バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第58話 オシマイ

あたしは何度目かの手術を終え、日本に戻ってきていた。

 

「とうとう帰って来た。日本に…」

 

「おう、梓。久しぶりだな」

 

「あ、翔子~♪久しぶり~♪」

 

久しぶりに帰って来た日本。

そこには翔子しか居なかった。

澄香も日奈子もいない。

タカくんもトシキくんも拓斗くんも英治くんも、三咲ちゃんも氷川さんも…アルテミスの矢のメンバーも……。

聖羅すらも居なかった。

 

「あ、もしかしてさ?みんなはあたしが帰ってくるって知らなかった?」

 

「あ?みんな知ってるぞ?だから、あたしが迎えに来たんだしな」

 

みんなあたしが帰って来るのを知っていた?

なのに迎えに来てくれたのは翔子だけ?

あたしは泣きそうになっていた。

 

「あ、そだ。言うなって言われてたけどさ?」

 

「グスッ…何ですか?」

 

泣きそうになっているかというか泣いてしまっていた。

 

「タカはさ?迎えに行きたいってずっと言ってたぞ」

 

「……翔子。それもう一回言って」

 

「あ?だからタカは」

 

「あ、ちょっと待って…」

 

-ピッ

 

「OK、録音にした。もっかい言ってくれるかな?」

 

「録音…?まぁ、いいか、タカはお前が帰って来るんならって迎えに行きたいって言ってたんだけどな」

 

言ってたんだけどな。

 

だけど、行かないことにした。

なるほど。そういう事なんだね。

 

-ピッ

 

「あ?何だ今のピッて音?」

 

「ううん、何でもないよ?それでタカくんは?」

 

あたしは録音を止めた。

 

「ああ、何か英治と三咲に結婚式に歌を歌ってくれとか言われてな。

『あいつらの親族を前に恥をかくわけにはいかん。修行の旅に出る』とか言ってバイトも辞めちまうし連絡も取れなくなったんだよ」

 

あ、別に録音止めなくても良かった内容だった。

あたしの迎えより、大事な用事が出来たのかと思ったよ。

 

…あ、大事な用事が出来たってのは間違いないのか。

あたしのお迎えより謎の修行の旅を選んだんだし。

 

そして、英治くんと三咲ちゃんの結婚式場に着いた。

 

受付を終えたあたしは、三咲ちゃんに挨拶に行こうと思ってたんだけど、何だか忙しいみたいだから遠慮しちゃった。

それに一応あたしは『居てはいけない人』な訳だし、他の誰かと会っちゃう訳にもね。

 

 

そして結婚式。

 

 

いつもバカな事をやってる英治くんも、いつも変な事をやってる三咲ちゃんも、ガチガチに緊張してて笑ってしまうような結婚式だった。

 

「あははは、はー…。面白かった。

英治くんはともかく、あんな三咲ちゃん初めて見たなぁ。誓いのチューの時のあの2人の顔!もうあれだけでご飯3杯はいけるよね。ごちそうさまです!」

 

「あ?俺はリア充爆発したらええねん。

としか思わなかったけどな。神様、お願いします。リア充を爆発させるチカラを俺に下さい。キラークイーン、キラークイーンを何卒…!」

 

「あ、タカくん、久しぶり」

 

「…必死で考えたボケがアレだったんだけどな。それをスルーされて普通に挨拶された俺の立場よ」

 

「…今のボケだったんだ、本気なのかと思ってた」

 

久しぶりに会ったタカくんはやっぱり変な人で。

やっぱり変な顔だった。

 

「英治くんと三咲ちゃんの結婚式、素敵だったね!」

 

「ん?ああ、そうだな…。あの三咲と英治がな。あ~…俺も結婚してぇ…」

 

タカくんが結婚したい…だと!?

 

あたしが!あたしが結婚してあげますけども!!

むしろ結婚して!好きっ!!

