バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第60話 5th Anniversary!!

これは奈緒さんと理奈さんと渚さんが、ファントムに秀さんって人を連れて来る前日のお話。

 

Canoro Feliceのリーダー兼ダンスボーカルである俺、一瀬 春太と、ギタリスト夏野 結衣、ドラマーの松岡 冬馬は、ベーシストである秋月 姫咲の豪邸へと呼び出されていた。

 

この日、俺はバイトがあったし、結衣はバイトの面接、冬馬は高校3年だから進路相談があったんだけど、姫咲の招集は絶対で。俺達には『用事があるから断る』という選択肢は無かった。

 

そして俺達Canoro Feliceのトラブルメーカー…違った。

ベーシストの姫咲はこう言った。

 

「皆さん!喜んで下さいませ!急な事ですけど、今回このお話が5周年記念という事で、私達Canoro Feliceのライブが本日開催されますの!」

 

「「「え!?ライブ!?しかも今日!?」」」

 

「ええ。皆さんお気付きだとは思いますが、私達Canoro Feliceはメインバンドの1角を担うというのに、これまで周年記念のお話には参加出来てませんでしたわ」

 

「周年記念?何の事だろ?春くんとまっちゃんはわかる?」

 

「あ、いや、わかるにはわかるけど、わからない方が幸せだと思うよ」

 

「春太の言う通りだ。しかし、俺達メインの話ってのは確かに少ないかも知れないが…各々キャラ付けが濃いから、色々目立ってはいるじゃねぇか。主に悪い方に」

 

「松岡くん、黙りなさい」

 

「姫咲、それで?何で急にライブを?

ライブをやれるってのは俺的には嬉しいし、せっかくのバイトを潰されてまでやるんだから、しっかりやりたいけど」

 

「私も晴香さん所にバイトの面接に行く予定だったけど、ライブだったらやる気出るよね!晴香さんには今度謝るとして今日はライブ頑張ろー!」

 

「あら?結衣は晴香さんの『そよ風』に面接予定でしたのね。今度、私も一緒に謝りに行きますわ。………松岡くん、黙りなさい」

 

「俺も進路相談って大事な…待て、秋月。俺はまだ何も言ってねぇ」

 

それにしても、周年記念って特別な回に俺達のライブか。

何かこれはバンドのお話だって改めて思わせてもらえたな。

バンドに関係ない話の方が圧倒的に多いのに…。

 

「それにしても秋月。黙ってろと言われたが、これだけは聞かせてくれ。どうやってこんな周年記念って特別な日に俺達Canoro Feliceのライブが出来るようになったんだ?」

 

確かに冬馬の言う通りだ。

これまで俺達Canoro Feliceは色物扱いだった。

特別編以降のほとんどが姫咲と澄香さんを引き立たせる為の小芝居に付き合わされてただけだ。

 

「それですか。

実は2周年記念の日から私達Canoro Feliceはこのままではいけないと思い、私の持てる知識と登場していない暇を持て余した時間をフルに使って、何とか私達Canoro Feliceで周年記念をしたいと思っていましたのよ」

 

2周年記念の時からそんな事思ってたの?

姫咲は生徒会にも入ってるし、冬馬の同級生だから受験生のはずだし、澄香さんから大事なIrisベースを託されたのに、そんな事ばかり考えていたのか。恐ろしい…。

 

「とまぁ、そういう訳で、ちょうど梓さんが渚さんに過去話している期間も長かった事ですし、機は今だと思いまして、単身SCARLETに乗り込ん…伺わせて頂いて日奈子さんに相談させて頂いてたんですのよ」

 

日奈子さんに相談…?

それって大丈夫なのかな?

