バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第61話 笑ってはいけない?

「って訳で、みんなのアイドル!梓ちゃんがやって来ました!ついこないだまであたしの過去話だったのに、もうあたしの登場とか実質あたしがメインヒロイン!」

 

と、言いながら戦乙女停留所から、梓さんかバスに乗り込んで来ました。

今回のお話は私、秋月 姫咲のモノローグになります。

 

っていうかどういう事ですの!?

せっかく日奈子さんに交渉して、私達Canoro Feliceが周年記念にライブが出来るようになったと喜んでましたのに、まさか、周年記念のモノローグが私ではなくて春くんだなんて!

 

ええい、本当なら前回の周年記念も私がモノローグをやりたかったというのに…。

 

「バ…バカな…。あ、梓が2人居る…だと…」

 

「そんな…何で梓が…。まさかmakarios bios?美来ちゃん以外にも、梓のmakarios biosが居たというの…!?」

 

タカさんと澄香は本気なのでしょうか?

ただ私達を笑わせにきてるだけ?

 

「いやいやいや、待ってよ。タカくんも澄香も正気?あたしの事ちゃんと見えてる?

タカくんはあんなに一緒だったのに、そのゴリラがあたしに見えてんの?澄香の幼馴染みの親友って人間じゃなくてゴリラなの?さっきのやり取りもモニターで見てたけど何あれ?」

 

モニターで見ていた?

なるほど、最悪これはただの茶番だと思っていましたが、やはりただの茶番だったのですね…。

 

ライブをしたかったって気持ちもありますが、周年記念に私達Canoro Feliceが出演という事で手を打ちましょうか。

 

……って!手を打てる訳ないじゃないですか!

私こんな笑いの沸点低かったでしたっけ?って思うくらい叩かれてますのに!

こんなにしばかれたんですから、せめてライブはやり遂げたいですわ!

 

「わぁ!ほんとだ!ほんとに梓お姉ちゃんがもう一人居る!ねぇねぇ、見て梓お姉ちゃん!梓お姉ちゃんがもう一人居るよ!」

 

「ほんとだね、なっちゃん。あはは、あたしがもう一人居るね。あはははは。ねぇ?なっちゃん、ちょっと飲み過ぎてない?」

 

「全く、渚も失礼ね。梓さん、渚はちょっと飲み過ぎなみたいです。梓さんも貴さんや澄香さんの悪ふざけに目くじら立てないで、戦乙女でも呑んで落ち着いて下さい」

 

「あはは、そうだね、りっちゃん。タカくんも澄香も悪ふざけが過ぎるよね。あたしももういい大人だし落ち着かなきゃね。あはははは。でもね、りっちゃん。りっちゃんが紙コップ渡して戦乙女を注ごうとしてるのは、あたしじゃなくてゴリラの方だよ?」

 

「渚も理奈もすっかり出来上がっちゃってるね」

 

「何で志保はあの2人に呑ませたの?カオスになるってわかりきってるじゃん」

 

そう言って、Divalの渚さん、理奈さん、志保さん、香菜さんがバスに乗ってきました。

渚さんは片手に缶ビール、理奈さんは片手に日本酒『戦乙女』の瓶を持って…。

このお二人はこの茶番をモニターで観ながら、お酒を呑んでましたの?

 

いや、それよりも、あのゴリラは理奈さんにお酌してもらいながら普通に日本酒を呑んでいますが…。

私も本物の梓さんがゴリラに見えてる訳じゃありませんわよね?

 

あ、その間に結衣と松岡くんがお尻を叩かれてますわ。

この数分のやり取りで笑ってしまいましたのね。

 

その後、普通にバスは発車されたのですが、数分後にバスは停止し、動物園の飼育員さんのような方がバスに乗ってきて、無事にゴリラを連れて帰りました。

 

ですが、飼育員さんもバスに乗って来た当初は、ゴリラではなく梓さんを連れて帰ろうとし、そのやり取りを見ていた私と春くんと松岡くんのお尻が犠牲になりました。

 

 

 

 

「おい、澄香!お前、梓の幼馴染みで親友だったんだろうが!何で俺が連れて来たのは梓じゃなくてゴリラだって言ってくれなかったんだよ!(ボソッ」

 

「は!?しゃーないやんか!私かてアレは梓だって聞いてたし、確かにちょっとちゃうかも?

