バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第65話 お片付け中に

「バ、バカな…なんでお前がここに…(ギリッ」

 

「クソッ、計算外だった…。今日なら大丈夫だと思って安心してファントムに来たっていうのに…(ゴクリ」

 

 

今日は盛夏も美緒も出勤だったし、お父さんも居るからと、お母さんに勉強を教わってたんだけど、何で私のファントムがこんなにボロボロになってるの…?

 

私の名前は中原 初音。

ライブハウスファントムのオーナーである父、中原 英治と、音楽事務所ファントムの責任者である母、中原 三咲の娘であり、実質ライブハウス兼音楽事務所兼カフェファントムの最高級責任者だ。

 

さっきも言ったように、今日はお父さんも居る。

だからファントムはカフェ営業をやっていた。

 

私は国公立大卒のお父さんではなく、高卒であるお母さんから勉強を教わっていた。何故かはわからない。

そこで勉強に疲れた私は、お母さんと一緒にファントムに来た訳だけど…。

 

 

 

 

「これは何事なの?」

 

 

 

笑顔のお母さんに私は恐怖を感じていた。

これまでに感じた事のない恐怖を…。

 

「み、三咲。お前、今日は初音の勉強を…」

 

「うん。……じゃないね。落ち着こう。

ええ。今日は私が初音の勉強を見ていたんだけど、英治くん、なんでファントムがこんなにボロボロなの?」

 

「ち、違う!違うんだ!見ろ!ヒデ!ヒデがいきなり現れてな!そんでいつものタカとの再会シーンを…」

 

「ヒデ…くん?」

 

「あ、あはは…三咲ちゃん、お久しぶり~。何で三咲ちゃんが今日ここに来てんだよ(ボソッ」

 

ん?あれ?この人誰だろう?ヒデ…さん?

お父さんとお母さんの知り合いかな?

 

私はこの日がヒデさんとの初対面だった。

と言っても、ヒデさんは私がまだ小さい頃には何度か会いに来てくれた事はあるみたいだけど。

 

「くそっ…三咲は今日は初音ちゃんの勉強を見ていると英治に聞いて油断していた。この甘さ…この俺の甘さや油断せいで…今までも惨劇が繰り返されてきた事を、俺は…わかっていたはずなのに…」

 

タカは何を言ってるの?

 

「そっか。ヒデくんが来てたんだね。それでタカくんもちょっとヤンチャしちゃったって事かな?」

 

お母さんは苦笑いをしながらタカとヒデさんを見ている。なのに何で私はお母さんからこれまでにない恐怖を感じているんだろう?

 

「もう。2人とも久しぶりで、ちょっとやり過ぎちゃったのかも知れないけど。これはやり過ぎだよ。ほら、トシキくんだけじゃない。片付けしてくれてるの」

 

あ、本当だ。さっすがトシキさん!

こういう時でもしっかり率先して片付けしてくれてる。

 

「な、何ぃ!?しまった…!ヒデが急にタカに会いに来やがったから、何事かと思ってこっちの会話に入ってしまっていたが、俺もトシキのように片付けに専念しておくべきだった!」

 

拓斗さん?

 

「く、くそ…。三咲に怒られる事に恐怖だけを感じて、肝心の片付けをするのを俺も忘れていた。前回の話で珍しくトシキが間に入って来ないと思っていたら、あいつ抜け駆けして片付けしてやがったのか…!」

 

お父さん?

 

「タカくんもヒデくんも、ヤンチャし過ぎちゃったなら、ちゃんと片付けもしないとダメじゃない。

英治くんも拓斗くんも、タカくんとヒデくんは昔からの友達じゃない?トシキくんだけに片付け押し付けないで、2人とも片付け手伝わないと。

……ふふ、私もタカくんとヒデくんの昔からの友達だもんね。私も片付け手伝うからね」

 

…良かった。何でかいつも優しいお母さんを怖いと思ってしまったけど、やっぱりお母さんは優しいお母さんだ。

 

「そ、そうだね。悪い、トシキ。俺も片付け手伝うよ!」

 

「ああ、悪い。トシキにばっか片付けさせてたよな。俺も今からスーパー丁寧に片付けするわ」

 

…ん?