タカさん達の話じゃ、日奈子さんの企画で何度も死にかけたって言ってたけど…。

 

「あずあずとなぎーの話って何だろ?まっちゃんはわかる?」

 

「いや、ユイユイはわからなくていいと思うぞ?ってか、日奈子さんのとこに乗り込んだって言いかけてなかったか?」

 

「冬馬、考えるだけ無駄だよ。これからライブだってのにツッコミ続けてたら体力がもたないよ?」

 

でもまぁ、日奈子さんもArtemisのドラマーだった訳だし、今は音楽事務所のSCARLETの社長でもある。

変なライブをさせられるかも知れないけど、ライブをやれるって事は間違いないだろう。

 

「姫咲!それで今日はどこでライブするの?ファントム?」

 

「あ、そこまでは聞いてませんわね。私も今日は学校でしたので、澄香さんが日奈子さんと色々と話を詰めてくれてたみたいですわ」

 

姫咲にそう言われ、俺はソッと澄香さんの方に目を向けた。

 

「ハッハッハ、大丈夫でございますよ。ご安心下され」

 

澄香さんはセバスさんになっていた。

どうしよう、もう不安しかない。

 

「さて!皆様!時間がありません!早速ではございますが、こちらに簡易的に更衣室を設置しましたので、今日のライブ衣装に着替えて下さいませ!着替えが完了次第、私がバスでライブ会場に送らせていただきます!」

 

え?ここで着替えるの?

 

「あの、えっと…澄香さん、ほんとにここで着替えるんですか?」

 

「一瀬様、私は澄香ではございません。セバスでございます。どうかお気軽にセバスちゃんとお呼び下さいませ」

 

ほんと何言ってんの?

 

「さぁ!時間がございません。早く着替えて下さいませ!もう!ライブはスタートしているのです!」

 

う~ん、何か変だけどここで着替えない訳にはいかないか。

ライブはスタートしているって意味がわかんないけど。

 

結衣と姫咲はノリノリで、俺と冬馬はしぶしぶと更衣室に入り、着替える事にした。

 

 

 

 

へぇ~、何か怪しいなと、疑いしかなかったけど、着替えて終わると何という事もない。

普通のステージ衣装だった。

いや、むしろ今までの衣装よりもアイドルっぽくて…。

うん、俺、このステージ衣装好きだな。

 

「あ、冬馬。冬馬のステージ衣装もいいね」

 

俺が更衣室から出ると、着替えを終えた冬馬が待っていた。

 

「あ、ああ…、何か変じゃねぇか?俺にはこんなキラキラした衣装ってよ…」

 

「いや、全然変じゃないよ!すごくかっこいい!」

 

「そ、そうか?」

 

冬馬もまんざらじゃない感じだ。

 

「馬子にも衣装とはよく言ったものですわね」

 

姫咲も着替えを終えて更衣室から出てきた。

俺達の衣装を女性向けに創ったような、キラキラしたお姫様系の衣装だ。

 

「に、似合ってるぞ、秋月…///」

 

「それはどうも。それよりちょっと…。スカートの丈が短すぎじゃないでしょうか?もちろんインナーパンツも穿いてますけど…」

 

確かに少しミニな気がするかな。

でも、長過ぎるよりは短い方が、演奏中のパフォーマンスはやりやすいだろうし、いいと思うけどね。

 

「えぇぇぇ!?何でみんなの衣装そんなに可愛いの!?」

 

どうやら結衣も更衣室から出てきたようだ。

………って!!

 

「な、何だよユイユイ!その格好?アハハ!」

 

「ちょ、結衣?何でそんな衣装に?ぷっ、あははは」

 

「結衣だけ何故そのような…プッ、フフ、す、すみません。さすがにその格好は…」

 

「だ、だって更衣室にはこの衣装しかなかったし!」

 

更衣室から出てきた結衣は、ピチピチの全身タイツ(肌色)を着て腹巻きをしていた。

全身タイツだから頭までスッポリと被っている。

そして瓶底メガネのような物をかけていた。

 

俺も冬馬も姫咲も、悪いと思ったけど笑ってしまった。てか、何で結衣だけこんな衣装を用意されてたの?

 

\\一瀬、秋月、松岡、アウトー//

 

「「「え?」」」

 

どこからともなく日奈子さんの声が聞こえてきた。

アウトって何?そんな事を思っていると、澄香さん、いや、今はセバスさんか。

セバスさんが、ソフト警棒のような物を持って…。

 

-パァン!

 

「痛ぇ!」

 

-パァン!

 

「痛っ!」

 

-パァン!