って思ったけど、10年以上会ってなかったんやし、雰囲気も変わる事もあるかな?って思うやんか!(ボソッ」

 

「あはは、タカくんも澄香もボソボソ内緒話してるみたいだけど丸聞こえだよ。後でゆっくりお話しようね」

 

まずいですわね。

この話が続いてしまうと、また私のお尻が犠牲になってしまいますわ。

何とか話題を変えませんと…。

 

「あ、そういや雨宮。今度の仕掛人ってのはお前らなんだってな?お前らはどんなネタで俺達を笑わせようとしてんだ?」

 

お、松岡くんにしては気が利きますわね。

私達は今、笑いの沸点というか、ゴリラ沸点が低くなっていますから、これ以上のゴリラ談義は危険ですわ。

 

私達を笑わせる為に送り込まれたであろうDivalの刺客も、渚さんと理奈さんはお酒を飲んで酔っ払い状態みたいですし、志保さんと香菜さんはどちらかと言うとボケよりツッコミタイプ。

 

さっさとDivalのネタをやって頂いて、こんな茶番は終わらせるに限りますわね。

 

「あ、あ~、あたしらのネタってか話題かぁ~…」

 

「あ、あはは。あたしらの話題って本来ならFABULOUS PERFUMEの後で、この場にはタカ兄や澄香さん達も居ない予定だったもんね…」

 

あら?タカさんや澄香さんが居るとやりにくい話題なのでしょうか?

 

「ねぇ、香菜ぽん。私達ね、もうお尻がヤバいの…。多分赤くなるの通り越して青くなってると思うの。まるで蒙古斑みたいになってると思うの。だから…ね?早く終わらせたいの」

 

結衣。気持ちはわかりますわ。

さりげなく蒙古斑ってワードを付け加えて、誰か笑わせてやろうって思いましたのね。

春くん、松岡くん。御愁傷様ですわ。

 

「いや、あたしらの話ってさ?せっかく梓さんも一緒だし?貴の昔馴染みだからって、貴の好みのタイプとか聞きながら『ああ、だから結婚出来ないんだね』みたいな笑いを取りながら」

 

「『うへへ、それってArtemisのみんなもだよね。あ、あたしもブーメランだったわ』って言いながら…」

 

「誰も笑わなかったら一瀬さんと松岡が理不尽にアウトくらって叩かれるネタだったんだよ」

 

誰も笑わなかったら春くんと松岡くんが理不尽に叩かれるだけのイベント。

…私としてはその方がありがたかったですわね。

 

「誰も笑わなかったら俺と冬馬が叩かれてって…何て理不尽なんだ…」

 

「ああ、FABULOUS PERFUMEとDivalの順番が入れ替わって助かったな…」

 

「ねぇねぇ、それじゃDivalは今からどんなネタやるの?行き当たりばったり?」

 

確かに。このままDivalの出演は終わりってのは、私達が許しても、正体不明のじいやと日奈子さんが許しそうにありませんものね。

 

「そうなんだよねー。タカ兄も澄香さんも梓さんに怯えきってるし。ねぇ、結衣は何か思い付かない?Canoro Feliceが大爆笑しそうなやつ」

 

「え?私!?」

 

香菜さんも無茶振りしますわね。

そもそも笑わせる対象に、笑わせる為のネタを聞くとかどういうつもりなのでしょうか?

 

いえ、そうですわね。

何か適当なネタをしていただいて、私達の誰も笑わず、当初の予定通り春くんと松岡くんが理不尽に叩かれて終わる方が良いかもしれませんね。

 

よし、では私が…。

 

「う~ん、そうだなぁ?あ、ねぇねぇたぁくん、たぁくん!」

 

結衣!?

 

「ん?ユイユイちゃん?どうかしたか?」

 

「あ!んとね!たぁくんって、ファントムのバンドメンバーの女性陣の中なら誰が好き?誰となら結婚したい?」

 

 

-シーン…

 

 

さっきまでボソボソと話をしていたみんなの会話が止まりました。

いえ、むしろもう時間が止まったのでは?と思うレベル。

 

ってか、そもそも結衣は何でそんなとんでもない事を聞いちゃいますの!?

タカさんに何の思い入れのない私にとっては、梓さんと澄香さんと渚さんと理奈さんと志保さんの反応でメシウマとは思いますが、そんなの理不尽な暴力を奮われるタカさんを見て大爆笑必至じゃないですか!?

 

「…え?ユイユイちゃん、どうしたの急に?」

 

「え?うん、んとね、春くんとまっちゃんはまだ若いけど、たぁくんはいい歳してるのにまだ未婚じゃん?