ヒデさんは私的には今日が初対面だから、どんな人なのかわからないけど、タカって何か変?

いつもなら『え~…片付けとか面倒なんですけど~』とか言いながら逃げそうなのに。

 

「あ、ヒデくんとタカくんは、ちょっとみんなの居ない所で少しお話しよ?地下の控え室とかどうかしら?」

 

「い、いや。何を言ってるの三咲ちゃん。俺も片付けしなきゃ!ね?」

 

「嫌だ…俺はまだ死にたくない…。やりたい事がいっぱいあるんだ…」

 

タカは何を言ってるの?

 

「もう、ちょっと怒るだけよ。やっぱり私達もいい大人なんだもの。やっていい事と悪い事の分別はつけなきゃ」

 

「嫌だ!ならここで!ここで怒ればいいじゃん!土下座もするし、靴を舐めろと言われたら舐めるし!」

 

「そうだよ三咲ちゃん!殴られても文句言わないから!ここで!ここで説教してよ!」

 

タカもヒデさんって人も何でこんなに必死なの?

 

「もう…。靴を舐めろとか言わないし、殴ったりもする訳ないじゃない。ちょっと地下の控え室でお話するだけよ?…それとも、後日に私と1対1で話し合う?」

 

「…そういう訳だ。英治、拓斗。悪いが片付けは任せた。俺はちょっと三咲に叱られてくる」

 

「英治。壊れた備品は買い直して領収書を貰って来てくれ。後日にはなるが俺が全部払うから」

 

そう言ってお母さんとタカとヒデさんは地下の控え室へと向かった。

その直後、タカっぽい声とヒデさんっぽい声の悲鳴が聞こえ、お母さんが戻って来た。

 

お母さんが言うにはタカとヒデさんは地下の控え室に向かう途中の階段で足を踏み外して落ちていったらしい。

怪我をして可哀想だと思ったから、ちょっときつめの説教をするつもりだったけど、軽く注意して終わらせたそうだ。

 

それから数10分過ぎてから、階段を踏み外したにしては、どうしてそんな怪我をしているの?って感じのタカとヒデさんが戻って来た。

あんなに酷い怪我をしてるのに、説教するのは可哀想だもんね。やっぱりお母さんは優しいなぁ。

 

 

 

 

「ほら、きびきびと掃除しなさい」

 

「あ、先輩。ここまだ埃ありますよ。どこに目をつけて掃除してるんですか?」

 

「何なのお前ら。何で俺の掃除にケチつけながらジュース飲んでんの?」

 

「いえ、この後はみんなでそよ風で飲むみたいですし、私も渚も理奈も、今はお酒は我慢しようって思いまして」

 

「いや、飲み物がジュースだからって疑問をぶつけた訳じゃなくてな?…ああ、もういいや。さっさと片付けしちまおう…」

 

「葉川は会社でもファントムでも、こういう扱いなんだね~…」

 

「え?タカって会社でもこんな感じなんですか?木南さんそれもうちょい詳しく!」

 

「まどかさん、落ち着いて下さい。この男の仕事振りでしたら、秋月グループの力を使って聞き出してみせますわ」

 

 

 

「いやー、俺らの昔馴染みがアホなせいで、渉くん達にも悪いな」

 

「いや!全然気にしなくていいぞ!この後は三咲お姉様の企画でみんなでそよ風でご飯会だしな!」

 

「渉は何で三咲さんの事は、三咲ねーちゃんじゃなくて三咲お姉様なの?」

 

「本当に気にしなくていいスよ。俺ら男組は片付けの手伝いをしたら、ヒデさん?の奢りでご飯会タダみたいですし」

 

「うん。俺もファントムにはお世話になってますし、こうやって片付けのお手伝いも、やれて嬉しいって思ってるくらいですよ」

 

「春太の言う通りスよ。俺もCanoro Feliceやるより前から、ファントムにはお世話になってますし。

てか、シフォンは片付けせずにあっちでジュース飲んでるけど、あいつは男組に入ってないって事か…?」

 

「ほら!英治くんも無駄口叩かないの!私も手伝ってるんだから。

ごめんなさいね、Ailes Flammeのみんなも、一瀬くんも松岡くんも…」

 

 

 