 

「…っんぐ!」

 

冬馬と俺と姫咲のお尻を思いっきり叩いた。

待って、これ昔年末にバラエティー番組で見た事あるやつ。

 

「うわぁ~、春くんも、まっちゃんも姫咲も痛そう…」

 

「もう、ライブはスタートしていると申したはずでございます。せっかくのライブ中に笑ってしまうとは、まさに片腹痛しでございますな」

 

待って。

楽しいライブをやりたいって集まりじゃない?俺達って。

笑顔いっぱいのライブにしたいくらいじゃない?

何で笑って叩かれるの?

 

さすがにこんな横暴を甘んじて受け入れる訳にはいかない。

こんなのが許されたら、俺や結衣や冬馬はともかく、姫咲はやりたい放題やって俺達を笑わせにくるだろう。

 

俺は危険な気がしたが、セバスさんに文句を言う事にした。

 

「ちょっと、セバスさん。俺達Canoro Feliceは楽しいライブを、みんなが笑顔になって幸せになれるようなライブがしたいんです!なのに、笑ったらアウトで叩かれるとか、ちょっと無茶苦茶じゃないですか!?」

 

「これは私の持論でございますが、躾に一番効くのは痛みだと思う」

 

あっっっぶな!

何でここでリヴァイ兵長のセリフぶっ込んできたの!?

そりゃ痛かったけどさ!躾って何!?

 

「わぁ!澄ちゃんの今のセリフってリヴァイ兵長みたい!」

 

結衣!わかってるから言わないで!

 

「何言ってんのかわかんねぇな。クソメガネ…」

 

「ブフッ、そもそもユイユイのメガネって衣装として用意されてたやつだし」

 

「ちょっ、プッフフ…結衣。そのメガネだけでも外して…フフ…」

 

\\秋月、松岡、アウトー//

 

-パァン!

 

「痛っ!」

 

「ちょ、澄香さん待っ…」

 

-パァン!

 

「いっっったい!!」

 

危なかった。

俺もちょっと笑ってしまいそうだった。

文句を言う為に気を張ってたから、今のは回避出来たけど…。

 

「うぅん、私も見にくいからこのメガネ外したいんだけど、衣装と一体化してるみたいで取れないんだよね」

 

「「「ブフッ」」」

 

\\一瀬、秋月、松岡、アウトー//

 

「ちょ!ユイユイお前…(パァン!)いっって!」

 

「結衣!?わざとじゃありませ…(パァン!)いっっ!」

 

「メガネ一体化してる衣装って…(パァン!)くぅ…いった…」

 

くそっ!気を張ってたのに笑ってしまった!

 

「結衣様、そのメガネは横のボタンを押すと外せる仕組みになっております」

 

「え?あ、ほんとだ!外せた!」

 

「そのメガネはライブには…今回のライブのギタリストには必要となる物。大事に持っていて下さいませ」

 

「え?そうなの?わかった。じゃあ、腹巻きの中に入れておくね」

 

……危なかった。耐えた。何とか耐えたぞ。

メガネが必要になるライブって何だよ!結衣はもっと人を疑おうよ!しかも何で腹巻きの中に入れるの!?わざと笑わせようとしてる!?

 

いやいやいや、待ってセバスさん。

 

俺も冬馬も姫咲も耐えたから。頑張って耐えたからさ。

こいつら笑わないかな?ってていで、俺達をジッと見てくるの止めてくれません?

 

「チッ」

 

待って。今、セバスさん舌打ちした?

 

「では、バスを用意しておりますので、皆様、バスに乗って下さい!時間もありませんし会場まで飛ばしますよ!」

 

ああ、あのバスの行き先は地獄のような気がする。

だけど乗らない事には始まらないし、むしろ乗らないと終わる事もないんだろう。

 

俺達はしぶしぶとバスに乗り込もうとした。

 

「結衣様、本日のライブ本当に楽しみでございますな」

 

「うん!えへへ、楽しみだね」

 

\\夏野、アウトー//

 

「あっ…(パァン!)痛い!めちゃくちゃ痛いよ、これ!」

 

結衣ってもしかしたら仕掛け側かと思ったけど、普通に叩かれてたし、ただの天然さんなだけか。

まぁ、今のはセバスさんにハメられた感じだけど。

 

 

 

 

それからしばらく、俺達はバスに揺られながら移動していた。何故か横並びで。

 

秋月家にはもっと他に色々バスもあるし、いつも姫咲を学校に送り迎えしているリムジンもあるのに。

何で今日に限って横並びシートのバスなの?