 

って、言いたかったけどあたしの性格上言えなかった。

 

「まぁ、タカくんは顔がアレやし性格もアレやもんね」

 

「あ?顔も性格もアレって俺って何なの?」

 

「あ~…歌ももう喉がアレだもんね?何もいいところなくなっちゃったね?」

 

「お前アレだな?俺の心折る天才だよな?」

 

でも、安心してね、タカくん。

あたしは口ではそう言ってるけど、本当はタカくん程かっこ良くて素敵な人は居ないと思ってるからね。

だから結婚して下さい。お願いします。

 

あ、あたしの過去話は最後だからって、ぶっちゃけてるけど、これってなっちゃんにお話してあげてる設定だったよね。うん、今、目の前に居るなっちゃんがめちゃ哀れみを込めた目であたしを見てきてるよ。

 

そして、あたしとタカくんが愛を語らっていた時だった。

 

「あ?梓…?さすがにこんな日だもんな。お前も戻って来てたか。そしてタカ、久しぶりだな」

 

そこには拓斗くんが立っていた。

あの日からずっと連絡が取れなくなっていた拓斗くん。

 

「拓斗くん…?」

 

「あ?誰だお前」

 

タカくんはこの時くらいから、拓斗くんに「誰だお前」とか、「知らない人ですね。はじめまして」とか言うようになっていた。

 

「ああ、久しぶりだな。梓、連絡もしなくて悪かったな。ちょっと…色々やる事が増えちまってよ」

 

「やる事が増えた?え?何それ?」

 

「ああ、まぁ、色々な」

 

「色々…じゃ、わかんないよ」

 

「悪い、今はまだ言えねぇ」

 

拓斗くんに連絡が取れなくなっていたのは、その『やる事』のせいなんだろうか?

もしかして、あたしが美来ちゃんを、39番ちゃんを探してほしいってお願いしたからなのかな?と、あたしはあの日makarios biosのことを話した事を後悔していた。

 

「あー、ここには俺も居るんだけどな。あれ?俺の事は無視?俺ってここに存在してるよね?2人とも俺を見えてる?」

 

「あ、タカくん…ごめん」

 

「ちゃんと見えてんよ。さっきお前、俺の事を誰だとか言ってたろ?さすがに胸がチクチクしたからな。無視してた」

 

「あ?お前の事なんか俺は全然知らないんだけどね」

 

「タカ、テメェ…!いや、やっぱいいか…」

 

そう言って拓斗くんはあたし達の前から去ろうとした。

タカくんはそんな拓斗くんに向かって行って…。

 

-ドカッ

 

「イッテェ…、タカ!テメェ何しやがる!」

 

タカくんは拓斗くんの胸ぐらを掴み、壁に思いっきり押し付けた。

 

「…初対面なのにすみません。お前の事なんか俺は1ミリも知らねぇけどよ?

お前何やってやがんだ、あ?晴香もトシキも英治も三咲も心配してんだろうがよ。俺はお前の事なんか知らないし全然心配なんかしてませんけどね」

 

「クッ…それは…悪いとも思ってんけどよ…」

 

「悪いと思ってるだ?お前もガキじゃねぇし、何やってようがお前の勝手だがよ。晴香はお前の妹だろうが」

 

そういや晴香ちゃんはこの日、英治くん達の結婚式には来れなかったんだよ。

久しぶりに晴香ちゃんに会えると思ってたんだけど、あたしは事故にあった日から晴香ちゃんには会えないでいた。

 

てか、あたしって一応、クリムゾンエンターテイメントの目を紛らわす為に事故で死んじゃってた事になってんのに、何で普通に結婚式に来てんだろうね?

てか、アルテミスの矢の人達も居たけど、みんなあたしに気付かなかったの?