「トシ兄も昔からタカ兄達の無秩序とか、理不尽に巻き込まれて大変だよね?」

 

「ゆーちゃんは今日はシフォンだから、ボク達と一緒にジュース飲んでるの?」

 

「ま、トシキさんって何となく巻き込まれ体質っぽいしね」

 

「止めてよ志保ちゃん、もうね、文句言っても何をしてもどうせこうなっちゃうからさ?諦めたっていうか…何かする労力の方が勿体ないっていうか…」

 

「私達もファントムにお世話になってますし、片付けのお手伝いしますよ?」

 

「止めなさい双葉。ここでBREEZEを…いいえ、男達を甘やかす必要はないわ」

 

「沙織は相変わらずだよな」

 

 

 

「達也さんは何かイキイキとしながら片付けしてますね?何でですか?」

 

「止めなさい花音!もし達也の性癖がドMだったらどうするの!!」

 

「いや、ドMじゃないですよ。そういう風に見られてもしょうがないですけど…」

 

「え?じゃあ、たっちゃんはドMじゃないなら、何でそんなイキイキして片付けしてるの?じゃあどんな性癖なの?」

 

「ケホッ、結衣。あんまり自分の性癖はおおやけにはしたくないもんでしょ?聞いたら可哀想だよ。ケホッ」

 

「ねぇ、聡美。何で夏野さんと架純は元アイドルのくせに性癖とかそんな単語を平気で口にしてるの?」

 

「色々あるんやろ。アイドルや言っても」

 

 

 

「澄香ちゃん、久しぶりだね。あの頃から全然変わらない。今日も…ううん、今日は1段と可愛いね」

 

「ハッハッハッハ、澄香?誰の事ですかな?私は秋月家専属の執事、セバスでございます。お気軽にセバスちゃんとお呼び下さい」

 

「いや、お前ジェンガしてる時に澄香の姿見られてるだろ?今更セバスちゃんになっても意味なくないか?」

 

「ヒデくん本当に久しぶりだよね~。あたしがアメリカ行ってる間、ほとんど連絡くれなかったし」

 

「ほら、ヒデちゃんは昔から澄香ちゃんにしか興味ないし。連絡なくてもしょうがないんじゃない?」

 

「ヒデくん…あたしも知らない人。きっとこの男もあたし達クリムゾンエンターテイメントの敵になる。今日はたまたまファントムに来て良かった」

 

「ヒデか…。クリムゾンエンターテイメントの敵だというのであれば私達には好都合だが、ヤツも元はクリムゾンのミュージシャン。…ヤツを見極める良い機会だな。今日は私もたまたまファントムに来た甲斐があったというものだな」

 

「いや、有希ちゃんも美来ちゃんも、何を今日たまたま来たみたいに言ってるの?昨日もついこないだもファントムに来てお茶してたじゃん」

 

 

 

「あははー…。笑っていいのかどうか…。evokeのみんなも今日は次のライブの打ち合わせに来てただけなのに、とんだ災難だよね~」

 

「雪村、そう思うなら俺達を手伝ってもいいんだぞ?」

 

「おい、止めろ結弦。香菜さんは俺達の先輩だぞ。せめて"さん"付けで呼ぶんだ」

 

「あ~、そういや雪村さんって俺らの高校の先輩なんだっけ~…眠い…」

 

「え!?お、お兄ちゃん!初耳なんだけど!本当に!?」

 

「あ?そうやって驚く紗智も可愛いな」

 

「え?そうなんだ?ねぇ、麻衣。うちの学校も実は誰かファントムメンバーの母校だったとかない?」

 

「え?いや、私は知らないけど…。てか、それは私よりも神原先生に色々聞いてる睦月の方が詳しいんじゃない?」

 

 

 

「ほんと、今日はファントムのメンバーしかカフェ客居なくて良かったですね。いつもはもうちょっと一般のお客様も居るのに…」

 

「あ、あはは。す、すみません。まさか姫咲にファントムのグループLINEに入れてもらって、『Canoro Feliceのチューナーになりました!よろしくお願いします!もし良かったら明日ファントムでご挨拶させて下さい』って送ったら、まさか皆さん来られるとは…」

 