 

ああ、そうか。今日に限ってじゃなくて、今日こんな企画をやっているからか…。

 

変に思ったのは俺だけじゃないんだろう。

いつもは言葉数の多い結衣や姫咲すら、何も喋らずに黙っている。下手な事を言って笑ってしまっても大変だもんね。

 

だけど、逆に今こんな空気になっちゃってるから、少しした綻びで爆笑してしまいそうだ。俺自身も笑いの沸点が低くなっている気がする。

ああ…早くライブ終わらせてお家に帰りたい。

 

それから5分程経った頃。

 

「次は~そよ風停留所~そよ風停留所~。お降りの方はボタンを押して下さい~」

 

「「「「停留所!?」」」」

 

バカな!?停留所だって!?

本当にバカな!だってこのバスって秋月家のバスでしょ!?しかもライブ会場に向かってるんでしょ!?

 

-プシュー

 

「お、おい、本当にバス停まっちまったぞ?」

 

「え!?私こんな衣装なのに!?」

 

「プッ、ゆ、結衣…衣装の事は言わないで下さ…\秋月ー、アウトー/(パァン!)うぐっ…!」

 

「絶対罠だよこれ。本当にライブやれるの?」

 

そんな事を思っていると、バスのドアが開き、

 

「よっ、Canoro Felice!」

 

と、言いながら英治さんがバスに乗って来た。

 

「あら?英治さん?…まるっきり罠って訳じゃなかったのですわね」

 

あ、姫咲も罠だと思ってたんだ?

まぁ、そうだよね。さっき姫咲は思いっきり叩かれてたし。結衣のせいだけど。

 

「今日はお前らのライブだってな。楽しみにしてるぜ」

 

次に乗って来たのは拓斗さん。

 

「あ、たっくんだ!たっくんも私達のライブ観てくれるのかな?」

 

「もちろんだよ。せっかくの周年記念ライブだもんね。俺もCanoro Feliceのライブ楽しみだよ」

 

「トシキさん、こんちわっす」

 

なるほど。そよ風停留所か。

ここでBREEZEのメンバーと合流って事かな。

そしたら次はタカさんか。

 

「あー、ラーメン食いてぇ」

 

「「「「ブフッ」」」」

 

\\全員、アウトー//

 

「ちょ、なんでたぁくんじゃ…(パァン!)いったい!?」

 

「こ、これは予想外過ぎですわ…(パァン!)よぅっふ!?」

 

「これはズルいだ…(パァン!)ぐぅぬ!」

 

「何やらされてるんですか!?かな…(パァン!)でぃゃん!」

 

「あー、ラーメン食いてぇ」

 

ラーメン食いてぇってタカさんのようなセリフを言いながら、BREEZEのメンバーと一緒にバスに乗って来たのは、evokeのボーカリスト、豊永 奏さんだった。

 

 

-ブロロロ…

 

 

そのままバスは何もおかしな事は無かったかのように、普通に発車した。

BREEZEのメンバーと奏さんは、俺達の対面に座りながら…。

 

何で対面?このバス広いし席もいっぱい空いてるんですから、わざわざ俺達の対面に座る事ないじゃないですか…。

 

「いや、それにしてもCanoro Feliceがいきなりライブするって聞いた時は驚いたよな!」

 

英治さんすみません。それは俺達も驚きました。

今は何故かこんな茶番をやらされて、別の意味でも驚いてますけど。

 

「ああ、架純も今日は来たがってたんだけどな…」

 

「えぇ!?今日って架純来れないの!?」

 

「「「「……」」」」

 

「ん?あれ?どうしたの?」

 

「ヤバいよ、宮ちゃん。俺達の会話聞こえちゃってる感じだよ。もうちょっと小声で話さないと…」

 

「チ、公共の場だってのにでかい声で話しすぎたか」

 

いやいやいや、対面で普通のトーンで会話してるのが聞こえちゃってるだけですよ!?

 

「あー、ラーメン食いてぇ」

 

奏さんはそのセリフしかないの!?

 

それから5分程経った。

BREEZEのメンバーは小声で何かを話しているようで、俺達には聞こえて来なかった。

てか、笑わせにも来ないのかよ!って危なくつっこむ所だった。

 

「次は~女神停留所~女神停留所~。お降りの方はボタンを押して下さい~」

 

また停留所だって!?