 

「晴香は…今日は来れなかったみたいだな」

 

「ああ、どっかのバカ兄貴が音信不通になって色々苦労してるみたいでな」

 

「いや、でもあいつガキが産まれたろ?そん時は俺も会いに行ったし、たまに連絡はしてるぞ?」

 

「え?そうなの?え?マジで?晴香のヤツ俺を謀ってたの?え?何の得があるのそれ」

 

待って。晴香ちゃんって子供産んだの?

あれ?あたしこそ、その事知らないんだけど?

 

「そ、そんな事はどうでもいいんだよ!てか、お前は今!何やってんだって事だよ!」

 

「ああ、悪い。タカ、今はまだテメェに言えねぇ」

 

「俺には言えねぇだぁ?お前しばらく会わないうちに俺の性格忘れちまったか?そうか、そうなんだな?わかった。とりあえず歯を食いしばって祈れ」

 

タカくんは拓斗くんの事なんか知らないとか言ってたのに…。

あ、そしてそう言った後、タカくんは拓斗くんを殴ろうとしたんだけど、

 

「…英治と三咲のせっかくの披露宴に、顔を腫らした野郎を出席させるつもりか?ご両親や親戚は顔を腫らした男が来たらどう思うだろうな?」

 

と、拓斗くんが言ったので、タカくんは殴ろうとした手を止めた。

 

「うっ…」

 

「ま、お前の事だからこう言われたら殴れねぇよな?」

 

「う、ぐ……ヴァァァァァァァァァァァァ!!」

 

「「びっくりした!」」

 

「クッソ、拓斗のくせに俺の弱点を付いてきやがって…」

 

「何年テメェと一緒に居ると思ってんだ…。あ、梓」

 

「え?何?」

 

急にあたしの名前が呼ばれたもんだからびっくりしちゃった。タカくんと拓斗くんの小芝居を見てただけのつもりだったのに。

 

「あの…な、俺が連絡不通になってたのは、本当に色々あって忙しくてな。そんで、忙しいってのはmakarios biosの事じゃねぇから。まぁ、そのついでにmakarios biosも見つけてやれたらいいとは思ってるけどよ」

 

makarios biosの事じゃない?

あたしは拓斗くんからそう聞いて少し安心した。

でも、だったら余計に何故なのか気になった。

 

「そうなんだ…。じゃあ、何で?あたしはともかく、タカくんにも連絡してないなんて…」

 

「ああ、悪い。たとえお前にでも言えねぇ…」

 

「あたしはいいよ。それより晴香ちゃんとタカくんでしょ!でも晴香ちゃんにはたまに連絡してるのか…。

あ、ほら、タカくんあんなに悶え苦しんでるじゃん」

 

「クッソォぉおおあああ…グゥ…殴りたい!拓斗を殴りたい!神様お願い!あいつを殴らせて!いや、でも顔が腫れてしまうと…ぐぉぉぉ…」

 

「…あいつは今は俺が連絡もせずほっつき歩いてる事より、俺を殴る訳にはいかないから怒りの矛先を見失って苦しんでるだけだろ」

 

「もう!そんな事言って!

ちゃんと話してよ、拓斗くん。ちゃんと理由を話してくれたら、みんなも心配しないだろうし、タカくんも許してくれるんじゃない?」

 

「……(チラッ」

 

「ほら、タカくんも理由を聞きたいんだよ。さっきまで悶え苦しんでたのに、急に静かになってこっちをチラチラ見て来てるじゃん。気持ち悪い」

 

「え?その気持ち悪いってくだりいりましたか?」

 

「梓、そういう所だぞ。そういう事を言っちまうからタカ(あのばか)に…その…な?」

 

そういう所!?