「あはは。そ、それはあんまり一般のお客様が居ない理由にはならないような…?あ、それより私はGlitter Melodyのキーボード担当の松原 恵美です。綾小路さん、これからよろしくお願いしますね」

 

「恵美はほんといい子だな。マジで翔子の教え子か?三咲に隠れてチラホラ片付け手伝ってくれてるしよ。

てか、美緒も初音もここの従業員だから片付け手伝ってくれてるとしてもだ。何でここの従業員である盛夏はカレー食ってんだ?」

 

「拓斗さんはうるさい~。また宮野 拓斗呼びに戻しちゃうよ?そしてタカちゃんと叔母さんに、ある事ない事はアレだから、ある事を色々盛って言っちゃうかも~?ね?初音~?」

 

「盛夏は賄いの時間は厳守だからね…。でも美緒の言う通り他のお客様が居なくて良かったかも…」

 

と、まぁ、今日はこの場にファントムのメンバーみんな揃ってますよ。って描写があった訳だけど。

 

実際うちはライブハウスよりカフェタイムの方が時間も多いし、いつもはもうちょっとだけだけど、お客様も多いはずなのに…。

 

うぅ…、今日はトラブルがあったからお客様居なくて良かったけど、いつもこんな感じのお客様の入り数だったら、ファントム潰れちゃうよ…。

 

私が片付けを手伝いながらそんな事を思っていると…。

 

 

 

「え?あれ?もしかして今日は営業してない?」

 

「お店の看板は営業中になってましたけど…」

 

 

 

2人のお客様がファントムに入って来た。

いつもなら笑顔で『いらっしゃいませ!』

知り合いなら『いらっしゃーせー』

ってお迎えするんだけど、入店してきたお客様の顔を見た時、私は歓迎するのを一瞬躊躇ってしまった。

 

「あの人は…クリムゾンエンターテイメントの…」「ね、姉さん…」「ひーちゃん?」「ん?何でウグイスがこんな所に居るんだ?」「渉、ウグイスじゃないよ、雲雀だよ」「誰だよ営業中のままにしてたの。さすがに準備中にしとけよ」

 

みんな口々に入店して来たお客様を見て驚いていた。

てか、最後の誰が言ったのかちゃんと聞き取れなかったけど、ほんとその通りだよね。

店内こんなボロボロになってて、片付けしてるんだし営業中にせずに、準備中にしとくべきだったよね。

 

「あ、沙織も居る。やっほ~、お姉ちゃんだよ~。……って何で美来ちゃんも居るの?ここファントムだよ?」

 

「しーちゃんもむっちゃんも…。翔子さんまで…」

 

店内に入って来たのは、クリムゾンエンターテイメントの大幹部の小暮 麗香さんと、クリムゾンエンターテイメントのミュージシャン、interludeのベーシスト朱坂 雲雀さんだった。

 

「美来ちゃん?誰それ?あたしはそんな人知らない。私は通りすがりの仮面ライダーだ。それじゃバイバイ」

 

そう言って美来さんは紙袋を被って帰ろうとした。

 

「あ、そっか。さっすがクリムゾンエンターテイメントの最高バンドのメンバーだよね。私と雲雀ちゃんみたいにファントムに偵察に来てたとか?」

 

「そう。正にそれ。あたしはクリムゾンエンターテイメントの最高バンドMalignant Dollのギターボーカル。常にファントムを倒そうと考えているので偵察に来ていた」

 

そして帰らずにまた有希さんの居るテーブルへと戻って行った。

 

「ま、そういう事にしておきましょうかね。私にとっては大して問題でも何でもないし。それよりも、クリムゾンの裏切り者である羽山 秀さんが居る方がびっくりだわ」

 

「小暮さん、どうするの?出直す?」

 

「んー、せっかくここまで来たしね~。ね、初音ちゃ~ん、今日はもう営業やってなかったりする?それともコーヒーくらいなら飲めるかなぁ?」

 

「もちろん営業してますよ♪ご注文はコーヒーでよろしかったですか?まだまだファントムには美味しいメニューがいっぱいありますよ。どうせならゆっくりしていって下さいよ~」

 

本当は悩んでいた。ううん、今も悩んでいる。

本当にこの回答で良かったのかどうか。

 

私はチラッとお父さんとタカの方に目をやってみた。

 

…うわぁ、お父さんは明らかに怒ってるし、タカはマジでこの幼女何言ってんの?って顔をしている。

失敗だったかな…?