……ん?え?何で?何でセバスちゃん私を叩こうと…私笑ってな…(パァン!)いだぁぁぁぁ!!」

 

「歳にいいも悪いもないもん…」

 

日奈子さん…。

いい歳してるのにまだ未婚ってセリフで、結衣を理不尽にアウトにしましたのね…。

 

「う、うぅぅ…痛い…。で、でね?ファントムって可愛い女の子多いしさ?好き!とまではいかなくても、もし結婚するから誰がいいとかあるかなぁ?って思って…」

 

「は?好きじゃなくてもって事?え?それ聞いちゃうの色々ダメじゃない?何か…あれ的なあれでさ?」

 

「いやいや、そのえっちぃ話じゃなく?女の子として色々あるじゃん?あ、たぁくんがそういう人なら別にえっちぃ基準で決めてもいいけど、いいお母さんになりそうとか、家事とか仕事とか頑張ってくれそうとかあるじゃん?」

 

結衣、アイドルでしたのに、タカさんのあれ的なあれで、えっちぃ内容とわかるとは…。

 

「ん?ああ、あーあー、そういう事か。ファントムの中じゃ誰がいい嫁になりそうとか的な?」

 

「うん!そうそう!それ!」

 

「いや、だったら一瀬くんとか松岡くんに聞いてもいいんじゃねぇの?」

 

「いや、別に私的には春くんもまっちゃんも興味ないし?架純の為になるかなぁ?と思って」

 

「え?何でここで架純ちゃん?」

 

結衣…。何て恐ろしい子ですの。

この周年記念の話に絡んできてない架純さんを二次災害に巻き込むとは…。

 

「俺、ユイユイに興味持たれてないのか…」

 

「冬馬、安心して。俺もだよ」

 

そういや春くんと松岡くんもさりげなく被害を受けてますわね。

 

「う~ん…そういう基準ならそうだなぁ…」

 

「タァカくん♪まさかあたしを選んだりしないよね?まぁ?あたしを選んだりしたらドン引きして、ソッコーでお父さんに連絡しちゃいそうだけどさ?」

 

梓さんのお父様ってクリムゾンエンターテイメントの創始者の海原ですわよね?

 

「タカ!もし私を選んだりしたらわかってるよね?秋月家の全勢力を出すよ?」

 

澄香さん?秋月家の全勢力って何を勝手に…。

 

「せんばぁ~い!もし私を選んだら、月曜日出社早々に社長含めて全社員にメールしちゃいますので」

 

全社員にメールって…。どれだけ社員の方がいらっしゃるのか存じませんが、それを社内メールでやっちゃうと、他の社員の方にはただの迷惑メールですわよ?

 

「私を選んだりしたらわかっているわよね?父に頼んで昔のあなたの仲間、アルテミスの矢の皆さんやレガリア使いに関係のある方々に、色々と連絡してもらうわ」

 

アルテミスの矢やレガリア使いに関係のある方々って…。射手座の3代目レガリア使いが、2代目レガリア使いのベースメンバーの娘を…とかですかしら?ほぼタカさんには拷問じゃないですか?

 

「タカ!あんたわかってるよね!?あたし、料理も家事もしっかり出来るんだからっ!」

 

志保さん?

 

まぁ、志保さんは置いておくとしましても、梓さんのお父様に連絡は『お父さん!あたしタカくんと結婚する!』って報告や、澄香さんに至っては秋月家全勢力をもってお祝いする!って事かもしれませんし、渚さんも全社員に連絡して逃げれないようにする、理奈さんもかつての仲間の皆さんに連絡して頂いて逃げれないようにする。って解釈も出来ますわね。

 

皆さんこんな男のどこがいいんでしょう?

 

「は、ははは、何ですのこの茶番…」

 

「あ、秋月ー、アウトー!」

 

しまった!ですわ!!

 

-パァン!

 

クッ…油断しましたわ…。ただの乾いた笑いでも叩かれてしまうとは…。

 

「「「「「で!?誰を選ぶの!?」」」」」

 

皆さんの必死っぷりよ…。

 

「そうだなぁ…。まぁ、結婚して嫁になってもらえるなら…」

 

「「「「「嫁になってもらえるなら!?」」」」」

 

「皆様大変お疲れ様でございましたー。次はー、終点ファントムー、終点ファントムー」

 

「「「「「ふぁ!?」」」」」

 

「あ?終点か…。FABULOUS PERFUMEはどうしたんだ?」

 

終点?しかもファントム…ですの?

