓のヤツ…タカちゃんに告白するつもりなんかと思ったが違ったようやな。梓、そうはさせへんで、タカちゃんは渚の旦那になってくれるかもしれへん男性(ひと)や!お前なんかに渡せるものか!」

 

「おっちゃんは何を言ってるの…。なっちゃんはまだ幼女だよ?

デュエルギグ干支か…あたしもあたしのやるべき事を早くやらなきゃね」

 

「日奈子のやるべき事…か。何か怖い気もするけどよ。俺にもあるからな、やるべき事は。ま、とりあえずはまどかと綾乃にドラムを教えてやるのが俺のやるべき事だよな!」

 

「そうか。梓ちゃんとえーちゃんの言いたい事わかった気がするよ。はーちゃんもわかってるんだろうけど…」

 

「次世代…ですね。あたしも…トシキさんの言葉で、目指すべき場所は見えましたから」

 

 

 

 

あたしはまさかみんなに立ち聞きされてるとは思ってなかった。

こんなシチュエーションなら、あたしがタカくんの事を好きなのみんな知ってるんだからさ?

みんな話を聞かないようにあたしに気を遣うのが普通じゃない?ほんとみんないい性格してるよね。

 

でも、あたしにとって誤算だったのは、この話を聞いた拓斗くんと澄香の事だった。

 

 

 

「悪いけどよ。俺はちょっと家をあけるわ。

晴香には上手く言っててくんねぇか?」

 

「え?拓斗くん家をあけるって何?晴香ちゃん可哀想じゃん!ほら!澄香ちゃん!澄香ちゃんも拓斗くんに文句言ってやって!」

 

「え?…あ、うん、拓斗。あんたはアホやな。

……ごめん、三咲、ちょっと後で話したい事あるんやけどええかな?」

 

 

 

 

あたしが思ってもみなかった事。

 

拓斗くんも澄香も、Irisベースの事もあったのかも知れないけど、クリムゾンエンターテイメントとの闘いを、このまま終わらせるべきには…と、思っていたらしい。

 

2人がそんな事を悩んでいたのも知らないでさ。

あたしは美来ちゃんの事、makarios biosの事、デュエルギグ干支の事を喋ってしまったんだよね。

 

 

 

 

その翌日、あたしは関西の病院に転院して、それから半年くらい経ってから、あたしはアメリカの病院へと転院した。

 

その間にタカくんとトシキくんは、何故か漫画家になろうと決意表明をして、同人活動を始めた。

 

翔子は大学に真面目に行くようになって、教員免許を取得後し、そのまま地元ではなく関東で教職に就いた。

 

日奈子は大学を卒業後は、株とFXで儲けを出して、M&Sの葉月ちゃん達や、どんな繋がりか知らないけど複数の知人を下僕として、ゲーム会社を作り今に至る。

あたしもゲームの原画家として雇ってくれたから、日奈子に頭が上がらなくなった。

 

英治くんと三咲ちゃんは結婚する為にお互いに仕事を頑張っていた。

 

でも、澄香はたまにメールは来るけど、何をしているのか、何処に居るのかもわからなかった。

 

それは拓斗くんも一緒。

拓斗くんに至っては、連絡も何もなく、タカくん達BREEZEのメンバーや、翔子達Artemisのメンバー、氷川さん達アルテミスの矢のメンバー、それどころか晴香ちゃんに聞いても、何もわからなかった。

 

 

 

それから3年くらい経ってからかな。

あたしも何度目かの手術も終えた時、英治くんと三咲ちゃんの結婚式が催された。

 

その日は久しぶりにみんなと会う事が出来た。

BREEZEやArtemis、アルテミスの矢の主要メンバーと会った最期の日となった。

 

 

 

 

 

 

ま、今となってはみんなと会えてるんだけどね?

 

あ、そういやあたしが帰ってきてから氷川さんとはまだ会えてないかも…

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