 

「俺もサポートしてやっから、あいつらの事は気にすんな(ボソッ」

 

私がそんな事を気にしていると、近くに居た拓斗さんが私にソッと声を掛けてきた。

 

「コーヒーだったよね。ホットとアイスどっちがいいかな?」

 

そしていつの間にかトシキさんはカウンターの中に居て、コーヒーを作る準備をしてくれていた。

 

「あ、私はホットで~。雲雀ちゃんはどうする?」

 

「…じゃあ僕もホットで」

 

「初音も休憩にしたらどうだ?トシキ、初音の分のコーヒーも頼む」

 

「了解。じゃあホットコーヒー3つね」

 

え?え?拓斗さん?トシキさん?

そう言って拓斗さんは片付けの続きに戻り、トシキさんはコーヒーを用意して、その近くテーブル席にコーヒーを並べた。

そこのテーブル席に座れって事かな?

 

私がトシキさんがコーヒーを置いたテーブル席に座ると、小暮さんと朱坂さんも、そのテーブル席に黙って座った。

 

うぅ…想定外だ。

小暮さんから何か話があるんだろうとは思っていたけど、まさか同じテーブル席に座らされるとは…。

私は聞く専門でいようと思ってたのに、これじゃ会話しなくちゃいけないじゃん…。

 

私まだ幼女だよ!?機転なんか利かないよ!?

この後どうしたらいいの!?

 

「どうぞ。こちらはファントムからのサービスらしいです」

 

私が頭を悩ませていると、美緒が山盛りのクッキーを私達の席に持って来た。

何これ!?クッキーなんてうちのメニューにあった!?

ってか、これはゆっくり話をしなさいって事!?

 

とか、考えていたら美緒が去り際に

 

「お兄さんから伝言です。『この状況はあいつらにとっても想定外のハズだ。考える時間を与えるな』だそうです(ボソッ」

 

お兄さん?美緒がお兄さんと呼ぶって事はタカ?

私はタカの方を見てみた。

…何かお父さんに胸ぐらを掴まれて頭をバシバシ叩かれていた。

 

私はコーヒーを一口飲む。

…なるほど。確かに小暮さんにとっても朱坂さんにとっても、こうやって私と面と向かって会話するという状況は想定外のハズだ。

 

多分、何かしら話はあったんだろうから、ファントムに来たんだろうけど、何故かファントムの店内はカフェと呼ぶにはボロボロ過ぎるし、まさかファントムのメンバーが全員揃っているなんて思ってもいなかっただろう。

 

タカの考える時間を与えるなというのは、きっと今なら何でも聞き出せる可能性があるから、『コーヒー飲むのをオッケーしちゃったなら、こっちからも色々聞いちゃえよ』って事なんだろう。

小暮さんに言い訳や誤魔化しを考える時間を作っちゃいけない。

 

「先日、来ていただいた時にカフェもやってるとお伝えしたので今日は来て下さったんですか?どうぞコーヒーは当店の自慢ですので、温かいうちに飲んでみて下さい」

 

「え?え、ええ、そうね。いただくわ」

 

よし、小暮さんが何を話そうとしていたのか…。

私に出来るかどうかわからないけど駆け引きの時間だね。本来話す予定だった事を深く聞き出さないと。

 

「それで?その時に言ってたように、また土産話でも持って来てくれたんですか?」

 

「…ええ、とっても面白い話を持って来たわよ。一刻も早く初音ちゃんに話してあげたくて~」

 

うぅん…どうなんだろうこれ。小暮さんは少しでも動揺してくれてるのかな?

 

「わぁ♪嬉しいです!是非聞かせて下さい!」

 

「そうね。あ、でもその前に~、せっかくここにファントムのメンバーが勢揃いしてるから私からも質問い~い?」

 

う!?こ、これはどうするべき?

 

「……あれぇ?もしかしてダメぇ?」

 

まずい。即答出来なかった。

もしかしてこれで主導権握られちゃった…?