 

そして、バスはファントムの前に停車し、私達は降車した。何故ファントムに?

 

「んー、まぁ、途中ゴリラに殴られたり色々あったけど、これでメイド服マイミーちゃんのアクスタが貰えるなら安いもんだな」

 

「え?メイド服マイミーちゃんのアクスタ?タカ兄は何を言ってるの?」

 

「え?ちょっと日奈子!マイミーのアクスタって何!?どういう事!?」

 

「ああ、梓ちゃん、心配しなくていいよ。マイミーアクスタはタカちゃんへの給料代わりなだけで、梓ちゃんにはあの乙女ゲームのタカヤくんだっけ?あれの、クリアポスターをちゃんと用意してるから」

 

今回の給料がアクスタにクリアポスター?

皆さんそんなモノで今日の茶番を頑張ってらしたの?

 

「あいつら本当に安いよな?日奈子、あたしはちゃんと約束通り日給15,000円なんだよな?」

 

「…ああ、うん。物で釣れなかった翔子ちゃんや香菜ちゃんとか他のメンバーはちゃんと約束通り日給払うよ」

 

日給15,000円…。え?あれだけでですの?1時間もトークしてないのに?

 

「ハァ…。でもせっかくライブ出来ると思ってたのにね」

 

春くん…。

 

「まぁ、気にすんなよ、春太。俺達が茶番に付き合わされるのはいつもの事だ。ライブもいつかきっとやれるさ」

 

松岡くん…。

松岡くんはもう諦めてますのね。

確かにこれは茶番でライブなんてもう出来ないと思いますが…。

 

私はいつもは茶番に付き合わせる側でしたのに、茶番に付き合う事になるとは…。少しむなしさを感じますわね。

 

「え?ライブない感じ?あれ?私、こんな服にせっかく着替えたのに?着替え損?」

 

「「「プッ」」」

 

フフ、た、確かに結衣のあの衣装は無いですわね。

あの衣装って時点で茶番と気付くべきでしたのに、私もライブが出来ると浮かれて…。

 

「あ、一瀬ー、秋月ー、松岡ー、アウトー」

 

え?

 

-パァン!パァン!パァン!

 

「クッ…油断してた…」

 

「俺もファントムに着いたから終わりと思ってたぜ…」

 

「ま、まだ終わりませんの?これはいつになったら終わりますの…?」

 

てか、周年記念から何日経ったと思っているのですか?

本当に…ライブが出来ないのであれば、さっさと本編に戻って欲しいですわ。

 

「あ?お前らこんな所で尻を押さえながら何やってんの?」

 

タカさん?こいつ…、今までの八つ当たりをくらわせてやりましょうか…。

 

「好きでケツを押さえてる訳じゃないッスよ。ライブ出来ると思ってたのに、こんな茶番に付き合わせるとか…」

 

「そうですよ。冬馬も言ってくれましたけど、俺達はライブをやれると思って、こんな茶番に付き合ってたんです。それなのに…」

 

「あ?松岡くんも一瀬くんも何言ってんだ?」

 

「むぅぅぅ!たぁくん!私達はね…!」

 

「てか、ユイユイちゃんはいつまで、そんな格好してんだ?早く着替えないとライブにその変な格好で出演する事になっちまうぞ?」

 

「…え?私?着替え?」

 

ライブにその変な格好で出演する?

え?待って下さい、今までの事って私達を茶番に参加させる為に餌とかそういうのではなく…?

 

「とりま、一瀬くんと松岡くんと姫咲は控え室行ってろよ。…まぁ、そこでも笑わせられるかもしれんけどな」

 

「ま、待って下さい!タカさん!」

 

「あ?どした姫咲?まぁ、この後はお前らのライブ観させてもらうつもりだったし、いくらでも待ってやるけど?」

 

「あの…私達はライブをさせてもらえますの?」

 

「ああ?…ああ、そっか。日奈子の企画だからって、ライブ自体が嘘だと思ってたのか?」

 

「え?ええ…まぁ…」

 

「大丈夫、心配すんな。あいつはアホだし、人を人と思わない人でなしだが、音楽に関しては嘘はつかねぇ」

 

人でなし…?

 

「お前らがライブやりてぇなら、今からお前らはライブをやる。それはマジだ。心配すんな(ニコッ」

 

うっ…!?