 

-ピンポーン

 

「え?誰かボタン押したの?」

 

「ん?トシキが押したのか?」

 

「いや、俺は押してないよ?もしかして宮ちゃん?」

 

「あ?俺が押す訳ねぇだろ。まさかタカが押したのか?」

 

「あー、ラーメン食いてぇ」

 

奏さんまたそのセリフ!?

ていうか、拓斗さんは奏さんがタカさんに見えてるの!?

 

-プシュー

 

そしてバスが停まり、ドアが開いた途端、BREEZEのメンバーは無言のままバスを降りて行った。

 

「あー、ラーメン食いてぇ」

 

奏さんだけはあのセリフを言いながら、何故かポケットからバナナを取り出して食べだし、2房程座席にバナナを置いて、バスを降りて行った。

 

「いや!みんな降りちゃうのかよ!英治さんもトシキさんも拓斗さんも俺達のライブ楽しみって言ってたのに!?ってか、奏さんは何でバナナ食べながら、バナナ置いて行ったの!?」

 

「ちょっ!まっちゃん!つっこむの止めてよ!うっかり笑っちゃいそうになるじゃん!」

 

そうだよ冬馬。結衣の言う通りだ。

俺もライブ観てくれるんじゃないの?何で途中下車しちゃうの?って思ったけど、潰し合いになりそうだから、あえて黙ってたのに。

 

「結局…タカさんはずっとラーメン食べたいって仰ってましたし、皆さんでラーメンを食べる為に下車したのでは?」

 

「え?秋月、何言ってんだ?あれはタカさんじゃなくて奏さんだろ?え?秋月には奏さんがタカさんに見えてたのか?」

 

「「プッ…あ、しまった」」

 

\\一瀬、夏野、アウトー//

 

「いや、絶対姫咲はわざとで…(パァン!)しょい!」

 

「まっちゃんも何でつっこむか…(パァン!)にゃあ!?」

 

いや、考えてみたら冬馬もわざとでしょ。

いつも冬馬はタカさんの事は葉川さんって呼んでるんだし、俺達に分かりやすくする為にタカさん呼びにしたんじゃ…。

 

けど、それにしてもおかしいな。

BREEZEのみんなは降りたのに、何でバスは発車しないんだ?

 

「あー!良かった!バス間に合った!」

 

そう言いながらバスに乗り込んで来たのは、日奈子さんだった。え?何で?

 

「タカが梓の車イス押してくれて助かったよな」

 

そして次に乗って来たのは翔子さん。

なるほど、女神停留所か。

澄香さんはセバスさんとして、既にバスに乗ってる訳だし、後は梓さんかな。タカさんが車イスを押してくれているみたいだし、今度こそは本物のタカさんかな。

 

「いや、でもタカが最初からブツクサ言わずに、素直に車イス押してくれてたら、こんなギリギリにならんかったんやし」

 

そして澄香さんがバスに乗ってきた。

 

「「「「って何で澄香さんがここに!?」」」」

 

「はい?姫咲お嬢様もユイユイちゃんも、春太くんも冬馬くんもどしたん?」

 

俺達Canoro Feliceの驚きの言葉に、普通に応える澄香さん。え?じゃあ今日ずっと一緒だったセバスさんって誰なの?

 

その後、車イスを押しながらタカさんが『あー、ラーメン食いてぇ』って言いながら乗って来て、結衣が『あ、本物もそのセリフなんだ?』と言うものだから、俺と姫咲と冬馬の尻は犠牲になってしまった。

 

それからバスは発車して、5分程経った時だった。

 

「あ、あの…Artemisのみんなに聞きたい事があるんだけどいいかな?」

 

「「「結衣(ユイユイ)!?」」」

 

さっき、結衣の不意の言葉で被害を被った俺達は、結衣の提案に物を申したかったが、Artemisのメンバーはみんなノリノリだった。

きっと俺達の誰かが口を開くのを待っていたんだろう。

 

「ユイユイちゃん、何かな何かな?何でも答えちゃうよー!」

 

「バンドやライブの事から大人な恋愛相談まで、あたしらに答えられない事はないから、何でも聞いてきな」

 