 

「おい、初音はまだ幼女だぞ。それにこの小説はR指定だ。いくらなんでも18禁な事は初音は答えられねぇ。ここにはこいつの両親も居るし、家族の前でそんな話はよ…」

 

「誰もそんな事聞かないわよ!」

 

た、拓斗さん?

 

「あはは、良かった。初音ちゃんには、まだまだそういうのは早いって俺達から言い聞かせてるしね」

 

ト、トシキさんまで!?

 

「だから!わざわざファントムまで来てそんな話しないわよ!こっちは未成年の雲雀ちゃんも居るんだし!」

 

あ、そうか。これって拓斗さんとトシキさんの作ってくれたチャンスなのかも。

 

「よ、良かったぁ。エッチな事だったらどうしようかと…。そういうお話じゃないなら全然オッケーですよ!何でも聞いて下さい!」

 

「も~…初音ちゃんまで何言ってるのよ~。あれ?それって私は幼女にそんな質問するような人間に見られてるって事?あれ?何で?」

 

危なかった。

タカの考える時間を与えるなっての、私も考える時間無くなっちゃうって事じゃん!無茶振りがすぎる!

 

「そ、それより質問って何ですか?」

 

「え?ああ、そうね。ここには偶然BREEZEのタカも、何故か死んだはずのArtemisの梓も居るから、ちょうどいいと思って」

 

あ、梓さんの事、小暮さんにバレちゃったじゃん。

あれ?これヤバくない?

と、思って拓斗さん達の顔を見てみると、案の定、拓斗さんもトシキさんもタカもお父さんも、Artemisの皆さんも『あ、やべ。どうしよう!?』という顔をしていた。

 

「射手座のレガリア、魚座のレガリア。あなた達はまだ持っているのかしら?それが私の質問よ」

 

レガリア?

そういえばこないだちょろっとだけ聞かされたっけ?

眠かったし興味もなかったから、あんまり覚えてないけど。

 

「レガリア?何ですかそれ?」

 

よし、間髪入れずに私は答えた。

何となく大事な物ってのは覚えてるから、この回答で大丈夫でしょ。

 

「ん?初音ちゃんはレガリアを知らねぇのか?」

 

渉さん!?

 

「渉。あっちの会話には入らないでいようよ」

 

「拓実の言う通りだぞ。お前が入ると色々面倒だしな」

 

拓実さん、亮さんありがとうございます。

 

「江口くんが知ってるのに、初音ちゃんが知らない訳?なんで~?」

 

う、どうしよう?私、ほんとにあんまりレガリアとかわかってないんだけど…。

 

私がどう回答すべきか悩んでいると…。

 

「渉はこないだアホの足立に会ったらしくてな。そん時にレガリアの話を聞かされたそうだ。スコーピオンのレガリアの後継者にしようとしてたらしいぜ?な、渉」

 

タカが小暮さんに向かってそう言った。

 

「お、おお…。そうだけど、クリムゾンエンターテイメントに足立の事言っちまって良かったのか?」

 

「江口くんが足立に会った?足立が今この街に?……いえ、それよりもスコーピオンのレガリアは、タカさん。貴方が破壊したはずでは?」

 

「おお、そんな事まで知ってんのか。さすがクリムゾンエンターテイメントの大幹部様だな。ついでに言うとレガリアは修理したんだと。そんで俺のサジタリウスのレガリアはアホの英治が失くしたから、今はどこにあんのかわかんねぇ」

 

「足立がレガリアを…?何故今頃になって…。てか、あれって修理出来るようなものなの?

…でも、フフ、嘘が下手ね。レガリアは貴方達BREEZEにとってもとても大切な物。それをBREEZEのドラマーだった英治さんが失くす訳ないじゃない」

 

「……だってよ。英治」

 

「……だってさ。英治くん」

 

「……英治。敵からも今日からアホだと思われちまうんだな。哀れなヤツ」

 

「……えーちゃん、安心して。俺もその件に関してはアホだと思ってるけど、まだ友達だとも思ってるから」

 

「お前ら!お前ら本当にな!一番ヤバい事したと思ってるのは俺なんだからな!ちゃんと反省もしてるし!」

 

ん?あれ?