 

「そ!それは今はいいよ!それより今は拓斗くんが…」

 

「だから言ってるだろ梓。それは…お前にも言えねぇ。何があってもな」

 

「もう…そんな事ばっかり。

いいよ!教えてくれないなら拓斗くんの事嫌いになっちゃうから!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!それだけは嫌だぁぁぁぁぁ!!!」

 

「「わっ!?びっくりした!」」

 

拓斗くんが急に泣きながら叫ぶものだから、あたしとタカくんはびっくりした。

 

「た、拓斗くん…?」

 

「お、おい、拓斗…」

 

「うぁぁぁぁぁ!なんて!なんて身を引き裂かれるような言葉なんだ!!俺は!俺はぁぁぁぁぁ!!」

 

そう言って拓斗くんは泣きながら走って去って行ってしまった。

 

「やっぱり…BREEZEって変な人ばっかりだね」

 

「いや、あれ知らない人ですんで。BREEZEってまとめるのやめてくれません?」

 

それから結婚式の披露宴が行われ、緊張しながら歌うタカくんを見ながらかっこいいと思い、祝電で何故か海原…お父さんからの祝辞があったりでみんなびっくりした。

 

そんなこんながありながら、あたしは結婚式の二次会に行く時間もなく、アメリカへと帰り、結局、晴香ちゃんとは会う事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「そしてまた何度か手術も繰り返してね。リハビリも頑張って…やっと、あたしは日本に帰ってこれたんだよ。

あ、でもまだまだリハビリは必要なんだけどね。多少は立ち歩く事も出来るようにはなったけど」

 

ここまでであたしの長かった話は終わり。

やっと本編に戻れると言ったところだ。いや~、ほんま長かった。

 

 

 

「ねぇ、梓お姉ちゃん…。めちゃくちゃ言いにくいんだけど…」

 

おっと、あたしの過去話を終えた所で、Divalのボーカリストである水瀬 渚。なっちゃんが口を開いた。

フフ、この話の途中も何度かなっちゃんにツッコミを受けていたのに、なっちゃんが口を開いたって表現どうよ?

 

「えっ…と、さっきの英治さんと三咲さんの結婚式の話って必要だった?美来お姉ちゃんとの所で終わってても良かったんじゃない?」

 

あ、またツッコミだったのか。感想じゃなかったんだ?

 

「ああ、それね。今はみんなファントムのバンドマンだからさ。でも、拓斗くんは話さないかもだし一応ね」

 

「拓斗さん?」

 

そう。さっきの結婚式の話の件は、正直あたしの昔話とは関係ない。

だけど、なっちゃんには関係があると思って話したのだ。

 

「拓斗くんが放浪していた理由。

昔は話してくれなかったけど、こないだ会った時はちゃんと話してくれたんだよ」

 

「え?何で?美来お姉ちゃんが見つかったから?

見つかったって言うか、美来お姉ちゃんはクリムゾンエンターテイメントのバンドマンで私達の敵だけど、私達と友達としては会えるようになったから的な?」

 

フフ、説明っぽい台詞ありがとうなっちゃん。

 

だけど、

 

「違うよ」

 

「え?違うの?」

 

「拓斗くんはね、最初は…あたしの為、美来ちゃんの為に、makarios biosを探す為に放浪していたの」

 

「あ、うん。まぁ、そうだろなぁって思ってたよ?

でも、英治さんの結婚式の時は違うって言ってたんだよね?」

 

「うん。闇雲に探してもmakarios biosを見つけられないと思った拓斗くんはね。昔のコネっていうか…昔の…」

 

「昔の?」

 

そういやコレってタカくんは知ってるのかな?

あたしは澄香と一緒の時に聞いて、あたしも澄香もびっくりしたんだけど…。

 

「うん、えっとね。明日香ちゃん。

拓斗くんと同じバンドのキーボード、観月 明日香ちゃんの事だったんだよ」

 

「あ~、明日香ちゃんの事なんだ?