「いや、大人な恋愛相談は翔子じゃ無理でしょ」

 

「ウホ、ウホ」

 

「あー、ラーメン食いてぇ」

 

ああ、このまま次の停留所、もしくはライブ会場に行きたかったのに…。

 

「あ、うん、えっとね…。まずひとつめは、さっきからヒナポンの声で○○アウトーって聞こえると、その○○さんがお尻を叩かれるんだけど…?」

 

「ん?日奈子の声で?日奈子、そうなのか?」

 

「これの事かな?えっと…夏野、アウトー。ってやつ?」

 

「そう!それそれ!って、ちょっと待って、今私笑ってないよ?セバスちゃん、私笑ってな…(パァン!)いっってヴァァァ!」

 

「あのね、ユイユイちゃん、これってあたしがアウトって言われた人がお尻を叩かれるシステムなんだよ。笑った人にアウトって言ってるから、笑ってはいけないと思われてるのかもだけど、あたしがアウトって言えば笑ってなくても理不尽に叩かれちゃうんだよ」

 

本当に何て理不尽なんだろう。

 

「そ、それを…先に言ってよ…。そ、それじゃふたつめね。私達さっきからずっとセバスちゃんと一緒に居るし、セバスちゃんにお尻叩かれてるでしょ?

でもここに澄ちゃん居るし…さっきから一緒に居るあのセバスちゃんって誰なの?」

 

「ん?そういやそうだな。澄香、セバスちゃんってお前が秋月家の執事になった姿だろ?あのセバスちゃんって誰なんだよ」

 

「え?さぁ?リヴァイ兵長じゃない?」

 

「「「プッ…」」」

 

「あ、一瀬、秋月、松岡、アウトー」

 

「リヴァイ兵長って…(パァン!)いっ!」

 

「バスに乗る前のやり取り見てまし…(パァン!)だっ!」

 

「頼む、ユイユイ、もう喋らな…(パァン)いっでっ!」

 

「ほぉん、なら澄香もあのセバスちゃんの正体知らねぇのか?」

 

「あ、たぁくん普通に喋れるんだ?」

 

「「ブフッ」」

 

「あー!秋月、松岡、アウトー」

 

「ほんと、結衣、やめてくだ…(パァン!)じゃい!」

 

「ヤベェ…もうケツの感覚が…(パァン!)ぐぅ…!」

 

「ユイユイちゃんが聞きたい事ってそれだけ?」

 

「あ、ううん、もういっこだけあって…」

 

やめろ、もうやめてくれ結衣。

タカさんの前じゃちょっと言いづらいけど、このままだとCanoro Feliceみんな痔になっちゃう。

 

でも、結衣が最後に聞きたい事ってあの事だろうな。

俺も気になってるし、姫咲と冬馬はそっちに絶対目を向けてないしね。

 

「あ、えとね、その…たぁくんが押してきた車イスに乗ってウホウホ言ってるのって…あずあずじゃなくてゴリラだよね?」

 

「ウホ?」

 

やっぱりそれだったかぁぁぁ。

いや、さすがにずっと気になってたよ?

 

バスに乗って来た途端、車イスから降りて暴れながらドラミングしだすし、タカさんは巻き添えくらって殴り飛ばされちゃうし。

奏さんが置いていったバナナを、澄香さんが『梓!ステイ!』って言いながら渡してた時は、さすがに笑いそうだったけど。

 

「ユイユイちゃん!梓ちゃんは確かにがさつで凶暴でゴリラみたいだし、ゴリラだけど…」

 

「ああ、梓はゴリラみたいだけど、…ゴリラでもArtemisのリーダーだからな」

 

「そうだよ、ユイユイちゃん。梓はゴリラでも私の大切な幼馴染みだから」

 

「ユイユイちゃんは何言ってんだ?このゴリラってどう見ても梓じゃん」

 

みんな言いたい放題だよね。後で梓さんに怒られない?大丈夫?