タカのレガリアって確かお父さんが失くしたと思ってたけど、お母さんがタカの意思を継いでくれそうな人に託したんじゃなかったっけ?

 

「その反応…まさか本当にレガリアなんて物を失くしたというの…?」

 

あ、そういう事か…な…?

タカ達はレガリアの事をはぐらかす為にあんな小芝居をしたのかな?

小暮さんも失くしたってのを信じてるみたいだし。

 

……でもBREEZEのみんなもお母さんも、平気な顔して何の相談もなくあんな小芝居出来ちゃうんだね。

私も気をつけなきゃ、

 

「はぁ~…BREEZEって話には聞いていたけど…。こんなのに憧れてバンド始めた昔の私が恥ずかしいわ」

 

え?小暮さん…BREEZEに憧れてバンドを…?

 

「ま、別に嘘でも本当でもいいけどね。それで?木原さんは?まさか貴女も魚座のレガリアを失くしたの?

……そう。もういいわ」

 

え?小暮さん…もういいわ。って何で…?

 

私がArtemisのみんなの方に目をやると、梓さんは泣いていて、澄香さん達に「な?バカにされるだろ?」「英治と同レベル…」「梓ちゃんのお母さんの形見なのにね」とか言われて責められていた。

 

「はぁ…もうあなた達のレガリアはいいわ。足立の事はレガリアとは別件で何とかしないといけないでしょうけど」

 

「で?仮に俺らがレガリアを失くしてなかったら、手元にまだレガリアがあったらどうするつもりだったんだ?」

 

タカ?もう小暮さんに聞きたい事があるなら、私と代わってくれないかな?私、正直いっぱいいっぱいだよ?

 

「そうね。その時は、まだあなた達がレガリアを使うのか、それとも、ファントムの誰かにレガリアを託すのか、それが聞きたかっただけよ」

 

「あ?仮にタカも梓もレガリアを失くしてなかったら、自分で使うに決まってんだろうが。ファントムの連中(こいつら)がレガリアに関わるような事なんかさせるかよ」

 

「あははは、クリムゾンのバンドを潰し回ってた拓斗さんがそれを言うんだ?おっかし~」

 

「チ、てめぇ…」

 

「確かに。BREEZEのTAKAなら、Blaze Futureのタカとしてレガリアを持ち続ける可能性もあったかも知れないわね。でも、Artemisの梓はもう昔のように歌えない。誰かに託すしかないでしょう?」

 

「おい、てめぇ、いい加減にしろよ。梓はな…」

 

「私の目的は残っているレガリアの回収。そして、そのレガリアを私の直属のバンドに使わせる事よ」

 

「なっ…!?」

 

え?え?え?

小暮さんの目的は…レガリア?

 

「てめぇ、まさかレガリア戦争をまたやろうってんじゃねぇだろうな?」

 

レガリア戦争?音楽による史上最悪の争い(お父さん調べ)って言ってたっけ?

うぅ、ごめんなさいお父さん。ちゃんと聞いておくべきだった…。

 

「そ♪拓斗さんの言う通り♪

私はあの史上最悪の戦争、レガリア戦争を今また始めようとしているの♪」

 

-ガタッ

 

私はゾッとした。

今まで感じた事のないような、ものすごい戦慄…っていうのかな?この場に居るのが怖くなるような緊張感がこの場を襲った。

 

「って言ったらどうする~?」

 

え?

 

「ふふふ。私も音楽を嗜む者ですし、音楽で稼いでご飯を食べてる身だよ?話にしか聞いた事ないけど、あんな恐ろしい歴史を繰り返す訳ないじゃない」

 

レガリア戦争を始めるというのは小暮さんの冗談?

何でそんな冗談をこの場で…。

私は周りを見回してから、小暮さんの意図に気付いた。

 

「ふぅん、なるほど。BREEZEとArtemis、そして東山さんと真希は反応するとは思ったけど、ここには他にも"レガリア戦争"というフレーズに反応する人はそれなりに居るようね」

 

そうか。小暮さんは『レガリア戦争』って言葉を出して、今ファントムに居る誰が反応するのか見極めようとしたんだね。

 

うぅ、私はこの後どうしたらいいんだろう?

ここにはタカ達も居てくれてるのに、何となく小暮さんには勝てない気がする…。

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