 

「ほんとですか!?タカさん!俺達ライブさせてもらえるんですか!?」

 

「わ!わわわわ!わ、私!早く着替えなきゃ!」

 

「マジか…。俺達、ライブやれるのか…」

 

み、みんなライブをやれる嬉しさで興奮してますわね。

 

しかし、今のタカさんの笑顔…。

 

いつもはタカさんが笑顔になった所で、生理的に気持ち悪かったですし、タカさんに惚れている梓さんや澄香さん、そして、タカさんに惚れているだろうと思われる奈緒さん、盛夏さん、渚さん、理奈さん、志保さん、美緒さん、架純さんの事は…。

正直、アホなのか視力が悪いのかと思っていたのですが…。

音楽の事になるとこんな顔も出来ますのね…。

 

「姫咲?どした?」

 

「い、いえ!何でもありませんわ!///」

 

「そっか。一瀬くん、ユイユイ、姫咲、松岡くん。

お前らのライブ。楽しみにしてるから(ニコッ」

 

「「「「はい!(ニコッ」」」」

 

\\全員アウトー//

 

「「「「ふぁ!?」」」」

 

「ちょ…ただニコッてしただ(パァン!)いったい!」

 

「わ、私!着替えなきゃいけ…(パァン!)なぁぁぁぁぁ!」

 

「や、やっぱりArtemisの皆さんもディ(パァン!)ヴァァァァ!」

 

「……(パァン!)ヤベェ、あんまり痛くねぇ。もうケツの感覚が失くなっちまった…」

 

「Canoro Feliceのみんな叩かれたか。やはり『ニコッ』ってだけでもアウトなんだな。今の内に実験出来て良かったぜ」

 

そう言ってタカさんは去って行った。

実験!?何の実験ですの!?あの男!本当にあの男はっ!!

 

それから私達は用意された控え室に入った。

結衣は着替えの為に、別の控え室に通されましたが。

 

 

-コンコン

 

 

私達が控え室で、これ以上笑ってしまわない為に無言で大人しくしていると、控え室の扉をノックする音が聞こえた。

 

 

-コンコン

 

-コンコン

 

 

しつこいですわね。

 

「春太、秋月。どうする?」

 

「どうするって何がですの?私には何も聞こえません。このまま結衣の着替えを待って、ライブの時間まで無言で大人しくしておくだけですわ」

 

-ガタッ

 

私が松岡くんに返事した直後、春くんが席を立って控え室の扉の方へと近付いて行った。

 

「春くん?何をしていますの?」

 

「姫咲らしくないよ。この状況なら開けない訳にはいかないでしょ。そもそも…。このノックをしている人が、俺達を笑わせる為の刺客なら、このまま無視続けててもライブが始まる事はないでしょ…」

 

た、確かに。

このノックをしている人が、私達を笑わせる為の刺客なら、この方のコーナーが終わるまで私達は控え室を出る事は出来ないでしょう。

 

春くんは意を決したように、私達を見て一瞥した後、思いっきりドアを開けた。

 

「やっと私達が通されたか。フッ、目映い光に集う蝶の気持ちが正にわかった瞬間だったよ」

 

そう言って控え室に入って来たのは、FABULOUS PERFUMEのシグレ様。

目映い光に集うのは蝶ではなくて、餓ではないでしょうか…?

 

「シグレのノックが聞こえづらかったんじゃねぇか?俺ならノックでも……ビートを刻むぜ!」

 

そう言って次に入って来たのはチヒロ様。

いや、ちょっとキャラが違いませんか?

 

「あ、冬馬~♪」

 

そう言って入って来たのはナギ様ではなく、茅野 双葉。

何でですの!?何で双葉はナギ様に扮せずに、双葉のまま現れましたの!?

 

「みんな、もっとFABULOUS PERFUMEの誇りを持って出演して欲しかったね。ボクも……ん?あれ?何で姫咲と、一瀬 春太と松岡 冬馬しかいないの?ゆーちゃんは?ゆーちゃんはどこ?うわぁぁぁぁん!」

 

ああ!イオリ様…!

イオリ様?イオリ様ですわよね?

何でイオリ様のお姿のまま栞ちゃん風なセリフを言って泣いてますの!?

 

ってか、栞ちゃんでもシフォン(遊太)さんが居なかったからって泣く事なんて無いですわよね!?台本通り役作りしっかりやってきましたよアピールですか!?

 

「あ、それよりね、春太と冬馬にも聞いて欲しいんだけど!」

 

双葉?

いつもでしたら栞ちゃんには、過保護過ぎるくらい過保護ですのに、泣いている栞ちゃんを放っておいて聞いて欲しい事がありますの?

ああ、今の栞ちゃんはイオリ様ですから、過保護にならなくてもいいって感じですかね?