クリムゾンエンターテイメント関係の事かとは思ってたけど、明日香ちゃんの事だったんだね。

クリムゾンエンターテイメントの闘いの中で明日香ちゃんのご両親が…クリムゾンエンターテイメントに…」

 

「うん、そだよ。拓斗くんはmakarios biosを探す為に、ONLY BLOOD二代目の大神さんを探そうとしてた。でも見つからなかったんだよ。あの人神出鬼没だからね」

 

「へ?ONLY BLOODの大神さん?先輩の前の射手座の人で梓お姉ちゃんが豚だと思ってた人だよね?」

 

なっちゃん?あたしが大神さんを豚だと思ってたのは幼女の頃だけだよ?

 

「ま、まぁ、その大神さんなんだけど、拓斗くんは大神さんを探してて…。

ボーカリストの大神さん、ベーシストの氷川さん、ドラマーのまこっさん。あたしの昔話にはギタリストが出て来なかったでしょ?」

 

「え?あ、そういやそうだね」

 

「ONLY BLOODのギタリストの名前は観月 志希(みづき しき)さん。あたしも会った事ないんだけどね」

 

「え?観月って…」

 

「うん…明日香ちゃんのお父さんのお兄さんだよ」

 

「いや、お父さんのお兄さんなの!?明日香ちゃんのお父さんなんだと思っちゃったよ!」

 

「あはは、結局、志希さんの事も拓斗くんも見つけられなくて、何とか明日香ちゃんのお父さんである志希さんの弟さんを見つけたの。志希さんもレガリア戦争が終わってから音信不通になったみたいでね」

 

そして明日香ちゃんのお父さんもお母さんも、音楽に関わる仕事をしていてね。

クリムゾングループと色々あったみたいで、拓斗くんはその色々ってのを解決させたみたいだけど、そのせいなのか何なのか、突然に明日香ちゃんのお父さんとお母さんは明日香ちゃんを置いて、拓斗くんに明日香ちゃんを託して行方がわからなくなった。

 

それから、拓斗くんは明日香ちゃんを面倒見ながら、明日香ちゃんのご両親を探す為に色々頑張ってたみたい。

 

「へぇ…そうだったんだ…」

 

「うん、拓斗くんもその後、15年近くもご両親を探したけど、何の手掛かりもなく今に至るんだって。

そして、聡美ちゃんや架純ちゃんと出会って、タカくん達と再会して、ファントムのバンドマンになって…。

明日香ちゃんにご両親を探す為、クリムゾンと闘う為じゃない音楽をやらせようって思ったんだって。明日香ちゃんのご両親もそれを本当は望んでたみたいだから」

 

「そうだったんだ…。明日香ちゃんのご両親も見つけてあげたいね」

 

「うん、拓斗くんは2人じゃ見つけられなかったけど、ファントムのみんなとならきっと見つけられるって思ったみたい。あたし達Artemisにも一緒に探してくれってお願いしてくれたんだよ」

 

あたしも明日香ちゃんのご両親を見つけてあげたい。

もしクリムゾングループが絡んでいるなら、お父さんも何か知っているかもしれないし。

 

だけど、拓斗くん。

他にも何か隠してる気がするんだよなぁ~。

 

「ありがとう、梓お姉ちゃん。色々とお話してくれて」

 

「ううん、いいよ、いいよ。ちょっと恥ずかしかったけどね」

 

「うん、お話の8割くらいはどうでもいい事だったけど、大事な事を聞かせてもらったと思う」

 

8割もどうでもよかっただと!?

 

「そ、それでね、梓お姉ちゃん…」

 

「ん?何?」

 

「わ、私なんかが…って思うけど、だ、大事に使わせてもらうね!」

 

そう言ってなっちゃんはあたしに手を差し出してきた。

……え?何?

 

「え?なっちゃん?何かな?その手は?」

 

「ふぇ!?い、いや、だからさ。梓お姉ちゃんが…その、大事な昔の話をしてくれたってのはそういう事でしょ?結局、梓お姉ちゃんが歌うのを辞めちゃったのは、最初は先輩のせいかと思って、明後日の仕事中にさりげなく蹴ってやろうかとか思ってたけど…翔子お姉ちゃん達みたいに…その、後世に託す為。なんでしょ?」

 

そっか。

なっちゃん、何だかんだってあたしの話をちゃんと聞いて、ちゃんと考えてくれたんだね。

 

良かった。今日なっちゃんに話をして。

 

そしてあたしはなっちゃんが差し出してきている手を…、

 

「梓お姉ちゃん?何で私と梓お姉ちゃんは握手してるの?」

 

「え?あれ?…違った?」

 

え!?待って!?握手じゃないの!?