 

「いや、えっと…どう言えばいいかな?あずあずってたぁくんや澄ちゃんから色々聞いてる感じ、中身は確かにゴリラみたいだけど、見た目ってすごい可愛いじゃん?」

 

「え?梓が可愛い?どうしたのユイユイ、俺にはいつもマウンテンゴリラにしか見えないんだけど…」

 

「いや、梓は幼馴染みの私から見ても超可愛いよ。ほら、バナナ食べてる姿なんて奥ゆかしい感じするじゃん」

 

「プッ」

 

「いや、奥ゆかしいって言うか、ジャングルの奥地に生息してるって感じにしか見えねぇんだけど?その幼馴染みの目ってどうやったら手に入る?」

 

「プフ、ジャングルの奥地って…」

 

「おい、いいのか日奈子?秋月も一瀬も笑ってるぞ?」

 

「いやー、今アウトって言っちゃうとタカちゃんと澄香ちゃんのゴリラ談義終わっちゃうじゃん?面白いからもうちょっと聞いてから、まとめてアウトにしようと思って」

 

ヤバ…、つい笑ってしまったけど、アウトって日奈子さんが言わないから安心してたのに…。

 

それから数分程、タカさんと澄香さんのゴリラ談義は続き『いや、何だかんだ言ってるけど、お前も翔子も日奈子もゴリラだからな?同じ穴のムジナって言うか、同じ群れのゴリラって感じ』と発言後、澄香さんに思いっきり殴られてこの話は終わった。

 

その間、俺は3発、結衣は2発、姫咲は7発、冬馬は5発、尻を叩かれる事になってしまった。

 

「マジイテェ…口ん中切って血ぃ出てんじゃん俺。こういう事を普通にしてくっからゴリラってんだよ…ブツブツ」

 

「なに?まだ殴られ足りない訳?」

 

まだ続くんだろうか?

 

「次は~香水停留所~香水停留所~。お降りの方はボタンを押して下さい~」

 

香水停留所?

香水って事はFABULOUS PERFUMEかな?

 

「ん?え?違うの!?……失礼しましたー。次は~戦乙女停留所~戦乙女停留所~」

 

え?違うの?

 

「あら?今の声って…」

 

「秋月も気付いたか?聞いた事ある声だよな?」

 

「ええ…確かに。でもどなたの声だったか…」

 

「え?今のセバスちゃんの声って、姫咲とまっちゃんは聞いた事ある感じ?私は聞いた事ないと思うけど?春くんはどう?」

 

「俺も聞いた事ないと思うんだけど…」

 

姫咲と冬馬は聞いた事のある声?

俺は聞いた事ないと思うんだけど、何気無くにしか聞いてなかったからかな?

 

そう思い俺は澄香さん達の方をチラッと見てみた。

 

「え?次は香水停留所で合ってるはずだけど何でだろ?」

 

「何かFABULOUS PERFUMEにトラブルか?それでなっちゃん達Divalを先にするとか?」

 

「ねぇ、タカ。これってヤバくない?」

 

「だよな?FABULOUS PERFUMEと交代で俺ら降りるハズだったし、そんで次がDivalの予定だったろ?」

 

「だよね?Divalの時もなっちゃんが車イス押しながら、梓とバスに乗るって演出だったハズなのに…」

 

「だな。俺らが降りた後、急いでDivalん所に梓を連れて行って、渚に任せるって予定でいたしな」

 

「私らまだ降りてないし、梓もここにまだ居るのに…」

 

ん?今度は渚さんがあそこに居るゴリラを連れて来る役だったの?てか、仕掛人がこんな所で俺達に聞こえるトーンでそんな話して大丈夫なの?

 

「タカも澄香も何言ってんだ?なっちゃんが連れて来るのは本物の梓だぞ?」

 

ああ、そうなんだ?

なら問題はないんじゃないのかな?

 

「本物の梓って…。ちょっと翔子、あんた何言ってんの?だから梓はまだここに…」

 

「まるでここに居る梓は偽物みたいな言い振りだな」

 

「澄香、タカ。お前らが何言ってんだ?」

 

「ねぇ、澄香ちゃん?本当に梓ちゃんと幼馴染みであり親友なの?あ、見逃してないよ?秋月ー、松岡ー、アウトー」

 

ああ、姫咲と冬馬はまた笑っちゃったのか。

 

-プシュー

 

そして戦乙女停留所に着いたバスの扉が開かれた所で、またこんな本編に関係のない話は続くのだった。

 

俺達Canoro Feliceは本当にライブが出来るんだろうか…?

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