 

違いますわね。

栞ちゃんがイオリ様でも、双葉がナギ様でも、どちらにしろ栞ちゃんには双葉は過保護ですし。

 

「私達ってファントムの中では一番上手いバンドじゃん?」

 

そうですわね、双葉。

私も、いえ、私以外のファントムのメンバーも、きっとファントムで一番上手いバンドはFABULOUS PERFUMEだと思っていると思います。

 

ですが、双葉自身はそう思ってませんわよね?

めちゃくちゃ目が泳いでますし、室内で空調も程よいというのに汗がすごいですし。

言わされてる感が凄まじいですわ。

いつもの双葉なら『~じゃん?』とも言いませんしね。

 

「あー、うん」

 

「そ、そうだな?それで?」

 

春くんも松岡くんも…。

双葉が馴れないお芝居を頑張ってますのよ!?

何なのですか!そのやっつけ仕事な返事は!

 

ええい!

このままでは双葉はとんだピエロになってしまいますわ。こうなったら私が…。

 

「姫咲、止めた方がいいと思うよ。双葉ちゃんが頑張ってるのも俺はわかってるし…」

 

「そうだぜ秋月。茅野が日奈子さんのせいなのか、俺達の為なのか置いておいたとしても。あんな下手な芝居を頑張ってんだ。俺達は黙って見ていようぜ」

 

春くんも松岡くんも…。

何故、私が何かしようとしているのが、わかってしまったのかはわかりませんが、それをここで口に出してしまったら双葉の立場は…。

 

「まぁ、それでね!Canoro Feliceも、私達FABULOUS PERFUMEみたいに決めセリフ作っちゃおうよ!…グスッ」

 

双葉!?泣くほど嫌でしたのに、最期まで台詞は言いきりましたのね!?

 

「双…ナギ、大丈夫かよ?お前、泣いてないか?……うわぁぁぁぁん!ゆーちゃん!ゆーちゃん助けてー!」

 

イオリ様!?いえ、栞ちゃん!?

栞ちゃん風に双葉って言おうとした所で、イオリ様に戻って、さらにまた栞ちゃんに戻ってくるとか、いくら何でも器用過ぎませんか!?

そして、どれだけ遊太くんに助けを求めますの!?

 

「うわぁぁぁぁん!うわぁぁぁぁん!うわ~ん、うわ、あん?うわ……ジー」

 

ほら!泣くの止めて私達が笑わないかどうか、めちゃくちゃ見てきてますし!完全お芝居じゃないですか!

 

って、思ってたら、シグレ様もチヒロ様も双葉も、めちゃくちゃ私達を見てきてますけど、今のやり取りのどこに笑う要素がありますの!?

 

「……ねぇ、シグレ。そんな事よりさ」

 

双葉!?

今のやり取りで私達が笑わなかったからって、栞ちゃんの今の演技の流れをそんな事呼ばわりですか!?

 

「Canoro Feliceって私達と違って…」

 

「ああ、私もそう思っていたよ」

 

「え?シグレ?そう思ってたって何が?まだこれ双葉の台詞の途中じゃない?」

 

「ちょ、イオリ!シグレも早く帰りたいから、双葉の次の台詞を先読みして喋ってしまっただけだって!イオリも早くこんな茶番終わらせて帰りたいだろ!」

 

「え?ボクはこの後のCanoro Feliceのライブも観たいし、早く帰りたいとかないよ?」

 

「イオリ…、あ、この場合、栞って呼んだ方がいいかな?私もシグレの台詞にびっくりしたけど、シグレもチヒロも社会人だし早く帰りたいんだよ」

 

「え?明日は土曜日だからシグレは休みだし、チヒロは休み取ったって言ってなかった?……ジー」

 

今のもわざとのお芝居でしたの!?

無駄に長いですし、わかりづらいですし!そもそもどこに笑いの要素が!?

 

「……長居をしてもCanoro Feliceに悪いな。私達は帰るとしよう」

 

「だよね。Canoro Feliceって……って、え?シグレ?帰るの?」

 

「いや、私もこれは仕事と割り切ってるから、ちゃんと最期までやりとげたいのだけれど、そもそも梓さん達の我が儘で私達の順番変わってしまったし…Canoro Feliceみんな笑わないし、ちょっと…心が折れたというか…」

 

シグレ様…。

 

「あ、あ~…確かにやりにくいよね。帰ってもいいかな?」

 

双葉まで…。

 

「「「「……」」」」

 

いやいやいや、みんな黙り込んでしまいますの!?