なっちゃん達Divalはあたし達Artemisに雰囲気が似てるってのあるし、なっちゃんはあたしのランダムスターを使ってくれてるし!?

 

さっきのお話ありがとう!これからもよろしくね!

って握手じゃないの!?じゃあ、なっちゃんが差し出してきているこの手は何!?

 

「あ、あの、梓お姉ちゃん…こ、こんな事言うの…。私から言うのものすっごいアレなんだけど…。その…魚座のレガリアを私に託すつもり…、後世に託すつもりで話してくれたんじゃ…?」

 

「レガリア!?あたしがなっちゃんに!?」

 

「え!?ちゃうの!?めちゃくちゃ恥ずかしいんやけど!?」

 

はぁ~…。なるほど。そうきたか。そう捉えちゃったか。

確かに…今こんなタイミングであんなお話したら、そう思っちゃうか…。

 

なっちゃん達とあたし達は雰囲気は似てるけど、なっちゃんとあたしの歌の質はちょっと違うしなぁ…。

まぁ、なっちゃんも使いこなせる素質はあると思うけど。

 

あたしはレガリアを託すってなると、なっちゃんならって思いはするし、なっちゃんが魚座のレガリアを使いこなすくらいのボーカリストになったら最高オブ最高だと思う。

ま、レガリア戦争の事もあるから、タカくん達は反対しそうだけど。

 

でもそれ以前になぁ…。うぅん…。

 

「ご、ごめんね、なっちゃん」

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!?やっぱり違うんや!?赤っ恥!とんだ赤っ恥やで!!」

 

「いや、なっちゃんならあたしの魚座のレガリアを託してもいい。って思うよ。レガリア戦争の事もあるから心配はあるし、タカくん達は反対するだろうけど」

 

「え?ほ、ほんとに?」

 

そう言って目をキラキラさせるなっちゃん。

 

「でも、ごめんね」

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!やっぱりあかんねや!?恥ずかしい!穴があったら入りたい!」

 

ち、違うんだよ、なっちゃん!

ええい…しょうがない…。

 

「あたし実は今、魚座のレガリア持ってないの。色々あって失くしちゃったんだよね。ほら、あれ小さいし?」

 

「は?失くし…た…?」

 

おおう、なっちゃんからめちゃくちゃ『こいつ何失くしてんの?アホなの?』って目を向けられてる気がする!

 

「失くしたって告白した時は、タカくん達はもちろん、おっちゃんや翔子や澄香や日奈子からも、めちゃくちゃ怒られてさ?うっかり泣いちゃったよ。失くした当の本人はめちゃくちゃ反省も後悔もしてんのにさ?さらに怒られるとか…」

 

「いや、レガリアって大事なものなんだよね?それ以前に梓お姉ちゃんのお母さんの形見みたいなもんやん?」

 

「そうなんだよね。だから落ち込んでたってのに、みんな慰めてもくれなくてさ?」

 

「え?梓お姉ちゃん…マジでアホなの?」

 

おおう、なっちゃん!

お酒飲み過ぎて酔ってからって辛口だね!

え?酔ってるからだよね?