何かありませんの!?

 

「おい、春太」

 

「うん、わかってるよ冬馬。これが笑ってはいけないで良かったよね。つっこんではいけないだったら、今頃俺と冬馬のお尻は大惨事だったよ」

 

春くんと松岡くんも心の中では、つっこんでばかりでしたのね。

いつも、春くんと松岡はつっこんでばかりで楽な仕事と思っていましたが、私もツッコミ側になってやっとわかりましたわ。

このツッコミだけの空間がどれだけ大変で辛いのかを。

 

まぁ、ですが、ツッコミも大変だとわかっただけで、いつもツッコミばかりのお二人に同情も何もないですけどね。

これからもツッコミを頑張って下さい。

 

「じゃあ、シグレの心も折れちまってるし、双葉もテンパってるし、イオリはライブの事で頭いっぱいみたいだから、俺達は帰るか」

 

「あ、そうだ一瀬」

 

「シ、シグレさん?どうしました?俺を名指しって珍しいですね」

 

春くん、ちょっと警戒し過ぎじゃありませんか?

 

「いや、ライブの事でちょっとな」

 

「ライブの事…ですか?」

 

「ああ、私もお前も同じボーカリストだし、ちょっとMCに関してアドバイスを…と、思ったのだが…」

 

MCに関してのアドバイス?

春くんもMCを頑張ってくれてはいますが、やはり今のファントムのバンドでは、Ailes Flammeの江口くんや、Blaze Futureのタカさん、そして、FABULOUS PERFUMEのシグレ様もオーディエンスの心を掴むMCに長けている印象があります。

 

そんなシグレ様からMCのアドバイスを聞かせて頂けるのはありがたいですわね。

 

「私達FABULOUS PERFUMEはオーディエンスを蝶、私達を花に喩え、『私達の香りに誘いざなわれた蝶達よ!!私達の香りに酔いしれろ』と、ライブを開始する合図のようなものがある。そして、タカさん達Blaze Futureは、オーディエンスと同じ景色を観るかのように、片腕を挙げて『楽しむぞ』と声を掛けるように心掛けているようにも見える」

 

「な、なるほど、確かにタカくんはそんな感じで演奏を開始しますね。同じ景色を観る為…か」

 

えぇ!?ちょっと…マジですの?

あの男、そんな事考えながらMCしてましたの?

いつも適当に行き当たりばったりで、下ネタを封印した為の自棄糞だと思ってましたわ…。

 

「まぁ、タカくんは場馴れもあるから他のMCも上手いし、江口くんもオーディエンスの心を掴むMCは上手いが、一瀬はさすがにそこまでは一朝一夕では無理だろう?」

 

「た、確かに…」

 

「ふふふ。先程までこんな茶番の中、私が名指しするものだからと警戒していたのに、今はやけに素直だね」

 

「うぇ!?いや、あの…すみません…」

 

「まぁ、わからなくもない。ハッキリ言って、これまでの事は茶番以外に考えようがないしね」

 

「茶番…。ええ、まぁ…そうですね」

 

やっぱりシグレ様も茶番と思ってましたのね。

 

「そこで私は、この茶番をいい機会だと思い、君たちCanoro Feliceの掛け声…というのかな?そういうモノを考えてきたんだ。それを使うかどうかは一瀬次第だけどね」

 

「俺達の為に…?」

 

「ああ。先程、双葉が言い掛けていただろう?Canoro Feliceも決め台詞みたいなのを作ろう。と、本来であれば、一瀬達の案をダメ出ししながら、笑いを取るつもりだったが…」

 

「ああ。シグレの心が折れちまったからな。さっさとシグレの案を伝えて帰ろうって訳だ」

 

なるほど。

私達が急に考えても、いきなり良い台詞が出てくるとは限りませんし、その為にシグレ様が私達への決め台詞を予め用意してくれてたという訳ですか。

 

「そうだぞ!一瀬 春太!シグレはこの茶番をやってくれって日奈子さんに頼まれた時から、仕事の事やボク達の事よりも、こんな茶番をやらされるCanoro Feliceの為にって一生懸命考えてくれたんだからなっ!」

 

「シグレさん…俺達の為にそんなに…」

 

「気にする事はない。私はCanoro Feliceを尊敬している。バンドとしてはまだまだ私達の方が上だと思っているが、それと同様に、Canoro Feliceは私達のライバルだとも思っている。ふふふ。次は対バンではなく、デュエルをしたいものだよ」