 

まぁ、でもしょうがないか。

失くしたって事にしとかないと、もっと色々怒られそうだし。

タカくん達にも失くしたって言ってあるしね。

 

 

…あ~、思い返してみると、やっぱりあたしはアホやな。

その場の空気に流されずに、あの時…。

 

 

 

 

『これ。お母さんから預かった御守り。返しておく』

 

『ずっと持っててくれたんだね。ありがとう』

 

『ちゃんと返せて良かった』

 

『美来ちゃん』

 

『ん?何?』

 

『これはあたしが美来ちゃんにあげた御守りだよ。だから、これはずっと美来ちゃんが持ってて』

 

 

 

あの一瞬返して貰った時に、お守りを開けてレガリアを取り出してたらなぁ…。

あの後も美来ちゃんとは、よく会ってるけど今さらちょっと貸してとかも言いにくいしなぁ…!

 

あの事故にあった日、お守りの中にレガリア入れてるのうっかり忘れてて美来ちゃんに渡しちゃうんだもんなぁ…。

まさかレガリアのうち1つが、クリムゾンエンターテイメントの手にあるとバレたりしたら…。

 

絶対怒られるだけじゃすまない。

美来ちゃんはお守りを開けたんだろうか?

中にレガリアが入ってるって知ってたりするのかな?

 

美来ちゃんには直接聞きにくいし。

 

『え?この中にレガリア入ってたの?いえ~い、ラッキー』

 

とか、言われても大変だし…。

 

うぅ…美来ちゃんには見つかってても、お父さんと九頭龍にさえ見つかってなければ…。

 

「梓お姉ちゃん?」

 

「あ、あはは、な、何でもないよ。何でも。

ほ、ほんまレガリアを失くしちゃうとかあたしはアホやなぁ」

 

15年間バレてないんだから、どうかこれから先もバレませんように…!

 

 

 

 

そうして、あたしの長い長い昔話は終わりを迎えたのである。

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------

 

 

 

 

 

「ん?美来?どしたん?こんな時間にゲームやってないとか珍しい」

 

「小夜…」

 

「ん?何かあった?あ、それ、美来のお母さんから貰ったお守りだっけ?」

 

「うん、何となく見ていた。

……ソシャゲのイベントがさっき終了時間を迎え、今は集計中。九頭龍のアホのせいで仕事が多かったから、思うようにイベントを走れなかった。もしかしたら1,000位以内に入れていないんじゃないかと、不安で眠れなかった」

 

「いや、九頭龍のアホって…。仕事は仕事じゃん?その…さ?しょうがなくない?」

 

「ふぅ…小夜は愚か。推しイベより大切なものはない。ましてや九頭龍のアホの為にとか…」

 

「いつも九頭龍さんに対してアレだけど、今日はいつにもましてアレだね。ま、心配して損したわ。明日もあるし私は寝るよ。美来も早く寝なよ?」

 

「心配してくれてありがとう。あたしは憂いている。だからもっと心配するといい。そして慰めるといい」

 

「全く…お守り見ながら憂いてるから、とうとうピアス開けようとしてんのかと思ったじゃん…。それじゃね、おやすみ~」

 

「え…?小夜…今なんて…?」

 

何も言わずに部屋に戻る小夜。

あたしはそれ以上に何も聞けなかった。

聞く訳にはいかないから。

 

ピアスを開けようとか言った事なんてないのに。

何で小夜はあたしがピアスを開けようとしていると思ったんだろう?

 

多分、知っているからだ。

このお守りの中に入っていて、あたしがずっと隠してきていたものを。

 

36番…有希が居なくなって、あたしが脱走して連れ戻されて来たあの日から、小夜はあたしを含めmakarios bios達の面倒をよく見てくれている。音楽の才能を受け継げなかったmakarios bios達の事も。

 

あたしも信頼しているし、同じバンドメンバーだし、数の少ないmakarios biosの仲間だし、小さい頃、それこそ産まれた時から一緒に居る仲だ。

 

だから考えたくないけど、もし…。

魚座のレガリアの事を知っていて、あたしやお母さん達に害を及ぼすなら…。

海原や九頭龍、クリムゾンエンターテイメントの味方なのなら…。

 

あたしは…どっちと闘わないといけないんだろうか?

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