 

「シグレさん…」

 

シグレ様…。

シグレ様がそのように私達の事を想って下さってたなんて…。

 

「シグレ…さん。ありがとう…ありがとうございます!俺達なんかの為に…!」

 

「さっきも言ったが気にする事はない。では、一度しか言わないからよく聞きたまえ」

 

「はい!」

 

シグレ様…。ありがとうございます。

もし、春くんがシグレ様の考案下さったセリフを恥ずかしいとか照れたりするようでしたら、私がぶん殴ってさしあげますわ。

 

「いくぞ、一瀬。う、うぅん……『糞尿に集る(ふんにょうにたかる)ハエ共よ!お前らの血は何色だ!?』…どうだ一瀬?」

 

「……え?糞にょ…?」

 

ハ…ハエ…?……春くんも私も何か聞き間違いをしてしまいましたでしょうか?

 

「あ、あの、シグレさん、すまねぇ。今、あんた…」

 

「冬馬!シグレがせっかく考えてくれたセリフに文句あるの!?」

 

「茅野?いや、お前そんなキャラだっけ?って、今はそれはいいとして、今、シグレさんは糞にょ…」

 

「もう!シグレがせっかく!Canoro Feliceの為にって!」

 

「いや、だから茅野。お前、そんなキャラじゃ…」

 

「双葉。もういい。もう…いいんだ」

 

「シグレ!でも!」

 

「私はCanoro Feliceの為にと考えた。だが、Canoro Feliceには私のセリフは心に響かなかったんだろう」

 

「でも!でも、シグレが…グスッ、一生懸命…さ…グスッ」

 

シグレ様…双葉。本当にごめんなさい。

さすがにびっくりの方が大きすぎて笑えません。

いえ、それよりシグレ様がそんなセリフを言って私達が笑うと思ってましたの?

 

こんな茶番に付き合わさせられて、普段は絶対言わないようなセリフを言わされたシグレ様。

らしくないセリフを言いながら泣いている演技までする双葉。

本当に…笑えなくてすみません。

 

……ってか、シグレ様もチヒロ様も双葉もイオリ様も。

『こいつら笑わないかな?』って顔しながら、私達を見てくるの止めてくれません?

 

「さて、誰も笑ってくれないし、私達は帰るとするか」

 

「ああ、そうだな」

 

「せっかくシグレが考えてくれたのに!」

 

「いや~、ボクでもさすがにアレは笑わないよ?」

 

そう言ってFABULOUS PERFUMEの皆さんは帰っていきました。

さっきまでの重々しい雰囲気は?

双葉なんかいつの間にか泣き止んでますし…。

 

「…さっきのさ?俺、言わなくていいよね?」

 

「そりゃそうだろ。言ったら会場中みんなドン引きだろ…」

 

「私達を糞尿扱いして、オーディエンスの皆さんもハエ呼ばわりですもんね…」

 

それから数分、私達はただただ重苦しいだけの時間を過ごしました。

 

そして、着替えを終えた結衣がお尻を押さえながら戻って来て『いや~、糞尿に集るハエ共よ!って、さすがに笑っちゃうよね。まさか着替え中にもお尻叩かれるとか思ってなかったよ』と、言っていました。

それを聞いた私達のお尻もまた犠牲になってしまいましたが、何とかステージの上に立つ事が出来ました。

 

「えっと…初音ちゃんと三咲さんに案内されるまま、俺達ステージに立っちゃったけど…」

 

「だよね?オーディエンスのみんなって…」

 

「私の家のメイド達と、澄香さんの私設部隊の方達ばかりですわね」

 

「ああ、そうだな。みんな見知った顔だ。ファントムのバンドのみんなも居てくれてはいるみたいだが…」

 

そう。私達が立ったステージから見える景色。

そこに居るオーディエンスの方達は、私達の顔見知りばかり。

 

今日のライブはファントムの2階ステージ。

地下よりは規模は小さいですが、オーディエンスは満員でした。

 

だったら、顔見知りであろうと何だろうと、私達がやる事は1つですわ。

 

「みんな!思いっきりやろうね!」

 

結衣が私達に声をかける。

 

「当然だ!盛り上げるぞ!」

 

松岡くんのドラムが鳴り響く。

 

「私達の成長を観ていただきましょう!」

 

私も松岡くんのドラムに合わせてベースを奏でる。

 

「みんな!いくよ!『idol road』!!」

 

春くんのタイトルコールで、私達Canoro Feliceのライブは始まった。

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